○松永義雄君 ただいま議題となりました
最高裁判所裁判官國民審査法案につきまして、司法委員会を代表して提案の理由並びに法案の趣旨を御説明申し上げます。
日本國憲法は、その第七十九條において、最高裁判所裁判官の
國民審査に関する大綱を規定し、その実施については
法律を制定すべき旨を規定しているのであります。しかして、一旦
衆議院議員の総選挙というがごとき事態となれば、ただちにその発動を要するものでありますので、これが法制化は、早急にこれを行う必要あることを認め、去る七月二十六日最高裁判所裁判官
國民審査法の起草を目的とし、裁判官
國民審査に関する
事項の國政調査の承認
要求を
衆議院議長に
提出し、同月二十八日、これが承認を得たのであります。爾來、今日に至るまで約六十日の間、委員会を開くこと七回、小委員会を設けて原案起草に当り、その間立法例を調査するとともに、各方面の意見を徴し、かつ
関係方面の意向をも十分参酌いたしまして、ようやく成案を得る運びとなり、去る九月二十六日、委員会は最後的な討論を行い、全会一致をも
つて最高裁判所裁判官國民審査法案を
決定し、ここに
提出の運びと
なつた次第であります。
次に、本案の要旨を御説明申し上げます。まず第一に、題名を最高裁判所裁判官
國民審査法といたしましたのは、いささか長きに過ぎる嫌いはありますが、題名によ
つて法律の
内容を判然とさせたいと考えたからであります。
次に、本法の
内容を大別いたしまして、一 総則、二 投票及び開票、三
審査分会及び
審査会、四
審査の結果、五 訴訟、六 再
審査、七 罰則、八 補則の八章にわかちましたので、各章別に、その概略をご説明申し上げます。
第一 総則。日本國憲法第七十九條の規定を受けまして、
國民審査に関する
事項を本法により定める趣旨を第一條において宣言いたし、以下数箇條におきまして、その手続き、効果等に関する総則的規定を設けたのでありますが、憲法は、
審査は
衆議院議員総選挙の際にこれを行う旨規定しております
関係上、
審査の手続は、大体
衆議院議員選挙の手続きと同樣にし、かつそれと同時に行うことを本法においてさらに具体化して規定しました。しかしながら、
審査は選挙とは本來別個の制度であり、かつ内閣から独立して行わるべき性質のものでありますので、特に
審査に関する事務の管理監督機関として、最高裁判所裁判官
國民審査管理委員会を設けることにしました。この委員会には、
衆議院議員及び参議
院議員をこれに充てることが考えられるのであります。しかし、この
審査の行われる際には、
衆議院は解散にな
つております
関係上、特に参議院において、その
議員の中から選挙することにいたした次第であります。
第二 投票及び開票。
審査は、選挙の投票と同時に、投票によ
つて行うことを原則といたします。ただ投票の方式としましては、自書式によるべきか記号式によるべきかについて、相当問題はあるのでございますが、結局、
國民の信任を問うためには、
審査人たる
國民に、裁判官全員の氏名を周知させる必要のあること、及びなるべく簡易な
方法で投票し得るようにすべきであると考えまして、新らしい試みでありますが、記号式を採用することにいたしました。さらにまた、
審査人がすべての裁判官について十分なる認識を有しているとは言えず、
從つて罷免を可とする場合は別としまして、罷免を可としないという意思表示を求めることは、いささか無理を強いることにもなりますので、單に罷免を可とする場合にのみ、その裁判官についての×の記号を附することとし、何らの記載をしない者は、罷免を可としないものと認めることにいたしました。
第三
審査分会及び
審査会。各裁判官につきまして、罷免を可とする投票の数が、罷免を可としない投票の数より多いときは、その裁判官は罷免を可とされたものとなるのであります。しかし、あまり投票数が少い時は、
國民審査の投票があ
つたといえません。あたかも、
衆議院議員の当選には四分の一という投票数が要ると同じように制限が要ります。その投票数の少い場合は、無投票選挙の場合、または
審査無効の判決が確定したため再
審査を行う場合等であります。これらの場合には、裁判官に対する
國民の関心の程度により、棄権が相当数に上るものと予想されるのであります。もともとこの制度は、
國民の多数の意思に基いて、裁判官として適任でない者を罷免させようとするのでありますから、現実の問題として、かような場合に、きわめて少数の者の投票によ
つて罷免されることとなるのは、この制度の本旨ではありませんので、投票の総数が全
