○
委員外議員(
堀末治君) 御指名によりまして、私
青少年禁酒法制定の
反対を
請願いたしました一人として、私の
反対請願の
趣旨を簡單に申上げたいと存じます。
反対請願の
趣旨は、すでにこの
請願書の中に一
通り書いてございまするので、私の申上げるところはこの
範囲を出でません。私固より酒を好む者でありまするが、酒というものに対しては、甚だなんでございまするが随分深い
経驗を持
つておると
思つておるのであります。
從つて酒は惡い
半面を見れば誠に惡い
半面も
多分にございまするが、又いい
方面を見ればいい
方面が
多分にあるのでありまして、いい
方面のことについては先の弁士の方も
大分お話になりました。從いまして私
自分が酒を嗜む
関係から甚だ失礼ではございまするが、私の
経驗を申上げて、決して
酒はさように嫌うべきものでないということを、何よりも私の
体驗をお聽き
願つてお察しを願いたいと、実はか
ように存ずるのであります。私は名は堀と申しますが、実は
養子でございまして、生れない先から実は
養子に貰われた者であります。而もその父はやはり非常な、これはどちらかと申すと豪酒という方の部類であります。私その後父の酒飲みの様子を見たのでありまするが、少
さい猪口でちびちび飲んでおる
ようなのではない。必ず大きいコップに一遍に注いでぐつと飲んでしまう。さ
ようなのでありましたが、私の貰われた父も又同じく酒を飲むのであります。これは又いわゆる
浅酌低唱とでも申しますか、小
さい猪口でちびりちびりゆつくり飲んでおる。まあこういう
ようでありましたが、私貰われてその養父の家に
行つたのでありますが、父がちびちび飲んでおる中に寂しくなると、私が
七つ頃から私を相手に酒を飲み、私にも飲めと言う。その当時は酒の旨さを知りませんでしたが
七つ頃でもやはり飲んで見るとなんとはなしに愉快になり、いろいろとその後愉快な眞似をするのが父親が面白か
つたものか、たまたま飲まされたものであります。まあさ
ようなことで酒の味を覚えたのでありますが、或るとき思い切り一つ飲んで見たい。父は
自分の方で分量を計
つて飲まして呉れるのですから、より以上飲んだことはないが、どうもその中に酒の味を覚えたから思い切り一つ飲んで見たい。実はこんなことを
思つて、忘れもしないが、十四の年、実は両親が私を留守にして日曜に出かけた。この時とばかり父の酒を引張り出してしたたか飲んだ
経驗があるのでありますが、その時は
大分酔つてそのまま寝込んでお
つたのを、
あとで母親が
帰つてから起されて、
子供の時はそんなに飲んではいけないと、そのときに言われたことも覚えておるのでありますが、その後別にずつと飲みもいたしません。やがて私
中学を出ると、その
中学の
友達に
酒屋さんの人がお
つて、その息子さんとは偶然
意氣が投合して非常に仲が好か
つた。私はそんな
ようなことで、私は家が貧しか
つたものですから、
中学くらいを卒業したら、どこか
実業界に身を投じ
ようと
思つてお
つたところが、その
友達が言うのに、若しなんなら家へ來てくれないかと
言つて勧められた。
考えて見ると、どうも私も酒の方が嫌いでなさそうだ。そこは
酒屋さんだから同じ奉公するのなら
酒屋でもあるし、尚又
友達の家でもあるしなにかと便宜がいいと実はそんなことを
思つて酒屋に奉公した。それから今日までずつと酒の
関係ばかりで通して参
つておるのであります。從
つて飲むことは今日まで殆んど絶やしておりません。幸いにこの
通り酒に不足な
時代ではございますが、我々の方には、製造しておる者には特別の
手持用酒というものを
大藏省から許されて、私共の飲むくらいのものは自由にさせられておりますから、今日までずつと飲むことを止めておりません。申せばなんですが、本年六十二になりますが。酒の上で今日までどれ程健康を害したということもなければ、実は甚だこれは申しては恐縮でございますが、実は飲んでし
くじつたということは今日まで私はないと断言して憚らないと思う。そうして私の
兄弟は男が四人、女が二人あるのでありますが、実は男の
兄弟の中、兄の二人は全然酒を飲まん。而もその中の一人のごときは、どうだ一つやらんかと言うて盃を差すと盃を差されただけでもう身振いをする。同じ親から生れた
兄弟でありながら、而も私の直ぐ上の兄のごときは、一杯たまに酒をやらんかと
言つて差された盃を見て、もう身振いをするという
ような次第であります。その
子供の当時父も酒を飲んでお
つたのでありますから、これらのことはどうも私には分りません。その上の兄もやはり飲まない。私と私の下の弟が飲むだけで、
