○松井
公述人 ただいま御紹介の東洋レーヨンの取締役の松井であります。実はこの與えられたる
炭鉱國営案に対するわれわれの
意見というものにつきましては、單に私もしくは私の会社だけでありませんで、念のためにわれわれと同業の人絹の製造にかかわるカゼイン工業全業者の
意見を聽いて、まとめまして得たその結論について
簡單に申し上げたいと思います。あらかじめ御了承願いたいと思います。
実はわれわれカゼイン業者としては御
承知の通り、いわゆる消費部門としての見方でありまして、消費部門から見れば、端的に申せば、その品質が所期のものであり、適当なときに適当な量が配給され、そうして過去においてわれわれが非常に
石炭を使い、また
石炭の
増産もでき、大きな量を
供給された時代のごとく、スムースに万事いくような
機構であれば、たとえそれが民主民営であり、國有國営であり、あるいは民主
國管であろうと、いずれの
制度といえ
どもよろしいということを消費者として申し上げておきたいのであります。しかしその場合において、われわれがこの
國管案に対してそういう観点から調査したときに、はたしてどういう影響があり、またわれわれの見透しとしてどうであるかということについて
意見を申し上げたいと思います。
実はわれわれは今現に行われておる配給面における
公團式の組織についての
機構変革、その点については直接部門であるだけに相当大きな影響があるわけでありますけれ
ども、
生産者そのものとは昔直結しておつた時代と違
つて、自然疎くな
つておる現在はその動きにおいて、配給
公團そのものが介在しておる
関係上、接触面においていささか薄くな
つておる、こういう
関係から、妥当でない点があるかもしれない。また不明な点があるかもしれないので、むしろわれわれの
意見は、あるいは皆様方からさらに御教示を仰がなければならぬという点が多々あるかもしれませんので、一言ちよつと前も
つて御了承を得ておきたいと思う次第であります。
つきましては、われわれは時間の都合もありますので、結論を先に申し上げたいと思うのでありますが、各社の
意見をまとめ、またわれわれがそれを咀嚼した上においてみるところをも
つてすれば、大体この法律案に対する
考えは、次に申し上げるような諸点においてまだよく咀嚼され、研究されていないのではないだろうか。もうちよつとこれを具体化し、われわれから見れば実際化する、いたずらに議論倒れしない、また漠然たる
機構のもとに行われないで、その後に來るべきものが——たとえば本案に対する施行細則その他ができた場合においては骨拔きになる。しかしてわれわれが最初思つたことよりは、はなはだ徑庭のあるようなものになると
考えるから、そういうことのないように、もう少し研究の上、盡すべきことを盡して、しかる後に完全なものとして
実施するならばする。またそういうものを
実施するならば、ただちに世上にうわさされておるがごとく、大鉱山そのものに直接に実行するよりは、むしろ新坑の関発その他いろいろな
資金、
資材、
労務等において非常に
増産もしくは
生産を維持していく上において困難であるというような鉱山において、とらわれずに
実施していくということも
一つのやり方ではないか。そういう点から見て、結論的には時期尚早であるから、もう少し研究の上でさらに審議して
実施すべきものであるので、ただちに本案に対しては賛意を表しかねるところがあるのは残念であるという結論であります。
つきましてはわれわれがかくのごとき結論に到達してゆえんのものは、從來
炭鉱に対する時の
政府の
資金、
資材労務等の援助が、現在においてもずいぶん盡されておるということでありますけれ
ども、聞くところによればまだ十分でない。それはたとい十分でなくとも昨日かどなたかお話があつたごとく、やはり戰時中における
炭鉱の濫掘、もしくはその他のいろいろな急速なる戰時立法というような趣旨のもとに行われたところの、いわゆる技術的、
機構的というような面において非常に乱暴であつた。その余波がまだ立直りしない。それからわれわれ敗戰後まだ日数も経たない。單に
炭鉱労務者の
方々のみならず、われわれ
社会一般がいわゆる敗戰意識と言いますか、右往左往していてまだ正当な意識に立ちもど
つてないというために起るところの欠陷から、いわばまだ
ほんとうに
日本の
経済界が立ち直
つていないのだ。そういうこともあるがためにまだ十分に盡されたる援助が行われていないのじやないか。現に最近に至
つてやや立ち直
つてきた曙光が見えて、たとえば
資材の現物化において大分軌道に乘る。それから
資金もマル公の改訂その他によ
つて非常に
金融面も遅まきながらややよくな
つてきたというようなこと、その他
労務者の数も一人当りの採炭量はたとい同一な比率を保つにしろ、数量的には相当量殖えたというようなことから非常によくな
