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公述人(
檜山武夫君) 私は現在
東京都内に住んでおりまして、職業は
埼玉師範学校教授、年齢四十歳であります。これから申上げますことは非常に教員の立場というような狹い
範囲の
意見であるかも知れませんですが、もともと本日の
発言の機会を許されましたことは、
一つには
職場代表というような
意味があるかと思いますので、
余り分にも合わないような大きなことは申しませんで、極く狹い
範囲の私共の身近にあることを取上げまして申上げたいと思います。それから尚申上げまする
材料は、私共として手に入りまする
材料、
簡單に言いますれば主に
新聞紙上に現われましたものを取上げて申上げますので、若しそれが
間違つておりまするというと、私の
意見も
間違つているということになるかと思いますが、その点は惡しからず御了承願いたいと思います。
先ず
所得税の
改正案について
意見を申上げます。私としましても、この本案の
趣旨であると言われております
額低額所得者に対する
減税、或いは
高額所得者えの
累進率の
引上げ、或いは
扶養家族控除の
大幅引上げ、それらに対しましては勿論大
賛成であります。併しながらその実行に
当り細かい
実施案につきましては、相当修正して頂かなければならないということがあると
考えております。第一に
勤労所得税の
控除を
年收三万円以上
從來百分の二十であるものを五万円まで百分の二十五にするという点であります。現在皆様もうあきる程御存じと思いますけれども、
官公吏は千八百円
ベースということにな
つておりまして、千八百円
ベースで計算しますというと、
年收は僅かに二万一千六百円程になるのであります。この点から見まするというと、四万円、五万円などという
收入のある方は、決して
低額所得者ということはないと思います。
政府の
改正案によりまするというと、どうやら五万円までの人は
低額所得者であるとあうようなふうに解釈して、この案をお立てに
なつたのではないかと思いますけれども、私どもから見ますれば五万円と
つておるという方は、もう非常な
高額所得者であるというふうに
考えております。
月收におきまして千円二千円というような差のあるものを同一に取扱うという点は、この
改正点に非常に誤謬を含んでいるのではないかと
考えております。即ち若し
政府におかれまして
低額所得者を救
つて下さるというようなお
考えがありましたならば、
低額中の
低額でありまするところの我々
官公吏の千八百円
ベースを先ず
引上げて頂きたいのである。
併しそれはもう税の
問題外であるということでありますならば、この
控除ということにおきまして、その
所得によ
つて相当差を設けて、即ち三万円以下ぐらいの
收入しかないものに対しては、百分の五十ぐらいに
控除してやる、それから
年收にして一万円、
月收にして千円くらいの差のあるごとにその
控除額をだんだん減らして行く、そういうような何と言いますか、実状に即したというか、非常に
親切味のある
政治をや
つて頂きたい、そういうことを私は
政府にお願いしたいのであります。第二番目に
扶養家族控徐を倍額に
引上げる、これも御
趣旨大変結構であります。併し
新聞紙に傳えるところによりますというと、今囘の案によ
つて扶養家族三人で
個人所得平均十六万八千三百円、即ち
月收にして約一万四千円の
所得のあるものまでは、この
扶養家族控除によ
つてすべて
減税になる。そういうことを
新聞紙は傳えております。これは私共から
考えまして誠にどうも受取れない話であります。
月收一万四千円などという人が
減税になる、どこからそういうことを割出したか、どうも私貧乏な
官公吏からは
考えられない、そうして
考えますというと、
政府は或いは
月收一万四千円くらいまでは貧乏人だ。
生活困難だと
考えておられるのではないか。但し一方では千八百円で食えるということで
耐乏生活を唱えておられるのでありますから、千八百円、一万四千円、どちらが本当か、私共にはちよつと分らないのであります。この点におきましても
一つ政府当局におかれましてはよく
考えて頂きたい。即ち
家族の
控除を大いに差を設けて頂きたい、そう
考えます。
月收が三千円ぐらい年額にして三万円、四万円ぐらいしか
收入がない者に対しましては、
一つ大幅に、もつともつと一人百円ぐらいの
控除をや
つて頂きたい。
月收三千円ぐらいの者から第一
税金を取るということが、すでに私は
間違いであると思います。昔から税を取る官吏は虎よりも恐ろしいという中國の言葉があるようであります。正に現在千円ぐらいの人から税を取るということは、虎より、ライオンより恐ろしいと私は思います。その代りに四万、五万円の
