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参考人(
釜井英法君) 私は、一九八八年四月に
弁護士になりまして、この三十三年間、東京で、多重債務、悪質業者が絡んだクレジット
被害、詐欺的
商法被害などの事件に取り組んできました。昨年の六月からは日弁連の
消費者問題
対策委員会の
委員長を務めております。そのような
消費者被害の
現場を担当してきた
弁護士の
立場から、今回の
特商法、
預託法等
改正法案について
意見を述べます。
事前に
意見書を出しておりますが、これを全部読むと十五分では終わらないので、少し要約した形でお話をさせていただきます。
本
改正法案のうち、
販売預託商法の
原則禁止及び詐欺的
定期購入商法と
送り付け商法に対する
規制強化の点は、悪質
事業者を
消費者及び
事業者の
共通の敵として、その悪質
事業者にターゲットを絞った抜本的な
制度改革を実行すべきと提言した昨年八月の
検討委員会報告書に見事に応えたもので、
被害の
防止と救済の
実効性が期待でき、高く評価しています。
また、
電子メールにより
クーリングオフ通知ができるようにすることに関し、当初の
改正案では効力発生時期を発信時とする明文
規定が欠けていたところ、
衆議院でそれを発信時と定める修正案が可決されたことも、実態をよく理解された的確な
措置であったというふうに考えております。
しかし、
書面交付義務の
電子化を認める点については、
全国消団連の
浦郷さんが今陳述されたとおり、本日時点で百六十三の
団体から反対、慎重
意見の提出がされています。にもかかわらず、
衆議院では、この点について
施行時期を二年先とする修正がされただけで、その他の点については全く見直しがされませんでした。しかも、政省令等の制定や抜本的な
被害防止策の
検討等に向けての附帯決議もなされませんでした。これは大変残念に思っております。
参議院では、この
電子化によって生じ得る
消費者被害の
防止について、改めて適用
対象の見直しも含めた慎重な
検討がなされることを期待しています。そして、仮に、
承諾の要件を政省令で厳格に定めることを条件に
契約書面の電子
交付を認めるという方針を参議院においても選択されるというのであれば、
消費者が
書面を
電子化することの意味を正しく理解した上で、真に主体的に請求した場合、単に
承諾したのではなくて請求した場合に限定して
電子化を認めるべきと考えます。
事前に提出した
意見書の順番とは異なりますが、もし長くなってからというところをちょっと心配しまして、先に
預託法の
改正について述べ、その後、特商
法改正の
書面交付義務の
電子化等についてお話をさせてください。
預託法改正についての
意見は、
意見書の八ページから十ページに書いています。
豊田商事事件が起こってから約三十五年目にして、
内閣総理大臣の確認
制度の創設により、
販売預託商法が
原則禁止となります。まさに画期的な
法改正だと評価します。約三十五年間の著名な
販売預託被害事件の総
被害額は一兆円を超えています。今後、この
改正法を生かしてこの種の
被害を根絶するためには、隙間事案の対応について目を光らせておく必要があると考えます。隙間が生じ得るのは、役務と権利の関係、預託
期間の要件、金融
商品取引法や出資法との関係です。
この種の
被害が発生したときには、市民の一番近くにいる消費生活センターの相談員さんや私たち
弁護士が相談を受け、
被害回復に動くというのが初期の対応ですが、
被害の拡大を
防止すること、
被害実態を解明していくことは、主として主務官庁の仕事です。その際、法解釈の隙間が主務官庁の動きの障害となり得ます。この三十五年間に一兆円を超える
被害が生じていることがその証左です。この隙間をなくすためには、
事業者側の恣意的な解釈による
規制逃れを許さないという主務官庁の気概ですね、それと、たらい回しにしないという関連省庁間の迅速かつ柔軟な連携、これが肝だというふうに思っております。
今回の
改正では、
特定適格消費者団体に対して、
特商法や
預託法に基づく処分に関して作成した
書類を
提供できるとした
規定も入りました。
行政と民間との連携で
共通の敵と戦うという観点から評価できます。そのほか、
消費者庁や
特定適格消費者団体の破産申立て権、解散命令
制度、加害者の不当な収益を剥奪して
被害者を救済する
制度等の創設、出資法違反の
