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和田國務大臣 委員長に
最初にお斷りいたしておきますが、今日もしも時間がありませんでしたら、この次に早速出てまいりまして御
質疑を繼續していただいで結構であります。ただいまの
赤松さんの御
質問でありますが、
政府が今度の
物價體系をやりまするにつきましては、
物價改訂をやりますると同時に、
政府としては
聲明をいたしておるわけであります。
赤松さんの御
質問の點につきましては、もう一ぺん短いものでありますからそれを讀み上げまして、そうして
個々について
説明した方がいいかと思いますので、一應そのときの
聲明の文を——これはもうお讀みで御存じかと思いますが、一
應讀まさしていただいた方がいいと思うのであります。
「
物價賃金安定の
根抵がどこにあるかについての
政府の見解は、さきに決定した
經濟緊急
對策に示すとおりである。
物價賃金の安定は、
公定價格で
配給される物の
數量を
増加することによ
つて、實質的に
生活内容を充實しながら、現在の
貨幣賃金はできるだけ維持する以外に解決のみちはないというのがその
根本的態度である。この
態度は、わが國が當面している
經濟の困難を卒直に認識することに由來する。
財政も、
企業も、
家計も、い
ずれも
赤字であるという異常な状態において、
經濟安定の方途は
國民總耐乏によ
つて財政を緊縮し、
企業經營を合理し、
家計消費を節減し、かくして
國民一人當りの
生産を
増加しつつ、實質的に
生活を改善する以外にないというのが、
政府の立場の
根抵である。
貨幣賃金を
引上げることは、平常時においては、うたがいもなく
勞働者の
利益を擁護する
政策である。
政府がこのことを
原則的に承認するものであることはいうまでもない。しかし、同時に、
勞働者の
利益は、元
來貨幣賃金そのものにあるのではなくて、それによ
つてえられる實質的な
生活内容にあることを忘れてはならない。もしも
賃金の
引上げが
企業の
破綻を引き起すならば、それが
勞働者の
利益であるということはできないであらう。また、もしも、
賃金を引き上げた結果、
物貨が高騰し、
財政赤字が膨脹し、
インフレイシヨンが悪化するならば、それを
勞働者の
利益ということもできないであらう。
賃金の
引上げは、それによ
つて企業の
經營が停頓せず、それによ
つて經營の安定が阻害せられず、それによ
つてインフレイシヨンの悪化が引き起されない限りにおいて、
勞働者の
利益である。もしも、
賃金の
引上げによ
つて經濟の復興が刺戟され、
生産の向上が達成せられるならば、それは、
ひとり勞働者のみの
利益ではなくて、さらに進んで
國民全般の幸福である。
政府は、
勞働者の
利益がこのようなかたちで増進せられることを、衷心から希望しているのである。全
國工業、
平均賃金を月二千六百圓に
引上げるべきだという案については、
政府も、種々の角度から
檢討を加えたのであるが、
財政も、
企業も、
家計も、共に
赤字である現在、
賃金をこのように
引上げることによ
つては、
勞働者の
實質的生活内容を改善することは、きわめて困難であるという
結論に達したのである。いま全
國工業平均賃金が二千六百圓に
引上げられたものとする。そうすればまず、
消費財の
公定價格は千八百圓の場合に比較して四四%高い
水準に、すなわち、
平均して現在の三、五倍
程度に引き上げなければならないであろう。そうでなければ、
企業は
賃金の
支拂資金に窮して、
經營は
破綻におちいるほかない。しかし、この結果、
家計支出は再び、千三百
圓程度の
赤字を出すことになる。
賃金はしたが
つて、さらに
引上げなければならなくなる。こうして
賃金引上げと
價格改訂とを順ぐりにつづける結果、最後に、
賃金水準は、全
國平均四千五百圓、
物價水準は現在の六倍に上昇するであろう。このために
財政の面では、
人件費の
増加や
物件費値上りなどを通じて、おそらく二千億圓以上の
赤字を生ずるであらう。
この想定はまだひかえめである。なぜなら
賃金、
物價の
水準が、もしも、このように急激に上昇し、
