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1947-10-09 第1回国会 衆議院 外務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十二年十月九日(木曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長代理 理事 加藤シヅエ君    理事 細川 隆元君 理事原 健三郎君    理事 亘  四郎君       猪俣 浩三君    高瀬  傳君       竹内 克巳君    和田 敏明君       小澤專七郎君    竹田 儀一君      長野重右ェ門君    竹尾  弌君       佐々木盛雄君    仲内 憲治君       若松 虎雄君    多賀 安郎君  出席政府委員         外務事務次官 與謝野  秀君  委員外出席者         外務事務官   永井三樹三君         專門調査員   佐藤 敏人君         專門調査員   村瀬 忠夫君     ————————————— 十月八日  在外同胞引揚促進の請願(吉川久衛君紹介)(  第八三八號) の審査を本委員會に付託された。     ————————————— 本日の會議に付した事件  國際貿易憲章に關し、當局より説明聴取の件     —————————————
  2. 加藤シヅエ

    ○加藤委員長代理 それではただいまから會議を開きます。  今日は安藤委員長が御所用のために欠席をされますので、私が代理を勤めさせていただきます。今日は特に外務省の總務局經濟課長永井三樹三さんの御出席をお願いいたしまして、國際貿易憲章について御説明を伺うことにいたしました。永井説明員
  3. 永井三樹三

    永井説明員 國際貿易憲章の草案のテキストは、私の方で解譯いたしましたものを委員會の方へお届けしておきましたので、御入手になつておられると思いますが、主としてこれから國際貿易憲章というものが、日本の通商政策または貿易政策に對して、どういうような問題を投げかけるものであるかというような點を、特に中心として御報告申し上げたいと思います。  それにはいる前に、すでに皆様御承知かと存じますが、この憲章案というものの大要についてごく簡單に御報告申しまして本論に入りたいと存じます。御承知の通り、國際貿易憲章案というものはアメリカが非常な力を入れ、リーダーシツプをとつてこの實現に努力しておりまして、この國際貿易憲章だけを取上げてみても、アメリカが今追及しておりますところの世界經濟機構世界經濟政策全般をよく把握するということがむつかしいのでありまして、結局國際通貨基金國際復興開發銀行、いずれもブレトン・ウツヅでできましたものでありますが、こういう一連の國際的な經濟機構と關連させてみないといけないのでありまして、その中でブレトン・ウツヅでできましたところの國際通貨基金というものは、主として貿易の支拂面、すなわち為替の面においてより自由な世界經濟機構を立てようということをねらつておりまして、次の國際復興開發銀行というものは、短期の為替の面でなくて、もう少し長期の經濟復興やらあるいは後進國經濟を開發するというような長期投資を容易にする。貿易購買力が積極的な増進をはかるということが根本のねらいとなつておりまして、ブレトン・ウツヅにおいてこの二つの協定ができましたときに、これは一九四三年、すでに戰争中にできましたが、そのブルトン・ウツヅの會談におきましても、これだけではだめである。できるだけ早く貿易そのものに對する國際的な行動をしなければ、この通貨基金及び國際復興開發銀行目的は達せられないというので、特別な決議がなされておりまして、こうしたブレトン・ウツヅ協定とは双兒の關係でつくりだされておるのが、國際貿易憲章と言うことができるのであります。アメリカがかように世界的にできるだけ自由な經濟機構をつくろうとこのたび非常に力を入れていたしておりますことは、第一次の欧州大戰後世界經濟の動向というような點を十分考えた結果でありまして、第一次世界大戦後におきましては、御承知の通り、戰争によつて變貌した世界經濟に對する何らの對策をもたなかつた。従つて各國とも漠然と戰前の状況に歸るというようなことを考えて思い思いな經濟復興政策をとつていたために、一九二九年以後の世界經濟恐慌に直面するや、ただちに各國とも初め意圖しておつたとことと異つて關税を上げるとか、あるいは為替管理をするとか、自衛的ないろいろな通商上の措置をとりまして、それがさらに一國だけの自衛手段では間に合わないというので、一九三〇年代になりますと、イギリス保護關税の設定、さらにオツタワ協定によるところの英帝國經濟ブロツクというものをつくる。さらにこれに對抗してヨーロツパにおいてはドイツを中心とする中央ヨーロツパ經濟ブロツク、あるいはフランス植民地を一括するところのフランス帝國ブロツクというような、ブロツク的な傾向が強くなり、日本もこういう状態に對應して、結局東亞の經濟ブロツクという政策にはいりこんで來たのでありまして、この世界經濟がブロツク化されたということが、今度の第二次の世界大戰の多くの原因の一つであるという認識が、戰争中から行われまして、特にアメリカにおいては今度の戰争後世界經濟に對するアメリカの責任というものが非常に論議されまして、第二次世界戰争後世界經濟機構というものに對して、あらかじめ一つの構想をもつていかなければならないということが、すでに戰争中から非常に活發に論議されておりました。その現れとしてまず出された、すでに戰争が大體連合國の勝利に終るという見透しが立つた一九四二年ごろから、まず國際通貨というような問題が提起され、四十三年にはブレトン・ウツヅ體系というものが成立いたしました。同時にこの貿易につきましても、すでに一九四一年の八月に、今度の戰争出發點に際しまして、大西洋憲章が聲明されましたが、その中におきましても、すでに戰後連合國世界經濟に對する考え方として、米英両國はすべての國が經濟的繁栄のために必要な世界通商及原料均等條件における利用を具有することを促進するのだというような意向を、特に第四項としてうたつておるのでありまして、こういう方針によつて貿易通商機構というものを打立てていくというような思想を、すでに戰争にはいる途端からアメリカで表明されておるのであります。