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1947-07-28 第1回国会 衆議院 司法委員会 第6号
公式Web版
会議録情報
0
昭和
二十二年七月二十八日(月曜日) 午前十時四十分
開議
出席委員
委員長
松永
義雄君
理事
石川金次郎
君
理事
荊木 一久君
理事
鍛冶 良作君 伊井 誠一君 榊原 千代君 安田 幹太君
山中日露史
君 中村 又一君 八並 達雄君
岡井藤志郎
君
北浦圭太郎
君 佐瀬 昌三君 花村 四郎君
明禮輝三郎
君
山口
好一
君 大嶋 多蔵君 酒井 俊雄君
出席國務大臣
司 法 大 臣 鈴木 義男君
出席政府委員
司 法 次 官
佐藤
藤佐
君
司法事務官
奧野 健一君
—————————————
七月二十六日
刑法
の一部を
改正
する請願(
山口好一
君紹介) (第六號)の
審査
を本
委員會
に付託された。
—————————————
本日の
會議
に付した事件
國家賠償法案
(
内閣提出
)(第四號)
刑法
の一部を
改正
する
法律案
(
内閣提出
)(第 六號)
民法
の一部を
改正
する
法律案
(
内閣提出
)(第 一四號)
昭和
二十一年
法律
第十一號(
辯護士
及び
辯護士
試補
の
資格
の
特例
に關する
法律
)の一部を
改正
する
法律案
(
内閣送付
)(
豫第四號
)
—————————————
松永義雄
1
○
松永
委員長
それでは
會議
を開きます。 これより本
委員會
に付託せられております
刑法
の一部を
改正
する
法律案
、
民法
の一部を
改正
する
法律案
の兩案と、
豫備審査
のため同じく本
委員會
に付託を受けました
昭和
二十一年
法律
第一號(
辯護士
及び
辯護士試補
の
資格
の
特例
に關する
法律
)の一部を
改正
する
法律案
、以上三案を
一括議題
とし、まず各案につきまして
政府
の説明を求めます。
佐藤藤佐
2
○
佐藤政府委員
ただいま上程されました
刑法
の一部を
改正
する
法律案
について、その
提案理由
を御説明申し上げます。
日本國憲法
の制定に伴い、
政府
はその制定の
趣旨
に適合するように、
刑法
の一部を
改正
する必要ありと考えまして、昨年夏の
臨時法制調査會及び司法法制審議會
の答申を基礎とし、立案を進めて参りましたところ、第九十二
囘帝國議會
においては、會期の切迫その他の
事情
により、遂に提案不能となりましたので、ここに第一囘國會に本
法案
を提出して、御
審議
を煩わすことと相
なつ
た次第であります。以下
改正
の要點について御説明いたしますが、それに先だちまして、今囘の
改正
は
日本國憲法施行
に伴い、
當面必要
なる
最小限度
にこれを止めたものであ
つて
、その全面的再
検討
は、今後の
刑法改正事業
に譲る
趣旨
であることを、あらかじめ御了承願いたいと存じます。 まず
改正
の最も重要なる
一つ
は、皇室に體する罪の
規定
を削除したことであります。新
憲法
において、天皇は
日本國民總合
の象徴たる特別の
地位
を有せられまして、皇族もまたこれに
伴つて法律
上特殊の身分を有せられるのでありますけれども、他面これらの
地位
と矛盾せざる
範圍
において、一般
國民
と平等な
個人
としての立場をも有せられることと
なつ
たのでありまして、その限りにおいて、法的に異
なつ
た取扱いをすることは新
憲法
の
趣旨
の合致しないことの思想に基き、この
改正
を行わんとするものでありまして、要するに
個人
の尊嚴かつ平等の
趣旨
をこれによ
つて
徹底せんとするものであります。なお本
改正
につきましては、それがわが
國民
の傳統的なる感情に以上の衝撃を與うるにあらずやとの點を懸念するのでありますけれども、これらの罰條の存否がわが
國民主化
の問題の一環として、
列國注目
の的とな
つて
いることを考慮いたしまして、この際あえてこれを實行せんといたす次第なのであります。ただ天皇及び近親の皇族に對する名
譽毀損罪
について、
被害者
がみずから
犯人
を告訴することは、その
地位
に鑑み
不適當
であり、またこれを期待し得られませんので、この場合には内
閣總理大臣
が代
つて告訴權
を行うことといたしました。なお
外國
の元首、使節に對する
暴行
、脅迫、
侮辱罪
の
規定
を削除し、
外國
の元首の體する名
譽毀損
については、その國に代表の告訴を持
つて
これを論ずることといたしたのも、これと同一の
趣旨
に出るものであります。
改正
の第二の點は、戰爭の放棄及び
國際主義
の
原則
に關するものでありまして、その一は
戰争状態
の
發生竝びに軍備
の存在を前提とする現行の
外患罪
の
規定
を改め
外國
よりの
武力侵略
に關する
規定
といたしたことであります。その二は、
従來外國人
が
日本
人に體しその法益を侵害する罪を犯した場合には、それが
外國
で行はれた場合にも
日本刑法
を適用することとな
つて
いたのでありますが、諸
外國
の
立法例
にも鑑み、この種の
國外犯
については、これを當該國の
刑法
に譲り、
日本刑法
の適用より除外したことであります。その三は、
外國
において
刑事裁判
を受けた者に對し、
日本
でさらに重ねて刑の言渡をする場合に置いて、
犯人
がすでに
外國
で刑の全部または一部の
執行
を受けていたときは、第
五條
によ
つて刑
の
執行
を輕減または免除することを得とな
つて
いたのを、必ず輕減または免除しなければならぬこととして、
外國
の裁判を尊重する
趣旨
を一層明らかならしめたことであります。 次は
憲法
第三章
國民
の
權利及び義務
と關連するものであります。その第一は、
従來人權
の侵害がちかく
公務員
の側より行われることの少なくなかつた事例に鑑み、
公務員
による
職權濫用
、
逮捕監禁
、
暴行凌虐
の罪の
法定刑
を
引上げ
、この行為に對し厳罰を以て臨む
趣旨
を強調するとともに、一般の
暴行
、脅迫につきましても、その
法廷刑
をそれぞれ
引上げ
、かつ
暴行罪
については、
従來親告罪
たりしものを非親告罪といたし、併せて暴力の否定の精神をここに重ねて明らかにしまして、
國民
の
自由權
の保障を全からしめんとしたことであります。また、重大なる過失よるものと同じく、重く處罰することにいたしたのも、人身の
保護
をこの
機會
に一層厚くしようとしたものにほかなりません。さらに名
譽毀損罪
の
法定刑
を
引上げ
ることといたしましたのは、最近
言論
の自由がともすれば本來のらちを逸脱して、不當に人の名譽を傷つけることの多きに鑑み、
社會生活
に鑑み、
社會生活
上における
個人
の重要な權益たる名譽を不當なる攻撃より護らんとするものでありまして、これまた
人權保障
の
趣旨
に出づるものであります。 次に
姦通罪
の
規定
でありますが、男女の本質的平等と
夫婦
の同權が
憲法
に明らかに
規定
されました今日、
従來
のごとく妻の
姦通
のみを處罰する
制度
の改めらるべきは言うをまたないところであります。
政府
といたしましては、昨年の
臨時法制調査竝會びに司法法制審議會
の當申に基き、
姦通罪
はこれを廢止して、この問題の解決を
夫婦
間の道義と愛情とに委ねる
趣旨
の
立法
をいたした次第でありますが、
刑法
の
規定
から
姦通罪
を廢止すべきか、あるいはまた
夫婦とも
に等しくその
姦通
を罰すべきかは、いずれも
利害得失
を伴う問題でありまして、各國の
立法例
も區々たる状態でありますので、この點につきましては、特に十分のご
検討
を願いまして、慎重御決定あらんことを切望いたすのであります。 なお新
憲法
においては、
國民
の
基本的人權
の重要なる
一つ
として、
言論出版
の自由に對する保障をあげなければならないのでありますが、これとの關係において次のごとき
改正
を考慮いたしたいのであります。すなわちその一は「第七章ノ二安寧秩序ニ對する罪」がいささか戰時色濃厚なる感がありますのみならず、その
規定
きわめて概括的でありまして、その運用のいかんによ
つて
は、
言論
抑壓の具に供せらるるおそれもないとは申せませんので、これをこの際削除することとしたことであります。その二は、第一七
五條
の
猥褻文書圖畫頒布販賣
に罪の
法定刑
を
引上げ
まして、最近見らるるごとき出版の自由の行き過ぎを訂正し、そこに正しき軌道を確立せんとしたことであります。なお公然
猥褻罪
の
法定刑
を
引上げ
ましたのも、これと相ま
つて
、健全なる
社會
をつくらんとする念願に出でたるものにはかなりません。その三は名
譽毀損
に關するいわゆる
事實證明
の問題であります。さきに申し述べましたように、
基本的人權
として人の名譽を
保護
することは、新
憲法
の要請の
一つ
でありますけれども、他面において公正なる批判の自由に行われることも、また
社會
の
進歩發達
のために缺くべからざることでありまして、ここに
言論出版
の自由の重んぜらるべき
理由
があるのでありますから、いやしくも發表した
事實
の真實なる限り、時にこれによ
つて人
の名譽が若干害えせられることがあ
つて
も、公正なる批判はこれを罰すべきではないのであります。ここに新たに
規定
を設け、正當な目的のために、公益に必要な真實の事項を發表し他場合には、名
譽毀損罪
を構成せざることといたし、名譽の
保護
と
言論
の自由との間の調和をはかつたのであります。なお新たなる
規定
として未だ公訴を提起されない犯罪につき
特例
を設けましたのは、その
公益性
を重要視したものにほかなりませんが、ここに特に御留意を煩わしたいのは、第二百三十條に二第三項の
規定
でありまして、
公務員
及び公選によるその
候補者
につきましては、その新
憲法下
における
地位
と責任とに鑑み、特に十分なる批判の對象となし得ることにいたしたことであります。以上、名
譽毀損
につきましては、公正なる
言論
はあくまでこれを處罰の外におき、他面その限度を超えたものは、
従來
よりも重くこれを罰し、名譽の
保護
を全うせんとするのが、今囘の
改正
の
趣旨
とするところであります。 次に
従來
の
侮辱罪
の
規定
を廢止いたしましたのは、
事實
の指示を伴わざる侮辱は名譽を傷つける程度も弱く、
刑罰
をも
つて
臨むのはいささか強きにすぐるにあらずやとの懸念に基くにでありますが、この點につきましても、
賛否兩論
がありますので、
姦通罪
の場合と同様に、
社會
の
實情
に鑑みられまして、慎重なる御
検討
を煩わしたいと存ずるのであります。
改正
の次の點は、いわゆる
刑事政策的制度
の擴張でありまして、その一は刑の
執行
猶豫をなし得る場合を
従來
より
廣くし
、懲役、禁錮についてはこれまでの二年以下を三年以下に
引上げ
るとともに、五千圓以下の罰金に處する場合にも
執行
猶豫を附し得ることとしたことであります。その二は新たにいわゆる
前科抹消
の
規定
を設けたことであります。この二點の
改正
によりまして、
刑罰
はその必要なる限界に止め、無用なる
刑罰
の弊を避くる
趣旨
を徹底し、かつ刑の不利益な效果が終生續くというような不合理を訂正いたしますことは、やがて新
憲法
における
刑罰
の
残酷性禁止
の
規定
の
趣旨
にも相通ずるものがあろうかと考える次第であります。
改正
のその次の點といたしましては、
刑事手續
きと關連するものが二、三あります。その一は第五十
五條
のいわゆる
連續犯
を廢止したことでありまして、人権の尊重、迅速なる審判の要請に基く新
刑事手續
きにおいては、とうてい
従來
のごとき
廣範圍
の
連續犯
を一擧に捜査し審判することは困難でありまして、もし強いてこれを要求いたしますならば、かえ
つて
不當に罪を免れる者をこわめて多からしめ、治安の維持にも缺くるところを生じますので、これを本來の敷罪の形に戻すことにいたしたのであります。その二は、第五十八條のいわゆる
累犯加重決定
が
憲法
第三十九條の精神に反する疑ありますところから、これを廢止したことであります。またその三として第百
五條
を改め
犯人
隠藏匿、
證憑湮滅
に
親族
が關豫し得ることといたしましたのは、
犯人
の捜索、正しき裁判に全國の協力を得んとする
趣旨
にほかならないのであります。 以上要點のみを簡単に御説明いたしたのでありまして、なお詳細につきましては、御質問によりお答えいたしたいと存じます。何とぞ慎重御
審議
あらんことを希望いたす次第であります。 次に
民法
の一部を
改正
する
法律案
について、
提案理由
を御説明申し上げます。
日本國憲法
は、その第十三條及び第十四條で、すべて
國民
は
個人
として尊重せられ、法のもとに平等であ
つて
、性別その他により
經濟的
または
社會的關係
において差別されないことを明らかにし、その第二十四條では、
婚姻
は
兩性
の合意のみに基いて成立し、
夫婦
が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならないこと、及び
配偶者
の選擇、
財産権
、相續、住居の選定、
離婚竝びに婚姻
及び
家族
に關するその他の事項に關しては、
法律
は
個人
の尊厳と
兩性
の本質的平等に立脚して制定されなければならないことを宣言しております。しかるに
現行民法
特にその
親族編
、相續編には、この新
憲法
の
基本原則
に牴觸する幾多の
規定
がありますので、これを
改正
する必要があります。
政府
はまずこの問題を
臨時法制調査會及び司法法制審議會
に諮問して、朝野各方面の
権威者
の討議をお願いし、その答申を基礎として、さらに
慎重審議
を重ねるとともに、所要の
手續