つて、聞きくところによれば、この九月の実際の出炭量は、終戰後初めての最高レコードで九七%ぐらいに到達しておる。漸次そういつたふうで、今まで注ぎこまれたものが、不十分といいながら、ある程度の効果を現わして、たといこれが
國管であろうと、國営であろうと、いずれにせよ、
官僚性がなくても、民主的に行われてややよくな
つて軌道に乘
つてくるということがある以上は、もう少し援助すべき点は援助して、もしくはかすに時日をも
つてすれば、現在の
機構にいささかの研究をして、労資の自主的もしくは民主的の労資協調のもとに、おのおのその
責任と義務を負
つてや
つていつたならばいいのではないか、こういう点においてもう少し研究すべきことのあることも全般的に
考えられます。ですから、こういうことから言えば、われわれは今ただちに
國管法に示されるごとく、いわゆる新しい
機構に行くことはいささか時期尚早でないかと思われる。
第二番目には、先ほど申し上げたように、お互い
國民全般がまだノーマルな氣持にな
つていない。
從つて炭鉱経営者、あるいは
從業員の
方々においても、まだ的確にして公平なる、そうして科学的にどうしたらよいかというような点についての知識と精神との陶冶が不十分ではないだろうか。それは労資の罪ではなく——それにも罪があるかもしれないが、そういう点があるから、もう少し技術的にも精神的にも研究をする時間を與えてやるべきではないか。もしこれを不十分な精神、もしくは技術的に不十分なままで行つたならば今本案に示されたがごとく、
生産協議会において労資相半数をも
つてやられて、その議決というものが相当偉大なる力を有する場合において、たまたまこの不十分なる機能と精神をも
つていつた場合においては、横道にそれ、もしくは感情に激した施策も出てきやせぬかと思う点があるので、その点においては、われわれはわれわれ自身の
考えにおいて危惧をいだく次第であります。ですから、われわれはその点は、もう英國のごとく多年の経驗、多年の陶冶をも
つていても、なおかつうまく
運営せられるかどうかと疑
つておる今日でありますから、もう少し時日をかして、陶冶を行つた上でや
つても遅くないのではないかと思うわけであります。なお三番目として、これは
関連することでありますけれ
ども、いわゆる
生産協議会のみならず、その他
國管法においては
責任のあり場所が——昨日のお話を承りますれば、どこに帰属するか、地方委員会もあり、また中央委員会がある。そうしてそこに各地方特殊特有の
炭鉱の特色がある。それに対して画一的にや
つてはたして
目的を達成し得るかどうかということも
一つの
考えであろうと思う。のみならず先ほどお話があつたごとく、これに対して
民間すなわち大消費者の面から見て、はたして眞実な声が聽けるかどうかというようなことは、單に量的のみならず、品質的において、——また輸送路の完備、もしくはその大消費者から各
炭鉱に與えるべき援助がない。たとえば戰時中にをいてわれわれは
炭鉱に人手が
不足だというので、
労務員を自発的に炭鑛にやつたというような方法、そういう面においてたとい國営
國管になると言
つても、そういつた点についてもう少し援助もしくは力をかすという方法を加味することが必要ではないかいわゆる
生産協議会というか、委員会というか、そういうものについていささかまだ不備な点があるのではないかこういう点も本案に対していささか危惧の念を懷いておる次第であります。
それから次は、
國管及び國営的の思想は、いわゆる
尨大なる新しき
機構の新設によ
つて、官吏を置かなくてはならぬということを前提とするならば、從來の経驗だけから申すわけでありますけれ
ども、そこにいわゆる冗員、冗費を伴うてくる。英國においては非常に民主的にな
つても、むだな人を殖やすということはない。ただ單なる
機構のために人を殖やすということはあまりやらないのであります。なお経費の節減という点についても、かつこの戰後のインフレのもとにおいては、できるだけ現状でや
つていこうということになる。また施設においてもそうである。非常に悪く言われることは、いわゆる私利を追うと言うけれ
ども、今や大きな
事業をや
つておられる方においては私利もなし、いわゆる
経営者という名前はあるけれ
ども、資本家というものがなく
なつた今日においては、いたずらに利益を追う理由はないと思いますが、おのずから合理的の、いわゆる立ちゆくためのある程度の黒字もなくちやいかぬということを目標としておるがゆえに、その施設、またその経費も非常に
経済的になることに專念する。しかるにこれが
國管もしくは國営的のものにおいては、どうしても放漫となるというおそれがないであろうか。それがやがて原價の騰貴を來してその赤字埋めを
政府において負うとするならば、それは財政の負担となり、また一般
國民の負担となる。もしくはそれをやらないで、いわゆる受益者負担ということにして
コストをカバーするために値上げをするとするならば、消費者においてはそれがために値段を上げられるというようなことにな
