○山添
政府委員 重富委員から非常に深くこの
法律を研究されました上においての御質問がございました。一章ごとに御答辯申し上げたいと思います。
第一に特別相續分として全
財産の二分の一ということを限度といたした、その結果現實の
農家の
資産の中で、
農業資産が九割を占めているような場合が通常であるが、その場合に初めから
農業を承繼したものが、たとえ兄弟であるにしても、若干の
借金をしよ
つて出發することになるではないか、仰せの
通りであります。しかしその割合はどの程度の負債になるかと申しますと、まず全體の五割は特別相續分として餘計にもらう、假に相續すべき兄弟が二人であるとすれば、
農業資産相續人の相續分は七割五分になりますし、三人でわけるということであれば六割六分になり、四人でわけるということであれば六割二分五厘、こういうようなことになりまして、相當程度保護されておる。從
つてかりに
農業資産の額が全體の
資産の中での八割乃至九割といたしましても、まず最大限全體の
資産についての三割とか二割とかいう
範圍に止まるわけでありまして、その程度のものでありますれば、それは償還ができることであろうと期待をいたしております。もとより
農業を受け繼ぐ人だけの立場から申しますれば、
重富委員御
指摘のような事態よりも、さらに進んで
農業資産の全部を特別相續分として受けるということが望ましいとは思いますけれ
ども、それではまた新らしい憲法によりまして均分相續の
制度をと
つておるという原則に對して、あまりにも考慮を拂わぬということになるわけでありまして、從
つて特別相続分として餘計に受けます限度を、民法にいうところの遺留分の
範圍を害さない程度にとどめたのでありまして、すなわち全體の
資産の二分の一の
範圍ということにいたしたのでありまして、これは均分相續の原則をある程度考慮しつつ、
農業を承繼する人の立場を擁護していこう。こういう點から出ているのでありまして、この邊が
適當なところであり、かつまた妥當な點ではないか、かように存じておるのであります。なおまた將來
状況によりましては、
農業資産を受け繼ぎました人が、他に償還するところの負債等を容易ならしめるための金融の
制度等は、併せて考究いたしていきたいというふうに考えておるのであります。
次に第六條の問題でありますが、指定相
續人が
農業を
營む見込みがないことが明らかというようなときには排除されるという點について、争いをしげくするおそれはないかというお尋ねであります。これは見込みがないことが明らかなときというのでありまして、積極的に見込みがあるということを證明することは、非常にいろいろな場合にめんどうはございましよう。しかしこれは見込みがないことが明らかだという書き方でありまして、たとえば非常にまだ子供であるとか、體が成熟していないとか、なるほどそのときに、これは見込みがあると、こうがつちり言うことはまためんどうでありましようが、しかし見込みがないことが明らかであるということはなおさら言えない。ですからこれは濫用されるこ
とはないと思うのでありまして、第六條は、保護される人はあくまでも
農業を現實に承繼する人である、この
法律の
根本條件、
根本の思想を表明するという
意味におきまして必要であると思うのであります。しこうしてその條文の書き方等におきましても、濫用されないようなことにな
つているというふうに
政府としては考えているのであります。
それから第十
二條に、價格を超過する疑いがあるときはというアンキシヤスな字句を使
つていることの
理由でございますが、こういう從來あまりないような字が使
つてあります
理由は、幅をもたせるということでありまして、この
法律そのものの全體ががつちりした權利義務というよりも、どうせ争いがあるというときが問題でありますけれ
ども、家庭内の
事情として、これは將來は家事審判所によ
つて、諸般の一切の
事情を斟酌して物事をきまるというようなことで運用されていくのでありますが、そういう性質のものでありますので、この十
二條に
規定してあります
農業資産相續人の償還義務につきましても、そこにゆとりをもたせる。こういう趣旨が潜んでいるのであります。その一例と申しますか、私
どもが考えておりましたことを申しますれば、この前も申し上げましたように、隱居の
制度がなく
なつた、そうすると親父さんが七十にもな
つている。子供も五十いくつにもな
つている。そして實質的に申せばもう子供の代にな
つている。そのときにまた他の兄弟がおれによこせというようなことで、きちつと計算をするといいましても、實際の
事情に合わないような場合がある。そういうような場合におきましては、これは當然五十近くにもなりました人が親父とともに働いておつたところの、その働きによ
つて得たところの
農業資産の中の
財産分というものを認めなければならないわけであります。ところが現實の場合に、西洋人のように親子の間で賃借をしているというような習慣は、當分は日本にはなかろうと思うのでありますが、そういうような漠然たることもありますので、そこはやはり一切の
事情を斟酌して、こういう償還義務等もやはりきめなければならない。そして
財産の價格を超過する立場とこうや
つてしまわないで、そこにいくばくのゆとりがあるということが一つ
理由であるとともに、この全體の
法律の取扱いとしては、家事審判所で
事情を斟酌してものを
調整するというような建前で取扱
つていくためには、また
法律の字句として超過するときとやらないで、何らかそこにゆとりのある字句を使う必要が立法技術上あるというようなことから、ちよつと奇異な感じがいたしますけれ
ども、こういう字句が使
つてあるのであります。
それから第十四條の
農業を
營むことと書いてありますことと、第
二條の一時
耕作の業務をやめた場合とどう違うか。これは文字の表現してある
通りに違うのでありまして、第
