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1947-11-05 第1回国会 衆議院 本会議 第54号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十二年十一月五日(水曜日)     午後二時九分開議     —————————————  議事日程 第五十三号   昭和二十二年十一月五日(水曜日)     午後一時開議  一 國務大臣演説     —————————————
  2. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 諸般の報告をいたさせます。     〔参事朗読〕  去る十月三十一日以後委員会付託された議案は次の通りであります。  昭和二十二年度一般会計予算補正(第六号)  十月三十一日 予算委員会付託内閣提出郵便法案  十一月一日 通信委員会付託 昭和二十二年度一般会計予算補正(第七号)  十一月一日 予算委員会付託内閣提出)赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律案  十一月四日 厚生委員会付託内閣提出参議院送付農地開発営團の行う農地開発事業政府において引き継いだ場合の措置に関する法律案  十一月五日 農林委員会付託     —————————————
  3. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) これより会議を開きます。      ————◇—————  第一 國務大臣演説
  4. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 大藏大臣より、財政に関する演説のため発言を求められております。これを許します。大藏大臣栗栖赳夫君。     〔國務大臣栗栖赳夫君登壇〕
  5. 栗栖赳夫

    國務大臣栗栖赳夫君) わが國の経済状況は、まさに空前危機に直面しているのであります。終戰以來二箇年余を経過いたしたにもかかわらず、生産は依然として沈滯し、特に鉱工業生産のごときは、戰前の生産額に比し未だ三〇%前後にすぎないのであります。食糧不足は絶えず國民生活を圧迫し、生産活動を阻害しております。他方、かかる生産の不振に反し、通貨は毎月膨張の一途をたどり、日本銀行券は本年一月末の一千億円から、十月末には千六百七十六億円に達しておる次第であります。この生産の沈滯と通貨膨張との結果、物價高騰を続けて、本年九月における消費財やみ價格は、昭和十二年七月に比して二百数十倍に達し、また東京の生計費は、すでに昭和十二年の六、七十倍に増嵩し、國民はいよいよ深刻な困窮状態にあえいでいる次第であります。物價高騰はまた企業採算を困難ならしめ、これを救済するために、補助金赤字金融、製品の價格改訂等方法をとろうといたしますれば、それ自体がインフレーションを拡大する結果となるのであります。さらに中央及び地方財政についても、その歳出膨張を続ける一方、これを賄う新財源はまことに乏しく、しかも現在租税の滯納は相当巨額に上り、財政建直しについては、今日まさに重大な岐路に立つものと申さなければならない次第であります。  かかる空前経済危機を克服するには、もとより通貨面対策のみをもつてしては、とうてい成功を望み得ないのでありまして、生産、輸送、労務等物資面その他の諸施策が、総合一体となつて強力に実施されなければならぬのでありまして、これにより生産面の好轉することが、危機突破にきわめて重要な意義をもつと申さなければならない次第であります。しかして、かかる経済総合対策の一環たる財政金融施策は、通貨面におきましては、インフレーション促進の要因を根絶するために中央及び地方にわたる健全財政健全金融との方針を堅持し、その基盤をなす國民資本の蓄積に全力を盡しますとともに、さらに、その限りある資金國民生活の安定、重要生産振興等経済再建のため効率的に投下すること以外にはないのでありまして、今次補正予算編成も、またこの線に沿つて行つた次第であります。  すなわち、歳入不足を市場の消化能力を超えた赤字公債で賄いますならば、この面から生ずる通貨増発インフレーションを激化することは必至であります。しかも、財政赤字が引き起こしましたインフレーションは、企業家計との赤字の原因となり、さらに企業家計との赤字が反轉して財政赤字を拡大するというように、赤字の循環が通貨膨張物價高騰との原因となり結果となつて、遂には最惡の事態に立ち至るものと申さなければなりません。從つてこの危機の突破は、断固として財政赤字をなくすることから始めねばならぬのであります。(拍手)殊に、さき貿易再開をみたわが國にとりましては、今後講和会議を控え、國際的な援助を期待するためには、健全財政確立し、國際信用を回復することが欠くべからざる前提条件であります。從つて收支均衡を得た赤字なしの予算が第一の目標でありまして、この方針こそ、インフレーション破局化を回避するために必要な最小限度の、しかして最大の目標として、われわれが最も努力を傾倒いたしたところであります。  次に第二の点といたしまして、單に予算面赤字を消すと言うだけに止まらず、財政企業家計を通じ、國民経済全体を総合的に把握して、その再生産に寄与し、経済再建に資するとともに、國民生活安定確保を期する予算たらしめなければならぬのであります。もつとも、一般会計特別会計中央財政地方財政とは、密接不可分関係にあるのでありまして、一般会計において予算均衡をはかり得ましても、特別会計あるいは地方財政において收支均衡を失うことになりますならば、その面からインフレーションが促進せられますので、政府といたしましては、これら各財政を通じ、全体として実質的に健全財政確立するよう最善努力を拂わねばならないのであります。これがため特別会計におきましては、鉄道、通信等企業会計につきまして独立採算制原則を建前といたしますとともに、今後一層経営合理化に努めたいと考えます。また地方財政につきましても、経費の節減に格別の努力を拂うとともに、歳入増徴の途を講ずることを要請し、万やむを得ず財源公債にまつ場合にも、市場消化が可能な額に止めることといたし、なお將來は、地方財政が独立し得るよう根本的に制度その他を檢討するつもりであります。  昭和二十二年度予算は、昨秋から本年初頭にかけまして編成されたものでありますが、その当時と現在とでは、財政の基盤をなす経済的、社会的條件相当著しい変化を得るに至りましたので、この間の調整をはかることが補正予算提出のおもな理由であります。すなわち、昨年二月金融緊急措置令実施に伴い、物價賃金の安定をはかるため物價体系が定められましたが、その後インフレーションの進行により、從來公定價格実情に即せぬこととなりましたので、本年七月、政府経済緊急対策の一環といたしまして、物價賃金との惡循環を切断し、國際貿易再開に備え、できる限り價格系列を整えるため新物價体系を制定いたしましたような次第であります。その結果、昨年十月頃に比べますと、物價は二倍半ないし三倍、賃金は千二百円水準から千八百円水準へと増嵩したのでありまして、かかる物價水準の改訂に伴い、相当巨額歳出追加が必要となつたのであります。さらに、経済緊急対策実施による流通秩序確立及び企業経営健全化に伴う失業対策貿易再開による経済体制の整備、東北地方関東地方等水害対策、その他本予算編成当時予測しなかつた事情変化に対処いたしまして施策の万全を期するためにも、また新たな予算上の措置を必要といたすに至つたのであります。從つてこの際、当初予算とも併せ全面的かつ徹底的に檢討を加えまして、ここに昭和二十二年度一般会計補正予算を作成いたしましたような次第であります。  以上の理由により編成いたしました昭和二十二年度一般会計予算補正におきましては、第一号から近く提出いたしまする第八号までを通じ、歳入歳出ともに九百二十一億六百余万円でありまして、本予算と通計して歳入歳出ともに二千六十六億千余万円と相なるのであります。しかして、右の補正において当初予算に計上した公債金收入をも普通歳入により賄うことといたしましたので、年間を通じて形式的にも実質的にも歳入不足のない予算編成を見るに至つたのでありまして、これは多年臨時軍事費との純計において歳入の五〇%以上を公債財源に依存し來つた我が國の財政にとつて、まさに画期的のものと言わねばなりません。なお今次補正予算編成に際しましては、財政法公債財源で賄うことを認めておりますところの公共事業費及び政府出資金につきましても、その財源普通歳入によつて確保し、さらに当初予算についても再檢討の結果、人件費物件費補助費等の全般にわたり、眞にやむを得ぬものを除いて、おおむね予算額の一割程度予算上減少するため、別途予算補正第八号を提出することといたしたのでありまして、健全財政確保に全力を傾けた次第であります。  歳出のおもなる項目について御説明いたしますと、まず終戰処理費であります。これは本予算賠償施設処理費を含めて二百七十億円を計上したのでありますが、当時は、住宅新築計画その他について未確定な事項が多く、正確の積算が困難でありましたところ、その後当初の見込み以上に計画量増加し、また公定價格引上げに伴い積算單價相当著しい改訂を生じた等の事情に基きまして、巨額予算追加を必要とするに至りましたので、あらゆる角度から愼重に檢討を加えるとともに、関係方面とも再三再四折衡を重ねました結果、ここに三百九十億円の追加を計上することといたしたような次第であります。もつとも、本経費の当初予算中に含まれました賠償施設管理保全に要する経費十七億二千七百万円を、賠償施設処理費の一部として整理するため修正減少いたしましたので、今次追加を加えて本年度終戰処理費は合計六百四十億七千三百万円と相なるのであります。政府終戰処理費の支出の適正を期するため、監査制度確立入札制度採用等努力してまいつておるのでありますが、関係方面におきましても、不要不急調達要求を極力抑制するとともに、本年九月十二日附をもつて政府支出の節減に関する覚書を寄せ、政府の行う調達は必ず公定價格を嚴守するよう要求されておりますので、この趣旨に副つて公價調達の嚴守を確保し得るよう法的措置を講ずる等、さらに格段の注意と努力とを傾注するつもりであります。なお賠償施設処理費は、さきに述べました通り、本予算における終戰処理費賠償施設処理費十七億二千七百万円を修正減少し、同額を本費に計上するとともに、本年度中に実施を予想される撤去施設の解体、梱包、輸送等に要する経費と、管理費用物價・労賃の値上り等による増加額とを合わせて、二十二億七千三百万円を追加計上いたしましたので、総額四十億円と相なるのであります。  次に、公共事業費の当初予算額は九十五億円でありましたが、今次補正により五十二億四千六百余万円を追加計上いたしましたので、本予算と通計して百四十七億四千六百余万円に上ることと相なりました。既定費追加を極力圧縮したため、事業量は当初の計画に対して相当の減少を示し、かかる建設的な費目を十分計上できぬことは遺憾でありますが、所要資材供給力との関係もあり、この程度の増額に止めるのやむなきに至つた次第であります。  價格調整費は、当初予算におきましては、食糧管理特別会計への繰入れを含めまして百六億二千八百余万円を計上しておりましたが、今次補正において百五十八億円を追加し、当初予算より通計して二百六十四億二千八百余万円と相なるのであります。この追加は、新物價体系の制定に伴い基礎物資價格價格安定帯の限界まで引上げることといたしましたので、石炭・鉄鋼・銅・鉛・肥料等物資について、價格調整補給金増加を要する結果となつた次第であります。  次に、失業手当及び失業保険制度の創設、失業対策関係事務機構整備等について所要の経費追加いたしましたのは、経済緊急対策実施による流通秩序確立及び企業経営健全化に伴う失業対策について、新たな構想のもとに万全の措置を講ずることといたしたためにほかならぬのであります。  政府事業につきましては、極力経営合理化をはかり、独立採算性原則を建前とすることは、さきに一言したところでありますが、國有鉄道及び通信事業の両特別会計におきましては、すでに相当歳入欠陷を生じており、今ただちに事業料金引上げによりこれを補填することが困難でありますので、一般会計普通財源をもつて、両会計損益勘定に十一月以降生ずる歳入欠陷を補給するため、鉄道事業に対しては五十億円、通信事業に対しては二十五億円の繰入れを計上いたしたような次第であります。もとより、今回の措置はきわめて臨時例外的の措置でありまして、今後両会計とも收支の改善をまつて、右の金額を一般会計へ返済する予定であります。なお特別会計への繰入れは、このほか大藏省預金部特別会計への繰入れ十億円を含めて合計八十五億円を政府事業再建費に計上いたしたような次第であります。  次に、政府職員の給與が本年一月にさかのぼつて、平均千二百円水準から千六百円水準引上げられ、さらに七月以降千八百円水準に改訂されましたこと等によりまして、政府職員待遇改善費として五十四億七千九百余万円を追加計上いたしました。  なお、七月以降における東北地方関東地方等の水害による災害救助費として、四億一千余万円を追加いたしております。  次に、この緊急やむを得ない経費増加をいかにして賄うかにつきましては、健全財政の大原則から、極力財源普通歳入によることといたし、増税と專賣收入増加に訴えたような次第であります。  まず租税におきましては、財政需要の飛躍的な増大に対処いたしまして増收をはかるとともに、経済諸情勢の推移に應じ、國民租税負担の公正を期することを目標といたしたような次第であります。すなわち、今次の税制改正にあたりましては、直接税のうち租税の中枢たる所得税については、國民所得分布状況変化國民生活実情等に鑑み、勤労大衆その他少額所得者負担を軽減するため、五十一億円の減收にもかかわりませず勤労所得及び扶養親族に対する控除を相当程度引上げました反面、いわゆるインフレ利得者等一定額を超える所得者に対し負担を重課するため、七万円を超える所得に対する税率を引上げることといたしました次第であります。  