○大門実紀史君
日本共産党の大門実紀史です。
会派を代表して、
所得税法等改正案及び
特例公債
法改正案に
反対の
討論をいたします。
所得税法等改正案に
反対する最大の
理由は、
所得の再分配に逆行するからです。
この二十数年、世界でも
日本でも弱肉強食の新自由
主義が横行し、金融
緩和も進む下で、株の取引など金融
所得を増やす富裕層と、低賃金、不安定雇用に苦しむ人々との
経済格差は広がる一方でした。さらに、
コロナ禍の下で格差は一層
拡大をしています。
昨年、
日本銀行を含む世界の中央銀行は、
コロナ対策として従来にない大規模な金融
緩和を行いました。しかし、大量に供給されたマネーは実体
経済にはほとんど回らず、株式市場に一気に流れ込みました。それが空前の株価バブルをつくり出し、大株主、富裕層を大もうけさせています。
株価上昇が始まってからの十一か月で、資産一千億円以上を持つ
日本の超富裕層三十数人は、資産を十二兆円以上も増やしました。一人
当たり三千億円以上の増加です。
日本人世帯の資産の保有割合も、僅か一%の人
たちが資産全体の約二割を保有するまでになっています。
株価バブルを背景に、銀座の百貨店では貴金属だけが売上げを伸ばし、都心の新築高級マンションは即時完売の
状況が続いています。
その一方で、
コロナ禍で仕事を失ったり収入が減少した人が急増しています。特に、年収二百万円以下の低
所得層の雇用が大幅に減少しており、中でも、職を失った非正規雇用の女性や一人親世帯が厳しい
生活に追い込まれています。今日明日の食べ物にも困り、食料
支援を受けざるを得ない人
たちも少なくありません。
格差の
拡大は、
社会問題であると同時に、
経済成長を阻害する重大問題です。一部の富裕層に富が集中し、そこで幾ら消費が増えたとしても、
国民多数の暮らしが苦しくなれば、国全体の消費は減少します。
経済の六割を占める消費が減少すれば、
経済成長は止まります。
政府が
所得の再分配
政策によって格差を是正し、
国民全体の消費購買力を引き上げることは、持続的な
経済成長を図る上でも不可欠です。
二〇一四年に世界的ベストセラー「二十一世紀の資本」を著したフランスの
経済学者トマ・ピケティの主張が、今、改めて世界のエコノミストから注目され、各国の
政府指導者にも
影響を与えています。
ピケティは、歴史的な分析を通じて、資本の収益率が
所得の
成長率を上回ることを明らかにしました。分かりやすく言えば、額に汗して働くより株取引などでお金を転がした方がもうかるという話です。
したがって、富を持つ者と持たざる者との格差は必然的に
拡大します。特に、長期にわたる金融
緩和で実体
経済の何倍にもマネー
経済が肥大化した現代において、格差
拡大のスピードは一段と速くなっており、
政府による
所得の再分配も急いで実行しなければなりません。それゆえ、ピケティは、早急に富裕層に課税し、富を
国民に還元すべきだと主張してきたのです。
ピケティの主張はアメリカの民主党にも
影響を与え、バイデン氏が富裕層への課税
強化を掲げて大統領に当選、現在、高額
所得者をターゲットにした
所得税の引上げや金融
所得への課税
強化に加え、相続税などの優遇
措置の見直しが検討されています。イギリスでも富裕税導入の機運が高まり、学者などで構成する専門
委員会が、高額
所得者への課税によって大幅に税収増を見込めるとの
報告書をまとめるなど、課税
強化へ動き出しています。
ところが、
日本はどうでしょう。菅政権は、金融
所得課税の税率引上げを見送っただけでなく、今回の
改正で高額
所得者への新たな減税を打ち出しました。富裕層から預かったお金を運用するファンドマネジャーへの減税です。ファンドマネジャーは、年収何億円のプレーヤーと言われるように、自らもファンドに出資をして大もうけをしている高額
所得者です。これら株高で大もうけしている人々に減税を行うことは、格差
拡大をわざわざ助長するものであり、もはや
社会正義に反する行為と言わなければなりません。彼らには、減税どころか増税すべきです。格差是正に逆行する本
改正案に
賛成するわけにはいきません。
次に、
特例公債法の
改正案について
反対の
理由を述べます。
そもそも
財政法では、赤字を補填するための国債の発行は原則的にできないことになっています。そのため
特例公債法を制定し、一年限りの
特例として赤字国債の発行を認めてきました。
しかし、
参議院で
野党が多数になるいわゆるねじれ現象が生じる下で、
予算は通っても、裏付けとなる
特例公債
法案が
参議院でなかなか通らないという
事態が続きました。そのため、二〇一二年十一月、民主、自民、公明の三党合意によって、
予算と
特例公債
法案を
一体的に処理することとし、二〇一二年度から二〇一五年度までの四年間の
特例公債の発行を認める
改正案が可決、成立をしました。
また、二〇一六年には、
安倍自公政権の下で、衆参のねじれが解消していたにもかかわらず、引き続き二〇二〇年度までの五年間の
特例公債の発行を認める
改正案が、自民、公明などの多数で可決されました。
我が党は、放漫
財政を戒める
財政法の趣旨からも、
特例公債については毎年きちんと
国会で
審議すべきものであり、複数年度の発行を一遍に認めることは
国会のチェック機能と
審議権を奪うものであると一連の
改正に
反対し、厳しく批判をしてまいりました。
そういう批判も意識してか、二〇一二年の
改正も、二〇一六年の
改正も、その時々の
財政健全化目標との
関係で
特例公債を発行する期間が決められていました。
例えば、二〇一二年
改正が二〇一五年度までの四年間とされたのは、二〇一五年度にプライマリーバランスの赤字を半減するという当時の
財政健全化目標の期限に合わせたものでした。二〇一六年
改正の二〇二〇年度までの五年間という設定も、二〇二〇年度までにプライマリーバランスの黒字化を目指すという当時の目標期限に合わせたものでした。少なくとも、
財政健全化目標を意識した
法改正になっていたのです。
ところが、今回の
改正案では、プライマリーバランスなどの具体的な
財政健全化目標との
関連付けを放棄しています。これでは、安易な国債発行を禁じた
財政法の趣旨が形骸化され、今後も
政府の裁量次第で何年でもまとめて赤字国債を発行できることになってしまいます。
私は、二〇一二年、今から九年前の
財政金融
委員会において、こんなやり方を一度認めれば恒久的に継続していく危険性があると指摘をいたしました。まさにそのとおりになってしまったのではないでしょうか。
コロナ対応も含め、赤字国債の発行なしに
財政運営が立ち行かなくなっているのは事実です。だからこそ、国債発行についての
議論から逃げるのではなく、毎年真摯に
与野党で
議論すべきではないでしょうか。それが
国会の
責任です。
国会のチェック機能と
審議権を奪い、放漫
財政につながる
特例公債
法改正案は撤回をすべきです。
以上申し上げて、
反対討論といたします。(
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