を進め、ここにこの
囘第一國會
に本
改正法律案
を提出する
運びとなつた
次第であります。以下
改正案
の内容について御説明します。
改正案
は、まずその劈頭に
民事法全般
に通ずる
日本國憲法
の大
原則
を明文をも
つて
規定
し、その
解釋運用
の指針としました。すなわち第一條において、私権はすべて公共の福祉のために存すること、権利の行使及び業務の履行は、真義に従い
誠實
にこれをなすことを要することを
規定
し、續いて第一條の二に本法は
個人
の尊厳と
兩性
の本質的平等とを旨として解釋すべきことを
規定
したにであります。今囘の
改正
もこの
基本原則
に則
つて
行われたものでありますが、同時にその解釋についてもこの
原則
に従うことを要し、その結果今囘の
改正
ではまだ
根本的改正
の行われなかつた
民法
第一編ないし第三編の諸
規定
についても、その内容はこの二箇條の
規定
により相當の
實質的變更
があるものと考えるのであります。 第二に今囘の
改正
により
民法
から
戸主
、
家族
その他家に關する
規定
を削除しました。
現行民法
のもとでは、
戸主
は家の
統率者
として
家族
に體し、
居所指定権
、
婚姻
及び縁組の
同意権
その他各種の権力を認められておりますが、これらはすでに述べました
日本國憲法
の
基本原則
と兩立しないため、新しい
憲法
のもとでは、これを認めることができません。そしてこれらの権力を否定すれば、もはや
民法
上の家の
制度
は、
法律
上はその存在の
理由
を失うのみならず、これを法の上に残すことは、かえ
つて
戸主
の権力を廢止する
趣旨
を不明瞭にするおそれがあります。よ
つて
この
法律
では
戸主
、
家族
その他家に關する
規定
はすべてこれを削除いたしました。これにより
従來
の
民法
において
戸主
が
戸主
たる
資格
に基いて
家族
の上に行使していた各種の権利は認められないことになります。その他家の存在を前提とする各種の
制度
すなわち繼親子、
嫡母庶子
、
入夫婚姻
、
親族入籍
、
引取入籍
、離籍、分家、廢家、
廢絶家再興
、
一家創立
、隱居、
法定推定家督相續人
、
婿養子縁組
、
遺言養子
及び家の氏に關する
規定等
もすべて
民法典
の上からこれを削除したのであります。 なおここに御留意をお願いしたいことは、右のように、
民法典
の上からは家に關する
規定
を全部削除したのでありますが、これはわが國において現實に營まれている家庭を中心とする
親族共同生活
を否定する
趣旨
ではないことであります。私どもは現に親子、
夫婦
を中心とする
家庭生活
を營んでおり、この親子、
夫婦
間の
法律關係
は、
従來
から
家族制度
の中心をなしているのでありまして、今囘の
改正
もこの點は
日本國憲法
の
基本原則
に従い、より完全な合理的な
制度
に高めるための努力をいたしましたが、毫もこれを制限せんとするものではないのであります。 第三に
婚姻
については、
婚姻
は
兩性
の合意のみに基いて成立すべきものとする
基本原則
に従い、まず
成年者
が
婚姻
をするについては
父母等
の
同意
を要しないものとし、
未成年者
の
婚姻
については、その
保護
のため
父母
の
同意
を要することにしてありますが、この場合も
父母
の一方の
同意
を得られない場合、または
父母
の知れない
場所等
に
従來
の制限を緩和してあります。さらに
婚姻生活
に體する外部の干渉を排除する等のため、
未成年者
は
婚姻
によ
つて成年
に達したものとみなすと同時に、
婚姻年齢
は男女とも
従來
より
引上げ
て、男は滿十八歳以上、女は滿十六歳以上に改めました。 また
婚姻生活
の内部においても、
兩性
の平等を徹底するため、
婚姻
によ
つて夫婦
が夫または妻のいずれの氏を稱するかは、
婚姻
の際
夫婦
の定めるところによることとし、妻の無能力の
制度
はこれを撤廢し、
婚姻
中は
夫婦
は同居しお互いに協力し扶助しなければならないものとし、
婚姻
より生ずる費用は
夫婦
間で分擔すべきものとし、その他妻の
財産
に對する夫の
使用収益権
、
管理権
の
規定等
、
夫婦
の
法定財産制
に關する
従來
の不公平な
規定
はこれを一掃しました。
なを離婚原因
に關する
従來
の
複雑勝
かつ不平等な
規定
を整理して、これを
夫婦
間に平等なものとするとともに、
婚姻
を經續しがたい重大な事由があるときも
離婚
を請求できることとし、同時に、
裁判所
は
法律
上の
離婚原因
がある場合でも、一切の
事情
を斟酌して、
婚姻
の經續を相當と認めるときは
婚姻
の請求を破棄することができることとしたのであります。
なほ離婚
に伴い、
離婚
した者の一方は相手方に對し
財産
の分與を求めることができるものとし、その額等について爭いがあるときは
家事裁判所
でこれを定めることといたしました。
離婚
に關連しまして、
協議離婚
が當事者特に妻の真意に基かないで届出でられることを防止するため、
家事裁判所
の確認をも
つて
離婚
の要件としてはどうかという有力な意見がありましたので、
政府
としても十分な
検討
の結果、
家事裁判所
を各地方に多數設置し、容易にその確認をうけるような途が講ぜられるならば格別、財政上
家事裁判所
の
開設箇所
及びこれに配置できる
家事裁判官
の數が著しく制限される現状を前提にして考えるときは、莫大な數に上る
離婚
について、ことごとく右のような確認の
手續
を經ることは、
協議離婚
の届出を困難にし、ひいては健全な
婚姻制度
を維持する所以ではないと考え、右の意見をとらえなかつた次第であります。 第四に
親子關係
につきましては、まず子の人格を尊重しこれを
保護
するため、庶子の名稱を廢止し、
未成年者
を養子とするには、
家事裁判所
の許可を要するものとしました。養子の
婚姻原因
についても、
離婚
の場合と同様、
繼續縁組み
をしがたい重大な事由があることを
理由
とする離縁の訴えを認めると同時に、
法律
上の
離縁原因
があ
つて
も、
裁判所
が一切の
事情
を斟酌して、縁組みの繼續を相當と認めるときは離縁の請求を破棄することができることにしました。子の氏は摘出の子は
父母
の氏、摘出でない子は母の氏を稱するのでありますが、父または母と氏を異にする場合には、子は、
家事裁判所
の許可を得て、その父または母の氏を稱する途も開きました。 次に
親権
は
未成年
の子に對するものとし、成年の子に對する
親権
は、子の人格を尊重するためこれを認めないことにしました。また
兩性
の本質的平等を徹底するため、母の
親権
に對する制限はこれを撤廢し、
父母
の
婚姻
中は、
親権
は
父母
共同してこれを行うべきものとし、
父母
が
離婚
した後の
親権者
は、
父母
の
協議
で定め
協議
で定まらないときは
家事裁判所
がこれを定めることといたしました。
親権
を行う
父母
の一方が勝手に
父母
の
共同名義
で、ある行為をした場合に、第三者を
保護
する
規定
も別に設けてあります。なお
親権者
が再婚その他の
事情
で
親権
を行うのを
不適當
とする場合にため、
親権
を辭する途及び一旦辭した
親権
を囘復する途を開きました。 第五は
後見人
及び
親族會
は
従來
家の
制度
の擁護と後見の
監督
とを重要な使命としていたのでありますが、
制度
の運用の
實情
をみますと、必ずしも十分にその機能を果してはおりませんので、
家事裁判所
の創設と同時に、
後見監督
の作用の一部はこれを
家事裁判所
に、他はこれを
後見人監督
に移すこととして、
親族會
を廢止することにいたしました。 また
後見監督人
は、
従來
後見の
必置機關
とな
つて
いたのでありますが、
實情
に副わぬ点がありますので、
改正案
では、
指定後見監督人
がある場合のほかは、必要がある場合に
家事裁判所
がこれを選任することといたしました。 第六に、
扶養
に關しましては、まず
扶養義務
を負う者の
範圍
を
親族共同生活
の現實に即せしめるため、
直系血族
及び
兄弟姉妹
のほか三親等内の
親族
にまで擴張するとともに、
扶養義務者
の順位、
扶養
の程度、
方法等
に關する
現行法
の煩雑な
規定
を整理し、
家事裁判所
で適宜にこれを定めることができるようにいたしました。 第七に、相續に關しましては、すでに述べました
理由
で、
戸主
、
家族
その他家に關する
規定
を削除した以上、
戸主権
の承繼を本質とする
家督相續
の
規定
もまたこれを存置することのできないことは當然であります。これに伴い、
改正案
においては
均分相續制度
を採用し、大體は
従來
の
遺産相續制度
によりますが、
兄弟姉妹
をも相續人に加え、
配偶者
は常に相續人となるものとし、
配偶者
の相續分については、一定の割合を確保するため、特別の措置を講じ、これに關連して遺留分の定め方についても變若干の更を加えました。その數字の詳細は
法案
の
當該條文
に譲り、ここではこれを省略いたします。 相續については右のような
均分相續制
をとりますが、これを系譜、祭具、
墳墓等
の承繼に適用することは
不適當
でありますから、この
法律案
では、これらのものは、祖先の祭祀を主宰する者がこれを承繼することといたしました。 第八に、今囘の
改正
に伴い必要な
經過規定
を設けましたが、その中には、
離婚
に伴う
財産分與
の請求に關する
規定
のように、新
憲法
の精神を實現させるため、
實質
上新法の效力をある程度さかのぼらせたものもあります。 最後に、本
改正案
では、
親族
、相續編の條文全部を
口語對
に書き改めました。本來、本
改正案
のように
法律
の一部
改正
の場合は、
従來
の
法律
の文體に従う慣例でありますが、
親族
及び相續に關する
規定
が、
國民
全部の
日常生活
を規律することに鑑み、その理解を容易にするため、この部分のみを口語化した次第であります。ただ従前の
規定
の意味を正確に實現するためには、十分の
検討
を加える必要があるにかかわらず、そのための時間の餘裕が少なかつたため、疑わしい場合は原文の表現を踏襲しましたので、その字句は必ずしも満足すべきものとはなりませんでしたが、これらは、
將來適當
な
機會
にこれを改めたいと思います。以上が本
法律案
の要点であります。 次にただいま上程せられました
昭和
二十一年
法律
第十一號の一部を
改正
する
法律案
の
提案理由
を御説明申し上げます。
終戰後滿洲
から
引揚げた人々
の中には、わが國の
高等試驗司法科試驗
に合格した後
滿洲國
へ参り
司法官
と
なつ
た
人々
が若干あるのであります。この人人は、同國の
司法官
として相當年月の經驗を積んでいるのでありますが、何
分外國
の
裁判官
または
檢察官
であつたため、當然にわが國の
裁判官
または
檢察官
のみならず、
辯護士
の
資格
をも有しないので、歸國いたしましても、ただちに
司法事務
に従事することができず、精神的、
經濟的
に悩んでいる
實情
であります。この
法案
はこれらの人人に、わが國の
辯護士
たる
資格
を與えることによ
つて
、その經驗を活用し、併せてこの
人々
を救濟しようとするものであります。
立法
の形式はすでに存する
昭和
二十一年
法律
第十一號の一部を
改正
する方法をとりました。この
法律
は
朝鮮辯護士令
によ
つて辯護士
及び
辯護士試補
の
資格
を得り
引揚者
に
辯護士審査委員會
の選考を經て、
辯護士
または
辯護士試補
たる
資格
を與える
辯護士法
の
特例
であります。この
法案
の内容は、
辯護士法
第三條の試驗すなはち
高等試驗司法科試驗
にあつた
引揚者
で、先ほど申し上げました
辯護士審査委員會
の選考を經た者には、
辯護士法
第二條第一項第二號の
規定
にかかわらず、すなわち
辯護士試補
として一年六月以上の
實務修習
を了え、孝試を經ないにもかかわらず
辯護士
たる
資格
を附與しようとするものであります。この
人々
はすでにわが國の
高等試驗司法科試驗
に合格した後、さらに
滿洲國
においてわが國の
従來
の
司法官試補
の相當する
學習法官
として
實務
を修習し、
裁判官
または
檢察官
の職に就いていたものでありますので、この
事實
及び
滿洲國
の
法律
が、大體わが國の
法律
と
同一系統
のものであつたこと等を考えますと、
法律的素養
の点では、
實質
的にわが國の
弁護士試補
の修習を了えた者と同視して差支えないと思料するのであります。なお、
弁護士審査委員會
の選考を經ることといたしたのは、慎重を期し、人物、
實務
その他各方面よりの十分な
審査
を行い、
資格
附與に遺憾なきを期したためであります。何とぞ慎重御
審議
の上速やかに可決せられんことを希望いたす次第であります。
—————————————
松永義雄
3
○
松永
委員長
次に
國家賠償法案
を議題としまして質疑を進めます。岡井君。
岡井藤志郎
4
○岡井委員 なるべく時間節約のために一括して御質問申し上げます。第
一條
、「故意又は過失によ
つて
」という文句でございますが、ただいま官界の實状は、官吏の怠慢、懈怠ということが非常に大問題に相な
つて
いるのでございまして、怠慢懈怠というものは、
法律
的に申しますれば過失という中に入るのでございましようが、私は怠慢懈怠という文字を使
つて
、少し官吏をピリッとさせるというような民主的の
法律
をつくるのがよいのではないかと思いまして、故意過失または怠慢というような文句にしてはどうかと思うのでございます。
國民
が迷惑を蒙り損害を蒙りますのは、ほとんど官吏の怠慢によ
つて