間接税につきましては、酒税については十三割程度清涼飲料税については、二十割程度サツカリンあめ等に対する物品税については十割ないし四十割程度増徴を行い、また入場税については、その消費の性質、財政需要等に鑑み、五割程度引上げることといたしております。また戰災者と非戰災者との間における犠牲の不均衡を是正するとともに臨時緊急な財政需要に應ずるため非戰災者特別税に創設して、戰災を免れた家屋及び動産について一回限りそれぞれ家屋賃貸價格の三倍程度特別課税を行うことといたしました。  今次の補正予算に計上した租税收入及び印紙收入総額は六百三十七億二千六百余万円、当初予算と通計して千三百三十二億四千余万円に上りますが、その内訳は、直接税八百九十五億円、間接税四百二十一億円、その他十七億円でありまして、直接税と間接税との比率は、今次予算と当初予算とを通算して七対三となつております。すなはち、直接税が七、間接税が三であります。間接税の割合は必ずしも大きくなく、しかも間接税増徴については、極力必需品を避ける等できる限り大衆課税を避けるように努力いたしました次第であります。しかしながら、すでに國民生活一般に著しく、窮迫を告げている実情に顧みますならば、大衆租税負担も決して軽くはないのであります。  他方、総歳入租税の占める地位は、追加予算のみで六九%、当初予算より通算して六五%というように、決定的に重要となつているのでありまして、租税完納の成否がまさに財政收支の運命を決定するかぎとなつておるのでありますから、もし現在の納税状況が改善されぬ場合には、わが國の財政は甚大なる脅威にさらされることを覚悟しなければならぬと思うのであります。しかも、國民所得分布状況は時々著しい変化を示しておりますので、新たな税源を捕捉し、インフレ利得者に対する課税を徹底して、租税負担の公正と租税收入確保とを同時にはかるためには、税務機構を拡充強化し、税務職員待遇改善をはかるとともに、税務の運営方法を刷新し、脱税の摘発、処罰の強化、第三者通報制の活用、滯納処分促進等により、税收の充実に努めることが最も肝要と考えられ、この点につきましては、十一月を期し全國的に活発な一大納税運動を展開し、國民納税に関する認識の普及徹底に努める所存でありまして、全國民財政及び租税に関する深き御理解と御協力とを期待しておる次第であります。 次に官業及び官有財産收入は、当初予算におきましては二百五十八億六千七百余万円を計上しておりましたが、補正により百六二十一億六百余万円を追加し、通計して五百十九億七千三百余万円となるのであります。  しかして、補正額のうち專賣益金は二百五十九億六千二百万円であります。專賣益金については、たばこ專賣において画期的な増收の方途を講ずるため、自由販賣品値上げ自由販賣品供給数量増加とを実施することといたしました。すなわちたばこ値上げにつきましては、これを自由販賣品たるピース及びコロナのみに止め、配給たばこ價格はすえおくこととし、大衆負担増加させないように努めた次第でありますが、他面自由販賣品供給数量増加するため、光及び金鵄の製造を今後一時中止してピースの増製をはかるとともに、新たに新生を製造し、これを自由販賣するのを余儀なきに至りましたので、これらの自由販賣品供給数量増加のため、やむなく家屋配給量を削減しなければならなくなつた次第であります。  なお雑收入等につきましては、今次補正により七十一億四千六百余万円を追加し、当初予算より通計すれば二百十三億九千六百余万円となるのでありまして、このうち價格差益納付金は、新物價体系実施に伴い六十億六千六百余万円を追加し、通計七十一億四千八百余万円となるのであります。  さて、以上補正予算の内容について概略御説明いたしたのでありますが、さきに述べました予算編成方針が今次の補正予算にいかに具現されたか、また今次の補正予算がわが國民経済に対していかなる影響を與えるかについて、次に少し檢討してみたいと存じます。  今次の補正予算は、收支均衡において成功を見たのでありますが、もちろん、そのためには相当の無理も忍ばねばならなかつたのであります。すなわち、多数の企業家計とがすでに赤字に悩んでおる今日、新たに九百二十一億六百余万円の財源追加調達して、企業家計とに何らの苦痛を與えずに済ませるということは、はなはだ困難であります。また現在の政治的、経済的難局のもとにおいては、予算國民経済再建國民生活の安定を期待することも容易でありません。さりとて、企業を育成し家計を保護するため、健全財政主義を放棄して通貨増発を訴えるならば、端的にインフレーションを破局に導き、結局企業及び家計をも破壊するものであることが明瞭であります。現在與えられた條件のもとにおいては、いかなる施策をとろうとも、所詮何らかの無理を生じ、いずれかの部門へ圧迫が加わることは避けがたいのでありますが、われわれといたしましては、特に勤労者の立場を愼重に考慮した今次の予算が、比較的に無理の少い、圧迫の軽い、最善の方策であると信じているのであります。各位におかれましても、この辺の事情を御了解願います。  まず、本年度國民所得総額を概算九千億円と推定いたしますれば、本年度予算総額二千六十六億千余万円は、その約二三%に当り、國民所得の内容が著しく惡化しておる上、財政資金としてこのほかに特別会計分が加算される事情をも考慮に入れますと、財政の比重がとみに重加してまいつたことは否定できません。財政資金のほか、さらに生産を増強し國民経済を復興するために、産業資金として必要な額も相当に上るのでありましようし、國民最低生活を維持するためにも相当資金が必要と考えられますので、本年度第二・四半期までの資金需給計画の実績を見ても、相当額通貨増発を見ている状況に顧みますれば、今次の補正予算によつて財政需要が一段と増大される結果、今後國民所得増加し、納税成績を向上し、貯蓄を増強することに、從來に比し格段の努力を傾けねば、インフレーションの怒濤を乗り切ることが困難となるのであります。  今次の補正において均衡予算編成に成功したため、直接通貨増発によつて赤字を補う必要はないのでありますから、通貨増発物價騰貴とは、直接には財政面から生じないものと予想されます。元來この補正予算は、新物價体系による本予算の修正を中心としておりますが、右に述べた理由によつて明らかなことく、この補正予算は直接に新物價体系を動揺せしめるようなものではなく、賃金について千八百円ベースを破壊せしめるものでもないと信ずるのであります。すなわち本補正予算においては、租税増徴についても能う限り大衆課税を避け、專賣益金増收についても同樣の考慮を拂うほか、政府事業料金引上げを回避する等、物價騰貴に波及する要素を極力排除することに努めるとともに、勤労所得者及び扶養親族を有する者の負担軽減を断行する等の措置をとつたのでありまして、今後配給物資増加による実質所得の充実を確保いたしますならば、追加予算の施行によつて賃金水準の維持を危殆ならしめるごときことは起らないと存じます。もちろん、このためには政府並びに國民最善努力を拂うことを前提としているのでありまして、勤労によつて國民所得を増大し、忍苦耐乏の生活によつて納税と貯蓄に邁進する以外には、この空前の危局を突破し、再建の礎石を確立することはできないのであります。現下世界経済は、あげて物資の欠乏と物價高騰に悩んでいるのでありまして、戰勝國においてすら乏しきに耐えてその打開に敢闘しており、合衆國をはじめ連合國が、みずからの食糧を節約してわが國を含む窮迫した諸國を救うていることを考えますならば、われわれはこの決意を一層固くせねばなりません。  さて、われわれは健全財政目標として予算編成に苦心を拂つたのでありますが、刻下のインフレーションを克服するためには、金融政策もまた健全金融方針を堅持することが必須の要件であります。財政を引締めた結果が金融面に轉嫁されぬことになれば、健全財政は單なる計数の遊戯にすぎないのでありまして、健全財政健全金融とが車の両輪のごとく相伴うことにより、初めて通貨増発の克服は可能となるのであります。從つて現下金融政策としては、この健全金融方針に則り、財政資金産業資金とを蓄積資金の範囲内で賄うことが必要であります。しかして、さらに産業面における重点主義に呼應して、限られた蓄積資金緊要産業に対し重点的に集中し、重要産業生産力を増強して経済再建への途を開くことを要諦とすべきでありまして、決して不要不急消費的部面に投じ、あるいは積極的な生産も合理的な経営も行つていない企業に対し赤字補填のための金融を行うごときがあつてはならないのであります。去る三月、重点金融目標金融機関資金融通準則を制定し、さらに七月からこれを強化する等の措置を講じて、最重点産業に対しては優先的に資金を供給し、貿易金融についても、貿易スタンプ手形制度その他によつてその円滑化をはかりますとともに、他面中小企業につきましても、その特殊性に鑑み、これに対する金融その他緊要なる金融の適正、円滑化に努めたいと考えておる次第であります。  復興金融金庫の融資が現下産業金融上占める地位は、日を逐うて重要性増加し、基礎産業等に対する必要資金の供給に遺憾なきを期しておるのでありますが、今回の補正予算において、復興金融金庫財源として四十億円の政府出資金を計上するとともに、復金債券の発行にあたつては、これが消化につき從來の不成績を改善するよう、できるだけ努力いたし、各種金融機関共同引受等方法によりまして、金融面から生ずる通貨増発によつて健全財政を無意味ならしめることのないよう注意したいと考えるのであります。  中央地方財政を通じ、極力赤字の発生を抑止するに努めておりまするが、やむを得ず公債を発行する場合におきましても、全額市場消化をはかることが必要でありますので、公債の発行は原則として公募による方針を堅持いたしますとともに、さきに一言いたしました融資規制により、一定割合の融資基準限度を超える額は、公債の消化等財政資金に振り向けることといたした次第であります。これに伴い、最近における金利高騰の傾向に鑑みまして、さきに國債利回りを金融機関における採算点におくことを目途といたしまして、一般的に金利水準を改訂いたしました。この新利回りによる最初の國債は、去る九月二十五日、金融機関の直接引受及び有價証券業者を通ずる公衆消化の方法で発行し、十億円全額の消化を見た次第であります。ここに市場消化による國債発行の第一歩を踏み出したのでありますが、さらに引続き第二回の國債発行が去る十月二十五日行われ、これまた各方面の協力により、消化総額十三億円に達する好成績を収めた次第であります。  今回提案にかかりますところの補正予算の施行により、財政資金の需要額を一層増大するとともに、産業資金もまた最近著しく需要の増嵩を見まして、これら総体の資金需要額は巨額に上ることが予想されますので、健全財政健全金融の大原則を堅持するためには、資金の蓄積が必要と相なるのであります。政府は、さきに民間貿易再開を契機とし、九月に一大國民貯蓄運動を展開したのでありまして、最近の自由預金の増加は、七月は百十九億円、八月は百四十七億円、九月には百七十九億円の増加という好成績が見込まれておるのでありますが、この資金需要の増嵩と封鎖預金の引出しとを考えますならば、すでに日本銀行券膨張は明らかに見えます通り、未だこれで十分とは言えないのでありまして、今後さらに努力を要する次第であります。先般本院におかれましては、通貨安定に関する共同決議をもつて、この点に関する絶大な理解と協力とを示されたのでありますが、これに対し衷心感謝いたしますとともに、國民各位の一層の協力をここに切望いたす次第であります。  しかして、貯蓄増強について最大の前提となるものは、國民各位の通貨に対する信用であります。今回の追加予算編成にあたり健全財政主義を堅持したことも、ひつきよう通貨に対する信用を維持増進せんがためにほかならないのであります。一時巷間に流布された新円再封鎖や、いわゆる平價切下げのごとき措置は、通貨に対する信用を根底から動揺させるものとして、絶対にこれを行わないことをここに再確認いたしますとともに、預金の安全性を確保することに格段の努力をいたす決意であります。  私は、國民が最悪の條件のもとにおいても奮然起ち上ろうと渾身の力を惜しまないならば、おのずから希望の道も開けてくることと信じます。去る八月十四日連合軍司令部から発表されました民間貿易再開と、占領下日本輸出入回轉基金の創設とは、われわれの苦闘二箇年余の努力に対する最大の贈り物でありまして、これは過般の連合軍による食糧放出がわが國民生活に大きな安定感を與えたこととともに、眞に適時適切な救済として深甚なる感謝をささげるものであります。  狹小な國土と貧弱な資源の上に育たねばならぬわが國民経済は、対外依存度がきわめて濃厚であり、世界貿易から孤立するがごときことは、元來とうてい考えられないのであります。終戰後わが鉱工業の生産力の回復が遅々として進まなかつた一つの大きな原因が、設備の不足よりも原料等の不足によるものであることを考えますならば、綿花その他の重要原料の輸入がわが國の麻痺した生産力の覚醒に役立つところは、けだしはかり知れぬものがあると言えましよう。しかしこのためには、その輸入資金を調達することがまず必要で、従つて輸出産業の振興が喫緊の要務でありますが、回轉基金の創設は、この意味において貿易の促進に大きな力を與えるものでありまして、われわれは、これを呼び水として、どうしても日本産業の建直し、ひいては日本経済再建を達成しなければならないのであります。  現下経済状況は、しばしば申し上げました通り、未曾有の難局であります。しかし、國際経済への連繋によつて新しい経済再建する明るい希望の途もまた開かれているのでありまして、無限に暗黒の世界に閉じこめられているわけではないのであります。この新日本経済再建こそは、平和的な新日本を子孫に残すためにわれわれ國民のなしとげねばならぬ、忍苦に満ちた、しかし光栄ある大事業であると申さなければならぬと思うのであります。(拍手)われわれは、日本民族傳統の勤勉と忍耐とによつて、必ずやこの事業を成就することを信じて疑わないものであります。  補正予算の提出にあたりまして、現下財政経済問題につき所信を述べた次第でありますが、各位におかれましては、何とぞ政府の意の存するところを御了察の上、速やかに本案に御賛成あらんことを希望する次第であります。(拍手)      ————◇—————  平野農林大臣追放問題等に関する緊急質問(苫米地英俊君提出)
  6. 安平鹿一

