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1947-08-07 第1回国会 衆議院 司法委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十二年八月七日(木曜日)     午前十時五十九分開議  出席委員    委員長 松永 義雄君    理事 石川金次郎君 理事 荊木 一久君    理事 鍛冶 良作君       井伊 誠一君    池谷 信一君       石井 繁丸君    榊原 千代君       安田 幹太君    山中日露史君       打出 信行君    八並 達雄君       吉田  安君    北浦圭太郎君       佐瀬 昌三君    明禮輝三郎君       大島 多藏君  出席政府委員         司 法 次 官 佐藤 藤佐君     ————————————— 本日の會議に付した事件  刑法の一部を改正する法立案内閣提出)(第  六號)     —————————————
  2. 松永義雄

    松永委員長 ただいまより會議を開きます。  前囘に引續き刑法の一部を改正する法立案に對する質疑を繼續いたします。大島多藏君。
  3. 大島多藏

    大島(多)委員 第二十七章の(傷害ノ罪)というところの二百八條におきまして、「暴行加ヘタル者人傷害スルニ至ラサルトキハ一年以下ノ懲役若クハ五十圓以下ノ罰金又ハ拘留クハ科料ニ處ス」こうもと刑法ではなつておりますが、それを一年以下のところを二年以下、五十圓以下のところを五百圓以下、こういうふうに改正して、こういう種類の犯罪をなるべく少くしようという改正の御趣旨には私はきわめて贊成であります。しかしながら、その次の「前項ノ罪ハ告訴待テヲ論ス」この第二項を削除するという案になつておりますが、このことは私はどうも贊成できかねる次第であります。と申しますと、從來告訴をまつてこれが取上げられておつたわけであります。これを告訴をまたないで取上げられるとなると、これはいろいろの不都合なことが起るのではないかということが想像できるわけであります。これはきわめて輕微な、傷害するに至らないところの犯罪でありますから、ちよつとした毆り合いも、もちろんはいるわけでありますから、從來議會においてさえも、しばしばそういうことがあつた。そういうものが告訴をしないで、ただちに取上げられるとなると、これから議會からもこの犯罪人をたくさん出す可能性考えられるし、それからまたちよつとくらい毆られても、しかたないというような人が、當然それくらいに値するようなことをやつておる人が毆られた場合、その毆られた人は、じつと我慢しておつても、それを檢察當局で取上げるとなると、かえつて秘密にしておきたいことを公にしてしまうというところに、その被害者がかえつて被害を大きくするという懸念があるだろうと私は思うわけであります。この改正の御趣旨は、この改正によつてその犯罪を少くしようとされる御趣旨と私は思いますけれども、やはりこれは從來通り告訴をまつて、これを論ずるとした方が私は適當であると思うわけであります。これに關しまして、政府委員の方はどういうお考えをおもちでありますか、お伺いしたいと思います。
  4. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 現行刑法の二百八條には、御説のように、單純暴行罪については被害者告訴をまつてこれを論ずる、被害者告訴がなければ檢事がこれを起訴することができないという一つ制限がなされたおるのであります。これは申すまでもなく、傷害に至らないような暴行罪は、その犯罪の性質がごく輕微であるというふうに見て、現行法では、これを親告罪としたものと解せらるるのであります。ところが新憲法においては、暴力否定民主主義政治を強調いたしておるのであります。今後われわれが社會生活をなるにおきまして、どこまでも暴力を否定しなければならないのでありまして、いかなる場合であつても、相手方が暴行を受けるに値するような、何か惡いことをしたような場合でもむしろこちらの方で我慢して暴力を振わないようにしなければならないのではないかというふうに考えられるのであります。かように暴力否定を基調とする新憲法精神に副うがためには、今までと違つて暴力を振つてはいけないのだ、暴力を振うと、場合によつて犯罪として起訴されるかも知らぬというだけの、やはり規範を示す必要があるのではないかというふうに考えられるのであります。從つて暴力否定憲法精神に副うて刑罰を高め、刑罰を高めると同時に普通一般犯罪と同じように取扱つて暴行罪はたとい傷罪を伴わない暴行罪であつても、そんな輕微なものではないということを示そうとして非親告罪に直そうということになつたのであります。この點は次に出てまいります二百二十二條脅迫罪の場合と全然その揆を一にしておるのであります。單純に人の意思の自由を拘束する脅迫については、現行法でも非親告罪としておるのでありますから、まして暴力を振うのに、特に親告罪として輕微なる犯罪と取扱うことはいかがであろうかという考えから、一般犯罪と同様にして、起訴するかしないかということは、一に檢察官の自由裁量によつて處斷されることが適當であろうというふうに考えておるのである。