であるということがいえるからでございます。それから第二項におきまして「
公務員
に故意又は重大な過失があつたときは、」という文句がございます。これを
國民
が卒然として續みましたならば、不要の文字が書いてあるような感を受けると思います。前項と違うところは、過失が重大なる過失とな
つて
いるのが異な
つて
いるので、それを言いたいために繰返したのでございましようが、これはひとつ全部を削除なさいました方がすつきりするのではないかと思います。今申し上げますような、國語としての體裁、とにかく故意という文字を使う必要がないのに繰返している。この國語としての體裁はささいなことでございますが、いやしくも官吏が
國民
に迷惑損害を加えたというような場合は、これは非常な不都合なことでございまして、少なくともその場合に過失がある以上は、過失という者は絶対的なものであ
つて
、何も重い輕いを問う必要はないのでございまして、いわんや
公務員
という公の職を奉じている人でございますから、一般無知識なる
國民
のごとくに、これに重大なる過失がなければ、それに対して求償権が行われないというようなものではないと思います。これはただいま官吏
社會
が非常にただれております。このただれているということにつきましては、ほかに根本の大原因があるのでございまして、ここで申しまするのは、いささか枝葉末節に類しておりますけれども、法文といたしましては、私は重大なる過失というのは餘計なことである。全部この邊は削除したらいかがと、こういうことをお伺いしたいのでございます。 それから第二條第二項「他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、」というのは、その
公務員
をも含むものでございましようか。次にそうだといたしますれば、この場合は單に求償
請求
を有する野でございまして、重大なる過失でなくとも、單なる過失でよいのであると思いますから、これらとの対比から申しましても、今さら申し上げました故意又は重大なる過失という工合に、求償権の場合に格段なる
規定
を設けられる必要はないのではないかと思います。 第三條、これは後段のものは第
一條
の公共團體に該当せざるごとく思われるのでございますが、いかがでございましようか。そうだといたしますれば、この第三條冒頭に「前二條の
規定
によ
つて
國又は公共團體が損害を賠償する責に任ずる場合において、」とありますが、これだといたしますれば、前者、後者とも含むように見えるのでございます。ところが第
一條
を續み合わせますと、後段のものは第
一條
のいわゆる公共團體中に含まないように見えるのでございますが、いかがでございましようか。また損害賠償の責に任ずる
實質
の議論といたしましても、これは、第三條の前者の方の責任ではないでございましようか。 次は第四條、第
五條
、「國又は公共團體の損害賠償については」という文句でございます。これも一般
國民
がこの
條文
を續みますと、大體前からずつとそのことについて言
つて
きておりながらまたそれを繰返すというのは、はなはだも
つて
奇異の感に打たれるのでございます。そこで本法についてはとかいう工合に、常識的の文句に改められたらいかがかと思います。あるいは前に求償権の問題があるじやないかといいますけれども、これは求償権をも含めての意味であろうと思いますから、もう少し常識的に、民衆が奇異の感を懐かないように
法律
をつく
つて
いただきたいのでございます。 それから第四條と第
五條
を合併してお書きに
なつ
た方が常識に合します。本法については
民法
の
規定
により、また
民法
以外の他の
法律
に別段の定めがあるときはその
法律
により、こういう工合に常識的に書き改めてもらいたいのでございます。 つぎは
公務員
に求償権を行う場合に、
裁判
長の和解、債務調停というようなものも適用があるのでございましようか。換言いたしますれば、なるべく實益を國庫に収める、國庫の損害をして輕からしめるためには、判決で表面の金額をうた
つて
もらうよりも、取りやすいようにして一文でもよけいにとる、これが國家の損害を少からしめる途であると思いますが、そういうような主義をおとりになるのでございますか。あるいは大義名分を明らかにして多額の金額を掲げるというと、かえ
つて
本人は失望落膽して手がつけられなくな
つて
一文も取れぬということになるのであるが、大義名分を明らかにする意味で債務調停式のことはやらないで、表面の金額をなるべく多くうたう、こういうような主義をおとりになるのでございましようか。 それから言い落としましたが、求償権の場合において、
公務員
故意又は重大なる過失あるを要せざる
一つ
の
理由
といたしまして、立證責任をはたすことがはなはだも
つて
困難であるということと、形式主義、官僚主義に陷
つて
いるただいまの
裁判所
の惡習慣といたしまして、故意を發見するというようなことは、
裁判所
の技兩をも
つて
しては、私ははなはだおぼつかないと思うのである。重大なる過失にしてはじめて、今の
裁判所
の技兩をも
つて
すればようやく發見し得るのではないかと思うのでございます。さような意味におきましても、過失というものと、重大なる過失と區別する必要は毛頭なくして、われわれ
國民
は重大なる過失がある場合でなければ救濟を求められないということになるというのが
實情
だはないかと思うのでございますが、左様な意味からも、特別に求償権の場合に重大なる過失以上とせられた
理由
が私には解しかねるのでございます。以上でございます。
奧野健一
5
○奧野
政府
委員 お答えします。まず第一點の、故意又は過失の中に、官吏の怠慢、懈怠というようなものがはいるかどうかという御質問でございますが、これはもちろん怠慢、懈怠というようなものは、その過失の中にはいるかと考えております。すなわちその結果他人に損害を加えた場合には、第
一條
の適用があるというように
解釋
しております。 次に第二項の求償の場合に、何ゆえに故意又は重大なる過失ということにしているのか、一項と同じく故意、過失だけでよいではないかという御議論であります。この點は實は
現行
の官吏の責任として、戸籍法、あるいは公證人法、あるいは不動産登記法等における官吏の賠償の責任を
規定
している場合にも、大體故意又は重大なる過失があつた場合に損害賠償の責任があることにな
つて
おります。ところが今囘は重大な過失がなくても、國家に対して損害賠償の責があるということにいたしたのであります。ただ官吏
個人
に求償する場合においては、現在以上に、輕過失の場合でも官吏に責任を負わすということはいささか苛酷に過ぎるではないか。あまり苛酷であると、官吏も職務
執行
について臆病になりはしないか、従
つて
官吏
個人
の求償責任を求めるときには、故意、重大なる過失のあつた場合に限定して適當でないか。その代わり國家自身が
被害者
に責任を負うには、それは官吏の單なる輕過失によつた場合でも、國家としては責任があるということが、大體妥當ではなかろうかというふうに考えまして、外部関係と内部関係について區別を設けたわけであります。 次に第二條におきまして第二項に「他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、國又は公共團體は、これに對して求償權を有する。」というのはどういうものを考えているかというお尋ねでありますが、これは
現行民法
の七百十七條第二項にもあるのと同じものでありまして、すなわち公の營造物の設置または管理について瑕疵があれば、國家なり公共團體なりが責任を負う、賠償の責に任ずるのでありますが、それがその公の營造物の設置管理の工事をした請負人等が、工事が不十分であつたということのために、そういう損害を生せしめたという場合には、國家からさらに工事請負人等について求償権をもつという大體
趣旨
でありまして、
現行
の
民法
七百十七條の第二項も同様に
解釋
されておりますが、そういつた
趣旨
を
規定
したわけであります。 次に第四條、第
五條
等について「國又は公共團體の損害賠償の責任については」というふうなことを繰返さないで、「本法については」というふうにしてはどうか。あるいは四條、
五條
を合併してはどうかという御議論でありましたが、文字といたしましては、あるいは非常によい表し方ではないかとも考えますが、要するに本法によ
つて
、國又は公共團體が損害賠償の責に任ずる場合に、それらの点について本法に
規定
した以外の事柄については、
民法
の不法
行為
に関する
規定
を準用し、たとえばその損害賠償
請求
権の時效の問題でありますか、あるいは
被害者
に過失があつた場合には過失相殺ができるかどうかというようなことすべてが
民法
によるという
趣旨
でありまして、本法の責任については云々というのでは、かえ
つて
わかりにくいのではないかというふうに考えまして、文字としてはどうかと思いますが、「國又は公共團體の損害賠償の責任については、」というのを繰返したわけであります。 最後に、これらの損害賠償について調停とか和解とかいうようなことがやり得るか、債務調停の適用があるという御質疑でありましたが、これはもちろん一般の損害賠償債權として、やはり調停なり和解なりの対象となり得るものと考えております。
岡井藤志郎
6
○岡井委員 一括して申し上げましたためにお落としに
なつ
たようでございますが、第三條はいかがでございましようか。
奧野健一
7
○奧野
政府
委員 失禮いたしました。第三條な、たとえば道路法等によりますと、管理者と費用負擔者とが違うのでありまして、あるいはそういつた例はあまりたくさんな例ではありませんが、特別都市計畫等のような場合に、行政官廳が
執行
するのであるが、その費用はその公共團體が負擔するというふうにな
つて
おりまして、その
公務員
の選任、
監督
、あるいは營造物の設置もしくは管理に當たる者と、それからその費用を負擔する者とが違う場合、前者が國家の事業あるいは國家がやるにかかわらず、その費用はすべて公共團體がやるということがあまり多くはありませんが、そういう例がある。そういう場合に國家が賠償責任がある場合に、國家が賠償して、それからあとで費用として公共團體に求償するということになろうかと思うのでありますが、それではまわりくどくなるので、そういう場合には直接費用負擔者である公共團體が損害賠償の直接責任者に
なつ
た方が便宜であるし、またそういう管理者と費用負擔者が違う場合によく訴訟でどちらかを被告にすべきかというようなことについて疑問があ
つて
、判例等も出ております。そういう場合には費用負擔者を直接の被告によるということに明確にしておく方が、その点が迷わなくていいというふうに考えまして、あまり例は少ないのでありますが、そういうふうにたまたま費用負擔者と違
つて
おる場合には費用を負擔する。これは大體公共團體——國がや
つて
公共團體が費用を負擔するという場合でありますが、そういう費用を負擔する公共團體が直接の責任者になるということを明確にしたのであります。
岡井藤志郎
8
○岡井委員 公共團體に少しも悪いところがないにもかかわらず、その公共團體が費用負擔の求償の責に任ずるということは、迷惑至極で不都合きわまる公序良俗にも反することだと思います。その公共團體も大いに怒るでございましよう。國が不都合であるにかかわらず公共團體に尻をも
つて
くる。これは民主自由の政治ではないと思いますが、いかがでございましようか。それからさような公共團體には第
一條
の公共團體にあたらないとおもうのでございまするが、第三條の冒頭の書出しを見ますると、この費用負擔を公共團體も第
一條
の公共團體にあたるがごとくに一般國語を讀む者から見れば見えるので、文理
解釋
からすればさように拜見せられるのでございますが、いかがでございまするか、この二點をお伺いいたします。
奧野健一
9
○奧野
政府
委員 お説きのように、第三條の場合においては、費用負擔である公共團體としては何ら自分のやつたことではないので、國家の
行為
でありながら費用を負擔させられるわけで、一見別に自分に責任のない公共團體が費用を負擔するという
理由
のために、損害賠償をしなければならないというのは不都合ではないかというふうに考えられますが、結局そういう、まあたとえば公の營造物の設置、管理の費用を負擔するというその費用の負擔という中に、管理の瑕疵があつたためにたいへんに損害をかけて、その損害の賠償をしなければならないということも、費用の中に含まれるものと考えるわけであります。そこで、要するにそういつたようなことですべて費用を負擔しなければならないということに法制上な
つて
おる以上は、その費用の中にはいる損害の賠償ということも費用負擔者が負擔することが
當然
であ
つて
、これはたとえば保證人のような場合に、保證人が自分の事柄ではなくても保證しなければならないというのとおなじようで、要するに自分の
行為
ではないけれども、費用負擔者たる
地位
からして、やはりそういうものも損害賠償の費用の一部分として負擔しなければならないというので、それなれば一應本人に會
つて
それから本人からさらに保證人に求償するというようなことではなく、直接に外部に対してその費用負擔者が負擔すればよいではないかという思想から來たのであります。そこで第二の御質問であります
一條
との関係でありますが、
一條
の公共團體と申しますのは、公共團體がみずから公
権力
の行使をや
つて
おる場合が第
一條
でありまして、第三條というものは、その費用負擔者たる公共團體ということになるのでありまして、第三條は費用負擔者といわゆるその管理者たる
地位
とが違う場合の
規定
で、
一條
は公共團體が責任を負うという場合は公共團體の
公務員
