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参考人(
阿部健太郎君) おはようございます。
ただいま御
紹介をいただきました
全国青年司法書士協議会会長の
阿部健太郎と申します。この度、このような
発言の
機会をいただきましたことに改めて御礼申し上げます。ありがとうございます。
当協議会は、
全国約二千五百名の青年
司法書士から組成される任意の
団体であります。様々な社会問題に対し、青年
司法書士の目線で
取組を行っております。創立は一九七〇年、
昭和四十五年であり、昨年で創立五十周年を迎えました。当協議会に関する詳細につきましては、本日
パンフレットを配付させていただいております。こちらの
パンフレットを御覧いただければ幸いです。
それでは、まず、
民法等の一部を
改正する
法律案に関する当協議会の考えについて
意見を述べたいと思います。
今回の
法律案は、
所有者不明土地問題を
解消することを主な
目的としておりますが、その中でも長期
相続未了土地の問題について、お手元の
資料に配付しております、こちらの
資料の一ページ目にも記載させておりますとおり、
市民の価値観や家族観の変容などにより、意思に基づく
遺産分割を行うことができず、
相続が
発生するたびごとに未
分割のまま法定
相続による承継がなされる結果、
権利が分散してしまうことに本質的な問題があると考えております。
私たち
司法書士も、日々執務の
現場で
市民の方から
相談に対応しておりますが、合意形成が困難となる主な理由は四つに分類できると考えております。
一つ目は、核家族化や高齢化などによる当事者の関係性の希薄化が挙げられます。特に、被
相続人の兄弟姉妹が
相続人になるケースでは、高齢であったり代襲
相続の
発生などにより関係当事者が初対面であるケースな
ども珍しくないため、
遺産分割協議を進めることが困難であるケースが散見されています。
二つ目は、合意形成を支援する社会的な
制度や資源の不足が挙げられると考えております。現状、合意形成を行うための社会資源としては
裁判所の役割が大きいところですが、
市民の
裁判への抵抗感や費用
負担、
申立て手続の手間など、利用に際し障壁がないとは言えない状態です。
令和元年度の
司法統計によれば、
家庭裁判所の
遺産分割事件は一万二千七百八十五件であり、
令和元年度の死亡者数百三十八万一千九十三名の一%にも満たない状況であり、同様に、
令和元年度の
相続その他一般承継による
所有権移転
登記件数である百十七万六千二百三十九件と比べても一%となっております。
裁判所での
遺産分割事件数と死亡者数や
相続登記件数を直接比較すること自体には関係性を見出すことはできないとしても、実際に
裁判所で
解決に向けた対応がなされている案件に比べ、高齢化や関係性の希薄化によって合意形成が困難になっている案件などは、必ずしも当事者間に
紛争が内在しているわけではなく、
裁判所での
解決にはなじまないケースも一定数あるというふうに考えております。そのような事例において、合意形成をサポートする
制度や社会資源の不足も一因じゃないかと考えている次第です。
三つ目は、まさに
相続人間にて
紛争が生じ、合意形成が困難である場合です。この場合は、
司法書士が書類作成を行った上で
裁判所への
申立てを行ったり、弁護士を
代理人として依頼し、
解決を模索するような案件です。
四つ目は、
不動産の利用価値及び経済価値が無価値又は限りなく僅少であり、換価も困難であるため、
遺産を承継する
相続人が、
遺産承継をすることが
相続人の
負担となってしまう場合です。このような場合、結果として承継先が決まらず、放置されることとなる場合があります。
本日は、実際に当協議会の
会員が受託した案件の
相続関係を、守秘
義務に考慮し、加工して図示した
資料も配付しております。
配付
資料二ページ目は、兄弟
相続が
相続人であり、関係当事者が十七名いる
事案です。三ページ目は、
高齢者になる配偶者が自宅を
相続するに当たり、他界した配偶者の兄弟姉妹に
連絡し、合意形成をしなければならないという
事案です。いずれのケースも関係当事者間の関係性が非常に希薄であり、
住所や電話番号などといった
連絡先さえも
把握しておらず、当事者だけでは合意形成が困難であったことから、
登記手続に関する
相談を端緒として
司法書士において支援を行った結果、合意に基づく
権利確定を行うことができた
事案となっております。
このように、関係当事者のみでは合意形成が困難である場合にどのようにして合意形成を支援していくのか、この点が非常に重要になると考えております。
長期
相続未了問題の本質については、これまで申し上げてまいりました関係当事者間による合意形成の困難さにあると考えておりますところ、今回の
法律改正がどの程度有効であるのか、しっかり検証が必要であると考えております。
相続登記を
義務化し、新たに
相続人申告
制度を導入することで、確かに、これまでと比べ、
相続人を
把握し、関係当事者の
連絡先を知る端緒を確保するという意味において一定の効果は期待できるかもしれません。しかしながら、先ほどから申し上げておりますとおり、合意形成に至らなければ長期
相続未了の
解決に資することはなく、その点において、今回の
法改正では対応が行き届いていない
部分が存在するのではないかと考えております。
当協議会では、
相続登記の
義務化に関し、二〇二一年二月二十五日付けにて会長声明を発出いたしました。会長声明では四つの点について指摘させていただいております。本日は、そのうち二つについて、お時間をいただいて御
説明させていただきたいと思います。
まず、
一つ目の
課題は、先ほどから申し上げておりますとおり、
相続登記の
義務化と長期
相続登記未了の
解消の整合性に関する指摘となります。こちらにつきましては、本日配付
資料四ページにも図示させていただきましたとおりであり、本質的
解決に必要となる合意形成に至らないケースが増える結果になることを危惧しております。