審査権の百分の一に達しなければ、たとい罷免を可とする投票の数が、罷免を可としない投票の数より多くても、罷免されないことといたしたのであります。
第四
審査の結果。
審査によりまして罷免を可とされた裁判官または
審査人は、後に説明いたしますごとく、
審査または罷免の効力に対し、不服の訴えを起し得ることといたしましたが、訴訟期間(三十日)中、またはその訴訟についての裁判の確定前には、罷免の効力も未確定の状態にあるといえますので、その間は罷免の効力を生じないものといたしました。さらにまた、
國民の多数によ
つて罷免を可とされた裁判官が、その後ただちに最高裁判所の裁判官として任命され得ることといたしますと、
審査に現われた
國民の意思にも反する結果となりますので、一旦
審査により罷免された裁判官は、その後五年間は、最高裁判所の裁判官として任命されることができないことといたしました。
第五 訴訟。
審査は、これまで申し上げた所定の手続を履んで、投票によ
つて行われるのでありますが、その
審査手続きが違法であるとか、あるいはまた投票の
計算について誤りがあるとかい
つた場合には、選挙の場合に選挙訴訟と当選訴訟とがあるごとく、
國民審査にも、
審査または罷免の無効の問題を生じますので、選挙の場合と同樣、
審査無効の訴訟または罷免無効の訴訟を起し得ることといたしまして、
審査の公正を期するとともに、
審査人または裁判官に対し、救済の途を講じたのであります。
なお、再
審査、罰則、補則を規定していますが、ここでは省略いたします。
次に、本法案起草の過程におきまして、特に論議の
対象となりました二、三の点を拾
つて、條文の順序に
從つて御紹介いたします。
第一は、第五條の規定により、
審査に付される裁判官の氏名を、
審査の期日前二十五日までに官報で告示しなければならないが、その告示以後に裁判官が新たに任命された場合はいかにするかとの疑問がありますが、これは行政的措置により、さような任命は
審査の済むまで行わないことが妥当であるという結論に達しました。
第二は、第十六條の点字による投票の場合はいかにするかということが相当問題になりましたが、結局、盲人である
審査人の特殊性に鑑み、罷免を可能とする裁判官の氏名を、点字でみずから記載させることにいたし、一般の場合と区別いたしました。
第三は、第三十二條の但書であ
つて、これは本法案中最も問題と
なつたところでありまして、憲法第七十九條第三項の「前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。」という規定に抵触するおそれはないかという意見があ
つたのであります。そこで、愼重審議いたしましたが、この憲法の條項についても、他の部分と同樣に、憲法は
審査制度の大綱のみを定め、細目は
法律に委任しておるのであり、またこの制度自体が、投票者の多数の意思をも
つて國民の大多数の意思を推定するものでありますので、さきにも申しました通り、きわめて少数の者の投票により罷免の効果を生ぜしめることは、実際問題として酷に失し、また
國民大多数の意思と推定することもできないのであります。それゆえ、憲法第七十九條第三項にいうところの投票者の多数も、單に少数投票者の中の多数を意図しておるのではないとの精神解釈をすることが正当であり、憲法起草の際の立論の趣旨も、上述のような意図にあ
つたことがうかがえるのであ
つて、憲法違反のおそれはないものと信ずるのであります。
第四は、第三十五條第二項の「
審査の結果罷免された裁判官は、罷免の日から五年間は、最高裁判所の裁判官に任命されることができない。」という規定について、一旦
國民審査の結果罷免されたものは、再び任命されるべきではないという意見があ
つたのであります。しかしながら、
審査当時の
國民の意思について、これに永久的の効果を認めねばならないとする理論的根拠に乏しく、また一般政治
情勢の変動も考慮されますので、一應五年の歳月を経過したときは、再び任命され得ることといたしたのであります。その他
幾多の論議が活発に展開されました。
以上、本
提出案の趣旨及び
内容について御説明申し上げました。しかして、本案は
衆議院議員総選挙が行われる場合には、ただちに発動を必要とする
法律でありますから、私は本案の速やかなる成立を希望するとともに、
國民に
國民審査制度の本旨を十分徹底せしめ、本制度の適切にして妥当なる運用をはかられんことを切望する次第であります。以上、御報告申し上げた次第でございます。