○
宮長平作君 この
法案は、私
ども土建業者にと
つては、非常に無理な
法案だと
考えるのでございます。そしてたいへん無理だと申し上げる前に、現在私
どもが
政府の
仕事をやる場合には、どういうふうにしてや
つているかということを、一應御説明申し上げた方がよいと
考えるのでございます。
御承知でもありましようが、私
どもが國あるいは
連合軍の
仕事をやる場合は、ほとんど大
部分は
指名競爭入札という形式でや
つております。ごく特殊の場合に
限つて、
匿名契約ということで
仕事をや
つております。今日最も私
ども業界の大きな荷物にな
つている
仕事と申しますと、まず
連合軍側の
仕事に指を屈することができると思うのでございますが、この
仕事の
資材は、ごく特殊のものを除いては、大
部分官給にな
つている。私
どもとしては、
資材を調達して勞働者を私
どもの手で雇つ、いろいろな經費をかけて、その
仕事を仕上げることにな
つているのでございます。
從つて政府の
支給材が順調に
支給せられるときには、初め見積りしたときと、まずおおむね大差なく
仕事が遂行せられるような形にな
つているわけでございます。昨今のような
資材入手難のときですと、
政府の
支給材が、なかなか思うように
期限通りに來ない。かりに六箇月なら六箇月という
期限でお引受けした
仕事も、
資材が完全にはいらないので、その
工事も往々
延びがちになつている。場合によりましては、初めから
入札するときの
條件といたしまして、もし
官給材が間に合わないときは、
業者でその
資材を調達して
仕事をしろというような命令が附いていることもございます。
官給材が遲れる場合は、私
どもはしかたがないから、
自分の手で
資材を集めて、その
工事を遂行することにな
つている。ところが初め私
どもが見積りするときは、すべて
官給の
資材を
マル公でいただける見積りをするのでございますが、途中で
官給品が間に合わない
ために、
自分らの手でその
資材をまとめるということになりますれば、なかなかこれが
マル公ではいらない。どうしてもある程度までは
やみ値でこれを買わなければならぬことにな
つております。そうしますと、初めの見積りした
金額では
仕事はできないことになりますので、役所の方といろいろ交渉いたしまして、そこで
設計を變更していただいて、ある程度
やみ値で勝つものもその
價格を認めていただいて、
總體の
金額をきめる。こういうような形にな
つておるのでございます。現在の
状態がすでにそういうふうにな
つておりますので、もしこれを徹頭徹尾私
どもが手に入れてや
つた資材でも、ことごとく
マル公で
政府の
支拂いを受けるということになりますれば、そこに大きな
金額の齟齬を生ずることは
當然のことだと思うのでございます。もし
政府の
官給材がことごとく
マル公で、初め豫定した
期限に必ず的確に
支給ができるものでありますれば、この
法律もある程度實行はできると
考えるのでございます。ところが現在の
日本の
實情におきましては、これはほとんど言うべくして行われないことである。
いくら政府が一生懸命にな
つておられても、なかなか
資材がまわらない。これは過去の
實情がりつぱにこれを證明しておるのでありまして、
政府がいかに
工事の
契約の
當時に、必ず
官給をしてやるとおつしや
つても、
實際はなかなかそうはいかない。こういう
實情にある。ところが、この
法律が、
實施せられまして、ことごとく
マル公ですべての物が計算されるということになりますれば、私
どもはとうてい
仕事をや
つていくことができない。
實際問題として、われわれは現在の
日本の
資材の
状態におきましては、こういうような
法律の施行せられるもとで
仕事をするということは、
絶對に不可能と
言つても差支えないと思うのでございます。私
どもこの
法律が
國會に提出されたということを聽きまして、非常に驚いた次第でございます。現在の
實情がそういうふうにな
つておりますので、これをどこまでも
實施せられなければならぬということになりますれば、もうわれわれの
業界の破滅である。またわれわれの
業界のみならず、いろいろな
資材を調達せられる
方面におきましても、同じことが言えるのじやないかと
考えるのでございます。私
どもこの
法律案を拜見いたしまして、非常に憂慮いたしました結果といたしまして、立案なさ
つた方々の御
意見を拜聽いたしまするし、いろいろくふうをいたしまして、何とかしてこれをもう少し私
どもの商賣が成立するようにできないものかということを、最近非常に憂慮して、いろいろ研究をいたしておるのでございます。何分もうすでに衆議院に提出せせれて、ここ數日のうちに、これが審議せられるということを聽きましたので、實はたいへん私
どもも苦慮しておる次第でございますが、第一この
法案を
實施せられますというと、いわゆる
資材、
勞務、
役務と、
三本建にな
つておりますので、それに對して
實際でき
上つた仕事について、一々調査して出すというようなことは、非常に煩瑣な
事務を伴うのであります。今のわが國の何千という多くの
業者のうちで、はたしてこういう煩瑣な
事務をやり得るところの店が幾つあるか、大きな店はそれぞれいろいろな機構をも