  5. 大島多藏

    大島(多)委員 ただいまの御説明で大體わかりましたが、しかしながら、實際問題といたしまして、この輕微なる暴行罪というものの範圍というものは、きわめて漠然としておるのでありまして、どのくらいのところまで暴行罪としてとられるものであるか、やはり本人が訴え出るくらいの範圍でないと、ちよつとぐらいつつ突いたくらいで、一々暴行罪として取上げられるような、そういう心配があるわけであります。將來議會なんかにおきましても、そういう不祥事が起る可能性が私は大分あるだろうと考えるのであります。そうしたまたこれは妙に政治的に惡用されるというような心配も、私はあるだろうと考えるのであります。それで私はこの規定はやはり輕微傷害の場合は、どうしてもやはり親告罪とする方が、私としましては適當であろうと考える次第であります。しかしそれは私の意見でございます。  その次にこれは昨日も他の人から質問が出ておりましたが、犯人藏匿及び證憑湮滅の罪に關するわけでありますが、百五條の「親族ニシテ犯人ハ逃走者ノ利益ノ為メニ犯シタルトキハヲ罰セス」とある。この「罰セス」を其「刑ヲ免除スルコトヲ得」こうされたことは、これは將來犯罪捜査とかいうときに、社會安寧秩序の上から非常に不便を來すという御趣旨によつて、こういうふうに訂正なさるのだろうと思うわけでありますが、しかしながら、そういうふうに訂正なさるのだろうと思うわけでありますが、しかしながら、そういう犯罪捜査の便宜というもののために、人情の美しさを犠牲にしてしまうということは、私たちは極力反對いたしたい次第であります。昨日ももこれは非常に改惡だということを北浦委員からもお話がありましたが、私もやはり同感であります。自分の親が犯罪を犯したような場合に、子供がこれを隠してやつたならば犯罪になるということは、淳風美俗の點から申しましても、どうしても私たちは納得できないことであります。昨日も當局の方から詳しい御説明がありましたけれども、私たちはどうしてもこれを罰せずとまではいかなくても、何らかの制限を必要とするのではないか。從來親族までもこれを罰せずということになつておりましたけれども親族というようなあまり廣い範圍内にしないで、三親等以内とかいう規定を設けまして、三親等以内はこれを罰せずとか、あるいはその刑を免除す——免除することを得、とこうなつておりますと、どうもこれが裁判官によつてそのところが自由裁量になつておるということが、私たちは一種の不安を感ずるわけであります。そのところの範圍制限して、その刑を免除するというふうに私たちはいたしたいと考えるわけであります。この點に關しましてさらに御意見をお伺いしたいと思います。
  6. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 お尋ねの點につきましては、昨日もお答えいたしたのでありまするが、たとえ、犯人親族であつて犯人藏匿したり、あるいはその犯人證憑を湮滅するということはやはり法律上よくないことである、よくないことであはあるが、親族間においてさようなことをするのは人情の常であるから、まあ不問に付しようというのが、第百五條精神であろうと思うのでありまして、親族間において犯人藏匿したり證憑を湮滅することはいいことである、淳風美俗に適つたいいことであるから、全然犯罪にならない、こういう精神ではないと、私ども解釋しておるのであります。それでありますから、この規定といたしましては、たとえこれを罰せずという表現をしてありましても、その刑を免除すという趣旨であろうと解釋しておるのでありますが、昨日も申し上げましたように、新憲法竝びにこれに伴つて制定されました新しい刑事訴訟手續によりますと、犯人捜査し、または犯罪證憑を蒐集するのに、強制力を用いられないいろいろな制限が加えられておりまするので、かかる制限もとに適性な捜査をし、また公正なる裁判を期待するためには、どうしても國民の心からなる協力を得なければ、犯罪捜査し、裁判の公正を期待することが絶對にできないのであります。