の
行為
によ
つて
その公共團體が責任を負う場合であります。三條は國の費用について費用負擔者である公共團體が責任の費用を負擔するという意味で責に任ずるというので、場合が違
つて
きておる次第でございます。
岡井藤志郎
10
○岡井委員 時間をと
つて
恐縮でございますが、ただいまの御説明は承服申し上げ兼ねるのであります。さらにお考えおきを願いたいと思います。この第三條を終りまで讀んでみて、初めて費用負擔の公共團體が責に任ずるということに相な
つて
まいりますのにかかわらず、第三條の冒頭の書出しにおいては、これらのものが初めから求償権の義務者に相な
つて
いるというふうに文理
解釋
上からはどうしても讀まれるのでございます。その点と、かくのごとき公共團體に費用求償を、償還をさせてよろしいかどうかという大義名分論について、さらにお考えおきを願いたいのでございます。 それから次に立證の責任についてについて佐瀬議員も非常に心配せられたのでございまして、この點から申しましても、重大なる過失を要求する必要は毫もないのではないかと思います。その點について御説明がなかつたようでございますが……。
奧野健一
11
○奧野
政府
委員
現行
の
民法
の七百九條におきまして、一般的に不法
行為
については、故意、過失を要件といたしておるわけでありまして、それでありますから、大對において
裁判所
等において故意、過失の認定ということは、常に事件の上で行
つて
おるわけでありますから、必ずしも故意、過失の認定が
裁判所
において非常に認定する能力がないのではないかという心配はなかろうかと思います。ただその内部において求償
公務員
個人
の責任を問う場合は、最前申し上げました義務によ
つて
、外部責任と内部責任との取扱いを異にするという意味で、内部責任については重大なる過失のあつた場合だけ國から賠償償還の
請求
を受けて、
公務員
の
個人
の賠償を認めていくという行き方にいたしたわけであります。
岡井藤志郎
12
○岡井委員
裁判官
に適用せられましようか。
奧野健一
13
○奧野
政府
委員 その點は非常に問題であります。これは特に
裁判官
の判決が假に間違つたような場合に適用があるかどうか。この點については
外國
の
立法例
等におきましては、一般の官吏と
裁判
の場合と非常に區別して、
裁判
の場合では非常に適用がむずかしいというか、嚴格な要件を要求しております。そこで國家賠償法を立案する場合にも、
裁判官
については例外的な
規定
を設けようかという議論もずいぶん出たのでありますが、いろいろ考えました結果、やはり
憲法
十七條で
裁判官
だけを除くとか、あるいは
裁判官
だけについて特別な要件をもらうということは、あるいは
憲法
違反になるおそれがあるのではないかということで、特別な例外を設けません結果、やはり
裁判官
もこのうちにはいるという
解釋
をするのであります。
岡井藤志郎
14
○岡井委員 私の本日の質問につきましては、はなはだ僭越ではございまするが、さらにお歸りにな
つて
お考えおきを願います。 最後に口語體の
法律
は必ずではなくして常に明白でないのでありまして、一般民衆はほとんど
法律
の文は毎日新聞に出ても讀む者は一人もないだろうと思います。そこで口語文の
法律
につきましては、まだ昔の文章體の場合よりも、さらに難解であるという評があるのでありまして、これは第一
立法
者みずから概念の統一をなされて、自分の言いたいことをはつきりきめてかからないと、概念の統一なきために、觀念の混合を來しまして、明白でないということにな
つて
くるかと思うのであります。次に表現の
方法
が非常にしつこくて、かえ
つて
わかりにくいということに相な
つて
くるのではないかと思いまするので、
法律
をつくられる御商賣の司法省におかれましては、大いに今後御注意していただきたいのでございます。
松永義雄
15
○
松永
委員 佐瀬昌三君。
佐瀬昌三
16
○佐瀬委員 重複を避けて要點だけを質問いたしたいと思います。 第
一條
の公權力の行使に當たる
公務員
という概念でありますけれども、公權力とはどういう意味か、また
公務員
とはどういうものか。またその
範圍
がどうかという點であります。
刑法
は御承知のように、
公務員
について定義を掲げておりますが、その定義があ
つて
すら、なおかなり
解釋
上疑義があるのであります。本法においてもあらかじめこれを明白にしておくということが必要ではないかと考えます。なおまたその説明についても、でき得べくんば具體的な事例をも
つて
明確にいたしておくことが、肝要ではなかろうかと考えるのであります。もちろん今後行政機構組織の改革等に伴
つて
、この
範圍
の擴張ということも豫定されておりますが、
現行
制度
の上に立脚して應一
政府
委員のその點に対する御説明をお伺いしておきたいと思います。
奧野健一
17
○奧野
政府
委員 公權力と申しますのは、大對警察權あるいは司法權あるいは財政權と申しますか、税金の賦課徴収といつたような場合もいろいろありましようが、そういうものがいわゆる公權力に該當するというふうに考えております。
公務員
ということにつきましては、お説きのように明確にすることが適當であろうかと思いますが、これは
憲法
の上にも、十七條に
公務員
というふうにな
つて
おるのでありまして、この點は大體
従來
おのずから
公務員
というものに関する概念が、
法律
的にあるのではなかろうか。要するにその職務權限が抽象的に大體法令でも
つて
定められてあるものを、
公務員
というふうに考えていいのではなかろうかという意味で、特に
公務員
について、
刑法
のように定義を設けることをやらなかつたのであります。
佐瀬昌三
18
○佐瀬委員
刑法
が
立法
的に有限
解釋
を下して、おるのでありますが、大對それを本法においても基準にして、あるいはそれより以上にこの
立法
精神
に基いて擴張して
解釋
していいというようなお考えは、提案者としてはおありにな
つて
おるのか、その點を簡單にお答えいただきたいと思います。
奧野健一
19
○奧野
政府
委員 限定的に
刑法
のように
規定
をいたさなかつた結果、やはり
公務員
という者は結局
解釋
によ
つて
きまるわけでありまして、大體はさつき申しましたように、職務權限が法令によ
つて
きま
つて
おるものを指すことになかろうかと思いますが、これは
解釋
に委ねておりますので、
刑法
のように限定しておりませんから、この
公務員
というものは、
範圍
が相當廣く
解釋
し得るのではないかというふうに考えております。
佐瀬昌三
20
○佐瀬委員 結局その點にも関連してまいるのでありますが、第四條の
規定
の
趣旨
であります。これは本法の
規定
によるのほかは、
民法
の
規定
によ
つて
、國または公共團體の損害賠償の責任をきめるという提案
趣旨
のように承
つて
おりますが、先ほど來その意味の説明を承
つて
おりますると、それは時效
制度
あるいは過失相殺
制度
といつたようなことについて、本法には
規定
がないから、
民法
の
規定
に譲るという
趣旨
のように考えられるのであります。しかし私の考えから申し上げるならば、單にさような
手續
きに関する
規定
について、
民法
を適用するとか準用するとかいうだけの問題ではなくして、本國家賠償法に基いて國等が損害賠償の責任をもつ以外は、すべて
民法
の七百九條によ
つて
、國等の損害賠償を認めていく。もつとも第
五條
には特別の
法律
のある場合は、この限りでないということになるのでありますが、とにかくさようにして、いやしくも國または公共團對の
行為
に基いて損害賠償をするものは、
憲法
十七條によ
つて
全面的に保証されている。この大
前提
のもとに考えると、
個人
は必ずやいずれかの法規に準據して、國等に対して損害賠償を求むることが認められているのでありますから、それを漏れなく目的貫徹をなさしなめるためには、
民法
の七百九條がきわめてこれまで狭く
運用
されている関係から見まして、第
一條
の公權力の行使に當る
公務員
の行動というものは、むしろ廣く
解釋
するようにしなければ問題が生ずるという疑念があり、そこに
憲法
十七條は全うされないという不安があるのであります。従
つて
将來の個々の特別法は別といたしまして、あらゆる損害について
民法
七百九條か、しからずんば本法に基いて、すべて賠償が
保障
されるというふうに
立法
し、かつそれを
運用
することが、きわめて肝要ではないかと考えるのであります。この點に対する
政府
委員の御所見を承
つて
おきます。
奧野健一
21
○奧野
政府
委員 お説のように結局今までは、國または公共團體の公權力の行使の結果の損害賠償については、かか
つて
いけなかつたのでありますが、この
法律
によ
つて
賠償が
請求
できることに
なつ
たわけでありますから、結局すべての不法
行為
について、私人であると國家であると公共團體であるとを問わず、またそれが公權力の行使であると、司法関係の不法
行為
であるとを問わず、結局
民法
七百九條とこの國家賠償法によ
つて
、完全に賠償の
請求
權を
保障
されるということになるわけであります。
佐瀬昌三
22
○佐瀬委員
公務員
の選任、
監督
に對する責任ということは、本法の運営においては別にこれを問わない御
趣旨
でありましようか。
奧野健一
23
○奧野
政府
委員 これは國家が直接賠償の任に當
つて
おるので、
民法
の七百十
五條
のように、選任
監督
について注意を怠らないことを證明すれば、國家が責任を免れるという方式はとらないことにいたしまして、たとい専任
監督
について國家が常に注意を怠
つて
いなくても、いやしくもその
公務員
がこういつたような損害を生ぜしめた場合には、専任
監督
について注意があつたかどうかにかかわらず、國家が賠償の責に任じなければならないという
趣旨
であります。
佐瀬昌三
24
○佐瀬委員 その点は大變結構な御
趣旨
で、諒といたします。この場合に
公務員
の
個人
的な賠償責任はどういうふうに相なりますか。
奧野健一
25
○奧野
政府
委員 これは結局
憲法
十七條によ
つて
、國の賠償義務について
規定
を設けなければならないという
憲法
の
要請
に従
つて
、國の賠償責任について
規定
を設けたわけでありまして、その
個人
たる
公務員
は、しからば直接責任があるかどうかというようなことについては、本法は觸れていないわけでありまして、これは結局
解釋
の問題として残るかと思います。すなわちこの場合に、
個人
たる
公務員
は直接第三者に對して國と併存して損害を負わなければならないのか、あるいは國がすべて責任を負擔し、
公務員
たるものは、これは國家の
行為
であるのだから、
個人
としての責任は問われないというふうに
解釋
するか、この点がいろいろ實は司法法制
審議
會等におきましても議論があ
つて
、そういう場合に國のみが責任を負擔するのだという議論が大體多かつたのでありますが、この点については非常に議論が分かれまして、結局その点は
解釋
問題にして、少くとも
憲法
の
要請
によ
つて
、國家が責任を負膽するということを明らかにすればよいのではないかということで、この案におちついたわけであります。要するに
被害者
としては國が賠償の義務があるのであるから、しかも國については
個人
と違
つて
經濟力があるわけでありますから、賠償の
保障
は十分得られるわけであるから、これによ
つて
權利の
保護
は十分であるということで、
個人
責任の点については觸れてないということに御了承解を願いたいのであります。
花村四郎
26
○花村委員 今の問題に對して關連してちよつと質問いたしたいと思います。——賠償責任に關しまして國家が責任を負う旨の國家賠償法ができたのでありますが、まことに本
法案
たるや少しの進歩的のところが發見できぬと申し上げてよかろうと思うのであります。要するに
民法
の不法
行為
による損害賠償と、
刑法
の不法
行為
による損害賠償とが混済されて
解釋
せられておつたようなこともあるのでありますが、しかしながらこれははつきりその趣きを異にしているのでありまして、前者は要するに
個人
の損害賠償というものに重きをおいている。それから後者は
社會
的見地から見た損害賠償という点に重きをおいたという点において異な
つて
おるのであります。そこで民事上における損害賠償は、要するに
個人
の損害を賠償するということである。いわゆる損害賠償主義がその根本をなすものであると申し上げてよかろうと思います。従いまして、その損害賠償は何人が負擔するのであるか。あるいは
個人
が負擔するのか國家が負擔するのか、そういう損害賠償を受くる人の對象は、多く論ずる必要はない。その
個人
の生じた損害を賠償してもらうということが第一の眼目であ
つて
、その賠償すべき人はあえて問うところではない。これは要するに
民法
の不法
行為
による賠償責任の根本の考え方であるのでありますが、今囘新
憲法
によ
つて
國家賠償責任法が出たのでありますけれども、やはりこの
民法
の不法
行為
と同様に過失主義をと
つて
いる。これではこういう新
憲法
のもとにおいて劃期的な
法律
をつくるという考えとぴつたりいかない。むしろこういう國家が責任を負うというような國家賠償法をつくる場合においては、無過失損害賠償主義をとるということが必要じやないでしようか。その過失があるかないかというようなことを窃鑿し、しかもその過失があるかないかというようなことは、加害者の方面で立證責任をしていかなければならぬというような、ほとんど
民法
の不法
行為
と變わ
つて
