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参考人(
澁谷智子君) よろしく
お願いいたします。
最後の回になります。
では、今日はヤングケアラー、なぜ
子供がケアを担うことになるのかについて
お話しさせていただきたいと思います。どうぞよろしく
お願いいたします。(
資料映写)
まず、ヤングケアラーとは、慢性的な病気や障害、精神的な問題や依存症などを抱える
家族の世話をしている十八歳未満の
子供や若者のことを指します。ヤングケアラー
支援の進むイギリスでは、具体的には五歳から十七歳の
子供がヤングケアラー
調査の対象となっています。ヤングケアラーの多くは、小学生、中学生、高校生といった学齢期の
子供たちですね。
日本
社会において、
子供が
家族のケアをするということは、
家族の助け合いとして捉えられ、むしろいいことではないかというふうに捉えられてきました。しかし、多くの場合、それは漠然としたお手伝いの
イメージで捉えられていて、何歳ぐらいの
子供が、一日にどれぐらいの時間、どんなタイプのケアを行っているのか、なぜその状況が起きているのか、その実態をより踏み込んで把握しようとすることは今まで余りなされてこなかったように思います。
例えば、家庭でのお手伝いとヤングケアラーの境界線はどこにあるのかという疑問がしばしば聞かれます。
お手伝いというのは、
子供の年齢や成長の度合いを考慮して与えられる範囲のことではないかなと個人的には思います。頑張ればできるようなことを
子供にしてもらって、それをすることによって
子供は達成感を得られたり、あるいは感謝されたりして、そこから
子供が得ていくものもあります。このように、
子供が
子供としての
生活ができる範囲で、家庭で求められる
役割を果たしていくのがお手伝いではないかと思います。
一方、
子供の年齢やその成長の度合いにしては重過ぎる責任や
作業を継続的に
子供が担わされていくと、周りはまさか
子供がそういうことをしているというふうには思っていませんので、その年齢の
子供や若者として想定される
生活ができず、結果として
子供自身の
心身の健康や、それから安全、そして教育に影響が出てきてしまうことがあります。必要に迫られて、年齢とかにも、もう度外視するような形で重過ぎる責任が掛かってくる、これがヤングケアラーの置かれている状況になるかと思います。
では、なぜ近年こうしたことが注目されるようになってきたのでしょうか。
実は、
家族の
領域というのはこの数十年で大きく変化しています。例えば、一世帯当たりの人数、これは一九五〇年代前半に比べて半分になりました。それから、共働き世帯は一九八〇年からの四十年間で倍になっています。そして、母子世帯は二十五年間で一・五倍、そして父子世帯は一・三倍になったと言われています。
家族の人手、そして
家族が家に掛けることのできる時間というのは相当に減ってしまっています。
一方で、先ほどの
お話にもありましたとおり、日本人の平均寿命、余命と言った方がいいんですかね、平均余命は世界トップ
レベルで延びていまして、しかも健康寿命は十年短い、約十年短い状況です。そういうふうに考えていきますと、人生の晩年には誰かに支えられる十年があります。そして、このように
高齢者の数も増えていますし、一方で精神疾患を持つ方の数も増えています。このように、ケアを必要とする人は増えている状況で、そしてそのケアをすることは
家族がするというふうに期待されています。
日本は、一九九〇年代前半に、人口オーナスの時代、つまり十五歳から六十四歳の生産年齢人口が総人口に占める割合が少ない時代に入ったと言われています。そうですね、人口減少の中で働き手を確保しなければならないということがまず
経済の
領域で言われるようになりました。そのために、女性も、そして元気な
高齢者も労働市場で働くということを推奨されていまして、そのための環境整備も進んでいるかと思います。
でも、家庭の
領域はどうでしょうか。ケアを必要とする人は増えて在宅
福祉が推進されているのに、大人は労働市場に駆り出されて、家庭に掛けられる時間やエネルギーは減っています。
具体的に時間ということに注目して見ていきたいと思います。
例えば、ちょっとこれ、表の字が小さくて本当申し訳ないんですけれ
ども、そうですね、
子供がいる共働きの世帯というのは
子供がいる専業主婦世帯よりも家のことに掛けられる時間が少ない
状態であるというのが示したのがこの表になります。こちら、二〇一六年の総務省の
調査なんですけれ
ども、共働き世帯ですと、家事関連時間というのは、妻が四時間五十四分、そして夫は四十六分ですけれ