かように一面において國民犯罪捜査に對する協力裁判行使に對する協力を求めておりながら親族間においては犯人藏匿證憑の湮滅は自由だ、全然不問に付するということを法律において示すのはいかがなものであろうかということを考えられますので、この際百五條を改めて、いかに親族間であつても場合によつて有罪裁判を言渡されることがあるという程度に弾力性をもたせまして、そこは具體的事件について裁判官裁量によつて、その事件においてこれは親族間においてさようなことは無理もない、やむを得ないと認められるような場合ならば、刑を免除する。またそういうような事情がない場合ならば有罪の刑を言渡す。こういうふうに伸縮自在の規定に緩和する方が相當であろうという考えから、改正案を提出したような次策でありまして、三親等以内の親族ならば必ず不問に付するというふうに書き改めることにつきましては、贊同いたしがたいのであります。
  7. 井伊誠一

    井伊委員 それでは二百三十二條第二項を入れるという點につきましてお伺いをしたいと思うのであります。大體私のお聽きしたい要點だけ申し上げます。「告訴ヲ為スコトヲ得可キ者ガ天皇皇后太皇太后皇太后ハ皇嗣ナルトキハ内閣總理大臣、」代つてこれを行う。大體その告訴權天皇その他の方々にあるのでありますが、特に天皇のもつておられる御地位國家象徴たる地位と、それからもう一つの私人としての御地位とがあるということが考えられますときに、やはりその保護さるべき法益は二つ出てくると思うのであります。そういうときに、その點については論議がありましようけれども、私はそう思うのであります。そういうときに、この一條によつて常に告訴のある場合においては内閣總理大臣が代つてこれを行うということにいたします。私は政治上の非常な大きな意義考えるのであります。内閣總理大臣がはたしてどういう場合にこれを選擇をして告訴を行つてよいかということは、重大な政治問題であると思うのであります。もとよりこの事件の起きました場合においては、それぞれ事實の調査がありましてしかるべしという根據の上に、内閣總理大臣告訴をするということにはなるのでありますけれども、所詮その責任は内閣總理大臣にあるということになるのであります。そこでこの取扱い適當であるかないかということは、非常な大きな影響を及ぼす。その取扱いが非常に妥當に迅速に行われたのであるから否かという問題で、非常に大きな問題が起きてくるという考えるのであります。そこで私は内閣總理大臣にこの權利を代行せしめるということは、かなり大膽な立法である、こう考える。實際天皇その他の方々が、この告訴權行使せられるということはなかなかあり得ない。しからばたれがこれを行使するかということになると、これは内閣總理大臣よりほかあるまいというところに來たのだろうと思いますが、それがそもそも皇室に對するところの規定のうち、不敬罪というものが抹消をせられて通常の名譽毀損、そういうもののところに戻つてくるというところから、それは親告罪で取扱われることになる結果、こういうことになると思うのであります。そこで私は内閣總理大臣に重大なる責任を課すために政治上の様々なる波瀾を起こさせるかもしれぬということを避けるために、皇室に對する不敬罪というものを親告罪でなくするということにしたらいいではないか。事實起訴すべきものがありとすれば、當然にこれを起訴するということに——起訴はそこまで調べてからでなければならないのであります。それをもとにして内閣總理大臣はやるべきであるのであります。内閣總理大臣というものに責任をもたせないで、普通親告罪でなくするということにしたらならば、このむずかしいところを避けることができると思うのでありますが、これに對する政府の御意見はどうでありましようか。  もう一點、その次の「外國君主ハ大統領ナルトキハ其國代表者代リテ之ヲ行フ」とあるのでありますが、この國内法でもつて外國代表者代りてこれを行うと規定すれば、ただちに効力を發生するであろうが、向う君主なり大統領みずから告訴をするというようなことになつてきた場合においては、この効力はどういうふうになるかということを考えると、ここにあるように、外國政府請求によつてという行き方で、當該外國意思そのものに任せるという規定文字を改める必要があるではなかろうか、こう考えます。この二點について御説明を願います。
