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池田参考人 おはようございます。
労働政策研究・
研修機構の
池田と申します。
平素より当
機構の活動に御
理解と御協力を賜りまして、ありがとうございます。この場をかりて御礼申し上げます。
私は当
機構の
研究員になって十五年になるんですが、終始一貫して
仕事と
家庭の
両立支援に関する
調査研究を担当してまいりました。今日は、その経験を踏まえまして、
改正育児・
介護休業法の
法案の中でも、先ほど
高村参考人も言及しました
男性の
育児休業について私の
意見を述べさせていただきたいと思います。
このような貴重な
機会をいただきましたことに、まず深く感謝申し上げます。
お手元の黄色と青の
表紙がついております
資料に沿ってお話ししていきたいと思います。
一枚めくっていただきますと、本日の
報告内容ということで概要を記載しておりますが、まず一点目、
育児休業に係る
政策というのは実は二つの
側面を持っているということをまず再
確認しておく必要があるというふうに思います。
育児・
介護休業法というのは、元々、
男女雇用機会均等法から独立する形で制定されました
労働法の一つです。その趣旨は、
男女雇用機会均等、そういう
理念の下に、
男性にも
育児休業を適用する、そういう
考え方を取っております。
仕事と
家庭というふうに、
ワーク・
ライフ・
バランスの
ワークと
ライフというふうに二つ並べてみたときに、
労働政策ですから、やはり
女性の
労働参加ということに
関心がある。
こちらに
育児・
介護休業法の第一条の
目的規定を載せておりますが、ここで
赤字で書いてあるところを読んでいただければ分かりますように、やはり、
子育てをする
労働者の
雇用の
継続及び再
就職を図る、つまり
労働参加を支援するということをはっきりとうたっております。
さらに、第三条の二項に、ここも
赤字になっておりますが、
休業後における
就業を円滑に行うよう必要な
努力を
労働者はしなければならない。つまり、家にいてしっかり
子育てをしましょうね、それはもちろんあるんですが、やはり、その後に復職をして
キャリア形成をする、
就業を
継続する、そういう
労働参加への
関心の強い
法律になっているということをまず再
確認しておきたいと思います。
一方、同じように
育児休業取得促進政策として
推進されております
次世代育成支援対策推進法、この法は、やはり、
目的は、
少子化対策、数量的な
子供の数を増やすということだけでなく、質的な面でストレスや
負担感の小さい、より幸福の感じられる
子育て生活を
実現しよう、そういう
子育て支援という
側面があります。
これは
次世代法の第三条にもそれが明記されておりまして、
次世代育成支援対策を通じて、
子育ての
意義について
理解が深められ、かつ
子育てに伴う喜びが実感されるようにしよう。つまり、ベクトルが実は
仕事と
家庭をめぐってちょうど正反対の方を向いていて、それが相補的に関わり合うことで
育休政策というのを
推進している、そういう性質があるということです。
今回は
育児・
介護休業法の
改正ですので、
次世代法の発想に引っ張られるとちょっと
制度設計がいびつになるという
側面がございます。なので、あくまでも
労働政策、特に
男女雇用機会均等という
理念の下に
制度設計を考えていただきたいというのが私の第一の主張です。
次に、一枚めくっていただいて、じゃ、
男女雇用機会均等というふうにいったときに、何で
男性が
育児休業を取らなきゃいけないんですかということになります。
女性の育休の場合は、産後の復職支援という
側面があります。現実的に産休だけでは復職がかなわないときに、復職時期を少し先に延ばして復職を円滑にしていく、そういう
側面があります。しかし、
男性については、育休を取れないと離職をするという話では、なかなかそういうふうな想定では話が進んでいないというふうに思います。
だけれども、実は、育休には、
一定期間子育てに専念して、かつ
雇用が保障されるというメリットだけでなく、その後の更なるキャリアということを考えたときには一定のデメリットがあるということが知られています。それが所得ロスとキャリアロスというふうに言われています。
