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参考人(
木内登英君) よろしくお願いします。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの
木内です。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、このような貴重な
機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
私は、エコ
ノミストという肩書を持っていまして、長い間、
経済見通しを作るようなそういう仕事、あるいは
金融市場の予測、そして
日本銀行に五年間勤務しましたときには主に
金融政策を見ていたということで、どちらかというと
マクロ経済と
金融が
専門でありまして、本
法案に関連します分野に特に
専門性があるわけではないですけれども、お役に立つかどうか分かりませんが、精いっぱいよろしくお願いいたします。
さて、
本案については、
正直お話をいただくまではそんな詳しくは承知していなかったんですけど、改めて確認させていただきますと、
時宜を得た非常に良い内容なのではないかなというふうに思っております。
コロナ禍という比較的短期の
課題への
対応と、
ポストコロナの
成長、
日本経済の
再生という、少し中長期の
課題を、一体的な
対応をして
課題を解決しようという
発想自体は非常に共感できる
部分がございます。
私も、こういった
観点から、
コロナを、
コロナという
逆風を
逆手に取ってむしろ
日本経済強くしていこうと、できるんじゃないかということを昨年辺り言ったこともありました。
例えば、
デジタル化、
法案にも関係しますが、
デジタル化、特に
デジタル通貨などは
経済の
効率化に貢献するんではないかなと思っています。
それから、
政府が長年取り組んでこられた
東京一極集中の
是正と。これも
コロナをきっかけに動き出したという面がありまして、これも
日本経済全体からすると
生産性を高める
効果があるというふうに思っています。
それから、
サービス業あるいは
中小企業の
構造改革と。これも
コロナによる打撃を受けている
業種でありますけれども、むしろそれを
逆手に取って
構造改革を進めていくことで
日本経済全体の
生産性を高める、
人々の暮らしを良くするということに貢献していくというふうに思っています。
この三つには含まれておりませんが、本
法案でも非常に深く関わっております
カーボンニュートラルの実現とそれを
支援していく
施策というのは非常に重要だというふうに思っています。
地球温暖化対策は、もはや選択するものではなくて、当然やらなきゃならないという
課題だというふうに思います。それは
日本だけじゃなくて、世界の
人々が将来にわたって安全に
生活をしていく、
自然災害ですとか
生態系の
変化などで我々の、
国民の
生活が脅かされることがないように将来にわたって
地球への負荷を和らげていくという
観点から非常に重要だと思っていますし、それに取り組むことは将来の
世代にツケを回さないという
観点から重要な
現代世代の、我々の
世代にとって重要な責任であるというふうに思っています。
ただ、二〇五〇年
カーボンニュートラル、あるいは二〇三〇年度
CO2排出量四六%削減という
目標は非常に意欲的であって、簡単に
達成できないということも確かであります。例えば、
再生可能エネルギーの
利用拡大のため、しかも
コストを下げる形で
利用拡大を進めていくためには、今ある
技術、
イノベーションじゃないものが出てこないと、もしかしたら五〇年
カーボンニュートラルの
達成は難しいかもしれないと。そういう意味でいいますと、
本案に含まれていますように、関連する
投資を
支援するということは重要だと思いますし、さらに、水素、アンモニアの
発電ですとか
CO2の
回収処理技術など、まだ今の時点で分からない
技術をいかに引き出していく、そういう
支援をするかという、少し
ミクロになりますけども、そういう
政策も
目標達成のためには非常に重要なのかなというふうに思っております。
そして、
企業の
対応はかなり、
カーボンニュートラル、
地球温暖化対策については非常に前向きになってきております。これは株主からの要請、圧力もあるということでありますが、
政府の掲げる
目標以上に前倒しで
カーボンニュートラルの
達成を目指すという
企業が非常に多く出てきております。
企業が積極化してきているというのは非常によろしいわけですけども、一方でやっぱり
国民の
理解も高めると、これも必要ではないかなというふうに思います。
カーボンニュートラルの
達成のためには、
電化を推進することと
再生可能エネルギーでの
発電を
拡大する、この
二つが重要だということであります。
ただ、
再生可能エネルギーは、いろんな
理由から
日本での
再生可能エネルギーでの
発電は
コストが高くなっております。こういう中で
電化を進める、そして
再生可能エネルギーでの
発電の比率を高めていくということになりますと、少なくとも近い将来はかなり
コスト負担が高まる、
コスト増になっていくと。それは、固定価格買取り