    ○安平鹿一君 大藏大臣演説に対する質疑はこれを後回しとすることとし、この際議事日程追加し、苫米地英俊君提出、平野農林大臣追放問題等に関する緊急質問、齋藤晃君提出、平野農林大臣罷免に関する緊急質問、中野四郎君提出、平野農林大臣罷免に関する緊急質問及び林百郎君提出、平野農林大臣罷免に関する緊急質問を逐次許可されんことを望みます。
  7. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 安平君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加させれました。  平野農林大臣追放問題等に関する緊急質問を許可いたします。提案者苫米地英俊君。     〔苫米地英俊君登壇〕     〔「追放じやない」と呼び、その他発言する者あり〕
  9. 苫米地英俊

    ○苫米地英俊君 内閣不統一の責を問われて、一閣僚が罷免させられた…。     〔「発言待て」と呼び、離席する者あり〕
  10. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) お席に着かれんことを望みます。
  11. 苫米地英俊

    ○苫米地英俊君(続) 内閣不統一の責を問われて、一閣僚が罷免させられたこの事柄は、至極簡單明瞭であるにもかかわらず、一たびこの報が傳わるや、世間には大センセーションを巻き起こしているのであります。そこには何らか深い理由がなければならない。この問題を…。     〔発言する者多し〕
  12. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 靜粛に願います。
  13. 苫米地英俊

    ○苫米地英俊君(続) この問題をめぐる閣内の対立、社会党内の紛爭のごときは、われわれの直接関知するところではありません。しかし、この問題の投げた暗い影、政治の混濁、國民に與えた疑惑、國際関係に及ぼす影響等については、なおざりにいたすことができないのであります。(「その通り」)憂國の情がこれを許さないのであります。  罷免の理由は、平野農相の言動が内閣の不統一を來したというにあるそうでありますが、しかし、事がここに至るまでの経過を見ると、そこにはすこぶる不透明なものがあり、これは政治的の陰謀であるということがごとき印象を一般に與えており、また現にさように声高く取沙汰いたされておるのであります。どうしてこのように事件が展開したかというと、それは政治が追放問題を政治的に取扱つたというような感じを國民に與えたところに禍根があるのであります。追放問題をかように政治的に取扱えば、当然の結果といたしまして、政治に対する國民の信を失うことになります。  新聞紙上傳えるところによれば、記者との会談において、西尾官房長官がその談話の中で、平野君は就職の際にすでに資格問題に疑いがあつたのだが、農林行政に必要欠くべからざる人物であるという理由で、そのまま不問に付されたのであるが、今となつてはその理由が明らかに立たなくなつた、そのために欠格問題が浮き上がつてきたのであると、こういう意味のことを述べたということであります。もし、かりにかような話があつたといたしますれば、これは断じて許すべからざる事柄であります。追放のごとき嚴正を要する問題は、正式発表のあるまでは、何らこれに触るべきではないのであります。現に追放には資格審査委員会があり、そこにおいて巖粛に取扱われているのであるにもかかわらず、その決定を待たずして、もしくは内定等の限度においても、これを責任ある人から世間に漏らすというようなことがあつては断じてならないのであります。(拍手)もし、かくのごときことをするならば、これは神聖なる委員会を侮辱するものである。     〔「自由党もやつたじやないか」「いつやつた」と呼び、その他発言する者多し〕
  14. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 靜粛に願います。
  15. 苫米地英俊

    ○苫米地英俊君(続) しかるに、すでに平野農相に対する起訴状が提起せられておるというようなことも巷間に漏らされておる。そして、それを理由にしている。今度は逃れないというようなことを言うたとも傳えられておるのであります。もし、その起訴ということがさようなふうに展開してもよいものならば、ここには西尾長官に対する告訴がはつきり出ておるのであります。しかるに、これが何故に問題にならないのか。これは奇怪千万といわなければならないのであります。     〔発言する者多し〕  追放はきわめて巖粛な問題であります。きわめて巖正に取り扱われるべき問題であつて、毫末も私ごとを挟むべきではありません。ときの政府や政治勢力がこれを左右してはなりません。これは鉄則であります。從來は、この鉄則がよく巖守せられてきたものと信じます。しかるに、今度の事件でこの点に疑惑を國民に懐かしめ、政府に対する信を失わせ、追放ごとき嚴粛なものでさえ政府当局が自由に左右し得るというならば、その他の問題は推して知るべしという感じを深からしめ、現在政府や官界その他の方面において懐かれているところの疑惑は、あるいは眞実ではなかろうかという点にまで発展させられるおそれなしといたさないのであります。  これに関連いたしまして、林國務相についても追放云々のうわさがちまたに満ちておりますが、これに伴つて奇々怪々のうわさが耳にいたされるのは、まことに心外に存ずる次第であります。これでは、新憲法下、基本人権の擁護の根幹がゆり動かされることになり、ひいては文化・平和國家建設の高い理想も吹き飛ばされてしまうことになる恐れがあります。そればかりでなく、昨今傳えられるところによると、追放のわくが新たに拡大せられるから、それぞれの何某、何某等の人々は追放必至であるなど放言してはばからない向きが多々あるやに承つております。これは戰時時代において、いわゆる反戰主義者を追放するために、次々とあるねらいをもつたわくを拡げ、法律をこしらえて罪に落としたと同じ行き方ではありませんか。     〔「ノーノー」拍手〕  閣内の統一は、すべて首相の責任に属しております。從來閣内不統一の際は、政府は責任を負うて挂冠するのを例としたのであります。およそ閣僚たるものは深い信念に生き、その所管事項については強き主張を堅持するのが政治責任であります。しかるに、その統御を誤り、閣内不統一を來したからというて、ただちに首相が罷免権を発動するがごときは醜態であります。この醜態を暴露したことについて、首相はいかなる責任を感じておられますか。新憲法下、首相の罷免権が発動せられたのは今度が初めてであります。なるほど、法律上は自由に首相が罷免権を発動し得る。しかし、政治的には、容易にこれを発動すべからざる理は明らかであります。もし、みだりにこの罷免権を濫用するがごときことが許されるならば、たちまちに首相独裁政治、ファツショ政治が成立するに至ることは明らかであります。  今や重大なる供出最盛期を控えて、專任農相を置くことがなく、きわめて繁忙なる首相がこれを兼任せんとするがごときは、國民生活を軽視するもはなはだしいものであり、國民は不安の念に駆られるのであります。その不安たる、單なる不安ではなく、政治に直面するところの不安であります。この一事をもつてしても、政府の農政に対する責任感の稀薄を暴露しておることが明らかと信ぜられるのであります。政府國民の信頼あつてこそ行政府の職責を全うし得るのであります。政府の信を全く失墜せしめるがごとき醜状を満天下にさらした今回の事件について、首相の所感、責任感につき、われわれは巖粛にこれを問い質さんとするものであります。(拍手)
  16. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) ただ今苫米地君の発言中、事実と違つておる言辞があるとのことでありますから、議長において適当に処理いたすことといたします。     〔「内容を言え」「ただちにやれ」「取消させろ」と呼び、その他発言する者多し〕
  17. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) それは西尾國務大臣の起訴というお言葉であります。おそらくこれは起訴の「起」と告訴の「告」とが間違つたことと思うのであります。字句の見解において、十分取調べてまた御報告いたします。  なお、緊急質問の題名につき誤りがあるようでありますから、これまた議長において訂正いたしておきます。さよう御承知を願います。     〔國務大臣片山哲君登壇〕
  18. 片山哲