ども、専業主婦世帯ですと、妻が七時間五十六分、そして夫が五十分ということになります。やはり共働き家庭の方が家のことに掛けられる時間は短くなっているわけなんですけれ
ども、子育て期の一人親世帯は更に家のことに掛けられる時間が少ないです。女性の場合ですと三時間五十九分、男性に至っては一時間九分ということになっています。
このように、
経済的な事情から大人が働かざるを得ず、労働で疲弊した大人が家庭のケアをするのが十分できなくなったり病気や障害を抱えたりする中で、大人のようには稼げない
子供が
家族を支えようとケアを担っているところはあると思います。
皆さん、考えていただきたいんですけれ
ども、ケアというのは、そばにいる、その人のそばにいる、そして時間やエネルギーをそこに使うということが大切になってくるところがあります。例えば、今私がここにいるということは、私は今
子供のそばにいないということで、私は今ケアをしている
状態ではないということになります。なので、やはりケアということを考えるときには、やはりその時間にそこにいることが大切になってきてしまうというところがあるんですけれ
ども、ある
意味、
社会ではケアを度外視した働き方というのが標準的になって、その働き方を進めてきてしまったところがあると思うんですね。そのことが結果として
子供や若者から時間やエネルギーを奪っているという構造が私はあるのではないかというふうに思っています。
ヤングケアラー
支援が世界で最も進んでいるのはイギリスなんですけれ
ども、そのイギリスの一九九五年のヤングケアラー
調査の報告書では、今後、
子供がケアを引き受けることへの需要は増えていく可能性が高いというふうに指摘されました。具体的に言いますと、
高齢者の増加、そして
家族の世帯人数が減っているということ、そして
家族というユニットそのものがかなり不安定なものになってしまっている、そういう状況が指摘されたんですけれ
ども、こちら、ヨーロッパの全ての国々でそういうことが見られるというふうに言っていますけれ
ども、同じ現象は日本でも起きています。さらに、日本では、ヨーロッパに比べまして、長時間労働、そして非正規雇用者の
経済的不安定さというものも顕著になっています。
日本
社会の構造として、家庭のことが
仕事よりも後回しにされ、その空白を
子供や若者が埋めざるを得なくなっている状況があると思います。家庭では、
子供をケアに向かわせる力というのは大きく働きます。けれ
ども、
子供がケアをすることを止める力は働きにくい構造があります。まず、
子供がケアを担ってくれると、
家族は有り難いんですね、ありがとうと感謝します。そうすると、
子供はもっと頑張ろうとします。
子供が
家族の役に立とうとすること自体はいいことかもしれないんですけれ
ども、
自分のことができなくなるまでケアを引き受け過ぎないように、やはり
家族以外の人が、
家族の外の人が
子供の負担を軽減する方法を真剣に考えていくことが必要とされていると思います。
ヤングケアラーは、ケアを担うケアラーである前に、成長途中にある
子供なんですね。やはり、
子供である以上、不適切な
レベルのケアを負って、その安全や教育や成長を脅かされる事態というのは避けなくてはいけないと思います。
こちら、先ほ
どもイギリスは進んでいるというふうにお伝えしたんですけれ
ども、イギリスの
医療というのは実は国営が基本になっています。ただ、その国営のホームページで、ヤングケアラーであること、あなたの権利というページがありまして、こういうメッセージが出されています。読んでみます。
もし、あなたが十八歳未満で、障害や病気や精神的問題や薬やアルコールの問題のある
家族のお世話を手伝っていたら、あなたはヤングケアラーです。ヤングケアラーなら、あなたは恐らく、親のどちらかか、きょうだいの面倒を見ているでしょう。さらに、あなたは、料理、掃除、誰かの脱ぎ着や移動を手伝うなど、家の中の
仕事もしているかもしれませんと書いてあります。
さらに、この続きには、ケアに関するあなたの選択肢という欄もあります。更に読ませていただきます。
家族の誰かが世話を必要としていたら、あなたは助けたいと思うかもしれません。でも、あなたはヤングケアラーとして、大人のケアラーと同じことをするべきではありません。また、誰かのケアをするためにあなたの時間を多く使うべきでもありません。それは、あなたが学校でしっかり勉強したりほかの
子供や若者と同じようなことをしたりする妨げになることがあるからです。あなたがしたいと思う、あるいはしてあげられると思うケアのタイプと量を判断するのは大切です。また、そもそもあなたがケアラーとなるべきなのかどうかを判断するのも大切ですとあります。
さらに、ここでは、障害のある全ての大人は
子供に頼らなくてもよいよう、そのニーズによって行政からサポートを受ける資格があることが説明されています。でも、