制度の下では
国民の負担になっていくということですので、やはり
国民の
理解も必要だと。また、
環境ですとか景観の
観点から、太陽光、
風力発電、
地熱発電には住民の厳しい目もあるというのが現実だということを考えますと、やはり
国民の
理解を高めるというのもこれから非常に重要になっていくというふうに思いますし、それについての
政府の
取組にも期待したいというふうに思っています。
温暖化対策は一時的なブームで終わっては決していけないものでありまして、次の
世代の活動にいかに引き継いでいくかと、これも重要な点かなと、非常に長いプロジェクトになるわけですので、この点も非常に重要だと。そうした
観点からしますと、先般、
改正地球温暖化対策推進法で二〇五〇年の
カーボンニュートラルが明示されたということは非常に評価できることではないかなと思っております。
さて、お
手元の資料に少し沿って残りの時間でお話をさせていただきたいと思います。
一ページ目を御覧いただきたいと思いますが、
日本経済が直面する最大の問題は、
生産性上昇率が低下する、
潜在成長率が低下を続けていると、この点にあるのではないかなと思っています。これは
推計方法いろいろありますが、ここの
グラフにありますのは
日本銀行の推計している
潜在成長率とその内訳になっております。
潜在成長率が低いと、例えば
企業の
先行きの
成長期待が下がるわけですので、
設備投資も抑えてしまう、
雇用も抑えてしまう、
賃金も抑えてしまうと、結果的に物価も上がらないという
状況につながってくると。そして、
生産性、
労働生産性上昇率が高まらないとなりますと、我々の
先行きの
生活が余り明るい
展望は持てないと。我々の何か物を買うときの
購買力、
実質所得、
実質賃金で決まると。
実質賃金の
上昇率は分配に
変化がなければ
労働生産性上昇率で決まるということですので、この
労働生産性上昇率が、高めていくというのが一番重要な
課題なのではないかなというふうに思っています。
生産性を高めるというと、
市場主義、
市場至上主義とか批判を浴びることもあるんですけど、そうではなくて、全ての人が
先行き明るい
展望、将来に明るい
展望を持つためにはやっぱり
生産性を高める必要があるというふうに思っています。
こちらの
グラフで御覧いただきますと、
潜在成長率が下がっている大きな
理由は、実は
人口減少ではなくて、この赤い
部分、TFPと書かれていますが、全
要素生産性、つまり
イノベーションとか
労働者の質などによる
生産性上昇分が近年かなり下がってきているということがあります。もちろんこれ、
計算上は残差で出てきますので、誤差もあるので、すごく強い答えは、結論は得られないんですけれども、恐らくそういうことは起こっているんだろうというふうに思います。ですから、そこを高めるというのが非常に重要になっていくというふうに思っています。
ちなみに、
金融政策ではこの
生産性上昇率を高めることはできませんし、財政でも、一時的な
需要増加ですと一時的な
効果に終わってしまう、あるいは、将来、
先行きの需要を前借りするというような
効果にもなってしまいますので、そういう
政策ではなかなか
生産性上昇率を高めることができないということでありまして、もう少し
構造改革あるいは
ミクロの
政策が重要と、この点が本
法案が深く関わっている
部分ではないかなというふうに思っています。
二ページ目を御覧いただきたいと思います。
先ほども少し申しましたが、
コロナを奇貨として
生産性を高めるというのが非常に重要で、三つ掲げております。つまり、
コロナという
逆風を生かして、
逆手に取って、むしろ将来の
成長につなげていくと、
生産性の
上昇、あるいは
潜在成長率の
上昇につなげていくという発想が重要だと。
デジタル化はこれは既に
政府が取り組んでいることでありますが、中でも、やや私の
専門分野に入っていくんですが、
キャッシュレス化とか、あるいは
信用力が高い中
銀デジタル通貨の
発行などを通じて
キャッシュレス化を前に進めていくというのも一つ重要な
生産性向上策になっていくのかなと思います。
三ページ目に
海外の研究結果を載せておりますが、現金を廃止して全て
キャッシュレス化を進めていくということになりますと、GDPの一・二%ぐらいの
コスト削減になってくるという
計算もあります。もちろん、
現状ですと、
キャッシュレス化を進めることによって
感染リスクを下げるというような
効果ももしかしたらあるかもしれないというふうに思っています。
デジタル通貨というのは重要かなと思っていますが、ただ、多くの人がまだまだ利用していないというのが
日本の
現状でありまして、その一つの
理由が、
信用力の低さであったり、
ITリテラシーの低さだったり、そういうところだと思います、があると思いますので、
中央銀行が
発行することによって
信用を高めると、あるいは、多くの人が取り残されないように、使うように
支援すると。これはなかなか
民間の
ビジネスとしては難しいので、その
観点から、中
銀デジタル通貨の
発行は検討すべきだというふうに思っています。
五ページ目を御覧いただきたいと思います。
二つ目が、
東京からの
一極集中の
是正ということでありまして、昨年の春以降、