所得ロスというのは、御承知のとおり、
育児休業というのはノー
ワーク・ノーペイの原則ですから、
一定期間の
休業に伴う
就業中断で収入が減る、そういう問題がございます。もう一方で、やはり、
休業期間が長くなると、その間
就業経験を積めないとか、将来のキャリアアップにつなぐ大事な、例えば契約案件ですとか大口の
仕事ですとか、いろんなチャンスをその
期間に逸してしまう、そういうリスクがありますので、
女性だけでなく
男性も
育児休業を取りましょうねというのは、この育休
取得に伴うデメリットを
女性だけが甘受するというのはやはり
男女不平等ですね、そういう
考え方にのっとっています。
なので、できることならば、
男女の
雇用機会均等という意味では、現状は、
雇用保険で
夫婦が六か月ずつ
育児休業を取るとちょうど所得ロスが一番小さくなるような設計がされていますが、やはり、
男女が共に
子育てに関わるという
家庭生活の面だけではなくて、
就業機会を
男女で均等にしていく、そういう
側面があるんですよということをもう一つ
確認しておきたいと思います。
その
観点から見たときに、先ほど
高村参考人も指摘されておりましたとおり、スライドの五番目ですが、
男性の育休
取得率というのは極めて低調になっています。この圧倒的な
男女差、かつ、諸外国と比べても、正直、国際
会議に出ますと本当に失笑を買うぐらいの低い
取得率ということを何とかしなきゃいけないということで、ここ数年間、
男性育休についての
関心が盛り上がってきたわけなんですが、実は、その中で余り語られていない事実というのがあります。それがスライドの六ページ目です。
実は、育休
制度以外の
制度を使って、
子供が生まれたときに
仕事を休むという
男性は割と多いんですね。
日本の場合は、未消化の年休がかなりあるという状態ですので、やはり年休は所得保障一〇〇%ですし、先ほど言った、半休、時間休、連続休暇、いろんな取り方ができます。非常に柔軟な形で
仕事と
家庭の事情に合わせて
子育てに時間を割くことができる、そういう便利な
制度として使われているという面がございます。あるいは、
企業の中には
配偶者出産休暇とかいろんな特別休暇
制度を用意していて、そういったいわゆる
育児休業という方式ではない方式で休んでいる人が結構実はいるんですよということがあります。
なので、そもそも休めないという人と、休めるんだけれども
育児休業は取っていないという人と、
育児休業を取っているという、この三層構造になっているということをちょっと頭に置いていただきたい。どうしても、
育児休業を取れないイコール休めない、何か、人手が足りない、
仕事が忙しい、そういう話になってしまうんですが、休めないという話と
育児休業を取らないという話はちょっと段階の違う話として専門家の間では共有されている問題ですので、この点、御注意ください。
そうすると、六ページ目のスライドで、いずれも非
取得、つまり、どんな手段を使っても休んでいないですよという人は、実は二三・八%なんですね、これは一番新しい
調査ですが。そうすると、この人たちが正規の育休を取るとどうなりますかということが問題になります。
実は、
育児休業といっても、
男性の場合は、何か月もの単位で取っている人というのはそれほど多くなくて、やはり短
期間、場合によっては五日未満とか一週間とか一か月未満、そういった人たちが圧倒的に多いので、それと例えば二十日間丸々繰り越している年休を全部消化するのと何がどう違うんですか、そういう問いが専門家の間では出ています。
なので、
女性が育休を取れないという場合は、やはり最初から何か月単位で取るので、それが取れないとなると非常に
仕事と
家庭の
両立が危うくなるという
側面があるんですが、
男性はこの短期の
取得という問題が間に挟まっているので、非常に問題を複雑にしています。
実際に、では、ほかの
休業制度を使った場合はどうなのかというと、やはり
取得日数というのは短めになります。やはり
育児休業を取っている人は長めです。
スライドの七ページを見ていただくと分かるんですが、
制度の種別を問わない合算の平均、この左側の図の一番下にありますが、これが大体十三・一日、二週間弱ぐらいですね。それに対して、