收入が増すごとにその
家族の
控除を引下げる。
終いにはもう
月收にして八千円ぐらい、
年收にして十万円ぐらいの人に対しましては、もう
家族控除をする必要は全然ないと、こう
考えます。
月收八千円、九千円もある人に対して
家族控除をしてやるというような、そんな話は到底受取れない、少ししかない者からは取らない、或いは少ししか取らない、ある者からは沢山取る。そういう
主義でおつしや
つて頂きたいと思うのであります。誠にお恥かしいような話を申上げますが、実情に即して申上げますために、私の
收入を申上げますというと、私現在年齢四十歳でありまして、
家族を五人抱えておりまして、
月收本俸が九百五十円、一切の手当を含んで
月收三千百十九円六十銭であります、その中で
所得税としまして四百八十三円毎月差引かれております。年にして約六千円という
所得税を納めておるわけであります。即ち
收入が一日に約百円ぐらいしかないところから税を一日十六円ずつ差引かれておる。そういう勘定にな
つております。一日百円で以て
家族五人抱えて食えるかどうか、現在何とか生きておるわけでありますけれども、更にこういうような困
つておる者から一日十六円の
税金を取
つておるのが現在であります。私のお願いしたいと思いますのはこういう
低額所得者からは
税金を取らないで頂きたい。その代りに沢山取
つておる人から沢山取
つて頂きたいそういうことを申上げたいのであります。その他法人税の超過
所得の
税率の
引上げということは中止、そういうようなお話を聞いておりますけれども、これも法人によると思います。使
つて置く人
たちに対しまして三千六百円平均だとか、四千二百円平均だとか、そういうような高い賃金を拂う法人に対しましては、何も遠慮なさる必要はない。納税は
國民の義務でありますから、遠慮なく取
つて差支ないのじやないか、そういう感がいたします。以上
所得税の
改正につきまして結論を申上げますと、結局
政府当局の方はもつと親切に細かく
考えて頂きたい。余り一樣に
考えて、三千円でも五千円でも八千円でも大体同じだろう、そんなふうに
考えて下す
つては大変下々の者は困るのでありまして、三千円の者は三千円のように、四千円の者は四千円のように
税金を取
つて頂きたいと思うのであります。
その次に非
戰災者特別税について申上げます。私はこの税には絶対に
反対であります。
趣旨としまして、
戰災者と非
戰災者との
犠牲の不均衡を是正する。そういうような
趣旨に聞いておりまするけれども、これはただ名目でありまして、本当は第二次の財産税、而も第一次の財産税からは一部の者を除外して、一部の者には更に二重に財産税を掛けた。そういう結果にな
つていると思います。即ち
政府は不均衡の是正という立派な羊頭を掲げまして、狗の肉どころか腐れ肉、或いは青酸カリの入
つている肉を
國民に食べさせんとしている。そういうふうに
考えざるを得ないのであります。その理由の第一としましては。
新聞紙の報道によりまするというと、
税金は一律に
賃貸價格の三倍である、そういうふうに聞いております。そう
考えまするというと、
戰災都市も非
戰災都市も農村も同一であるということにな
つておると思います。勿論家を燒かれまして、
戰災に遭われた方、そういう方のお氣の毒なことは、もう万々
承知しております。併しながら
戰災都市におきまして、或は大都市におきましては、たとえ家は燒けなか
つたにしましても、あの頻々たる空襲の下において、どんなに精神的、物質的に
犠牲を
拂つたか、それはもうすでに議員の皆樣よく御存じのことであると思います。赤ん坊などを抱えまして、あの冬の寒い最中に、夜防空壕へ入
つて一晩過す、そういうような
犠牲をこの大都市、
戰災都市の
方々は、たとえ家が燒かれないでも拂
つているのであります。然るにその間におきましては、小都市、或いは地方の農村などの
方々は、ゆつくりと温い蒲團の中に入
つておやすみになる。珠に大都市におきましては、防空のためだというので生垣や板塀を打壞わす。その内に学童疎開だといいまして、僅か十一歳か十二歳くらいの小さい子供を親の膝元から離して、
家族生別れの
生活をする。而も子供が先に死ぬか、親が先に死ぬか分らんというような、そういうような
生活を送
つておりました者も、
家族揃
つて悠々と温い蒲團の中に寝ていた人も同じ
税率で以て、不均衡を是正するとおつしやられたのでは、我々
國民としましては、どうも合点が行かんとそう申上げるより外ないのであります。その他第二に申上げますというと、大体
