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参考人(
染谷隆明君) 池田・
染谷法律事務所の
弁護士の
染谷と申します。
私自身は、以前、
消費者庁において景品表示法に課徴金
制度を導入する
法案の立案を担当させていただいたところでございまして、当時、解散風が吹く中、廃案にならず、先生方に大変助けていただきました。そのような先生方を前に
意見をさせていただく機会をいただきまして、大変恐縮しております。
さて、私はふだん
取引デジタルプラットフォーム提供者と呼ばれる
企業に対して
消費者法のアドバイスをしているところでございまして、このため、実務については少しは分かるであろうということで本日呼ばれたものと認識しております。本日は、一
弁護士としての
意見を述べたいと思っております。
まず、本
法案の評価でございますが、本
法案は、
取引デジタルプラットフォームが介在する
消費者取引の
保護を促進する第一歩であるということでございまして、
一定の評価ができるというふうに考えております。このため、私は本
法案に
賛成するものでございます。
一方で、衆議院で非常に多くの
議論がされたとおり、幾つかの
課題や残された解釈上の問題、積み残し
課題があるように思われますので、条文ごとにコメントさせていただければと思っております。
先生方のお手元にございますオレンジの資料に基づいて説明させていただきます。
まず、四ページ目の二ポツ目を御覧いただければと思います。
まず、定義
関係についてございますが、
販売事業者等について
意見を申し上げたいと思います。
販売事業者等に、
販売業者等については、今後、
消費者庁においてその認定基準を
策定するというふうに聞いているところでございますが、その際に
検討してほしいということについて申し上げたいと思っております。
この
販売業者等の認定基準につきましては、いわゆるフリマアプリの隠れBの判断基準にもなるものでございまして、非常に重要なものであるというふうに理解しているところでございます。
現在の実務はどうなっているかというところでございますが、添付資料として一というもので特商法のインターネットオークション
ガイドラインというものをお配りしておりますが、実務上はこれが参照されているところでございます。しかしながら、その内容を拝見いたしますと、
販売業者に該当するかどうかの例示といたしまして、年一千万円以上の売上げですとか月百万円以上というような要件があるところでございまして、かなりハードルが高いというふうに思っている次第でございます。
もちろん、これは
平成十八年頃に作られたものでございまして、現在でも通じるのかというところはあるかと思いますし、あくまで例示であるというふうに判断しているものでございますから、現在でもそのような基準なのかどうかということについては今後しっかりと
議論をしてほしいというふうに思っている次第でございます。
さらに、第五条に開示請求というのが今回導入されたわけでございますが、開示請求はこれ民事請求でございます、民事上の請求権でございますので、最終的には裁判所が
販売業者等かどうかということを判断するわけでございます。
私の感覚からいたしますと、裁判所は割と簡単に
販売業者等を認定するのではないかというふうに思っているところでございまして、今後、
消費者庁が
販売業者等を
検討するに当たっては、裁判所、司法の判断に堪え得るような基準を示していただきたいというふうに考えているところでございます。その際に当たっては、
官民協議会に
CツーCのプラットフォーマーを入れることによって実態を解明していただきたいというふうに考えているところです。
次でございますが、五ページ目の三条
関係、努力義務について
意見を申し上げたいと思います。三ポツ目を御覧いただければと思います。
非常に細かい
議論で大変恐縮なんですが、三条第二項には、
プラットフォーム事業者が講じた措置については開示するものとするというふうに書いているんですが、この開示するものとするの解釈について
意見を申し上げたいというふうに思っております。
三ページ目の
消費者庁の
法案の概要資料によりますと、開示について努力義務という言葉がありますので、努力義務のように考えているのかなというふうに思うんですが、本当にそう読むべきかというところの問題提起でございます。
添付資料として資料の二の一、二の二というものを付けておりますが、これは法制執務に関する書籍の抜粋でございまして、二の一につきましては内閣法制局の元長官が書いた本でございます。ここによりますと、するものとするというのは多義的であるというふうに言われておりまして、多くはですが、しなければならないと、何々をしなければならないという法的義務の表現を弱めたものであって、法的義務を定めたものであるといった説明がされています。
一方で、先ほど多義的と申し上げたとおり、あくまで原理原則を定めたという読み方もあるというところでございますので、この点についての解釈は明らかにすべきではないかというふうに思います。
私
個人の
意見ということで申し上げたいわけですが、私
個人としては、第一項の措置については、講ずるかどうかは努力義務、第二項については、講じた措置については開示しなければならないという法的義務を定めたものであるというふうに整理すべきではないかというふうに思っております。
なぜかと申し上げますと、開示の措置につきましては、これは、
デジタルプラットフォーマーが
消費者保護のためにどのような
取組を行っているのかということを開示することによって、
消費者が
デジタルプラットフォーマーを選択する
情報を
提供するという趣旨でございますので、その趣旨を貫徹するという
