○高野
公述人 私は大多數
國民の悲鳴を申し上げまして、皆さんの御賢慮を煩わしたいと思うのであります。時間がありませんので、結論から先に申し上げまするが、今囘のこの増税案は、これは
國民の負擔力を無視した無謀の計畫でありまして、これを實行するということは不可能であります。豫算實行難に陷りまするのみならず、これを強いて強行しますならば、大なるインフレが起りまして、日本の國は結局壞滅に歸することは當然であります。よ
つてこれはぜひとも阻止しなければならぬと同時に、日本はもうこういう政治をしてお
つては、
國民も生きていかれない。國家も壞滅するのでありますから、今日を機會に百八十度の囘轉をして、英、米、拂における財政方針のごとくに、この厖大なる財政を大削減いたしまして、私の計畫によりますると、歳出を約百分の一に減らす。税金も十分の一に減らす。そういたしまして、健全なる國家と
國民の幸福を確立するという、眞に立憲政治の本旨に
從つて進まなければならぬということを確信するものであります。
しからばその
國民の負擔力を無視する無謀の税制であるということは、何からそういう議論が出るかと申しますると、このたびの税制に出ました六百三十億というものは、本年度の初めの本豫算に出ましたところの六百九十億に加えますると、千三百三十二億という厖大なものになることは、皆さん御承知の
通りであります。一體そんな税金というものが、今まで例があ
つたか。それはむろん前代未聞の大増税でありますから、類例の何もない驚くべきことであります。昨年に比べてしからばどれだけの増税になるかと申しますと、昨年のあの天下をあげて驚倒したところの、暴慢をきわめた石橋財政のや
つた二百六十億という租
税收入の約六倍であります。一年間に税金が六倍するというようなことがどうして
國民が負擔できますか。この一點だけでもこの財政というものは、ま
つたく
國民の負擔力を無視した無謀の財政であることは明白であります。それから一昨年の租
税收入の百七億圓に比べますならば、この本年度の税金というものは十三倍になるのである。一年か二年の間に税金が十三倍にも殖えるというようなそんな暴政がどこにありますか。
國民はどうしてそれに耐えられますか。あらゆる生産工業の統計を見ましても、また一般の
國民の生活
状態から見ましても、一年間に六倍の利益があるとか、二年間に十三倍の利益があるというようなものはどこにもありません。してみれば、このたびの増税案というものは、ま
つたく
國民の負擔力を無視した無謀きわまる暴悪假借なきところの
國民虐殺政治であるということを斷言しなければなりません。これが無謀財政であるということの第一點であります。
第二は、さらに少しく冷靜に近來の
國民生活の状況を顧みてみなければならない。すなわち日本國の近年の財政的傾向をみる必要があるのであります。われわれは最近どういう生活をしてお
つたか。
昭和六年軍國主義の政治が始まりましてから、二十年の敗戰滅亡に至るまでの十五年間に、われわれは非常に不當過大な重税を課せられまして、十五年間に財政は二十倍に殖えたのであります。その間に租
税收入もまた
昭和六年の七億圓から二十年の百七億圓は
ちようど十五倍強にあたるのであります。十五年の間に十五倍の重税を負擔せしめられて、そこで
戰爭は敗戰滅亡でも何でもよい、とにかく終
つた。ほつと一息して、これから陸海軍もなくな
つたのでありますから、國費の大なる節約をして、今まで戰時中苦しめられ抜いた青息吐息の四苦八苫せしめられた重税を、いくらかでも減じてもらうことは、全
國民の熱望であ
つたのであります。しかるにどうか。その重大なる
國民生活の危機に際しまして、實にその翌年は、その敗戰滅亡の年の百七億圓に二倍半するところの二百六十億という驚くべき重税を課したのであります。それからその翌年の本年は、さらにそれに六倍するところの千三百億という重税を課そうというのであります。こういうことが一體正氣のさたかどうか。本氣にな
つて國の政治を
考える人のすることか。われわれはかくのごとき無謀の財政に對しては、斷じてこれは許すべからざる罪悪なりと言わざるを得ないのであります。大體昨年の一月の幣原内閣のときの澁澤藏相は、日本の基本財政は百二十億にしていかなければならぬということを發表して、議會でいろいろ質問がありますると、その主張を裏づけるために、財政五箇年計畫というものまで發表したのであります。そうしてその中には官吏を八割五分減らすということもあ
つたのであります。われわれはこれを非常に不滿とした。しかしながら、今から
考えまするならば、終戰時二百八十億の歳出を、百二十億に減らすということは、よほど時代感覺のある良心のひらめきのある政治であ
つたのであります。しかるにそれが石橋財政になりますと、一躍してその約四倍の一千何十億という厖大な歳出にな
つたのであります。そうして税金も今繰返しまする
通りに二倍半に殖えた。そういうようなことをしまして、あらゆる官業の手數料を
引上げ、
政府の公定價格を
引上げ、この厖大なる財政そのものがすでに大なるインフレの根源であるにかかわらず、
政府は進んであらゆる
物價引上げを挑發したのであります。かくのごとき非人道の悪政というものは、およそ世界の人類の歴史上未だか
