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永井説明員 國際貿易憲章の草案の
テキストは、私の方で解譯いたしましたものを
委員會の方へお届けしておきましたので、御入手にな
つておられると思いますが、主としてこれから
國際貿易憲章というものが、日本の
通商政策または
貿易政策に對して、どういうような問題を投げかけるものであるかというような點を、特に中心として御報告申し上げたいと思います。
それにはいる前に、すでに皆様御承知かと存じますが、この
憲章案というものの大要についてごく簡單に御報告申しまして本論に入りたいと存じます。御承知の通り、
國際貿易憲章案というものは
アメリカが非常な力を入れ、リーダーシツプをと
つてこの實現に努力しておりまして、この
國際貿易憲章だけを取上げてみても、
アメリカが今追及しておりますところの
世界經濟機構、
世界經濟政策全般をよく把握するということがむつかしいのでありまして、結局
國際通貨基金と
國際復興開發銀行、いずれも
ブレトン・ウツヅでできましたものでありますが、こういう一連の國際的な
經濟機構と關連させてみないといけないのでありまして、その中で
ブレトン・ウツヅでできましたところの
國際通貨基金というものは、主として
貿易の支拂面、すなわち為替の面においてより自由な
世界經濟機構を立てようということをねら
つておりまして、次の
國際復興開發銀行というものは、短期の為替の面でなくて、もう少し長期の
經濟復興やらあるいは
後進國の
經濟を開發するというような
長期投資を容易にする。
貿易の
購買力が積極的な増進をはかるということが根本のねらいとな
つておりまして、
ブレトン・ウツヅにおいてこの二つの
協定ができましたときに、これは一九四三年、すでに
戰争中にできましたが、そのブルトン・ウツヅの會談におきましても、これだけではだめである。できるだけ早く
貿易そのものに對する國際的な行動をしなければ、この
通貨基金及び
國際復興開發銀行の
目的は達せられないというので、特別な決議がなされておりまして、こうした
ブレトン・ウツヅの
協定とは双兒の關係でつくりだされておるのが、
國際貿易憲章と言うことができるのであります。
アメリカがかように
世界的にできるだけ自由な
經濟機構をつくろうとこのたび非常に力を入れていたしておりますことは、第一次の欧州大
戰後の
世界經濟の動向というような點を十分考えた結果でありまして、第一次
世界大戦後におきましては、御承知の通り、
戰争によ
つて變貌した
世界經濟に對する何らの對策をもたなかつた。
従つて各國とも漠然と戰前の状況に歸るというようなことを考えて思い思いな
經濟復興政策をと
つていたために、一九二九年以後の
世界經濟恐慌に直面するや、ただちに各國とも初め意圖しておつたとことと異
つて關税を上げるとか、あるいは
為替管理をするとか、自衛的ないろいろな
通商上の措置をとりまして、それがさらに一國だけの
自衛手段では間に合わないというので、一九三〇年代になりますと、
イギリスの
保護關税の設定、さらに
オツタワ協定によるところの
英帝國經濟ブロツクというものをつくる。さらにこれに對抗して
ヨーロツパにおいてはドイツを中心とする
中央ヨーロツパの
經濟ブロツク、あるいは
フランスの
植民地を一括するところの
フランスの
帝國ブロツクというような、ブロツク的な傾向が強くなり、日本もこういう状態に對應して、結局東亞の
經濟ブロツクという
政策にはいりこんで來たのでありまして、この
世界經濟がブロツク化されたということが、今度の第二次の
世界大戰の多くの原因の
一つであるという認識が、
戰争中から行われまして、特に
アメリカにおいては今度の
戰争後の
世界經濟に對する
アメリカの責任というものが非常に論議されまして、第二次
世界戰争後の
世界經濟機構というものに對して、あらかじめ
一つの構想をも
つていかなければならないということが、すでに
戰争中から非常に活發に論議されておりました。その現れとしてまず出された、すでに
戰争が大
體連合國の勝利に終るという見透しが立つた一九四二年ごろから、まず
國際通貨というような問題が提起され、四十三年には
ブレトン・ウツヅ體系というものが成立いたしました。同時にこの
貿易につきましても、すでに一九四一年の八月に、今度の
戰争の
出發點に際しまして、
大西洋憲章が聲明されましたが、その中におきましても、すでに
戰後の
連合國の
世界經濟に對する考え方として、米英両國はすべての國が
經濟的繁栄のために必要な
世界の
通商及原料の
均等條件における利用を具有することを促進するのだというような意向を、特に第四項としてうた
つておるのでありまして、こういう方針によ
つて貿易通商機構というものを打立てていくというような思想を、すでに
戰争にはいる途端から
アメリカで表明されておるのであります。その後いろいろな學者あるいは
研究團體の間で、
戰後の
貿易問題に對するいろいろな試案がつくり出されましたが、結局それが綜合されて
國務省から發表されたのが一九四五年の、
ちようど戰争が終りました年の十一月に、
世界貿易及び
雇用に關するところの
會議を開催する
目的をも
つてする
提案、今日ここに
國際連合、
國際貿易機關憲章というものとして結實したところの、第一の
提案が發表されておるのであります。されにそれが翌年すなわち昨年の四月にこの
會議をいよいよ
國際連合が主催して開催するということがきまりました。昨年の九月にこの
國際會議の
豫備會議に對するところの
提案として、
アメリカから再び一昨年の
提案を整理いたしました
國際貿易憲章試案というものが發表されました。その
會議におきまして發表されましたその試案をもとにいたしまして、昨年の十月から十一月にかけてロンドンに第一回の
豫備會議が開かれたのであります。この
會議には、
アメリカ、
イギリス、カナダ、オーストラリヤ、ニージーランド、
南阿連邦、
印度中國、
フランス、チエツコ、ベルギー、オランダ、
ブラジル、
キユバー、ノルウエー、チリー、レバノン、ルクセンブルグこの十八箇國が参加いたしまして、
アメリカの發表したところの試案を一應討議しまして、大體試案の内容の八割五分に相當する部分を議決いたしました。さらに本年四月から八月末まで、ジユネーヴにおきまして第二回の
豫備會議が同じ十八箇國によ