いない。ただその損害を賠償すべき主體というものが國家にな
つて
きたというに過ぎない。これでは一向損害賠償に關しまする進歩的な点が私は見られないと申してよいと思う。むしろこういう
法案
を設ける場合においては、その過失の有無を問わず、損害が生じた場合においては國家が賠償するというところにも
つて
い
つて
、初めてそこに新鮮味があるのじやないでしようか。現に工場法竝びに鑛業法であつたと思いますが、二、三は無過失主義をと
つて
いる。過失がなくても、故意過失によらなくても損害を賠償しなければならぬという
規定
があつたと私は記憶をいたしております。でありますから、こういう法制にもとにおきましては、大して
民法
と變わりはない。ただその損害を賠償すべき主體が國家が加わつたというだけである。これは賠償という意味の根本理念に副うていかない。要するにその損害の賠償を受け得るということが根本的の考え方である。ここに損害が生じた以上、その損害が公權力の行使による
公務員
の故意によろうが過失によろうが、そんなことはあえて問う必要はない。故意過失があ
つて
もなくても、ここに損害というものが客観的に生じた以上、その損害を國家が賠償するのであるということにな
つて
こそ、初めてここに新しみがある。こういう
法律
を新
憲法
のもとにおいてあらためて設けるという必要性が出てくるのではないでしようか。それをひとつお聽きしたいと思います。
奧野健一
27
○奧野
政府
委員 無過失損害賠償主義をと
つて
はどうかという御議論でありますが、これはきわめて重要な問題でありまして、われわれもその点については十分
検討
いたしたのであります。これはさらに
民法
一般の不法
行為
についても、いろいろな議論があるわけでありまして、あるいは進歩的という考えからいたしまするならば、無過失損害賠償主義をとつた方が進歩的であることはもちろんだと思うのであります。ただこれは、お話の中にもありましたように、労働者災害扶助などにおきましては、工場等が無過失的に労働者に災害の賠償をしなければならぬことにな
つて
おりますが、これは一面御承知のように労働者災害扶助責任保健法というのでありまして、一方において責任保険の裏づけによ
つて
行われているわけでありまして、どうしても無過失損害賠償をする、それと同時にその裏づけに
社會
保險のような何らかの責任保險の
制度
を考え合わせていかなければならないかと考えます。そういう意味をもちまして、現在の一般法である
民法
の主義が、現在のところ過失主義をと
つて
おる
制度
に鑑みまして、やや進歩性は缺けるかもしれませんが、本
法案
におきましても、國家の賠償についてはやはり過失主義をとることが、現段階において妥當ではなかろうかというふうに考えまして、結局本案におきましては過失主義をとつた次第であります。その点御了解を願います。
花村四郎
28
○花村委員
民法
の不法
行為
に關しまする
請求
訴訟などを見ましても、故意があつたが過失があつたかということが、やはり相當にむつかしい爭点に相な
つて
おりますることは、これは申し上ぐるまでもございません。従
つて
この故意、過失の
程度
というものを決定するがために、不法
行為
に關する事件というものは相當長く延びておる。しかもそれが
被害者
に方面でありまするところの原告の方に立證責任があるということで、不法
行為
に關する
民法
の
規定
は設けられてはおりますけれども、實際の場合においては、その
法律
によ
つて
救われることがきわめて少ない、また訴訟等におきましても、おそらく
民法
の訴訟として不法
行為
の訴訟がまず第一にむつかしい訴訟であると呼ばれており、しかも相當にやはり年月が費されておる。でありますから、不法
行為
の
規定
は設けられておるわけでありますけれども、實際においてはそれによ
つて
救われておらない。加害者で、あるいは腕をなくし、足を切られたというような者が不法
行為
に基く損害賠償の
請求
をして、三年も四年も五年も、はなはだしきは十年もかかる、そういう長い期間を要して訴訟で爭
つて
も、それでただちに勝つとは言えない。この故意過失が相當にむづかしい問題となりまして、これあるがために、今日まで不法
行為
の
規定
を設けられておりながら、實際は救濟をされておらない。しかるに今度は國家がその賠償責任を負うという場合におきましても、やはり故意過失があつたかということが、これがやはり爭點の
中心
になるので、従
つて
こういう
規定
を設けましても、われわれの長き
經驗
から申しますと、やはりこれは思うように救濟の手は伸べられない。今日は御承知のように
社會
もだんだん複雑に相な
つて
まいりまして、いろいろのこういう賠償問題が起きてくるのであります。しかも
社會
が複雑になればなるほどこういう問題が起き、しかもそれがまたむつかしくな
つて
くるのであります。でありますからこういう世相が畫期的の革新せられていくというような場合において、むしろ大英斷的に、故意過失というものを論ぜずに、とにかく公
権力
の行使によるところの
公務員
が損害を生ぜしめた場合においては、その故意過失を論ぜして國家が責任を負うのだ、またそこまでい
つて
こそ、初めて新
憲法
に基く救濟の道が開かれるのではないでしようか。これではほとんど國家がただ賠償責任を負うという、この責任の主體が變
つて
きたということだけで、ほかには何らの進歩もなければ何らの變つたところもない。これでは私は國家賠償法として新
憲法
のもとにおいて
國民
の
権利
を救濟するという救濟に
方法
としては、まことに手ぬるいものである、こう思うのでありますが、むしろこの時勢から考えますれば、故意過失を論ぜずに、損害が生じた場合においては、客觀的にその損害を見て賠償するという方向に改めることこそ、時代に副う考え方であると思うが、いかがでしようか。
佐瀬昌三
29
○佐瀬委員 私も
審議
を促進する意味で、あまり重複する質問を避けることにしてまいつたのでありますが、今花村君から質された點は、私も劈頭に申し上げて
政府
の説明も一應伺つたのであります。
憲法
十七條によると、「
公務員
の不法
行為
により、」云々とされておるために、どうしても過失責任主義が維持されなければならぬというふうに
解釋
される。それが根據として本法でもかような責任原理を採用することに
なつ
たように思うのでありますが、ただこの
憲法
の
範圍
内においても、私は過失責任主義の
運用
においても立證責任の轉嫁という方式をも
つて
のみ
被害者
たる
國民
個人
に立證責任を負わさずに、もし國または公共團體がその
公務員
の職務
執行
上生じた損害に對して責任を免れんとするならば、むしろ國または公共團體の方において故意または過失がなかつたかということを立證するという主義、あるいはこれを過失推定主義と申してもいいんかもしれませんが、そういう妥協的な案分に修正したならば、先ほどは岡井君からも立證責任の問題がここで提出されたように、ひとしくそういう方式で満足するのではなかろうかと考えるので、この點に對する
政府
委員の御一考を煩わしたいと思うのであります。
鍛冶良作
30
○鍛冶委員 私も
一つ
關連して質問を申し上げたいと思います。これは今みな言われたように、私らも多年
辯護士
をやつた
經驗
から申しまするが、われわれの仲間では俗に損害賠償の訴訟を起して勝つようにならなければ一人前ではないと言われる。殊に先ほどの説明を聽きますと、國家公共團體を被告として訴えなければならぬということに
なつ
たら、よほど——よほどどころではない、大變なことです。われわれは今まで國家を相手にして損害賠償の訴訟を起して、これほど困ることはない。というのは、こちらは
個人
の力でいくけれども、向うは公
権力
をも
つて
戰
つて
いる。あらゆる手段
方法
をも
つて
戰
つて
いるのであります。五年でも、十年でも、二十年でもかか
つて
いる訴訟がある。殊にはなはだしいのは、そしようにおいて立證上
公務員
の書いたものは信憑力があ
つて
、私人の書いたものには信憑力がないということにな
つて
いるから、
同一
の官廳の
公務員
がこういうことで過失がなかつたのだとか、こういう
事實
があつたという證明を爭出して
つて
きている
事實
は、もうたびたびお
つて
われわれは不都合きわまるものであると思うがや
つて
いる。これらの點から考えまして、この通りでいつたら有名無償の
法律
になります。少くとも不法にというようなことを入れればよろしいので、故意過失の責任を原告にもたせるということならば、この
法律
がないと同じだと思いますが、これは特に十分なお考えおきを願わなければならぬと思います。
奧野健一
31
○奧野
政府
委員 先ほどからたびたび申し上げておりますように、段階においては、過失ならば責任がないという法制をと
つて
おりますので、本法におきましてもそういう主義をとつたわけでありますが、この點については結局御
審議
をなさいます委員各位におきまして、これではどうしてもいかぬ、無過失賠償にしなければならぬ。あるいは少なくとも過失についての立證責任の轉換ぐらいをやらなければ實行力がないという御
意見
が非常に多數であるというような場合には、
政府
部内におきましても、さらに研究をいたしたいと思います。
松永義雄
32
○
松永
委員 午前中はこの
程度
にして午後一時半まで休憩いたします。 午後零時三十四分休憩 ————◇————— 午後一時五十六分
開議
松永義雄
33
○
松永
委員長
休憩前に引續き
會議
を開きます。岡井君
岡井藤志郎
34
○岡井委員 鈴木司法大臣に少しく重大なることをお伺い申し上げます。すべて
國家賠償法案
そのままに即したる質問でございまして、少しも離れておりませんが、初めの方がちよつと離れたようにお考えになるかもしれませんが、まず五分間で申し上げますから、五分間だけ御辛抱願います。私は昔から亡國罪というものがあるということを信ずるのです。國を滅ぼす犯罪でございます。これはおそらく私一人といつたら僭越かもしれませんが、私は昔から考えております。誠意のない、能力のない、認識淺薄なる大臣がいすに腰をかけておるということは、すなわち日々夜々において國家を覆減に導きつつある亡國罪の繼續犯であると思うものでございます。私は東條内閣當時に判事を勤めておりましたので、一例に擧げても司法部の司法大臣、はなはだ失禮であるけれども腐敗政治と無能な政治を行
つて
おる。ただ下僚が型のごとく出席すれば精價格勤だと思
つて
おる。あなた方は亡國罪を犯しつつある。あなた方が大臣のいすにすわ
つて
おられることは、すなわち亡國犯を繼續して犯しつつある姿であるということを非常に猛烈に書きましたために判事懲役
裁判
を開始せられまして、被告人を
經驗
したものでございます。まず開戰の際に戰爭は勝つ見込みがないというので、米内さん初めそういう考えであつたらしいのですが、これに對して徹底的に反對をしなかつた。それからその次に本土決戰というような愚劣きわまる議論をまことしやかに唱えておる。これははなはだしき無能であるか、はなはだしき無誠意であるかでございます。それに對して昔の軍令部總長であ
つて
、重臣筆頭の鈴木貫太郎さんなどが、それを見ておりながら、何とも言わなかつた。それから私は終戰直後の御詔勅を拜承したあとで、すでに
日本
は
昭和
十八年十一月二十七日のポツダム宣言と同じ
内容
であるカイロ決議のときに戰爭を投げておつた。爾後
政府
、軍部、外交部は和平の
機會
をねら
つて
おつたのであるという奇々怪々なる放送を聽きました。翌日新聞に出るかと思つたら出ませんでした。これは
政府
が誤
つて
祕中の祕を發表したのだと思います。これから考えますと、もしも鈴木樞密院議長にしても、ほんとうに樞密院議長の重職を自覺しておつたならば、彼は軍事の専門家であるし、東條がいかに墜落した政治を行
つて
おるかということも御存じであるし、また海軍がほとんど全滅しておるということも御存じであるはずです。知らなければ知る義務があるのです。無能にあらずんばはなはだしく、誠意がないということになります。私のはまだ
事情
に暗くして戰爭に勝とうとしてやつたのでございますが、今のように開戰に反對であつたならばなぜ徹底的にやらなかつたか。まだだめだということを知
つて
おりながらなぜ樞密院議長たるの重責を盡さなかつたかということこの點を責めたいのでございます。
日本
は、ともかくも當局がほんとうに戰爭をする氣がなくな
つて
から後に、内地の二百五十萬戸の家は焼失しています。五十萬人の爆死者もことごとく戰意を放棄した後です。それからその前のあまたの戰死者、特攻隊も全部、
日本
がカイロ決議によ
つて
戰意を喪失してから後起
つて
おるのです。そこで當局者みずからマツチをす
つて
二百五十萬戸の放火罪を犯した。またみずから刀を振
つて
内地の爆死者、戰死者の殺人罪を犯したのである。いわんや國を亡す犯罪を犯しておる。そこでお伺いしたい。 第一は、
憲法
によ
つて
「何人も、
公務員
の不法
行為
により損害を受けたときは、
法律
の定めるところにより、國又は公共體に、その賠償を求めることができる。」とあります。またこの度國家賠償法ができ上がろうとしている。そこで
憲法
第十七條の
公務員
の不法
行為
により損害を受けた場合の國または公共に賠償責任と、このたびの國家賠償法第
一條
とは、たとえば鈴木樞密院議長その他たくさんあるが、こういう
人々
の
行為
に適用されるのでありましようか、いかがでありましようか。これらは新
憲法
發布前のことでありますから、もちろん適用しないと仰せられるならば、 第二に、同様の場合において新
憲法
ができた今日、國家は二百五十萬戸の放火罪の
被害者
、何十萬、何百萬の殺人罪の
