○青木孝義君 私は、自由党を代表いたしまして、
政府の
提出にかかる
昭和二十二年度
一般会計の補正
予算案に対しまして
質疑をいたしたいと思います。
まず最初に
内閣総理大臣に
質問をいたします。現
内閣における
経済対策の全面的な失敗に対する
総理大臣の責任を追究いたしたいのであります。
政府は組閣直後、緊急
政策八大要綱を作成いたしまして、
政策の具体的方途として、從來の
内閣のごとき政治作文たることを避けて、現実面に即してこれをまとめ上げる、必ず
実現できるもののみを取上げる、
日本の再建は第一に
生産増強を中心として
インフレの惡循環を断たねばならない、またさらに
生産の再開あるいは輸出力の培養のためには、労働者自身の
生産意欲の高揚と
生産力の増大が根幹であるといたしまして、特に労働
対策を重要視し、全
勤労者の
生活安定を期する旨をうたいましたことは、周知の
通りであります。
しかし、現実はどうであるか。緊急
政策の何
一つとして
実現いたしたものがあるか。組閣以來すでに六箇月、この期間は、重大な危機の関頭に立つ
日本國民にと
つて決して短いものではないのであります。
國民は
政府の緊急
対策の
実施に対してすでに十分な時をかし得たはずでありますし、われわれ
國民としては大きな期待をも
つて過してまい
つたのであります。しかるに、
政府のなし得た唯一のことは、
日本経済を一層破滅的な危機へ追いこんだにすぎないということであります。(
拍手)
実行内閣としての看板を掲げた
政府の面目、はたしていずこにありや。
財政は未曾有の膨脹を示して、行政整理、企業の整備という根本的な問題は、労働攻勢におびえて後方に押しやられ、
生産の依然たる停滯と
インフレの一段の高進、食糧の遅欠配と
流通秩序確立の空文化は、嚴然たる事実であることを御承知願いたい。現
内閣が從來の
政府の
政策を揶揄した政治作文という言葉は、今日現
内閣にすつかり御返上申し上げたいと思います。(
拍手)
殊に、実情に即せざる
賃金・
物價の机上プラン的改訂は、
資金統制の強化と相ま
つて、その所期いたします資本蓄積的効果を收めないのみか、
生産を萎縮せしめ、一般
物價の驚くべき高騰に伴う
インフレと
やみの飛躍的高進、
勤労者生活の一層の窮迫化をもたらしたにすぎないのであ
つて、
國民生活の安定はまさに空文化し、大衆の期待はまつたく裏切られました。
勤労者の挺身による
生産の強力な増進のごときは、もはや痴人のざれごと以外の何ものでもない。最近の労働爭議の頻発をごらんな
さい。さらにまた、近く廣汎な労働爭議展開の兆歴然たるもののありますことは、否定のできない事実であろうかと存じます。かくて、現
内閣の存在の意義はまつたく失われたものとい
つても過言ではございません。(
拍手)
総理大臣はこれをいかに考えておられるか。かかる
政策の全面的失敗に対して、一片政治的良心がおありになるならば、この責任を十分に明らかにせらるべきだと考えます。(
拍手)
次に、
大藏大臣に対して
質疑をいたします。今回
大藏大臣は、非常な御
努力をも
つて追加予算の作成になみなみならぬ
苦心をいたされたことは、心から敬意を表します。しかし、これが閣議決定に三箇月半という長い期間を要した。その間
國民に多大の不安を與えたことは、何といたしましても
政府の大きな失態ありまするし、私は残念ながら
大藏大臣の政治的手腕を疑わざるを得ないのであります。(
拍手)
追加予算は、なるほど計数の上から健全性を得ておるということができましよう。すなわち、二十二年度当初
予算における
赤字公債の四十八億円が、今回の
追加予算における四十九億円の
歳入増加によ
つて完全に解消せられた。その上にまた、國鉄ならびに通信事業の
赤字が
一般会計によ
つて補填されて解消されることになるから、わが
財政は高い水準においてではあるが、一應健全性を回復し得たこととなるのであります。しかし、これは單なる
数字の操作である。
從つて、見せかけの、いわば名目的
健全財政であるにすぎないのであります。実質的な
赤字は他に轉嫁されておりますし、またその中には、第二次
追加予算を必要とする危險性を多分にはらんでおりますることは疑いません。
たとえば、
復興金融金庫への出
資金は四十億円である。本年度の
復金の
所要資金がこれだけで十分であるとは、たれも考えていない。しかりとすれば、この不足分はいわば
