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池本参考人 御紹介いただきました
弁護士の
池本と申します。よろしくお願いします。
私は、一九八五年の
豊田商事事件の
被害者弁護団に参加したのを手始めに、様々な訪問
販売被害事件あるいは
預託商法の
事件などに取り組んでまいりましたし、消費生活センターの相談
処理、アドバイザーの役割も長く務めてまいりました。昨年は、
消費者庁の
特定商取引法、
預託法の
検討委員会の
委員としても参加させていただきました。
こうした経験や議論を踏まえて今回の
改正法案を見た場合、
検討委員会の
報告書で提言されていた中身については、本当にすばらしい
法案が作られたということで高く評価しております。その立案
担当者の御尽力については、本当に心から敬意を表したいというふうに思います。
もちろん、その枠組みの中で、政省令、通達などを具体化する作業、ここが重要でありますので、引き続きしっかりと取り組んでいただきたいし、この
委員会の場でも、皆さんにも議論をしていただきたいところであります。
ただ、しかし、昨年の暮れ以降、急遽登場してきた
契約書面の
電子化に関する議論は、これは
消費者被害を
拡大するおそれが極めて強いということで、反対せざるを得ない中身であります。承諾の
要件を
実質化することによって歯止めをかけると言われていますが、それは構造的に難しい、無理だと私は考えます。何よりも、
関係者による議論を全然行わないで一気に導入を提案されたことで、全国の
消費者団体とか
弁護士会、司法書士会、地域団体あるいは労働団体、幾つかの地方議会からも、反対の
意見が次々と出されている
状況にあります。私は、この
書面の
電子化の部分については、本当は、やはり一旦削除して、引き続き
検討の場を設けるという形をお願いしたいと思っております。
あと、もう一点、
クーリングオフの通知を
書面だけでなく電子メールでの方法も認めるという
改正案、この部分は賛成なのですが、電子メールの場合に、発信したときに解除の効果が
発生するという規定が、わざわざそこだけ抜けて、欠落した状態になっています。そこは是非修正をしていただきたいというふうに思います。
預託法については、もう既にお二人の
参考人から議論がありましたので、
定期購入と送りつけ
商法については
検討課題を簡単に触れ、あと、
クーリングオフの発信主義の問題と
書面の
電子化を中心に議論してまいりたいと思います。
まず、詐欺的
定期購入の問題ですが、提案された中身、これを見ますと、
悪質商法に対する抑止効果が相当に期待されるものであるというふうに私も評価しております。
もちろん、問題は、政省令、ガイドラインで中身をどう具体化するかということですが、今起きている問題は、申込
確認画面の中でも、初回のお試し
価格を強調して、二回目以降が目立ちにくくする、特に、金額の
確認欄、数量の欄も初回の分だけを書いていて、二回目以降をわざわざ欄外に注意書きのような形で分離して表示するという手口が横行しています。
一つの
契約ですから、総額、総量をきちんとまず書くということ、これを政省令、ガイドラインなどにおいて明記していただきたいということです。
実は、今回の
改正の直接の
課題ではないんですが、
広告画面でも同じことが起きています。初回お試し
価格だけがどんと大きく出て、二回目以降は小さな注意書きでしか書いていない。もうその段階で誤認をしているわけです。したがって、政省令、ガイドラインの見直しのときには、
広告画面についても明確なルールを打ち出していただきたいというふうに思います。
次に、送りつけ
商法の
原則禁止の点です。
これも、送りつけ
商法は即時に返還請求権を喪失するという形で明記されたということで、
民事効果の点では十分に評価できます。
ただ、問題は、そういうルールを知らない
消費者はたくさんいるわけで、そこに対する啓発も一方では必要なんですが、他方で、そういったことを繰り返す
悪質業者に対して
行政処分権限の規定が欠けている、この点が残念でなりません。この点、直ちに