  8. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 第一點の天皇に對する名譽毀損罪は、親告罪としない。普通の犯罪、非親告罪として取扱う方が告訴權というむずかしい問題に觸れないので、かえつて適當ではないかという御質問のように承つたのであります。まことにごもつともに存ずるのであります。この點も改正案立案いたしまするについて、非常に愼重に考えて、各方面の意向も参照して研究いたしたのでありまするが、名譽毀損罪というものが、どこまでもその被害者告訴というものがなければ、檢察裁判においてこれを取扱うべきものではないという、非常に傳統的な強い意見がりまするので、たとえ被害者天皇の場合でも、親告罪として取扱う方が適當であろうという結論に到達しましたので、わざわざ告訴權行使について特例を設けてまでも名譽毀損罪親告罪たる取扱いについて一貫しようという態度をもつて臨んだのであります。  それから第二點の御質問は、外國君主または大統領被害者たる場合に、その告訴をなすものは、その外國自體の請求をまつて論ずるという現在の制度の方が適當ではないかという御質問のように拝承いたしたのでありますが、この點は外國代表者が代つてこれを行うというふうにいたしましても、その外國意思としてたれを代表者にするか、あるいは自國のたれを代表者にするかということはその國國においてそれぞれきまることでありましようから、代表者が代つてこれを行うということに具體的に示しましても、結局はそれはその國の意思を代つて行うものにすぎないのでありますから、その國の——あるいはその國の政府請求をまつて論ずるというのも、その國の代者表が代つてこれを行うというのも、歸著するところは同一ではないかと考えられますので、外國君主大統領の場合には、その國の代表者、日本の天皇皇后皇太后皇子の場合には、政府代表者たる内閣總理大臣が代つてこれを行う、こういうふうに、一様な取扱いにいたしたのであります。
  9. 井伊誠一

    井伊委員 今の御説明でまだ釋然としないのであります。この名譽毀損罪というものが、大體その名譽を毀損された當該の人の意思によつて、その事件を發生せしめていくかどうかということは、在來の考え方であり、親告罪とするのが從來考え方であり、それに從つたものである、これはごもつともであります。そこでそれならばこの内閣總理大臣がこれを代行すると申しますけれども告訴權は依然として當該天皇その他の方々でおられるはずであります。代行權が定められるということで、ただちに天皇告訴權が阻却せられるとは考えられないのであります。それでありますから、天皇、あるいはそい他の方々が、みずから告訴なさるということになつたならば、それに對してこの代行權はどういう關係になりますか、これを行使する前には、必ず當該告訴權を有せられる方の御意思を伺わなければ發動ができないのであるか。それは政治的には處理はいたしましようが、法律的にはそういうふうになるのでありましようか。それともそういうことにはかかわらず、この法律によつてただちに内閣總理大臣だけがその考えによつていかようにも取扱うことができるのだ、告訴權を有せらるる方の御意思には關係がないということになるのでありましようか、その點と、またあとのその國の代表者代りて行うということも、いかにも結果はそうなると思うのでありますが、しからば、何もことさら從來用いているところの、かつ最も明瞭であるところの外國政府請求によつてこれを行うというふうにした方が最も明瞭でもあるし、何か向う自由意思に属すべきものを、こちらの方で代行者が行うというふうな文字をおかなくても、自然にこれを現わし得るではないか、これは表現の點に属しますが、どうもそういうふうに考えられるのであります。この二つを重ねてお尋ねいたします。
  10. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 天皇皇后皇太后太皇太后または皇子が名譽毀損罪被害者であられる場合に、本來ならば、その被害者たる人が告訴權をもつているので、當然告訴權行使しなければならぬのでありますけれども、申し上げるまでもなく、天皇はわが國の象徴であらせられる特別の地位にあらせられまするので、たとえ犯人であつても、その加害者たるある國民に對して告訴をするということは、とうてい期待しがたいのであります。そういたしますると、天皇に對する名譽毀損罪については、犯人は常に告訴なく、處罰を免れるという不當な結果になりまするので、そこでそれではたれが天皇に代つて告訴をすべきかという問題に立至つたのでありまするが、この點については、いろいろ考えられたのであります。たとえば司法大臣が代つて告訴をしたらどうか、あるいは宮内府の長官が告訴をすることにしたらどうかというような、いろいろな意見もありましたけれども、結局政府代表者たる總理大臣告訴をするのが適當であろうということで、かような結論になつたのでありまするが、さて總理大臣天皇に代つて告訴を行うというふうに規定いたしますと、總理大臣天皇の御意思關係なく告訴をすることができるのであるかどうか、また天皇の御意思に反してまで告訴をし、あるいは告訴をしないことができるのであるかということが、一つの問題になるのでありまするが、立案趣旨といたしましては、總理大臣被害者たる天皇意思いかんにかかわらず、告訴權を行うという趣旨規定いたしたつもりであります。