財政の
赤字を
金融機関に轉嫁するわけであります。今日の
金融情勢では、
復金債券を市場で消化することは困難でありますから、結局は
日銀引受けによ
つて資金の調達をはからざるを得ないのであります。これでは、
赤字公債を
発行して
日銀引受けとするのと何ら選ぶところがございません。また地方分與税分與金は八十二億弱と押えられておる。この無理をした
予算は
地方財政の
負担とな
つて、結局何らかの形において調達されなければならないし、これが地方債の
発行によりて賄われるということになれば、結局通貨の増発とならざるを得ない。かように
國家財政の
赤字を
金融機関や
地方財政に轉嫁しての
健全財政は、まことに笑止のさたであります。
さらに、本
追加予算の各項目を通覧いたしまして、そこに少からさる無理がある。
從つて、第二次
追加予算を必要とするの危險性が明瞭に看取せられるのであります。殊に今後の
物價高騰——安本計算によりますれば、今次の
追加予算の
影響によ
つて、本年末までに四六%の上昇をみる予想とのことであります。かかる場合、第二次
追加予算は必至である。今回の
追加予算の
物價に対する
影響、これは
大藏大臣はいかにお考えになり、いかにこれを処理せらるるのであるかわかりませんが、おそらく
物價に
影響がないという御判断は、
大藏大臣のみに通用する見解であろうかと存じます。(
拍手)
一体、今次の
追加予算を必要とした理由の大
部分は、言うまでもなく
物價騰貴であります。新規事業によると見られるものは、終戰処理費の約半額、公共事業費のある
部分、
貿易資金、
復金出資その他災害救助費、農地改革費等、概算三百億円内外にすぎないのでありまして、残額六百余億円というものは、ほかならぬ
物價騰貴によるものであることは当然であります。二十二年度当初
予算は、石橋前藏相によ
つて、昨年の十月、十一月の
物價を基準として、かなりの含みをも
つて作成されたるものであります。それより八箇月の歳月を経過いたしまして、多額の
追加予算を必要といたしまする今日から見て、この年度末までに安本計算の率で
物價が騰貴するといたしますれば、第二の
追加予算の計上は避けられない
状態にあることは、おそらく
大藏大臣もお考えにな
つておられると存じます。
また災害復旧費にいたしましても、たとい
物價が同一水準を維持し得たと假定いたしましても、本
追加予算に計上されただけで済むと考えるのは、あまりに甘い考え方であると思う。(
拍手)また
貿易資金五十五億にしても、さらに賠償撤去費も、これで足りるとは考えられないし、さらに巨額の終戰処理費——この算定の基礎は
物資及び
賃金とも、もちろんマル公であると考えまするが、
流通秩序の破壞された現状においては、実際
経済の基盤は
やみであります。この事実を考慮いたしまするならば、今次
追加予算に計上された額のわく内で所定の事業を完遂することの不可能でありますることは、自明の理であると存じます。殊に
インフレの進展下、
物價の一層の上昇が確実に予見されるとき、思い半ばに過ぐるものがあると存じます。
加うるに、千八百円ベースの維持は、安本の独善的な机上計算と
政府の希望にもかかわりませず、現実の事態はこれを許さない。すでに十一月三日附の毎日紙は、
政府が越冬期を前にして、労組側の動きを緩和するため、何らかの一時金を別途に考慮することになろうと報じております。また同日附読賣紙は、米窪労働
大臣が大阪駅における記者團との会見において、全官公の要求に対して五十億円ほどの支出をしようという意志表示をしたことを報道いたしております。
大藏大臣は、これらの事実を何とお考えであるか。これでもなお栗栖
財政の健全性を確信しておられるとすれば、驚くのほかはございません。
二十二年度
一般会計の
租税收入は、本
予算、
追加予算を合わせて総額千三百二十四億円である。しかし、これに対する收税
状況は、九月までに二百六十三億円、全体の二〇%、全体の二割にすぎません。本
予算に計上された税收の三八%にすぎません。かかる收税の不振は、二つのことを物語
つておると思う。一は、現在の徴税陣と機構とをも
つてしては、本年度内に租税の完全な收入はほとんど不可能であるということ、
從つて、そのずれだけは結局において通貨の増発となり、
インフレを高進せしめる原因となるということであります。他の
