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國務大臣(
和田博雄君) ただいま
総理大臣から、現在の
経済の状況と、これに対しまする
政府の
決意につきまして申し述べられましたが、私は先般発表されました
経済緊急対策の立案に当りました
責任者といたしまして、この
対策の底を流れておりまする基本的な
考え方につきまして、若干の御
説明をいたしたいと存じます。
今日のわが國の
経済が、どんな困難に直面しているかということの具体的な事実につきましては、別に提出されまする
実相報告書によりまして、
詳細ごらんを願いたいのでありまするが、いろいろの事実を通じまして、現在の
経済危機の根底をなしておりますものは、これを要約しますれば、第一には、
過小生産と呼ばれている
生産の絶対的な
不足であります。第二には、
國民経済において、乏しく
なつた蓄積資本
部分の消耗が行われ、
生産力の基礎は次第に弱まり、縮小しつつありまして、いわゆる
経済の再
生産の規模がますます小さくなり、
再建のために必要な資本の蓄積の要求とは、
経済の運行はまさに逆行しているという事実であります。第三の点は、
物價と
賃金との惡循環という形をと
つておりまする
インフレーシヨンの促進であります。
以上申し述べましたような事実認識の上に立ちまして、われわれはあの
緊急対策を作案いたしたのでありまして、この
対策を貫いておりまする基本的な
考え方は、大体次の三点に要約されると思うのであります。
〔
議長退席、副
議長著席〕
すなわち第一には、
生産の量を
増大すること、第二には、
生産と
消費とを調整し、
國民消費の
内容を合理的に切り詰めて、資本の維持、
生産財の
確保に努めるとともに、
生産及び流通を
計画的に行い得るような
経済の秩序を
確立すること、第三には、
インフレーシヨンの拡大を防止するために、
実質賃金の充実を中心としまして、
物價と
賃金との惡循環を断ち切ることの三つがこれであります。もちろんこの三つの目標も、互いに密接に繋が
つておるものでありまして、これを達成しまするための
手段も、それぞれ切り離せない
関係にな
つておりますことは、申すまでもないのであります。
第一に、
生産の量を増しますためには、基礎的な
生産資材の重点的な増産と
輸出の
振興という二つの方策を中心として
考えております。わが國の
経済回復をできるだけ自力によ
つてはかりまするためには、まず國内にありまする
生産資源を、余すところなく活用するのが当然であり、その重点は、
食糧はもとより他の物資の
生産の前提になりまする基礎的な
生産資材に向けられなければなりません。この
意味で、石炭、鉄鋼及び輸送力というものに、他に優先しましてあらゆるものを注ぎこみ、これを大きくしていくことによりまして、迂回的に次第に他の
産業を拡大していくという、いわゆる傾斜
生産の方式は、あくまでこれを守り抜く
考えであります。
本年度におきまする石炭
生産三千万トン、鉄鋼
生産七十万トン、陸上輸送力一億一千六百万トン、海上輸送力千六十八万トンの目標は、できるだけの
努力を
拂つてこれを達成したいと
考えておるのであります。しかしながら、これらの基礎
産業の復興に必要な資材も、決して十分にあるわけではありませんで、迂回
生産によ
つてつくられた
生産資材が、再びこれらの基礎
産業にまわ
つてきまするのを待
つていたのでは、時間がかかることを
覺悟しなければならないのであります。
この時間を最も短かいものに切り詰めますためには、一方で
輸出を行いまして、
輸入資金を獲得し、これを使
つて、端的に必要な資材を購入することが最も早途であります。現状におきましては、わが國は、
國民のやつと生きていくだけの
食糧を
輸入するにさえ、はるかに
不足な
輸出しかいたしておりませず、復興資材の
輸入は、ほとんど言うに足りないようなありさまでありますが、一日も早く
経済の建直しをしますためには、われわれはどんな無理を忍んでも、できるだけの物はみな
輸出して、復興資材の
輸入資金をつくり、これを基礎
産業に注ぎこみまして、
生産循環の拡大をはか
つていかなければならないと
考えるのであります。もちろん
輸出を盛んにしますためには、乏しい中から、
輸出産業に必要なだけの
生産資材を割かなくてはなりません。しかし
國民が一致
協力して工夫いたしますならば、今の國力が割くことのできるだけの資材で、なお担当の
輸出品の
生産ができることを確信いたすのであります。
このような
方法で
生産量の
増大をはか
つていこうとするのでありますが
生産を上げていきますための
根本は、つまるところ、
勤労者諸君の
労働生産性の
向上にあります。現在の