從つてこの告訴をなすについて、あるいは告訴されたその事件成行きいかんということについては、何ら天皇責任が及ばないものである。そういう解釋もと立案いたしているのであります。それから第二のお尋ねの、外國政府請求とした方が、かえつてわかりやすいではないかという御意見でございまするが、現行刑法においてはなるほど外國政府請求を待つてこれを論ずると規定しておりまするけれども、この名譽毀損罪被害者たる個人の名譽というものを對象にいたしておりまするので、告訴をなすことを得べき者も個人に限りたいという趣旨で、外國政府としないで、その政府代表者が代つてこれを行うという趣旨に改めたのであります。
  11. 北浦圭太郎

    北浦委員 その條文關係するので一言……この告訴ということと告發ということとは、刑事訴訟法上明確なる觀念の相違があることは申すまでもない。そこでここで告訴をなすことのできる者は内閣總理大臣である、こうなると刑事訴訟觀念と非常に矛盾することに相なるが、この點の御所見をます伺います。
  12. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 それに關連してついでに質問申し上げたいと思います。告訴という要語を使われたのは、單に言葉の問題でなくして、不敬罪國家に對する犯罪であるというふうに觀念せられるところによつて、初めて國家を代表して總理大臣告訴するという意義が出てくるであろうと思うのであります。不敬罪本質觀からして、告訴という意味にならなければならぬと思うのでありますが、しかしそれは私どもつてつて不敬罪を存置する一つの理由にもなつているのでありますが、これに關連したところの御説明を伺いたいと思います。
  13. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 まず北浦委員お尋ねに對してお答えいたしたいと思います。刑事訴訟法において告訴告發はまつたく別な觀念でありまして、犯罪によつて害をこうむつた者、被害者が官に對して犯罪を親告し、犯人處罰を求める行為が告訴であります。告發被害者以外の者が、つまり第三者犯罪を認知して官に報告する場合に、これを告發という觀念をもつて表現しているのであります。ところが天皇の名譽毀損罪について内閣總理大臣告訴權行使するというふうにいたしますると、いかにも形の上においては第三者たる内閣總理大臣告發をなすような形になりまするけれども實質上は天皇の本來なすべき告訴被害者たる天皇告訴ができないから、第三者たる内閣總理大臣が代つてその告訴權行使するというふうに建前をとつたのであります。「代リテ之ヲ行フ」という以上は、民法上の代理の觀念のように、それでは本人たる天皇意思に左右せられるのであるかどうかという御疑問が出るのは當然と存じまするが、そこを立案者といたしましては天皇の御みずからの告訴ということは、全然期待しがたいものであるから、天皇の御意思いかんにかかわらず、天皇意思に全然關係なく、内閣總理大臣が本來天皇のなすべき告訴權を代つてこれを行う。こういうふうな建前をとりまして、天皇に對して何らその告訴またはその事件成行きについての政治上その他の責任が及ばないようにいたしたいという考えから、かような表現を用いたのであります。  それから佐瀬君のお尋ねでありますが、本來現行刑法のように、天皇に對する不敬罪觀念を認めますならば、またおのずから違つた立案もできましようけれども、この改正案自體は、前にも御説明いたしましたように、天皇不敬罪ということは全然認めておらないのであります。單に天皇の名譽毀損罪だけを認めておるのでありまして、すなわち天皇の名譽を保全するためにいかなる規定を設くべきかということに苦心いたしたのでありまして、不敬罪觀念は、改正案においては全然取入れておらないのでありますから、その點は誤解のないようにお願いいたしたいのであります。
  14. 北浦圭太郎

