○石渡
公述人 私
石炭増産協力会副会長、勞働科学研究所
理事をや
つております
石渡信太郎であります。第一、
國管法に対する賛否につきまして、第二、今年度の
石炭生産予想につきまして、第三、
國管法によ
つて急速
増産ができるかどうかということにつきまして、第四、
國管によ
つて増産できないとするならば、
増産をどうするのかということにつきまして、
簡單に
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
第一の
國管法に対する賛否でありますが、わが國の
石炭鉱業は、地下における
石炭埋藏量の天然
條件からいいまして、近い將來において國有國営か、國有民営か、あるいは共同
國管のもとにおける民営か、そのどれかになるべき運命をも
つている。つまりわが國の
石炭業はそういうふうに運命づけられておると思うのであります。しかし今日は
國管を施行すべきではないというのが私の
意見であります。ただし特殊の地域の
炭鉱全部、あるいは全國
炭鉱の中の特殊事情にある
炭鉱に向
つてはこの限りではないのであります。必要ありと認めなければならぬと存じております。
第二は、
石炭生産の今年度の予想でありますが、水谷
商工大臣は、
経済安定にいたるまでの緊急
措置として、
石炭鉱業を
政府において管理し、
石炭の
生産に関する國家の要請と、
経営と労務の三者一体とな
つて最高の
能率をあげて急速なる
増産をなすことが、
國家管理のねらいどころであると申されておりますが、一体
政府が今年度の的確なる
生産の見込高がいくらであるかは、まだ私は
承知することができないのであります。計画ではない、的確に今年度出る見込みの、
政府が予想する数量がいくらかということは、まだ知らないのであります。私が便宜言うならば今年度の
石炭生産数量は二千八百万トン、これを上期下期に分ければ、上半期において千三百万トン、下半期において千五百万トン、計二千八百万トンであろうと想像いたします。これは私が特に弱氣な数字を出したわけではありません。
政府当局も
経営者も、また勤務者側もわれわれ横から
協力するところの者も、ともに骨を折
つて初めて達成できるところの予想数量であります。私としては、一方において品位の
向上をみつつ、二千八百万トンの
生産が今年度中にできたならば、これはむしろ全
國民の感謝を受けてしかるべきことだとさえ思
つております。
第三は、
國管法によ
つて急速に
増産ができるか。遺憾ながら私はできないと
考えております。その理由の一つは
増産に向
つての坑内の坑道の延長、それらの準備のためにぜひとも必要であるところの鉱区の整理に対して、この
國管法は何ら強い手を打
つておらないのであります。もしこれをやるとするならば、鉱業法の改正によるか、さもなくば主要鉱物
増産法第四條第五條を、むりに施行するほかはないと思うのであります。それではおもしろくないのであります。
その二は、わが国の
石炭輸送は海を主とし陸が從とならなければならぬのであります。これが戰爭のために、逆に陸主海從にな
つております。これは結局海主陸從にしなければ、
石炭のような目方が多くてかさの大きいものは運びきれぬと思います。これは戰爭前の実際から見て、御
承知の方は御納得できると思うのであります。ところで、今は
石炭の
増産につれて、結局この細長い日本においては、どうしても海洋を主にしなければならない。これは今から海主陸從に方向轉換しなければならないと思います。その点につきましては、先ほど渡邊さんから海の方は大丈夫だ、引受けたと言われましたけれども、私はまことに失礼な申し分だが、全面的にこれを信用することはできないのであります。それはこの海主陸從の轉換にいくらか混乱状態を呈しつつあることと、それに附随して港湾
設備その他の点からしまして、今のままではおそらく三千万トンの運搬はできないと思います。現に下半期の割当は、上半期に比して、月五十万トンくらい増加すると思いますが、かりに十月から毎月五十万トン
増産したとしますれば、はたしてその運搬がうまくいくかどうか。私はこの
國管案は、海陸の運搬の保障を裏づけなくては無
意味だと思うのであります。その点
政府は、
昭和二十二年以降二十七年度まで五箇年間の
生産計画の数字を発表しておりますが、これは私から見ますれば、まさに一方的のペーパー・プランであ