財政赤字がこのように巨額になるならば、
物價賃金安定の最大の支柱をなす
國民の
物價に關する
安定感ないしは
通貨價値に對する
信頼感を、
根抵からゆすぶる危險が非常に多いということを
考えなければならないからである。この結果、
やみ價格が急騰し
賃金、
物價關係の安定は、急速に崩れさることになるであろう。
このような過程は、
經濟の安定とは正反對のものであり、
勞働者の
利益確保とも必ずしも、兩立しないであろう。
勞働者の
利益を眞に擁護するものは、
生活内容の
確保にある。そして
生活内容の
確保が、
生産の
増加と、
やみの撲滅による以外にないことは、すでに明らかであろう。
政府が
經濟緊急
對策において、第一に、
食糧確保の問題をとりあげ、第二に
流通秩序の
確保をとりあげ、この前提の上に立
つて物價賃金の同時的安定を企圖しているのは、全くこのためである。
もちろん、
政府は現在準備している
公定價格體系の全面的な
改訂が、
勞働者の
家計に對して重大な
影響を及ぼすことについては、きわめて愼重な
檢討を加えてきた。しかもそれと同時に、
食糧緊急對策により、
食糧配給量を
確保することができ、
價格差補給金によ
つて價格引上げを抑制することができるならば、この
影響を、いかに緩和吸收できるかという點についても十分な
檢討を
行つたのである。これらの
檢討の結果、新
公定價格體系のために、百二十億圓の
價格差補給金を支出し、
工業平均賃金を
月平均千八百圓の
水準に
引上げることができるならば、
價格改訂によ
つて家計に對して二二%
程度の
影響を生じても、
食糧緊急對策による
食糧確保量の
増加によ
つて、その多くの部分を吸收できるという
結論を得たのである。さらに、このほかに、
勤勞所得税の負擔を調整することができるならば、さらに若干の餘裕を
家計に生ずることになるが、これについては
財政の現況ともにらみあわせて
檢討中である。」こういう
説明をいたしてきたわけであります。まだ
あと相當あるわけでありますが、これは
あとにすることにいたしまして、結局今言つたような大體の趣旨で、
賃金と
物價の悪循環を斷
つていこうといたしたわけでありますが、
價格體系につきましては、
昭和九年と十一年という
基準年次は、まあ
日本の國の
經濟から言えば、ほぼ
日本の
經濟が正常であつたという年だと
考えられるのであります。從いましてその正常であるました九年から十一年をとりまして、六十五倍ということを一應限界といたしたのであります。しかしこの六十五倍という點に
安定點を設けたことにつきまして、なぜそれなら六十五倍かということにつきましては、理論的な
根據と言いますか、そういうものは、やはりこの
政策について六十五倍が理論的であるという嚴密なことは言えないと思うのです。ただわれわれとして
考えましたのは、あまりに高い
一つの
安定帶を設けるということにな
つてくると、
一つの面からいけば
價格の
安定帶を設けるという
意味がなくな
つてくるわけであります。たとえば百五十倍とか二百倍というふうな
安定帶を設けるというのでは、ほとんど全
體的な
インフレーシヨンのずつと上まで
引上げたもの、これをそのまま認めたものであるということにな
つて、これは
意味がなくな
つてくると思うのであります。またドイツなどの例を見てみましても、また今度の戰爭後の各國の歴史を見ても、
基準年次の百倍以上くらいにな
つてくると、やはり
インフレーシヨンというものは非常な勢で進んでくるおそれもあるわけであります。そこでわれわれとしては、この
インフレーシヨンをどこかで
價格の面から抑えていく必要がある。この
インフレーシヨンの大きな惰性的に進行していくものを、どこか高いところの
水準で安定さしていく必要があるということを
考えまして、ただいま言いましたような六十五倍という點に、基礎的な物資につきましての
安定帶を設けたわけでありまして、その六十五倍なら六十五倍というものを超えて、實際
基準年次から比べて騰貴していく、たとえば
鐵鋼その他のものにつきましては、これを六十五倍の點まで下げていく。しかしその下げるのに
財政の面でこれを負擔して、そのために