労働生産性は、
勤労者一人当りでみますと、平均して
戰前の二分の一ないし三分の一に落ちております。どうしてもこれを上げていかなければ、諸
外國の
労働生産性に比べて低いだけ、それだけわが
國民生活水準が低くならざるを得ないのでありまして、單に國際市場におきまして、太刀打ちできないばかりでなく、いつまで経
つても
文化的な
生活水準に達することができないのであります。
勤労者諸君が進んで
勤労意欲を発揚し、技能の錬磨に
努力されましたならば、海外諸國に対してはづかしからぬ能率を
実現するだけの素質は、わが
日本民族は十分にも
つておるものと信ずのであります。
もちろん
労働生産性の低下は、決して
勤労者諸君だけの責任ではございません。
労働力と結びつかなければならない原料や資材や、
生産設備にも
原因はあります。また大きな問題としまして、戰時中に
生産技術が停滞したり退歩したり、経営者側の経営能力が低下したことをもあげなければならないと思います。ここに
貿易の再開を控えまして、
輸出に最大の重点をおいたこと、また將來のわが
國経済が大きく國際
貿易に依存することを
考えてみますならば、今日から技術の改善と経営の合理化とに、あらゆる
努力をしなければならないと信ずるのでありまして、
政府としましても、これにつきまして、できるだけの措置を講ずるつもりであります。
基礎
生産財
産業と
輸出産業に重点をおくということは、他の
産業や一般
國民の
消費に與えられるものが、それだけ少くなるということを
意味するのであります。このことは、長い目で見まするならば、
國民全部のためになることでありますが、短かい期間について言いますならば、当然
國民の犠牲によ
つて、貴重な物資やサービスが重点
産業に注ぎこまれるのだということであります。そうでありまする以上は、
政府としましては、こうして注ぎこまれたものが、ほんとうにあげるべき効果をあげるように指導していく責任があるのであります。このような見地からしまして、今までの私の
企業形態による經営では、どうしてもこのことが保障できないという場合には、直接
政府が責任を負えるような体制をつくろうという
決意が、当然生じてまいるのであります。
第二の点、すなわち
生産と
消費との調整に関する点でありますが、これは二つの
方面から
施策を
考えていく必要があるのであります。一面におきましては、現在のようにきわめて乏しい
生産のもとで、
生産資本に対する食込みをやめてしまい、重要
産業については積極的に資本の蓄積をはか
つていく、そのためには、相当な
部分を
生産財に割いていくということを
実行いたします以上、
國民消費に残される
部分は、さしあたりは、きわめて限られたるものとならざるを得ないのでありまして、
國民の
耐乏がどうしても必要とな
つてくるのであります。
そうであるとしまするならば、この乏しい
消費部分は、
國民の間に均等に分配されなければなりません。
國民の一部だけが
耐乏生活を強制をされておるのに、
他方では贅沢な
生活をしておる者があるとしまするならば、これをそのままにしておいて、
國民に
耐乏を求めることはできないのであります。かような見地からしまして、
政府といたしましては、
インフレ利得は、ためらうことなくこれを國庫に徴收し、
國民全般の福利のために使用する
方針を堅持していくつもりでありますが、乏しい
國民の
消費部分を横流れさせるもととなるような、料理店とか飲食店などの奢侈的な
消費施設に対しましては、七月五日からさしあたり六ヶ月間、全國的にこれをやめさせることといたしたのであります。
われわれは、
経済の建直しをなし遂げる原動力が、
國民の血と汗の
勤労のほかにはないことを固く信じておるものであります。この
國民の
勤労に報い、またこの
國民の
勤労を励ますために、
政府はこの乏しい
消費分の中から、できるだけ
勤労の度合に應じた重点配給を行
つていくつもりであります。またいろいろなやむを得ない
事情から、働きたいと思
つても働けない人々に対しましては、できるだけの援護措置を
実施していく
考えであります。
次に第二の面として、
生産と
消費と合理的に結びつけ、物資の
生産と流通が秩序正しく
計画的に行われるように、できるだけの
施策を講じる必要があります。今日までの
経済の惡化の一番大きな
原因は、率直に言いますならば、この流通の秩序がま
つたく乱れておるということにあります。乏しい
経済力を有効に使
つて、何とかして國の
経済を建直そうとするならば、これを
計画的に運用しなければならず、その運用を確実に行うためには、物資を秩序正しく流すようにしなければならないのでありまして、前に述べました基礎
産業の重点集中も、
輸出の