相続人申告登記につきましては、新しい
制度であるため、
運用面などの詳細については今後検討されるものと思われますが、本日配付
資料五ページに記載のとおり、様々な
課題があると考えております。
特に、兄弟姉妹が
相続人であるケースなどでは、
相続人申告登記に必要となる戸籍の収集も相応な
負担となることが予想されますため、
市民の
負担軽減に寄与するとも限らず、また、二次
相続など、今後
相続が複数世代にわたって
発生した場合の
登記記録方法などにも
課題が残ると考えております。
戸籍収集に関しましては、戸籍法が
改正され、広域交付などの導入も準備されており、また、四月十三日の参議院
法務委員会において、山添議員の
質疑に対する政府答弁において、
相続人申告登記の添付書類の範囲は工夫し検討を行う旨が答弁されておりますので、今後
負担軽減などが検討されることとは存じますが、どこまで
負担軽減が図ることができるのか注視をしているところでおります。
二つ目の
課題といたしましては、
登記名義人の
住所、氏名の変更について
登記を
義務化する点についてであります。この点については、
個人情報やプライバシーの
観点から
課題があると考えております。
今回の
法改正により、
所有権登記名義人は
住所、氏名につき
登記記録上に公表することが
義務付けられることになります。
しかし、近年の
個人情報への
意識の高まりに対し、逆行する施策であるのではないかと感じているところです。この点につきましては、現
登記制度においても、
登記申請を行うことで
登記記録上に
住所、氏名が公示される点、
財産分与などの
登記原因も公示されるため離婚といった身分事項まで
登記記録から推察できてしまう点、抵当権の債権額などが公示される点などについて、
市民の
意識や感覚と
登記事項を広く公示する
必要性との調整を行うべき時期に来ているのではないかと考えているところです。
所有権登記名義人の
住所、氏名の変更を
義務化することで、婚姻や離婚、養子縁組といった極めて私的な身分事項であり非常にセンシティブな事項が
登記記録から容易に推察できる状態となります。
登記の公益的な側面を強化するとの考えは
理解できるものの、利用者たる
市民の
理解が得られるのか疑問視しており、本
改正にて手当てしているDV被害者などのケースに限らず、
登記名義人の
個人情報やプライバシーに配慮した形での
制度運用が必要であると考えております。
長期
相続登記未了問題の
解消に当たっては、
発生の予防と利用の円滑化という二つの側面から総合的かつ本格的な
対策を行う必要があり、様々な施策をパッケージにて実施することを検討している点は
衆議院の審議などでも繰り返し答弁がなされているところです。
発生予防の
観点から、遺言や信託を始めとした生前の
財産承継に関する支援体制の拡充が重要であるのはもちろんのこと、利用の円滑化につき以下の二点の視点から支援体制の
必要性を提言し、
意見陳述のまとめとさせていただきたいと思います。
一点目は、本日の
意見陳述において終始一貫して述べてまいりました合意形成支援については、まずは
裁判所における
手続の利便性を向上させ、夜間、休日の調停の拡大やウエブの活用、
申立て費用を始めとする経済的支援などを行うことが必要であると考えております。
また、様々な機関や
専門家の助力を得ながら、
市民の意思に基づく合意形成を後押しする新たな施策が重要であると考えております。特に、関係当事者間において
紛争性が顕在化しておらず、人間関係や年齢などが要因で合意に至らない
事案などにおいては、第三者が中立的な立場で関係当事者の交通整理を行うことで合意形成ができる場面も多いため、
ADRの活用や各種
専門家が支援できる環境の整備を含め、広く社会資源の活用を検討することが必要であると考えています。
相続登記の
義務化により、法定
相続による持分
登記や
相続人申告登記のみがなされ、終局的な
権利の
帰属が確定しないという状態にならぬよう、
市民への
周知を行い、
遺産分割に基づく
登記を
促進し、長期
相続未了問題の
解決に資することは、私たち
司法書士が担う
責務でもあると強く考えております。
四月十三日の
法務委員会の審議において、上川法務大臣より、
相続登記や
遺産分割を取り扱う
司法書士などの
専門職者と十分に
連携することが重要との御
発言もいただいておりますので、
登記手続や
裁判所提出書類の作成などの
業務を通じて、我々
司法書士も引き続き合意形成の支援を積極的に行ってまいりたいと考えております。
また、二点目は、関係当事者のいずれも承継を望まない
不動産などについては、モラルハザードとの均衡を考慮しつつ、国土利用の
観点から、国や市町村が
管理する受皿の拡大の
必要性を感じております。
私人にて
管理する
意識が低下し、事実上
管理がなされていない
不動産について、
相続登記を
義務化し、
土地所有者の
責務としての
管理を求めたとしても、結果として不完全な
管理しかなされず、
土地の利活用には寄与しないケースも出てくるのではないかと考えております。
土地の計画とともに
権利関係が更に複雑化する可能性もあるため、
土地の利用に関し国、地方公共
団体が積極的に関与することが求められると考えております。関係当事者だけでは
解決が困難である
事案などでは、国や地方公共
団体が積極的に対応することが求められ、
土地の利活用に関する様々な
情報提供や広報を含めた
周知も重要となります。
日々、
相談の
現場で
不動産に関する様々な
市民の声を耳にし、最前線で対応している我々
司法書士も、
相談を通じて様々な施策や
制度を教授するなど、
周知への役割も果たしていく責任があると改めて感じているところです。
所有者不明土地問題は我が国が直面する大きな社会的
課題であり、当協議会の問題
意識及び
解決に向けた提言が
課題克服に向けて少しでも寄与するものであれば幸いです。
以上をもって私の
意見陳述とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。