○
参考人(
井上久美枝君) ありがとうございます。
ただいま御指名いただきました連合の
井上です。
本日は、このような機会をいただき、感謝申し上げます。
私は、雇用
環境・均等分科会の
委員として、今回の育児・介護休業法の見直し議論に関わってまいりました。本日は、働く者の立場から意見を述べさせていただきます。
初めに、育児をしながら働く者の状況について触れます。
育児休業取得率は、女性が八〇%台で推移している一方、男性は七%台にとどまっています。これは、根強い固定的性別役割分担意識が、社会、企業のみならず当事者にも影響しているものと思われます。連合が昨年十月に男女千名を対象に行った調査でも、仕事と育児の理想を聞いたところ、男性は仕事を優先、女性は育児を優先が多く、さらに、男性はパートナーである女性に対して育児を優先、女性はパートナーである男性に対して仕事を優先を求める割合が多いことが分かりました。
また、配付資料にもありますが、男性育休の取得促進に向けた課題として多く挙げられるのが、代替要員がいない、長時間労働などの人手不足、周囲の無理解などの両立しづらい雰囲気、経済的負担、キャリアへの悪影響です。
加えて、国立社会保障・人口問題研究所の第十五回出生動向基本調査によれば、女性は出産を機に退職する割合が約五割に上っていることが分かります。
このような中、女性の早期退職支援の観点から、父親である男性も
育児休業を取得すること、また、女性だけが所得をロスし、キャリアが断絶されるという
育児休業のデメリットを被らないように、その同僚の男性も
育児休業を取得することは、男女雇用機会均等政策として重要であると考えます。連合としても、政策・制度要求と提言において、男性の
育児休業取得促進を求めてきたところです。解決に向けては、無制限な働き方を
前提とするいわゆる男性中心型労働慣行の変革が必要です。
次に、今回新設される出生時
育児休業ですが、女性に比べて著しく取得が進んでいない男性の
育児休業取得促進策として、また、男性の場合、年次有給休暇や配偶者出産休暇等が優先的に利用されている中で、選択肢の一つとなるものと受け止めております。
ただし、主に男性が対象となる制度であり、男女平等の観点に留意することが重要です。これは、雇用
環境・均等分科会で公労使が一致したところでもあり、そのような中で出生時
育児休業はポジティブアクションの考え方等に沿ったものとされました。
男性が取得しづらいことは事実ですが、根っこにあるのは固定的性別役割分担意識であり、ひいては女性に偏る負担、男女不平等が問題なのであって、それらを解消するために男性の育児参加を促すこと、取得を促すことこそが本来のポジティブアクションだと考えます。
また、男性が取得しづらいということに関しては、配付資料にもありますが、二〇一六年の育児・介護休業法改正の際に、妊娠、出産、
育児休業、介護休業などを理由とする上司や同僚等による就業
環境を害する行為を防止する措置が義務化されました。しかしながら、そのことが職場に定着していないことが現在でも男性が
育児休業を取りづらくしているのだと思います。改めて、政府は
法律の内容をしっかりと事業主に周知することが必要だと考えます。
次に、休業中の就労ですが、出生時
育児休業に限る旨は明記されたものの、本来は、休業を選択する以上育児に専念できることが望ましく、休業と就労の線引きが曖昧になる、あるいは結果的に育児より仕事の優先を余儀なくされるなどの懸念が残ります。
労使協定の締結と
労働者本人の同意が条件になっているとはいえ、残念ながら、労働組合の
組織率が低い状況です。仕組みが濫用されないよう、今回、事業主の措置として、
育児休業を取得しやすい雇用
環境整備及び妊娠、出産の申出をした
労働者に対する個別の周知が義務付けされたことも踏まえ、政府には事業主に対する十分な周知と運用の徹底を
お願いいたします。
また、今回のことで、ほかの休暇、休業制度に波及することのないようにすべきだと考えます。
なお、休業中の就労により、結果的に休業中の所得保障につながるという考え方もありますが、所得保障は財源も含めて検討すべきと考えます。
御存じのとおり、雇用保険制度は、
コロナ禍の影響に
対応するための雇用調整助成金の特例措置や、その受給者実人員の増加によって雇用保険特別会計の予算は枯渇化が進んでおり、さらに、積立金から雇用保険二事業への貸出額の累計が一・七兆円に上るなど、雇用のセーフティーネットとしての役割を確保していく上で極めて厳しい財政状況に至っています。
そうした雇用保険会計の状況を踏まえた上で、現在、雇用保険から支出されている
育児休業給付については政府の少子化対策としてより一層充実させる必要があり、連合としては、
育児休業期間中の経済的支援の全てを一般会計から支給されるべきだとの認識の下、今後、時期を見てそのための検討が必要だと考えます。
今回、有期契約
労働者の取得要件のうち、引き続き雇用された
期間が一年以上が撤廃されました。これは連合が継続して求めてきた内容であり、一歩前進と
評価しています。
ただし、子が一歳六か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでないことという要件が残っています。女性
労働者の半数が不安定、低賃金の非正規雇用という状況の中、
育児休業が取得できなければ退職せざるを得ないということになります。ただでさえ不安定な雇用を手放すか、出産を諦めるという究極の選択を迫られることになり、この要件も撤廃すべきと考えます。
また、先ほども触れましたが、事業主による職場
環境の整備や
労働者への個別周知を含む取得の働きかけの義務化、
育児休業の分割取得化等は、男女を問わず、仕事と育児の両立に資するものと期待をしております。なお、職場
環境の整備に当たっては、いわゆるケアハラスメントの防止措置の対象に両立支援制度を利用していない場合の育児や介護に関するハラスメントも追加すべきです。
終わりに、今回の改正については、単に取得率の向上を目的化することなく、職場の理解と協力が進み、
労働者本人が安心して希望する
期間を取得できるようになるきっかけにしなければなりません。そのためにも、雇用均等基本調査で男女別の
育児休業取得
期間を毎年調査をし、実態を把握すべきと考えます。
ただ、翻って考えれば、育児・介護休業法はあくまでも雇用
労働者に関わる両立支援であって、ややもすると正規
労働者に限った話になりがちであることに留意が必要です。加えて女性の場合、そもそも不安定、低賃金の非正規に就いているケースが多く、
コロナ禍においては解雇、雇い止めに遭った女性の三〇%以上が再就職できないというデータもある中では、両立以前の問題となっています。
是非、政府においては、今こそ女性の雇用と所得の安定、また、そのためにも子供、子育てを社会全体で支える仕組みの充実に向けて一層御尽力いただくことを
お願いいたします。
また、
日本の
育児休業制度について、二〇一九年のユニセフの世界の子育て支援政策に関する報告書では、給付金などの支給制度を持つ出産休暇、
育児休業期間の長さでは、
日本の制度は男性で一位の
評価を得ています。
一方で、母性保護の観点から見ると、全ての女性
労働者に母性保護を認め、母性を理由とした差別を禁止するILO第百八十三号条約が批准されていません。この間、何度も育児・介護休業法が改正されてきましたが、百八十三号条約批准に向けた観点での議論は全くなされていません。SDGsしかり、労働のグローバルスタンダードであるILOの条約批准に向けて早急に
対応するべきと考えます。
男は仕事、女は家庭といった固定的性別役割分担意識の払拭や、制度を取得しやすい社会と職場づくりには、政労使で取り組む必要があります。連合としても、働く者の立場から取組を進めてまいりますことを申し上げ、意見陳述といたします。
ありがとうございます。