つて、信用をおくことができないと思うのであります。かかる年度計画、いわゆる
経営の堅実なる会社、あるいは堅実なる
炭鉱としましては、一番に立てなければならぬ
炭鉱工業のかんじんの土台であります。これを今度の
國管法案によりますと、
炭鉱の
生産協議会にも
つてい
つて決定しなければならない。そしてその
生産協議会は、
経営者及び労務者側から同数の委員が出て、これをきめることにな
つております。これは趣意におきましてまことに結構でありますが、
國管法案の第三十一條以下第四十條についてみますに、この
生産協議会の組織
運営では、ほんとうに
事業計画はできないと私は思います。なお同附則第六十九條によりますれば、本法の有効
期間は三箇年とな
つておるのでありますが、
炭鉱の三年後の坑内状況は、おそらく前と比べて荒廃するだろうと思います。それは官僚統制と言
つては失礼ですが、ややそのにおいのします今度の
國管案によりまして、三年間というきわめて短い
期間における
生産競争の弊害として、必ずや出てくるものと私は思います。
この四、金融、
資材その他大きな隘路として殘
つておりますものは、
國管によ
つて簡単に解決できるものとは信ぜられないのであります。私の
考えますところでは、今殘
つておる大きな隘路は、山元にあらずして、いわゆる本元の東京にある。隘路の所在地は東京であると思う。この大きな隘路打開は、山元の
生産協議会や、山元の力では容易に解決できないと思うのであります。なおこの隘路の今後生れてきますもとは、山元にあらずしてやはりお役所の、本元の東京でだんだん出てくると私は思うのであります。終戰後減産のどん底まで落こんだ
石炭生産は、今年度の第二・四半期の後半に入りまして、ようやく
増産の曙光が見えてきたのでありまして、いま一ふんばりというところであるのであります。この下半期の減産を補い、なお下半期に割当てられた非常に
厖大な、私どもから見ますればむりな数字の
生産に向
つて、最後の邁進をしなければならぬと同時に、明二十三年度の
生産の基礎をこの下半期においてつくりあげなければならぬのであります。すなわち今が最も大切な時期であるのであります。この大切な過渡期において、研究討論のまだ十分と思われない、
國民がまだ十分國営そのものについて、納得できないこの
國管法を実施せんとすることは、まことに冒險千万であると思うのであります。惡くすると今日出てきつつある
増産の順調を乱すことになると思うのであります。
以上が私の
國管によ
つてはただちに
増産に役立たぬということを申し上げる主な理由であります。
第四、
國管法によらずして、ほかに適切な
増産方法はないか。これにつきましては、当面の対策と將來の対策とにわけて、簡単に述べさしていただきます。
当面の
増産方法としましては、
國管法の発布をまたずして、現在目の前に横たわ
つている、
増産に向
つての障害を片つぱじからどしどし排除することができれば、それでよいと思うのであります。つまり
政府においてはほんとうに腰をすえて、労務体制を改善し、
石炭に関する特別労働
委員会をつくるそれには
政府は非常な覚悟をも
つてやらなければいかぬと思いますが、これができたならば、
経営者の
責任において
設備の復旧、殊に炭車の新造、修理を急いで、切羽から積込場までの運搬が円滑にいくならば、また電力の確保ができたならば、労資双方の総意によ
つて、
労働者の坑
内外の規律と
能率給の確立ができたならば、配炭公團と運輸省の
責任において、
炭鉱から消費地までの
輸送が迅速一直線にいくことができたならば、
政府、
事業主、
経営者、技術者、労務者一体とな
つて、おのおの
責任を分担して奮闘したなれば、
増産の道は確かにひらけると思うのであります。数日前私のところに、わが國の
石炭技術者の幹部と思われる方がおいでになりまして、こういうことを申されたのであります。今日のみじめな
石炭生産の現状は、まさにわれわれ、しかも多年
石炭鉱業に務めているわれわれ技術者に重大なる
責任がある。われわれはその
責任を自覚して今日の
生産の
復興に死を賭して突進しなければならぬ。われわれは何も
事業主にこびるものではない。また労務者を恐れるものではない。
事業主はもし今や
つている
石炭鉱業がだめだ。行く先き見込みがないというならば、鉱業権を賣ることもできる。他に轉業もできる。また労務者も、この