    國務大臣(片山哲君) ただいまの苫米地君の御質問の前提及びあげられましたる事実につきましては大分相違いいたしておるのでありますから、平野前農相の辞職を要求いたしました経過につきまして、私より御報告いたしたいと思います。  平野農林大臣に対しまして私が辞職をしてもらいたいということを要求いたしましたる理由は、告訴、告発の問題でもありません。また資格に関する問題でもありません。内閣はこの時局を突破いたしまするために、重大なる決意をいたしまして政策の遂行に邁進いたしておるのであります。この間平野前農相は、内閣の立てておりまする方針を違つておりまする言動を最近されたのでありまするから、内閣に協力されない、非協力という理由をもちまして辞職を求めたのであります。これに対しまして、平野君は辞表を出さないということでありましたから、万やむを得ず、最後の手段といたしまして罷免権を発動いたした次第であります。     〔発言する者多し〕
  19. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 靜粛に願います。
  20. 片山哲

    國務大臣(片山哲君)(続) この間におきまして、告発問題はあることはあるのでありまするが、これは苫米地君も言われました通り、檢事局が法規に照らし、公正なる立場に立つて処断されることでありましよう。また資格問題は政府関係なく、中央資格審査委員会が、これまた公正なる立場に立つて考えられることと思うのであります。     〔発言する者多し〕
  21. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 靜粛に願います。
  22. 片山哲

    國務大臣(片山哲君)(続) これにつきましては、大臣といえども、また一般の方といえども、いやしくも資格につきまして疑義がある場合においては、随時中央資格審査委員会が審査を進められることは、至当のことであろうと考えておるのでありますが、これは別の問題であります。辞職を求めた理由にはなつていない、別の問題であることを御了承願いたいと思います。  なお、罷免権を発動いたしましたることははなはだ不適当であるとか、あるいはまた政治的責任を問うと、こういうような意味の御質問がありましたけれども、いやしくも組閣に際しまして政策を遂行するためには、内閣総理大臣の責任において、憲法上許されたる行爲をしなければならないのであります。適当なりと考える人を任命し、不適当なりと考える人を免することは、総理大臣としての当然なすべきことであると私は考えておるのであります。(拍手)  なお申されましたる追放問題に対して新聞の記事に載つておりましたることは、事実と相違いたしております。政府は、気に入らない人であるからといつて、追放を振りかざしてその人を放逐するというような不公明なやり方は断じていたしません。(拍手、「ごまかすな」と呼び、その他発言する者多し)また告発問題があるからと申して、告発を理由にいたしまして辞職を強要するがごときことも断じていたしません。(拍手)この機会にこの問題を明らかに申し上げておきます。(拍手)      ————◇—————  平野農林大臣罷免に関する緊急質問(齋藤晃君提出)
  23. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 平野農林大臣罷免に関する緊急質問を許可いたします。提出者齋藤晃君。     〔齋藤晃君登壇〕
  24. 齋藤晃

    ○齋藤晃君 私は、第一議員倶樂部を代表いたしまして、平野農林大臣罷免に関する問題について質問いたしたいと存ずる次第であります。  平野農相の資格問題につきましては、片山内閣成立の当時において問題になつたけれども、重要な閣僚であるがゆえに一應これを認めるという結果になつて、その後平野農林大臣の行動というものが閣内の対立に拍車をかけるというために、追放が必至の情勢になつたということを、西尾長官が新聞記者團に言明しておりながら、農林大臣が絶対に辞職しないというて強硬なる意見を言えば、ただちに、しかも追放問題は別個として、閣内不統一の理由で罷免したのであるということを言うておるのであります。しかも審査委員会においては、内閣の請求がなければ、五月九日に審査済みであるために審査をせぬと言うておるのであります。もし、かくのごとき事実といたしましたならば、最も巖正なるべき追放問題が、明らかに政爭の具に供されたといわなければならないのであります。(拍手)私は、この件について西尾長官の答弁を求める次第でございます。  なお、片山首相が農相の資格問題については政治的含みをもつてきたと、こう言われたという新聞記事もあるのであります。もし、これを事実といたしましたならば——追放さるべき人物が追放を免れたということがありましたならば、これ明らかにポツダム宣言における占領政策の不遂行という、重大きわまる問題といわなければならぬのであります。鈴木司法大臣は、平野農相の追放につきましては政令の改正をやむを得ないと記者團に語つておるのでございます。政令が特定の個人を対象として歪曲されて濫用せられ、閣内の事情に左右されて運用せられましたならば、まことに國政の前途は暗澹であるといわなければならぬのであります。(拍手)私は鈴木法相が、このたびの追放問題といい、あるいは告訴問題といい、巖正なるべき司法権の発動の上においてまことに疑いを生ずるがごとき現状にあることは、國民として非常に遺憾に堪えないと存ずる次第であります。願わくば、巖正なる司法権の発動について明快なる御答弁を願いたいと思うのでございます。  なお、平野農相の資格問題のみならず、引続いてあるいは林國務大臣、あるいはその他の閣僚においても何らかの疑いがあるがごとき新聞記事がございますことは、明朗なるべき政治の上において、まことに不明朗きわまるものである。現在の民主政治の治下においては、かくのごとき事実を明瞭に御返答願いたいと思うのであります。  この問題は、閣内の不統一と申されておりますけれども、しかし、これこそ閣内不統一にあらずして、これ会党の党内不統一が原因であるといわなければならぬのであります。(拍手)かくのごとき党内の軋轢のために、政局に影響するがごとき重大なる大臣の罷免権を行使するというようなことは、首班政党の資格として、私どもは疑わざるを得ないと存ずる次第でございます。私は、かくのごとき立場においても、この重大政局を担当する、しかも政党の首班として、明瞭に御答弁を願いたいと思う次第でございます。  なお本問題を契機といたしまして、私はかくのごとき正当の反省を促さざるを得ないのでございます。政党は純粹なる主義と主張に集まる眞に固い同志的結合でなければならないのでございます。しかるに党内において、あるいは右、左、中立というような、かくのごときの状態がある。しかも、その弱点をお互いに自党内において暴露するというがごときは、私どもは実に政党の存在を疑うものである。かくのごとき状態を続けて、現在の國政の審議に重大な支障があるというごとき、しかも、政党の面子にとらわれて大政党の態度がかくのごときであるということは、私どもは國政の運用について遺憾にたえないと思うのである。私は、かくのごとき政党が、しかも政党法というようなものによつて小政党を整理しようとするならば、整理されるものは小会派でなくて大政党であると思うのである。私はかくのごとき大政党の反省を促さざるを得ないのである。  しかも臨時議会は三たびも延期せられまして、予算案も未だここに上程審議されず、重大案件が山積して、國民に対する公約がことごとくほごになつておるというようなときに、いたずらに政爭にふけるというような結果は、國民の現在の状態がいかなる姿にあるか。最近において私が見た手紙の中においても、この冬の中においても着る着物がない、五人の子供を抱えて、おそらくは死ぬ以外にはないというような状態を言つておる。かくのごとき惨状にあるではないか。もう國民は怨嗟の声に満ちておるのだ…。
  25. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 質問の範囲を出ないように注意願います。
  26. 齋藤晃

    ○齋藤晃君(続) 私は、かくのごとき状態において、しかもこの度平野農相問題というものが、あまりにも民心を離れるごとき結果に至つたことは、國民の前にまず現内閣が謝すべきだと思うのである。今や國民は、かくのごとき惨状にあるのである。現在わが日本の國は、今まさに國が破れて、そうしてこの重大な敗戰という冷巖な事実にあるではないか。私は、これを思うときにも、現在政党が面子にとらわれて政爭にふけるときではないと思う、私どもは、冷靜な立場において、眞に全同胞に代つて祖國再建のために從わなければならないと思う、このたびの農相罷免問題のごときは、重大なる責任として、もしもかくのごとき問題に確信があるならば、当然あるいは解散も断行すべきである。もしもこれに責任をとるならば、速やかに片山内閣は辞職すべきものであると私は考えるものである。私はかくのごとき立場において、明瞭なる問題の答弁を求める次第でございます。     〔國務大臣片山哲君登壇〕
  27. 片山哲

    國務大臣(片山哲君) 平野君に対しまして辞職を求めたのは私であります。私が平野君に直接会いまして、辞職を求めたのでありますから、私の申し上げておりまする事実が一番正確であると思います。その他の理由としていろいろ傳えられておりますることは、間違いと思います。すなわち私は、内閣の政策を十分に遂行するために支障があるのでやめてもらいたい、こういうことを申したのであります。告訴問題であるとか、あるいは資格問題であるとか、さようなことは、そのときの辞職を求める理由になつていないのであります。これを質問者は混同されまして、追放問題とか、あるいは告訴問題とかを一緒にして辞職を求めたというように前提が述べられましたけれども、その前提が誤つておると思うのであります。私はその意味において、組閣に必要なる人物であるならば任命するのでありますし、また政策を遂行するに必要である人物を任命いたすのであります。しかし、政策を遂行するに支障がある場合においてはこれを免ずる。私の責任においてなすのでありますから、憲法上何ら違法はないのであります。憲法上認められております権限を行使することは、政治上においても正しいことと考えておるのであります。     〔発言する者多し〕
  28. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  靜粛に。
  29. 片山哲

    國務大臣(片山哲君)(続) この意味において、今斎藤君が言われましたように、政党は健全なる発達をする方途を講じなければならないことについては、私も多年考えております。諸君が本國会に政党法を提出せられようとすることに対しましては、私多大の敬意を拂つておるのであります。政党は健全に発達しなければならないということについては、十分考えておるのであります。  また、この問題について総辞職をしろというようなお言葉がありましたが、その意思はありません。     〔國務大臣西尾末廣君登壇〕
  30. 西尾末廣

    國務大臣(西尾末廣君) ただ今斎藤君の御質問の中に、私が平野前農相の追放について発表したということでありますが、それは間違いであります。     〔発言する者多し〕
  31. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  靜粛に願います。
  32. 西尾末廣

    國務大臣(西尾末廣君)(続) 私は新聞記者と時に懇談する機会があるのでありますが、その懇談の機会に、すでに新聞記者諸君の間に非常にいろいろな流説が行われておることを新聞記者諸君から聽きました際に、この点に関しては最近におきまして関係方面より、法律の前には大臣といえども一市民と平等であるべきである、從つて、言論出版に関する資格審査が終りに近づいておるのであるから、この機会に、大臣においてもこの期間において十分審査すべきものは審査すべきである。という注意を受けた事実を述べただけであります。     〔國務大臣鈴木義男君登壇〕
  33. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君) 私に対する御質問の要旨がはつきりしなかつたのでありますが、何か新しくわくをつくることが不都合であるというような御趣旨に聞えたのでありますが、私は別に新しいわくをつくるというようなことを申したのではないのでありまして、新聞記者諸君がいろいろな質問を発せられまして、未だわくにあらざる「皇道」について問題が起つておるそうだが、どうしてそれが追放とかいうような問題に発展する可能性があるかというようなお尋ねがありましたので、そういう場合には、今まで看過せられておつた言論報道機関が新しくわくにはいることがあり得るのである、しかる後問題となるべきものであろうという、研究的態度をもつてお答えをいたしただけであります。さよう御承知を願います。      ————◇—————  平野農林大臣罷免に関する緊急質問(中野四郎君提出)
  34. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 平野農林大臣罷免に関する緊急質問を議題といたします。提出者中野四郎君。     〔中野四郎君登壇〕
  35. 中野四郎