その後いろいろな學者あるいは研究團體の間で、戰後貿易問題に對するいろいろな試案がつくり出されましたが、結局それが綜合されて國務省から發表されたのが一九四五年の、ちようど戰争が終りました年の十一月に、世界貿易及び雇用に關するところの會議を開催する目的をもつてする提案、今日ここに國際連合國際貿易機關憲章というものとして結實したところの、第一の提案が發表されておるのであります。されにそれが翌年すなわち昨年の四月にこの會議をいよいよ國際連合が主催して開催するということがきまりました。昨年の九月にこの國際會議豫備會議に對するところの提案として、アメリカから再び一昨年の提案を整理いたしました國際貿易憲章試案というものが發表されました。その會議におきまして發表されましたその試案をもとにいたしまして、昨年の十月から十一月にかけてロンドンに第一回の豫備會議が開かれたのであります。この會議には、アメリカイギリス、カナダ、オーストラリヤ、ニージーランド、南阿連邦印度中國フランス、チエツコ、ベルギー、オランダ、ブラジルキユバー、ノルウエー、チリー、レバノン、ルクセンブルグこの十八箇國が参加いたしまして、アメリカの發表したところの試案を一應討議しまして、大體試案の内容の八割五分に相當する部分を議決いたしました。さらに本年四月から八月末まで、ジユネーヴにおきまして第二回の豫備會議が同じ十八箇國によつて開催されました。結局この八月の終りになりまして、國際貿易憲章案というものが全部議決をみました。本年の十一月二十二日からいよいよ國際連合加盟國全部並びに非加盟國であつても、貿易に關する非加盟國を招待して、世界貿易雇用會議というものを開くということに、國際連合經濟社會理事會で決定をしているのでありまして、今の豫定でいきますと、この貿易憲章がこの十一月の本會議によつて採択され、いよいよ本式に國際條約は成立するという段階に立至つておるのであります。このお手許にお配りしてあります國際貿易憲章豫備草案というのは、私どもの入手いたしましたところのものは、ジユネーブ會議のときに討議されるところのテキストでありまして、ジユネーブにおいて最終的に討議されたテキストではございませんが、これはようやく八月二十一日に議決されたばかりでありますので、われわれの手許にまでははいつておりません、目下至急に取寄せるように努力しております。最終の案のきまりましたものをアメリカの新聞によつて見ますと、若干配列または編纂の方法に差異があるのでありますが、大體の大きなラインは、今まで私どもが研究しております豫備草案と大きな變更はないように見受けられるのであります。そこで一應この豫備草案の大體の輪廓をもとにして、日本との問題について、私どもの研究しました結果を御報告申し上げることにしたいと思います。  先ほど申しました通り、この國際貿易憲章案は、ブレトン・ウツヅ通貨基金または復興開發銀行というものと並んで、戰後世界經濟を律するというアメリカの大きな構想のもとにつくられているのでありまして、この貿易憲章案が直接貿易政策の部面に對して、アメリカの考えている自由通商制度を打立てるということを企圖しておるのでありまして、この根本は、第二次世界大戰前にみられましたような、いろいろな貿易に對する障害、ブロツク經濟というようなものを打破して、できる限り貿易を自由にするということから出ておりまして、その構成をみますと、まず政策的な部面におきましては、雇用エンプロイメントという問題を取上げて、次に經濟開發という問題を取上げ、第三に一般的通商政策という問題、第四に制限的商慣行、これは國際カルテルなどによるところの國際貿易に對する制限を論じておるのであります。これは特殊な生産物に對する國際的な取極めというものの準則を定めるという、五つの大きな項目を取上げ、最後に各部面においてこの憲章で定めているところの政策の實行を監督し、または責任をもつてこの實行をはかるために、國際貿易機關という常設的な機關の構成を定めておるのであります。お手もとにお配りしてあるテキストの第八章に、機關として定められております。重要な各章の規定を大ざつぱに申し述べてみますと、雇用エンプロイメントの點は、これはもちろん國際貿易憲章が、雇用を促進するということを目的としておるのでありませんで、國際貿易が、世界各國の雇用の維持と非常に密接な關係があるという點から出發いたしまして、特に國際貿易によつて各國の雇用が増進されること、それと反對に各國の雇用を國内において維持しようという産業が、他の國の雇用を妨害してはいけない。特に俗な言葉で言いますと、失業を輸出してはいけないということから、この雇用の章が設けられておるのであります。特にわれわれとして重要な點は、世界貿易において他國の雇用を阻害するような政策をとつていけない。特にこの問題に關連して輸出貿易においては、公正な勞働標準勞働條件を維持しなければいけない。さらに言い換えれば、戰前日本貿易に對して言われましたような、ソシアル、ダンピングは禁止するというような規定が第六章におかれております。そのほかに貿易上のいろいろな制限を撤廃するということを、一般通商政策の條項できめております。いろいろな政策を實行するにあたつて、各國が自分の國の雇用に非常に重要な危害をこうむるような場合、たとえば世界の不況が起るというような場合には、行動の自由をもたなければいけないというような規定が設けられておりますが、これらの雇用の點は、主として後に述べますような見地から、イギリスを中心とする英連邦グループの主張から設けられた點でありまして、いわば一種のエスケープ・クローズに近い意味をもつておるのごでざいます。  次に經濟開發というのは、主としてブラジル、インドというような、戰争中に急速な産業の發達を來した國、または戰争のために非常な戰災をこうむつたヨーロツパ諸國というような特殊な立場にある國から、アメリカの最初の提案である貿易に對する障害を打破しなければならぬという政策に對しまして、こういう國においては若い幼稚な産業を維持するとか、あるいは産業の復興をはかるために特別な必要があるので、そういう點を認めてもらいたいという要求がありまして、そういう見地から經濟開發という一つの章が設けられております。これはごくかいつまんで申しますと、經濟的に進んでおる國は、後進國の開發のために、資本、資材、または熟練技術というようなものを供給するにおいて、非常に好意的に努力するということと、またこれを受入れる國においては、先進國のそういう資本、資材などを供給する國、またはその供給者に對して、あまりひどい扱いをしないようにというような、一種の紳士協定的な點をきめ、さらに最も重要な點であります後進國、または戰災國において、特に親しい産業を興したり、維持したりするために、必要な場合には、この憲章規定に反するような産業保護の方法をとつてもよろしいということを認めております。