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石田参考人 皆様、おはようございます。
司法書士の
石田でございます。
本日はこのような貴重な
機会をお与えいただきまして、本当に感謝いたしています。ありがとうございます。
私は今京都に住んでおるんですけれども、そういうことと
関係あるかどうか分かりませんが、昔から景観というものに非常に興味がございまして、世界を旅行したときに、やはり、世界ではこういう景観、これは町だけじゃなくて、農村や林野など、そういう全ての景色ですね、非常にきちんと保全されている、なぜそれが日本でできないんだろうとずっと疑問に思ってまいりました。逆に、この疑問が今この職業につながっているのかもしれません。景観を見ると、その国のいわゆる
国民のモラルといいますか、その国の
制度というものがやはり見えてくるのではないか、そういうふうなことも感じたこともございます。
ということで、そこから、二十年以上ぐらい前の話ですが、世界の
土地所有
制度というものを個人的に勉強を始めた次第でございます。
その後、今から十年ほど前ですかね、放置
空き家の増加問題というものが話題になりました。そして、今から五年ぐらい前から、今度は
所有者不明土地問題、これに関しまして、先ほど言いましたいわゆる景観問題と全く本質は同じでございますので、そこで、日本
司法書士会連合会の中で
司法書士総合研究所というのがございまして、そこで世界の
不動産の所有
制度及び
相続制度を
調査研究させてほしいということでチャンスをいただきまして、チームを結成いたしました。
そんなことから今日は
お話をさせていただきたいんですが、お断りしますが、私は今日は団体の代表として参っておるのではなくて、一研究員、一実務家としてお呼びいただいております。そういう
立場で
お話しさせていただきますので、御了承をお願いいたします。
まず、なぜ日本において
所有者不明土地問題、こういったものが起こりやすいのかという本質論ですね。お
手元に
資料を配っております。これに沿って
お話しさせていただきます。
やはり発見できたのは、日本は世界で類を見ないほど、
土地というものが物理的に細分化しております。そして、
一つ一つ細分化されたものが権利的に非常に分散化している。この細分化しているというのは、明治以降、産めよ増やせよということで人口が急速にやはり増えました、この国は。核家族化が進みました。ですから、世帯というものが非常に増えまして、狭い国土の中で、住むための
土地が非常に細かく細分化していった。これは当然のことでございましょう。
あるいは、この国では
土地の分筆というのが自由でございます。世界は
土地の分筆というのは非常に厳しい制限が取られまして、ほとんどされておりません。あとは、
相続税
対策での切り売り、そんなことも含めまして、やはり、特に戦後、急激に、
土地の物理的
単位というのがちっちゃくちっちゃく切り分けられた。これはもう、世界の中で日本だけの現象の
一つでございます。
分散化というのは、要は、
一つ一つの
土地が、戦前までは家督
相続制度といいまして、絶対に分散化しない超合理的な
制度があったんですが、戦後は非常に、均分政策といいまして、平等に分けられるということが基本になって、逆に言いますと、
共有というものが非常に進んでいった、あるいは、
相続登記をしないと事実上
共有状態になっているということも含めて、権利的に非常に分散化している。
一つのちっちゃなちっちゃな
土地の権利者が、探してみれば数千人というのはざらにございます。まあ、ざらというのはおかしい、数十人、数百人というのはもう当たり前のようにございますね。これが
一つ、大きな特色でございます。そこで急速にかつ長期の
人口減少が始まったら、こういう問題が起こるというのは、当然の結末かもしれません。
そこで、今日は二つ、項目に対して御
意見をまずさせていただきたいと思います。
最初にまず、
相続登記の
義務化、要綱案の第二部の、
不動産登記法の見直しにおける
相続登記の
義務づけについてということに対して、まず御
意見を言わせていただきます。
この
相続登記の
義務化というのは、これは非常に強いインパクトの言葉でございます。恐らく、この立法が完成したら、報道も含めまして、いよいよ