つて見ざるところの大悪政であります。しこうして
物價廳というところでは、
物價がどんどん上るのをある
程度に食い止めなければならぬという御
意見でありまして、
昭和九年の
物價を限度として、
物價を六十倍に
引上げて、それで止めるのだ、こういうことをおつしやる。
昭和九年度の日本の租
税收入は八億四千三百萬圓でありまして、それを本年の一千三百億に比べますと、
ちようど百五十倍に殖えておる。税金が百五十倍に殖えておるのに、
物價を六十倍にどうして止めることができますか。こういう小學校の生徒でもわかるような單純明白な簡單な計算が、あの衆智を集めたという
物價廳のお役人にわからぬことはない。何という無謀なことをなさるのでしようか。こんなことをして、どうして日本
國民は生きていくことができますか。新聞の論説が、すべて
物價が五十倍にな
つて、兌換券の發行高その他が五十倍になると、ドイツが崩壞した大インフレがくる、だからドイツの經驗に鑑みても、日本は非常な決心をしなければならぬという
政府に警戒を與える論説は、各新聞がほとんど筆をそろえて書いたのであります。しかるに日本の經濟案定本部というところでは、役人の優秀な人物を集めておる
知識の殿堂だと
言つて誇ります。おのれがそういう
知識の自慢をすると、輿論の趨向というものを理解するという能力がなくなり、それから世態
人情というものを早速理解するという良心もなくなるのであります。ひとりおのれのみが慢心してしまう。
自分らが一番偉いと思うから、そこでこういう輿論を無視し、世態
人情を無視した無謀の計畫をしたのであります。できもしない計畫ではないか。百五十倍も税金を殖やして、そうして
物價を六十倍に止めるということがどうしてできるか。ここにおいてか經濟安定本部というものは、實は經濟攪亂本部である。
國民虐殺政治の本部である。私は實に今日の官僚の政治の狂態を嘆かざるを得ないのである。
そこで、もうだんだん時間がなくなりましたから、簡單に結論の方に向
つていきますが、片山首相は英國勞働黨の弟をも
つて任じ、英國の政治のまねをするということを新聞に語られたのでありまするが、ほんとうにそうならば、あの形を見て實を見ざるところの
料理屋の營業停止などはしない方がよろしい。もう日本はこうなればここでシユウマン・プランを實現するのほかはない。それは
飲食店に九十倍の税金を課しておる。英國が
料理屋を禁止したのは、英國における高級料理の材料というものは、大
部分外國から輸入するのである。正貨の支拂に四苦八苦しておる英國は、やむを得ずこれを禁止したのであります。日本にはそんな心配は少しもない。だから日本はそういうことをする必要はない。むしろ日本では酒が一升一萬圓しようと、たまごが
一つ百圓しようと、そんなことはお構いなしに紙幣を紙くずのごとく振りまく
階級がおるのです。そういう關係から、今度あたりも、
一つもそういう税金はないのでありますが、そういうものから税金をとるためにも、やはりシユウマン・プランをや
つて、そういうものから九十倍の税金をと
つたならば、おそらく數百億の
税收入をあげることができると思う。こんな物品税、あらゆる消費税に二十倍、三十倍という恐ろしい税金をかけて生活を壓迫するよりも、その方がはるかに易々として税收を上げることができるのである。その他いくらでも税をとる
方法はありまするけれども、今税をとるなどという時期では大體ないのである。税を廢止しなければならぬ、税を減じなければならぬときである。英米は戰後にどういうことをや
つたかと言いますと、戰後の財政の最大の眼目、最大の原則は、國費をもとの
通りに引下げるということであるイギリスは、片山首相もしその新聞をお續みになるならば、これはわからぬことはないはずだ。イギリスは終戰のときに六十億六千三百ポンドの歳出でありましたのを、その翌年は……。(「
戰爭に負けたのだよ」と呼ぶ者あり)負けても陸海軍はなくな
つたのだから……。向うはたくさんの軍隊をも
つて世界各地を支配しておる。それから比べれば日本の方はもつと國費を減じ得る。その翌年は五十四億ポンドに減らし、その翌年は三十八億ポンドに減らし、今實行しておりますところの明年度豫算は、三十一億八千萬ポンドに引下げておるのであります。アメリカは終戰時一千億ドルの歳出が、翌年は六百億ドルに減らし、その翌年は四百億ドルに減らし、今實行しておりまするところの明年度豫算では三百三十億ドルに減らしておるのであります。そのほかにイギリスは
戰爭の濟んだその翌年は三億三千萬ボンドという大減税をしたのであります。アメリカは
戰爭の濟んだ翌年ただちに百億ドルという戰時公債の償還を始めておるのであります。また三百萬の官吏を二百三十萬に減じまして、こういうような良心ある整理節約をどんどんと斷行しまして國費を減じ、
國民の負擔を輕減するということが英米先進國の政治の實情であります。外國のまねをすればいい。何もおかしいことはない。よその國がこうや
つておるのに、日本は
戰爭の濟んだすぐ翌年豫算が四倍になる、それから税の收入でも本年は十三倍だ、そういう
考えのない亂暴な政治というものは、世界のいずれにありますか。こういうことをして日本
國民が生きていかれると思いますか。