意味から、又は条文上もそのように読めるのであれば、法的義務であるというふうに整理できないかというふうに考えている次第でございます。
さらに申し上げますと、若干厳しいことを申し上げるわけですが、第二項の内閣府令で定める
事項というものについてですね、第一項で講じた措置を講じない場合には開示するものとするというようなことをもし内閣府令で定める
事項で定めるのであれば、講じた措置について開示しないということになってしまいますので、
デジタルプラットフォーマーとしては一生懸命一般
消費者を
保護する措置を講ずるのではないかということで、プラットフォーマーに
消費者保護のインセンティブを与えるという観点からもですね、するものとする、開示するものとするということについては
法律上の義務であるというふうに判断するのが相当ではないかというふうに考えております。
この点、
参考になるものといたしまして、完全に一致するわけではないんですが、コーポレートガバナンス・コードというものがございまして、これは、コンプライ・オア・エクスプレーンということで、遵守せよ、しないのであれば遵守しない理由を説明せよという考えが取られているところでございます。こういった考えが
参考になるのではないかというふうに考えております。
次に、六ページ目の停止等に係る要請、
四条関係でございますが、ちょっといろいろ申し上げたいことがあるんですが、時間との
関係で一点だけ申し上げたいと思います。
七ページ目、あっ、済みません、六ページ目に、要請の要件として第一項の、その安全性に係る不当表示があったことというのに加えて、第二号といたしまして、
販売業者がその表示を是正することを期待できないことというところが挙げられているところでございます。しかしながら、この第二号というところが本当に必要なのかという点については、やや疑問があるところでございます。
といいますのは、もちろん一義的には
販売業者が特商法の適用を受けるところであって、
デジタルプラットフォーマーについては補完的な地位でしかないわけでございますから、このような第二号の補充要件を設けるということについては理解できるところでございます。しかしながら、安全性に欠ける表示が行われているのであれば、いち早く
消費者被害を防止するという観点からは要請をすべきなのではないかというふうに考えている次第です。
したがいまして、第一号の要件を満たすのであれば、基本的には第二号も満たすというような形で事実上運用していただきたいというふうに思っております。
参考となる
制度としては、資料に付けておりますが、薬機法の七十二条の五の第二項というものがありまして、これはその薬機法の、薬機法に違反する広告がある場合には厚労大臣はその広告の停止を要請することができるという規定でございますが、ここにはプラットフォーマー新法のような補充性の要件、第二号の要件はないところでございます。それは何でないかというと、それは安全性に、
消費者の安全性に関わることだからというふうに理解しているところでございます。
七ページ目の三ポツ目、④と書いてあるところについて申し上げますが、これも若干厳しいことを申し上げるつもりなのですが、もし
デジタルプラットフォーマーが要請に従わない場合であって、かつ一般
消費者が要請に係る
商品を購入して損害が生じたときには、
デジタルプラットフォーマーについてはその損害賠償
責任を負うべきではないかというふうに考えております。
参考資料として、チュッパチャプス事件というものを添付しているところでございますが、これはどういう事件かというと、楽天に出店するたな子が商標権侵害をした表示をした、チュッパチャプスの商標権侵害をした表示をしたということで、チュッパチャプスがプラットフォーマーである楽天に対して商標権侵害を通知したと、かつ損害賠償請求をしたというものでございます。楽天においてはこれ速やかにその表示を削除したということで、楽天自体は損害賠償
責任を負わなかったというところでございまして、プラットフォーマーにおいてはこのような楽天のような
対応をすべきであるというふうに思っている次第でございます。
こういった
対応を促進する観点から、要請に従わない場合についてであって、かつ一般
消費者に損害が発生した場合については損害賠償
責任を負う場合があるという解釈を示すことが
消費者保護という観点からよいのではないかというふうに考えている次第でございます。
最後に、要請に従ったのであれば免責されるべきというところについても申し上げたいというふうに思います。
次に、八ページ目でございますが、これは第五条の開示請求
関係でございます。
これも、開示した場合については免責されるという規定があるわけですが、その点について
意見を申し上げたいと思います。
まず、第一項における開示対象となる自己の債権でございますが、その債権については、債務不履行に基づく損害賠償請求権だけでなく、不法行為やPL法に基づく損害賠償債権も含まれるものと解されます。そうしますと、内閣府令で定める額を超えるものという要件があるんですが、その内閣府令で定める額の判断対象に含まれる損害といたしましては、通常損害、売買金額のような通常損害だけでなく、逸失
利益や精神的損害も含まれるのではないかというふうに考えております。
しかしながら、精神的損害につきましては、これは裁判実務上おおむねの基準はもちろんあるんですが、最終的には裁判官の裁量で決せられるところでございます。したがって、プラットフォーマーとしては内閣府令に定める額を超えているというふうに判断したんだけれども、結果として、裁判になったら精神的損害が非常に低い額しか認められなかったということで、結果的に府令に定める額を下回ってしまったのに開示してしまったという場合があり得ると思います。こういった場合についても、内閣府令に定める額の判断が不合理でない、著しく不合理でないということであるのであればプラットフォーマーは免責するというような解釈指針を示していただきたいと思います。