相続登記の
義務化開始というのが、この言葉がもう日本中にアピールされていくと思います。これは
国民にとって非常にインパクトのある言葉で、と同時に、アドバルーン効果、要は、
相続登記をやはりしなきゃいけないんだというアドバルーン効果は非常に高い、ここは私もそう思っております。
ただ、反面、非常にインパクトが強いだけに、誤解が起こるのではないかという心配を、実務家として、本気でしております。この誤解というのは、いわゆる遺産分割というものを十分にせずに
相続登記だけをしなきゃいけないのかということ、それともう
一つは、
相続登記の
手続そのものが形骸化すること、これを非常に恐れます。形骸化というのは、例えば、今テレビなんかで
法律事務所のコマーシャルをいっぱいしていると思うんですけれども、本当に、ベルトコンベヤーで
手続ができるような、薄利多売のような感じで
相続手続を受ける、あるいは依頼する、こういったような形骸というのは、非常にこれは逆効果でございまして、ますます権利の分散につながると思います。
たかが
相続、されど
相続。実は、私ども実務家としましては、
相続って本当に、何かどれも一緒だろう、パターンがあるんだろうと思われるかもしれませんが、
相続手続というのは
一つのパターンがあると思いますが、
相続そのものというのは、
一つ一つ全部ドラマが違います。
一つ一つ固有のものです。
そこで、
意見を申し上げますが、この
相続登記の
義務化という中身をちょっとお考えいただければと思います。
まず、絶対的にしていただかなきゃいけないのは何だろう。いわゆる
相続が
発生したことに対する
登記簿上への、
登記情報への公示、まずこの点が一点ございます。それと、もう
一つ、遺産分割。
遺産分割が最終的にきちっとできました、その上で確定的に
相続登記をしますという遺産分割の確定の部分と、それから、先ほど言いましたように、
死亡の事実の公示の部分、この二つを分けて、是非考えていただければと思います。レジュメ二
ページのところですね。
そこで、まず、世界では、じゃ、どうしているんだろうということなんですが、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、この四つ、ここら辺の国の
情報が一番多いので、この辺を中心に今研究をしているんですけれども、中身を細かくちょっと御説明する時間がございませんが、大体大枠で捉えていただければと思うんですけれども、それぞれタイムリミットを取っています。それぞれペナルティーだとかインセンティブというのは取っているんですけれども、ここで共通しているのは、いわゆる
相続が
発生しました、
登記名義人の
死亡がございましたという公示、まず、これに対して
義務づけているんです。
その方法はそれぞれの国の
制度によって違いますけれども、遺産分割をいつまでにしてくださいという
制度を取っている国は、私が調べたところでは、
一つもございません。
なぜなら、先ほど言いましたように、意思のない遺産分割による、その結果の
登記というのは、これは、先ほど言いましたように、本当に危険な権利の分散、いわゆる責任のない
所有者を増やすだけでございますので、これだけは、これだけはといいますか、世界でもやはりそういう
考え方をきちっと持っているということがはっきり分かりました。
ですから、もちろん、遺言があったり、あるいは
相続人が少なかったり、話合いがすぐにできたりという場合は、この期間にやってくださいねと、それに至った場合は、それぞれ、ペナルティーというよりもインセンティブ、いわゆる、この期間でやったら
登録免許税を減免しますよとか、そういう、北風と太陽でいいましたら太陽政策のような部分を取っているという部分がございますね。
ただ、それと同時に、遺産分割を急がせるということはありません。この期間内で遺産分割が全て完了できる、十分な話合いができるということは、それはなかなか、この多様化の時代、難しいことでございますので、それはまた別のことです。
仮に長期にわたって話合いができない場合は、それはまた別の政策で、国家あるいは市町村などがその
土地を回収していくような
制度というのが別にございますので、ちょっとそれは、今、おいておきましょう。
イギリス、アメリカなんかでは元々、いわゆる
国民に絶対的