但しそういう産業保護政策をとる場合には、關係國またはこの貿易機關から許可を求めるという手續がついておりますが、一應産業を保護してよろしいというような規定が設けられております。  次に第三番目の第五章にある一般通商政策、これは實はこの貿易憲章の核心でありまして、アメリカの最も力を入れて進んでおるところでありますが、ここにおいてこれがいわゆる一般の通商障害貿易に對する障壁といわれるものを全部總括して問題にしております。まずその一つ關税でありますが、關税に關しましては、この憲章におきましては、高率關税互惠協定によつて引下げる、ちようどアメリカが、一九三四年以來、ハル國務長官のプログラムによりまして、互惠通商を實行しておりますが、これを憲章の方針として取入れておりまして、各國とも相手國の要求があれば、關税引下げるために常に協定をする。これによつて關税引下協定を結ぶということが義務として規定されております。但し關税につきましては、關税そのものをもちろん排除するものではなく、高率關税協定による引下を規定しております。ただ關税の中でも特惠關税に對しては、最も力を入れてこれを排除しようという方針を示しております。但しアメリカの最初の提案を見ますると、原則として特惠關税は排除するという提案でありましたが、御承知のように、特にイギリスなどの意見が組みこまれて、一挙に排除するのでなく、國際貿易憲章といては、協定によつて特惠關税をだんだん減らしつつ、終局的にはこれを國際貿易から追拂つてしまうというような、漸進的にこれを排除するというような方針をとつております。  次に最も重要な問題であるところの輸入の禁止または制限数量的制限とでも申しまするか、これにつきましては、非常に厳粛な規定を設けまして、原則として輸入数量的制限はこれを禁止するという原則を定めております。ただ例外として、特に戰後の特別な状況にある制限、たとえば食糧不足であるがために食糧に對して割當をするとか、あるいは特に戰争中に發達さした人造ゴムとか、そういつたような特別に、戰争中に、戰時の必要のためにつくり出した産業生産臨時的制限は認める、そのほかには原則として輸入制限あるいは輸出制限、割當というような制限は認めないという趣旨であります。ただその場合に一つ重要な例外を設けております。輸入制限をなし得る場合は、一國の國際収支が根本的に、基本的に不均衡になつてきて、どうしても通貨準備を維持することができないというような場合には、國際収支を保護するために、特別な手續を經て輸入制限をしてもよろしい。その特別な手續というのは、この貿易機關と協議をするというような手續でありますが、特に國際収支の不均衡、これは暫定的な一時的な不均衡でなくて、基本的な不均衡のある場合には輸入制限を許す。その場合は具体的にどういう場合かと申しますと、國際収支が不均衡なために、通貨準備が非常な危險な状態にまで減少していく、あるいは通貨準備をもつていない國、たとえば今後の日本のような國が、ちようど合理的な通貨準備をつくるための蓄積をするというような目的のためには、輸入制限をしてよろしいということになつておりますが、いずれにしろ、この輸入制限というものには原則的な禁止を定めております。  次に重要なものは補助金でございますが、輸出補助金に對してもこれまた競争上不公正な競争力を與えるという見地から、これも輸出補助金は禁止する。かけてはいけない。のみならず、このわれわれのもつておりますテキスト規定をみますと、輸出補助金のみならず、一般に國内の産業補助をする、たとえば配當の補助だとか、あるいは價格補助、あるいは運賃の補助だとか、その他機械設備の貸與というような、廣い意味の國内の産業に對する補助を與える場合には、一應これが輸出にたいしてその國の輸出をエンカレツジし、また同様な産物の輸入制限するというような影響をもつようなものであれば、必ずこの國際貿易機關に通報しなければならないというような附随的な義務がありまして、さらにそういう補助政策に對して異議のある國に對しては、異議にこたえて協議しなければいけないというような手續規定も決められております。  さらに次の重要な問題は、内國品待遇ということがきめられておりまして、一旦輸入された物品に對しては、國内においては國内の物品と同一の内國品待遇をしなければならない。のみならず、これをさらに擴張いたしまして、たとえば國産品外國品との間に混合率をきめる。たとえばパンについて、外國の小麦と國内の小麦とを何割にしなければならないというような、そういう制度をつくつて、これによつて間接に國内の産業が保護されるというような場合には、内國品待遇に對する違反であるというので禁止しようというような規定が採用されております。その他ダンピングだとか、あるいはいろいろなメイド・イン・ジャパンというようなもののつけ方、原産地の表示方法、その他の税關の手續につきましても、これをできるだけ簡單にする、そして貿易に對して制限的な影響をもたないようにするというようなこまかい規定を設け、さらに貿易統計、あるいは輸入關税率の品目、あるいは關税率表だとか、あるいは貿易上のドキユメントというようなものを、國際的にこれを統一するというようなことを國際貿易機關において實行する。そこで國際貿易機關においてこれを採用した場合には、各國とも参加國はこれを實行しなければいけないというようなことも考えております。  さらに次にこの國際貿易憲章一つの特徴と見られますものは、従來の貿易に關する條約その他においては問題にされておらなかつたところの、國家機關による貿易について厳重なる制限を加えておりまして、これは今度の戰争前後から、多くの國において直接國家機關貿易をやるというような傾向がありますので、こういう制度によつて貿易制限を受けるということがないように厳重な規定を設けておりますが、これがステート・トレイデイングとして國家貿易という節にまとめられております。その制限とは、これは後で問題になりますので詳しく申しますと、まずここにいう國家貿易というのは、專賣その他公團、あるいは國家が特権を與えて貿易をさせるというような、あらゆるものに適用があるわけでありますが、こういう國家機關貿易をやる場合には、輸入品輸入した原價に對して一定のマージンを加えた價格で賣らなければいけない。すなわち自由に國内販賣價格を高くすることは許されない。