二條の場合におきましては、問題は土地に
關係をいたしておるのでありまして、元來小作地は
農業資産を小作に出しておるのでありますから、
農業資産の
範圍にははいりません。しかしながら、
耕作する人の家族に病人があ
つて勞働力が
不足である、あるいは何らか職業の都合で外に出ておるために勞働力が
不足である。そのために一時小作に出しておつた、こういう場合を考えておるのでありまして、これは今の
農地改革の法令の中にも同じような
規定、同じようなケースを
規定しております。もとよりこの一時という期間は何箇月であるか何年であるかということはきつちりいたしておりません。これは常識的に考えて、ある程度長い期間にわたりましても一時であると思いまするが、ただ特別の
事情がやみますればまたもと
通り自作をする。そうすればこれは當然
農業資産に本來屬すべきものであるから、一時小作に出してお
つてもこれは
農業資産に屬せしめるという趣意であります。しかるに十四條の方は、土地を對象といたしませんで、受け繼ぎました
農業資産について
農業を
營むという
意味でありまして、
農業とは何ぞやといいますれば、第
二條の末項に書いておる
通りであります。
それから第十五條の非常にむずかしい御質問であります。これにはいろいろな場合があろうと思うのであります。これは非常にたくさんもらいすぎたという例があるわけであります。先ほど申しますように、本來特別相
續人が二分の一と限定をしてある。そして兄弟が二人あれば七割五分しか受取れない。ところがおあげになりました例によれば、
農業資産の價格は全體の七割に及ぶ、この場合にはとりすぎにな
つておるのでありますが、これを贈與または遺贈といたしますことは、建前上遺言等による
處分は自由でございますために、尊重はされますけれ
ども、餘計とりすぎがある。そうすれば他の兄弟の遺留分を害しておるという
理由によりまして、十
二條に書いておりますと同じような償還金、ここの言葉で言えば、遺贈とか贈與の場合は返濟するという問題が起るわけであります。その場合に、物によらないで價格によるということを十五條としては明らかにしたという
意味でありまして、十五條がしば
つておるのはそういう場合の相
續人に對する贈與または遺贈のみであります。極端な例を引けば、これは赤の他人にやるというようなことを、何も制限してないのはおかしいではないかというお話であります。なるほどそういうことは
法律上のつり合いから見ますとおかしいようでありまするけれ
ども、この
法律全體の構成といたしまして、
農業資産を相續する人も保護いたしまするが、同時にまた遺言の自由ということは認めておるわけであります。第十條の第三項に民法千六條の適用を妨げないというような
規定も引いております。これは特別相續分が二分の一であるのを、三分の一にしておけというような遺言もできるわけでありまして、遺言等の自由は制限をいたしていないという趣意であります。それでは實際の問題について見ればどうか。この
法律の
目的とするところは、相續ということによ
つて農業資産が當然に機械的に分散される。いわば均分相續をそのまま適用されることを防いでおるのでありまして、これが生前
處分によ
つて今までいうところの分家をさす、その場合に土地をつけてやるということは、何ら禁止もしておりません。かようなことにつきましては、おのずから社會の
状況、家庭
事情によ
つて、生前に
處分しておくこともございましようし、またこの
法律の
關係によ
つて、兄が一應
農業の
資産を全部受け
繼いだ、しかし受け
繼いだ後に弟にまた半分贈與しようということも制限しないのでありまして、これは
家産法のように、あるかちつとしたものを考えて、これを繼續していこうということではなしに、
農業資産が殖えたり分割されたりするようなことは、一應社會的な現象として認めつつ、相續によ
つてわかれるという問題を防ぐためにこの
法律の適用がある。こういう趣旨であることを御
承知願いたいと思います。
それから第十九條でございますが、
委員等の
意見と言いますのは、
委員一人または數人、また
委員會全體の
意見でもよろしうございます。ただ
委員會の決議をも
つてしなければ答申ができないのだということがありますると、これは必ずしも
適當ではないわけであります。こういうふうに制限いたしますれば、從
つて委員會の決議として聽くという場合もありましよう。
委員會のうちの數人の
意見を聽くということもありましようが、それは運用に任されている。しかして
委員が
意見を申し出ました場合に、その
意見に
拘束されるやいなやということにつきましては、これは
裁判所は
拘束をされません。
農地に關することでございますし、また
農地委員は村の人でありまするので、
農業を承繼するに最も
適當なる人に
農業資産を承繼せしめたいという趣旨からの第十九條の
規定でありまして、それではその他萬般について、いわゆるもの知りと申しますか、常識のある、また世間の信望のある人の
意見を聽くことが必要ではないかという點につきましては、家事審判法等が施行されますれば、この
法律もまた改正されて、家事審判所でさばくということにな
つておりまするので、その場合にはまたお話のような點がそちらの方で行われる。かように存じておるのであります。
それから
山林を除外しておるのは不備ではないかという點でありますが、自家用薪炭原木採取の
目的に供される土地の所有權、すなわち
農家の普通も
つております山には、もとより用材をとることを
目的とする
山林と、自家用の薪炭、燃料をとる、また草を刈るというような、
農業經營と密接不可分の
關係にある山と二
通りありますが、この場合には、
農業經營と密接不可分の
關係にある
薪炭林を考えたのでありまして、もつぱら用材を
目的とする
山林についてはこの
法律の對象としてはいないのであります。