つて開催されました。結局この八月の終りになりまして、
國際貿易憲章案というものが全部議決をみました。本年の十一月二十二日からいよいよ
國際連合加盟國全部並びに非
加盟國であ
つても、
貿易に關する非
加盟國を招待して、
世界貿易雇用會議というものを開くということに、
國際連合經濟社會理事會で決定をしているのでありまして、今の豫定でいきますと、この
貿易憲章がこの十一月の本
會議によ
つて採択され、いよいよ本式に
國際條約は成立するという段階に立至
つておるのであります。このお手許にお配りしてあります
國際貿易憲章豫備草案というのは、私どもの入手いたしましたところのものは、
ジユネーブ會議のときに討議されるところの
テキストでありまして、
ジユネーブにおいて最終的に討議された
テキストではございませんが、これはようやく八月二十一日に議決されたばかりでありますので、われわれの手許にまでははい
つておりません、
目下至急に取寄せるように努力しております。最終の案のきまりましたものを
アメリカの新聞によ
つて見ますと、若干配列または編纂の方法に差異があるのでありますが、大體の大きなラインは、今まで私どもが研究しております
豫備草案と大きな變更はないように見受けられるのであります。そこで一應この
豫備草案の大體の輪廓をもとにして、日本との問題について、私どもの研究しました結果を御報告申し上げることにしたいと思います。
先ほど申しました通り、この
國際貿易憲章案は、
ブレトン・ウツヅの
通貨基金または
復興開發銀行というものと並んで、
戰後の
世界經濟を律するという
アメリカの大きな構想のもとにつくられているのでありまして、この
貿易憲章案が直接
貿易政策の部面に對して、
アメリカの考えている
自由通商制度を打立てるということを企圖しておるのでありまして、この根本は、第二次
世界大戰前にみられましたような、いろいろな
貿易に對する障害、
ブロツク經濟というようなものを打破して、できる限り
貿易を自由にするということから出ておりまして、その構成をみますと、まず
政策的な部面におきましては、
雇用、
エンプロイメントという問題を取上げて、次に
經濟開發という問題を取上げ、第三に
一般的通商政策という問題、第四に
制限的商慣行、これは
國際カルテルなどによるところの
國際貿易に對する
制限を論じておるのであります。これは特殊な
生産物に對する國際的な取極めというものの準則を定めるという、五つの大きな項目を取上げ、最後に各部面においてこの
憲章で定めているところの
政策の實行を監督し、または責任をも
つてこの實行をはかるために、
國際貿易機關という常設的な
機關の構成を定めておるのであります。お手もとにお配りしてある
テキストの第八章に、
機關として定められております。重要な各章の
規定を大ざつぱに申し述べてみますと、
雇用、
エンプロイメントの點は、これはもちろん
國際貿易憲章が、
雇用を促進するということを
目的としておるのでありませんで、
國際貿易が、
世界各國の
雇用の維持と非常に密接な關係があるという點から出發いたしまして、特に
國際貿易によ
つて各國の
雇用が増進されること、それと反對に各國の
雇用を國内において維持しようという
産業が、他の國の
雇用を妨害してはいけない。特に俗な言葉で言いますと、失業を輸出してはいけないということから、この
雇用の章が設けられておるのであります。特にわれわれとして重要な點は、
世界貿易において他國の
雇用を阻害するような
政策をと
つていけない。特にこの問題に關連して
輸出貿易においては、公正な
勞働標準、
勞働條件を維持しなければいけない。さらに言い換えれば、
戰前日本の
貿易に對して言われましたような、ソシアル、
ダンピングは禁止するというような
規定が第六章におかれております。そのほかに
貿易上のいろいろな
制限を撤廃するということを、
一般通商政策の條項できめております。いろいろな
政策を實行するにあた
つて、各國が自分の國の
雇用に非常に重要な危害をこうむるような場合、たとえば
世界の不況が起るというような場合には、行動の自由をもたなければいけないというような
規定が設けられておりますが、これらの
雇用の點は、主として後に述べますような見地から、
イギリスを中心とする
英連邦グループの主張から設けられた點でありまして、いわば一種のエスケープ・クローズに近い意味をも
つておるのごでざいます。
次に
經濟開發というのは、主として
ブラジル、インドというような、
戰争中に急速な
産業の發達を來した國、または
戰争のために非常な戰災をこうむつた
ヨーロツパ諸國というような特殊な立場にある國から、
アメリカの最初の
提案である
貿易に對する障害を打破しなければならぬという
政策に對しまして、こういう國においては若い幼稚な
産業を維持するとか、あるいは
産業の復興をはかるために特別な必要があるので、そういう點を認めてもらいたいという要求がありまして、そういう見地から
經濟開發という
一つの章が設けられております。これはごくかいつまんで申しますと、
經濟的に進んでおる國は、
後進國の開發のために、資本、資材、または
熟練技術というようなものを供給するにおいて、非常に好意的に努力するということと、またこれを受入れる國においては、
先進國のそういう資本、資材などを供給する國、またはその
供給者に對して、あまりひどい扱いをしないようにというような、一種の紳士
協定的な點をきめ、さらに最も重要な點であります
後進國、または戰災國において、特に親しい
産業を興したり、維持したりするために、必要な場合には、この
憲章の
規定に反するような
産業保護の方法をと
つてもよろしいということを認めております。但しそういう
産業保護の
政策をとる場合には、
關係國またはこの
貿易機關から許可を求めるという
手續がついておりますが、一應
産業を保護してよろしいというような
規定が設けられております。
次に第三番目の第五章にある
一般通商政策、これは實はこの
貿易憲章の核心でありまして、
アメリカの最も力を入れて進んでおるところでありますが、ここにおいてこれがいわゆる一般の
通商障害、
貿易に對する障壁といわれるものを全部總括して問題にしております。まずその
一つは
關税でありますが、
關税に關しましては、この
憲章におきましては、
高率關税を
互惠協定によ
つて引下げる、
ちようどアメリカが、一九三四年以來、