    北浦委員 そういう御説明でありますと、私はここに三つ矛盾を感じます。第一は告訴のできないような權利をなぜ與えるか、オール・イズ・ヴアニテイー、空權、そういう天皇は多分告訴あそばさないであろうというようなことを豫想しながら立法するということは、當局者としては非常な間違いである。これが第一。第二は天皇の御意思いかんにかかわらず、内閣總理大臣告訴する。それでは親告罪ではない。親告罪というのは、司法權發動を欲した場合に告訴するのであつて、たとえば自分の名譽毀損告訴したい。白日法廷にその事實を暴露するということがいやな場合においては告訴しない自由ある場合に、初めて親告罪というものは意義がある。しかるに、内閣總理大臣政府代表者として天皇の御意思いかんにかかわらず告訴する。これは親告罪というものの本質と違う。これが第二。第三は「某國ノ代表者代リテ之ヲ行フ」。この代りてという點から見ますと、あなたの今佐瀬氏に對する御答辯から考えても、國家と何ら關係がない、天皇に代つてやるという趣旨の御答辯でありますが、代つてやる以上本人意思を十分忖度しなければならない。この三つ矛盾。これは理論上どうしても考えられない。結論としては私は不敬罪をぜひ設けなければならないということに歸著するのでありますが、まづ第一に天皇は多分告訴なさらないであろうというようなことでどうしてあなた方は立法されるのか、その理由をひとつお伺いいたします。
  15. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 新憲法におきましても、從來と同じように、天皇はわが國の象徴であり、國民統合の象徴であらせられる特別の地位を認めておるのでありまして、この特別な地位にあらせられる天皇に、國民のある者が名譽毀損罪を行つたからといつて、その犯人に對して訴追を求むる意思表示をされる、すなわち告訴をなさるということは、私は全然期待しがたいことであると確信いたしておるのであります。この確信においてもし違う御意見であるならば、違う結論に到達するかも存じませんけれども、私ども天皇國民に對して告訴するということは、全然期待し得ない事實であると確信しております。告訴することが期待しがたいならば、それでは天皇に對する名譽毀損罪に限つて、これを非親告罪にしたらいいではないかという先ほどの御意見もございます。これは私もごもつともと存ずるので、私個人としてもさように信じておるのであります。まことに同感でありまするけれども、この天皇の名與毀損罪に對する規定取扱い方については、非常に愼重を期しまして、私どもは單なる専斷に陥ることのないように、各方面の意見を徴しまして研究いたしたのでありまするが、その研究の結果、どうしても天皇に對する名譽毀損罪であつても、本來の名譽毀損罪親告罪たるべしという傳統的な見地に對して例外を設くることが相當でないという結論に到達いたしましたので、そういたしますと、天皇に對する名譽毀損罪についても、やはり親告罪として取扱わなければならぬということになりますれば、そうして被害者天皇告訴が期待できないということになれば、それではたれが代つて告訴權を行使するかという問題になりまして、先ほど申し上げましたように、總理大臣告訴權行使者とする方が一番妥當であろう。總理大臣天皇に代つて告訴權を行うというふうに規定いたしましても、總理大臣が代つて告訴權を行使するについて、もしこの規定が一歩誤りますれば、告訴權行使またその告訴せられたる事件成行きいかんということによつて、その結果いかんによつて天皇責任が及ぶような結果も豫想せられるのでありますので、ここは天皇告訴權を代つて行うわけであつて天皇には責任が及ぶことのないように、すなわち天皇意思いかんにかかわらず、内閣總理大臣が代つて告訴權を行う、こういうような制度にすれば、一番われわれの期待しておるような天皇の名譽を保護するのに十分な効果が現われるのではなかろうかというふうに考えたのであります。なおただいまの御意見の中に、全然被害者意思いかんにかかわらず告訴權行使するということになれば、天皇の名譽を保護することができないのではないかという御意見でありましたが、これは被害者たる天皇がみずから告訴權行使しなくとも、かような規定を設けることによつて、また天皇に對する名譽毀損罪が行われた場合に、内閣總理大臣告訴權行使することによつて、十分天皇の名譽は保全し得るものと、私ども考えておるのであります。
  16. 北浦圭太郎

    北浦委員 私は何もこれを非親告罪にしなければいかぬとは申さないのであります。名譽毀損親告罪であることは當然で、普遍の原理である。私の殊にお伺いいたしますのは、一體内閣總理大臣天皇意思いかんにかかわらず告訴するのだといえば、本質的にそれは親告罪ではないではないか、こう私は解するが、その點はどうですか。