特にそのマージンは、關係國の要求があれば協定によつてきめる。ちようど關税について引下げをやると同じように、その輸入品價格マージンについても、外國の要求があれば協定によつてこれをきめなければならぬということが第一。第二に、これによつてきめられた合理的な價格によつて國内の需要を全部充たすだけの数量を輸入しなければいけないということが、制限として加えられております。これによつて、私人間の貿易國家機關による貿易に移すことによつて國内の産業を保護しようという政策を封ずるというような趣旨を入れております。この邉は、特に第二次世界戰後のいわゆる國営の傾向に封する一つの自衛的の手段として挿入している規定であろうと思われるのであります。  さらに次に重要な點は、この貿易機關の非加盟國との間にどういう待遇をとるかということでありまして、この貿易憲章におきましては、關税引下げその他は、全部無條件の最惠國待遇によつて加盟國全部にこれを許すということがきめられておりまして、その限りにおいては加盟國間においては絶對的に平等な待遇が行われるわけでありますが、非加盟國に對しましては、これと反對にむしろ差別待遇をするというような趣旨がきめられておりまして、これは世界の全部の國を参加させるというためであろうと思われますが、これにはいらない國はこの關税引下げその他の利益は一切均霑を許されないということになつております。  さらに次の問題は、この貿易憲章におきましては、あらゆる場合に他の國がとつたいろいろな通商上の政策について異議のある、または不利な影響を受けるという國は、常にその國に對して申入れをした場合には、これに對して協議に應じなければいけない。さらにこの協議が成り立たない場合にはこの貿易機關というものに提訴して、いわばこの貿易機關においてちようど國際紛争國際連合で審理してこれを是正するような措置を、貿易機關として決定するという趣旨が入れてあります。貿易政策につきましては大體その程度であります。  次に制限的商慣行というのは、これは従來アメリカの國内において強く行われてまいりましたところの、カルテルの取引を制限するような行動を鎭壓しようということを目的としております。主としてこれは、國際的に加盟國全部が協同して、國際カルテルというようなものが成立するのを避ける、鎭壓するという目的からきめられておりまして、いわばアメリカの従來の持説でありましたところの獨占の禁止ということを、國際的に義務として確立しようという趣旨からできておるのでありまして、私企業間のいろいろな取引の價格決定とか、あるいは市場の分配というような行動があつた場合には、ただちにこの貿易機關に提訴して、貿易機關が、あるいはまたみずから自發的にこれを鎭壓するためにいろいろな措置をとるということをきめております。  次の第五の政府間の商品取極めというのは、ちようどこの國際カルテルの鎭壓という問題と表裏をなす問題でありまして、一般に國際的な協同によつて價格の釣上げとか、あるいは生産制限ということを禁止するという、第六章の國際的商慣行に對する義務を實行する場合には、特別な商品、たとえば砂糖だとか、従來ありましたゴムだとか、あるいは小麦だとかいうような特殊な農産品、またはすずとかいうような特殊な鉱産品につきましては、従來から世界的に過剰生産があるという場合に、國際的に何らかの方法をとらなければならないというので、政府間に國際砂糖協定とか、小麦協定とかいうような協定ができておりましたがこういう特別な商品については、國際的な協定によつて生産制限、または價格の維持ということをやることが、國内社會政策からしても特に必要である。特に人為をもつて生産制限のできない農産品に對しては、特にやはり國際的な見地からの生産制限、または價格の維持ということが必要であるというので、これについては政府間の商品の取極めによつてこれを實行させる。すなわち私企業間のカルテルによつて行なわせるのでなくて、これは政府がみずから協定して、この國際的な商品の需給調査をやろうということでありまして、この政府間の取極めをなすに際しまして、最も守るべき條件として強調しておりまするところは、これが單なる國際カルテルというものを政府間の形に引直しただけのものに終ることがないように、すなわち特に國際カルテルのような生産者の利益だけを擁護するものではないように、この政府間の取極めには必ず消費國も入れて、あらゆる決定について消費國と生産國とが同じボイスをもつて決定に参加するというような協定でなければいけないということを特に重要な條件として加えております。その他こまかいいろいろな手續をきめておりまするが、主として大きなねらいはそのようでございます。  最後に以上のような政策の實行を確保するための中央機關として、本貿易憲章の最も特長であるところの、常設的な國際貿易機關というものを設置するということにきめられてありました。これが前大戰後に國際連盟の主催のもとに、いろいろ輸出入の禁止制限を撤廃する條約とか、あるいは關税引下の休止案だとか、いろいろ國際的な條約がつくられましたけれども、この條約を實行するところの中央機關が設けられなかつた。そしてこの條約には例外規定がいろいろ入れられまして、この例外規定を實行するのは加盟當事國が勝手に判断してやつたというような點から、多く國際通商を何とか自由にしようというために、一方ならない努力を重ねましたが、この連盟の努力が、このために大體全部無效になつてしまつたというのが前大戰後の状況であります。この點から考えまして、まず國際的な常設機關をつくつて、この貿易憲章の中にいろいろな各國の要求で入れられましたところの例外規定というようなものについても、一切これを發動する場合にはこの國際貿易機關というものの許可を求めさせるということは、今後の國際貿易憲章案というものの一番大きなねらいでありまして、従つてこの貿易憲章のもとにおきましては、すべて問題がこの國際貿易憲章に提起されまして、これの許可を得る。あるいはこれの勧告を求めるというような方法がとられ、一つの國が自由に例外規定を發動して勝手な措置をとることが許されない、のみならずまたほかの國が、一國のとつた措置に對して報復關税とか、あるいは報復的な輸入禁止とかいうような、いわゆる經濟戰というものに訴えるということもこれを抑制しておりまして、そういう被害をこうむつた國は、すべて國際貿易機關に對して提訴をして、この審理を受けた結果、はたしてその通りであるということであるならば、この違反國に對して初めて貿易上のいろいろな制裁判置を加えるというようなことが趣旨とされております。