ハル國務長官のプログラムによりまして、
互惠通商を實行しておりますが、これを
憲章の方針として取入れておりまして、各國とも
相手國の要求があれば、
關税を
引下げるために常に
協定をする。これによ
つて關税引下協定を結ぶということが義務として
規定されております。但し
關税につきましては、
關税そのものをもちろん排除するものではなく、
高率關税の
協定による引下を
規定しております。ただ
關税の中でも
特惠關税に對しては、最も力を入れてこれを排除しようという方針を示しております。但し
アメリカの最初の
提案を見ますると、原則として
特惠關税は排除するという
提案でありましたが、御承知のように、特に
イギリスなどの意見が組みこまれて、一挙に排除するのでなく、
國際貿易憲章といては、
協定によ
つて特惠關税をだんだん減らしつつ、終局的にはこれを
國際貿易から追拂
つてしまうというような、漸進的にこれを排除するというような方針をと
つております。
次に最も重要な問題であるところの
輸入の禁止または
制限、
数量的制限とでも申しまするか、これにつきましては、非常に厳粛な
規定を設けまして、原則として
輸入の
数量的制限はこれを禁止するという原則を定めております。ただ例外として、特に
戰後の特別な状況にある
制限、たとえば
食糧不足であるがために食糧に對して割當をするとか、あるいは特に
戰争中に發達さした
人造ゴムとか、そういつたような特別に、
戰争中に、戰時の必要のためにつくり出した
産業の
生産の
臨時的制限は認める、そのほかには原則として
輸入制限あるいは
輸出制限、割當というような
制限は認めないという趣旨であります。ただその場合に
一つ重要な例外を設けております。
輸入制限をなし得る場合は、一國の
國際収支が根本的に、基本的に不均衡にな
つてきて、どうしても
通貨準備を維持することができないというような場合には、
國際収支を保護するために、特別な
手續を經て
輸入制限をしてもよろしい。その特別な
手續というのは、この
貿易機關と協議をするというような
手續でありますが、特に
國際収支の不均衡、これは暫定的な一時的な不均衡でなくて、基本的な不均衡のある場合には
輸入制限を許す。その場合は具体的にどういう場合かと申しますと、
國際収支が不均衡なために、
通貨準備が非常な危險な状態にまで減少していく、あるいは
通貨準備をも
つていない國、たとえば今後の日本のような國が、ちようど合理的な
通貨準備をつくるための蓄積をするというような
目的のためには、
輸入制限をしてよろしいということにな
つておりますが、いずれにしろ、この
輸入制限というものには原則的な禁止を定めております。
次に重要なものは
補助金でございますが、
輸出補助金に對してもこれまた競争上不公正な
競争力を與えるという見地から、これも
輸出補助金は禁止する。かけてはいけない。のみならず、このわれわれのも
つております
テキストの
規定をみますと、
輸出補助金のみならず、一般に國内の
産業の
補助をする、たとえば配當の
補助だとか、あるいは
價格の
補助、あるいは運賃の
補助だとか、その他
機械設備の貸與というような、廣い意味の國内の
産業に對する
補助を與える場合には、一應これが輸出にたいしてその國の輸出をエンカレツジし、また同様な産物の
輸入を
制限するというような影響をもつようなものであれば、必ずこの
國際貿易機關に通報しなければならないというような附随的な義務がありまして、さらにそういう
補助政策に對して異議のある國に對しては、異議にこたえて協議しなければいけないというような
手續規定も決められております。
さらに次の重要な問題は、内
國品待遇ということがきめられておりまして、一旦
輸入された物品に對しては、國内においては國内の物品と同一の内
國品待遇をしなければならない。のみならず、これをさらに擴張いたしまして、たとえば
國産品と
外國品との間に
混合率をきめる。たとえばパンについて、
外國の小麦と國内の小麦とを何割にしなければならないというような、そういう制度をつく
つて、これによ
つて間接に國内の
産業が保護されるというような場合には、内
國品待遇に對する違反であるというので禁止しようというような
規定が採用されております。その他
ダンピングだとか、あるいはいろいろなメイド・イン・ジャパンというようなもののつけ方、原産地の
表示方法、その他の税關の
手續につきましても、これをできるだけ簡單にする、そして
貿易に對して
制限的な影響をもたないようにするというようなこまかい
規定を設け、さらに
貿易統計、あるいは
輸入關税率の品目、あるいは
關税率表だとか、あるいは
貿易上のドキユメントというようなものを、國際的にこれを統一するというようなことを
國際貿易機關において實行する。そこで
國際貿易機關においてこれを採用した場合には、各國とも
参加國はこれを實行しなければいけないというようなことも考えております。
さらに次にこの
國際貿易憲章で
一つの特徴と見られますものは、従來の
貿易に關する條約その他においては問題にされておらなかつたところの、
國家の
機關による
貿易について厳重なる
制限を加えておりまして、これは今度の
戰争前後から、多くの國において直接
國家機關が
貿易をやるというような傾向がありますので、こういう制度によ
つて貿易が
制限を受けるということがないように厳重な
規定を設けておりますが、これがステート・トレイデイングとして
國家貿易という節にまとめられております。その
制限とは、これは後で問題になりますので詳しく申しますと、まずここにいう
國家貿易というのは、專賣その他公團、あるいは
國家が特権を與えて
貿易をさせるというような、あらゆるものに適用があるわけでありますが、こういう
國家機關が
貿易をやる場合には、
輸入品を
輸入した原價に對して一定の
マージンを加えた
價格で賣らなければいけない。すなわち自由に
國内販賣價格を高くすることは許されない。特にその
マージンは、
關係國の要求があれば
協定によ
つてきめる。
ちようど關税について
引下げをやると同じように、その
輸入品の
價格の
マージンについても、
外國の要求があれば
協定によ
つてこれをきめなければならぬということが第一。第二に、これによ
つてきめられた合理的な
價格によ
つて國内の需要を全部充たすだけの数量を