    ○中野四郎君 私は、平野農林大臣罷免に関する件につきまして、片山総理大臣、西尾官房長官、鈴木司法大臣の三君に質問をいたしたいと思います。  昨年以來、有力なる政治家と公職追放令の関係について、しばしば奇怪な事件が起つたことは、諸君大方御了承のことと存じます。名のある政治家が重要の地位につかうとすると、たちまち追放令が発動される。政府はこの追放令を政治的謀略の手段に供しておるのではないか、政敵を暗殺する武器に使用しておるのではないか。これに対して國民は深い疑惑をもつております。これはおおうことのでき得ざるところの現在の事実であります。  かかる折から、去る十月三十日、突如として平野農林大臣の追放が喧傳せらるるや、またかとまゆをひそめましたものは、決して私のみではないであろうと存ずるのであります。私は、片山内閣が標榜する政治の明朗化という一枚看板にきずをつけたくない氣持から、次の四点の疑義に対して片山総理大臣の明快なる御答弁を求めたいと存ずるのであります。  まづ第一に、平野農林大臣の資格問題は、既往においてすでにしばしば問題視せられたところでありますから、片山首相としては平野君を農林大臣に任命するにあたり、特に愼重にその資格を審査した上で、追放令に該当せずと信じて任命せられたはずでありましよう。一部の世間にうわさされるように、片山総理は平野君が皇道会その他の関係で追放令該当の容疑者であることは当初より承知していたが、平野君の利用價値を認めてこれを起用し、資格問題については政治的な含みをもたしてきたのであるというような憶説は、私は同意をしたくないのであります。ただ前述のごとく、当初は追放令に該当せずと信じて任命した平野農相が、今に至つて公職非適格者であるかのごとく政府筋より喧傳されておるとすれば、そういう人物を自己の内閣に入れた総理大臣の不明もしくは資格審査の杜撰に対して、総理大臣として何らかの責任を感じないのでありましようか。もし多少とも責任を感じられるといたしますれば、いかなる形においてその責任をとられるつもりであるか、首相の信念を伺いたいと存ずるのであります。  第二にお尋ねしたい点は、平野農相は供米懇請という時節がら最も重大な國務を遂行するために去る十月二十九日北陸地方に出張し、十一月の四日帰京の予定であつたのであります。ゆえに、もし政府側がどうしても平野農相にやめてもらわなければならぬ理由があつたとしましても、かすに数日の時をもつてして、農相がこの重大使命を果して帰京するのを待つて、農相と懇談の上辞表の提出を求むべきではなかつたかと思うのであります。またそうすることが政友に対する当然の情誼であろうと考えるのが、世間一般の常識であります。(拍手)しかるに、農相が旅に出た翌日、あたかも農相の留守をねらつてやみ討ちをかけたとしか思われないように、突如として、まだ決定したわけでもない農相の追放を喧傳し、その辞職を強要するかのごとき出方をしたから、世間に何となく一種の政治的謀略ではないかという印象を與え、片山内閣の政治の明朗性に不快な疑雲を低迷させたのであります。政治が明朗でなければ、片山首相が口ぐせのように語られる國民精神の作興は、断じて期しがたいのであります。この見地に立つて私は、平野農相の帰京を待たず、一日一刻を爭つて農相の辞職を強要せねばならなかつたという政治上の理由を、明確率直に國民の前に弁明せられることは、民主政治のチャンピオンをもつて任ずる片山総理が進んでなすべき義務であると信ずるのであります。(拍手)先刻來、苫米地君あるいは斎藤君の質問に対して、片山総理は自分の信念をもつて断行したと言われまするが、この政治上の理由、いわゆるなくてはならない平野農相を今日罷免しなければならなかつたという理由が明確になつておらないのでありますから、この点は特にこの機会に明確にされんことを希望いたします。  さらに第三に問いたいことは、平野農相が素直に辞表を出せば公職追放の方は手加減を加えるということがごときうわさもありまするが、これは最初平野農相の追放が確定したごとく喧傳し、農相の辞職は追放令該当者として当然の帰結であるように思わせ、後に至つて追放は未定であつて、農相の罷免は内閣不一致の言動によるものであるというふうに、辞職強要の理由がいろいろ変つてきたようであります。そこで私が聽きたいことは、まだ確定したわけでもない平野君の追放令該当を、まつたく確定したかのごとく言いふらした責任者は一体たれか。片山首相は当然その責任者をば明白にして、そうして適当に処断すべきであると思うが、首相の所感はいかがでありましようか。(拍手)さらにもう一つは、平野農相罷免の理由は内閣不一致の言動と確定したが、日本では昔からけんか両成敗ということが通例であります。片山首相は、一方的に平野君を成敗しただけで万事円満解決と認められるや、あるいはやがてまた平野君の相手方を処罰せられるや、首相の御意見をこの際承つておきたいのであります。(拍手)  第四に、傳えられるところによりますれば、平野力三君を政界より追放するには、現在の追放令のわくではやれないので、しやにむに平野君を追いこめる程度に、このわくを政令によつて拡げようとしておるようであります。私は、片山首相はまさかそんな非民主的な、追放ファツショ的な政令に同意せられるわけはないと思いますが、この場合は私の好意的な独り合点だけでは済まされぬと思いますので、首相の特に明答を求めておきたい。すなわち、追放令のわくが一片の政令をもつて無限に拡大され得るものならば、民主政治は根底から覆えされてしまうおそれがあります。この際首相は、追放令のわくの限界について明確な基準を示す責任があります。もしそのわくが、政府にとつて好ましからざる人物を政治的に抹殺する必要ある場合、一片の政令をもつて伸縮自在に変更し得るような無軌道なものであるならば、それは完全なファツショであると申さなければなりません。私は首相に対し、追放令のわくの限界を明示せられるよう要求するとともに、將來このわくを変更する場合は、一片の政令によらず、國会の決議によらなければならないようにする御意思があるかないかを、この機会に伺つておきたいのであります。(拍手)  すなわち、私の伺いたい要点を要約いたしますれば、一、追放該當者を内閣員に加えた不明の責任、二、公務出張中の大臣を抜打的に罷免しなければならなかつた理由を明確にすること、三、追放の決定せざるものを決定したるかのごとく喧傳した者の責任をいかにするかという点、四、一片の政令をもつて追放のわくを変更することがごとき行爲は民主政治の破壊と信ずる、今後追放のわくを変更するには國会の決議を経なければならぬと考えるかどうか。以上四つの点に対して、片山総理大臣の率直な答弁を求めます。  さらに私は、この機会に西尾官房長官に伺いたいと思うのであります。すなわち昨日來、西尾末廣氏に対する公開状として、このようなリーフレツトが配られております。この内容は、西尾長官を告発したという植草平八郎氏の名において、西尾氏に対して、いわゆる覚書の適用基準に該当する人であるということを明白にしております。この際読み上げることは時間の関係がありますから、その要点として見出しを抜いて言えば、西尾官房長官は覚書該当者である、あるいは独裁法の支持者である、全体主義の主張を大いにした人である、侵略の合理化に努めた人である、戰爭準備を大いにあおつた人である、國防國家論で軍閥を支持した人である、反軍主義者を攻撃し、熱烈に軍閥擁護、独裁への忠言、最大級の煽動をした人というような内容が盛られておりまするが、そのリーフレツトをごらんになつたたことがあるかないか。なければここでお貸しをいたしますから、十二分にお読み願いたい。もしあるとすれば、このようないわゆる公開状に対して、いかなる見解をもたれるか。あるいはこの内容に対して、いかなるところの考え方をもつておられるか。それを率直に申されるには、むしろこの機会がよいときであると考うるのであります。(拍手)  さらに私は、官房長官に引続い鈴木司法大臣に伺いたいと存じまするが、先刻來苫米地君、齋藤君の質問に対しましても、昨日私が社会党の代議士会の席上ちよつとうかがいよつたところによりますると、一向この「皇道」というものが追放のわくにはいつておるか、はいつておらぬかという点が明確でありません。すなわち、「皇道」という雑誌がはたして追放のわくにはいるかはいらないかということは、この平野農相罷免にとつて重大な関係があるのであります。この「皇道」という雑誌は、昭和十七年八月十九日まで、皇道会の有力メンバーであつた平野力三君の率いる皇道会の機関雑誌であつたのであります。御承知のごとく、その後建國会の赤尾敏君の名前にかえられましたが、今日「皇道」という雜誌は、明らかに追放になつております。その追放になつた「皇道」を昭和十七年八月十九日から引継がれたるところの建國会の赤尾敏君のみが追放を受けて、前任者であり、前責任者であつた平野力三君に何ら及ぼしておらないということは、いかにこの資格審査にあたつて政府がみずからの力によつてその採択を左右したかという事実を示すものであります。  すなわち、内容を簡單に申し上げますれば、「皇道」という雑誌は、平野君が主幹当時、その編輯発行人当時におきましては、月一回りつぱな雑誌として発行され、その内容においても、十二分にあなた方がごらんになつて御承知であろうと思うのであります。赤尾君に引継がれてからというものは、「皇道」雑誌はわずかに一遍、しかも、その形態においてきわめて微弱なるものを発行したのみである。これを継承した赤尾君が追放になり、しかして平野君が追放されなかつたという事実を、司法大臣は知つておるかおらぬかということであります。  さらに、この皇道会の名前でありますが、新聞紙によれば、皇道会、全日本皇道会、大日本皇道会と三種あります。しかして、このうちの二種ー大日本皇道会と皇道会とはいかなる違いがあるかということを、司法大臣は調べられた実績があるかどうか。少くともこの皇道会が解散をされ、大日本皇道会という名前を冠した経緯について、司法大臣は知つておるかどうかということを明らかにしていただきたい。すなわち、これが明らかにならなければ、平野君を追放するにあたつて、その追放令を政爭の具に供し、謀略の手段に供したと言われても私は一言もないと思いますがゆえに、お伺いするのであります。三君より、きわめて明快なる答弁を承りたいということを希望して、私の質問を終わります。(拍手)     〔國務大臣片山哲君登壇〕
  36. 片山哲

    國務大臣(片山哲君) 平野君は追放者と決まつておるわけではないのであります。何人も資格審査を受けなければならないのであります。政治上の活動をする場合に、議席をもつて政党員として、代議士として活動する場合においては、資格審査を受けなければならないことは、十分御了承のことと思うのであります。組閣当時、平野君は代議士としてその資格にパスし、党においても活動されておつたのでありますから、組閣に必要なる人物として私は推薦し任命したのであります。こういう意味で、政策遂行、組閣完成のために必要なる場合において私は平野君を任命したのであります。その後の変化において、平野君の行動が政策遂行に欠くるところありと考えまして免じたのでありまして、これは法規上も政治上も何ら違法ではないと考えておるのであります。ただ平野君に対しては、道義上まことに氣の毒であるということを感じておるのでありますが、これをもつて政治上の責任を云云することは、いささか見当が違うのではなかろうかと思う次第であります。  第二の追放ということは、先ほど西尾官房長官も申されましたとおり誤傳であります。平野君追放という号外も出ましたし、新聞記事に載つておつたことも事実でありますが、それは眞相を傳えてはいないのであります。たびたび申しまするとおり、辞職を求めましたる理由は追放ではないのであります。また資格において疑われておるという点を、私は辞職を求める理由といたしていないのであります。この点は嚴に区別されんことを求めます。  追放者であるということを喧傳した人の責任を追及しなければならない、こういうような御意見でありましたけれども、誤傳であり、誤報でありまするから、それを根拠としてその責任者を処罰するとかあるいは罷免するとかいうような考えはもつておりません。     〔発言する者多し〕
  37. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 靜粛に願います。
  38. 片山哲