子供はこうしたことを知りません。知りませんので、やはりこうしたことを
子供が分かるような方法で
子供に伝えていくということが必要になってくるかと思います。
去年、埼玉県では、埼玉県内全ての高校二年生五万五千人を対象として
調査が行われまして、千九百六十九人がヤングケアラーとして分析されました。二十五人に一人の高校二年生がヤングケアラーとしての経験を持っていたことになります。
高校生がケアをしているのは、お母さんとおばあちゃんが多いという結果でした。
子供がケアをする状況は、日本
社会でケアの担い手と想定されてきたお母さんやおばあちゃんがケアを必要とする場合に起きやすくなっているということがうかがえます。
では、どれぐらい時間を使っているのでしょうか。
こちら、学校のある平日では、ケアに掛ける時間として、一時間未満が四割、そして一時間以上二時間未満が三割近くいるということが分かります。四時間以上と答えた高校生も百七十二人いました。
私の家にも実は高校生がおりますけれ
ども、大体朝八時過ぎには学校に行って、家に帰ってくるのは、部活のある日は大体七時ぐらいになるかと思います、夜七時です。もし、そこから二時間ケアをすれば、
自分のことをする、
自分のことができる時間というのは夜九時になりますし、そこから四時間ケアをすれば、
自分のことができるのは十一時ということになります。夜十一時になってようやく宿題をできるかなというような、そういう状況ですね。やはり、ケアの時間ということを考えるときには、大人を基準に考えるのではなく、それが高校生にとってどういう
意味を持つ時間数なのかということを考えていく必要があると思います。
これは、どんなケアをしている子がどのぐらいの時間ケアをしているのかを示した
グラフになります。この六〇%のところで縦に線を引いてみました。そうしますと、このラインで灰色以上になる、つまり平日に二時間以上ケアしている人の多い項目というのが実は幾つかあります。具体的に言いますと、家計
支援、これは
家族のためにバイトで働くなどです。それから
医療的ケア、これはチューブを使った経管栄養の管理とか、それからたんの吸引などがこれに当たります。それから金銭管理、請求書での支払とか銀行でのお金の出し入れなど。それから通院介助、病院への付添いです。そしてきょうだいのケア。こういうものが割と多くなっています。
こういうケアをしている高校生たちは、全体で見てみますとそれほどパーセンテージとしては多くはないかもしれないんですけれ
ども、こうした種類のケアをしている
子供、若者たちはかなり重い責任を負って、長い時間ケアに費やしているということは見ることができると思います。
一般にヤングケアラーがしていることとして多いのは、この上にありますとおり、家事、食事の用意や後片付け、洗濯、掃除などそういうものと、それから下の方に、下から三つ目の感情面のケアですね。感情面のケアというのは、その人のそばにいる、見守る、元気付けるなどで、例えば、
認知症のおばあちゃんがお財布を取られたと言ったりする、もう三十回も四十回も言ったりするのに、ゆっくり聞いて、そんなことないよと言ってもおばあちゃん納得しないので、うん、そうかとか、で、今度こういうことあるんだけどねみたいな気をそらしてあげたりとか、あるいは、
自分は生きている
意味がない、死にたいと泣くお母さんの話を何時間も聞いて慰めるとかですね。こうしたケアというのは、
子供にとってはかなり忍耐の要るケアです。感情面のケアは
子供の年齢が幼くても担っている割合が高いということがイギリスの
調査結果で出ています。
それから、こちらは学校のある平日の一日当たりのケア時間と学校
生活への影響をまとめたものです。ちょっと数字だらけで済みませんが、埼玉県の
調査結果を基に、それを比較しやすいように表にまとめてみました。数値の単位というのはパーセントになります。一時間未満というのが七百九十五人いて、八時間以上は三十人ですから、母数がかなり違うので、純粋にパーセントの比較をするというのは注意が実は必要なんですけれ
ども、それでもある程度の傾向は見えるところがあるように思います。
まず、学校
生活への影響がどこで最大に出るのか、これを見ていきますと、学校のある平日に一日四時間以上六時間未満のケアを行っている高校生たちであるということが分かるかと思います。赤で示したところになります。この高校生たちは、勉強の時間が十分に取れないと強く感じ、成績が落ちたと感じ、
自分の時間が取れないと感じ、そして睡眠不足を抱えています。遅刻はしながらも学校へ行こうとして、友人と遊ぶことができない、アルバイトができない、部活ができないと感じ、ストレスも一番高いです。何とか学校
生活との両立を図ろうと努力して、同