輸入しなければいけないということが、
制限として加えられております。これによ
つて、私人間の
貿易を
國家の
機關による
貿易に移すことによ
つて國内の
産業を保護しようという
政策を封ずるというような趣旨を入れております。この邉は、特に第二次
世界大
戰後のいわゆる
國営の傾向に封する
一つの自衛的の手段として挿入している
規定であろうと思われるのであります。
さらに次に重要な點は、この
貿易機關の非
加盟國との間にどういう待遇をとるかということでありまして、この
貿易憲章におきましては、
關税の
引下げその他は、全部無條件の最
惠國待遇によ
つて加盟國全部にこれを許すということがきめられておりまして、その限りにおいては
加盟國間においては
絶對的に平等な待遇が行われるわけでありますが、非
加盟國に對しましては、これと反對にむしろ
差別待遇をするというような趣旨がきめられておりまして、これは
世界の全部の國を参加させるというためであろうと思われますが、これにはいらない國はこの
關税引下げその他の利益は一切均霑を許されないということにな
つております。
さらに次の問題は、この
貿易憲章におきましては、あらゆる場合に他の國がとつたいろいろな
通商上の
政策について異議のある、または不利な影響を受けるという國は、常にその國に對して申入れをした場合には、これに對して協議に應じなければいけない。さらにこの協議が成り立たない場合にはこの
貿易機關というものに提訴して、いわばこの
貿易機關において
ちようど國際紛争を
國際連合で審理してこれを是正するような措置を、
貿易機關として決定するという趣旨が入れてあります。
貿易政策につきましては大體その程度であります。
次に
制限的商慣行というのは、これは
従來アメリカの國内において強く行われてまいりましたところの、
カルテルの取引を
制限するような行動を鎭壓しようということを
目的としております。主としてこれは、國際的に
加盟國全部が協同して、
國際カルテルというようなものが成立するのを避ける、鎭壓するという
目的からきめられておりまして、いわば
アメリカの従來の持説でありましたところの獨占の禁止ということを、國際的に義務として確立しようという趣旨からできておるのでありまして、
私企業間のいろいろな取引の
價格決定とか、あるいは市場の分配というような行動があつた場合には、ただちにこの
貿易機關に提訴して、
貿易機關が、あるいはまたみずから自發的にこれを鎭壓するためにいろいろな措置をとるということをきめております。
次の第五の
政府間の商品取極めというのは、ちようどこの
國際カルテルの鎭壓という問題と表裏をなす問題でありまして、一般に國際的な協同によ
つて價格の釣上げとか、あるいは
生産の
制限ということを禁止するという、第六章の
國際的商慣行に對する義務を實行する場合には、特別な商品、たとえば砂糖だとか、従來ありましたゴムだとか、あるいは小麦だとかいうような特殊な
農産品、またはすずとかいうような特殊な
鉱産品につきましては、従來から
世界的に
過剰生産があるという場合に、國際的に何らかの方法をとらなければならないというので、
政府間に
國際砂糖協定とか、
小麦協定とかいうような
協定ができておりましたがこういう特別な商品については、國際的な
協定によ
つて生産の
制限、または
價格の維持ということをやることが、
國内社會政策からしても特に必要である。特に人為をも
つては
生産の
制限のできない
農産品に對しては、特にやはり國際的な見地からの
生産の
制限、または
價格の維持ということが必要であるというので、これについては
政府間の商品の取極めによ
つてこれを實行させる。すなわち
私企業間の
カルテルによ
つて行なわせるのでなくて、これは
政府がみずから
協定して、この國際的な商品の
需給調査をやろうということでありまして、この
政府間の取極めをなすに際しまして、最も守るべき條件として強調しておりまするところは、これが單なる
國際カルテルというものを
政府間の形に引直しただけのものに終ることがないように、すなわち特に
國際カルテルのような
生産者の利益だけを擁護するものではないように、この
政府間の取極めには必ず消費國も入れて、あらゆる決定について消費國と
生産國とが同じボイスをも
つて決定に参加するというような
協定でなければいけないということを特に重要な條件として加えております。その他こまかいいろいろな
手續をきめておりまするが、主として大きなねらいはそのようでございます。
最後に以上のような
政策の實行を確保するための中央
機關として、本
貿易憲章の最も特長であるところの、常設的な
國際貿易機關というものを設置するということにきめられてありました。これが前大
戰後に國際連盟の主催のもとに、いろいろ輸出入の禁止
制限を撤廃する條約とか、あるいは
關税引下の休止案だとか、いろいろ國際的な條約がつくられましたけれども、この條約を實行するところの中央
機關が設けられなかつた。そしてこの條約には例外
規定がいろいろ入れられまして、この例外
規定を實行するのは加盟當事國が勝手に判断してやつたというような點から、多く國際
通商を何とか自由にしようというために、一方ならない努力を重ねましたが、この連盟の努力が、このために大體全部無效にな
つてしまつたというのが前大
戰後の状況であります。この點から考えまして、まず國際的な常設
機關をつく
つて、この
貿易憲章の中にいろいろな各國の要求で入れられましたところの例外
規定というようなものについても、一切これを發動する場合にはこの
國際貿易機關というものの許可を求めさせるということは、今後の
國際貿易憲章案というものの一番大きなねらいでありまして、
従つてこの
貿易憲章のもとにおきましては、すべて問題がこの
國際貿易憲章に提起されまして、これの許可を得る。あるいはこれの勧告を求めるというような方法がとられ、
一つの國が自由に例外
規定を發動して勝手な措置をとることが許されない、のみならずまたほかの國が、一國のとつた措置に對して報復
關税とか、あるいは報復的な
輸入禁止とかいうような、いわゆる
經濟戰というものに訴えるということもこれを抑制しておりまして、そういう被害をこうむつた國は、すべて
國際貿易機關に對して提訴をして、この審理を受けた結果、はたしてその通りであるということであるならば、この違反國に對して初めて