被害者
、かような
人々
に向か
つて
陳謝の責任があるのではないでありましようか。 第三は、國家が滅亡に瀕しておるのを見て救う義務は、だれにでもありますが、殊に前總理大臣樞密院議長等いわゆる重臣、それから
政府
の代官、殊に外交部の
人々
、陸海軍省、参謀本部、軍令部等の世界の大勢を知
つて
おるところの樞機參畫した少壮武官、それから當時の議會人、こういう
人々
は當時大臣の顔色を見、祕密
會議
も開いてもらつたであろうが、何をしておつたか、こういうときにこそものを言うのが勤めである。こういう
人々
は、罪萬死に値するというが、それでは濟まない。千遍萬遍死んでもまだ足りない。死ぬ人があれば死んでもよろしい。そうでなければ、幾多の英靈が——西洋の學説によれば英靈の魂は
存在
しておるので、これらの
人々
が納得しないから、強盗など特攻くずれその他が多いし、ますます世の中が亂れるのでありますから、こういう
人々
を議會において陳謝さすべきではないかと思います。 第四は、
法律
は既往にさかのぼりませんけれども、かくのごとく多數の殺人罪、放火罪、それにもまして亡國罪というようなものを超したる今列擧したような
人々
を訴追すべきではないでしようか。
法律
は既往にさかのぼりませんけれども、東京
裁判所
なんかでは、既往にさかのぼるということでや
つて
おります。もし新舊兩法、行政法の交替する
機會
に、殺人罪放火罪のごときものを新法に誤
つて
書き落としたことを後日に發見した場合に、それの空白時代の殺人、放火
行為
を放
つて
おかれぬのではないかと思います。さような犯罪、それにもました亡國罪というようなものは、人類なり
國民
の根本的犯罪でありますから、これは
法律
をまたないと思うのでありまするが、いかがでございましようか。 第五、舊
憲法
のきましては、國務大臣は
天皇
輔弼の責に任じております。それから新
憲法
は第六十六條三項、國會に對して内閣は連帶責任を帶びているようでございます。私は昔から次の疑問をも
つて
おりました。輔弼も責に任ずるといつたところが、國家を亡ぼすかもしれないということに對して、死刑にしても、あるいは千遍、萬遍死んでもあきたらない。金錢的賠償もしかりである。そのことを
憲法
は麗麗しく書いて
憲法
學者も何も疑問にしない。がくのごときところに國家亡滅の原因があると思ひます。今後の
法律
においても連帶の責任を負う。責任を負えればよいですけれども、辭職したくらいでは濟まぬです。かくのごとき場合に
憲法
の
條文
は空文になると思います。それから
憲法
第十七條の
公務員
不法
行為
による國家の賠償責任、それもさような場合には空文になると思うのであります。國が賠償のしようがないのです。空文になります。そこで私はどうせこれは空文になるのであるから、ひとつこの際に司法省におかれまして、ただいま申し上げましたような亡國罪というようなものを犯罪の筆頭に御
規定
になるお考えはないでありましようか、どうでありましようか、
法律
の空文になるということを救うためでございます。それが第五でございます。 第六は、さような不都合なる
人々
に向か
つて
國家は償還
請求
權、求償を御實行になりますでしようかどうですか。償還を求めたところが償還する力はないのですから、やはり今申し上げたような
憲法
の
條文
は空文になるのでございまして、そこでそのためにもやはり亡國罪というようなものを
規定
して、政治に任じているような
人々
をピリツとさせなければだめだと思う。今までに議會を何年勤めたからというので、それが威張
つて
いるというようなまことにばかばかしいものを放つたらかしておくから、ほんとうの政治ができない。恥入
つて
死ななければならぬ者が威張
つて
いるというのが現状なんです。 第七は、
日本
は戰爭を放棄したのであるから、今後はその国が亡びるとか何とか言う激しいことはないよと仰せられるかもしれませんが、斷じてさようではありません。将來のことはわかりません。それからまた眼前の有様を眺めましても、昔の本土決戰のようなこと、これは
國民
の眼をごまかしたのか、はなはだしく無能であるが、どつちかでございますけれども……。それから現内閣におかれましても、炭鑛の國家管理ということを唱えておられます。これは新聞でも、單に水谷商工大臣がイデオロギーにためにや
つて
おるのでないかというようなことを新聞でもたたかれて、
國民
も非常な疑念をも
つて
おりますが、もし内閣の面目のためにとか、今までの主義、行きがかりのためにやる。そのうち内閣も潰れるであろうから、われを咎める者は天下一人もない、辭職してしまえばそれまでである。理窟というものは何とでも立つ。もつと内閣におつたら成功をおさめておつたかもしれませんが、成功をおさめるいとぐちにおつた時にわれわれは辭職したのであるとか何とか、言譯は立ちます。本土決戰と同じようにこれは私はイデオロギーのためにこういうことをや
つて
おられるのではないかという懸念を大いにもつのであります。しかりとすれば、一黨一派を重んじとして國家を輕しとする態度であります。そこで私は第七といたしまして、國家の法規を擔當しておられる鈴木司法大臣におかれまして、もしさように御同感でございましたならば、水谷商工大臣に對して痛烈なるご忠告を發しになる必要があるのではないかと思います。私は司法省は、戰爭中でも敗戰亡國のためにのみ奇與しておるという感じを深くしておつたのであります。敗戰亡國のためにのみ働いておつたというのが司法省だと思
つて
いたから、私は痛烈な手紙を出したのでありますが、私は鈴木司法大臣がほんとうの面目を發揮せられんことを希いまして、第七のお尋ねをする次第であります。
鈴木義男
35
○鈴木国務大臣 ただいま非常に重要な、問題について御質問がありまして、深く感銘いたした次第であります。
法律
論、道議論、いろいろまざ
つて
おつたように存ずるのでありまするが、
従來
も小黨は罰せられて大黨は罰せられず、國を滅ぼす者は罰せられないということが歴史上においてもあつたことは御同感でありまして、人類の知識が發達し、同時に法制が備わるに従
つて
、そういう者も嚴然たる處罰を受けなければならないということは
當然
のことであります。幸いにして國際法が發達をいたしました結果、せめても國内においてできないことが、御承知のごとく戰争犯罪として處罰せられるというようなことに相な
つて
おるのであります。今後はそういう方面から、よほどのお説のごとき制裁が強化されていくと考えるのであります。わが國としては
従來
確かにその弊があつたのでありまするが、新
憲法
におきましては、一擧に戰争を放棄して、永久に戰爭やらないという宣言いたしたのでありまするから、少くともお説のうちの亂暴なる、無暴なる戰爭を惹起して、これによ
つて
責任を明らかにしなければならない場合に當面することは、まず将來はなかろうと存ずるのであります。しかし不幸にしてそういう者がありまするならば、國際法によ
つて
裁かれることを覺悟しなければならない。またわれわれはそれに
協力
するということによ
つて
、制裁を全うることができはしないかと思うのであります。国内法上の問題といたしまして、固より政治道徳論的に解決をしなければならぬものが多いのでありますが、結局結果が殺人のごとく、あるいは放火犯のごとく、ただちにその人の故意過失がわかるものは法によ
つて
處斷できますけれども、歴史の上で判斷されなければならぬというものになりますと、ただちにこれを處罰するということが技術的に非常にむずかしいのでありますから、そこで議會政治というものが發達をして、その任にあらざるだいじんがその任におる。私ども夙夜その任にあらざるなきかを憂えておる次第でありますが、とにかくそういうことで國を誤り、
國民
大衆に非常な迷惑をかけるということでありますれば、遠慮なく議會においてこれを糾彈し、彈効し、辭職を要求することができるわけでありますから、これが唯一の立
憲法
政治の特徴であります。損害賠償の問題になりますと、これは非常に技術的にな
つて
まいりまして、すでに國家賠償法におきましても、相當御議論が繰替えされたように思うのでありますが、政治家がその失政に對してどれだけの損害賠償を拂い得るか。また
法律
の上にそれを
規定
しても、おそらくは
個人
の
財産
から見るときには、天文學的数字に及ぶものでありますから、また國家がこれを賠償すると言いまして、國家と
個人
たる政治家との
法律
上の
關係
いかんというむずかしい問題が出てくると思うのでありまして、それは
法律
に
規定
するということは技術的の難しい問題であります。あくまでやはり政治道徳的にこれは糾彈し、罪萬死に値する政治家は、再び政治の舞臺にたたせないということが必要なことでありまして、私も確かに御質問の
趣旨
を諒といたしておる一人でありまして、ただ
政府
は、辭職すれば前に失政をしても一定の時が經てばのこのこと出てきてよい、これは非常に間違つたことであります。
國民
に對しまして顔向けのできない失政を致しました場合は、辭職することは
當然
であります。また今囘のごとき非常な過ちを犯した者は、公職から追放されるということによりまして、
一つ
の制裁をうけるわけでありますが、そのほかに再び公人として立つことができない、立つべきでないという制裁が政治慣習として成立しなければならぬ、こんなふうに考えておるのであります。そういう習慣も皆さんの輿論の力によりまして、だんだん發達していくことを希望するものであります。 次に
日本
が純然たる中立的立場に立
つて
おることは、新
憲法
が明らかにしておることでありまして、少くとも
法律
上
國民
がどちらに味方して立つ、あるいは
國民
がどちらかに味方して武器をとるということはあり得ないことでありまして、その點については私どもは心配はいたさないのであります。ただ國際連合に将來加入を許されました場合に、おそらくわが國も基地提供ということは盡さなければならぬことと思いますが。それによ
つて
國際連合に参加しておる一六箇國は
日本
を守るべき義務を生ずるのであります。その防禦力に頼
つて
私どもは國家の安全を期待することができはせぬかと思うのでありまして、その點までも考えることは、やや杞憂に近いのではないかと思うのであります。 水谷商臣大臣は石炭の國家管理をやろうとしておる。これがもし誤つたら國家に非常な損害を與える。国民に非常な損害を與え、迷惑をかけることになる。ゆえにその點を十分考慮すべきこともごもつともでありまして、新しき政策を與行しようといたします場合には、お互いに慎重に考慮して研究した上でやることでありますけれども、しかし千慮に一矢、誤りなきを保せないのであります。しかしその場合もとより政治上の責任を明らかにし、先ほど申し上げますように、辭職することは
當然
のこと、さらに進んで再び公人として立たないというだけの覺悟をも
つて
やるほかはない。これがいいか悪いかはや
つて
みなければわからぬことでありますし、ある
程度
まで
外國
にも例のあることでありまして、そう無茶に亂暴なことは考えておらないのであります。念には念を入れて注意してやるように、私も同僚として忠告はいたしておりますが、なおこの上とも十分に注意をした上、真に國家のために過ちなき政治を行うという覺悟と氣魄とをも
つて
事に處するようにいたしたいと存ずるのであります。 それで國家賠償法の中にただいま申しましたような
規定
を入れるべきであるかということになりますと、新
憲法
からみても、そういう場合を考慮することが非常に困難であることと、また
法律
技術的にそういう
規定
をいたしますことがいかがと存ぜられるのでありますから、なお獨立の法規として考えてみたいとは思いますが、とにかくこのただいま提案しておりまする
法律
の中に入れることは少しむづかしい。むしろこれは政治道徳の問題としてそれこそ國會がひとつ御解決を願うべき問題ではないか、皆さんが勇敢に政治責任を糾彈することによ
つて
、だんだん政治家の責任というものを明らかにしていくことができるのではないか、こう考える次第であります。この點をよく御了承を願いたいと思うのであります。
岡井藤志郎
36
○岡井委員 有難うございました。もう
一つ
簡単にお尋ねいたします。立證は、はなはだ困難ではございますけれども、かくのごときゆゆしき大犯罪の場合にも
憲法
第十七條、國家賠償法
一條
は適用をみるのでございましようか、それはすでに伺いましたけれども、なお伺いたいのでございます。 それからもう
一つ
、第二はわれわれはすでに過去の議會政治において失敗したるがために軍閥の跋扈を招來して今日の悲境にあるのでございます。これは一番惡いのは何が惡いかと言うと、政黨より惡いものはないのであります。現在の有様も議會は新聞から大分非難されておりまして、國家最高に機關ではなくて、國家最低の機關であると言
つて
おります。自分はただ最高の機關だとい
つて
町内の顔役みたいに空威張をしておるだけであります。多数決で押切るのなら何でもできます。今見るがごとき場合に、東條政治のときのように、國家は深い淵にずるずると引込まれるのではないか。さようなために亡國罪というようなものを掲げて政治家を戒める、そうして輔弼の責に任ずるとか、責任を負うとか、國家が賠償するとかいうようなゆゆしき犯罪に向か
つて
、空文に等しきものを掲げて満足せずに、ちやんとやればやれるかも知れぬということを大々的に掲げる必要があるのではないでございましようか。議會政治の現状、ただいま今月今日の有様に照らしまして、さようなことを感ずるものであります。この二つの點につきさらにお教えを受けたいと思います。
鈴木義男
37
○鈴木國務大臣
憲法
第十七條の
公務員
の不法
行為
によ
つて