價格調整補給金というものを出していく、こういうことにいたしたわけであります。その
價格調整補給金は大體百二十億
程度を豫定しております。こういう
原則を一面ではとりました。それから
石炭等の
特定の
産業向けのものにつきましては、これは一應低い特別の
石炭を、特殊の
産業についてはやはり相當の低い
價格でこれを供給していく。そして
特定産業というような基礎的なものが、非常にその面からも
影響を受けてくるというようなことから、一應そういう方針を
とつたわけであります。それから
賃金をなぜそんらな千八百圓にしたかという點でありますが、これは御
承知のように一應の
價格體系をやりますときに、あの當時の
官公吏の
平均賃金が
基準的に千六百圓であつたわけであります。それからそのときの
業種別の各
工業の
平均をと
つてみますと、千六百以下であつたわけであります。そこで一應の
基準として、
政府としましては
價格體系に織込むべき
賃金というものを、千六百圓という案で進んでいつたわけであります。しかしこれは
給與審議會にお諮りいたしまして、
給與審議會にもいろいろと御
審議を願つたわけでありますが、
給與審議會の方ではその際に二千六百圓という案を出されたわけであります。しかしこの二千六百圓という案をかりにそのまま呑むといたしますと、私が
最初に讀みましたように、結局それが各
物價に
影響して來、その
物價の高騰のはねかえりがまた
影響してくるということで、ただいま言いましたように、
基準年次の六倍というような、また
財政負擔というものを
考えてみると、二千億圓にも及ぶ、そういうことになるわけであります。これでは折角そこで、かりに形式的に一應
賃金と
物價とが安定したような形を
とつたといたしましても、これは
財政面の方からもすぐ崩れてくるわけであります。物の裏づけのない二千億から何千億とかいうように、新しい
購買力が出てくるのでは、ひとたまりもなく崩れてくると思うのであります。そこでわれわれといたしましてはこの千八百圓という
考えに落ち著いたわけであります。千六百圓を千八百圓にいたしましたのは、これは多少そこに
政策の時間的な
ずれもありましようし、そういう點を
考えまして、
貨幣面においても二百圓というものを殖やしたわけであります。そうしてまたこの
程度でありますならば、これは各
公定價格の
改訂による點についても、ただいま申しましたようにせいぜい二二%
程度のものであ
つて、大體六十五倍のバンドというもので、
物價の安定という點からい
つても妥當であろう、こういうように
考えた次第であります。そこで
業種別の
算定平均賃金千八百圓というものについては十分御理解を願
つておきたいのは、これは今囘の
公定價格算定の際に、
原價の一要素として算入されるものであります、決して
賃金そのものをこれは無視するものではないということであります。各
業種別の
平均賃金というものが、
公定價格の今度の
改訂の場合に、
生産原價として勞務者一人一箇月の
平均賃金であるということ、それから
公定價格というものはこれは
原則としましては、各
産業に對して全國を通じて畫一にきめられるものでありますから、
個々の
企業に對して個別的にきめられるものじやないのであります。
從つて業種別平均賃金も、
産業ごとに全國的な標準として算定せられておるのであります。それから
業種別の
平均賃金として算定せられておりますものは結局標準的な勞働時間に對する
總賃金でありまして、所定の時間外の勞働に對する
賃金というようなものが含まれておりませんし、通常の
厚生福利施設であるとか、そういつたようなものも含まれていないのであります。そこでわれわれといたしましては千八百
圓基準をとりましたときに、
物價體系によ
つての
はね返りという
考えで、それが
生計費にどういうふうに響いてお
つて、その
生計費の
赤字をどうしていくかという問題をこまかに
檢討いたしたわけであります。その際大體七百五十圓くらいの
赤字といいますか、
はね返りが出ているということにいたしまして、その七百五十圓のうちの五百
圓程度を
食糧の
配給改善にも
つていきたい、それから
あとはこの
勤勞所得税の
免税點の
引上げというような事柄によ