罰則の引上げというような論点もあります。この辺りも含め、参議院で議論し、附帯決議等によって確認していただけることを願っております。
次に、一番大きな問題だと思っている
書面交付義務の
電子化の点についてお話しします。
書面交付義務の
電子化を認めますと、
書面交付義務と
クーリングオフ制度が持つ
消費者保護機能を失うおそれが強いということは、既に
衆議院において繰り返し
指摘されてきたところです。
デジタル
社会の推進という
政府全体の方針に基づいて
書面交付義務の
電子化を導入するのであれば、
消費者が
オンラインで自分でアクセスして英会話指導
契約を締結するような、
オンラインで始まり
オンラインで完結する、そういう
契約類型に絞って導入するというのが本来であると思います。
突然の不意打ち勧誘から始まる
訪問販売、電話勧誘
販売、
訪問購入、甘い
利益誘引勧誘から始まる連鎖
販売取引、いわゆるマルチ、業務
提供誘引
販売取引など、
消費者の判断をゆがめる危険性のある勧誘から始まる
取引に
書面交付義務の
電子化を導入することは、必要性もなく、逆に悪質業者に新たな武器を与えるものであって、
被害拡大を招く危険性が高いというふうに考えます。むしろ、デジタル
社会の推進を正面から議論するのであれば、
消費者が
商品や
サービスを主体的に選択できるような
環境づくりこそが重要だと思います。
五年前の特商
法改正でその
規制を見送られましたが、不意打ち勧誘で主体的選択がゆがめられる危険性が高い
訪問販売と電話勧誘
販売、これらは不招請勧誘
取引と言われていますが、その相談件数は、
訪問販売は年約八万件、電話勧誘
販売は年約六万件と、
改正当時とは相変わらない高い水準にあります。この不招請勧誘
取引の
規制に直ちにむしろ取り組むべきだというふうに考えます。
若者を中心に年間約一万件の相談が続いています連鎖
販売取引、これも来年四月からの成年年齢引下げによって増加することが危惧されています。これも甘い
利益誘導勧誘で、主体的な選択権をゆがめる危険性の高い
取引です。この若年者へのマルチ
取引規制にも直ちに取り組むべきです。
中身に入ります。
政府の答弁によれば、
書面交付義務の
電子化については、
消費者の
承諾を要件として
電子化を認めるのだから
消費者の
利益は害されないとか、
消費者が真意で
承諾した場合に限るから
消費者の不
利益は生じないなどと
説明されています。
しかし、
特商法の
契約類型の主たるものは、先ほどから言いましたように、
事業者が不意打ち勧誘や
利益誘導勧誘で
消費者を主導的に勧誘して
契約締結に持ち込むものです。
消費者は受け身の
立場で断り切れずに
契約させられるという類型です。
情報量も
事業者と
消費者との間には大きな格差があります。したがって、本体の
契約を勧誘するのと同じ場面で
事業者が
消費者に対し
契約書面の電子
交付を積極的に一体的に勧誘すれば、条文上は
書面が
原則となっていても、実際には電子
交付が
原則的な形態となってしまいます。
消費者の
承諾は歯止めにはなりません。
それならば、電子
交付の場合に
書面の
消費者保護機能を確保するにはどうしたらいいんでしょうか。少なくとも次の
措置を全て満たすことが必須であるというふうに私は考えています。
まず、
事業者から勧誘されて受け身の
立場で電子
交付を
承諾するというのではなく、
消費者が主体的に積極的に電子
交付を希望し、それを請求した場合に限り電子
交付を認めるとすべきです。
衆議院の五月十一日、
消費者問題
特別委員会で
参考人の河上正二先生が、
消費者がどうしても電子
情報の方が自分が管理がしやすいから欲しいというふうに言っているときにはこれを認めるということが適切だろうと考えていると述べられました。河上先生の
発言の
趣旨にも合致する
措置だというふうに考えます。
そして、この電子
交付の請求というのは、証拠を
消費者の手元に残すという観点から
書面で行うこととし、控えを
消費者が取得することを要するとすべきです。
また、
訪問販売等によって対面勧誘を行って、
消費者が実質的に
契約の
申込みを
承諾した時点、状態、段階で
契約の申込手続を
電子メールなどで行うことを認めると、通信手段で
申込みを受けたから
通信販売であると主張するような悪質業者が現れる可能性があります。
そうなると、実際は
訪問販売、
訪問購入であるのに、それらに対する
特商法上の
規制を全面的に脱法できることとなってしまいます。
訪問販売であることを証拠として残すためにも、