一つは、
國民の担税能力がすでに限界点に近づいておるということである。
夕バコ益金を含めて本年度の全租税額は約千八百億円、
國民所得を大藏省査定に
從つて八千四百九十億円といたしますれば、その二割二分弱に当ります。わが國の有業人口、すなわち業務をも
つている人口数を三千万人と仮定いたしますれば、有業人口一人当り実に約六千円という高額な租税であります。しかも、
やみ経済の横行下においては、
國民個々の担税能力を的確にキヤツチすることはできない。
從つて、補足しやすい
國民層に本当に租税の重圧が加重されることにな
つており、この層の担税能力はまさに限界点をさえ超えようといたしておるのであります。上半期の
所得申告者がわずかに三〇%しかなかつたということは、かかる事態の反映であり、またそれは
政府に対する不信任の消極的な表示にほかならないと考えます。(
拍手)
かかる情勢下において、
大藏大臣は、なお未收一千億円に余る租税を、残された下半期において完收し得る御確信があるかどうか、この点であります。さらにまた、
政府の上からの極端なる
資金統制と、通貨の増加速度を追い越す
物價騰貴との圧力によ
つて、極度に逼迫している
金融事情は納税の困難を加重せしめているが、かかる
事情のもとにおきまして、徴税に対する
政府の所信をさらに伺いたいのであります。歳出、
歳入の單なる
数字の上での
均衡を整えることは、決してそれほどの難事ではございません。それは普通の能力を備えたものには、だれにでもできる仕事であります。問題は、実質的な
均衡を
確立するということにあると信じます。
さらに、
金融策について先ほど
同僚議員からの
質問に対する
お答えにおきまして、私の抵触する
部分ももちろんあ
つたのでありますが、しかし
日銀の民間貸出を見まするのに、本年四月までは毎月増加をたど
つたのであるが、五月からは一轉して月々減少し、十月十日現在におきましては、四月末の貸出高五百五十九億に比較いたしますれば三百八十三億円と、すなわち百七十六億円の減少である。この減少率は実に三一%である。しかるに、この間通貨は三〇%の増加をみておる。
物價はマル公約二倍半、
やみは三一%の騰貴であります。企業は
金融の梗塞と諸式の値上りの挾撃を受けまして、
生産は停滯し、八月は七月に比べて約九%の滅産を見るに至
つたのであります。殊に、この
生産減退は消費
物資に強く現われ、統計局の
調査によりますれば、東京都の消費者價格は、五、六、七、八の四箇月間に七〇%の騰貴である。この結果、都民の
生活は著しく困難と
なつた。これは、片山
内閣の政治モツトーである
生産増強、
國民生活の安定、まさにこのモツトーと逆行するものであることを御承知願いたい。
しかも同じ期間に、
政府の
資金需要による通貨の増発は六百一億に達した。國庫收入を使い果して、これだけの
赤字が出たのであります。
政府は五月初めより十月十日までに、自己の必要を充たすためにはこれだけの
赤字通貨を
発行し、
インフレを刺戟せるにかかわらず、民間貸出に対しましては百七十六億円の引締めを強行し、
生産を停滯せしめている事実をごらんにな
つていただきたい。
健全
金融も結構であります。また、そうなくてはならない。しかし、
当局の彈力性のない、硬直したものの考え方では、健全
金融だけはできても、肝腎の
生産の
増強は望めないのみか、
インフレを助長し、
國民生活の一層の窮迫化を招來するに至ることは必至であります。かかる矛盾せる
金融政策は、ただちに改むべきであると考えるが、
大藏大臣の所見
いかん。
なお、
大藏大臣の
國家財政に対する基本的な考え方並びに税政の改革、徴税機構の整備刷新に対する御見解を伺いたい。現段階におけるわが
國民経済的循環が
國家財政を枢軸としており、
國家財政が
経済の廣範な領域に決定的意義をも
つていることは多言を要しません。
從つて、
財政は單純な
收支の
均衡という
財政技術的観点からのみ取扱わるべきものでなくて、
國民経済全体の再
生産循環の維持
発展の見地から問題とされなくてはならない。(
拍手)しかるに、栗栖
大藏大臣の
財政に対する基本的考え方は、前者を重要視するのあまり、後者をそれの
犠牲に供して顧みなかつたかの観がある。もちろん
大藏大臣は、
財政收支の
均衡確保は
インフレの激化防止という全
経済的観点に立つと言われるかもしれません。しかし、それは