つておりまするので、あるいは煩瑣な
手續を構わなければ、完全にこれが遂行もできましようが、大
部分の
業者は、ほとんどこの煩瑣なる
事務を遂行するということは不可能じやないかということを
考えるくらい、この
法律は非常に
煩雜な
法律なんでございます。それで第一この
法律を提出せられた
政府のお
考えを忖度してみますと、すべて
マル公でやれば
工事費が安くなる。すなわち
政府の
支出が少くなる。こういうことから、この
マル公ですべてのものを處理するということをお
考えに
なつたことと
考えるのでありますが、
先ほども申し上げました
通り、すべての
仕事は全部
競爭入札である。
競爭入札ということは、われわれが與えられたるところの
設計と、與えられたる
費用により、われわれのあらゆる
技術力を動員いたしまして、どうしてや
つたらばこれが安くできるかということを
考えて
入札をするのでございます。血の出るような
競爭ということをよく言われますが、血の出るような
考えをも
つて、私
どもはその
仕事を獲得する
ために、一生懸命にな
つて、あらゆる
智慧をしぼ
つて、
入札をするのでございまして、ここに
競爭入札をした以上に、さらにまたこれを安くするということは、とうてい
考えられな
いくらい、一生懸命にな
つて入札をしておる次第でございます。そういう血の出るような思いをして安く入れなければ
工事がとれない。そういう
状態のところへ、さらにまた
工事ができ
上つた上で、いや
いくらいくらの
資材を
使つた、
いくらいくらの
勞力を
使つた、
いくらいくらの
役務を
使つたということを、一々精細にいわゆる
明細書というものを出しまして、それによ
つて、
資材は初めの
考えよりこれこれ減
つておるからそれだけ減らしてしまえ、
勞務はこれこれの人間を使うということであ
つたが、
實際においては何十人、何百名減
つておるから、それだけ
値段を引いてしまえ、
役務は初めこれこれの豫定でも
つて入札したが、
實際はそうではないから安く
なつただけ引いてしまえ。こういうような
法律なんでございます。これは私は實に無理じやないかと思う。それは今申し上げました
通り、私
どもが初め
入札するときには、相當に
自分等の
智慧をしぼ
つて入札の
價格というものをきめるのでございます。
工事を遂行しておるうちに、さらに何かいわゆる
創意くふうによりまして、
いくらか
値段が下ることがあるかもしれません。
實際の
費用が少くなることがないとは限らないのであります。われわれが
創意くふうによ
つて安くしたものを、さらに
政府がこれを取上げてしまう。そういうことをなさるということは、私は實に
殘酷至極な
法律ではないかと思う。それではわれわれは
生産意欲というものは全然減
つてしまう。一生懸命や
つて、多少でも利潤を浮かそうというような氣分は全然なくな
つてしまう。一生懸命や
つたつて皆
政府に取上げられてしまうのじやないかと、こういうことになるわけだ。これは私は非常に無理な
法律ではないかと思うのでございます。それでこういう
法律を、どうしても
實施なさらなければならぬとするならば、せめては
競爭入札によ
つてと
つた工事には適用しないということにしていただきたい。
先ほども申し上げました
通り、ただいまはほとんど皆
競爭入札でありますがたまには
特命でも
つて、いわゆる世間に普通言われている
隨意契約で、官吏と
業者相對でも
つて、この
仕事は
いくらいくらでやらんか、いやそれでは安い、高いと、いろいろ折衝した結果、ある
金額で
仕事をお引受けすることがございます。これは
普通隨意契約と
言つておりますがわれわれの
仲間業界では、これを
特命契約と
言つております。この
特命によ
つてもら
つた仕事は、そのときの情勢によりまして、
政府といろいろ折衝の結果において、あるいはこの
法律を適用するということが必要な場合がないとも限らぬと思う。それだから
隨意契約によ
つてや
つた仕事に對しては、これをも
つていわゆる國の
支出を減らすという
方面に御活用なさるといふことは、これは私は結構だと思う。しかしながら、初めから血の出るような
競爭をさせ、どこまでもいわゆる會計法の
精神の安いものに
仕事をやるという
精神によ
つて競爭入札をさせられた
仕事に對してまで、これを適用なさるということは、むしろ殘酷と
言つてもいいと私は思う。私
どもはその
意味におきまして、どうしてもこの
法律を
實施なさらなければならぬということであるならば、これは
隨意契約によ
つたものだけに適用なさ
つて、
競爭入札によ
つてと
つた仕事に對しては、適用していただかないように御
修正を願いたいと思うのでございます。
それからさらに、この
法律は、
國會でも
つて成立いたしますと、五日以内に
實施するということにな
つているのでございます。おまけに、これから
新規に
契約する
仕事はむろんのことでありますが、現在
工事中の
仕事でも、いわゆる
義務の履行が完了していない
仕事、まだ
工事中の
仕事、それにはこれから
支拂う分に對して、この
法律を適用する、こういうことに規定してあるのでございますが、これは
實際途中において初め「これこれの
金額でも