貿易上のいろいろな制裁判置を加えるというようなことが趣旨とされております。この點が
一つの最も重要な特長とな
つていると存ずるわけであります。
この全體を通觀いたしまして、最も目につくことは、特に
國際貿易憲章というものは、人為的な
輸入制限手段または不正競争手段というものを排除して、
國際貿易に對するところの對策は、大體において
關税というものによらしめようという
アメリカの従來の主張、考え方というものが、非常に強く出ているということが目につくところでありまして、これはわれわれといたしましても、この
貿易憲章に参加する場合に、いろいろな
憲章によ
つて受けるところのわが國の
政策につきまして、そういう
アメリカのも
つているところの
一つの大きな主張というものを十分考慮しなければならないということになるのでありまして、われわれとして特に注意を引く點でございます。この
國際貿易憲章に對しまして最初からソ連は参加しておりません。これは言うまでもなく、ソ連といたしましては、
アメリカのリーダーシツプのもとにできておりますところの
國際通貨基金にもはい
つておりませんが、
國際通貨基金及び
國際貿易機構というような、
アメリカの
世界經濟機構にはいるということは、根本的なソ連の立場として不可能なことと思われますが、特に
國際貿易憲章との關係におきましては、ソ連が今日東
ヨーロツパ諸國を連ねまして、いわゆる
貿易協定なるものをつく
つて、大體ソ連とそれらのソ連圏の國との
貿易というものは、ソ連が大體獨占するというような
政策をと
つておりまして、かねがねこれは
アメリカのソ連に對する抗議の的とな
つていたところでありますが、このたび最近の
ヨーロツパの復興計畫におきましても、マーシヤル・プランによ
つてむしろ西
ヨーロツパの諸國に對しましては包括的な
經濟復興計畫を立てて、
アメリカが援助しようというような
政策に對しまして、ソ連はさらに、東
ヨーロツパの國との間におきましては、個々の國との間はやはりバーター
協定的なものを結びまして、これによ
つてソ連との
經濟的な結果を固めるという
政策に出ておりますが、排他的なバーター
協定というものは、まさにこの
國際貿易憲章におきましては最も排撃するものでありまして、
國際貿易憲章におきましては
通貨基金と相並んで、多角的な自由
貿易を打立てるというので、ある二國間の排他的な
協定というものはむしろこれを排除するというのが根本の構想にな
つておりまするので、ソ連としてはますますこの
貿易機構というものにははいり得ないという立場にあるのでございまして、今後ともソ連の加入ということにまずないものと見て間違いないと存じます。
結局そういたしますると、この
國際貿易憲章に對して最も大きな關係をもちますのは、英國及び英連邦の諸國でありまして、これは先ほど申しましたように、この
憲章が
差別待遇の廃止、すなわち特に
特惠關税の廃止ということが、これは
アメリカの従前からの持論でありまして、この
貿易憲章においてもこの點が強く出ておるのであります。
従つてイギリスとしてはこの
國際貿易憲章に参加するという問題は、英帝國の
特惠關税の問題ということが問題となるので、
イギリスがこの
貿易憲章に對して最大の關心をも
つてこの討議に参加しておることはもちろんの次第であります。元來この
國際貿易憲章を中心としましては、
アメリカと
イギリスの間に非常に大きな考え方の差異がありまして、
アメリカは要するに
世界機構というものを最初に打立てる。
従つて各國はばらばらにな
つて、裸にな
つてこれに参加してもらいたい。その
一つ一つの國の間に自由な國際機構の中から自由な
貿易をやる。これによ
つて世界經濟の均衡または安定を求めるというのが、
アメリカのこの問題に對する考え方と認められまするが、これに對しまして最も強く反對的な立場に立
つておるのが、
イギリス及び英連邦の國でありまして、
イギリスの考え方から申しますると、もう少し現實的に、
世界經濟の安定をはかり、
世界機構を通じて安定をはかるということでなしに、まず一國の
經濟の均衡をはからなければならない。
従つて一國の
經濟の均衡をはかるためには、
イギリスといたしましては、まず英帝國も特惠というようなものをもとにして、英帝國の均衡をはかつた上で、安定をはかつた上で、
國際貿易憲章にはいりたいというのが、
イギリスの建前でありまして、この點について
アメリカと
イギリスとの考え方は根本的に違
つておるということが、一方言い得るわけであります。しかしながらこの點につきましては英國は最もデリケートな地位に立
つておりまして、
イギリスは
戰争中アメリカの援助によ
つて戰争を完遂し、さらに
戰後の
經濟復興に對しましては、どうしても
アメリカの援助を求めなければや
つていけないというので、一九四五年に三十七億五千萬ドルの借款を求めたのでありまするが、當時この借款のいわゆる代償として
アメリカは英帝國のポンド・ブロツクの開放ということを求めまして、結局
イギリスとしてはこれを承認するということになりました。さらに
アメリカが當時發表いたしましたところのこの
國際貿易憲章に關する
提案についても、三十七億五千萬ドルの借款を得る交渉の途中において、この
提案を英國は
アメリカから提示されまして、これを見た上で原則的にこれに賛成である、すなわち今後これの實現のために英米協同して努力するというような一札をとられております。當時の考え方から申しますと、英國といたしましても、もし
アメリカの企圖するような國際
經濟機構というものができるならば、もちろん
イギリスの立場からしても利益であるが、しかしながらもしそれが若干不安があるとなれば、どうしても
イギリスとしては、英帝國全体の立場というものをなお捨てるわけにはいかないというのが、
イギリスの考え方でありまして、昨年から今年に入りまして、ますます
イギリスの
經濟的立場は困難とな
つてまいりましたので、ますます
イギリスといたしましては英帝國の特惠というものを
經濟復興の手段として確保したいというような希望は、非常に強くな
つてきておるようであります。最近
ジユネーブで行なわれておりまする、
國際貿易憲章の裏づけとなるところの
關税引下交渉におきましても、
アメリカは非常に強烈な英帝國
特惠關税の
引下げまたは撤廃の要求を出しておりまして、これに對して
イギリスがあまりに強烈であるというので、踏切りがつかないということで、目下交渉は停頓しております。この點が