振興も、これができなければ、決して成功はしないのであります。またこの流通の秩序が乱れておれば、一部の者が不当の利得によ
つて不当の
消費をなし、他の
國民は、不当にその
勤労の成果を搾りとられて、ただでさえ乏しい
生活の最低限度すら脅かされるようになるのであります。この物資の流通の秩序の
確立こそ、すべての
経済対策の要であり、前提であります。
企業も、正しい径路によ
つて、きめられた資材が手にはいり、
國民も最低限度の
生活を
確保するための配給物資が、間違いなく手にはいるようになれば、困難なる
條件のもとでの
生産も、
計画的に
実行されるでありましようし、苦しい
耐乏生活も、明るい氣持で忍んでいくことができるでありましよう。
政府としても、この点に
全力を傾けて、民主的統制
機構の
再建に努める
決意を固くしておる次第であります。
第三の点、すなわち
物價と
賃金の惡循環を断ち切ることは、最もむずかしい問題であります。私たちは、
勤労者諸君の
生活が
確保され、改善されることを強く望んでおるのであります。しかし
財政も
企業も家計も
赤字である今日におきまして、この問題を貨幣
賃金を中心として
考えますと、家計の
赤字を埋めるために、またそれだけの貨幣
賃金の引上げをいたしますならば、
生産量の増加その他の
生産條件に変化のない限り、それはただちに
企業や
財政の
赤字を大きくすることになり、
企業の
赤字を埋めますために
物價を引上げますならば、貨幣
賃金の
購買力が減
つて、家計は再び
赤字になり、
財政の
赤字もさらに加わり、
財政の
赤字を埋めますために増税をしまするならば、家計と
企業はまた
赤字となり、
國民貯蓄の裏ずけのない公債発行で賄えば
物價が上るというふうに、
赤字は家計と
企業と
財政の間を轉々として移動しまして、そのたびごとに
物價と
賃金との水準を循環的に引上げて行くのであります。
これこそ、とりもなおさず
インフレーシヨンの
進行の姿でありまして、
経済安定とはおよそ正反対のものであり、結果において何ら
勤労者の利益とならないのであります。從
つて眞に
勤労者の利益をはかり、その家計を改善していく
方法は、貨幣的な名目
賃金の引上げではなく、その実質的な
消費内容の充実であると信ずるのであります。
経済実相報告書にも明らかにしておきましたように、今日の家計の
赤字の大きな
部分を占めるものは、数量からみれば、わずかのものをやみ買いするための支出であります。このやみ買いが少くなればなるほど、同じ貨幣
賃金で、
勤労者の
生活内容はうんと豊かになるのであります。私たちはあらゆる
手段を盡して、このやみ買いを少くすることに
努力し、これによ
つて家計の安定をはかり、その結果として貨幣
賃金を安定し、ひいて
物價の安定を
確保しようと
考えるものであります。すなわち
物價と
賃金との悪循環という形で現われている
インフレーシヨンを断ち切る
方法は、結局においては流通秩序の
確立、すなわち、やみの撲滅と
生産量の増加のほかにはないのでありまして、
根本的には、第一と第二の問題が解決されてはじめてこの問題は解決され得るのであります。しかしながら現実の
経済が、貨幣
経済として動いておりまする以上、この三つの問題は互いに絡み
合つておるのでありまして、第一、第二の問題と併行して、やはりこの面からも手を打つ必要があるのであります。
そこで
政府といたしましては、すでにまじめな
企業にと
つても、とうてい堪えられなくな
つている現在の價格体系を、少くとも当面のコストをまかなえる程度にまで全面的に改訂いたしますとともに、その家計などへの影響を緩和しますために、國庫支出による補給金を活用しまして、
物價の騰貴率を一定の安全帶の中に食い止め、家計に対しましては、正規配給量の増加などを考慮しつつ、改訂
物價のもとにおいても十分生計の
確保できるような業種別の平均
賃金を設けて、これを新たな價格に同時的におりこんで行くという
方法を採用いたしたのであります。なお右の正規配給量の増加については、
食糧が一番の問題になりますので、
政府としましては、今回の
緊急対策においても、これを第一に取上げ、またその具体化についても、他に
さきがけて、本日その大綱を決定発表いたした次第であります。
もちろん
インフレーシヨンの
進行をおさえるためには、
財政を引締め、
企業に対する
赤字金融も、やむを得ない限度に止めなければなりません。しかしこれらの取扱いは、短い期間における数字上の形式的なバランスよりも、やや長い先を見透して、
國民経済全体の健全な回復に最も役立つように運用されなければならないと
考えるのであります。かようにして、
財政も、
企業も、家計も、いずれも苦しいところを堪えながら、
國民全部が助け