所有権というものを観念しておりませんので、まず、遺産の中に
不動産があれば、その遺産
管理人を
登記上に公示してくださいということで、遺産
管理人がいろいろな責任を取ってやっていくということで、先ほど言いましたように、最終的な
相続登記、いわゆる遺産分割を伴う
相続登記を早くしなさいということでは全然ございません。
ちなみに、台湾の
情報も入れておきました。これは非常に厳しい
制度ですが、恐らく台湾でも、六か月以内に最終の
相続登記をしろということではないと思われます。
さて、そこで、
意見をまとめます。
今言いましたように、まず
義務づけすべきは、
登記名義人の
相続開始の届出、
死亡情報の
義務化ですね、これは徹底してやっていただきたいと思います。これによって地面師事件
対策というのが当たり前のように取れます。今それをやっていない国は、日本だけでございます。
このときに必要な
情報は何かといったときには、
死亡の事実と
死亡の年月日、私は、最低限、それでいいと思います。その年月日からどれだけたったか、それで次の展開ができるということでございます。
次に、いわゆる最終的な、確定的な遺産分割、意思を伴った遺産分割、結果の
相続登記、これに関しましては、やはり早々にする方が当然いいと思います。
ですから、いろいろな意味で、
死亡の公示をきっかけに、行政や
専門家や
法務局や、いろいろなところから、名義人の
相続に対して遺産分割を促す、
促進するような
対策を取っていく、これは世界の共通の流れだと思います。
続きまして、もう
一つ、三
ページですね、今度は、
土地所有権の
国庫への
帰属の
承認に関する
制度の創設について、いわゆる、これは
所有権の放棄、
土地所有権の放棄を認めるかどうかという問題に関しまして、ちょっと御
意見を申し上げます。
私がこんな研究をしているということでは決してないんですが、最近、やはり、お手伝いする中で、遺産の中に本当に処分に困る
不動産が含まれている
相続の案件というのは非常に年々、実は増えております。年々増えているというのは、恐らく年々増えてきたんじゃなくて、恐らく私が気がつかなかっただけだと思います。多くの
専門家がスルーしているだけかもしれません。掘り起こせば幾らでもあるかもしれませんね。
そんなときにどうするかということなんですが、代表的な例をちょっと
紹介します。
これは、去年、実際にあった話なんですが、大概の依頼者の方
たち、
相続が
発生して自分が
法定相続人の一人になったという前提で、
遺産分割協議の作成を含めて
相続登記をお願いしますというふうにまず来られます。その中には、先ほど言いましたように、御実家の
不動産、建物、
土地だけではなくて、自分が存在すら知らなかった、親の
土地、あるいはおじいさんの名義になったままの
土地、そんなものも含まれている。
どうしますかと言ったときには、皆さん、やはり最初はプラス
財産としてのいわゆる金銭的な遺産、こればかりに着目されますので、うちの兄弟はみんな仲いいので均等に分けたいと思います、それで
遺産分割協議書を作ってくださいと。ではこの
不動産はどうしますか、ううん、
相続人の中で誰も欲しいという者はいないので、どこか引き取ってくれるところはありませんかね、あるいは、なかったら、取りあえず
法定相続分で
登記したいんですけれどもというふうに。
私は、そういうときに必ず言うんですけれども、では、この遺産分割の
お話合いの内容はちょっと保留して、その御存じでない、行ったこともない
土地というものを一緒に見に行きませんかと。
不動産というのは、
現場を見なくても評価額は出るんです。路線価や評価額、これは文書でちゃんと出てきます。そんなものだけで皆さん計算して、電卓をたたいて分けようという話になるんだけれども、そうじゃない。これは本当に、果たして、まず使えるのか使えないのか、あるいはお金に換わるのか換わらないのか、それ以前に、これをもしも所有したままだと、将来、どんな
負担、どんな金銭
負担も含めて、
管理費がかかってくるのか、全て全部
理解した上でやはり遺産分割の
お話合いを再開しませんかというふうに御
提案すると、分かりましたということで、
相続人さんの中で、これは決して仲が悪いとかそういうことじゃないですよ、紛争性があれば、これはもう私どもの世界ではなくて弁護士さんの方にお願いする世界なんですけれども、そうじゃなくて、今は、紛争がなくても、やはり