行政処分の規定を今回入れなければ反対だというところまで申し上げるつもりはありませんが、
民事規定の
改正の効果を、きちんと推移を注視した上で、必要に応じて更なる見直しが必要ではないか、この点は是非
確認しておいていただきたいと思います。
次に、
クーリングオフの通知の点です。
書面による通知のほかに電磁的記録による通知を認めた、この点はもちろん賛成であります。
実はこれは、従来から判例、学説の中で、
書面でなくても
クーリングオフの意思表示が他の証拠で明らかであれば有効であるというふうに解釈、
運用されてきました。
消費生活センターでも、相談
処理の場面ではそういう解釈で
処理をされてきたし、一般の訪問
販売業者あるいはクレジット会社などはおおむね
対応してきたというふうに評価しています。
ただ、一般
消費者に対して、
書面じゃなくてもいい、口頭でもいいよというふうな啓発をしてしまうと、どうしても電話に流れてしまう、その結果、言った言わないの問題を誘発してしまうので、啓発の場面では、必ず
書面によりましょうというふうな広報をしてきた、こういういきさつがあるわけです。
今回、電磁的記録の場合については効果があるというふうにきちんと枠づけをして条文に明記していただいたという点で、これは評価できるわけです。
ところが、同じ問題の中の第二項で、現行法では、
書面を発したときに解除の効力が生じるということが明記してあるわけですが、
改正法案では、
書面を発したときと、電磁的記録を媒体に記録して発送した、例えばUSBメモリーに入れて郵送するとか、その場合だけを掲げて、それについては発信主義だという規定になっています。言い換えれば、電磁的記録を電磁的方法で発信、つまり、電子メールとかSNSとか、これで送信した場合は条文がない状態になっています。
特別法がなければ民法の一般
原則に従うというのが、これは
法律解釈の
原則です。民法九十七条の一項は、「意思表示は、その通知が
相手方に到達した時からその効力を生ずる。」こういうふうに明記してあるわけです。
だとすると、例えば、
消費者が
クーリングオフの行使
期間内に電子メールで解除の意思表示を発信した、ところが、
事業者のメールサーバーがプロバイダー側の何らかの原因によって
期間内に到達しない、つまり、
消費者にも
事業者にも
責任がない場合には、
クーリングオフの効果は
発生しないことになってしまうのではないか、こういうことが危惧されるわけです。
この点、
消費者庁は、先般の四月二十七日の本
委員会での
質疑の中で、電子メールは発信と同時に到達して効力が生じるものである、
クーリングオフは電子メールの発信をもってその効力が
発生する、こういう解釈を
答弁されております。
もちろん、そういう解釈であってほしいわけですが、実は、
クーリングオフは発信日に効力が生ずるというのは、
特商法にそういう明文規定があるからそう言えるわけであって、電磁的方法だけわざわざ外してしまうと、
消費者庁のその
答弁どおりに将来裁判所が採用してくれるかどうか、これは非常に不安定になります。
民法であれば、いわゆる類推
適用という対処によって、明文はないけれども趣旨は同じであるということで同じ解釈を取るということができますが、
悪質商法対策のこの
特商法では、
行政処分とか
罰則も併存するわけです。だとすると、
特商法には明文規定が必要なのではないか。
現実の問題としても、例えば、ある
悪質業者が、
クーリングオフのメールが
期間内に届いていない、これについては効力を認めない、こういうふうに主張したりあるいは
契約書に明記した場合に、一般の
消費者はそこで事実上諦めてしまう。あるいは、それに対して
行政処分とか
罰則をかけることができるか。この辺りで、例えば罪刑法定主義との
関係でも疑念が生ずるわけです。
消費者庁の解釈を明確に
確認するためにも、
書面又は電磁的記録を発したときに効力が生ずる、こういうふうにしていただきたいというふうに思います。
そして、
書面の交付
義務、
電子化の問題です。
これについては既にたくさんの反対の
意見書も出ておりますが、訪問
販売などのように不意打ちで
勧誘する、
消費者は不本意な形で受けてしまう、あるいは、連鎖
