○吉田(安)委員 それでは私から
最高裁判所裁判官國民審査法案起草に關する報告をいたします。
日本國
憲法は
國民主權に立脚し、公務員の任免權が本來
國民に属することを宣言しているのであります。殊に最高裁判所の裁判官は、
國民に代
つて最高の
司法權を掌るものであり、その任命は内閣の權限に屬せしめているが、これを内閣にのみ委せることは、重要なその職務の公正を保障することがむつかしいので、
憲法は
國民が直接公務員の任免に参加することのできる
國民審査の
制度を設け、
憲法第七十九條第二項及び第三項に「最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際
國民の
審議に付し、その後十年を經過した後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際更に審査に付し、その後も同様とする。前項の場合において、投票者の多數が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は罷免をされる。」と
規定し、さらに同條第四項において、「審査に關する事項は、
法律でこれを定める。」と
規定している。この
憲法の
規定に基いて最高裁判所の裁判官の
國民審査に關する
制度を、重要な
憲法附屬法令中の
一つとして定めようとするのが、本法案起草の
趣旨でございまして、この
趣旨に鑑み、議員提出とすることとなり、七月三十一
日本委員會において、われわれは本案の起草小委員を命ぜられましたので、本院法制部職員にその事務を擔當せしめ、なお政府委員をも交え、數囘にわた
つて小委員會を開き、慎重檢討を重ねてまいりましたが、九月十六日の小委員會において成案を得るに至りましたので、以下簡單に本案の内容について御
説明いたします。
まず第一に題名を最高裁判所裁判官
國民審査法といたしました。いささか長きにすぎるきらいはありますが、題名によ
つて法律の内容を判然とさせたいと
考えたからであります。
次に本法の内容を大別いたしまして、一〇則。二投票及び開票。三審査分及び審査會。四審査の結果。五訴訟。六再審査。七罰則。八補則の八章にわかちましたので、各章別にその概略を御
説明いたします。
第一〇則。
日本國
憲法第七十九條におきまして、最高裁判所の裁判官の任命については、
國民審査を行う
趣旨の
規定が設けられ、さらに審査に關する事項は
法律でこれを定める旨
規定してありますので、まずこの
憲法の
規定を承けまして、
國民審査に關する事項を本法により定める
趣旨を第
一條において宣言いたし、以下數箇條におきまして、その手續、效果等に關する。則的
規定を設けたのでありますが、
憲法は審査は衆議院議員總選擧の際にこれを行う旨
規定しております
關係上、審査の手續は、大體兩院議員選擧の手續と同様にし、かつそれと同時に行うことを本法においてさらに具體化して
規定しました。ただ審査は選擧とは別個のものであり、かつ内閣からも独立して
獨立して行わるべきものであろうと
考えますので、特に審査に關する事務の管理監督機關として、最高裁判所裁判官
國民審査管理委員會を設けることにしました。この委員會の委員は、参議院においてその議員の中から選擧することにしましたが、これは審査の行われる際には、衆議院は解散にな
つており、他に
國民代表として
適當なものがありませんので、特に参議院の中から選ぶことといたしたのであります。
第二投票及び開票。審査は選擧の投票と同時に投票によ
つて行うことになるのでありますから、
原則として選擧の事務擔當者及び立會人等は、審査の事務擔當者及び立會人となるものとし、その他投票、開票の日時、場所、投票の
效力、審査に關する書類の作製等についても、大體選擧の場合に準じまして
規定しました。ただ投票の方式としましては、自書主義によるべきか、記號式によるべきかについて、相當問題はあるのでございますが、結局
國民の信任を問うためには、審査人に裁判官全員の氏名を知らせる必要のあること、及びなるべく簡易な方法で投票し得るようにすべきであると
考えまして、記號式を採用することにいたしました。しかしながら、審査人がすべての裁判官について十分なる認識を有するとは言えず、從
つて罷免を可とする場合は別としまして、罷免を可としないという
意思表示を求めることは、いささか無理を強いることにもなりますので、單に罷免を可とする場合のみ、その裁判官についての記號を付することとし、何らかの記載をしないものは罷免を可としないものと認めることにいたしました。次に無投票選擧の場合でありますが、これも選擧であることに變りはありませんので、やはりこの場合にも審査を行わなければならぬということを、明文で
規定いたしました。
第三審査分會及び審査會。各投票所において投票の點檢を終えた後、その中間集計をいたしますために、都道府縣ごとに審査分會を設け、審査分會において調査した結果を中央の審査會において集計して、審査の結果を出すことにいたしました。そして各裁判官につきまして罷免を可とする投票者の數が、罷免を可としない投票者の數より多いときは、その裁判官は罷免を可とされたものといたしましたが、これを一貫することといたしますと、無投票選擧の場合、または審査無效の判決が確定したため再審査を行う場合におきましては、裁判官の罷免を可とする者の投票が多數を占めることが豫想され、きわめて少數の者の投票によ
つて最高裁判所の裁判官が罷免されるという不都合な結果を生ずるおそれがありますので、罷免を可とする投票數が前審査權者の百五十分の一、約三十萬に達しなければ罷免を可とされたものとはならぬことにいたしました。
第四、審査の結果。審査によりまして罷免を可とされた裁判官または審査人は、後に
説明いたしますごとく、審査または罷免の
效力に對し不服の訴を起し得ることといたしましたが、訴訟期間三十日中、またはその訴訟における裁判の確定前には罷免の
效力も未確定の状態にあると言えますので、その間は罷免の
效力を生じないものといたしました。さらにまた、
國民の多數によ
つて罷免を可とされた裁判官が、その後ただちに最高裁判官として任命され得ることといたしますと、審査に現われた
國民の
意思にも反する結果となりますので、一旦審査により罷免された裁判官は、その後五年間は最高裁判所の裁判官として任命されることができないことといたしました。
第五、訴訟。審査は投票によ
つて行われますので、その手續が違法であるとか、あるいはまた投票の
效力が無效であるとかいつた場合には、選擧の場合と同じく審査または罷免の無效の問題を生じますので、選擧の場合と同様の救濟の途を講じたのであります。
第六、再審査。審査または罷免の無效の訴訟によりまして、審査の全部または一部が無效となりますと、當該審査の全部または一部は、初めより行われなかつたと同一の結果となりますので、この場合には
憲法の要請により、さらに審査を行わなければなりません。これに對處いたしますために、再審査の
規定を設けたのでありますが、ある訴訟において審査の一部が無効となりましても、さらに他の訴訟において當該審査の全部が無効とならぬとも限りませんので、出訴期間中または訴訟の係屬中再審査を行うことも禁止し、すべての訴訟の結果を
まつことといたしたのであります。第七、罰則。審査は投票によ
つてこれを行います
關係上、選擧におけると同様、これに伴い種々の不正行為が行われることが豫想されます。すなわち投票を買収し、投票の自由を妨害し、または虚偽の
事實を公にする等であります。そこでこれらの行為は、選擧におけると同様に、虚罰することといたしましたが、審査におきましては、裁判官との特殊の
關係のあることを利用して投票を買収するということが特に豫想されますので、この點明文で特に明らかにいたしました。第八、補則。最後に補則といたしまして、審査に關する事務の擔當者の失職、審査の旅行費用、審査公報の發行等に關しまして、選擧の場合と大體同様の
規定を設けました。以上簡單でありますが、小委員會における起草の報告及び本法案についての
説明を終ることといたします。