損害を與えた場合には、國家は損害賠償の責任があるということは、御説のごとき場合に本來適用せらるべきものと考えます、但し實際故意または過失によ
つて
われわれが政治をや
つて
損害を与えたということが、はたして立證し得るかということになると非常にむずかしいのである。實際問題としてそういう適用をすることがまず非常に困難ではないか。しかし明らかに立證できる戰爭犯罪人のごとき場合には、
一つ
はこの
精神
を酌んで
財産
を没収するわけであります。せめてできるのはその政治家のも
つて
おる
財産
を全部没収するということであります。そこで國家はその
公務員
を使つたということについての責任をとりまして、戰爭によ
つて
非常な損害を受けた。おそらくいまの
日本
のあらゆる
家庭
、あらゆる
人々
は何らかの形でこの戰爭の打撃を受けないものはないでありましよう。私どももその一人でありますが。そういうものは、後にまいつた政治家が、國家の名において、責任をも
つて
その損害を賠償してやらなければならぬ。そのためにいわゆる戰災者に對しては國家の財政による救濟の政策を講じなければならぬ。あるいは遺
家族
に對しても慰藉の
方法
を講じ、損害を受けたものに對してはいろいろな形において
國民
全體が分擔する保險
制度
のようなもので救濟をしていかなからばならぬというようなことが論ぜられておるわけでありまして、これがすなわち政治によ
つて
——後に來た政治家によ
つて
、前の失政を賠償して、
法律
的には
憲法
第十七條の
精神
を實際に行うのだ、こうひとつ考えていただくほかはないのでありまして、私どもはそういう氣持をも
つて
、あらゆる
社會
政策的政策を提唱しておるつもりなのであります。そういう意味でひとつ御了承願いたいと思うのであります。
岡井藤志郎
38
○岡井委員 それから亡國罪のことをお答え願います。亡國罪を
規定
遊ばされる御意志があるかどうかということ。それはつまり、理想論を言いましても實行實益を遂げることはむずかしいからでございます。 さらに最後にたつた
一つ
だけ追加いたしまして、東條さん以下の、本当の誠意なくして、不まじめなる戰爭を遂行しましたこの誠意もなければ認識もない實に評しようもない
人々
、これらの
人々
が萬々一巣鴨から釋放せられましたる暁には、司法省の御方針として、私の言いまするごとき亡國罪の被告人として御訴追あそばされるお考えがあるものでございましようかどうか。この點を追加して最後にお伺い申し上げます。
鈴木義男
39
○鈴木國務大臣 亡國罪という犯罪の構成要件を論ずるのは非常にむずかしいと思ふのでありますが、御
趣旨
はよくわかるのでありまして、何らかの形でそういうふうな制裁をひとつ樹立してみたいという氣持はも
つて
おります。そこで今の東條大将がかりにあそこで釋放されるというお話は少し假定論がすぎると思いますが、もしそういうことがあつたといたしましても、直ちに亡國罪という今
規定
なき罪名をも
つて
やるわけにはまいりませんが、
日本
國民
はおそらく憤然として立ち上
つて
、何らの態度に出ると思うのでありまして、
刑法
何條によ
つて
やるというようなことは申し上げられませんが、
刑法
以上のものがそのときは発動いたすであろうということを、私は期待いたしましてお答えに代えたいと思います。
松永義雄
40
○
松永
委員長
佐瀬昌三君。
佐瀬昌三
41
○佐瀬委員 私は
法律
を豫算の関係について、
憲法
上の
解釋
をこの際司法大臣に承
つて
おきたいと思います。先般
政府
委員は本案が通過した場合に損害賠償は何の豫算をも
つて
支辨するかということに対して豫備費も
つて
辨ずるという旨の説明がございました。おそらく今後も豫算を伴う
法律案
が逐次上程されることと思うのでありますが、國會においてさような種類の
法律案
を可決し、
憲法
五十九條で
従來
のごとき
政府
關與の御裁可なくして、直ちに
法律
としてこれが成立した後においては、
憲法
七十三條第一號によ
つて
、
政府
は誠実に
法律
を
執行
するという義務が
規定
されております。この
關係
からして、常に成立した
法律
に対してはその
執行
に必要な豫算というものが伴
つて
いかなければならぬのであります。しかるにそれが伴わないような手違いができた場合には、
政府
は
憲法
の
規定
しておる職責を全うできないようなはめにもならざるを得ない。かように観察されるのでありますが、この関係において
政府
は豫算の編成上どういう處置をとられるか、その点に対する司法大臣のご
意見
……これはひとり司法大臣の
關係
ばかりでなく、
各種
の経済法規の
立法
に伴
つて
、
當然
将来起るべき問題であろうと思うのでありますが、この際司法大臣のご
意見
をお伺いしておきたいと思います。
鈴木義男
42
○鈴木國務大臣 お答えいたします。豫算を伴う
法律
には二通りあると思うのであります。
一つ
は確定的な數額を出し得るものであります。
一つ
は、いくらかかるということは
立法
の當時においてわからない、
立法
當時だけでなくその後も年によって差等がありましてわからないというものがあると思うのであります。この國家賠償法のごときは、國家におきましても、地方自治體におきましても、實は計算しかねる、豫測しかねる費目に属すると思うのであります。それで、
外國
の例等は私はよくは存じませんが、大體名目的豫算というものを計上しておきまして、そうして一應それで支辨する、しかし足りない時には予備費をも
つて
賄うという建前でいくように思うのであります。この國家賠償法のごときは、あるいは不都合なことをする官吏がたくさんあれは非常な尨大な數額に上る、そんな官吏が多ければ多いほど、あるいは國家が破産するかもしれないのでありますが、どうかそういうことのないことを祈る、またいましめるために特にこういう
法律
があると申してもよろしいくらいなものでありますから、そういう費用の多くないことを祈りますが、しかし、とにかく、ある各目的予算を計上しておきまして、そうして、あと足りない部分は予備費をも
つて
出す。しかし年々の
經驗
に照らして、もしそれが相当な額に上がるということでありますれば、各目的予算でなくて、もつと
實質
的な予算を計上するようになるかと思うのであります。國家がどうしてもやりきれないほど額が大きくなるということでありましたならば
法律
を變えなければならぬということにも相なるかと思うのであります。そういう態度でや
つて
いくつもりでおるのであります。
佐瀬昌三
43
○佐瀬委員 豫算編成の理想はなるべく豫備費を少くするということに一大
原則
があるようでありますが、そういう意味で御善處願うことを希望しておきます。
松永義雄
44
○
松永
委員 暫時休憩します。 午後二時三十九分休憩 ————◇————— 午後二時五十五分
開議
松永義雄
45
○
松永
委員長
休憩前に引き續き
會議
を開きます。佐瀬昌三君。
佐瀬昌三
46
○佐瀬委員 第二條についてお尋ねしたいのであります。この第二項の國または公共團體が求償権を求める場合に、その求められるものが損害の原因について責に任ずべき場合と限定されております。この責に任ずるという場合の責任
原則
、これは何によつたのかということについて御説明を願いたいと思います。
奧野健一
47
○奧野
政府
委員 この
規定
は先ほど申し上げましたように、
現行民法
第七百十七條の二項と同じ
趣旨
でありまして、たとえば工場を請負つた請負人のやり方が惡くて、その公共の營造物が倒壊して、それがために損害を生ぜしめて國家が賠償をした。そういう場合には、その工事をやつた請負人に求償ができるというようなことを想像しておるのでありますが、その場合その損害の原因に
つて
、責に任ずべき根據と申しますのは、これは一般契約による債務の十分なる履行をや
つて
いないというようなことで、債務不履行を原因として損害賠償の
請求
というふうなことになるのであります。
佐瀬昌三
48
○佐瀬委員 これは結局契約不履行もしくは不法
行為
として過失責任主義を採用せられるという御
趣旨
に承
つて
いいわけですか。
奧野健一
49
○奧野
政府
委員 そうです。
佐瀬昌三
50
○佐瀬委員 すると第一項の方は瑕疵に基くいわば結果的責任を
規定
されたようにみられるのでありますが、一項と二項では責任
原則
を異にしておるという結論になるように思いますが、この点はいかがでしよう。
奧野健一
51
○奧野
政府
委員 その通りで一項は無過失責任でありますが、二項の求償の場合においては、一般契約あるいは不法
行為
の適用によ
つて
損害の原因を生ぜしめた場合でありますから、この場合は一般
原則
で無過失主義をと
つて
おりません。
佐瀬昌三
52
○佐瀬委員 よくわかりました。次は第三條に關してでありますが、管理者と費用負擔者と別人の場合には、費用負擔者に第一義的な責任を負わせるという
趣旨
の
規定
にみられるのでありますが、これは
被害者
の方からそのいずれに対しても
請求
できるように、兩者が損害賠償の責任主體であるというふうに定める方が
被害者
救濟の
趣旨
を徹底せしめる上において便宜なように思われるのでありますが、特にこれを費用負担者の責任に選択的にしなければならぬ特別な
理由
があるのでありましようか。その點について
事情
を承りたいと思います。
奧野健一
53
○奧野
政府
委員 この点は管理者と費用負担者とが違
つて
おります場合に、どちらを被告にすべきかということは、訴訟の上でいつも相当疑問にな
つて
おります。しかし損害賠償の費用の一部をなすものである、かように考えられますので、結局は費用負担者が負担するのが最も落着くべきところであるという考えから相手方を明確にするというのと、結局落著くのは費用負担者であるから、それならば費用負担者が直接被告とな
つて
損害の賠償の責に任ずるということに明確にした方がよろしいというので、第三條ができておるわけであります。しかしお説のようにこの場合國家に賠償を
請求
してもよい、また費用負担者に賠償を
請求
してもよい、どちらに賠償を
請求
しても良いと言うようにした方が、
被害者
の救濟の上によりいいのではないかという御議論も非常にごもつともと思うのであります。實は衆議院、参議院の
豫備審査
の場合にも、そういう議論が相当多數出ておるのでありまして、それでむしろ一番最後の費用を負担すべき者がその賠償の責に任ずるとあるのを、費用を負担する者もその賠償する責に任ずるというふうになれば、兩方が被告であることが明確になるから、そう修正してはどうかという議論現に出ておるのでありますが、それに対しては、私どもとしてはそういうふうに修正なさることについては、
政府
としては別段
意見
はないというふうに申し上げておるのであります。
佐瀬昌三
54
○佐瀬委員 その点はよく了承しました。 次は六條の問題でありますが、これは
被害者
が
外國
人である場合には、その
外國
人の屬する
外國
において、
日本
人に同様な待遇をするばあいには、いわゆる相互主義のもとに、その
外國
人に対して
日本
の國及び公共團體が損害賠償の責に任ずるという
趣旨
の
規定
のように思いますが、やはりそういう
趣旨
でこの
條文
をつくられたことになるのでしようか。
奧野健一
55
○奧野
政府
委員 その通りであります。
佐瀬昌三
56
○佐瀬委員 私は
日本
の新
憲法
は國際的平和主義を目標にして、あらゆる
法律
制度
が改革されなければならぬという信念をも
つて
おる一人であります。
政府
においても今度は
刑法
の
改正
において、その観點からいろいろと新しい
立法
をせられるような
趣旨
のもとにはさほども
刑法
の一部
改正
の
提案理由
の説明にも、
政府
委員からその点に觸れておつたので、大變結構だと同感しておつたのでありますが、ついてはこの第六條においても、むしろ相互主義という國際法上の傾向としては國家主義に立脚したところのものを清算して、あえて相互主義によらずに、
日本
は
日本
として獨自の責任
規定
を設けて臨んだ方が國家のこれから行くべき遂に合致するものではなかろうかと考えるのでありますが、この点はいかがな御所見であるか、この際承
つて
おきたいと思います。
奧野健一
57
○奧野
政府
委員 そういう考え方も實は成り立ち得るかと思いますが、もしかりに
日本
人がその
外國
に行
つて
損害を受けた場合に、
外國
相手に損害賠償ができないようにな
つて
おる國の
外國
人までも、進んで
日本
の國が賠償の責に任じなければならぬというほどのことも必要ではないのではないか。國家賠償の責任を認められておる國の
外國
人に対して初めてわが國でもそれに救濟を與える、いわゆる相互主義で適当であるのではないか。こちらも進んでその國では
日本
人が救濟を得られないのにもかかわらず、こちらが進んで救濟を與えるというほどの
國際主義
を貫く必要もないのではないか、
憲法
ではすべてということにな
つて
おりますが、これは
法律
の定むるところによ
つて
、そのくらいの
制限
を加えても
憲法
違反ではないという考えからこの
條文
をつくつたのであります。
佐瀬昌三
58
○佐瀬委員 次にお伺いしたいと思うのは、ただ
憲法
の上ではあらゆる
個人
に対して國家が損害賠償を
保障
して
基本的人權
を
保障
するという建前のもとにあるので、従
つて
内外人を區別する以上は、新
憲法
の
精神
に反するかどうかという重大な問題があるので、その
前提
としてただいまの相互主義を維持するべきかどうかをお尋ねしたのでありますが、これに対する
政府
委員会の御説明も簡單に觸れられておるようでありますから、その
程度
