○成瀬喜五郎君 私は、本日
議題となりました農業生産調整法に対しまして、
社会党の立場から所感の一端を申し上げまして、皆樣のご檢討を仰ぎたいと、かように考えておるのであります。
日本の経済復興は、
食糧の確保が前提であるとまでいわれている。この
食糧の重大な問題に関連いたしましてのこの農業生産調整法は、あらゆる角度から考えてみましても、全
國民の立場から眞劍に檢討を加えなくてはなりません。
本議場におきましても、七月の二十六日におきまして、
食糧問題を
自由討議に付したのであります。また八月二十六日におきましては、農林
委員会食糧供出
対策小
委員会におきまして、
食糧の確保と供出に対するところの
最後的な点を、四党の満場一致によりまして
政府に進言をいたしたことは、皆樣も御
承知の
通りであります。越えて十月二十八日に、本議場におきまして、同僚の八百板君、水野君、また民主党、
自由党の各位からも、いろいろと非常なる御
意見があつたのであります。
十月二十八日におけるところの農林大臣の
説明によりますと、この農業生産調整法は、最も苦難なる
食糧を確保するため、また二十二年度のごとき
食糧の轍を履まないように、この際
國会の権威を集めて
食糧の確保をしていきたい。また本年は、欧州におけるところの
食糧事情、東北・関東の水害、全國の旱害等の
関係によりまして、きわめて
食糧の困難なる状態にあるわけでありますがために、さような立場におきまして、やはり相当量の輸入を連合國に対し懇請しなくてはならない。かような立場から、われわれ農民ができる限りの最大可能の誠意を盡して、そうして供出の責任を果たさなければならない。かような意味を持つ農業生産調整法に対しましては、これらの数々の
委員会及び
自由討議の
意見を尊重いたしまして、責任生産制をとる。また責任生産制をとる
内容といたしましては、事前に割当をする。また耕作面積で数十万町歩のやみ反別があるが、これも確保していこう。また地力に基いての割当をやり、適地適作によるところの方法によ
つて地力を挽回していきたい。また作付反別の実績に應じて割当をすると同時に、場合によりましては、ある程度の統制を加える必要がある。こういうふうにいたしまして、農民が安心して生産し得るように、安心して供出をなし得るようにする。
そういうようなことが本
法案の趣旨なのでありまして、これに対しましては、私ども全幅の賛意を表するわけであります。おそらく各党におきましても、農林
委員会におけるところの共同のある趣旨におきましても、すべての党は歩調をそろえまして、この農業生産調整法の通過のために努めなければならないと、かように思
つておる次第であります。(
拍手)
しかるに、
自由党におきましては、前会におけるところの
反対の
意見を、まつたく何と言いましようか、常識はずれと言いましようか、前提條件といたしまして、この
法案には断じて
反対するということを岩本君が主張されております。その
反対の
理由というものは、いわゆる農民の生産意欲を喪失せしめるものである、それに対するところの具体的の
方針といたしましては、いわゆる産業の國家管理に対し、裏づけとしての資金・資材及び勤労者に対する衣食住または厚生
施設までを
政府が責任をもたなければならないと同じように、農民に対しましても、肥料・農機具等のこれらの裏づけがない、電力の危機に基いて、
昭和電工は八分の一の肥料にな
つてしま
つておるが、かようなことをも
つてしては、これらの調整法に対する
賛成はできかねるというような
意見であります。
また、その次の
意見といたしましては、
委員会の構成については非民主的である。この点に関する限りは、私も同感であります。しかしながら、その次におきましては、統制経済のイデオロギー及び
計画経済のイデオロギーによ
つてやることは非常に無理ある。太陽、天候、台風などを例にとりまして、こういう危險な日本農業形態におきましては、かような農民の百人百樣の農業経営に、官僚的のプランによるところの統制はまつ平御免だ。生産の自由、まかり間違えば供出の自由まで要求いたしておるということは、あまりにも今日の世界の
食糧、また日本の
食糧を無視いたしておる。農民のみの日本であるというような考え方が彼
自由党にあるということは、断じて許すべきものではない。かように考えております。
また、その次の
理由といたしましては、生産の増強は何をも
つてするか。以上のような
反対の上におきまして、生産の増強は物の裏付けがあ
つて、適期に適量を配給することが随一である。本
法案に対する
反対の
意見のかようなお粗末なことは、唖然とせざるを得ないのであります。
また適正價格によるところの農産物の價格決定をや
つてもらいたい。これも、もちろん私も農業者の一人であるがゆえに、農民の力による農産物の價格決定は、つとに叫んできたところの一人であります。しかし、日本の今日おかれておる経済状態下におきまして、農民のみが米價の高額なる釣上げをし、かつ、その他のすべての物に対しましても、それを要求するということは、社会的道義観念に乏しきものと言わざるを得ないのであります。(発言する者多し)默
つてお聽きなさい。以上のようなことが、大体本