財政の形式的、名目的
均衡ということからではなくして、実質的
均衡の
確立という観点から初めて言い得られるところであります。
財政收支の單なる名目的
均衡がわれわれにと
つて問題であるのではない。われわれにと
つて問題なのは、
國民経済の再
生産循環の順当な
発展ということであります。(
拍手)これがためには、むしろ
財政の一時的な若干の形式的
均衡の破綻は、それほど問題とするに足りません。
生産の再開によりて裏打ちされず、また
財政膨脹の大きな根因である行政の整理、企業の合理化問題をいたずらに労働攻勢を恐れてそのままに放置された上での
財政收支の
均衡は、まつたく無
意味である。
國民の眼を欺く姑息な方途であるにすぎないのであります。この点に関する
大藏大臣の所見を承りたい。
次に、税制の刷新について御
質問申し上げます。
政府は税收入を安易に確保するため、捕捉の容易な、かつ收税効率の高い間接税に
重点を置かんとしているようであります。これは言うまでもなく大衆
課税であり、
國民の
生活苦を一層加重するものであ
つて、
財政の
均衡を
國民大衆の
犠牲によ
つて確立せんと意図するものにほかなりません。この点、
政府は
愼重に考慮すべきであると思うが、今後もなお間接税偏向の方針をと
つていかれるお考えであるかどうか、この点についても御
答弁を願いたい。
最後に徴税機構の問題について—年間の脱税ないし未收税は
相当巨額に上るものと思うが、これを補足するために、
政府は先ほど御
説明があつたような種々的確な
対策の
準備がおありになるようであります。しかし税務官吏は、現に定員八万名のところ、目下は四万五千名にすぎないといわれております。また税の査定が一税務官吏の手心
いかんにかか
つており、そこにいまわしい饗應であるとか、あるいは收賄の余地を與えることにな
つておる。かかる徴税機構の不備欠陷に対して、
政府はなんらの
対策もうち建てていないように見えます。はなはだ遺憾のきわみでありますが、この点、
大藏大臣はいかに考えておられるか、御所見を承りたい。
和田安本長官がお見えになりませんが、私の言うだけのことは一應申し上げます。次に、和田安本長官に
質問をしたい。まず、安本
経済施策の全面的失敗に対する長官の政治的責任であります。(
拍手)
経済の危局突破のために
経済緊急対策が明らかにせられてから、
國民の眼は希望と強い念願とをも
つて、その具体化の方向に注がれてまいりました。しかし、飢餓前夜をさまよ
つておる
國民の渇望と期待に対して與てられたものは何でありましようか。
賃金・
物價の不自然にして拙劣な机上ブラン的改訂に基く異常な人爲的價格の奔騰と、食糧の依然たる遅欠配、官僚的配給操作の不円滑、これらによる
國民大衆の
生活苦の一段の加重以外の何ものでもなかつたことを、われわれは経驗いたしたのであります。(
拍手)
緊急
対策最大の眼目である
生産の
増強は、組閣以來すでに半箇年を経過した今日、なお依然たる低迷
状態を脱せず、八月は七月より九%の低下をさえ示しており、殊に最も基本的な基礎資材たる石炭のごときは、実情に即せざる
物價改訂によ
つて第二次製品價格奔騰のはね返りを受け、價格
関係が再度アンバランスとなり、全体として減産の兆歴然たるものがありますることは、皆さんの御承知の
通りであります。(
拍手)しかも他方におきましては、
公定價格が
やみ價格を上まわ
つておる製品も決して少い数ではございません。
社会党首班
内閣の成立に対して
國民の待望したものは、
インフレの終熄と、これによる
國民生活の安定でありました。去る四月の総選挙において、
國民は
生活の安定をその投票にかけたのであります。しかるに、
インフレは終熄するどころか、かえ
つて安本の
物價改訂を旋囘点といたしまして高進の速度を一層早め、破局への一途をたど
つており、緊急
対策の一大眼目たる
流通秩序の
確立はもはや空文化し、
國民生活は日に窮地に追い込まれつつあります。
か
つて安本長官は、九月までの忍耐を
國民に要求した。そして苦しい家計も九月上旬ともなればかなりよくなるであろうし、十一月になれば家計は黒字に轉換すると言明されました。しかるに、現実の事態は和田長官の
國民に対する言明をまつたく裏切つた。
國民に対するかくのごとき食言に対しては、和田長官は明らかにその責任を負うべきであり、かつそれを具体的な