に承り、最後に一點だけお尋ねしておきたいのは、今後公共團體は
憲法
上廣い自治權を認められ、しかも公共團體の活動について、廣凡な
立法
權すら附與せられておるのであります。従
つて
将來公共團體のあるものについてはこういう重大な責任を
法律
で
規定
された場合に、何とかその適用を囘避しようというような誤つた考え方から、中には自治的な
立法
をも
つて
、あるいは個別的な契約をも
つて
本法の適用を除外するような、いわゆる免責約款の定めを設けないとも限らぬというふうに懸念せられるのでありますが、この點はいかがでありましようか。
奧野健一
59
○奧野
政府
委員 もしそういうふうな自治的規則等によ
つて
これを適用しないというふうな
立法
を行いますならば、それは
憲法
違反になるわけであります。
佐瀬昌三
60
○佐瀬委員 契約によつた場合も従
つて
當然
すべてそれは
法律
上は無效であると
解釋
して差支えないわけと思いますが、いかがですか。
奧野健一
61
○奧野
政府
委員 契約の場合は一應そういう權利があるが、そういう權利を放棄するというふうなことになるかどうか、具體的な場合でなければ一概に
當然
そういう契約が無效であるかどうかということは、一般的にそういうふうなものを
請求
しないというような、あらかじめ法規に強いられるようなものは無效だと思いますが、すでにその点について權利の放棄までも禁止するものではないというふうに考えますので、その点は具體的な場合についての條項によ
つて
判斷するよりほかなく、一般的に斷定を下すことは、ややむずかしくはないかと思ひます。
佐瀬昌三
62
○佐瀬委員 先ほどせつかく
政府
委員が自治的主法ですらも
憲法
違反の疑いが起こるというふうに御説明があつたので大いに諒としたのでありますが、いわんや契約で、この
法律
に基いて發生すべき權利を無效とするような約款は、やはり
法律
上は適法でないというふうに判斷するのが妥當のように私どもは考えます。もし
政府
委員のこの立案がさようでないという
趣旨
であるならば、やはりその点について
委員會
としても新たな
規定
を設けるなり、考えなければならぬと思うのでありますが、重ねてこの点について、はつきりした御説明を煩わしておきたいと思います。
奧野健一
63
○奧野
政府
委員 一般的にはちよつと申し上げかねると考えますが、あらかじめこういう損害賠償をしないということを、まだそういうことの具體的に起
つて
ない前からそういうことを約束せしめることは、やはり違法ということにな
つて
無效になるのではないか、ただすでに生じた債權を放棄するというふうなことであれば、これは權利の放棄までも認めないわけにはいかないから、そういう場合は權利の放棄は有效と思われますが、あらかじめ一般的に損害賠償は本法によらないというような契約條項があるというふうな場合では、おそらく無效と
解釋
しなければならないのではないかというふうに考えております。
佐瀬昌三
64
○佐瀬委員 最後にもう一点お尋ねしておきたいのはこの
法律
の時に關する努力の問題であります。この
法律
執行
前の
行為
に基く損害については従前の例によるという原案では、この
法律
執行
前の
行為
に基いて、しかも本案
執行
後に發生した損害に對しては賠償が求められないという結果に適用上なるのであります。しかしこれは新
憲法
の
趣旨
竝びに本案提出の
精神
を貫徹するためには、たとえ本法
執行
前の
行為
に基いたものであ
つて
も、いやしくも本法
執行
当時に生じた損害については、すべて賠償するということが妥當ではないかと思うのでありますが、この點に對する御所見を承りたいと思います。
奧野健一
65
○奧野
政府
委員 これは本法
執行
前の
行為
に基く損害については、従前の例によ
つて
本法の適用がないという考えで立案をいたしたのでありまして、御承知のように
行為
は本法
執行
前であるが、それに基く損害の發生が本法
執行
後のような場合でも、
行為
の時で押えることにな
つて
おりますので、これはやはり本法の適用はないというふうに解しております。
佐瀬昌三
66
○佐瀬委員 第
一條
は、せつかく權利の侵害をも
つて
この不法
行為
の要件としないというふうに進歩的
規定
を設け、いやしくも何らかの損害を生じた場合にはすべて賠償するという主義を採用しおるのであります。この第
一條
の
立法
形式からしましても、權利侵害の
行為
を基準にするというようなことは第
一條
自身にも矛盾するように考えられ、なおまた今申しましたように廣く損害を賠償するという
趣旨
からしましても、あえて
行為
を基準にせずに、損害の發生の時期を基準にして本法の適用を決定するのが至当であると考えるのであります。私の質問は、これをも
つて
打切りといたします。
鍛冶良作
67
○鍛冶委員 先ほどの契約に基く免責契約の點ですが、損害發生したる後において当事者がやるというのは問題ありませんが、さきに佐瀬君のされたのはそうではない。前も
つて
やつた場合でも、民事局長のお答えでは放棄と見る場合は有效だというように聞こえたのですが、そうだとすると、これは重大なる結果を來します。一方は權力をも
つて
おる。一方は權力をもたない者がやつたのです。だからそんな場合は大いに起り得ると思いますから、前も
つて
やつたものとは絶對に效力がないものだということを言明してもらわなければ、この
法律
を拵えた效果がないと思いますが、その點まず
一つ
嚴格なる御答辯を願いたい。
奧野健一
68
○奧野
政府
委員 先ほどの答えが少く言葉が足りなかつたがために誤解を招くかと思いますが、やはりあらかじめ損害賠償をしないというふうな、あらかじめの條項を契約に入れることは無效と考えます。
鍛冶良作
69
○鍛冶委員 先ほど公團の話が出ましたが、今設けられている公團法による公團の場合は、公權力の行使とい
つて
差支えございませんでしようか。
奧野健一
70
○奧野
政府
委員 ちよつとそれは公團の
内容
いかんによ
つて
判斷しなければわかりませんので、ここではちよつとお答えしかねます。
鍛冶良作
71
○鍛冶委員 なお、そのほか現在あるような統制團體団体のごときものも、なるべくならばこれにあてはめるべきものと考えますが、この公權力というものに縛られて、それが逸脱するようでは困りますから、併せて研究して御答辯あらんことをお願いいたします。 なお續いてお聽きしたいことは、公證人法の
改正
でありますが、公證人は地方
裁判所
長の
監督
に属しておるから、公證人の不法
行為
に對しては、地方
裁判所
長が責任を負うのでしようか。そういう意味に
解釋
せられたのかどうか。
奧野健一
72
○奧野
政府
委員 これはやはり
公務員
であるという
前提
のもとに、國家が賠償責任があるということになるわけであります。
鍛冶良作
73
○鍛冶委員 相手方は地方
裁判所
長ですか。
奧野健一
74
○奧野
政府
委員 相手方は國です。
鍛冶良作
75
○鍛冶委員 具體的に申し上げますと、訴訟を起すときにはだれを相手にしてやるのですか。
奧野健一
76
○奧野
政府
委員 これは國を相手にして、その代表者をだれにするかということは、これは國庫等の
關係
もありますので、あるいはその點について今後指定賠償者の指定を行う必要があるかとも思います。
鍛冶良作
77
○鍛冶委員 現在のところそれは確定しておらぬのですね。私は疑問があるから聽くのです。
奧野健一
78
○奧野
政府
委員 現在のところでは、
司法事務
局、それから司法大臣というふうな
監督
系統にな
つて
おりまして、地方
裁判所
の
監督
は受けていないことにな
つて
おります。
鍛冶良作
79
○鍛冶委員 そうでありますと、今の
法律
では、公證人たる
個人
が不法
行為
の責任を負うことにな
つて
おりますが、これが轉換しまして、國家もしくは司法省を相手にするということになると、かえ
つて
一般
國民
の
保護
が薄くなりはせぬかというきらいがありますが、ただ故意または重大なる過失というのが、重大ことというだけなら、実際においては原告となる者にも、先ほど申したように國家權力を相手にして訴訟をするという不均衡が起る。また公證人
個人
が責任を負わなければならぬと考えている時と、まず第一段としておれの代わりに國家が負
つて
くれるのだのいう場合と、公證人自身の心構えにもたいへん考えが違
つて
くると思いまするが、かえ
つて
これは一般
國民
の
保護
の點で薄くなりはせぬか。むしろこのまま、現在のままにしておけば、この
法律
でもやれるし、公證人法でもやられるということにな
つて
、かえ
つて
よいのではないかと思いますが、その點に對していかなる御見解でしようか。
奧野健一
80
○奧野
政府
委員 公證人が無資力等のために賠償ができないというおそれは、國家を相手にする場合にはない。その意味におきまして
被害者
は救濟を十分受けるようになるというふうに考えられます。なお先ほども一言觸れましたが、立案の際はとにかく國家の賠償の義務を認めるという意味で
規定
を設けてお
つて
、
公務員
個人
に直接責任がないということをはつきり現わしておるわけではないので、その點は結局
解釋
に任そうということにいたしておるので、
解釋
によ
つて
は直接公證人に賠償責任があるのだという
解釋
も十分成立ち得るのじやないかと考えます。
鍛冶良作
81
○鍛冶委員 それは執達吏のときも同様の考えをもつのだが、民事訴訟法の第五百三十二條を見れば「執達吏ハ債權者ノ委任ニ困リテ為ス
行為
及ヒ職務上ノ義務ノ違背ヨリシテ債權者其他ノ
關係
人ニ對シ損害ヲ生セシメタルトキハ第一ニ其責ニ任ス」と書いてあります。これは執達吏の職務
執行
に非常に重い責任を負わしておる
規定
で、重大なる意義のあるものとわれわれは
解釋
しています。しかるにこれがもうなくな
つて
しまつたということになると、まずおれの責任よりは上の方でと
つて
くれるひとが多いのだからということで、おろそかになるのじやないかと憂えられます。また今局長の言われるようにこれでも
解釋
上やれるということであるならば、こういう
規定
をそのまま残しておかれてもいいじやないかと思います。この點は意味になるかしらぬけれども、お考えの上御返答願いたいと思います。
奧野健一
82
○奧野
政府
委員 かりに
個人
が直接
被害者
に對して賠償の責任があるという
解釋
の餘地があるのだから、この
條文
を削除しないで、残しておいておいてもいいじやないかという御
意見
でもありますが、これらの不動産證人等ではすべて故意または重大なる過失があつた場合だけの責任であ
つて
、本法では少くとも
被害者
の
關係
においては、故意過失だけでも責任を國が賠償するという建前をとつた
關係
上、外部
關係
において、一方と他方とによ
つて
要件が違うにはいかがなものであらうかというような意味もあ
つて
、そうなると、
解釋
によ
つて
は、故意過失があれば、國家にもあるいは
個人
にも重過失がなくてもいいという
解釋
も成り立つのじやないかと思
つて
おります。
安田幹太
83
○安田委員 先ほどの第三條について他の方の御質問と一部重複するようでありますが、一言御質問申し上げたいと思います。問題を簡単にするために、第二條を例として第三條の場合をお尋ねいたします。甲公共團體に所属する吏員が管理するその管理費用は國が負擔する、こういう場合に、その管理をする甲公共團體の吏員が不法
行為
をやつたときに、その不法
行為
に基く損害賠償もまた費用の一部であるから、結局乙、國が負擔すべきものである。こういうことを
前提
とされた点から、結局まわりまわ
つて
國が損害賠償をしなければならぬのであつたら、甲を訴えるよりも、いきなり國を訴える、費用を負擔する乙の方を訴える方がよろしい、こういう意味で第三條の
規定
ができたのだ、こういう御説明のように承
つて
おるのであります。そうすると、私はその
前提
自體が一應うたわれなければならぬのじやないかと思うのであります。すなわち甲の公共團體の吏員が管理をしてお
つて
、その管理費用は國が負擔するという場合に、その損害賠償、吏員が不當
行為
をやつた損害賠償というものまで、ただちに費用の一部として國に負擔せしめるということを
前提
とすること自體がどうかと思う。私は実は第三條の
條文
を讀んでみました場合に、第三條はこの問題自身を直接きめているというふうに拜見したのでありますが、さような意思ではなかつたようであります。もしこの費用の負擔の問題を全般的に本條で
規定
するのであれば、これはどうも不當であろうと思いますし、もしそれを
規定
せずに、ただ訴えの相手方も
規定
するのだということになると、
前提
が疑うべきであるから、この
規定
は差控えた方がよいのじやないかと思うのでありますが、立案者といたしましては、この損害賠償の負擔者が、すべての場合に費用負擔者であるということをおきめに
なつ
た
趣旨
か。あるいはそれとも、
前提
として訴えの相手方だけをおきめに
なつ
た
趣旨
かを一應承りたいのであります。
奧野健一
84
○奧野
政府
委員 相手方を明らかにするのと同時に、損害賠償の費用負擔者が負擔すべきものだということをも併せてきめたつもりであります。
安田幹太
85
○安田委員 それは非常に重大な問題でありますから、もしその費用負擔者が負擔するのだということになりますと、いま少し実質的に熟考をしなければならぬ問題だと思います。これは私の
意見
として申し上げておきます。
松永義雄
86
○
松永
委員長
本日はこの
程度
にいたしまして、次會は明二十九日午前十時より開會いたします。 本日はこれにて散會いたします。 午後三時三十五分散會