販売取引のようにもうけ話で誘い込む、不本意な形で
契約をしてしまう、そういう場面であるからこそ、
契約した直後に
契約書面を交付して、その中で
クーリングオフという規定が見えやすい形で赤字、赤枠で記載してあって、それを見て
契約内容と
クーリングオフ制度を知って、考え直す、
クーリングオフをするという
機会を与える、これが
特商法の最も重要な役割のはずです。
書面の
電子化を認めてしまうと、その詳しい
契約条項が手のひらに載るスマホの上に移されるわけですが、果たして、その中から大事な情報を探し出して、
クーリングオフに気づいて
確認できるでしょうか。結局、気づかないうちに八日を過ぎてしまうということが最も危惧されるところであります。
消費者庁は、この点について、
書面の交付があくまで
原則である、電子交付は例外であるということを強調しておられます。
確かに、条文の形式はそうなっています。が、
勧誘方法がそもそも不意打ち
勧誘であったり
利益誘引
勧誘、こういう
取引場面を規律したものについて、
事業者が本体の
契約の
勧誘とともに、じゃ、
書面は電子データでいいですねと言われれば、両方含めて何となく、はい、そうですかということになってしまうんじゃないんでしょうか。結局、
実態としては電子交付が
原則になってしまうということがほぼ予想されます。
消費者庁は、もう一点、真意による承諾をしたことが明らかな場合に限る、承諾の
要件を
実質化するんだというふうに言われています。
しかし、これまた、本体の
契約について不意打ちの
勧誘であったり
利益誘引の
勧誘である場面で、
書面の
電子化の部分だけ真意で承諾をするということは、そもそも場面としても想定できないんじゃないでしょうか。本体の
契約と
電子化の承諾は、同じ場面で同じ流れの中で承諾を取得してしまうということになるわけです。私は、これでは歯止めにならないというふうに言わざるを得ません。
それから、
消費者庁は、電子交付を積極的に希望する
消費者のニーズに応える必要もあるんだということも言われています。
これも、先ほど
石戸谷弁護士の発言の中にもありましたが、
消費者が最初からオンラインで本体の
契約についてアクセスして
契約するかどうかを判断する場面であれば、電子データについても自ら積極的に選ぶということは想定し得るかもしれません。しかし、不意打ち
勧誘、
利益誘引
勧誘で、受け身の
立場で本体の
契約を承諾させられる、そういう場面で、積極的に希望する
消費者というのは果たしているんでしょうか。
もちろん、一部にはそういう
消費者もいるかもしれません。しかし、想定している
取引の構造からすれば、受け身の
立場で仕方なく承諾する
消費者が多いということを前提にしなければいけないし、そもそも、デジタル機器に不慣れな脆弱な
消費者、これを切り捨てないというのが
消費者庁の
責任であるはずです。
消費者保護法の本質的な役割もそこにあるはずです。
最後に、
消費者庁は、デジタル社会の推進という政府全体の方針であるということも、四月二十七日の審議の中でも強調しておられました。
しかし、デジタル社会を推進するのであれば、オンラインによる英会話指導
契約、
特定継続的
役務提供ですね、こういうものに絞ってまず導入するというのであれば、まだ理解できます。訪問
販売、電話
勧誘販売、マルチ
商法、これはデジタル社会の推進とは直接つながらないし、逆に弊害を招くおそれがあります。
先月、四月六日ですか、衆議院で通過しましたデジタル社会形成基本
法案の第七条にこういう条文があります。「デジタル社会の形成は、」「
被害の
発生の
防止又は軽減が図られ、もって国民が安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するものでなければならない。」こういう規定であります。
消費者保護の司令塔役である
消費者庁です。是非この基本理念に沿って見直しを受け止めていただきたいし、政府全体としても、真の意味でのデジタル社会の形成に向けて、この基本理念に沿った形での見直しを是非皆さんの中で
検討していただきたいと思います。
以上です。(拍手)