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佐伯委員 今の點は私滿足することができぬと思います。どうも私は要點に觸れぬように考えられるのでありまして、五箇年計畫という將來のことではなく、二十二年度の
豫算がすでに危險である。毎日々々
缺損を生じていくのであ
つて、その
缺損は
日本銀行の紙幣と
なつて發行させられつつあり、それがインフレーシヨンに役立
つておる。のみならず今囘の安定政策なるものは計畫的になされておる。全
日本の産業面におけるある
一定の
赤字を克服いて、黒字に轉進せしめるという
一つの計畫經濟のもとに組立てられ、そうしてもし
赤字が出るものがあるならば、それは政府の補給金をも
つてこれを補填していく。こうしてこそのみこのたびの計畫經濟というものは立ち得る、私はこう信ずる。その點において、最初からわか
つておらない
赤字ならば、これは問題外でありますが、最初からわか
つておる
赤字でありますから、このたびの政府の經濟安定政策においては、國家事業がいかく
はつきりと
赤字がわか
つておるならば、當然これは政府において補給するかどうかということを
はつきりきめるか、しからずんば
運賃の
値上げをするか、これが當然とるべき手段である。かように私は考えられるのであります。しからずんば經濟安定本部の安定政策というものはこの一角から崩れるのみならず、そういう
答辯でありますと——國有
鐵道全體だけがひとり
日本の國の交通事業を負擔しておるのではない。
日本の
國民性と申しますものは國家
經營というものを非常に高い價値に見ますけれども、民營事業も大きな役割をも
つておる。この民營事業はこのたびの政府の安定政策においては、
赤字を克服して
能率を高め、黒字に轉進し、
日本の
再建に資せんと欲する大動脈、根幹に
なつている。しかるに國有
鐵道の
赤字を當然としておるならば、經濟というものは、ここにも書いてあるが、有機的な一貫性をも
つておるのであ
つて、この有機的な動脈が濁
つておるならば、全産業の團體なるものはとうてい健全化することはできない。國有
鐵道も國家經濟の一環として存する限りにおいては、同一歩調をとるものであ
つて、國有なりという美名のもとに、特別な
經營を行うということは、今囘の經濟安定政策の根本を誤るものである。私はかように申し上げたいのでありまして、この點におきましてしばしば承
つてみましたけれども、これ以上の御
答辯を要求することは困難かと考えますので、いずれまた折を見て伺いたいと思います。
次に先ほど運輸
大臣がおつしやいましたが、これもちやつとかなめのことでありますので、申上げておきたい。これも研究した結果でありますが、國有
鐵道の
勞働能率というものは一般的工業よりも高い、
水準から申しますと一般工業よりもまだ
能率は高いというようにおつしやる。いかにもそういう結果が來ているようでありますが、これはおそらく國有
鐵道だけでなく、
地方鐵道においても、一般産業に
比較いたしまして、
鐵道事業の
能率というものは非常に低いと思うのであります。これがどうして起
つてきたか。こういうことを御研究にな
つただろうか。これからが非常に大切なことでありまして、これはこういう結果にほかならない。
鐵道從業員が一般工業の
從業員よりも非常に優れているからだということではなくて、仕事の
性質がそういう結果を生むにプラスしているのだということをも
つてお答えしたい。
鐵道事業なるものはきわめて正確に機械化している。
從つてこの
能率というものは機械とともにある
一定の
水準を保ちつつ進んでいる。これは私が自分で
幾多の經驗から
お答えすることができるのでありまして、そうであるためにこういう結果が參るのであります。おそらく今
大臣の言われた
通り、一般工業よりも二分の一ないし三分の一というものは
能率は高い。ところが反對に
鐵道事業の方が約三分の一の
能率をこの上に高めましたならば、一般工業
方面は三十の二
能率が高まるという原理を私は申上げることができると思う。一例をあげるならば、國有
鐵道の
能率を三分の一高めたならば、直接間接の石炭鑛業が三分の二高まる。こういうことを言い得ると私は信ずるからして、この意味においては國有
鐵道の
能率化ということは、わが國産業の
再建の上において非常に重要な役割をなしているということを私は信じて疑わぬのであります。これもひとつの御
參考にいておいていただきたい。
その次に伺
つてみたいと思いますのは、私が今まで述べたことは
經營をどうするかということですが、國有
鐵道の
再建は、結局は
資材を獲得しなければ、とうてい
現状を維持できないということは輿論の一致するところであります。そこで
資材を獲得するということは、
赤字という
現象をも
つてはたして
資材を獲得し得る本質的基盤を有するや
否や、これは非常に大きな問題と私は思います。一般産業でありますれば、
赤字と
なつておれば、事業が消滅するのは當然である。何としても
赤字を克服しなければ、
鐵道再建の手段を獲得できないということを
經營者本來の建前として臨まなければならぬ。いわんや、今貿易によるところの話が出ました。貿易再開により足らない
資材を貿易によ
つて得るという、かような言葉を承
つたが、これも私ははなはだ當を得ない説ではなかろうかと考えられるのでありまして、貿易なるものは結局
鐵道の