世代の子たちと同じような
生活をしようともがいているのがこの層ではないかと思います。ところが、平日の一日当たりのケア時間が六時間以上になると、もういろんな
意味で諦めてくるのかなというふうに思います。もう頑張れなくなったり意欲を持てなくなったりする局面が増えてくるように思います。
今度は、この色を付けたところなんですけれ
ども、ケア時間が多くなると、じゃ、
子供にとってどういうところから影響が出てくるのかを考えてみたいと思います。
一番左の欄ですと、このブルーにしたところですけれ
ども、ケア時間は多くなくても、ケアについて話せる人がいなくて孤独を感じる、ストレスを感じているというのが二桁のパーセンテージになっています。次に、その隣の一時間以上二時間未満の人たち、紫のところになりますけれ
ども、孤独とストレスに加えて、
自分の時間が取れない、勉強の時間が十分に取れないということが認識されています。それから、二時間以上四時間未満になりますと、友達と遊ぶことができない、睡眠不足、体がだるいというふうに高くなりまして、そして、四時間以上六時間未満になりますと、このようにいろいろな項目でぐっとパーセンテージが上がるかと思います。この辺りは後で見ていただきたいと思います。一日のケア時間が八時間以上になりますと、ストレスは実は減るんですね。減るんですけれ
ども、一〇%を超えるようになってくるのが、周囲の人と会話や話題が合わない、学校を休みがち、進路についてしっかり考える余裕がないといった項目です。体のだるさ、しっかり食べていない、授業に集中できないという答えも高くなっています。
では、高校生たちはどういうところからケアの影響を受けていくのかというのを整理したいと思います。
まずは、
自分の精神面への影響があり、そして
自分個人で使う時間への影響があって、そして友人との
関係、そして体調への影響があって、そして、この四、五の辺りになりますと、学校
生活の体面を保つことへの影響が出てきます。そして、最終的にその将来への影響という順序をたどるのではないかと思います。
今の状況ですと、ヤングケアラーは学校に行けているなら大丈夫とみなされがちなんですけれ
ども、これはこの六の最終的な局面になってからようやく
支援につながれるかどうかという状況であるということが分かると思います。ここに至るまでに、ヤングケアラーたちがしんどさや孤立感、大人に助けを求めてもしようがないという感覚を持ってしまうのは当たり前であるように思います。
一方で、
子供がケアを担う
状態というのは、単に
家族が病気や障害を持っているからというだけでは発生しないということにも目を向けたいと思います。
こちらはヤングケアラーのスクリーニングシートのガイドラインなんですけれ
ども、ここでは、親の病気や障害は
子供がケアを担う状況を引き起こす可能性があるきっかけとしてのみ見られるべきですというふうにあります。そして、このヤングケアリングというのは、病気や障害のある大人が親としての
役割を果たすことへの
支援において、適切な
医療や
福祉のサービスがなかったり、
効果的でなかったりする場合に起こりますとされています。
実際、今の
医療や
福祉のサービスは、ケアを必要とする人がケアをする側でもあるということが十分に考慮できていないことが多々あります。病気や障害のある親は、サポートが欲しいと思っても、親としての
役割を十分に果たしていないと思われるのではないかというおそれを持ち、なかなかそれを言い出すことができない。そうすると、その状況は誰にも気付かれず、結果として
子供がケアを担うことになります。
繰り返しお伝えしますように、
子供がケアを担う状況は、
家族のことは
家族でという圧力が強く働いている
社会のしわ寄せが
社会でも家庭でも弱い立場にある
子供に行っているということが言えると思います。
子供であっても
介護力と見られがちです。
家族は余裕がありません。学校の先生は家庭のことまでは分からない。そうすると、
家族の状況を把握した上でケアをする
子供の立場にとって相談に乗れる専門職はいるのかということになります。
もう時間になりますので、もうはしょりたいと思うんですけれ
ども、
家族の力が以前より弱体化していることを考慮しないまま、
家族の助け合いを前提としてしまうと、結果として
子供や若者にそのしわ寄せが行っている。そして、実際に
家族を重荷やリスクとして感じた
子供たちは将来
自分が
家族を持とうという気持ちになれるのだろうかということも問いかけてみたいと思います。
ヤングケアラーが
自分の力を完全に発揮できるようにというのが、世界の国際的なヤングケアラー会議で掲げられていることです。こういうことを考えていく必要があるのではないかと思います。
以上です。