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高良鉄美君 私は、会派を代表して、
少年法等の一部を改正する
法律案について、反対の
立場から討論いたします。
本
法律案の最大の問題は、立法事実を欠くだけでなく、かえって非行少年の更生を阻害し、再犯増加につながるおそれがあるということです。
参考人
質疑では、三人の参考人から、
少年法は有効に機能していると
答弁があり、改めて本
法律案の立法事実が脆弱であることが示されました。法制審議会のメンバーであった橋爪参考人は、
少年法の有効性を認めた上で、民法の成年年齢が引き下げられたことを法改正の
理由として挙げられました。しかし、民法上の成年年齢とその他の法令上の年齢区分とはそもそも別個の問題です。法令ごとにその特質や
状況等を踏まえて適切な年齢が検討されるべきであり、現に飲酒年齢や喫煙年齢は二十歳に据え置かれたままとなっています。
また、成年年齢の引下げ自体にも多くの問題があります。若年者が消費者被害に遭わないようにするための消費者教育の実施や、万が一被害に遭った際の救済体制の整備、養育費の支払終期が早まるのではないかとの懸念に対する
対応など、数多くの施策が道半ばです。
子供の権利擁護の活動に携わっている弁護士の川村参考人からは、少年院での効果的な教育の中で、少年は本当に反省し、再非行に陥らないように頑張っているとの
認識が示されました。大山参考人からは、自身の立ち直りにおいて、親身になって接してくれた少年院の教官の存在が大きかったというお話がありました。
厚生労働省がまとめた社会的養護経験者の
調査結果では、高校を卒業すると経済的に自立していなくても養護
施設から出ていかなければならないという十八歳の壁があることが分かっています。一方で、十八歳及び十九歳の少年たちは未成熟で、教育や保護が必要との声が現場から上がっています。十八歳及び十九歳の少年たちにも
少年法による保護が必要ではないでしょうか。
実際、厚生労働省の社会的養護自立支援事業では、児童養護
施設等に入所する社会的養護が必要な子供の年齢を必要に応じ二十歳まで延長できることとし、退所後も二十二歳までは児童養護
施設に居住できるとしています。これは、成年年齢に達しても未成熟であって支援が必要であるということを政府が示しているということではないでしょうか。
本
法律案については、少年事件の現場に近い方ほど反対や懸念の声を上げています。少年事件を担当したことのある数多くの元裁判官の皆さん、日弁連や弁護士会、日本女性
法律家協会などから意見書が出されています。共通しているのは、少年
犯罪を防ぐのは厳罰主義ではなく、事件の真相を探り少年を立ち直らせるという
少年法の理念がゆがめられることへの懸念でした。
家庭裁判所
調査官の
調査についても問題があります。今回の改正により、特定少年について、犯情の軽重を考慮した結果、本来中心となるべき要保護性の
調査よりも犯情の
調査が重視され、少年の更生に重要な役割を果たしてきた家裁
調査官の
調査が形骸化され、
調査官の役割を十分に果たし得なくなるのではないかという懸念があります。二〇〇〇年改正によって原則逆送制度が導入された結果、家裁
調査官の
調査が要保護性を十分に掘り下げて検討しない傾向が生じていることが現場の
調査官や参考人からも
指摘され、本
法案の審議においてもその懸念は払拭されませんでした。
これまで、十八歳及び十九歳の少年については、親権者である父母が
法律上監護教育の義務ある者として保護者とされていました。しかし、改正民法が施行されると、
法律上監護教育の義務ある者としての保護者が存在しなくなることになります。そこで、特定少年の保護者については、
法律上監護教育の義務ある者に準ずる形で
法律上明確にすべきであったと思います。
十八歳及び十九歳の少年の原則逆送対象事件の範囲拡大の問題についても、少年事件は減少しており、
少年法が機能していることなどによって少年の再非行は成人の再犯より低いとされています。それなのに、なぜ原則逆送事件の拡大が再犯を含む
犯罪の予防に資するのか、科学的な見解に基づき納得のできる
説明が
法務省からはありませんでした。
特定少年に対する保護処分の期間が限定されていることについても、川村参考人からは、生育上の根深い問題を抱えている少年には時間が足りないことも出てくるのではないかとの
指摘があり、大山参考人からは、事前に期間を決めてしまうと、真に改善をしないで出院を待つようになり、再犯防止の点からは問題である旨の懸念が示されました。少年の改善更生のためには、期間の上限よりも本当に反省が実のあるものに至ることが重要なのであり、この点からも本
法律案には問題があります。
特定少年について、推知報道の禁止を一部解除するということも問題です。
特定少年について、実名などの
情報が
公開されれば、本人やその家族のプライバシーが保護されないだけでなく、少年の更生を図る上で社会から拒絶されるリスクを高めることになって社会復帰の妨げになりかねません。また、報道などにより社会的制裁としての効果を容認することにもつながりかねません。
さらに、
法務省からは、特定少年に対する推知報道の禁止が一部解除された場合の報道の在り方等について、憲法の報道の自由との
関係もあり報道
機関の
判断に委ねるというのが政府の
立場である旨の
答弁がありました。しかし、
少年法の基本理念にのっとれば、報道
機関に推知報道の禁止を解禁するかどうかを委ねていいのか、これは憲法の目的である人権保障の原理及び
少年法の理念からは大きく外れるものであり、この点についても十分な検討がなされていません。
以上のように、本
法律案は立法事実がなく、その
内容も少年の立ち直りには不適切であるということを申し上げ、反対の討論とさせていただきます。
ありがとうございました。