育児休業の場合ですと二十六・二というふうになっていますから、やはり一か月近くというふうになっていますので、単純に考えて倍ぐらいの日数は取っているということになります。
そうすると、やはり短くいろいろ小刻みに取っていくというのが今の現状の
男性の、要するに
両立支援のある種の戦略というか、そういうスタイルなんですよね。それを、
育児休業をやはり取りましょうよ、それで、できれば長く取りましょうよというふうに持っていくということが大事じゃないですかねという話になります。
そういう
観点で、一枚めくっていただいてスライドの八ページ目ですが、
改正法を見ましたときに、どういったことが
効果として期待できるかといいますと、先ほど申しましたように、育休以外の
制度を使って休んで
子育てに時間を使っている、そういう
男性が育休を取るようになるということです。ですので、年休で十日間とかほかの特別休暇を使って二週間ぐらいとかと言っている人たちが、二週間だったら育休を取りましょうよというふうに、先ほど言った
個別周知と
意向確認というのがそこにくっついてきますので、
育児休業を取りましょうよというふうになります。それによって当事者が育休を取るということを意識するようになって、
制度についての十分な
理解がないままに他の特別休暇で対応しようとしていたところが育休を取るようになる、それによって育休
取得率が上がるということが期待されています。
その
制度設計の中で、二回に分割できるとか、先ほども言及のありました育休中の就労を一部認めるというのは、これは、現状の、柔軟に、分かりやすく言うと、年休と比べたときに育休の方がいいと思えないと、やはり年休を取った方が当事者にとっては取りやすいんですよね。そうすると、育休中の就労というふうに言うと、何か
子育ての片手間に
仕事もするというふうに見えますが、現実的には、年休を使う場合は、時間休とか半休という形で、一日の時間を
子育ての時間と
仕事の時間というふうに割って、それで両方に当たるということが現実的にできるようになっていますので、そういったやり方で取りあえず
男性が育休を取るということの道筋をつけよう、そういう
考え方というふうに
理解できます。
実際に、
厚生労働省の
資料でも、九ページに引用しておりますが、やはり長期一回を最初から念頭に置いて取っていただくのではなくて、断続的に細切れに取っていただく、そういうやり方で
取得の取りやすさということを考えていきましょう、そういう
制度として
理解できます。
しかしながら、この九ページのスライドを見ていただいても分かりますように、母と父とで矢印の引っ張り方がやはり違いますよね。ここで問題になってくるのが今後の検討
課題ということになりますが、やはり
男性と
女性の
育児休業の取り方の
非対称性という問題を今後どう考えていくかということは非常に重要な
課題になります。
特に、今回新設されました出生後育休につきましては、
女性は、産後六週間、これは強制
休業です。
本人が働きたいと言っても一切の
就業が認められない、そういう
休業になっております。他方で、出生後育休の方は、分割できるということは、間を挟んで
仕事をしてもいいですよということになりますし、
労使協定に基づく
休業中の就労というのは、これは文字どおり断続的に
就業が認められるということになります。
これを、やはり男は
仕事なんだよねというふうになっちゃうと、性別役割分業を支持し強化する
制度になってしまいます。なので、やはりこの
非対称性の問題というのは、先ほど
ポジティブアクションというお話がありましたが、短期的には
ポジティブアクションとして考えてもいいですが、やはり
男女雇用機会均等の根本的な問題に関わる部分を持っているということを
最後にお話ししていきたいと思います。
二つの方向性として、まず、やはり、
男性も働けるんだったら
女性も育休の合間に働けるということがあってもいいよね、そういう
考え方もあると思います。つまり、今回
男性に適用した
考え方を
女性にも適用していきましょうよ、体の体調がよかったら働いてもいいんじゃないんですか、そういう
考え方を取っていくという
考え方はあると思います。
いや、そうではなくて、やはり産休というのは母体保護ですから、これはもう何物にも代え難い保護の対象なので、これはもう鉄板で動かさない。だったら、