  17. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 天皇意思いかんにかかわらず、内閣總理大臣告訴權行使するということになりますれば、天皇に對する名譽毀損罪はいかにも親告罪たる性質に徹しない憾みはあるのであります。しかしながら建前としては、名譽毀損罪はどこまでも親告罪たるべし天皇の場合であつても例外を認めずという思想は一貫されると思いますので、天皇に對する名譽毀損罪については、かような特別な告訴の制度をとりましても、なお名譽毀損罪親告罪の性質には變りはないものと解釋をいたしておるのであります。
  18. 北浦圭太郎

    北浦委員 いろいろあなたの御答辯を聽いておりますと、どうもおもしろくない、感心できない。あなたは今日でもそうであるが、過日不敬罪の場合に私が質問いたしましたときには、憲法による萬人保護の前には平等である、だから特別の名譽毀損を設けることができない。今日になると天皇國家象徴にして國民の統合の象徴である、特別の地位にあられるから内閣總理大臣告訴するのである。この答辯の間には、明らかに矛盾がある。あなたはこれを心の中で矛盾がないとまさか思われないと思いますが、明らかに矛盾である。それから不敬罪というものをなくするならば、それはあなたのおつしやる通り、内閣總理大臣政府を代表して告訴することには、私はまずまず丁寧なやり方として贊成するに躊躇しないのでありまするが、どうもいろいろの法律をあなたも研究なさつた結果であろうと思いますが、われわれの研究の結果、日本の法律刑法を讀んでみますと、日本の刑法はどの條文でもぴしやつと世界の刑法に當てはまつておる。刑法ほどよくできたものはない。それをあなた方が憲法が變つたからといつてちよちよいとおいらいになるということで、矛盾撞着だらけの刑法ができてくる。第一憲法では御承知の通り、天皇が國務行為をなさるのでも從たる關係にある。御承知の通り内閣の承認、内閣の助言、これなければ何ごともできない。憲法では何もできない。すなわち國民の公僕たる内閣は國民が主である、いわゆる民主主權の國家である。今度のただいまの條文觀念は、天皇陛下のことであるから、内閣が代つて辯護士の仕事をする、この觀念も民主主義憲法觀念とは逆なのである。この點は不敬罪を削ろうとするところから出發するすべての法理上の矛盾であると、私は考えておるのであります。まだまだ言いたいこともありまするが、なんぼ言つたところが、あなたはこの條文をどこまでも突き通そうとなさるし、われわれはこれはまずいと言うたところで、いわゆる意見の相違になつて終りますけれども、最後に一言申し上げておきまするが、それは外國の立法例を見ますと、ときに政府がやつておる國もありますけれども、この間も申し上げたように、天皇、王、ツアー、ドイツのカイゼルにしても、天皇のあるところに不敬罪のないところは一つもない。調べてごらんなさい。英國でも現にある。そういう明瞭な理窟を省こうとなさるから、こういうむずかしい法律になつてくる。わけのわからぬ法律になる。私の質問はこれで終りまするが、この條文は要するに矛盾撞着だらけである。第一、英國のように、王室辯護士のような制度でもあればとにかくですが、内閣總理大臣天皇に代つて告訴するというようなことは、一體法理論から言つても、政治上から言つても體をなしておらぬ。どなたかさつきおしやつたように、よくここのところをお考えあらんことを希望して、私の質問を終わります。
  19. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 二百三十一條の一般侮辱罪を廢止される理由は、どういう點にあるでしようか。
  20. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 現行刑法の名譽毀損罪のうちには、二百三十條に、公然事實を摘示して人の名譽を毀損した場合を處罰しております。そのほかに二百三十一條に、事実を摘示しないで公然人を侮辱した場合を處罰する規定と相成つておるのであります。公然事實を摘示しないで、つまり事實を摘示しないで公然人を侮辱するというような事例はごく少いのであります。そうして實際の事案もごく輕微であるので、この際一般の二百三十條の刑を高めると同時に、特定の場合にはその犯罪の成立も阻却するような規定を設けたのでありますから、この際事實を摘示しないで人を侮辱する單純なる侮辱罪の規定の第二百三十一條はこれを削除するのが相當であろうというところから、これを削除いたしたのでありまするが、しかしながら、この點はすでに存する規定を削除するのでありまして、將來に對する影響も心配せられまするので、前の姦通罪の規定を削除するのと同様に、これは最高の立法機關たる國會において二百三十一條を削除するのが相當であるか、あるいはこれを依然存置するか、あるいは場合によつては刑を高めるのが相當であるかというようなことについて、よく御檢討くださいまして、この改正案に對する御審議をお願いいたしたいと存ずるのであります。殊に外國君主大統領、外交使節がわが國に滞在しておる間に、それらの者に對して事實を摘示しないで公然侮辱を行つた場合の規定も、一様に削除いたしておりますが、この二百三十一條の規定を削除いたしますると、その外交使節等に對して公然侮辱行為が行われた場合に、その人たちの名譽を保護する規定が存しなくなりますので、そういう點から考えましても、二百三十一條の存廢については、委員各位におかれましても、愼重に御檢討くださいまして、贊否を決せられたいと存ずるのであります。