    國務大臣(片山哲君)(続) わくの問題であります。わくの問題は、政府の立場において冷靜にかつ公正に考えていかなければならにということは、前内閣時代からのやり方であります。今日におきましても、やはりその例に從いまして、わくの定め方は政府愼重にかつ公正にこれを取極めていくというやり方を踏襲していきたいと考えておる次第でありまして、これを法律をもつて定めるというやり方は、現下の情勢においては適当でないと考えておる次第であります。(拍手)  一点落しました。留守中になぜやつたかという点でありまするが、これも新聞で傳えられておりますることは間違いでありまして、平野君が旅行に出られまする前に、この問題につきましては十分了承しておつたのであります。決して抜打ち的にやつたのではなくして、旅行前にこの問題のあることを十分に承知されておつたのであります。私も十分時間をおき、冷靜に考えてもらわなくてはならない、愼重愼重を期さなければならないということを十分に考えまして、いろいろ手段をとつたのであります。決して抜き打ち的に後ろからばつさりとやるというような卑怯なやり方はいたしていないのであります。その意味におきまして、先ほどから申しまするような方法とつたのであつて、この問題を混同せられないように願いたいと存じます。(拍手)     〔國務大臣西尾末廣君登壇〕
  39. 西尾末廣

    國務大臣(西尾末廣君) 中野君のこの壇上でお示しになつた印刷物は、私はまだ見ておりません。ただこの印刷物を出した植草某は、社会的にも政治的にも権威をもつておるものではないのであります。     〔発言する者多し〕
  40. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  靜粛に願います。
  41. 西尾末廣

    國務大臣(西尾末廣君)(続) つまり、これは何らかの理由で私に特に敵意をもつておると見えまして、他の機会においても、半分名前はありますけれども、いわゆる怪文書的なものを出しておる人でありまして、これらのような権威をもつていない人の文書が、あまり研究されないでこの壇上でただちに問題になることは、誠に遺憾であります。(拍手)     〔國務大臣鈴木義男君登壇〕
  42. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君) 中野君の御質問は、皇道会をよく研究しておるかということでありますが、私の聞いておるところによりますると、皇道会という名をもつた団体が四つあるそうでありまして、そのうち平野氏が編輯かつ発行人をやりまして「皇道」を発行した皇道会というものは、黒沢某が主幹でありまして、それは追放せられているのであります。この問題は、平野氏が大臣に就任した後に告発がありましたために問題になつたのでありますから、檢事局においてただいま調べているのでありますが、「皇道」という雑誌がなかなか手に入らなかつたために、審査が十分でなかつたと存ずるのであります。ただいま檢事局に、その告発人が二冊添付して告発をいたしたのでありまして、それに基づいて研究をいたしているわけであります。そういう事情で、これからよく調査をいたします。     〔発言する者多し〕
  43. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  靜粛に。
  44. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君)(続) 事務当局に命じて調査をせしめるつもりでありますから、さよう御承知を願いたいのであります。
  45. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  中野君     〔発言する者多し〕     〔中野四郎君登壇〕
  46. 中野四郎

    ○中野四郎君 議長のお許しを得ておりますから、きわめて簡單に再質問をいたします。  私はきわめて率直にお尋ねをいたしますが、私が片山総理大臣にお尋ね申し上げた四つの点を、特に答弁のしやすいように要約して申し上げた点について、明確なる御答弁がない。しかしながら、これを総括してお尋ねする前に、一体先刻來各大臣の答弁は、新聞が大体間違いであつたということをもつて表現されておりまするが、かくのごとく日本政界にとつて重大なる問題をば、一新聞の罪に轉嫁するということは断じて許すべきではありません。(拍手)もし新聞が誤つてこれを傳えたとするならば、これを訂正するか、あるいはただちにこれに対してそれぞれの処置を講ずることができ得るはずであります。しかるに、総理大臣を初め現政府において、何らの手段をとらなかつたということは、明らかに私は大きな失策であり、故意にこれを見逃しているものであると思うのであります。ゆえに、総理大臣は新聞に対していかなる処置をとるか、明確に御答弁を願いたい。  いま一つは、西尾官房長官は、先ほどこの公開状に対して、信頼できざるものが発したるものであるから、当然私はその責を負わない、同時に、かかる公開の席において発表されたることを遺憾と思うとおつしやるが、この内容は、あなたが戰時中國会において発言せられたることを速記録から抜いたものである。この速記録がことごとくうそであるとおつしやるのか、ないしはあくまでこの公開状が單なる誹謗すべき人間の記載であるというのか、この点について西尾長官の率直なる答弁を求めます。(拍手)
  47. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  答弁はありません。      ————◇—————  農林大臣罷免に関する緊急質問(林百郎君提出)
  48. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  農林大臣罷免に関する緊急質問を許可いたします。提出者林百郎君。     〔「答弁しろ」と呼び、その他発言する者多し〕
  49. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 答弁はありません。     〔林百郎君登壇〕
  50. 林百郎

    ○林百郎君 平野前農相罷免問題に対して、片山総理は新憲法により新たに設けられた國務大臣に対する罷免権を行使したのであるが、憲法によれば、内閣は行政権の行使については國会に対し連帯して責任を負うべきものであります。從つて、平野前農相罷免の問題については、総理大臣自身國会に対し眞相を明確にする義務があると信ずるのであります。(拍手)しかるにもかかわらず、その全責任を單に新聞紙に帰して、その責任を逃れようとするのは、われわれ断じてこれを許すことができないと思うのであります。(拍手)もし新聞紙に責任を轉嫁するならば、その前に何がゆえに國会に対してまつ先にこの眞相を明らかにしなかつたのか、それは憲法に対して、内閣行政権の行使についての内閣総理大臣の國会に対する責任を明らかに怠つているものと断ぜざるを得ないのであります。一方われわれは、國民に代つてこれを明確にする義務があると信ずるものであります。  そもそもこの問題は、日本の民主化にとつて重要な問題であると信ずるのであります。内閣総理大臣の罷免権の最初の行使が、かくごとく不明朗のうちに行使されたことは、実に遺憾と信ずるのであります。しかも、高度民主主義を理念とするところの社会党首班内閣によつて行われたことは、かえすがえすも遺憾に存ずる次第であります。そこで私は、日本の將來の民主化のために、ここに事態を明確にする必要があると信じ、片山、西尾、鈴木各大臣に対して次の質問をしたいと思うのであります。  まず片山総理に対しましては、罷免の理由は個人的言動を理由とするものであるというように言明しているのでありますが、われわれは、その平野前農相の個人的言動の、政治的行動の理由が、何ら先ほどから明確にされておらないのであります。われわれは、これを率直に答弁することを求めているのであります。傳えるところによりますと、平野前農相が他政党議員の一部と連絡して新党を結成し、次期政権の準備をしていたというようなことを理由にしているようにも傳えられているのであるが、これはどうかという点が一つ。その次に、國務大臣として実に國民の信頼を失うということは重大だと思いますが、刑事事件を理由としているのだというようなことも傳えられているのであるが、これもまたどうか。こういう具体的な問題に対して、あるいは政治的の理由があるならばその政治的な理由、これを率直に答弁していただきたいと思うのであります。  その次に、西尾國務大臣に対して質問するのであるが、先ほどから片山総理も、西尾國務大臣も、追放を理由としておらないということを言つておるのでありますが、しからば、新聞紙に傳えられているところのあの追放を理由とする、あの鈴木並びに西尾各大臣の言明に対する責任はどうするのか。これを單に一新聞記者の責任に帰することは、実に卑怯きわまるものと言わざるを得ないのであります。(拍手)少くとも國政を担うところの重要な責務を負う各國務大臣の言責に対して、これを國会の壇上において新聞社の責に帰することは断じて許されないと言うことを、深く銘記していただきたいと思うのであります。  その次に、なお追放と関連がないという説明はあるのでありますが、たとえば五日の朝日新聞の報ずるところによりますれば、中央公職適否審査委員会が公正なる立場で審議するのではあるけれども、政府は追放のわくをきめる、またはわく内にはいるか、どうか、これは政府檢討するのであつて、係りの大臣が愼重に研究しておるということを言つておるのであります。しかも、「皇道」がはいるかどうかは係りの大臣に聞いてもらいたい、今回の農相更迭は、追放とも関係なく、また告発の問題とも別個のものであるとは言つておるのでありますが、係りの大臣で愼重に研究しておる。しからば、この愼重に研究した結果がいかなるものであるかということを、ここに率直に答弁していただきたいと思うのであります。  なお、片山総理に対しては、新聞紙の報ずるところによれば、また巷間傳うるところによりますれば、現内閣内においても、いくた疑惑をもたれておるところの閣僚があることが傳えられておるのであります。で、かかる問題につきましては、われわれはポツダム宣言の精神からいつても、政府はこの問題を遷延することを許さない、事態を明確にして、われわれに説明する必要があると思うのであります。ポツダム宣言によりますれば、日本国民を欺瞞し、これをして世界征服の挙に出ずるの過誤を犯さしめたる者の権力及び勢力は永久に除去せられざるべからずという至上命令が発せられておるのであります。少くとも、こういう追放というような問題が、ここで糊塗されることは許されないのであります。これがまた政爭の具に利用されることも許されないのであります。これは日本の國際的な関係からいつて、絶対に至上命令になつておるのであります。巷間傳うるところの、現内閣におけるいくたの疑惑をもたれておる閣僚に対する内閣総理大臣の処置はいかにするか、これを明確に御答弁願いたいと思うのであります。  なお一言、片山総理大臣に対し最後の質問をするのでありますが、この中央公職適否審査委員会、この運営がすこぶる非民主的である。陰謀的であり、不明朗である。場合によつては政爭の具にさえ利用せられておるのでありますが、これを民主的の運営に切りかえなければならないと思うが、この中央公職適否審査委員会の民主的の運営について、將來いかなる所信をもつておられるか、この点をお聽きしたいと思うのであります。  さらに、先ほども中野議員から質問がありましたが、公職追放の基準が全然民主的に決定されておらない。政治的の必要に應じて、その場その場の政令によつて自由に決定されておるのであります。これも將來民主的に決定する必要があると思うが、これについての総理大臣の所信はどうか。新聞紙の傳うるところによりますれば、追放のわくを拡げて「皇道」も含めるというようなことが傳えられておるのであります。これは発行部数が、従來ともこの基準に該当しておらなかつた。この度はこのわくを拡げるということを言つておるのであります。もし、このわくを拡げて「皇道」を該当させるということになるならば、当然ジャパン・タイムスというような新聞もまた該当してくるのであるが、これに対して首相の考えはどうか。(拍手)なお、何がゆえに今ごろになつてこの政令のわくを拡げて、この「皇道」並びにジャパン・タイムス等を追放のわくに入れざるを得ないのか。そういうことをなすべき機会はたびたびあつたのに、何がゆえに今ごろにこういうわくを拡げる必要があるのかということを聽きたいのであります。  その次に、なお公職適否審査委員会の構成と運営につきましては、將來民主的の團体から選出された委員によつてこれを構成し、國会の監督下において、場合によつて公聽会を開く等公正的に、民主的に、明朗なる運営をなすべきものであると思うが、これについての総理大臣の所信いかん。右をもつて私の質問を終りといたします。     〔片山國務大臣登壇〕
  51. 片山哲

