○
参考人(
是枝俊悟君) よろしくお願いいたします。
是枝俊悟と申します。
スライドの一
ページ目にお示しのとおり、大和総研にて証券税制を中心とした金融
制度や税財政の
調査分析を行っているほか、
女性や男性の働き方や
子育てへの関わり方についてもライフワークとして研究しており、
情報発信を行わせていただいております。今年より、東京都男女平等参画審議会の
委員も務めさせていただいております。
私自身、長男の誕生の際に約二か月、長女の誕生の際に約一か月の育児休業を取得させていただき、妻とともに共働きで
子育てを実践中でございます。長男が四歳、長女が二歳で、妻もフルタイムで働いている
状況で、今この場に立たせていただいているのも、
保育所が
整備され、
保育所の先生方が私たちの
子供を見ていただいているおかげであります。そういった点から、本日
意見を述べさせていただきます。
本日述べさせていただく
意見は、所属する機関を代表するものではなく、一研究者及び一
当事者の
意見とさせていただければと存じます。
それでは、二
ページに
意見概要をお示ししております。
まず、概要を述べさせていただきますと、増税など追加的な安定
財源の
確保が難しい中で、
子ども・
子育て予算に係る
支援について、予算について、より重点化すべきところに組み替えていくべきではないかと思っております。
過去十年ほどにおいて、先生方の努力のおかげで
子ども・
子育て支援の予算は大きく
拡充されました。これに加えて、労働環境の
改善も相まって、出産後も継続して働く
女性というものの数は大きく増加したところでございます。これによって、
子育て世帯の
世帯収入は増加傾向にありまして、高
所得の共働き
世帯の数も増えてきたというところです。
幼児教育無償化による
保育料の軽減については、特に共働きで
世帯収入の高い
世帯ほど相対的に大きいものとなりました。他方で、なおも待機
児童というものは存在し、雇用が不安定な方ほど
保育園に入りづらいという
状況にあり、
保育園に入れないから、なお雇用が不安定になるという悪循環も残っているところでございます。
こうした背景を踏まえますと、待機
児童解消に向けた
財源の
確保のために、企業にも一定の御負担をお願いする中で、高
所得の
世帯に現在の
児童手当や
特例給付の一部を譲っていただくようにお願いすべきではないかと存じます。ただし、その際の
所得制限の線引きについては、現行の主たる生計の維持者という考え方ではなく、
世帯合計の
所得で行うことが適当ではないかと思っております。
それでは、三
ページを御覧ください。三
ページは、
日本の
家族関係支出の推移と、国際比較をしたものでございます。
二〇一〇年頃においては
日本の
家族関係支出は対GDP比で一・二%ほどでありまして、OECD諸国の中でかなり最下位に近い水準でございました。しかしながら、近年の育児休業給付の
拡充や取得者の増加、また二回の消費税率引上げ
実施とともに
保育の受皿
拡大や
幼児教育無償化が行われたことがありまして、足下、二〇二〇年度は、私
どもの推計ではございますが、GDP比一・九%弱と推計されるところで、OECD平均の、二〇一七年の数字にはなりますが、二・一%
程度にかなり近い水準になってきたというところでございます。
国民負担率がOECD平均に満たず、財政赤字が非常に大きい、財政が非常に薄氷の上を歩み続けている
我が国において、安定的な
財源の
確保なしにこれ以上
家族関係支出の総額を大きく増やすというのは難しい
現状にあるかと思っております。
四
ページ、御覧いただけますでしょうか。四
ページは、
保育所の定員数と育児休業取得者の推移について見せたものでございます。
二〇一〇年から二〇二〇年にかけて
保育所定員数は二百十六万人から二百九十七万人に八十一万人、枠が増加いたしました。六歳未満の
児童の人口に対する割合としては、三四%から五三%に一九ポイント上昇したところでございます。
これにあわせて、二〇〇九年から二〇一九年にかけて
女性の育児休業取得率が大幅に上昇したところでございます。
女性の育児休業取得率といいますと、一般的に用いられている
調査では、在籍者、職場の在籍者に対する
女性の育児休業取得者の割合で八割から九割と報道されているのが一般的かと存じますが、出生数、
子供が生まれた数に対する育児休業給付金を受給した
女性の割合というもので測りますと、これは二〇〇九年時点で一七%の水準で、足下、二〇一九年にようやく四一%まで上がってきたというところです。現在、男性の育休が
政策課題としてされているところですが、
女性の育休取得率も実はまだ四割ほどしかないというのが
現状でございます。
育児休業を経ることができれば、出産の直前まで職場にとどまり、産休、育休という過程を経ることができれば、平均して百五十万円ほどの育児休業給付金を受け取ることができるのですが、職場にとどまることができない、自分の希望の場合もあるのかもしれませんが、何らかの事情によって一度仕事を離れてしまうということとなりますと、その後、仮にすぐに
保育所を
利用して職場復帰する、再就職するようなことがありましても、これだけの額の
支援がいただけないということになっているところでございます。
現在は四一%の方が育児休業取得してそのまま職場に戻ってくるということができるようになっておりまして、少しずつですが、妊娠、出産する
女性が
産前産後休業、育児休業を取得し、
保育所を
利用しながら職場に復帰するということが一般的な社会ができつつあるというのが
現状でございます。
そうした中で、
子育て世帯の
世帯年収がどのように変化したかというのが五
ページの
スライドでございます。五
