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小杉イ子君
青少年禁酒法案提出者小杉イ子でございます。
もと、二十五歳
禁酒法案として
大正十四年に
衆議院を通過いたしましてから二十三年目の今日では、
反対議員の入替えや、闇取引もしないで
審議せねばならんことに
なつたことは、新憲法のお蔭だと深く感謝いたす次第でございます。
実は、その間、
昭和四年に、
衆議院の
最長年者熊谷五
右衞門先生が
委員長の際、あちこちの
子供や
母親たちから酒から起る悲劇を訴えられて泣かれましたとき、どうしてもこの案を通過させなければならんと
努力されました結果、
委員会を通過いたしましたのであります。そのとき、私
共同志は札幌に大会を開きまして、長い行列で
先生をお迎えいたして壇上に奉り上げて伏し拜んだ者でございます。ところがその後、
先生から、帰
つて見たら
酒屋たちが
次期選挙には決して
当選ささんからさよう覚悟せよとい
つてひどくいぢめられたから、今後は一切、この問題にはかかり合わないという悲鳴をあげられたのであります。それでも同志は屈せず、二十三年の
間提出を続けて來ましたが、殆どもてあそばれの形で今日まで取扱われて來たのであります。
ときに、この度新
内閣が、酒と
食糧と風紀問題を含む
高級料理店に休業を命じたことは、
徳川時代以後の
一大勇敢政令で、北條時頼の
執権法に近いものと、大いに
敬意を表し、深く信頼いたす者でございます。ここにおきましてこの際
青少年禁酒法とは手ぬるい、
禁酒断行通過に
努力してくれと各
方面からの声頻りでございますが、勿論これが理想であり、
根本目的であります。併しながら、それには今多額の
費用と労力を費やさずとも、自然に消え行き時が解決してくれるのであります。今までの議会での
反対論は、何らの
指導愛護方法も考えずに、
ただ法の権威を失するではないかと言ひ、又昔から酒と煙草は
非常時に最も増税し易いという
國民保健の
無視論、又酒は
労働者の疲労を医する百藥の長という錯覚、交際商賣
掛引中毒者に必要だという損害と
加病、又酒はお神酒と讃えますが、三百年前までは清水を供えたものでありました。今でもシロキ、クロキを供えてある神社もあります。又三、三、九道にさらい込む酒を、酒がなくては三三九度の目出度い結婚式が挙げられないではないか等々の、尤もらしく聞える迷論でありました。ところが、或る
釀造家では、養子は絶対
禁酒家であることを
條件として、前
商工大臣星島二郎先生を迎えております。尤も我が子と雇人に
禁酒を切望する者は
酒屋さんでございます。又
救済事業を廣く行
つている人も
醸造家でございます。故にこの際あえぎの
國家を救い、米を放出してくれる人も
釀造家であると思います。私は今
政府が酒を造れと申しましても、今は、造れませんと申出る人が近
ぎ將來に現れることを予感しております。今鑛山、工場、農家に
生産督励用として配給される酒でも、米と換えて欲しいと申しております。又酒が來ない先から闇屋と約束して飲むものは一割二、三分しかいないのであります。諸々の
統計を見ましても八割五分ぐらいはあ
つてもなくてもよい、飲めるが今は飲まない、絶対
禁酒、全然嫌いというふうで、後は
嬰兒幼兒兒童小兒で、約一割五分がどうしても飲むという割であります。
ここで
政府が
司令部からの「
主食を潰して酒を造ることは止したらどうかアメリカでさえ
ビール醸造を削減して
小麦節約に努めているのだから」という申入れを
政府が聽き入れて、米に換算しまして百八十五万石をそのまま配給しますなら、お乳の足らん赤ん坊もお米の重湯が飲めます。泣く
子供等を残して
闇買出しに出掛けましたが、三拜九拜の歎願の効もなく、力なく
帰つて來る痩せた
母親たちの様々の哀れな姿を見ます。又
次代國民に働きを與えるべく
研究を続けているが、
食券量では痩せるばかり、今のうちに引取
つてくれと追い返される多数の
優良学生達がおります。診断の結果、藥はいらん、二日分でも三日分でも食わせさえすればよいとのこと、それでも
人格的家庭では恥かしい、惜しい、工面も盡き果てまして、今はその子ばかりには食べさせられんという有様であります。このような人々がまだ幾千万人いるか分りません。これには二合五勺はただ寢て生きるだけのカロリーとは知らず
労働を続けていたため、しまいには七貫五百目とな
つて、胸はやけ、喉はこわばり、腰も立たず、這うことさえもできなく
なつた私のような
体驗者でなければ、買える人、食える
人たちには到底心底なし、これらの苦しさを察することは出來ませんために、
禁酒断行の必要なぞも感じないのであります。又
一つは、酒に代るべきよき飲料のできん間は、
禁酒断行は不可能であります。その
代り親の名誉を保ち、
財産を守り、健全な