炭鉱はだめだ、働く氣がないというならば、ほかの
炭鉱に行くことができる。しかしわれわれ技術者は、この
炭鉱を出てどこへ行きますか。われわれの行き場所はないのだ。われわれはこの
炭鉱を自分の家と頼み、死に場所として奮闘あるのみである。今後は一層その点を自覚して、大いにがんばろうと思う。もしそれ坑内に火災であつた場合には、まず
労働者の安全のために一番先に技術者は飛びこむ。今後はお説教でなしに、不言実行で身をも
つて増産にあたるのみである。もしわれわれ技術者に
労働者と同じようにつるはしをもてというなら、もつという悲愴な話も聞いた。私は技術者出の老人でありまして、まことに愉快涙をも
つて傾聽したのであります。こういう氣持を
事業主も、また勞働者もも
つているならば、ここに
生産意欲、しかも國のために
生産しなければならぬ
石炭に向
つての
増産意欲は、起きてくるのではないかと思うのであります。
次に近い將來の
石炭対策といたしましては、
政府はよろしく先般
石炭増産協力会から提出した建議の、
石炭政策審議会というものをおつくりにな
つて、新しい各界の権威者を集めて、わが國
石炭の基本対策としまして、現在すでに半ば以上
國管にな
つている
石炭鉱業を純民営に引戻すか、あるいは
國家管理とするか、あるいは國営にするか、國有民営にするか、それらに対しては、これを全
炭鉱に実施するか、地域的または
炭鉱の特殊事情によるかということを、十分に檢討いたしまして、そのできた案を
政府に出しまして、
政府はこれを議会に提案して、賢明なる皆様の御審議を願い、そうしてわが國の大事な
石炭の根本対策を始めていただきたいと思うのであります。これが近い將來の
石炭対策についての
意見であります。ただここに
國管をまつまでもなく、
委員会にかけて檢討するまでもなく、即時國営もしくは
國管等によ
つて着手してもらわなければならぬことがあります。それは新炭坑の開発ということであります。今にしてこの休眠鉱区を取上げて開発しなければ、ここ数年後、私だけの
考えでありますが、おそらくは三千五百万トン
程度の出炭を
最高として、わが國の
石炭は再び減産に逆轉するということは明らかであります。今日大問題とな
つておるところの
國管とは切離して、一足先に
政府は断固として、この新炭坑開発に着手することを、ここに御
出席の議員諸公を通じてお願いしたいのであります。これはただに
石炭のみならず、亞炭についても同様のことが申し上げられます。
最後に申し述べたいことは、現在のわが國の
石炭鉱業は、決して健全ではないのであります。今なお更生の途中にありまして、きわめて不安定の状態にあることは隠されません。この不安定、
國民から見ても、まことに安心できないところの
石炭鉱業に向
つて、
食糧の増配にせよ、
資材の優先割当にせよ、いろいろの点において、全
國民に
相当大なる犠牲を拂
つてもら
つておるのでありますから、
炭鉱経営者も
労働者も、深くその点に顧みて、一層奮励をしなければならぬ。そうして
増産をも
つて、
國民の期待に報いなければならぬと思うのであります。同時に
政府としましても、
國民の納得のいくように、今日以上
石炭鉱業に向
つての管理、指導を強めることが必要であると思うのであります。それには、今度の
國管法のごとく、地方
石炭局を
商工局より分離しまして、それにただ局長をも
つていくということでありますが、私どもは中央の
石炭廰をもつともつと強くし、技術経理方面の
監督を強化してもらいたいと思います。それから地方
石炭局と中央において
石炭に
関係ある官廳、たとえば
経済安定本部とか、
石炭廳とか、労働省のごときところに、優秀なる技術官を大増員しまして、これは実はもちろん皆さん御
承知でありますが、技術者というものが、実際中央の役所にはいないのであります。実にあわれなものでありまして、これでは
石炭管理も、
國管もできないと思うのであります。その技術官大増員をいたしまして、そうして常に急所々々を衝くような適切な指導管理をすることが必要であると思うのであります。しかしこれは何も
國管法のごとき、かかる大げさな管理によらずとも、
石炭廳の拡張と申しますか、
石炭廳の力を十分振わせるように
政府がしてくれたならば、その
目的は十分に達し得らるることと思うのであります。以上私の
意見を申し上げました。