男性も
一定期間は
仕事をしないでしっかり休んでください、そういう
考え方もできます。
だけれども、
女性の母体保護の問題というのは、やはり他者が代替できない
自分自身に対するケアであるのに対して、
男性の
育児というのは、現実的には、
夫婦以外の人が
子育てに関わるという場面が
日本では結構あります。実家の親だったり、あるいはシッターさんだったり、産褥シッターを雇ったりとかということもありますので、妻か夫かでいったら、妻が要するに動けないんだから夫がやらなきゃいけない、だけれども
夫婦だけじゃないですよという問題がありますので、この点を留意して今後検討を進めていくことが大事じゃないかなというふうに思っています。
最後に、締めになりますが、
労働政策としての
育休政策と
子育て支援政策としての
育休政策というのはやはりちょっと性質が違うというのは、
労働政策というのは
労働市場に介入する
政策だということを
最後に申し添えておきたいと思います。
市場である以上は、交換関係、ギブ・アンド・テイクで成り立つ。その当事者の取引関係の中に政府が介入して、市場取引のルールを
整備していくというのが
労働政策が持っている一つの重要な機能としてあります。
そのときに、育休とか何にしても、使用者の人が気軽に、休んだ分は働いてねと言いますけれども、それは別に意地悪で言っているんじゃなくて、やはりギブ・アンド・テイクの関係で
職場は成り立っているということを端的に表している
側面がありまして、
政策介入によって
労働者にある種の便益を与える、今回の場合だと、育休を取りづらいから取れるようにしましょう、なるべく長く取れた方がいいですねということを便益として与えた代わりに、
企業側というのは、そのコストに見合った見返りというのをやはり
労働者に求めてきます。例えば、休んだ分は働いてねという気軽な言い方は、例えば、
女性が育休を取って復職した後には、やはり管理職昇進という形で見返りを求めます。
これは、職域拡大とか
男女雇用機会均等の
理念に合っているので、どちらかといえば望ましいことというふうに捉えられがちですが、やはり、そこまで
仕事にフルコミットメントしたくないんだけれどもという
女性にとっては厳しい選択を迫られているという
側面も当然ございます。
そういう意味で、お互いに信頼関係の上で成り立っている
職場ではありますが、やはり、営利活動の中で従業員の人材を活用しよう、その基本前提の中でいろいろなベネフィット、便益をやり取りしているというのが労使関係ですので、困っているから助けてあげないといけないという形で、安直な慈悲深さで、
労働者に便益を上から介入して無理やり提供するようなことをすると、それは
労働者にとってある種の債務を負うことになりかねない。
育休を取った見返りにあなたは何をしてくれるんですか、そんなに育休を取りたいんだったら。よく言われるのが、そういうことになると逆に
子供を産みづらくなるとか、逆に、それに見合った
男性しか要するに
企業が期待をかけなくなるとか、そういったことが現実的に懸念される。これは
女性についても言われますし、
労働政策全般について、やはり、利益を得ると思った方の首を絞める結果という、そういう副作用が常について回るということを考慮して
政策を決めなきゃいけない。だから、労使の対話ということが大事になります。
対話が大事というと、何か話合いでマイルドに問題を解決しようとするハト派の主張のように見えますが、これは違います。何か思い切ったことをやるのが格好よくて、マイルドな人は弱腰という話じゃなくて、基本的に、取引関係、交換関係について労使が納得していないルールを適用しようとすると、必ずゆがみということが生じます。
それは、もう一回強調しますが、利益を与えようと思って、困っているから助けてあげようと思った方の人を苦しめるという結果になるのが
労働政策の怖いところです。非正規の人がかわいそうだから、
女性の人がかわいそうだから、ああいう人がかわいそうだから何とかしてあげようといっても、急進的なことをやると、その副作用でその人たちが困るということになるということを重々留意して、
労働政策としての
育児・
介護休業法の在り方ということを引き続き御検討いただきたいというふうに思います。
どうもありがとうございました。(拍手)