つてこの
仕事をお引受けいたします」と
言つて政府と約束したものを、半分なり、あるいは六、七割なりできている、それまでは今までできたものは
從來の
通りの
値段でやるが、これからさきにやる
仕事は、これをすべての
資材、すべての
勞力、すべて
マル公でも
つて處理するというこの
法律を適用するという、これは
實際問題として不可能であると私は
考えます。こういうことはできないのです。どうしてもこの
法律を
實施なさるならば、これはこれから
新規に
契約する
仕事に適用するということにしていただかなければ、もう
仕事は止ま
つてしまう。
工事の途中にこの
法律を適用して、そうして今後
支拂うものに對しては全部これを適用するなんということは、ま
つたく不可能である。これを
實施なさるのはしかたないといたしましても、これから
新規に
契約するところの
仕事にのみこれを適用するというふうに、御
修正を願いたいと
考えるのでございます。
さらにもう一つ、私
どもこの
法律によ
つて非常に遺憾に思いますことは、これは
業者にとりましては、非常にむつかしい業務を強いられているのであります。一體この
法律を
實施して、どれだけの
義務を
政府が背負うのであるか。
先ほど申しました
通り、すべての
材料は
官給することにな
つているが、もしその
官給が遲れたらどうなるのでありますか。
進駐軍にいたしましても、あるいは國にいたしましても、
工事が遲れれば、一番やかましく言われるのは、われわれである。ところが、途中において
政府の
官給材が遲れた
ために、
仕事が遲れたのだと申しましても、そういう言い分はなかなか
通りにくいのでございます。結局
政府の
資材が遲れた
ために
工事は遲れたと
言つても、それはあたかもわれわれ
業者の責任であるかのごとく、
進駐軍あたり殊にやかましく言われるのでございます。これでは
業者の立つ瀬がないと申し上げて差支えないのであります。なかなか
資材がまわらなければ、たとえば六箇月かかる
工事が、八箇月も九箇月もかかる。その
たびごとにいじめられるのは、われわれ
業者であります。そういう場合に、一體
政府はどうしてくださるのか。日にちのかかるのはむろんのこと、店のみ入りにも、店の信用にも
關係ある問題であります。それに對して、
政府はどういうふうにわれわれに對して處置をと
つてくださるか。あるいはまたわれわれがつくりましたところの
建築物が、すでに半年も一年も前に、
實際にそれを使用している。それでも
工事費というものは、全部われわれに下
つてこないような
状況である。これに對して、
政府は未だ一年
經つても、
金利さえお拂いくださ
つたことはないのであります。そういうようないわゆる
政府としての
義務と申しますか、
政府としては、こういう
法律を
實施なさ
つた場合に、どういうことをわれわれ
業者にしてくださるのであろうか。そういうようなことも、この
法律には何ら指定はしてないようでございますが、これは
契約でも
つてそういうことをやるのだという
お話かもしれませんが、
契約でも
從來の
契約のようなものでは、そういうところまで
官給資材が遲れたらどうするとか、金の
支拂いが遲れたら
金利を拂うとかいうことは、未だ全然ないのでございまして、私
どもどうしてもこの
法律が
實施される場合には、そういうことまでも、
法律をも
つてちやんと規定しておいていただかなければならないと
考えるのでございます。これは
法律技術においてそういうことができるかできぬか、それは私は存じませんが、しかしわれわれ
業者の立場から申しますれば、どうしてもそういうふうにしていただかなければ、あまりに片手落ちでないかと
考えるのでございます。そういうような
意味合いにおきまして、私
どもはこの
法律の
實施はやむを得ないといたしましても、ただいま申し上げました
通り、どうしてもこれを
實施なさるならば、
競爭入札によ
つてできたものには適用しないということ、現に
工事中のものには適用しないで、これから新しく
實施するものに適用すること、
政府の
義務を指定していただくこと、
實施期に對しては、
適當な猶
豫期間をおいていただくこと、今
工事中のものにしても、
新規のものにしても、これをただちに
國會で成立したら五日以内に
實施するというようなことは、なかなか長い間の習慣から、そういうふうに切りかえるということは、容易でないと思う。少くとも三月とか四月とかいうような猶
豫期間をおいていただく。こういう點につきまして、この
法律の御
修正がいただけるならば、私
どもまことに結構だと思うのでございます。目下非常に多忙を極めておりまする
進駐軍の
工事をやるにいたしましても、あるいはまた戰災の復興の
工事をいたすにいたしましても、この
法律をこのまま
眞向に
實施せられたならば、おそらく
進駐軍の
工事も非常に停頓し、また
戰災復興の
工事などでも、ほとんど
實施が不可能じやないかと
考えるくらい、これは私
どもに對して非常に重壓を加える
法律だと
考えるのでございます。その點特に
皆さん方の御考慮をお願いいたしまして、
適當なる御
修正を加えられますならば、まことに仕合せと存ずるのでございます。これをも
つて私の説明を終ります。