法案に対する
自由党の根本的
反対理由であります。
その次に、民主党はどういうような
意見を吐かれておるかと申しますと、民主党の村瀬君の
意見によりますと、根本的に農民に対する考え方に対して檢討を加えなくてはならない。私も、このお考えに対しては敬意を表する。私も同一観念をも
つておるのであります。しかし、さういう考えばかりをもちまして、これに対する
反対は当らないと考えるのであります。もちろん、それ以外に物資の配給が非常に不完全であるということ、またソ連式の農村の監督制度、ドイツの官僚制度で制御されることはまづ平御免だというような
意見がありますし、
從つて、これに代るところの方法といたしましては、ただ技術員を優遇する。五億円を、これらの予算に基いてやるという
意見であります。
現在におきましても、予算の許す限りにおきまして、技術員優遇は、ただ單に民主党の專賣ではありません。すべての
議員によりまして、この方向に進んでおりますし、また民主的事前割当をや
つてもらいたい。これはこの農業生産調整法精神に一應
賛成をいたされておるということに私ども考える次第でありますが、その民主的事前割当の
内容におきましては、古き歴史をもつ徳川時代からの年貢米の高を超えてはならないというようなことは、あまりにも日本の
食糧事情を考えておらないのではなかろうか。かような点から考えまして、一歩前進して、大所高所からこの農業生産調整法の趣旨を考えてもらいたいと思うのであります。
わが
社会党の同僚の八百板君は、
賛成の
意見を述べるとともに、それらの
賛成に対する條件といたしましては、肥料、農機具の裏づけを十分にや
つてもらわなくては、これは不十分である。農家
食糧の確保というようなこと、またその実績反別に対しましても徹底的にや
つてもらいたいというような点、あるいはまた罰則、責任におきましても、あまりにも一方的であるというようなことが述べられておるのであります。
私は、かような十月二十八日におけるところの
意見からいたしまして、以下、少しばかりの私の
意見を申し上げてみたいと思うのであります。
私は、本
法案がしばしば本
会議におきまして論じられてまい
つておりますように、一日も早くこの責任生産制を断行してもらわなくてはならない。昨年における供出のあり方が、
自由党の農業政策におきまして、多くの悲劇が生れたということは、隠れなき事実であります。すなわち、数十年來か
つてない
食糧の増産であるから、
食糧の供出は八割程度でいいというような、これらの無責任な連中が町村の代表者によ
つて生れてくるし、また農林当局は、豊作であるという
関係もあり、アメリカの株式が十六年來の暴落である等々をも主張いたしまして、農民に先安の宣傳をし、そして手持
食糧を早目にさばいておるというような点。しかしながら、連合國における放出
食糧の前提といたしまして、でき得る限りの誠意をも
つて日本
政府は供出を完了しよう、かような点で、半ばにおきまして、あわてふためいて、一一〇%というような、か
つてないところの無謀なる供出方法を用いたところに多くの悲劇が生れ、各所に農民の自殺が生れたのであります。
かような点からいたしまして、私どもは、かような
自由党の農業政策、
食糧政策に対しましては、痛烈に、七月二十六日の本議場におきまして指摘いたしたのであります。
從つて、無辜の農民を再びかような惨禍に陷れないように、一刻も早く責任生産によ
つて、増産の意欲を高揚するように努めてもらいたいと話をいたした次第であります。
本
法案の
説明によりますと、さいぜん申し上げましたようなことが、すべて織りこまれておるということは、今さら喋々申し上げるまでもありません。
從つて、かようにいたしましてこそ、この
食糧の増産と責任が完了せられる次第であります。
ただ私どもは、第三條以下に対しましては、徹底的に
修正を加える必要がある。今の案の
内容によりますと、農林大臣が絶対の権限をもち、そうして中央農業調整
委員会の議を経る。いわゆる
意見を徴する。また知事と協議いたしまして、それらを参考にいたしまして、農林大臣が独断によ
つて割当てていこう。また都道府縣の知事におきましても、そういうような考え方によりまして、都道府縣の農地
委員会及びその他市町村の
意見を徴する。こういうふうに、今回のそれらの
委員会制度は、徹頭徹尾上から天降り的になされておるところに、私どもは絶対
反対を唱え、大
修正を加える必要がある。かように考えておる次第であります。
從つて、われわれはこれをいかに
修正すべきか。いかにすべきか。この点につきましては、しばしば、民主的な、農民の納得のいく方法に改むべきであるということを主張されておりまするが、それはどういうふうになるか。いわゆる都道府縣、市町村、部落に至るまで、上から下まで、逆に下から上へ、縦の区分によるところの方法によ
つて積み重ねていこう。また社会道徳観念に基きまして、部落々々、市町村市町村、また都道府縣というような横の連絡による調整によりまして、公平にして緊密な方法で、不公平の生じないように、縦と横の面から、ほんとうに農民が納得のいくような方法にも
つていきましたならば、本