社会を組織して、近き
將來に
世界優秀國と肩を列べる
日本國を出現さす人は即ち
男女青少年である。この混乱の
國情を
切拔けて貰うためには、一方ならぬ
克己努力を願わねばならんことを思いまして
提案者は涙を以てここに
青少年禁酒法を
提出いたした次第でございます。
最後に
対策を申上げたいと思います。今日その
対策といたしまして、今日まで
青年に配給した酒を、
原料主食のまま、正確に
男女青年に加配して貰うこと。
運動具の二
割引購買券及び
映画、諸演藝、
観覧券等の二
割引券を配給して貰うこと。それから病原菌の発生を防ぐことになりますが、台所の
食料廃物、その他の飼料による
養豚を生かしまして、
養豚肉と、それからでるところの上等の肥料を以て蔬菜を盛んに作りたいと思います。これを先ず一隣保から、次ぎは一区からと進んで特配する。これは又市や町の
援助によ
つて個人的にか或いは会社的にこれをすることを考えております。
それから
教育方面では、先ず教科書に入れて貰わなければなりません。それは
一つは、天皇陛下が
欧洲御漫遊の際、諸國が競
つて捧げた銘酒を、ただお受けになるだけで、一適も
お召上りにならなか
つたことは、
科学者であらせられるからでもありましようが、この場合、
從來普通の人ではできないことであることや、又
日本には
未成年者飲酒禁止法があると申された、みずから
國法を違法されたことを、
欧洲諸國では、
日本の
天皇樣はお偉い方と讃美しておる
原因でございます。これを入れて頂きたいと思います。又釋迦は、たとえ草の葉の露の一滴ほどでも酒を飲む者は我が弟子となることを得ずと言はれ又酒を飲む者よりも、酒を進めるものは五百生年なからんと重大な後生の崇りのほどを教えております。これを入れて頂きたいと思います。それから
活動寫眞を以て
教育したいと思います。それはアルコールが血管をどういうように循環するか、その有樣、それによる臓器の変質は実物で、そして精虫が酒に醉うと同時に白血球の
殺菌作用が失われ、ために
傳染病に罹り、特に性病に罹り易い。ために白痴、
犯罪者若しくは
病人、
劣等兒を産み、これに対する
政府の
負担は
造石税の幾倍くらいかの
統計を知らせます。そうして世界中の各
保險会社が、晩酌する者は十三年早死すると称しておりますところなども知らせます。そして酒を飲めば、
道徳観念を司る大脳を先に犯されるために、酒を飲みますと直ぐににこにこし、笑
つたり、踊
つたり、歌
つたりする者又はすごい眼をして怒
つたり、叩いたり、殺したりする有樣、酒が
原因の
投獄者数を示し、
断頭台の受刑なども見せる必要があると思います。私は
司法は慈法であることを切望するものであります。しかし惡性に対しては親であらうが、
子供であらうが、自分であらうが重刑に処してもいいと思
つております。監獄は
陰氣な所でない。花もあり
映画もあり、
氷屋もある
一大産業所であらせたい。ただ娑婆と交渉のできないのが罰であればよいと思
つております。
終りに、これが通過いたしましたならば、第一番に
家庭訪問をすること、させること、して貰うことであります。又
小学校先生から
子供に教えて頂き、
子供の口から両親に傳えて貰うことが非常に有效と思います。それから
飲食店、旅館には注意のポスターを貼
つて貰うことであります。そして
國法を傷つけず、本当の
意味で、この
法律はあ
つても、なくてもいいと言われるまでに
青少年を育て上げるためには、今後は大いに
宗教家、
教育家、
社会教化運動家の慈愛深いところの御
援助と御
協力をお願いしなければなりません。
この頃の
輿論観察を一言申上げて置きます。私がこのビラを二十年前に作
つたときなどは、沢山できましたから沢山撒きましたが、その時分の
青年は皆これを取
つて丸めて捨てました。中には
帰つて來て
ステツキで叩く、
痰唾を吐く、そうして机をひつくり返したものでございます。それがこの頃では決してそういうことはございません。私は神戸の三宮のガードの下の若者ばかり集ま
つておるところで
お話をいたしました。そうして何か小石でも投げるのかと思
つたら、
瓦かけなどを積んで私の場所を拵えてくれたのであります。そうして私は申しました。私を投票などすると酒は飲めなくなりますぞと申したのでございます。けれどもそれでもよろしい、よろしくお願いいたします、私共は米が欲しい、そう申すのでございます。又東京でもバスの乗り場などでちよくちよく申しますが、少年も、
青年も、中年も皆喜んでおることがみられまして、こういう意外な
時代が來たことを私は驚いております。
以上の
通りでございますが、よろしく
愼重檢討御審議の上、
國民愛護法として
青少年禁酒法を決定されますように、
委員御
一同樣の御一層の御
協力をお願いしたいのでございます。これで終ります。