この點が一つの最も重要な特長となつていると存ずるわけであります。  この全體を通觀いたしまして、最も目につくことは、特に國際貿易憲章というものは、人為的な輸入制限手段または不正競争手段というものを排除して、國際貿易に對するところの對策は、大體において關税というものによらしめようというアメリカの従來の主張、考え方というものが、非常に強く出ているということが目につくところでありまして、これはわれわれといたしましても、この貿易憲章に参加する場合に、いろいろな憲章によつて受けるところのわが國の政策につきまして、そういうアメリカのもつているところの一つの大きな主張というものを十分考慮しなければならないということになるのでありまして、われわれとして特に注意を引く點でございます。この國際貿易憲章に對しまして最初からソ連は参加しておりません。これは言うまでもなく、ソ連といたしましては、アメリカのリーダーシツプのもとにできておりますところの國際通貨基金にもはいつておりませんが、國際通貨基金及び國際貿易機構というような、アメリカ世界經濟機構にはいるということは、根本的なソ連の立場として不可能なことと思われますが、特に國際貿易憲章との關係におきましては、ソ連が今日東ヨーロツパ諸國を連ねまして、いわゆる貿易協定なるものをつくつて、大體ソ連とそれらのソ連圏の國との貿易というものは、ソ連が大體獨占するというような政策をとつておりまして、かねがねこれはアメリカのソ連に對する抗議の的となつていたところでありますが、このたび最近のヨーロツパの復興計畫におきましても、マーシヤル・プランによつてむしろ西ヨーロツパの諸國に對しましては包括的な經濟復興計畫を立てて、アメリカが援助しようというような政策に對しまして、ソ連はさらに、東ヨーロツパの國との間におきましては、個々の國との間はやはりバーター協定的なものを結びまして、これによつてソ連との經濟的な結果を固めるという政策に出ておりますが、排他的なバーター協定というものは、まさにこの國際貿易憲章におきましては最も排撃するものでありまして、國際貿易憲章におきましては通貨基金と相並んで、多角的な自由貿易を打立てるというので、ある二國間の排他的な協定というものはむしろこれを排除するというのが根本の構想になつておりまするので、ソ連としてはますますこの貿易機構というものにははいり得ないという立場にあるのでございまして、今後ともソ連の加入ということにまずないものと見て間違いないと存じます。  結局そういたしますると、この國際貿易憲章に對して最も大きな關係をもちますのは、英國及び英連邦の諸國でありまして、これは先ほど申しましたように、この憲章差別待遇の廃止、すなわち特に特惠關税の廃止ということが、これはアメリカの従前からの持論でありまして、この貿易憲章においてもこの點が強く出ておるのであります。従つてイギリスとしてはこの國際貿易憲章に参加するという問題は、英帝國の特惠關税の問題ということが問題となるので、イギリスがこの貿易憲章に對して最大の關心をもつてこの討議に参加しておることはもちろんの次第であります。元來この國際貿易憲章を中心としましては、アメリカイギリスの間に非常に大きな考え方の差異がありまして、アメリカは要するに世界機構というものを最初に打立てる。従つて各國はばらばらになつて、裸になつてこれに参加してもらいたい。その一つ一つの國の間に自由な國際機構の中から自由な貿易をやる。これによつて世界經濟の均衡または安定を求めるというのが、アメリカのこの問題に對する考え方と認められまするが、これに對しまして最も強く反對的な立場に立つておるのが、イギリス及び英連邦の國でありまして、イギリスの考え方から申しますると、もう少し現實的に、世界經濟の安定をはかり、世界機構を通じて安定をはかるということでなしに、まず一國の經濟の均衡をはからなければならない。従つて一國の經濟の均衡をはかるためには、イギリスといたしましては、まず英帝國も特惠というようなものをもとにして、英帝國の均衡をはかつた上で、安定をはかつた上で、國際貿易憲章にはいりたいというのが、イギリスの建前でありまして、この點についてアメリカイギリスとの考え方は根本的に違つておるということが、一方言い得るわけであります。しかしながらこの點につきましては英國は最もデリケートな地位に立つておりまして、イギリス戰争中アメリカの援助によつて戰争を完遂し、さらに戰後經濟復興に對しましては、どうしてもアメリカの援助を求めなければやつていけないというので、一九四五年に三十七億五千萬ドルの借款を求めたのでありまするが、當時この借款のいわゆる代償としてアメリカは英帝國のポンド・ブロツクの開放ということを求めまして、結局イギリスとしてはこれを承認するということになりました。さらにアメリカが當時發表いたしましたところのこの國際貿易憲章に關する提案についても、三十七億五千萬ドルの借款を得る交渉の途中において、この提案を英國はアメリカから提示されまして、これを見た上で原則的にこれに賛成である、すなわち今後これの實現のために英米協同して努力するというような一札をとられております。當時の考え方から申しますと、英國といたしましても、もしアメリカの企圖するような國際經濟機構というものができるならば、もちろんイギリスの立場からしても利益であるが、しかしながらもしそれが若干不安があるとなれば、どうしてもイギリスとしては、英帝國全体の立場というものをなお捨てるわけにはいかないというのが、イギリスの考え方でありまして、昨年から今年に入りまして、ますますイギリス經濟的立場は困難となつてまいりましたので、ますますイギリスといたしましては英帝國の特惠というものを經濟復興の手段として確保したいというような希望は、非常に強くなつてきておるようであります。最近ジユネーブで行なわれておりまする、國際貿易憲章の裏づけとなるところの關税引下交渉におきましても、アメリカは非常に強烈な英帝國特惠關税引下げまたは撤廃の要求を出しておりまして、これに對してイギリスがあまりに強烈であるというので、踏切りがつかないということで、目下交渉は停頓しております。この點がアメリカの英國に對する援助の問題と關連いたしまして英米間の一番の大きな交渉案件として今残されておるのでありまして、この點のきまり方いかんが、今後國際貿易憲章自體の成立にも相當大きな影響を及ぼすものと認められる次第でありまするが、今日の大體の豫想状況を見ますると、アメリカとしても、イギリスに對し、ヨーロツパに對して援助をするということは、おそらく相當な援助をする覚悟はきめておるように見受けられます。