    ○片山國務大臣 平野君に対しまして辞職を求めました理由は、たびたび申し上げました理由通りであります。この理由で十分であろうと存じております。(「十分ではない」「そのやり方が独裁だ」と呼ぶ者あり)これ以上申し上げる必要がないと存じております。  なお、中央資格審査委員会はきわめて非民主的であつて不公正であるというような御意見がありましたが、私はさように考えせまん。きわめて民主的に職務を遂行していると考えております。またわくの問題でありますが、今日の程度においてはまだ進んではおりません。以上をもつてお答えにかえます。(拍手)      ————◇—————  國務大臣演説に対する質疑
  52. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) これより大藏大臣財政演説に対する質疑に入ります。順次発言を許します。西村榮一君。     〔西村榮一君登壇〕
  53. 西村榮一

    ○西村榮一君 私は、本日提案せられました昭和二十二年度追加予算につきまして、日本社会党を代表いたしまして、政府当局に質問いたします。  現内閣が健全財政を堅持するために必死の努力を拂つておられるに対しまして、私は一應の敬意を表します。そもそも健全財政なるものは、敗戰直後の混乱の状態から日本再建の第一歩として國家財政收支均衡をはかるべしという國家内外の要請に基きまして、前内閣の時代において採用させられましたる財政方針であります。昭和二十二年度予算編成にあたりまして本方針をとられたのでありまして、政府のこの方針に対しまして、当時の國会の多数はこれを支持いたしました。しかしながら、当時なお存在いたしました政府並びに民間で保有しておりますところの戰時中のストツク資材を政府の手に収めまして、この予算の執行の物の裏づけをなすとともに、産業再建に協力し、もつて國民経済力を充実して、その上に健全財政確立すべしと、当時われわれは要求いたしたのであります。すなわち申し上げるまでもなく、健全財政の基礎なるものは國民経済健全化の上に確立しなければ、眞の健全財政というものは長続きしない、これが当時の主張であつたのであります。  しからば、健全國民経済というものをいかにして確立するかと申しますならば、まず第一に流通秩序確立するとともに、生産を振興いたしまして、これらの生産の振興と経済秩序の安定の上に國民生活の安定を求め、その上に健全財政確立するということが、眞実の健全財政確立のゆえんであるということを、当時主張いたしたのであります。昨年の秋と本年とは一年の歳月を費しましたが、この間における國民経済の疲弊並びにわが國の生産界の疲弊の度合はきわめて深刻に推移いたしまして、一年前とは比較し得ざる日本経済の苦悶のどん底に現在あるのであります。かくのごとき客観的な情勢は、一年前と今日においては根本的に相違はいたしておりまするけれども、われわれが主張いたしまする、國家財政健全化はこの國民経済健全化の基礎の上に立つべしというところの主張は、寸毫も変化しないのであります。  同時に、健全財政を堅持しなければならないということは、それは現下わが國の至上命令でございまして、いかなる政府といえども、この命令を忠実に実行しなければならないと思うのであります。ただここに一年前と違いますところは、ただいま申し上げましたような前者の時代においては、生産を振興するところの、あるいは國民経済健全化するところのものを動員する力が当時はあつたのであります。今は敗戰経済の必然のコースといたしまして、インフレーションは当時と比較し得ざるほど惡化いたしまして、物が三倍に騰貴して、非常な深刻なる場面に日本経済は直面いたしておりまするが、この悲劇的な時代において、現内閣がいかにしてこの國家の至上命令たる健全財政を堅持するかということは、きわめて政治的な大きなる試練であると私は考えるのでありますが、私は本日機会を得まして、日本社会党を代表いたしまして、その予算編成の技術的な問題よりも、むしろ本日提案されたる予算がいかにして実行していけるか、その実行的な面におきまして、すなわち予算執行の問題につきまして多くの疑点を有しまするがゆえに、以下数点御質問申し上げたいと思うのであります。  まず第一に質問いたしたいのは、先ほど申しましたように、健全財政の基礎は健全國民経済基盤に求めなければならぬということであります。しからば、國民の健全経済というもの、國民経済力というものは、一体現在のような状態におきまして、いかなる手段と方法をもつて求めていくか。これはきわめて深刻な問題でありまするが、前内閣時代において採用せられましたる納税申告制に一例をとりましても、現在は所得予定額のわずか二六%しか申告せられておりません。あるいは実質的な所得税の納入は、わずかに一八%であります。営業税また三〇%しか実收いたしておりません。これらの諸統計を見まするならば、きわめて憂慮すべき現状でありまして、この國民納税実績の低下ということは、明らかに國民経済の疲弊困憊を示すものであります。この國民経済を無視して、もしも形式的なる健全財政を堅持しようといたしまするならば、それは中央財政におきましては、日銀の借入金であるとか、あるいはその他の金融的な操作におきまして、若干の時間は彌縫し得るかもしれません。けれども、國民経済を無視し、國民の能力を無視して、ただ通貨の面と金融操作のみにおいて健全化されたる架空なる健全財政は、どこから破綻を來すかといいまするならば、まず第一に地方財政から破綻を招來してくるのであります。  今日の地方財政は、大体において七百五十億円の歳出に対しまして、現在概算百五十億円の赤字を出しております。おそらくこれは、本会計年度末におきましては倍額ないし一五〇%の赤字を見るところの必然的な運命を地方財政は背負つているのであります。  地方財政において收支均衡のとれておるものは栃木縣だけでありますが、この栃木縣の收支均衡のとれた理由檢討してみますならば、耕作税まで課税して、辛うじて栃木縣は收支のバランスをとつておるのであります。他の府縣並びに都市全体は、すべてが赤字であるということを考えまするならば、私は、現下必死になつて貫徹しなければわが國地方自治体の確立と國家の民主化のために、この地方財政の疲弊というものはきわめて憂慮すべき惡影響を與えるのではないかということをおそれるのであります。  通貨面よりする健全財政危機は、以上の通りその第一線たる地方財政より破綻を來しておりまするが、一面飜つて物の面より見ると、はたして從來唱えられた健全財政が將來維持できるのであるかどうかという点に多大の疑問を禁ぜざるを得ないのであります。問題は、通常予算において編成せられました終戰処理費その他の予算の執行にあたりましても、わずか予定額の五〇%以下しかその実行が遂行せられていないという現実は、通貨の面において、金融の面において予算が組まれているけれども、それを実行する物の裏づけという基本的な問題が昭和二十二年度の通常予算考慮されておらないというところの結果が、今日の予算実行において、その五〇%以下しか実行できないという現実を暴露いたしておるのであります。  ここに一体財政支出なるものが國民負担のどの限度が適当であるかということを考えてみまするならば、大体において國民所得全体の中から六割が消費に充当せられ、二割が再生産費に充当せられて、あとの二割が國家財政支出に充てられるということが、大体の常識的なバランスであります。その意味から言いますならば、大藏省が現在推定いたしておられまする本年度國民所得九千億ないし九千五百億円の中からは、先ほど大藏大臣も御説明になりましたように、本年度歳出は二三%であります。その点においては、大体均衡がとれた予算であるとは一應見受けられるのでありますが、ここに重大なる疑問が生じてまいりますものは、この九千億ないし九千五百億円という國民所得が、はたして現在実在するかどうか、この問題であります。  申すまでもなく現在の生産は、基礎資材において三十何パーセント、消費資材を加えましてもわずかに四六%、年末において五五%にこれを上昇せしめようと政府努力しおられるのでありますが、大体は五〇%前後と推定しなければなりません。しかりといたしますならば、生産並びに勤労から生ずるところの所得というものは、大体において九千億ないし九千五百億円の所得の半額であると推定しなければならないのであります。あとはやみの所得であります。私はこの際において重大なる点として再檢討を加えなければならないことは、この半額以上を占むるところのやみの所得がはたしてとらえ得るかどうかという点であります。もしも、やみの所得をとらえるだけの政治力がございますならば、当然やみは撲滅せられているはずであります。やみを撲滅するだけの政治力のない状態におきましては、やみの所得を捕捉するということは、これは不可能であります。しかりといたしまするならば、九千億ないし九千五百億のこの國民所得の推定というものは、かなり疑問となつてくると私は思うのであります。  このことは、私は現在の内閣に主張するのではないのでありまして、すでに昭和二十二年度一般予算編成せられまするときにこのことを警告したしまして、昭和二十二年度の通常予算は実行不可能なりと断定してきたのであります。残念ながら当時の私のその杞憂は今的中いたしまして、同じことをこの内閣に申し上げざるを得ないことは、まことに遺憾であるのであります。率直に申しますならば、前内閣に暗にやみを放任したと申しますか、あるいはやみの撲滅に対して手を焼いた結果さじを投げたと申しますか、とにかくやみは現内閣に比してきわめて寛大でありました。現内閣はこれに対しまして、やみを撲滅し、流通秩序確立しようとする必死の努力を拂つておられることは、万人認めるところでありますけれども、やみ取引が市場になおかつ横行しているという現実は、前内閣と現内閣においては寸毫も変化はないのであります。しかりといたしますならば、このやみ所得から生ずる所得税というものを捕捉するということは、きわめて困難であるのであります。  かくのごとき計算からいたしますならば、眞の國民生産勤労から生ずる所得というものを四千億ないし四千五百億円といたしまするならば、それは正規ルートに來る所得でありますから、完全に捕捉し得るのであります。その捕捉し得る國民所得からいきまするならば、大体において國民所得の二割と推定いたしまするこの財政支出の担税能力は、九百億ないし一千億と推定せられるのであります。しかるに、通常予算並びに追加予算を入れまして大体四六%の財政支出所得に比して盛られたということは、一体これが消化できるかどうか。この点において私はきわめて疑問と思うのであります。  しかしながら、古来財政の歴史並びに國家興亡の歴史を考えてみますならば、必ずしも消費が六割、再生産費が二割、財政支出が二割ということは、これは一定いたしておりません。ただ、國民の能力の限度を超えた財政支出を国民に要請する客観的な情勢というものは、きわめて異常なる國民の心理状態においてのみこれが求められるのであります。一例を考えて見まするならば、アメリカにおきましては、一九四四年においては、國民所得の、驚くなかれ五四%の負担をアメリカ國民はいたしておられるのであります。超えて一九四五年においては六二%、それに対しまして本年度は、わずかに二〇%であります。イギリスにおいても同じような傾向が見受けられるのでありまして、一九四四年におけるイギリスの財政支出は、驚くなかれ七二%を支出いたしております。本年度は半減いたしておるのでありますが、かくのごとき國民の能力の限度を超えた両國民財政支出は、戰争という國家興亡の浮沈に立つた米英両國民の愛國心の情熱がこの過大なる負担に耐え得たということを考えて、わが國の現下財政方針を対照してみますならば、ここに日本國民は自分の能力の限度を超えた過大なる財政支出を心から承認し、その消化に向つて全力をあげて協力するの理由というものが、その財政支出が國家の將來にあるいは國民経済に最もよき影響を及ぼすところの再生産費にそれが充当せられていくか、あるいはその他における異常なる状態がここに起きて、その能力限度を超えた負担に應じなければならぬという精神的な要素が加わる以外には、この財政負担というものはきわめて困難になつてくるのであります。  しかも、本予算を拝見いたしますと、貿易資金並びに復興金庫等の生産政府出資金までも税で賄おうとしておられるのでありますが、かくのごときは、國民経済の現実を無視するとともに、理論的にも現下の國情に適合せざる形式的な健全財政と申さねばならぬのでありまして、これらの貿易資金、復興資金並びにその他の厖大なる特別支出は、その年度國民所得において賄うにはあまりにも厖大でありまして、負担過大でありますがゆえに、これらの財政支出は、やせ馬に一時に重い荷を背負わせるというような方法を避ける必要があると思うのでありまして、それとともに新たに日本経済再建生産資金調達いたしまして、生産の振興をはかり、國民所得の安定を企画し、もつて國民の担税能力を培養いたしまして、その上に立つて健全財政というものを私は確立すべきであるということを繰返し主張しなければならないのでありますが、政府國民経済健全化と國家経済健全化とのバランスを一体どこに求められるか、同時に、この生産資金まで本年度の税金で賄わなければならなかつたというところの理由は一体那辺にあるか、同時に、國民の能力の限度を超えたこの過大な負担がはたして將來消化できるかどうか、率直に言いますならば、來年の二、三月ごろ以後税金がそのままはいつてくるかどうかということの御方針を一應承りたいと思うのであります。すなわち、健全財政か健全國民経済かという問題につきまして、政府はいかなるお考えをもつておられるか、一應承りたいと思うのであります。  第二点においては、物動計画の問題であります。このことは、昭和二十二年度予算編成に対しまして、前内閣に対しましてもそれを警告いたしてきたのでありますが、その当時の在野党の警告を無視した結果が、予算の実行がただいまにおいては困難になつてきておるのであります。そこに加えまして、先ほど大藏大臣から御説明もございましたが、九月十五日に司令部より、公定價格をもつて工事をなすべしと日本政府は命令を受けておるのであります。このことは激化し行かんとするインフレーション防止のためには、きわめて賢明にして有益なる命令であるのでありまして、日本國民朝野をあげてこの命令を遵奉しなければならないと思うのであります。  しかし、私がここに疑問と存ずるのは、昭和二十二年度予算の実行にあたりましても、物の不足の面からその実行の困難が今日暴露しておる。同時に、九月十五日の、公定價格をもつて絶対に工事並びに政府方針を貫徹すべしという司令部の命令を忠実に実行しなければならないということは論ずるまでもないのであります。しからば、これを忠実に文字通り実践した結果が、予定の工事が進捗するかどうか。予定通り方針が貫徹できるかどうか。そこで、それができなかつた場合には一体政府はどうする氣か。同時に、通貨並びに金融の面において予算編成せられておるが、本予算の中に物動計画という物が織りこまれておるかどうか。物とのにらみ合せをして本予算が組まれておるのであるかどうか。もしも物とのにらみ合せ、すなわち日本の國内には、本予算消化するだけの鉄、セメント、材木その他、これだけしか生産ができない、これだけ不足するから、これだけは外國から輸入しなければならないとか、あるいは國内においては十分にこれが消化し畫し得る、同時にこの物の生産政府において公定價格をもつて実行し得るというこの物動計画の具体的なものが、この予算とともににらみ合わされておるか否か。  私の問わんとするところは、予算実行上について物動計画考慮したかどうか。さらに日本においてどれだけの物が生産されて、それで全部賄い得るのかどうか。この予算公定價格で実行する場合においては、外國から物を輸入してこなければならないのであるかどうかというこの点、しかして外國から物を輸入してくるとすれば、その可能性があるかどうかという点、もしも輸入することも不可能、同時に生産も不可能であるという場合においては、予算の執行が不可能であるのでありまして、そのときには本予算の実行を延期するところの意思があるかどうか。延期せられるならば予算面が余つてくるのでありますが、その諸般の点を明確に御答弁を煩わしたいと思うのであります。  第三点においては、非戰災家屋税であります。本税は戰災と非戰災者との負担均衡をはかるという趣旨で提案せられたということは、私は十分理解いたします。しかしながら、ここに重大な疑問にぶつかるのは、家屋以外の物の所有者に対しましては一体いかなる処置をとられるのかということであります。先ほど大藏大臣も御説明になりましたが、物は戰前の六十三倍ないし五倍、あるいは二百倍に暴騰いたしておりますが、家屋はせいぜい五倍にないし十倍であります。しかして、最も値上りしておる品物に対して、非戰災家屋とともに、一体いかにしてその値上りとインフレ利得に対して課税するかという問題を、ある程度までここに明確にしていただきたい。とともに、この非戰災家屋税は何と申しましても第二財産税的な正確をもつものであります。  この第二財産税というものをとる場合におきまして、まず第一に私は考慮しなければならないことは、昨年度徴收せられた財産税が果たして成功したか否やということに再檢討を加うる必要があるのであります。結論から申しまするならば、明らかに第一次の財産税は失敗であります。なぜ失敗したか。理由は二点あります。一つは、財産税の主要目的が明らかでなかつたということ、財産税をとるのに微妙なる人間の心理を無視したという点でありまするが、財産税が創設された当時の理由の説明といたしましては、貧富の懸隔を縮小し、もつてわが國経済の民主化をはかるとともに、その財源をもつて國家の経済再建に充てるということが、当時の財政税徴收の二大目的であつたのであります。しかるに、その趣旨に反しまして、財産税は一般会計赤字に充当せられました。これが、血のにじむような財産税を國家に供出した納税者の心理というもの、犠牲というものを時の政府が生かさなかつたという、國民心理に及ぼすところの大なる失敗をいたしておるのであります。第二点におきましては、徴税の技術がこれに伴わなかつた結果が、家屋をもつており、その他のつぴきならない人々は徴税の対象になりましたけれども、敗戰成金と申しまするか、戰後続出したこれらのやみ所得の成金に対しまして何ら手を染めることができずして、彼らはいち早く金を品物にかえた結果が、ますます品物が暴騰いたしまして、貧富の懸隔を縮小するという目的が画餅に帰したというところの結論を、われわれは苦く経験いたしておるのであります。  從つて、今回の第二財産税的性格をもちまするこの非戰災家屋税も、第一次財産税を徴收したような懲罰税的な性格を避けまして、何とかこの国民の犠牲を生かす…(「大藏大臣はいないよ」と呼ぶ者あり)政府を代表して商工大臣水谷君もおりますし、その他政府委員もおります。(「商工大臣に質問しておるのか」と呼び、その他発言する者あり)政府に私は聽いております。     〔発言する者あり〕
  54. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 私語を禁じます。
  55. 西村榮一

