○稻川宮雄君
百貨店法が制定されました當時においては、いわゆる全國の小賣商が血みどろの爭闘をして獲得したという
法律でありますけれ
ども、しかしその當時と今日とは社會的にも
經濟的にも非常に異な
つておりますし、また獨占禁止法竝びにこれに關連いたします一連の
法律が制定されました今日においては、
百貨店法はその必要を認めないということが、一般的にあるいは
經濟的に、理論的に言い得ると思うのであります。しかしながらこれを全國の中小商業者あるいは小賣商という立場から
考えると、この小賣商は全國で百數十萬ございます。その家族從業員を合わせますと、おそらく國民の一割には達するであろうと思いますが、この中小商業者、特に小賣商の
意見を總合いたしますと、
百貨店法の廢止ということに對しましては大體において不賛成者でありまして、これを存續してもらいたいという
意見が壓倒的になるであろうと思います。なぜかと申しますと、これははなはだ理論的ではないかも知れません。あるいは感情論であるかもしれませんが、
百貨店法が廢止されますと、どういたしましても百貨店が自由なる營業によりまして、一般中小商業者の分野に食いこんでくる。現在においては
百貨店法制定當時とは非常に事情が異な
つておりますけれ
ども、しかしながら出張販賣あるいは支店の増設擴張ということは、現在においても各百貨店が計畫しておるところでありますから、出張販賣あるいは支店の増設等の計畫によりまして、一般の中小商業者の分野に食いこんでくるということは當然豫想されるのであります。そのために一般中小商業者は非常なる影響をこうむりまして、場合によ
つてはこのために失業者を發生するということも
考えられるのであります。
經濟的に言いました場合には、失業者を生じましても、これは別に失業對策として考うべきことでありまして、
經濟理論から申しますならば、
經濟發展の法則としてやむを得ないということになるかと思いますが、しかしながらこの失業者をどうするかという點につきましては、今日
政府においても的確なる具體策がないようであります。むしろ厚生省にまいりますと、一般の失業者を中小商業部門において吸收したいという逆の
意見さえもあるようなわけでありまして、こういう
意味において一般中小商業者から失業者を生ずるおそれある
百貨店法を廢止するということに對しては、小賣商としては反對いたすわけであります。また獨占禁止法その他の
法律があるとは申しますが、これは理論の問題ではなく、
實際問題といたしまして、はたして
公正取引委員會に提訴して、同
委員會が的確に時機を失せず
措置してもらえるかどうかということについては、多大の不安をも
つておるわけであります。あるいは百貨店の政治的なる工作ということも
考えられましようし、また小賣業者自體が
公正取引委員會に提訴するという進んだ
考えをも
つておるかどうかということについても、非常な疑問があるわけであります。むしろ獨占禁止法というものと
百貨店法というものとが、非常に矛盾するならば別といたしまして、獨占禁止法の足りないところを
百貨店法が補
つておる。これを補完しておるという作用をも
つておるならば、獨占禁止法の一種の特別法として存續してもらいたい。こういう
意見が生じてくるわけであります。あるいは資金、建築等につきましては臨時資金調整法なり、臨時建築制限規則等がございますが、これらはいずれも臨時でありまして、この法令はいずれ廢止されるというような場合におきましては、獨占禁止法では十分その目的を達し得ないというような事態も起るのではないか、そういうような關係からいたしまして、一般の中小商業者、あるいは小賣商といたしましては、
百貨店法が制定された當時ほどの打撃はもちろんございませんし、今日の場合、もし
百貨店法がないのに、これを制定して欲しいというような
意見はおそらくないと思いますが、一旦できております、この
百貨店法というものを、獨占禁止法の趣旨に反しないならば特別法として存置してもらいたい、つまり百貨店と一般の中小商業者とは初めから事業能力の上におきましてはなはだしい隔差があるのでありますから、初めから隔差があるものならば、その事業能力の隔差を是正する
意味におきまして、獨古禁止法の發動をまつまでもなく、一應
百貨店法というものを存置いたしまして、そうして小賣商の保護にあた
つていただきたい、こういう希望を一般にも
つておるわけであります。しかしながらこれは小賣商の
一つの感情的な
實際問題でありまして、今日の場合、獨古禁止法その他の
法律が制定され、これによ
つて十分百貨店と一般小賣商との公正なる競爭というものが是正されるということでありますならば、あえて
百貨店法に反對するものではありませんが、以上申し上げました點を御勘案願いまして獨占禁止法の適正なる
運營を切に希望する次第でございます。
以上簡單でございますが
百貨店法廢止につきまして
意見を申し上げます。