アメリカの英國に對する援助の問題と關連いたしまして英米間の一番の大きな交渉案件として今残されておるのでありまして、この點のきまり方いかんが、今後
國際貿易憲章自體の成立にも相當大きな影響を及ぼすものと認められる次第でありまするが、今日の大體の豫想状況を見ますると、
アメリカとしても、
イギリスに對し、
ヨーロツパに對して援助をするということは、おそらく相當な援助をする覚悟はきめておるように見受けられます。
イギリスといたしましても、
アメリカと手を切
つて英帝國というものに立てこもるということは、
イギリス經濟の存立上、現在の
イギリス經濟としてはとうて許されないところでありますので、ここにある程度の妥協が行われて、
國際貿易憲章の成立について、英米間の關係というものは、何らか調整されていくのではないかと豫想されておる次第であります。
さてこの
國際貿易憲章と日本の關係でありまするが、今日まで
アメリカは、この
國際貿易憲章の實現に對して非常な努力をいたしまして、
イギリスに對して借款と引替にこれに對する支持を求めましたと同様、
フランスに對しても昨年の五月の借款を與えました際に、やはり
國際貿易憲章というものに對する支持をとりつけております。さらに昨年中國との間に新しい
通商航海條約の成立をみたのでありますが、この中にもやはり一條が設けられまして、目下
アメリカがつくろうとしてとおることろの
國際貿易機構に對しましては、中國
政府、
アメリカ政府両方がこれに参加するという義務を條約に設けております。こういうように、あらゆる機會を取上げて
國際貿易憲章に参加するということを各國に慫慂してまい
つておりまする關係もありますので、日本といたしましても、この
國際貿易憲章に今後参加するという問題は當然起きてくる問題でございます。もちろん平和條約ができた後でなければ正式に参加することは問題とならないのでございますが、當然われわれとしては
國際貿易憲章に参加するということを前提として、今日の
政策を考えていかなければならないと思
つております。
その中で、特に日本として重要な點を、二、三取上げて御参考に供することにいたしますが、第一は
關税問題であります。今日日本といたしましては、
經濟状態の安定をはかると同時に、日本の
關税政策というものも、
關税率の決定、あるいは
關税政策そのものの決定も検討しなければならない状況にあるのでありますが、これにつきましては國内の
産業の關係も十分考慮すると同時に、この
國際貿易憲章に参加した場合の要請というものも考慮しなければならないのでありまして、どういう點が最も重要かと申しますると、この
國際貿易憲章というものに参加いたしますると、まず
關税に關する義務としては、各國との
協定によ
つて關税協定を結んで、
關税の
引下げをしなければならないということがきめられておりまするので、まずわが國といたしましては、従來あまり多くや
つておりませんでしたが、これに参加した後に
關税協定によ
つて關税引下げをするということを前提とした
關税制度を打立てておくということが必要であります。この
國際貿易憲章の豫想するところによりますると、大體
加盟國全部との間に
關税引下
協定ということをいたさなければならないと存ずるのでありますが、そうしますと、わが國といたしましては、割合に短い間に次々と各國との間に具体的な
關税引下
協定をや
つていかなければならないわけでありまして、このためには
關税制度の問題ばかりでなく、
關税協定をつくる日本の基礎につきましても、たとえば
アメリカの
互惠通商協定法というような特別な何らかの立法措置を講じて、機動的に自由に、であるだけ日本の
貿易を保護するために、能率的に
關税協定が行なえるような、立法的措置を考えることが適當ではないかと存ぜられる次第であります。
さらに
關税率の決定の方法につきましても、元來この
憲章にはいつた後において非常な
保護關税を設定するということは、この
憲章全體の點からして相當困難な場合が想像されますし、さらに
關税を
引下げた場合に、もしこれによ
つて損害を受けると思う國があれば、この
貿易憲章によ
つて、
貿易機關に提訴するというような
手續をとられることもあり得るのであります。従
つて國内
産業の保護というような點も、重要な
産業について
保護關税というようなものもあらかじめ検討した上で、つけておくことが適當であると思うのであります。またその場合に考えられること、はこの
貿易憲章、特に
アメリカの方で
政策の見地からは
輸入の
数量的制限というような
政策は、できるだけ排除するというような傾向が強いのであります。結局この
貿易憲章によりますると、國内
産業を保護しようとすれば、ノーマルな場合を考えれば
關税を採用するということが最も順當な場合であり、その他のエマージエンシーな
制限という點は自由に實行することが困難であるというような點も考えて日本の
關税制度を打立てていかなければならないと思います。
さらに今少し言及いたしましたが、國内
産業保護という點に關連いたしまして、この
憲章全體を取上げてみますると、先ほど申しました
經濟開發また復興のために保護的な措置をとることができるという
規定は一應ございますけれども、この
規定によ
つて、かりに
産業を保護しようといたしますと、まず事前にこの
貿易機關に對して許可を求める必要があるのであります。元來この
貿易機關は、ちようど
國際連合と同じように、總會または執行理事會というような
機關が設けられてありまして、總會におきましても、執行理事會におきましても、すべての決議は多数決をも
つて行うことにな
つておりまするが、ただ
貿易の大きさによ
つて投票の数を加減するというような
提案がなされておりまして、もしそういう制度が執行されるとすれば、
アメリカ、
イギリス、のような大きな
貿易國が圧倒的な投票数をもつということになりますので、この
國際貿易機關の許可を得るということは、要するにそういう多数の投票権をもつ國の同意を得るということにひとしい結果になるのであります。
従つてもしそういうような決定方法が行われて、
アメリカの意思が最もプリペールするような状況でありますると、
規定の上におきましては、自由にある程度
産業保護ができるようでありまするが、實際上の實行は相當困難となり、また一國が
關税引上げまたは