つて非常に苦痛である。この点はわれわれは、將來この國営
國管になる時代が來るかもしれませんが、そういう時代において、はたしてそうなるかどうかは断言できないところでありますけれ
ども、從來の経驗からすれば、國鉄のごとき新聞紙の報ずるところによれば、非常な値上げをした。しかるになお百五十億の赤字をも
つている。それで一人当りのマイル数が
日本では四十人である。アメリカでは四人であるということにな
つております。これは國営
事業のいささか欠陷じやなかろうか。また卑近な例で言えば、タバコの場合において、赤字が出ればタバコがただちに三十円から四十円になるというようなことになりはせぬだろうか。ここでその点はわれわれ消費者としては、危惧の念にたえない次第であります。
第五番目といたしましては、本案に対する面から見れば、炭鑛
経営者の自己の業務に対する興味がはなはだ薄くな
つてくる。いわば
生産面における
生産協議会において自分の思うところができず、また上へ業務
計画を出す場合にそれに対する
政府の非常なる変更その他があることを想像されて戰々競々として出したというような場合においては、はたしてその
経営主はいかなる興味をもち、いかなる樂みをも
つてその
事業に專念し得るだろうか。この点においても、われわれ
事業をや
つておる者としては、非常に両端から相せばまれてそれが苦痛とな
つて興味がないところ、すなわち本來の
発展はできないのであります。こういう
考えでおるので、この点本案がかりに將來において
実施されるとしても、また國営となるにしてもこういう点において
責任を明らかにすると同時に、また興味があるような
機構を盛り上げるべきではなかろうか。その点においても本案はいささか欠くるところなきやという懸念をも
つている次第であります。なお私ら実際家として、今ここで本案が
実施され、もしくは將來に対するときであ
つても同様かもしれませんが、いわゆる過渡期における
増産が——本案の第一條に示さるがごとき第一の
目的とせられるところの
増産が達成せられるかどうかということであります。それ
はつまり本案によるときは、
指定鑛山に
なつたものは
資材、
設備等の移讓はただちに上の命ずるがままにやる。また
生産協議会で承認を得ればただちにそれはや
つてもいい。また交渉してやるということになりますけれ
ども、もしそういうことが、將來において本案の
実施に伴
つて予測されるとすれば、今や余剩なものをも
つてお
つても、どうせとられるのじやないかというようなことで、むだ使いがありはせぬだろうか。それからまた今ただちにこの点にこういうふうに金をかけて、苦しいながらもやれば、將來三年、五年の後において非常に鉱山の安定度を増し、
増産も品質もよくなるという施設をやりたいが、どうせ
國管となり國営となるならば、そういう点は延ばそうじやないかという氣も出てきて、ここにおいて実際問題として過渡期において非常な波瀾が生じてくる。しかもその波瀾の過渡期が短時日に終るとすればいいけれ
ども、先ほど申し上げました大きな
機構、たとえば昨日ちよつと承りましたが、千以上にある鉱山の半数がかりに
指定鉱山と
なつた場合を想像すると、一鉱山につき五人とみても三千人ないし三千五百、もしくは十人とみれば五、六千か七千人の多数の新
機構の官吏が出てくると思われる。それをどういうふうに動かすか。第一人を集めることができるだろうか。あるいはその役所をどうするか。その
機構をどうするかという問題も出てきましよう。そういう場合においてそれがために半箇年つぶすとすれば、ネット二年か二年半くらいしかないものに対してはたしてそれを樂しんで、熱中して人が集ま
つてくるだろうかどうか。また人を配置するにしても、大阪のような所にも
つてくるとしても、第一住む場所があれば轉任辞令を出そうという情勢にな
つているときに、はたして六千七千の人を新しい
機構の下に動かすということができるだろうか。その間に相当長い時間がかるのではないか。そうなる場合における過渡期の
増産ははたして可能なりや否やというようなことも、先ほど申し上げたような事情のもとにわれわれは危惧しております。その間われわれ
石炭の消費者部門としては、また
生産のがた落ちになる。われわれの人絹のごとき、目下一番頭に悩むのは、われわれは今人絹、スフの
増産を奬励されて、現在より明年度においては倍、すなわち人絹月三百万ポンド、スフ二百万ポンド、計五百万ポンドの
生産を月や
つていけ、こういつたような命令を受けて、それをやるためには今の倍以上の
石炭がなくてはとうていできないというようなときにあた
つて、はたしてこういうことが
実施し得るかどうか。われわれの
増産の
目的は、先ほどのお話のように、目下
國民の最大関心は
食糧にある。しからば
食糧の援助を海外から仰ぐためにはどうしても見返りとして何か出さなくちやならぬ……。