方法によ
つて國民に示すべきである。これに対する所見を伺いたいのでありますが、現在お見えになりませんから、でき得るならば
総理大臣にひ
とつ答弁を願いたい。
毎日新聞の報ずるところによりますれば、去る七月二十三日の毎日記者との会見において、和田長官は七、八、九月の当面の食糧危機のくぐり抜けに成功することが安定への第一歩であり、この食糧危機をもちこたえれば、新價格体系も何とか崩れずに済むと述べられておる。しかし、私をして言わしむるならば、かかる考え方こそ官僚的である。和田長官御自身はどうであるかわからないが、
國民は食わなければ生きていけないのであります。食うためには、どんなことでもする。たけのこ
生活くらいは朝飯前であります。
從つて、安本長官の考えられた七、八、九月と
國民が生き抜くということは、頭の中で観念的にむりにでつち上げた新價格体系が崩れずに済むということではなくて、逆説的に言えば、崩れることによ
つて國民は生き抜き得るのであります。(
拍手)されば、
國民が今日まで
さいわいに生き抜いて來たということは、新價格体系がすでに無
意味と
なつたということ、また同時に新價格体系のもとで
國民が片山
総理の要求する
耐乏生活の限界点にすでに達した事実を証明するものにほかなりません。(
拍手)
和田長官のかかる官僚的な、観念的なものの考え方によ
つて、なおこの先進んで片山
内閣の一切の
経済施策が押し進められるものといたしますれば、
國民生活は遠からずして破壊し盡されるのである。和田長官にと
つては、
國民生活そのものよりも、人間心理が大きな作用をもつ。
経済の実際から遊離した、机の上で自分たちが勝手につくり上げた子供でもある新價格体系の方が、はるかに大事であるとお考えのようであります。(
拍手)
次に千八百円ベースの問題について伺いたい。和田長官は、民間企業の
賃金水準をも官公吏の千八百円ベースまで引下げなければならないと言明されておるようであります。事実、このようなことができるものであるかどうか。今日すでに新聞紙に報道されておるごとく、これが維持されないところの事実が数々と
説明されておることを御承知と存じます。責任のある御
答弁を願わなければならぬのは、和田長官のかような言明に反して、西尾官房長官及び米窪労働相は、千八百円べースの維持が不可能であると、これが再考を言明されておるようであります。この点について西尾長官、米窪労働相の所見を伺いたいのでありますが、今日はお見えにな
つておりませんから、これまた
総理大臣の御
答弁を願いたいと思う。またかかる対立する見解を
総理大臣はいかなる線で調整されようとするか、御
答弁を煩わしたい。
千八百円ベースで労働者が食えないことは、すでにわかり切つた事実である。長官といえども否定できないと思う。失礼ではあるが、もし長官の生計費がこのべースで賄われておるとすれば、私はこの点に関する私の
質問を撤回いたします。しかし、和田長官及びその家族の方も同じ人間である以上、このべースでその生計を賄い得られるものではないと私は確信する。もちろん、すべての
國民が満ち足りて食うということは、諸
條件のまつたく変化した
敗戰日本経済のとうてい
負担し切れぬところであろう。ここに
耐乏生活の要求される根拠もまたあるのでありましよう。
しかし、たとえばこのベースが形式的に維持されておるものとしても、これではどうしても食えないということが嚴然たる事実である以上は、この維持が不可能であるということも
経済法則的必然である。けだし、これを強いて維持するとするならば、
生産者そのものの基底である労働力の再
生産は不可能となり、
從つて、社会全体の再
生産は破壞されてしまうのである。このことはわかり切つた自明の理であります。千八百円ベースが維持できないとすれば、これが改訂をするより仕方がない。しかし、これは和田長官の政治的責任の問題である。
和田長官が新
物價体系を作成し、千八百円ベースを設定されたのは、これを堅持する自信と確信とをもたれてのことと思います。しかして、これを堅持することによ
つて日本経済再建の足がかりをつくり上げられる意図であつたと考えられます。同時にまた新
物價体系に対する千八百円ベースによ
つて、労働者の
生活も少くとも最低線において保障されるという確信の下に、かかる重大なる施策を断行せられたものと確信をいたします。しかるに、かかる確信がすでに事実によ