イギリスといたしましても、アメリカと手を切つて英帝國というものに立てこもるということは、イギリス經濟の存立上、現在のイギリス經濟としてはとうて許されないところでありますので、ここにある程度の妥協が行われて、國際貿易憲章の成立について、英米間の關係というものは、何らか調整されていくのではないかと豫想されておる次第であります。  さてこの國際貿易憲章と日本の關係でありまするが、今日までアメリカは、この國際貿易憲章の實現に對して非常な努力をいたしまして、イギリスに對して借款と引替にこれに對する支持を求めましたと同様、フランスに對しても昨年の五月の借款を與えました際に、やはり國際貿易憲章というものに對する支持をとりつけております。さらに昨年中國との間に新しい通商航海條約の成立をみたのでありますが、この中にもやはり一條が設けられまして、目下アメリカがつくろうとしてとおることろの國際貿易機構に對しましては、中國政府アメリカ政府両方がこれに参加するという義務を條約に設けております。こういうように、あらゆる機會を取上げて國際貿易憲章に参加するということを各國に慫慂してまいつておりまする關係もありますので、日本といたしましても、この國際貿易憲章に今後参加するという問題は當然起きてくる問題でございます。もちろん平和條約ができた後でなければ正式に参加することは問題とならないのでございますが、當然われわれとしては國際貿易憲章に参加するということを前提として、今日の政策を考えていかなければならないと思つております。  その中で、特に日本として重要な點を、二、三取上げて御参考に供することにいたしますが、第一は關税問題であります。今日日本といたしましては、經濟状態の安定をはかると同時に、日本の關税政策というものも、關税率の決定、あるいは關税政策そのものの決定も検討しなければならない状況にあるのでありますが、これにつきましては國内の産業の關係も十分考慮すると同時に、この國際貿易憲章に参加した場合の要請というものも考慮しなければならないのでありまして、どういう點が最も重要かと申しますると、この國際貿易憲章というものに参加いたしますると、まず關税に關する義務としては、各國との協定によつて關税協定を結んで、關税引下げをしなければならないということがきめられておりまするので、まずわが國といたしましては、従來あまり多くやつておりませんでしたが、これに参加した後に關税協定によつて關税引下げをするということを前提とした關税制度を打立てておくということが必要であります。この國際貿易憲章の豫想するところによりますると、大體加盟國全部との間に關税引下協定ということをいたさなければならないと存ずるのでありますが、そうしますと、わが國といたしましては、割合に短い間に次々と各國との間に具体的な關税引下協定をやつていかなければならないわけでありまして、このためには關税制度の問題ばかりでなく、關税協定をつくる日本の基礎につきましても、たとえばアメリカ互惠通商協定法というような特別な何らかの立法措置を講じて、機動的に自由に、であるだけ日本の貿易を保護するために、能率的に關税協定が行なえるような、立法的措置を考えることが適當ではないかと存ぜられる次第であります。  さらに關税率の決定の方法につきましても、元來この憲章にはいつた後において非常な保護關税を設定するということは、この憲章全體の點からして相當困難な場合が想像されますし、さらに關税引下げた場合に、もしこれによつて損害を受けると思う國があれば、この貿易憲章によつて貿易機關に提訴するというような手續をとられることもあり得るのであります。従つて國産業の保護というような點も、重要な産業について保護關税というようなものもあらかじめ検討した上で、つけておくことが適當であると思うのであります。またその場合に考えられること、はこの貿易憲章、特にアメリカの方で政策の見地からは輸入数量的制限というような政策は、できるだけ排除するというような傾向が強いのであります。結局この貿易憲章によりますると、國内産業を保護しようとすれば、ノーマルな場合を考えれば關税を採用するということが最も順當な場合であり、その他のエマージエンシーな制限という點は自由に實行することが困難であるというような點も考えて日本の關税制度を打立てていかなければならないと思います。  さらに今少し言及いたしましたが、國内産業保護という點に關連いたしまして、この憲章全體を取上げてみますると、先ほど申しました經濟開發また復興のために保護的な措置をとることができるという規定は一應ございますけれども、この規定によつて、かりに産業を保護しようといたしますと、まず事前にこの貿易機關に對して許可を求める必要があるのであります。元來この貿易機關は、ちようど國際連合と同じように、總會または執行理事會というような機關が設けられてありまして、總會におきましても、執行理事會におきましても、すべての決議は多数決をもつて行うことになつておりまするが、ただ貿易の大きさによつて投票の数を加減するというような提案がなされておりまして、もしそういう制度が執行されるとすれば、アメリカイギリス、のような大きな貿易國が圧倒的な投票数をもつということになりますので、この國際貿易機關の許可を得るということは、要するにそういう多数の投票権をもつ國の同意を得るということにひとしい結果になるのであります。従つてもしそういうような決定方法が行われて、アメリカの意思が最もプリペールするような状況でありますると、規定の上におきましては、自由にある程度産業保護ができるようでありまするが、實際上の實行は相當困難となり、また一國が關税引上げまたは輸入制限をやろうとする場合に、國際機構に事前の許可を求めるというような手續をとることは、ただちにこれが外部に漏洩して、實際問題としては手續が非常に困難となるのではないかと思われますので、この貿易憲章規定を厳密に實行する場合には、國内産業の保護という問題は困難に逢着することを覚悟されなければならないのであります。先ほど申しましたように、比較的容易な保護關税によるほかは、相當むずかしい問題が生ずるのであります。保護關税を設定すると同時に、保護關税にかつてはカバーしきれないところの、一國の生産能率の増大ということに結局力を注ぐことが、どうしても必要となると思われるのであります。さらにその場合に、農業の問題につきましては、日本の食糧問題と關連いたしまして、この貿易憲章との關係におきまして、きわめて困難な問題が出てくることが豫想されるのであります。