    ○西村榮一君(続) 私はかくのごとき非戰災家屋税というふうな懲罰税的、あるいは第二財産税的性格をもちまする本税を撤廃せられて、その代り、国家再建に必要とする、日本経済再建に必要とする新しき生産資金財源といたしまして、國民全体に対しまして一千億ないし二千億の、新たに政府が樹立せられるであろう長期建設計画財源をここに新たに求められてはどうかという点を提案するとともに、政府の所見を伺いたいのであります。  第四には、公債政策について政府の所見をお伺いいたしたいのでありまするが、公債政策は、これを善用することと惡用することにおいて、日本の経済においては大きな影響を及ぼすと思うのでありまして、大体わが國において現在保有いたしておりまする二千億の公債が、はたしてこれは過大なものであるか否やということは、現下の状態におきまして再檢討を加えなければならないと思うのであります。私は率直に申しまするならば、この二千億の公債は、日華事変の前年の物價水準に逆算いたしますと、実質的には約三十億円に相なるのでありまして、これは日華事変前の百五億円の保有公債から、七〇%がインフレーションによつて自然的に償却しておるということであります。  もちろん、わが國は講和会議までございまして、賠償金その他將來における戰爭の責任の義務の遂行につきまして未だ明らかでありませんがゆえに、独立国家なみの公債問題を考えることは不可能でございますし、かつ遠慮すべきであると思うのでありまするが、前第二段あるいは第三段において質問いたしましたように、政府の出資生産資金並びに国家再建の長期計画に要する費用は、特殊なる公債政策によつても差支えないのではないか。それは公債政策の長所を考え、かつ今日においては日華事変前の百五億円の公債が七〇%自然的に償却しておられるところの現実において、しかも世界各国なみにおいて考えまするならば、この日本の公債というものはきわめて過小な地位を占めておるという現実を考えまするならば、貿易資金並びに復興資金並びに將來政府が立案せらるるであろうところの長期計画に対しまして、この資金を新たなる公債に求めるということは、今日の公債保有高、納税能力、國民経済力から考えまして、私は決してこの公債政策の長所あるいは、妙味というものを無視することができないと思うのでありまするが、大藏当局はこれに対していかにお考えになるか。  ただ、私はここに一言誤解のないように申し上げておきたいことは、公債政策と申しましても、従來のごとく政府公債を発行する、それを日銀において引受けるというような在來のやり方をこの際とりまするならば、あるいはインフレーションの激化となることは火を見るよりも明らかであるのでありまするが、將來発行せんとする公債は、インフレーションの激化に対しても一應の保障を與える、同時に、その公債をもつて國家再建の大業が完成した暁には、その公債所有者に対して何らかの表彰をするというこの心理的なあるいは物質的な二つの点を考慮いたしまして、同時に、その引受は日銀によらずして、第二財産税的な性格、國民に新しく國家再建に対する協力を求めるというふうな性格をもつ、これらの新機軸をもつところの公債政策を実行されてはどうかということを私は提案いたしたいのでありますが、大藏当局の対する考え方はどうか。  第五点において政府に質問いたしたいことは…。
  56. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 申合わせの時間があります。約束の時間がきておりますから、どうぞ結論にはいられんことを希望いたします。
  57. 西村榮一

    ○西村榮一君(続) それでは結論にはいりましよう。私は議長の御注意によりまして簡單に結論に入ります。  今日の勤労者生活がいかに苦しいかということは、私が贅言するまでもありません。從つて政府は千八百円賃金ベースを堅持せられるといたしましても、現実において勤労階級は七、八、九の三箇月において多大な赤字を出しているのであります。一應千八百円ベースとは別に、政府はこの赤字の補填策に対しまして考慮するの必要ありと私は信ずるのでありますが、政府の見解はいかがでありますか。これをなさなければ、せつかく日本経済再建努力しようとする善良な勤労階級におきましても、一部の思想的な煽動家に乗ぜられるところの危險を憂慮いたしまするがゆえに、私はこの七、八、九の赤字を出しているこの現実を直視して、これを補填するの必要ありと信ずるのでありますが、政府はこれに対するいかなる見解をもつておられますか。  最後に申上げたいことは、今日の日本の現状において、この経済を建て直し、この窮迫せるどん底の欠乏状態の中から起ち上り、新しき講話会議を控え、來るべき激化していく國際情勢を考えて、すなわち講和会議経済危局からの脱却と、來るべき國際情勢の変化に備えて、この難局を切抜けるためには、全國民一致の協力的態勢が必要であると信ずるのであります。わが國の現状は、未だ労農独裁革命が完成いたしておりません。今民主革命の過程においてわが國に存在するものは、労働者、農民、勤労階級を根幹として、それに加うるに知識階級あり、それに加うるに中小工業者あり、それに加うるに善良なる事業家であつて、これらの有機体が今日の國家の現状であるといたしまするならば、この勤労階級を根幹とし、知識階級を加え、中小商工業者を加え、企業家を加え、これらを代表するところの政党の一切が一丸となつて、來るべき危局突破に邁進しなければならぬと思うのでありまするが、それに対する政治的な構想があれば、現内閣から承りたいと思うのであります。  以上六点、皆さんの寛容なる御支援によりまして私はここに演説を終る次第でありまして、懇切なる政府の答弁を求めます。(拍手)     —————————————
  58. 安平鹿一

    ○安平鹿一君 西村君の質疑に対する答弁及び大藏大臣演説に対する残余の質疑はこれを延期し、明六日午後二時より本会議を開き、これを行うこととし、本日にはこれにて散会せられんことを望みます。
  59. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君) 安平君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  60. 田中萬逸

    ○副議長田中萬逸君)  御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。  議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散会いたします。     午後五時六分散会