○稻田
政府委員 ただいま
委員長から
お話がありましたように、お
手元に御配布申し上げておりまする
當用漢字音訓表、及び
當用漢字別表につきまして、
概略の御
説明を申し上げたいと存じます。
先月二十九日、
國語審議會總會におきましては、
當用漢字音訓表及び
當用漢字別表を議題として
審議いたしまして、これを
決定いたしたのであります。申すまでもなく
漢字制限の問題につきましては、昨年十二月の同
國語審議會の
總會において、
當用漢字表が議決され、ついで
内閣訓令等をも
つて實施の運びになりまして、漸
次官廳公用文、
教科書、
新聞等にだんだん實行されておるのでありますが、昨年の
當用漢字表は、單に
字數を
制限したばかりものでありまして、
漢字制限の
仕事をさらに歩を進めて徹底するためには、
漢字の亂雜な使い方を
整理することが必要なのでありまして、それには
漢字の讀み方すなわち音あるいは訓の
整理をいたしまして、ある
程度の
制限をこれに加えまして、
漢字の
使用をなるべく合理的に能率的にすることが必要なのであります。そこでこの
音訓整理という
仕事に著手いたしたのでありますが、
音訓の
整理にあたりましては、
一つ漢字には一音一
訓——一つの音、
一つの讀み、あるいはそのいずれか
一つを採用することが
理想的なのでありますが、
現代の
言語生活を
考えますると、必ずしもこの方針を全面的に徹底することが困難であるのでありまして、そこにある
程度のゆとりを認めざるを得ないのであります。あるものにつきましては二音三音を認め、あるいは三訓四訓を認めたものもあるわけであります。この
音訓整理表は
當用漢字表の
趣旨と同樣でありまして、あくまでも
當座の用に役立つことを
めやすといたして選ばれたのであります。あまり
整理に急でありますると、かえ
つて實際に行いにくいというような點も
考えまして、
理想と現實の
兩面から
考えまして
決定されたものであります。この
程度の音と訓がありますれば、日常普通の文章を書く上においてはままず不便がないだろうというよう
考えで制定せられたものであるのであります。
次にもう
一つ差上げておりまする
當用漢字別表でございます。これはかりに名づけますれば
義務教育用漢字表とでも申しまするか、つまりこれは
當用漢字のうちで
義務教育の
課程のうちに讀めもし、書けもしなければならないという字を選び出そうという
目的のもとに選定されたものでありまして、
總字數八百八十一字に相な
つております。この表の
漢字は、ただいま申しましたように讀み
書きともに
義務教育課程において修得せし
むることを目的といたしておるのでありまして、今後
國語の
教科書等におきましては、そういう
範圍のうちに編修せられることになり、また
實際教育の上におきまして、そういう
目的をも
つて教育せられることに相なろうと思うのであります。しかしながらこのほかにも
當用漢字表の
範圍内で
教科書に出てくる字が相冨多いと思います。これは單に讀める
程度に修得せられればいいというような
意味を
もつわけであります。
義務教育用漢字表にあるものは、讀めもし、書けもするということで教える。それ以外の、
當用漢字中、
教科書に出てきたり、あるいは
學校で教えるものは、一
應讀めればよろしい。
實際社會に出ました上に、その
程度讀めれば不自由がなかろうというような
程度のものを
考えておるわけであります。今後
一般の御
協力を得ましてだんだんと
國字改良の方角が進んでまいりますれば、昨年の
當用漢字に掲げらたました
字數も、さらに
制限せられてくることと
考えられます。從いましてその結果といたしましては、
當用漢字表と、ただいまお目にかけました
別表との隔たりは、
將來ますます縮ま
つてまいるべきものであると
考えておるわけであります。なおこの
漢字の
制限につきましては、
もつと根本的に
言葉という
方面からも
考えることが必要なので、
漢語整理というような點についても目下いろいろ
研究等を進めておる次第でございます。
以上お手もとに差上げました
當用漢字音訓表及び
當用漢字別表の大體の性質を御
説明申し上げたわけであります。詳細な點につきましては、いろいろ御
質問に應じまして申し上げたいと
考えております。
當用漢字音訓表につきましては、大體に今申し上げたような
趣旨でありますが、
當用漢字千八百五十字をなるべく合理的に能率的に使いますために、
字音と
字訓とを
整理しようという
趣旨でいたしたものであります。
先ほども申しましたように、
實際の
社會生活ということを始終頭におきまして、まずこの
程度あれば不便がなかろう、能率的に
文字生活をなし得るというような
めやすからいたしたわけであります。
字音の
整理という問題につきましては、御
承知のごとく漢音とか呉音とか、唐音とかいろいろな讀み方ないし
慣用音等がありますけれ
ども、そういうことにとらわれないで、
現代生活において、
現代語においてしばしば使われる、きわめて普通のものを選び出そうというような
意味でも
つてまいりましたわけであります。從いまして、
漢語の中には、
かな書きにしにくいものが相當あるのでありまして、
字音の方では思い切
つた整理をすることがむずかしい點もあ
つたのであります。
從つて字訓に比べては相當ゆるやかにな
つておる感があるわけであります。
次に
字訓につきましては、やはり同じ見地からいたしまして、今、世の中に廣く行われておるものをと
つてまいつたわけであります。
かな書きにして差支えないものが、
字訓の面においては相當多いと
考えられましたので、思い切
つて整理をいたしてまい
つたのであります。
古訓——古い讀み方等も、たいてい捨ててまい
つたので、いわゆる
異字音訓の
整理、
違つた字に同じ讀みがあるというような
整理につきましては、
かなり徹底的に行つたわけであります。たとえば「みる」という字につきましても、いろいろ字があります。それを
一つにしたというようなことであります。ただ、たとえば「生れる」という字、「生きる」という字のようなものは、現
在社會生活の必要から見まして、こういういわゆる同
字異訓という面の
整理につきましては、必ずしも徹底することができなかつたというような結果に相な
つております。
なおこの表の
注意書にもありますように、たとえば自
動詞で出ているものは他
動詞にも使える。逆もその通りで、形容詞で出ているものは
動詞にも使える。あるいは形容
動詞を
動詞にも使える。その逆というふうに、多少ここは
一つの型をなしておるわけでありますので、その邊の融通はつくように相な
つておるわけであります。
それから
義務教育用の
漢字の問題につきましては、
先ほど申しましたように、一通り讀み
書きをするということで、
學校を出て不自由のないようにという見透しをつけまして選び出したものであります。
かながきにして
都合の惡い字で、熟語をつくる力がなるべく多いものをここに選び出してきたわけであります。つまり能率的な字を拾い上げようという氣持ちで出してまいつたわけであります。今日までの
使用状況の多いか、少いかということが、重要な參考に
なつたことは、もちろんでありますが、
國語の
民主化という精神から
考えまして、
用字法上の
將來にかけての
理想を
考えて、
當用漢字表で
かながきにすることを原則としている
考えに立脚いたしまして、さらに
當用漢字表のときよりも一歩進めていろいろ
考えたわけであります。
なおこれまで
一般にむづかしすぎると
考えておりました
科學用語、あるいは農業その他の産業に關しまする
用語等はなるべくは
かながきにする、あるいは
日常語に近い
言葉でわかる
言葉に改めたいという點から考慮いたしたわけであります。
一般にまたその
字畫だとか、あるいは
音訓の
意味のむづかしいものは、
教育用漢字からは省いてまいつたわけであります。大體そういうふうの
趣旨でこの要綱ができている次第であります。