輸入制限をやろうとする場合に、國際機構に事前の許可を求めるというような
手續をとることは、ただちにこれが外部に漏洩して、實際問題としては
手續が非常に困難となるのではないかと思われますので、この
貿易憲章の
規定を厳密に實行する場合には、國内
産業の保護という問題は困難に逢着することを覚悟されなければならないのであります。先ほど申しましたように、比較的容易な
保護關税によるほかは、相當むずかしい問題が生ずるのであります。
保護關税を設定すると同時に、
保護關税にか
つてはカバーしきれないところの、一國の
生産能率の増大ということに結局力を注ぐことが、どうしても必要となると思われるのであります。さらにその場合に、農業の問題につきましては、日本の食糧問題と關連いたしまして、この
貿易憲章との關係におきまして、きわめて困難な問題が出てくることが豫想されるのであります。それはおそらくわが國におきましては、今日と同じような食糧管理方法が相當長く續くということが想像されるのでありますが、その食糧管理の場合には、先ほど申し上げました
國家貿易という
規定が適用される危險がありまして、この
規定が適用される場合には、日本の
輸入する食糧については、
輸入價格—
輸入の原價とそれに對する一定の
マージンを加えた
價格でも
つて國内に賣らなければならない。そして國内の消費を賄うに必要な数量だけの
輸入をしなければならないという二つの要求に應じなければならないので、従來
戰争前から行なわれておりましたような、國内の食糧、
外國から
輸入した安い食糧との間の
價格をプールして、國内の配給
價格をきめるというような
價格操作の方法は、これによ
つて非常に困難となるということは考えなければならないのであります。また國内の食糧
生産者に對して
補助金を與えるというようなことも、先ほど申しました内國民待遇の點からして、
外國の食料品と國内の食料品との間に、國内の
生産者と特に
競争力を與えるというような見地から、内國民待遇または
補助金の
規定を適用されて、問題が生ずるという危險もあるのであります。もちろんこの
貿易憲章の
規定全体は、なお非常に抽象的な
規定が多いのでありまして、特に重要ないろいろな例外の場合をと
つてみましても、現實にどの程度に運用されるかということは、今日なおわれわれとしてはつきりと想像しがたい點もありまして、ちようど英米法と同じような考えをもちまして、この
貿易憲章のいろいろな
規定は、主として
國際貿易機關による實際の運用によ
つて、いろいろ厳格にもやわらかにも適用されるというようなことになるのではないかと思われますので、今申し上げましたような
規定が必ずしも厳格に適用されるかどうかは、今後の
國際貿易機關の成立後の運用を見ないとわからないのでありますが、一應厳格に適用されると仮定すると、そういう問題を生ずるわけであります。
さらにそのほか、先ほど申しました
補助金の問題にいたしましても、これが單なる
輸出補助金でなくて、國内の
生産に對する
補助あるいは輸送の便宜とかいうような、いろいろ廣い範囲にわた
つて補助的手段を禁止するような
規定にな
つておりまするので、これも厳格に
規定されるということになりますると、どうしても日本のわれわれとしては國内全體の
補助金とか、あるいは
價格維持とかいろいろな調整金というようなものについては、十分慎重にや
つていかないと、あとから問題になる危險もあるのでありまして、この點にも多少の拘束を受けることになるのでございます。さらにわが國といたしましては今後當分の間
貿易及び為替の統制ということは、どうしても續けていかなければならぬと豫想されるのでありまするが、この
貿易機關におきましても、この
貿易憲章によりますと、日本のように、
通貨準備がおそらくないと思いますが非常に少い國は、ある程度
通貨準備の蓄積をするために必要な場合は、
輸入制限をしてもいいという例外
規定がありますので、一應
貿易統制をして
輸入制限をするということも、この
貿易機關において可能であります。また
國際通貨基金に参加いたしますれば、
為替管理というものも、
戰後の過渡期間は一應一九五二年三月一日までが豫定されておりますが、その間は原則として過渡期間と認めて為替
制限をしてもいいということにな
つておりますので、いずれに参加いたしましても、當面の所要は満たすことができると想像されますが、
為替管理については一九五二年三月一日以降は、原則として
通貨基金によ
つて禁止され、また
貿易の統制におきましては、一應
通貨準備の蓄積のためにはこれを許されておるのでありますが、ただわれわれといたしまして、比較的諸般の點からみて、
アメリカの
政策の範囲内におかれるわが國といたしましては、とかく
貿易の量的な統制という問題については、否定的な主張をもつところの
アメリカの
政策に漸次
従つていく、あるいは同調していかなければならぬというような必要が生ずるかもしれないということは、考慮しなければならないと存ずるわけであります。
なお
貿易の統制をする場合に、組合の統制方法によるか、すなわち戰前のように輸出入の組合によるか、あるいは交易営團のようなある営團的なものによるかという點は、今後いずれによる場合においても、
外國商社と日本商社との間の公平な待遇の問題、または組合によ
つて調整料というようなものをとる場合には、この
憲章によ
つてこれが
輸入補助金または、
輸出補助金になり、あるいは
外國品との間の差別的な
補助金になり、待遇になるというような若干この
憲章との間の問題が生じてくる可能性はあると存じますので、この點を考慮して
輸入統制の方法を講じなければならぬと思います。
次に日本の現在の
貿易におきまして、どうしても日本といたしましては、
アメリカの地域から
輸入をして、これを
イギリスのポンド地域また中國のような、ポンド地域でないまでも非ドル地域に對して輸出するということが、日本の
貿易の性格でありますので、現在
國際貿易憲章が打立てられようとする多角的な
貿易制度というものが、現實に動きますれば、わが日本としては問題はないとのでありますが、現在のような、たとえばポンドからドルへの轉換ができないというような、通貨の自由な轉換が困難な場合においては、わが國といたしましては、どうしてもバーター的な
協定をせざるを得ないのであります。この點は
國際貿易憲章の大きな方針と反するわけでありますが、この點は日本としてはやむを得ないバーター的な