なぜここまで申し上げるかと申しますと、その内閣府令で定める額の判断が難しい、また、
販売業者等該当性の判断が難しいということになってしまいますと、プラットフォーマーとしては、
任意の交渉で開示するということを非常にちゅうちょするわけでございます。その場合どうするかというと、もう全て裁判所の判断に委ねるということになるわけでございますが、そうしますと、裁判費用等も掛かるので
消費者の
利益にならないというふうに思っているわけでございますので、プラットフォーマーが安心して開示できるように、また、開示するという
状況というのは、
販売業者がこれ特商法の表示義務を遵守していないという
状況でございますので、そういったことも踏まえて開示しやすい
環境を
整備していただけると大変有り難く思っている次第です。
次でございますが、飛びまして十ページ目でございます。
先ほど来、
経団連さんから、また
拝師参考人からも指摘があるところでございますが、不正
レビュー問題について申し上げたいと思います。
私としては、いろいろ
課題があるところでございますので、まずは今できることを徹底してやるのはどうかということを申し上げております。
ステルスマーケティング、不正
レビューというものにつきましては、基本的には二つ類型がありまして、一つは成り済まし型、自分で表示しているのに第三者がそうであるという、第三者が表示しているかのように装うというものですね。二つ目が
利益提供秘匿型、つまり金を払って
レビューしてもらっているのにその
関係を開示していないというものがあるわけでございます。
対応している
法律としては景表法と不正競争防止法というものがあるわけですが、景表法に関しては、
消費者庁がこれ非常に頑張っているところでございます。
まず、成り済まし型については、真ん中のところにARSとかリュウセンとか書いていますが、成り済まし型については執行例があります。また、
利益提供秘匿型につきましては、真ん中のところに機能性表示食品事後チェック指針というのがありますけれども、これ、こちらに
考え方を示しておりますので、今後執行が期待されるところでございます。
しかしながら、ステマの最も根本的な問題というのは、その利害
関係がある、金を払っているという
関係を開示しないところにあるわけでございます。ここの点、日弁連はステルスマーケティングについての
意見書を出しているところでございまして、景表法の五条三号というものがあるんですが、そこの指定告示に、もし
レビューをお願いしたときにその具体的な利害
関係があるのであれば、それを開示しないのであれば不当表示になるという指定告示を定めるべきというような
意見書を出しております。指定告示はこれは法
改正不要でございますので、是非前向きに
検討していただきたいと思っております。
次、不正競争防止法でございますが、誤認惹起行為というものがあるわけでございますけれども、誤認惹起行為というのはまあ不当表示のようなものでございます。で、不正の
目的があって誤認惹起をするときにはこれは刑罰の対象となるところでございまして、有名な例としてはミートホープ事件等がございます。
実務上その不正
レビューを指南するコンサルティング等がいるというふうにお伺いしているところでございますが、こういった
方々に対しては、その誤認惹起行為を不正な
目的で、かつ共同正犯ということで立件可能ではないかというふうに思っておりますので、是非前向きに考えていただければと考えております。
次でございますが、十一ページ目、大変駆け足で恐縮でございます。
パーソナライズドプライシングというものも、これは積み残された
課題としてあるわけでございます。パーソナライズドプライシングというものは、これ、
個人データを活用するなどして
個人ごとに異なる価格を提示するというものでございます。
経済学上様々な
議論があるわけなんですが、飛びまして十三ページ目ですね、
規制すべきかどうかという点については、
規制すべき場合もあるんだろうというふうに考えております。例えば、弱者に対してパーソナライズドプライシングが行われる場合ですとか、人種等のセンシティブ
情報に付け込む、センシティブ
情報を
利用する場合ですとか、弱い
状況に付け込むというような場合があり得るんじゃないかというふうに思います。
規制のアプローチということで、十四ページ目に様々な手法を書いているところでございますが、
消費者保護規制という
意味では、
情報提供をする、透明性を高めるということが重要ではないかというふうに思っております。その手法として様々なことは書いておりますが、消契法の三条の説明義務とか、景表法の五条三号の指定告示で書くとかというような方法があるんじゃないかということを申し上げたいと思っておりますが、いずれにせよ、実態が余り分かっていないので、実態の調査が重要だと思っております。
最後でございますが、十五ページ目でございます。
拝師参考人からも御指摘があったところでございますが、十分な予算と機構定員をお願いできればというふうに思っているところでございます。
本
法案だけでも、指針の
策定、要請、
官民協議会、申出
対応と様々な業務があるわけでございますし、また、モニタリングや政策の立案、
海外当局等の
情報交換があるわけでございます。なので、課長補佐、係長、係員の一ラインでは当然およそ無理でございますので、少なくとも課は無理でも室ぐらいはあるとよいのではないかというふうに思っております。
大変駆け足で恐縮でございましたが、私からの
意見陳述は以上でございます。
御清聴ありがとうございました。