賃貸價格というのを元といたしますというと、御存じの
通り田舎と都会では
賃貸價格に非常に差があるのであります。都会では大体新らしい家が割に多い。その他
賃貸價格が非常に高い、私ちよつと調べましたのでは、私の近所で二十五六坪の家であるというと、三百円以上の
賃貸價格にな
つている。ところが私の故郷でありまする栃木縣の東北本線沿線の町におきましては、その方は材木屋さんで金にあかして大変立派な家をお建てにな
つて、五十何坪というお宅でありまするが、その
賃貸價格は二百三四十円であります。これに対して一律に三倍の
税金だ、それで不均衡を是正するのだ、そういうようなお
考えはどうも私共には分りません。どういうところからそういう不均衡の是正ということがいわれますか、判断がつかない次第であります。第三番目といたしまして、
戰災者、或いは引揚者という定義が甚だはつきりしないと思います。私共の知
つている
範囲におきましても、
家族や家財をすつかり疎開してしま
つて、
自分だけ著のみ著のままで親戚の家にごろごろしている、その家が燒けた、
自分には損害はない、然るにその人は
戰災者であるというので、
戰災者の取扱ひを受けて
戰災者の配給を受けられる。それとは
反対に、或いは私の知
つている者でありまするけれども、東京の家は危うく燒け残りました。併しながら宇都宮におかみさんと子供三人を疎開させて置きましたところが、丁度昭和二十年七月十二日の宇都宮の空襲によりまして、妻子四人が燒死したのであります。然るにその方は東京におられて、東京の
自分の家は燒けていないから、
戰災者ではない。今度の
税金にいたしましても、この方は非
戰災者であるというので、やはり三倍の
賃貸價格によ
つて税金を納めなければならないのではないかと思います。或いは又引揚者にいたしましても、誠にお氣の毒なことは重々分りますが、中には金儲けをやろうというようなことで單身で南方へ出掛けまして、留守宅は田舎にあ
つて、なんら被害を受けていない、それで單身又引揚げて來た。そういう方が、これは引揚者だというので、引揚者としての実際の配給を受けている。そういう例が枚挙するに遑がないとい
つて差支ないと思います。こういう点を
考えました場合に、どうも私はこの非
戰災者特別
課税というものは正当であるとは
考えられない。その上に
課税の対象が
家屋、家財の二つだけに限
つたということも、私共には受取れないのであります。それでは山林や田畑は一体どうしたのか、山林や田畑は
戰災を受けたろうか、勿論山林や田畑へ燒夷彈が落ちた、爆彈が落ちたということもないとは限らないと思います。
併しそれも
戰災と目すべきかどうか、家だけに限るということが私は非常な誤りであろうと思います。而も御
承知のように、家というものは
收入が直接入
つて來ない、家というものは一度貸したり、賣
つたりすれば
收入は入
つて來るでありましようが、そういう場合は又議論が別になりますが、実際賣りもしない、貸しもしない、
自分がおるという場合には、全然
收入は入
つて來ないのであります。この場合のおきまして、どうして
政府に
税金を納めたらよろしいか、結局家を賣るか、貸すか、着ているものを脱ぐか、そういう問題になるのではないかと思います。そういう点から申しましても、非
戰災者特別
課税というものは私はどうしても
反対であります。若しもどうしても今の
國家財政の立場から、これだけの
收入を得なくちやならんというようなことであるならば、次のような修正をして頂きたいと
考えます。
一つには営業をしないところの住宅專用の
家屋で、
所有者が
自分で住ま
つている場合には
課税しない、或いは
税率を引下げる。二番には大都市、殊に
戰災都市、新聞でちよつと見ますと、廣島、長崎の場合はなにか
減税するというように承
つておりますが、廣島、長崎に限らない、とにかく
戰災都市或いは大都市の場合は
減税してやる。それで農村の場合には、これは
賃貸價格も低いのであるからして。それを織り込んで大幅に
税率を
引上げる、そうして税の
收入としては、大体現在の予定
通り取るというふうに、ここにも細かい技術的な考案を廻らして頂きたいと思うのであります。三番に、その
家屋を所有している者の
收入によ
つてその
税率に差を附ける、一律に三倍ということにしない。四番に山林田畑、そういうものにも
税金を掛ける。五番に終戰後に
家屋を買
つた人、調査時期は昭和二十年八月十六日にな
つております。その後に
家屋を買
つた者は、これは
税金を納めておらない。そういう終戰後に
家屋を買
つたような人こそ、これはまた
租税を納めるべき十分なる
能力のある人でありますから、そういうものに対して