つてカバーしていくということにいたしたわけであります。そのこまかい點につきましては
政府委員から表についてこまかく
説明いたさせます。
それからい
ずれあとですぐ問題になると思うのでありますが、今後の見透しといいますか、八、九、十、十一月に至る
平均賃金の維持の問題であります。結局問題は、
食糧の
配給確保という點が主眼になるのでありまして、要するに
配給面の
パーセンテージが殖えてくる。そうして、
やみで買う
數量が減り、また
やみの
價格が落ちてくるということになりますれば、
家計は當然樂にな
つてくるわけであります。七月をと
つてみましても、
配給の
食糧だけについて申しますれば、
配給面の方が大體六八%、約七〇%近く量においてはな
つておるのであります。ところが、
價格の方でいきますと、
ちようどパーセンテージが逆になるのであります。
消費者家計調査に現われた點から言えば、
やみで買う量はわずかに三〇%
程度のものが、
價格の點から言えば逆に七〇%に
食糧だけについてな
つておるわけであります。もしもこの關係がかわ
つてくれば、かりに一〇%でも
やみで買うものの量が減り、そうして
價格が下
つてくれば、
家計としては非常に樂になる。
實效價格の點から
考えればそうなるわけであります。八月は御
承知のように
輸入食糧の放出がありまして、また
救援米の
效果を見ておりまして、それからまたその他の
輸入食糧特別措置等によりまして、二合五勺というものを完全に
配給するとしましても、
家計においてなお百六十圓くらいの
赤字が出るのであります。ところがこれは
あとにな
つて詳しく理由を
説明いたしますが、九月は大體百三十四圓くらいの
マイナスになるのであります。十月は
家計の面において約百圓くらいの
マイナスになるのであります。ところが十一月になれば二合五勺を完全に
食糧の面において
配給しますれば、四百十何圓かの
プラスになるのであります。それで八月になぜ二合五勺の
配給をしても百六十いくらの
赤字が出るか。しかもその場合には、例の
勤勞所得税の方も一應の
免税點の
引上げということを考慮した上でのことであります。結局それでも
赤字が出る。八月は非常に苦しいことになります。それは
やみの
價格が非常に
上つたということがあります。
從つて八月の點につきましては、これはどうしても
やみで買
つておる
食糧以外のその他のものについて、一應節約をしていただいて、これを處理していくより方法はないと思うのであります。八月はこれは耐乏していただくことになろうかと思うのであります。それで
やみの
價格は、去年もそうでありましたが八月を
頂點として十一月ぐらいまで、去年も約三六%ぐらい、
やみ價格は低下しておるのであります。今年も大體今が絶頂でありまして、これは
確實に低下していくことと思うのであります。そうして九月に百三十四圓の
マイナスが出ておりますが、これはわれわれが一應計算しました基礎とな
つておりまするのは馬鈴薯とそれから麥の
超過供出を、ごく内輪に
見積つておりますので、せいぜい五十
萬石程度に
見積つた結果でそういうことになるのであります。これはもう少し私の方の
考えではとれますから、かりに七十
萬石と押えてみれば、百三十四圓、それから十月の百圓といつたようなものは、それが
配給ルートにの
つてくれば、解消していく見込みは十分あるわけであります。十一月になると急に
プラスになりますのは、今言いましたように
配給の
ルートにの
つてくる
主食というものは、米が二合五勺は
確保できる。
從つてやみの
價格というものも下
つてくるというような、こまかい
家計の上の計算をみますれば、そういうことになるのであります。大體そういうような見透しをわれわれとしてはも
つておるのであります。從いましてこれは何といたしましても、ただいま一生懸命や
つておりまする
食糧部面の
確保政策というものを、十分に
效果をあげるように努力いたしまして、
輸入食糧の懇請をいたすのはもちろんのこと、放出されました
食糧についての速急なる處理をいたしまして、遲配のないようにしていくということによりまして、よほどの違いが出てくる、こういうことになろうかと
考えておる次第であります。