委員会の成果たるや期してまつべきものがあると考えるのでありまして、これらは事前に大幅の
修正を加えていきたい。かように考えておる次第であります。
それから罰則についてでありますが、この罰則につきましては、われわれの経驗するところによりますと、戰時下における農業作付統制令の復活であろうというようなことも、一部誤解せる人たちは考えておりますが、この
通り戰時下における作付の統制を、この
法案によ
つて強化するということに
なつたならば、これは、われわれは絶対
反対である。しかしながら、これらの
法案と、また
食糧管理法のあの強権発動によるところの苦い経驗からいきまして、住々にいたしまして、第二十七條、第二十八條、第二十九條の罰則
規定は削除すべきものであるというような
意見も生れてきておる次第であります。
あらゆる産業をとらえ、なかんずく、血の一滴とも比べらるべき石炭の増産に対して、これらの
方面のやみ流し業者に対しましては、
政府はいかなるところの処罰を加えたか。あらゆる産業に対する罰則
規定の
適用はそのままにいたしておきまして、ひとり農民に対してのみ強権発動によるところの犠牲を今日まで行
つてきたということは、断じて許されない。かかるところに、
本案二十七條から二十九條に至るところの削除の
意見も生れてきたものであると考えるのでありまして、かような考え方は、民主党の同僚
議員の言われるように、農民に対する考え方が違
つておるからではなかろうかという点に思いを及ぼす次第であります。
もともと農民は、農に生れて農に帰する、土に生れて土にゆくところの純眞なる精神をも
つて生産に携わ
つておる次第でありますが、この生産に携わ
つておるこれらの人々が、なぜ生産の幾割かをやみ流しするかということを、
政府は檢討することを怠
つておる。いわゆるやみの肥料、やみの農機具等々を入手することについては、物交により、あるいはその他米のやみ流しにより、再生産のためにやむを得ないところの方法として行
つておるのでありますが、かようなことをなさしめるところの
政府それ自体の怠慢は、断固として糾彈しなければならない。しかるに、今までの
自由党の時代までは、これら自己の責任をたな上げいたしまして、ただ農民をも
つて惡農のごときものと考えるところに、こういつた罰則
規定の
適用が生れてきたものである。この点は、嚴に根本的観念を
修正しなければならない。かように考えておる次第であります。
私どもは常に叫んでおることでありますが、水や空氣と同じく、土地は公器性をもつものであるし、この土地は八千万同胞の共有財産である。農民が農に携わる以上、この共有財産である土地から生まれた農産物は、すべて八千万同胞のために増産されなければならないものである。かような農民道義に立脚したところの精神をも
つて進んでおるのでありまして、かような考え方からいたしまして、私ども農民はあくまで責任をもつが、しかし、その責任を果たすための裏づけとなるところのあらゆる施策を講じてもらいたいのであります。
私は、かような点から考えて、ここに御参考までに申し上げることがあります。これは、徳島縣阿波郡伊澤村の農民組合の支部長から、徳島縣の農民を代表いたしまして、最近寄せられたところの文書であります。それは米の價格を引上げることが農民の希望でなくて、値段を上げることも下げることも、農民の力によ
つてこれを求め得られるようにする組織をつくることである。現在農民は、米價を上げることのみを希望しないということは、農民は目覚めておるのであ
つて、米價引上げは、結果において一般
生活費が高くなるので、米價をますます引上げんとすれば、結果はかえ
つて農民は哀れな
生活をすることになる。現在の農民は、米價引上げの小細工よりも、強力なる政治力によ
つて物價の引下げと均衡を希望しておるのである。衣料のごときも、やみなれば何ほどでもあるが、公定なれば品がないのでは、結局において何にもならぬのであるというのが農民の声であります。急を要する責任供出について、最も急を要する問題は、農業経営上左のことを必要と存じます。イ、一筆調査によ
つて地力の徹底調査、ロ、耕作反別と家族数によ
つて嚴正なる品種作付の統制、ハ、責任供出割当の嚴守、ニ、農産物利益の均等、ホ、薪炭・採草山林の開放、ヘ、主食やみ賣買の嚴罰、ト、代替供出絶対不
認可、チ、余剩主食供出に対する特賞を厚くする。以上のような点が指摘されておるのであります。
結論として、私は
最後に申し上げて見たいのは、臨時農業生産調整法は、農林
委員会におきましても十分檢討を加え、一日も早くこの案の
実施を念願いたします。労働
基準法は、第一條において、労働者が人たるに値するところの條件を満たすものでなくてはならないというのと同じように、現在の農民も、政治的には微力でありますが、今日の民主國家におきましては、この微力なる農民が、農民として人たるに値するところの諸條件を備えるためのあらゆる方法、施策を講じてもらいたいと熱願してやまない次第であります。
時間の
関係上、以上を申し上げまして、私は
本案に
賛成の意を表する次第であります。(
拍手)
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