あとは皆んな飲まない。私は又酒に關係しておるものですから、いろいろの
方面にも關係があるのでありますが、これは本当に天賦とでも申しますか、飲めない人にはいくら勧めても飲めません。又いくら飲むなと
言つても好きな者はそれぞれに嗜んでおるのであります。そうして又飲んだ者は必ずしくじるかと申すと決してさ
ようではない。そんな
ようなことですから、私は飲み
友達は全國到る処にあるのでございますが、飲む者は必ずしくじるとは申されません。
却つて飲んで実に愉快になる人もある。私の
友達の一人に、誠に風の
変つた人がある。これは或る立派な
実業家でございますが、なにか不愉快なことでもあると決してものを言はない。
会社で私はその人と永年一緒に
仕事をしてお
つたのでありまするが、どうも
会社の運営にも非常に……。なにか面白くないこと、不愉快なこと、
判断のつかないことがあると、朝から煙草ばかりぷかぷか吹かしておる。朝からその日一日だけかというと、二日も三日もそうである。そんな時に今日は一つ飲まないかと
言つて飲む。やがて一杯、二杯、三杯と重な
つて大抵頃合いがよいと思う時に、君は一体なんで二日も三日も氣嫌が惡いのか、なにが面白くなくてそういう不愉快な顔をしておるのか、ううむ実は……と始めて口が綻びて、その不愉快なわけを語
つてくれる、それはこうしたらよいだろう、ああしたらよいだろうと
言つて帰つて來ると、それでずつと
台風一過の
ような感じがいつもする。そういう
ような事例は私沢山持
つておるのでありまして、私は思うにこういうものは、本当に
人間そのものに自然に與えられたいわゆる嗜好でありまして、
法律ではなかなか取締られないものではないか。実は私その
ように思うのであります。或いはこういうものを本当に取締るためには、普通の
道徳律でも到底できますまいと思いますから、本当に大きく根ざした
宗教的方面からでも持
つて行
つて是正するということのためには結構かと思ひますが、併しこういうものは
法律を以ては決して是正するということはできないものではなかろうか、その又
法律を
作つた上に幾多の弊害があるということは、私が今更申上げませんでも、
皆様すでに御
承知の
通り、現にいわゆる
未成年者禁煙法も早くできておるのでございまするが、いつの頃できたのかと
思つて実は二、三の人に尋ねて見ましたけれども、さあ
明治時代であ
つたか、大正であ
つたか、か
ようなことで、殆んどこれは忘れられて空文にも等いい。か
ようなことでございまするので、私か
ような本当に
法律として眞に價値ありや否やという
ような問題は、成るべく
法律を置かない方がよいのじやなかろうか、現に今日といたしましては、
未成年者の
禁煙法のあることに対しては、恐らくこの
法律を
制定なさろうと思召さる方々におかれましてもよく御
承知のことと存じまするが、それが何程にも行われないで空文化しておるということは、私が申上げるまでもなく御
承知のことではなかろうかと、実はか
ように存ずるのであります。
而も先般來やかましか
つた姦通罪の問題の
ようなもの、あれも罰を置くか置かないか、随分今日まだ議論が結論に到達しておらん
ようでございますが、これらの
法律は、訴えるものについて初めて取上げられるものでございますが、若しもこれらの
法律が施行されるということになると、飲んだ者はそのまま罪になるという
ようなことでございますので、私どうもむしろあれらの
法律よりも、この
法律が行われるということが非常に大きい
國民的な衝動を起すのではなかろうか、実はか
ように思うのであります。殊に今日の
世相といたしまして、恐らくこれらの御提案をなさるお方は、今日の
世相を憂えて、あらゆる
方面からこの
世相を矯め
ようという御
趣旨から出たのではございまし
ようけれども、私むしろこういうものの
制定によ
つて逆効果を來しても、本当に
國民が納得して、良い
法律ができたと
言つてこの
法律を守るという
方面には向わないのではなかろうか、私はまあか
ように思うのであります。さ
ようなところから私この
法律には
反対を申出た次第でございます。
尚まだ申せば
多分にございますが、大体そういう
ようなところからこの
反対の
請願をいたした次第でございますが、何卒
委員の諸君におかれましては、それらの点十分お分りのこととは存じまするが、一層深く思いをいたされまして、私共の
反対に御
賛成を頂くことを特にお願い申しまして、私の
反対理由を終りたいと思います。