それはおそらくわが國におきましては、今日と同じような食糧管理方法が相當長く續くということが想像されるのでありますが、その食糧管理の場合には、先ほど申し上げました國家貿易という規定が適用される危險がありまして、この規定が適用される場合には、日本の輸入する食糧については、輸入價格輸入の原價とそれに對する一定のマージンを加えた價格でもつて國内に賣らなければならない。そして國内の消費を賄うに必要な数量だけの輸入をしなければならないという二つの要求に應じなければならないので、従來戰争前から行なわれておりましたような、國内の食糧、外國から輸入した安い食糧との間の價格をプールして、國内の配給價格をきめるというような價格操作の方法は、これによつて非常に困難となるということは考えなければならないのであります。また國内の食糧生産者に對して補助金を與えるというようなことも、先ほど申しました内國民待遇の點からして、外國の食料品と國内の食料品との間に、國内の生産者と特に競争力を與えるというような見地から、内國民待遇または補助金規定を適用されて、問題が生ずるという危險もあるのであります。もちろんこの貿易憲章規定全体は、なお非常に抽象的な規定が多いのでありまして、特に重要ないろいろな例外の場合をとつてみましても、現實にどの程度に運用されるかということは、今日なおわれわれとしてはつきりと想像しがたい點もありまして、ちようど英米法と同じような考えをもちまして、この貿易憲章のいろいろな規定は、主として國際貿易機關による實際の運用によつて、いろいろ厳格にもやわらかにも適用されるというようなことになるのではないかと思われますので、今申し上げましたような規定が必ずしも厳格に適用されるかどうかは、今後の國際貿易機關の成立後の運用を見ないとわからないのでありますが、一應厳格に適用されると仮定すると、そういう問題を生ずるわけであります。  さらにそのほか、先ほど申しました補助金の問題にいたしましても、これが單なる輸出補助金でなくて、國内の生産に對する補助あるいは輸送の便宜とかいうような、いろいろ廣い範囲にわたつて補助的手段を禁止するような規定になつておりまするので、これも厳格に規定されるということになりますると、どうしても日本のわれわれとしては國内全體の補助金とか、あるいは價格維持とかいろいろな調整金というようなものについては、十分慎重にやつていかないと、あとから問題になる危險もあるのでありまして、この點にも多少の拘束を受けることになるのでございます。さらにわが國といたしましては今後當分の間貿易及び為替の統制ということは、どうしても續けていかなければならぬと豫想されるのでありまするが、この貿易機關におきましても、この貿易憲章によりますと、日本のように、通貨準備がおそらくないと思いますが非常に少い國は、ある程度通貨準備の蓄積をするために必要な場合は、輸入制限をしてもいいという例外規定がありますので、一應貿易統制をして輸入制限をするということも、この貿易機關において可能であります。また國際通貨基金に参加いたしますれば、為替管理というものも、戰後の過渡期間は一應一九五二年三月一日までが豫定されておりますが、その間は原則として過渡期間と認めて為替制限をしてもいいということになつておりますので、いずれに参加いたしましても、當面の所要は満たすことができると想像されますが、為替管理については一九五二年三月一日以降は、原則として通貨基金によつて禁止され、また貿易の統制におきましては、一應通貨準備の蓄積のためにはこれを許されておるのでありますが、ただわれわれといたしまして、比較的諸般の點からみて、アメリカ政策の範囲内におかれるわが國といたしましては、とかく貿易の量的な統制という問題については、否定的な主張をもつところのアメリカ政策に漸次従つていく、あるいは同調していかなければならぬというような必要が生ずるかもしれないということは、考慮しなければならないと存ずるわけであります。  なお貿易の統制をする場合に、組合の統制方法によるか、すなわち戰前のように輸出入の組合によるか、あるいは交易営團のようなある営團的なものによるかという點は、今後いずれによる場合においても、外國商社と日本商社との間の公平な待遇の問題、または組合によつて調整料というようなものをとる場合には、この憲章によつてこれが輸入補助金または、輸出補助金になり、あるいは外國品との間の差別的な補助金になり、待遇になるというような若干この憲章との間の問題が生じてくる可能性はあると存じますので、この點を考慮して輸入統制の方法を講じなければならぬと思います。  次に日本の現在の貿易におきまして、どうしても日本といたしましては、アメリカの地域から輸入をして、これをイギリスのポンド地域また中國のような、ポンド地域でないまでも非ドル地域に對して輸出するということが、日本の貿易の性格でありますので、現在國際貿易憲章が打立てられようとする多角的な貿易制度というものが、現實に動きますれば、わが日本としては問題はないとのでありますが、現在のような、たとえばポンドからドルへの轉換ができないというような、通貨の自由な轉換が困難な場合においては、わが國といたしましては、どうしてもバーター的な協定をせざるを得ないのであります。この點は國際貿易憲章の大きな方針と反するわけでありますが、この點は日本としてはやむを得ないバーター的な貿易を採用しなければならないこととなると存じますが、ただこの國際貿易憲章におきましても、多角的な貿易を實行するということは、國際通貨基金と一致して、通貨のトランスフアー轉換が自由であるということが前提になるのでありまして、今日のような通過が轉換し得ないということは、すなわちとりもなおさず國際通貨基金の機能も十分發揮してないということであるのでありまして、國際貿易憲章からみれば、こういう前提が充たされない限り、バーター協定もやむを得ないものと認められるわけであります。しかしながら日本といたしましては、バーター貿易を行つていくということは、結局日本全体の貿易からしますれば、貿易の縮小を來たすという點はとうてい免れないのでありまして、またバーター貿易制によつては必ずしも日本の貿易全部が行いきれないでありまして、その點から考えても、むしろ終局的には多角的な貿易政策に移るということが、すなわち國際貿易憲章の考えておるような貿易政策に移るということが、日本としては好ましいのであろうと存じずるわけでございます。  