税金を掛ける。六番、扶養
家族の
控除をこれにも認める。以上のような
方法を盡して下す
つたならば、或いはこの
惡税であるところの非
戰災者特別
課税も
幾分救われるのではないかと、そういうように
考えるのであります。
以上はこの
租税問題につきまして直接関係のあるところを申上げたのでありますが、後二三
財政上の立場におきまして、こうしたならば
國家の支出は減るのじやないか、こうしたならば
國家の
收入は殖えるのじやないかということを私共氣の付きました点だけを多少申上げたいと思います。
一つは
官公吏の地域手当というものを現在
生活地本位でなしに、勤務地を標準にして支給しておりますが、
生活地を標準にして支給して頂きたい。これを是非とり上げて実行して頂きたいと思います。この地域手当と申しますのは、御
承知の
通りに東京都の特地というのは
收入の三割、六大都市を甲地として二割、市制施行地は乙地として一割、町村は丙地として全然地域手当はない。そういう三割、二割、一割、ゼロという建前にな
つております。この標準はすべてどこにあるかといいますと、これは官吏の勤めておる場所を標準にして支給しておるのであります。そうでありますから例えて申上げますと、その官吏が地域は埼玉なら埼玉の田舎に住んでおる。
家族はみんなして百姓をや
つておる。主人だけが毎朝電車に乘
つて東京に勤めておる。そういたしますと、その人は特地に勤めておるからというので、三割の地域手当をと
つておる。実際に配給を受け
家族は
生活をし、
生計費を支出しておるのは純農村である。それにも拘わらずただ東京に勤めておるからというので、三割の地域手当を貰
つておる。中には
反対の人があります。住宅の関係でどうしても田舎には行けない。勤めは田舎で、東京から田舎に通
つておる。それは省線電車の上り下りを御覧になりますればお分りになると思いますが、大体に上りが多いには多いのでありますが、下りも全然ないわけではないのであります。朝下りの電車に乘
つて東京から田舎に勤めに行くという人も相当ある。その人はどうなるかと申しますと、
家族を養う、
自分は配給を貰
つておるのは東京で貰
つておりまして、遲配、欠配は東京と同じであります。東京に暮しておるのでありますから東京
通りであります。然るにその御主人だけが例えば埼玉縣の川口であるとか、蕨などに勤めておりますと、勤めておる土地が乙地であるから一割、蕨町に勤めておりますと丙地であるから全然地域手当は貰えないという馬鹿々々しい結果を來たしております。こういうような不公平なことをやる半面におきまして、一方におきましては、
國家として大変なこれによ
つて支出が殖えておるのであります。先にも申上げましたように、大体勤人は田舎から出てきて東京へ勤める人が多い。東京に限りません。京阪神の場合も同じだと思います。そうい
つた方は田舎に住んで都会の地域手当を貰
つておる。これを私概算したのでありますが、本当の概算でありますが、恐らくこれを
生活地を標準にして支給しましたならば、年額にして四億や五億の節約は十分できる、というふうに概算いたしました。年四五億の余裕が
國家財政の上にできるということになりましたならば、この四五億を六・三制の
実施なり、或いは
官公吏の優遇なり、そのほかいろいろ有益な
方面に使
つて頂けるのではないかと思うのであります。これは是非
一つ議員の皆樣におかれまして取上げて直して頂きたい。不公平を直すというばかりでなしに、
國家の
財政を減ずるという立場からしましても、是非取上げて頂きたいと思うのであります。その次に
所得税を掛ける場合に、
官公吏の出張旅費は全然
所得税が掛
つておらないのでありますが、これにも
所得税を掛ける必要があるじやないか、民間などにおきましては出張旅費を以て、相当
所得税の事実上の脱税をやる嫌いがあるのではないかと思います。
官公吏等におきましても或る役所は出張旅費が非常に沢山ある。それで
月收は月給二千円で出張旅費を混ぜると四千円になるという人が相当あるのであります。ところが出張旅費のない官廳に勤めております者は、それが全然ない。月給だけということになりまするので、そういう点も考慮して頂くと
財政上有意義ではないかと思います。それから時間がありませんので急いで申上げますと、
官公吏の予算面の人員と実際の人員との差が非常にある。例えば栃木縣の教員組合で調べましたところが、既に百二十万円の差があ
つたということを申しております。これも実際に調べましたならば相当節約ができるじやないか。
そのほか申上げたいことがございますが、時間が切れましたので乱雜なことを申上げましたが、私の
考えを終りといたします。