つて覆えされたことは、今や明らかな事実であります。
しかも和田長官は、基準
賃金に関する民主党代議士の小川君の
質問に対しまして、次のように答えられております。誤
つて解することをおそれまして、速記録によ
つて申し上げます。「私はこの四百円の黒字が出ると言いますることは、これは一面におきまして、やはり
生産を殖やし、
やみを撲滅し、また通貨面からくる
インフレーションを阻止して、あらゆる
努力をすることによ
つて、労働者の
生活が
努力次第で樂になるということを申し上げたのでありまして、
日本の
生産そのものが今のような程度に止ま
つておりまする限り、どういう
議論を繰返してみましても、
國民の
生活は楽にならないのでありまして」云々、和田長官はかくのごとく述べておられまするが、これは自分の作成した
政策に対する実に驚くべき無責任と確信の欠如とを露呈するものであることは疑いません。
生産の
増強といい、
流通秩序の擁立といい、單に
國民を引きつける政治的標語として用いたにすぎない。そこには、これが
実現に対する何らの確信もなく、また單なる推量と希望的見解を土台として、昨年の労働者の家計の
赤字や
物價の推移を独断的に、しかもドグマに今年もまた同じであるという、まことに心もとない架空の
状態を仮定して勝手につくり上げた新價格体系と千八百円
賃金ベースを押しつけようとすることは、政治家としてまことに驚くべき無鉄砲な態度と言わなければならない。(
拍手)
しかも、その施策の失敗の責任を暗に
國民の不
協力な態度に轉嫁しようとするにおいては、何人も許し能わざるところであります。私が和田長官の政治的責任を追究する
ゆえんは、まさにここにあるのであります。千八百円べースはすでに実質的に破綻を示しており、しかも、これを強行的に維持しようとすることは再
生産の基底を破壊するものであるとともに、その前に捨身の全面的な労働攻勢を覚悟しなければならないであろう。かくては、さらでだに脆弱な
日本経済は破滅を免れない。もちろん、千八百円べースを改訂してみても、
インフレがますます進行すれば、遅かれ早かれその新しいベースも維持できなくなることは言うまでもございません。
從つて、
インフレの根源を断ち切らなければ、千八百円べースの改訂も無
意味なものとなる。
しかるに、現
内閣は
インフレの根源の芟除について何らの有効な
対策も打
つてこなかつた。現在もそれに対する何らの
準備をもち合わせないかのごとくであります。組閣当初すでに行政整理を問題とし、その緊急
対策八項目の中に企業の整備、合理化をうた
つておるものの、組閣以來六箇月を経た今日、なおその
準備さえもなされていない。二十二年度
追加予算編成以後の新事態に対應する必要に迫られて、ようやくここに企業及び行政の整理を問題として取上げるに至
つたのである。これをだらだら、なしくずし的に行うようでは、その実効は期待できない。すべからく、その開始の時期及び程度、完了の時期をも明らかにされたい。
最後に、傳えるところによりますれば、從來の
経済政策の破綻から、
追加予算に伴う
財政インフレ激化への懸念に対処して、
政府の一部に
政策の轉換が意図されておるとのことであるが、もししかりとすれば、その轉換の方向を明らかにしていただきたい。もし、現
内閣の從來の方針と態度からして、官僚統制の一層の強化にすぎないものならば、われわれは断固として反対する。
強度の軍事的、官僚的統制によ
つて、
國民の自主的な企業家精神、自主的な労働意欲が圧殺し去られたことは、すでに戰爭中の
経済統制においてわれわれの体驗済みのことであります。また現
内閣による新
物價体系から
流通秩序の
確立、
資金調整への一連の官僚統制の強化によ
つて、
インフレは激化し、
國民の
生活は一段の窮乏
状態に追いこまれ、さらに一般企業も、
公定價格の大幅引上げに伴う事業
資金の急増と
資金統制の強化に狹撃せられて、異常な金詰りに直面し、
産業活動の萎縮、沈滯はようやく著しいものがあります。しかもなお
政府は、
追加予算に伴う新事態への対処に藉口し、千八百円ベースの維持、企業の整備に名をかりて、その実は、この機会に企業の全面的管理にも行かんとする意向をも
つておるのではないか。この点に関する和田長官並びに
商工大臣の責任ある御
答弁を願いたいと思います。