次に勞働條件の問題につきまして、この國際貿易憲章はソシアル・ダンピングを禁止するという點を非常にはつきりと出しておりますが、この點につきましては、今後日本として勞働基準法その他の法的な措置も整つてまいりましたので、問題を生ずるおそれはないと存じますが、ただ元來日本といたしまして、今後十分な完全雇用を維持するということはできない、なかなか困難であるという點からして、とかく勞働條件の維持ということも相當な困難が出てくるのではないかと思われますし、さらにまた世界的な標準からみれば、日本としてはどうしてもチープ・シーバーということを避け得られないのであります。この點はわが國といたしましても、十分外國に向かつてもらわなければならないと同時に、できる限りチープ・シーバーという點が世界的に問題とならないように、勞働法制というようなものの維持については、格段の努力をいたしていかなければならないと思うのであります。  最後に貿易機關参加につきましては、参加資格におきましては全然制限が設けられておりませんので、國際的に平和條約の後におきましては、日本としてはこれに参加するということについて別段の障害はないと存じます。ただこの國際貿易機關は、原則として國際通貨基金というものと同時に加入するということを規定しておりますので、その點において國際通貨基金に加入するためには、一定の金の醵出を要するとか、若干の準備が必要でありますので、この點は多少の困難があるだろうと思いますが、ただ國際貿易憲章におきましては國際通貨基金に加入しない國に對しては、特に國際通貨基金為替管理をしないというような、義務を遵守するというような、特別な取極めをすることによつて加入を許すという方法もありますので、もし貿易上の最惠國待遇を維持することがどうしても必要であるという場合には、まず國際貿易機關に加入するというような方法も考えていかなければならないと思います。さらに今日國際貿易憲章というものと並行して、この裏づけになるところの關税の引下協定が、現に十八國間に行なわれているのでありまして、今年の十一月のハヴァナ會議までにその協定が成立して、これが成立した國の間に最惠國條款でもつて適用されるということが豫想されているのでありますが、これにつきまして日本が平和條約の後にこの國際貿易憲章に参加するという状況になるまでの間のわが國の貿易については、非常にむつかしい問題が生ずるのでありまして、なぜと申しますと、この戰争によりましてわが國は通商航海條約というものは全部失つてしまつておりまして、現在有效であると認められる條約は、わずか中立國として残つております数國との間の二、三の通商航海條約に止まつているのでありまして、従つて今後平和條約以後において通商的な取極めが行われるまでは、無條約國の關係に日本としてはおかれるわけでありまして、せつかくジユネーヴで關税引下協定が行われましても、日本に對してはこれは適用されないことになるのでありまして、こういうような状況のために、當面のいろいろな努力にもかかわらず、日本の當座の貿易が非常に伸びにくいというような、不利な條件が存在するということは考えなければならない次第でありまして、場合によりましたならば、貿易の重要さから考えまして、平和條約に先だちましても、できるだけ早い機會に、實質的に事實上の措置によつて、日本として最惠國待遇を與えてもらうような方法を、講ずることが必要ではないかと思うわけでありまして、またハヴァナにおけるこの國際貿易憲章の本會議におきましても、將來の日本の貿易政策に對する關係もありますので、できればせめて日本としてもオヴザーバーなりともこれに参加を許されることが、きわめて望ましいのではないかと存ずる次第であります。  結局この貿易憲章全体を通じて見まして、日本として従來からとかく輸入制限とか、關税引下げの措置をとられましたところの加工品、殊に綿製品とか、日用雑貨といろいろなものが、主とした日本の重要な輸出品であるところの日本の貿易から見まして、輸入に對する障害をできるだけ低くするというこの貿易憲章の企画は、わが國の貿易に對してもきわめて有利な機會を提供することができると思うのでありまして、この意味で貿易憲章に對しては積極的に参加することが、日本としての終極的な利益であることは間違いないと思うのであります。ただ國際貿易憲章に参加する以上、日本としても同じような自由貿易政策をとらなければならないので、同時に自由貿易あるいは自由競争という以上、いわば競争力の強い産業が勝ち、弱い産業が負けるということになるのでありますので、これに参加していくところの日本の重要な準備としては、やはり日本の經濟を國際經濟に参加し得るような高能率な經濟につくり上げていくことに格段の努力をしなければ、かえつてこれに参加したために日本の産業が非常な痛手をこうむるというような危險があろうかと思いますので、この點はテクニカルな、いろいろな貿易憲章参加の準備の根本として、日本の産業の合理化という問題が進められる必要があるということは、強く痛感される次第であります。  日本としての重要な問題は一應以上の通りでありますのでこれで御報告を止めることにいたしたいと思います。
  4. 加藤シヅエ

    ○加藤委員長代理 これで國際貿易憲章についての御説明を終りました。御質問はございませんか。
  5. 細川隆元

    ○細川(隆)委員 この會議で、移民問題がアルゼンチンから提起されたように聞いておりますが、何か資料をおもちでありましようか。
  6. 永井三樹三

    永井説明員 私どもの今聞いておりますところでは、この會議では移民問題は別に提起されておらないと存じます。何かほかの會議ではございませんでしようか。
  7. 細川隆元

    ○細川(隆)委員 ジユネーブのこの會議だと記憶しておりますが、それじや私の考え違いかも知れません。
  8. 永井三樹三

    永井説明員 ただ、こういう問題は現在提起されております。それは、戰争によつて生み家を離れたところの人たちがたくさんおる。これを今國際連合が主として主宰いたしまして、この人たちをもとへもどすのではなくて、國際的な流民を、經濟的未發達な國へ積極的に入植せしめて、その國の産業の發達に努めようというので、南米あたりを取上げておるというのは別にございますが、この會議では移民問題としては取上げていなかつたように了解しております。
  9. 加藤シヅエ

    ○加藤委員長代理 ほかに御質問ございませんか。  それでは今日はこれで散會いたします。     午後零時二分散會