合つて、正しい流通秩序の
確立と
生産の増強とによりまして、この苦しさを
根本から解決していこうと
考えておるのであります。
政府としましては、
勤労者諸君に対し、その
実質賃金を引き上げる
方法は、結局自らの
勤労によ
つて生産を増加し、その
勤労の果実である
生産物を、正しく自分達の手に入るように、お互いがもつともつと密接に助け合うようにするほかはないことを、十分に理解していただきたいのであります。
以上が、先般発表いたしました
緊急対策の底を流れている
考え方の骨子でありまして、われわれは、その前文にもありまするように、誠実にその
実行に
努力いたすつもりであります。これに伴なう具体的な
施策につきましては、すでに一部
実施に移したものもありますが、今後も引続き急速にその
実行をはかることとしまして、この
國会にも、必要な
法律案、
予算案を提出いたしまして、御審議を願う
予定であります。
この
緊急対策は、その名の通り、緊急を要するものであります。しかしながら、それは決して目前の
インフレーシヨンの
進行を一時食い止めるというような、目先だけのことを
考えたものではございません。
政府といたしましては、
日本経済再建の長期にわたる構想の一環として、この
緊急対策を
考えているのであります。また
危機の防止のみに專念いたしまして、
國民に
耐乏生活を説くのみで、將來の
希望について何らの見透しをもたないというような消極的な態度も、決してと
つてはいないのであります。われわれは、ほんとうに
計画的に
経済を運用していきますならば、
経済の
再建は、たとえ困難ではありましても、決してそう遠い將來ではないと確信しているのであります。この
意味からも、私たちはできるだけ早く長期の
経済再建計画を計数的に作成して、
國民諸君に報告したいと思
つております。
しかし例をこの二十二年度にとりましても、われわれは本年度をも
つてわが國
再建のための第一歩として
計画を立てているのでありまして、きわめて限られた
輸入物資の期待のもとに、もつぱら國内の
経済力を重点的に運用いたしまして、前にも述べました通り、石炭三千万トンを基礎といたしまして、これと鉄鋼
生産、輸送力の三者を中核として鉱工業
生産全体の水準をあげることをねら
つているのであります。もしも私たちが、
國民一致の
努力によ
つてこの
計画を達成をしましたならば、たとえば鋼材は、昨年度の三十三万トンに比べまして、二倍以上の七十万トン、セメントは昨年の百二万トンに対して、八五%増の百八十七万トン、化学工業の基礎であるソーダ灰、苛性ソーダは、それぞれ昨年の二一五%、六四%の増加となります。また
食糧生産の重要
條件でありまする硫安の
生産も、昨年度の五十五万トンから、約二倍に近い百三万トンにまで上昇し得るのでありまして、これによ
つて農業
生産の
増大に寄與することができ、今後の農業
生産の使命である國内市場の拡大と
貿易收支の改善という方向に前進することができるわけであります。次に
輸出の大宗である綿糸も、昨年度の二倍を超える
生産をあげ得る見込みなのであります。
もちろん、これまで
生産を回復してみましても、それは
戰前の水準に遠いことは言うまでもなく、また現在の最低需要を満たすにも、なお
不足でありましよう。從
つてこれだけで、
経済が安定するのに十分だと申すわけにはまいりません。しかし自然に放置して、破局の淵に追いこまれるのと比べまするならば、われわれの
努力次第でここまで回復できるということは、非常に大きな相違であると言えるのであります。しかもこれだけのことがなし遂げられまするならば、われわれはこれを土台として、次の年度には、また
生産の規模を一層高め、終局の安定に向
つてさらに一歩を進めることができるのであります。
このような、回復か破滅かのわかれ道を決しまするものは、ま
つたく今日のわれわれのやり方いかんにかか
つているのであります。そうしてこの回復の途を歩み得るためには、
経済が
計画的に運営されることが絶対の要件であり、これを裏ずけするものは、
経済秩序の
確立であります。この
経済秩序の回復の第一歩が、今度の
緊急対策にほかならないのであります。
しかしこの困難な仕事をなし遂げ得ますかどうかは、ま
つたく
國民がこれを理解しまして、單に外から
協力するとか、批判するとかいうのではなく、自分たちが主体とな
つてこれをやるのだという氣持で起ち
上つてくださるかどうかによ
つて決定するのであります。どうかかような
意味におきまして、
國民諸君が一丸とな
つて、われわれとともに進んでくださることを切にお願いする次第であります。(
拍手)
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