相続人間というのは非常に希薄な
関係になっております。うちは仲いいんですよと言いながら、やはりそういうわけにはいかない、全て、皆さん、財布が違うわけだから。
その中で一番お時間に余裕のある方、それから元気な方と一緒に、私はできるだけ
現場におつき合いするようにしました。これは、京都だけではないです、北海道だとか九州だとか四国だとか山陰だとか、本当にそんなところも平気であります。皆さん、御両親の御出身なのか、そういうところはやはりたくさんございますね。
行ってみると、決して僻地ということではないんですね。それぞれ、昔はにぎやかだったんだろうなというところなわけであります。やはり、何らかの
理由で、今はそういう人が住まない
土地に変わっていったということでございましょう。
で、御近所に挨拶がてら、この辺の
土地の流通事情を聞いたり、誰か引取り手を探ったり、地元の役所に行って
相談したり、あるいは農業
委員会に
相談へ行ったりとか、いろいろなことをしながらやるんですけれども、運よくその中で引き取っていただける方を見つけることもあります。これはもう本当によかったということになるんですけれども、大体その勝率というのは三〇%ぐらい、ごめんなさい、ということです。
そのときにお願いしているのは、やはり、将来、処分が分からない
土地に関しましては、
共有で
登記するのはやめましょうと。できるだけ、誰か最後まで責任を取れそうな方、あるいは、その方の代でできなくても、その次の代の方に頼めるような方の単独で
相続登記をするようにお願いしております。必ずいつか、きちっとしていれば、国が受け取ってくれる日が必ず来ますからという、そんなことを言いながらやっているんですけれども、これはちょっと言い過ぎかもしれません。
要は、こういうプラス
財産があるときというのは、私ども、これだけ努力してできるんですけれども、このプラス
財産がないときというのは、やはりどうしようもない。逆に言いますと、この
法律というのは、我々の努力ができない、あるいは努力してもできなかった案件をある程度対象にしていただきたいと思っているんですね。
どうも、いろいろ案を見てみますと、やはりプラス
財産があるときにしか使えないねというふうな部分が
幾つか見られますので、是非この発想というのはちょっと御
理解いただければと思います。
そこで、ちょっとごめんなさい、三
ページに戻ります。もう余り時間がないので簡単に言います。
では、世界ではどうしているのかといったら、先ほど言いましたように、
国民に最終的にずっと永代的に
土地の
所有権を委ねっ放しという国は
一つもございません。元々、
土地というのは、私財であるとともに公共財です。したがいまして、どこかの
段階でやはり行政が引き取ることをやっています。あるいは積極的に譲渡を受けるということも含め、そういう受皿があることによって、遺産分割というのは進んでいくものです。
やはり、その中で共通しているのは、受皿はほとんど市町村です。国が受け取ったとしても、それは市町村に権利移譲しています。今回の
法案によりますと、なかなか厳しい
要件がついております。これは、恐らく受皿は財務省の想定だと思うんですが、やはり財務省が受皿であると、それは
土地として受け取るというのが非常に困難で、これだけの
要件がついてくるのは当然かなと思います。
そうじゃなくて、世界では、
土地を
土地として受け取って、その町の再生に活用する、そういう団体、いわゆる市町村に最終的に移譲しております。そうすることによって、非常に
要件は個別具体的に変わっていきます。そのお手本はアメリカの
ランドバンクでございます。これは日本の
ランドバンクとはちょっと違って、元々、その権利の主体となります。ただのあっせん機関ではございません。
ということで、まとめますと、最終的には、
土地を受け取って、再生プランをつくって、その再生プランとともに
国民が引き取れなくなった
土地を生かしていく、これが一番国策にとってプラスなはずです。こういう
仕組みを前提に、
所有権放棄の政策をもう一度考え直していただければと思っております。
済みません、ちょっと長くなってしまいました。ありがとうございました。失礼しました。(
拍手)