貿易を採用しなければならないこととなると存じますが、ただこの
國際貿易憲章におきましても、多角的な
貿易を實行するということは、
國際通貨基金と一致して、通貨のトランスフアー轉換が自由であるということが前提になるのでありまして、今日のような通過が轉換し得ないということは、すなわちとりもなおさず
國際通貨基金の機能も十分發揮してないということであるのでありまして、
國際貿易憲章からみれば、こういう前提が充たされない限り、バーター
協定もやむを得ないものと認められるわけであります。しかしながら日本といたしましては、バーター
貿易を行
つていくということは、結局日本全体の
貿易からしますれば、
貿易の縮小を來たすという點はとうてい免れないのでありまして、またバーター
貿易制によ
つては必ずしも日本の
貿易全部が行いきれないでありまして、その點から考えても、むしろ終局的には多角的な
貿易政策に移るということが、すなわち
國際貿易憲章の考えておるような
貿易政策に移るということが、日本としては好ましいのであろうと存じずるわけでございます。
次に
勞働條件の問題につきまして、この
國際貿易憲章はソシアル・
ダンピングを禁止するという點を非常にはつきりと出しておりますが、この點につきましては、今後日本として勞働基準法その他の法的な措置も整
つてまいりましたので、問題を生ずるおそれはないと存じますが、ただ元來日本といたしまして、今後十分な完全
雇用を維持するということはできない、なかなか困難であるという點からして、とかく
勞働條件の維持ということも相當な困難が出てくるのではないかと思われますし、さらにまた
世界的な標準からみれば、日本としてはどうしてもチープ・シーバーということを避け得られないのであります。この點はわが國といたしましても、十分
外國に向か
つてもらわなければならないと同時に、できる限りチープ・シーバーという點が
世界的に問題とならないように、勞働法制というようなものの維持については、格段の努力をいたしていかなければならないと思うのであります。
最後に
貿易機關参加につきましては、参加資格におきましては全然
制限が設けられておりませんので、國際的に平和條約の後におきましては、日本としてはこれに参加するということについて別段の障害はないと存じます。ただこの
國際貿易機關は、原則として
國際通貨基金というものと同時に加入するということを
規定しておりますので、その點において
國際通貨基金に加入するためには、一定の金の醵出を要するとか、若干の準備が必要でありますので、この點は多少の困難があるだろうと思いますが、ただ
國際貿易憲章におきましては
國際通貨基金に加入しない國に對しては、特に
國際通貨基金の
為替管理をしないというような、義務を遵守するというような、特別な取極めをすることによ
つて加入を許すという方法もありますので、もし
貿易上の最
惠國待遇を維持することがどうしても必要であるという場合には、まず
國際貿易機關に加入するというような方法も考えていかなければならないと思います。さらに今日
國際貿易憲章というものと並行して、この裏づけになるところの
關税の引下
協定が、現に十八國間に行なわれているのでありまして、今年の十一月のハヴァナ
會議までにその
協定が成立して、これが成立した國の間に最惠國條款でも
つて適用されるということが豫想されているのでありますが、これにつきまして日本が平和條約の後にこの
國際貿易憲章に参加するという状況になるまでの間のわが國の
貿易については、非常にむつかしい問題が生ずるのでありまして、なぜと申しますと、この
戰争によりましてわが國は
通商航海條約というものは全部失
つてしま
つておりまして、現在有效であると認められる條約は、わずか中立國として残
つております数國との間の二、三の
通商航海條約に止ま
つているのでありまして、
従つて今後平和條約以後において
通商的な取極めが行われるまでは、無條約國の關係に日本としてはおかれるわけでありまして、せつかくジユネーヴで
關税引下
協定が行われましても、日本に對してはこれは適用されないことになるのでありまして、こういうような状況のために、當面のいろいろな努力にもかかわらず、日本の當座の
貿易が非常に伸びにくいというような、不利な條件が存在するということは考えなければならない次第でありまして、場合によりましたならば、
貿易の重要さから考えまして、平和條約に先だちましても、できるだけ早い機會に、實質的に事實上の措置によ
つて、日本として最
惠國待遇を與えてもらうような方法を、講ずることが必要ではないかと思うわけでありまして、またハヴァナにおけるこの
國際貿易憲章の本
會議におきましても、將來の日本の
貿易政策に對する關係もありますので、できればせめて日本としてもオヴザーバーなりともこれに参加を許されることが、きわめて望ましいのではないかと存ずる次第であります。
結局この
貿易憲章全体を通じて見まして、日本として従來からとかく
輸入制限とか、
關税引下げの措置をとられましたところの加工品、殊に綿製品とか、日用雑貨といろいろなものが、主とした日本の重要な輸出品であるところの日本の
貿易から見まして、
輸入に對する障害をできるだけ低くするというこの
貿易憲章の企画は、わが國の
貿易に對してもきわめて有利な機會を提供することができると思うのでありまして、この意味で
貿易憲章に對しては積極的に参加することが、日本としての終極的な利益であることは間違いないと思うのであります。ただ
國際貿易憲章に参加する以上、日本としても同じような自由
貿易政策をとらなければならないので、同時に自由
貿易あるいは自由競争という以上、いわば
競争力の強い
産業が勝ち、弱い
産業が負けるということになるのでありますので、これに参加していくところの日本の重要な準備としては、やはり日本の
經濟を國際
經濟に参加し得るような高能率な
經濟につくり上げていくことに格段の努力をしなければ、かえ
つてこれに参加したために日本の
産業が非常な痛手をこうむるというような危險があろうかと思いますので、この點はテクニカルな、いろいろな
貿易憲章参加の準備の根本として、日本の
産業の合理化という問題が進められる必要があるということは、強く痛感される次第であります。
日本としての重要な問題は一應以上の通りでありますのでこれで御報告を止めることにいたしたいと思います。