ページの
スライドでは、三十代の
子育て世帯、夫が三十代で夫婦と子から成る
世帯の
世帯年収の分布の変化を示してございます。
出産を経ても正規雇用のまま就業継続できるという
女性が大きく増えたため、特に三十代、未就学児の持つ共働きの
子育ての
世帯で
世帯収入が大きく増加しているところでございます。特に二〇〇七年から二〇一七年にかけて、
世帯年収が一千万円以上を得る三十代の
子育て世帯の割合は六・九%から九・九%に三ポイント上昇しているというところでございます。夫婦とも
年収五百万円ずつを得れば
世帯年収は一千万円になる、こうした働き方は十年ほど前であればなかなか実現が難しかったのですが、今着実に増えてきているというところでございます。
六
ページは、
幼児教育無償化による
保育料の負担軽減についてでございます。
従来、認可
保育所や
子ども・
子育て支援新
制度に基づく
幼稚園の
保育料につきましては、高
所得世帯ほど高いという応能負担の原則、そしてまた、
保育時間が長いほどより高くなると、
幼稚園より
保育園の方が
保育料が高いという応益負担、応能負担、応益負担の原則で設計されていたものでございます。こちらにつきまして、二〇一九年十月より三歳以上は一律に
無償化されることとなりますので、従来と比べた家計の負担の軽減額は特に共働きで
世帯年収の高い
世帯で大きくなったというところがございます。
七
ページは、待機
児童数の推移でございます。
待機
児童数は近年減少傾向にありますが、二〇二〇年度の年初においてもなお一万人以上存在するところでございます。
自治体による
保育所利用者の選考においては、求職中の者よりも現に就業している方が優先されることとなりますので、雇用が不安定な
世帯ほど
保育所を
利用しにくく、
保育所を
利用しにくいからこそより雇用が不安定になるという悪循環に陥りやすい
状況にございます。
保育所という
現物給付、育児休業給付という
現金給付というのがあり、主に雇用の安定した高
所得の共働き
世帯に偏ってきた面があるのではないかと私は考えております。OECD諸国に比べてまだ少し少ない水準ではありますが、それほど遜色のない水準まで総額が
拡大してきた中、
財源を配分する際には、今まで
支援が行き届いていなかった
世帯に重点化していくという
視点が大事ではないかと思っております。こうした中、待機
児童解消に向けて追加の
財源が必要となる中で、企業にも一定の負担をお願いしていることを踏まえれば、高
所得の
子育て世帯に少し既存の給付を譲っていただけないかというふうに思っております。
次の
ページが、共働き
世帯と片働き
世帯の税、社会保険料の負担について述べたものでございます。
日本の税制は個人単位の課税になっておりまして、個人単位の収入で累進税率を適用するものでございます。このため、同じ
世帯収入であれば共働き
世帯の方が税負担が少なくなるという、共働きに優しい
制度設計になっております。よく配偶者控除や第三号被保険者があるから
日本は専業主婦
世帯を優遇しているのではないかと言われるところなんですが、同じ
世帯年収であれば共働き
世帯の方が税負担が少ない、むしろ専業主婦
世帯の方に厳しい税制、社会
保障制度であると言えることができるかと思います。
児童手当の
所得制限につきましても、主たる生計の維持者の
所得で行うため、共働き
世帯の方がより
世帯収入が高くとも満額の
児童手当を受給できるという構図にございます。
例えば、
資料でお示ししている表では、同じ小学校の
子供一人で
世帯年収一千万円の
世帯で、夫のみが
年収一千万円を得る
世帯と夫婦とも
年収五百万円ずつを得る
世帯の税負担の比較したものですが、こちらは片働き
世帯より共働き
世帯の方が年五十一万円税負担が少ないということになっております。加えて、
児童手当においても
所得制限の
対象となるか否かにより年六万円の差が生じることとなりますので、手取り収入では合計で五十七万円の差にもなっているというところでございます。
こうした中、待機
児童解消に向けた
財源の
確保のために現在の
児童手当や
特例給付を見直すということであれば、その際の
所得制限の線引きは、主たる生計の維持者の
所得で行うのではなく、
世帯合計の
所得で行うことが適当ではないかと思っております。
夫婦共働きで小さい
子供がいると、毎日の生活が本当に大変だと思います。私自身、妻とともに四歳と二歳の
子供を育てる中で、仕事を何とか早く終えて家事、育児を必死で回す、そんな生活をやっております。目が回りそうな毎日の中でこれだけ必死に頑張っているのに、何で頑張ったら
児童手当を削られるのかという声も友人などからたくさんいただいているんですけれ
ども、でも、一歩立ち止まって考えていただけないでしょうか。
私たちは、
保育所や育児休業給付などの
支援をいただいたおかげで今共働きを実現できているということでございます。そして、夫婦とも正規雇用で働き続けている
世帯というのは全
世帯のうちかなりの上位
所得層でございます。先ほど
末冨先生からの御
発言にありましたが、
年収八百万円以上の現役
子育て世帯で受益より負担が大きいということはある種当然なのではないかと思っております。平均よりも
世帯収入がある
世帯において受益の方が大きいとしたら、一体その負担は誰がしなければならないというところでしょうか。
私自身も
世帯年収で見れば高
所得層に分類されるとは思いますが、
少子化対策を
充実させていくためには、こうした
人たちが自分の
子供だけではなく社会全体の
子供を育てるためにもう少し負担を受け入れていく必要があるのではないかと思っております。
以上で私の
説明を終わらせていただきます。