勞働能率を高めて黒字に轉じたものによ
つてのみ得られる權利である。
赤字において事業を維持するというがごときことは不可能と私は考えるのである。しかしながら、ただ問題は、永遠に
赤字ではないのである、五箇年計畫を立てるのである、こういうようにおそらく
鐵道當局はおつしやると思いますけれども、このことは今囘
鐵道當局が五箇年計畫を立てられてから拜見するといたしまして、要點を御
質問したいと御いますが、この考え方をもたれるというと非常な間違いを生ずると私は思います。先ほど
ちよつと念を押したのでありますが、平常の事業
状態の
營業成績と申しまするのは、いかなる場合においても、その一點のときにおいて
收支バランスがとれなくちやならぬ。これは經濟の原理である。三年後、五年後やるというものではありません。いかなる場合においても經濟が自立していきますときには、平常の
營業状態という場合においては、そのときからただちに
收支が合うべきである。五箇年計畫を立てて、五箇年後においてバランスが合うというがごときことは、それは決して經濟の本筋とは言われないと思うのでありますから、
鐵道當局におかれまして、そういう案をお立てになるのでありまするというと、私どもは容易に御信用申し上げることはでき得ない。いわんやわが國の經濟と申しまするものは、五箇年後のことは豫測しがたいものがあります。なおかつ國有
鐵道は國家
經營に
なつておりまするが、この國家
經營にも、非常に大きな變化を生じてまいりまして、從來
國營は國家の權力を指導力とし、
經營の原動力とした。この國有
鐵道の大企業を統一いたしまする力の源泉、五十萬の
勞働者を指揮していく力の源泉としてそもそも官僚は何をも
つていたかと申しますれば、とりも直さず國家の權力を背景としていたのである。これは申すまでもないのであります。國家の權力は何から生じたかと申しもすれば、軍國國家といたしまして背後には厖大なる軍備を有した。また警察力をま
つた官僚なるものはこの厖大なる企業を組織し、五十萬の
從業員を國家全體に奉仕せしめた。しかるに民主主義の國家と申しまするのは、全然この權力を背景とすることはできない。權力を背景とすることができ得ざるもの、一個の
大臣や、一個の次官や、一個の局長が、何を背景とし、何を
經營の指導力とし、五十萬の
勞働者を指揮する力の源泉として、國家
再建に任ずることができるか。かように私は考えておりまするが、いたずらに五箇年計畫をただお立てになるということでなしに、よほどの深さをも
つて、
經營の根本問題をも御研究に
なつて御立案願いたい。なお民主主義の國家というものは、從來われわれには經驗がないのでありまして、この封建的な温床に育
つて今日までまい
つて現在の
鐵道職員が、その權力が崩壊せられてしま
つた現在、この
職員に對して新して民主主義の力を與え、その組織を次官や局長に考えろとい
つてもとうてい考えることはできない。これは最も政治の要締でありますがために、政黨から出た
大臣がそのことをお考えに
なつて、舊來の古い過ぎ去
つた國家の封建なる
經營の原動力を、新しい民主主義の
經營の原動力にかえられて、これを示されずんば、わが國國有
鐵道の
再建というものは、決してなし得ないものなりと私には信じられます。この點はいずれ次に
再建政策を立てられるときにお伺いしたいと思います。
なお
參考までに申し上げたいと思いますのは、
鐵道經營は
物價、
賃金、
資材、あらゆる部面にわた
つておりますけれども、結局は
勞働問題に歸結する、實際この
勞働の能力を向合せしめなければならぬ。
勞働の時間を延長する。
勞働の立憲化をはかる。結局は何もかも私の見ましたところによりますと、民主的な
勞働問題の基本を確立すること以外には私はないと思うのであります。企業組織の中核も、
勞働の立憲的な方策を講ぜられて、しかしてそれを企業の原動力とするというまでに新しい方法を生み出してまいらなか
つたならば、この厖大なるところの企業は決して維持できない。言うまでもなく民主主義の國家と申しますのは、國民個人個人の自覺力、民度にほかならぬのであります。わが國の民度というものは遺憾ながら非常に低い、わが國の民度は決して誇りとするものでなく、ほんとうに個人々々の自覺をも
つて企業を
經營するといたしますならば、かかる高度の文化施設というものが決して維持できぬのは、これは世界各國の例である。のみならず文化の發達過程において當然そういう經過を踏んでおる。わが國のかかる高度の文化というものは今日非常に低いところまで低下するところの運命をも
つておるのでありますから、これをせき止めるということにつきましては、ここに新しい
勞働の立憲化を主體として、民主的な企業の組織を考案せられなか
つたならば、私は五十數萬を擁する國有
鐵道、しかも全國にわた
つた廣汎なるこの大企業が——近時いろいろ言われる
通り、中小工業というようなものこそ
日本國民に適するが、
日本國民の民度というものはさような大企業、さような高度の文化を維持する力がないと言われても、私はやむを得ぬと思
つておりますから、この點は私が申し上げるまでもなくすでに御研究に
なつておることと存じますが、この次の事業
再建に對して御
參考に供したいと思うのであります。大分時間も經ちましたので、私一人の
委員會でもありませんので、この邊で終ります。どうも長い間いろいろなことを伺わせていただきまして、非常にありがたく存じます。