  21. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 國家の元首に對する名譽侵害罪がすべて個人に對する場合と同様に改正されんとするこの際、單純侮辱罪をも廢止せんとすることは、事外國の元首に關する限り、これまた國際法規違反の疑いをもつものであります。從つてこの點は愼重に審議されなければならぬと考えるのであります。のみならず、刑法一般的傾向としましては、ひとり事實を指摘して行うところの名譽誹毀罪に限らず、事實を指摘せずに行う單純侮辱罪をも重視して、兩者を併せ規定するというのが、各國の立法傾向であります。現に日本の刑法改正草案においても、同様にこれが併記されておるのであります。しかも名譽誹毀罪の方は、これを親告罪に付せずに、單純侮辱罪だけを親告罪にしようというのが、やはり各國の立法傾向であります。また日本の刑法改正草案も、それにならつて四百十三條にそのことが規定してあるのであります。これらの先例なり新しい傾向なりに逆行するこの改正案は、相當批判すべき餘地があるのではないかと私は考えております。この點に對する御意見を一應承つておきたいと思います。
  22. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 名譽毀損罪について、わが刑法のように公然事實を摘示して、具體的事實を示して名譽を毀損する場合と、具體的事實を示さないで名譽を毀損する場合、すなわち侮辱の行為を區別しないで、各國の刑法において單純な名譽毀損罪として包括的に規定しておる立法例があることは、私も存じておるのであります。殊に英米の名譽毀損罪におきましては、事實を摘示しないで、具體的事實を示さないで人を侮辱するというような行為は、名譽毀損罪として處罰の對象におかないという立法例も存じておるのであります。しかしながら、すでにわが國において事實を摘示しないで名譽を毀損した場合の單純な侮辱罪について、二百三十一條に規定があるのに、これを廢止するということは、人の名譽を從來以上に尊重しなければならぬという建前をとつている刑法改正案において、いかがなものであろうかということも考えられます。さらに外國君主大統領、使節に對する侮辱の規定もなくなれば、それらのものに對する事實を適示しないで名譽を毀損する場合の保護規定も缺けることになりますので、その點につきましては、私どもは虚心坦懷に委員各位の御意見を尊重いたして、もし修正の御意見がありますれば、その意見に從いたいというような考えをもつております。
  23. 佐瀬昌三

    佐瀬委員 不敬罪にも影響することでありますが、事實を指摘して行ういわゆる名譽誹毀罪については、全面的に非親告罪とする、この愼重に審議された刑法改正草案の趣旨に即して、今囘一部改正も行うという御意思は、政府にはおありにならなかつたのか、その點をお伺いしたい。
  24. 佐藤藤佐

    佐藤(藤)政府委員 名譽毀損罪について、各國の立法例を見ますと、大體において名譽毀損罪は、被害者告訴をまつてこれを論ずるという親告罪の制度をとつているのでありますが、ただ著しい名譽毀損罪、すなわちその性質のよくないものについては、例外として非親告罪としている例もあるのでありますけれども、大體において名譽毀損罪親告罪でなければならぬという思想に一貫されているように存ずるのであります。今囘名譽毀損罪規定改正するに當りまして、犯情の重い名譽毀損罪については、非親告罪となし、一般の名譽毀損罪親告罪にしようという議もありましたので、その點について十分檢討いたしたいのでありますが、先ほど申し上げましたように、名譽毀損罪取扱いについては愼重を期しまして、各方面の意見を参照して研究いたしました結果、名譽毀損罪は、一様に親告罪でなければならぬ、例外を認めてはならぬという有力な意見もありましたので、一應その意見解釋もとにかような立案をいたしたのであります。     〔速記中止〕
  25. 松永義雄

    松永委員長 速記を始めてください。  本日はこれにて散會いたします。    午後零時三十一分散會