東京からの
人口流出が進んできていると。ただ、非常に強い、太い
持続性のあるトレンドかどうか分かりませんので、まだまだ
支援が必要じゃないかなと。
例えば省庁の
地方移転などは、それに伴って
企業が移転する、人が移転するということにもつながってきます。あるいは、ネットワークを各省庁間でつないでいくということになれば、物理的に近くにいる必要もありませんので、地方への省庁移転が促され、大
企業もあるいは学校もそれに従っていくという形になるのではないかなと期待しています。
六ページ目になりますが、
人口が余り集中すると
生産性が落ちてくるというような研究があります。OECDで見ますと
人口七百万人がその分岐点とされていまして、
東京はもう既に
人口はその倍になってきているということからすると、あるときまでは
人口が集中することによって
生産性を高め、
実質賃金が上がるということで、
東京が
日本をリードする、
日本経済リードするという局面はあったと思いますが、
現状は、むしろその時期は越えて、右側の
グラフになりますが、むしろ
生産性は頭打ちになってきているということだと思いますので、地方にまだ眠っているいろんな生産資源、人的資源も含めてですが、活用していくというのは、
日本経済の
活性化にとって非常に重要だと思います。
そして、最後になりますが、七ページ目になります、
サービス業・
中小企業の
生産性、まあこれはお二方の
参考人、お二方が御
専門ということなので多くは申し上げませんけど、一点だけ、少しだけ申し上げたいと思います。
この
サービス業、あるいは
サービス業は
中小企業の割合が高いということなので
サービス業・
中小企業と申し上げますが、これは
コロナで一番打撃を受けている
業種ということなんですが、この一番打撃を受けている
業種は、国際比較で見ても非常に
生産性が低い
業種だというふうにされてまいりました。ですので、ここのカテゴリーの
企業の
構造改革といいますか、
生産性を高めることによって、
日本経済全体の
生産性を高めて、
人々の
生活の見通しを明るくするというのは重要かなと思います。
こちらの
グラフにありますのは、アメリカと比較した場合の各
業種の
日本の
生産性上昇率ということで、非常に低いわけでありますが、例えば卸、小売、飲食、宿泊でいいますと、アメリカとの差は非常に大きいんですが、四分の一を埋めるだけで
日本全体の
生産性は八・三%も上がると。まあこれは単純
計算でありますので、単に人を減らして失業者を増やせばいいということではもちろんなくて、新たに生まれる需要に対して人も迅速に動いていって高い
生産性を維持するというようなことが重要でありますが、単純
計算からいっても、この
生産性の低い分野の
生産性を上げることで
日本経済の
生産性全体を高める近道になっていくのではないかなと思っています。
八ページ目になりますが、
最低賃金の引上げについては、私はちょっと慎重に考えた方がいいんじゃないかなというふうに思っていまして、やはり
雇用への悪
影響とかも考えられるところであります。
あるいは、
最低賃金を引き上げて
中小企業を淘汰していくような議論もありますけれども、それは非常に乱暴な議論だと思います。低い
賃金で成り立っている
業種の中にも我々の
生活に欠かせない
ビジネスも多いということですので、ここについては慎重に考えるべきであって、むしろ
生産性が高まることによって自然に
賃金が上がってくる、それに応じて
最低賃金も適切な水準まで上げてくるという流れが非常に重要だと思っています。
最後の九ページ目になりますが、
中小企業が退出というか廃業していく場合には、
生産性が低いからというふうに考えられがち、
生産性上昇率が低いからと考えられがちなんですけれども、実は、退出していく
中小企業の
生産性上昇率は残された
企業よりも高いという研究結果があります。つまり、それが退出することによって
中小企業全体の
生産性上昇率が下がってしまうというマイナスで出てくるということがあります。
これは仮説ではありますけれども、やはり優良な
中小企業であっても、後継者不足などによって廃業を余儀なくされているというケースが多いと。ということは、
中小企業の
生産性向上の一つの策としては、優良
企業がそういった後継者不足などの問題によって廃業を強いられるということがないようにしていくということも非常に重要で、本
法案にも含まれておりますが、
MアンドAによって、
MアンドAをサポートすることによって
経営資源を集約化していって、
生産性、
競争力を高めていくというのも非常に重要だなと思っています。
あるいは、
民間の
取組としては、地方銀行などもこのマッチングを非常に積極的に
ビジネスの中に取り組んでおります。現在、地方の銀行も広域連携によっていろんな情報を交換する、共有するということが増えてきておりますが、まだまだ十分ではないということですので、
日本全体で情報を共有することによって適切な
MアンドAあるいは
事業承継が進むということもこの
生産性向上には非常にプラスだというふうに思っています。この
観点からも、本
法案の考え方あるいは
施策には非常に重要な点が含まれているのではないかなと思っています。
以上になります。