電子化の請求は
書面ですることを要するとする必要があります。
念のため、今国会で、
訪問販売、
訪問購入による対面勧誘が行われた結果、
消費者から
電磁的方法により本体
契約の
申込みを受けた場合は
通信販売には当たらず、
訪問販売、
訪問購入に該当するということを解釈として確認しておいていただけると有り難いというふうに考えております。
まあ、そんな細かいことを言って、そんなひどいことをする業者のことまで考えなくてもというふうに思われるかもしれません。しかし、
消費生活相談員さんや
弁護士の
現場感覚からすると、極めて常識的な感覚なんです。こういう業者が普通に出てくる、これがこの分野、
訪問販売とかの不招請勧誘等の分野です。そういう分野に電子
交付が導入されるという、その恐ろしさを是非御理解いただきたいというふうに思います。
さらに、
電子化された
契約書面は、紙の
契約書に比べて
契約内容の詳細や
クーリングオフの存在に気付く
機会が失われるおそれが強いことから、
事業者は、
消費者が電子
交付を選択する前に、
契約書面には
クーリングオフができることを含む重要な権利義務が記載されていることや、電子
交付を請求すると、
クーリングオフ期間の、
クーリングオフの起算日が電子データを受信した日からになることなど、
契約書中の重要事項の
説明を
消費者に対して行う義務を
規定することが必要だと考えます。
金融
商品取引法や電気通信
事業法では、
契約締結前に
説明書面を
交付して、それを分かりやすく
説明する義務を負うことが省令に
規定されています。しかし、業者の登録制が採用されていない
特商法では、できれば
法律に記載していただきたい。仮にそうでないとしても、政省令で
契約締結前に重要事項の
説明をする
事業者の義務を
規定することを附帯決議等で明確に方向付けていただきたいというふうに考えます。
その際、対面
取引においては、
説明したか否かが水掛け論とならないように、
説明義務の
対象となる事項を紙の
書面に記載して
交付することを義務付けるべきだと考えます。
デジタルデバイドという言葉があります。デジタル
社会の推進は、昨今のコロナワクチン接種予約の混乱
状況を見ても分かるように、デジタル機器に不慣れな、脆弱な
消費者を切り捨てるものであってはならないということです。
二〇二〇年の消費生活年報によりますと、
訪問販売、電話勧誘
販売、
訪問購入に関する相談で、
契約当事者が七十歳以上の高齢者の相談がそれぞれ四〇%、四〇%、五四%となっています。
マルチ
取引に関する相談は、約一万一千件のうち約四五%が二十歳代の若者です。若者は、デジタル機器の使い方には慣れていても、そこから得られる
情報の理解度、利用度についてはまだ十分とは言い難い面があります。これらの分野に
契約書面の
電子化が認められると、その
被害は潜在化しながら拡大するおそれがあります。マルチについては、来年四月の成年年齢引下げにより、
被害の増加が心配されるところです。
このデジタルデバイドの観点からも、
特商法の
契約書面の
電子化はできれば削除、仮に認めるとしても、
消費者被害が拡大しない
範囲でのみ許容されるように
法律及び政省令で厳格に
規定するよう、参議院において更に議論していただきたいと思います。
あと、詐欺的
定期購入と
送り付け商法について少し述べます。
詐欺的
定期購入については、
意見書の五ページ以下で
説明しています。
事業者が設定した特定
申込画面について、独立の条文を設けるなどして詐欺的
定期購入の
規制を強化した点は評価できます。しかし、誤認を招く
表示を
禁止するという
法律の
規定だけでは、
規制する
実効性が確保できません。具体例と判断基準を政省令、通達などで明確に定めていただきたいと思います。
送り付け商法については、十四日の要件を削除して直ちに返還請求を喪失するとしたことは評価できます。しかし、一般
消費者には分かりにくい面もあるので、
消費者庁には是非積極的な啓発活動をしていただきたい。
一方、
改正法には、こういう
送り付け商法を繰り返す悪質
事業者に対する
行政処分権限の
規定が欠けております。刑事事件になるまでそのような悪質
事業者がばっこする事態は避けたいところです。
参議院の
審議においては、今後の
送り付け商法のトラブルの推移を注視して、必要に応じて
行政処分権限の追加について
検討することを
課題として確認していただければというふうに思います。
以上です。どうもありがとうございました。