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印鑰参考人 まず、このような
機会を与えていただいたことに対して大きな感謝を示したいと思います。
これまで、
国内外の食の問題について研究してきました。その観点から、今回の
種苗法改正案が持つ問題についてお話ししたいと思います。
まず、
農水省、
政府はこの
法改正の必要性を、
日本の優良な
品種の
海外流出を避けるために
国内における
自家増殖を
規制しなければならないというふうに言っているんですけれども、これは逆に言えば、
日本の
国内の
農家が国外に流出させている犯人だということになると思うんですね。だったら、その根拠はあるのか、その証拠はあるのかということがまず問われなければいけないと思うんですけれども、その確たる証拠というものは出ていません。根拠の乏しい
説明になっていると思います。
そして、
海外での不正な使用をとめるためには
海外での
登録こそが唯一の解決策と
農水省自身が述べられておりますので、これは余りに取ってつけた
説明と言わざるを得ないのではないかというふうに思います。
二番目に、三ページのグラフがあるんですけれども、
自家増殖をとめないと
種苗企業が新
品種をつくる意欲を失ってしまう、こんなことを言っているんですけれども、実際に、一九七八年、今の
品種登録が始まる年から、新
品種は毎年順調に伸びていました。自家採種ができるにもかかわらず、順調に伸びていたんです。ところが、この十年間、これがとまってしまった、伸び悩んでいます。この原因は何なのかということです。実際に、
自家増殖する余裕がなくなってきた
農家などもふえていると思いますので、ここで、
自家増殖するから新
品種が伸びないんだということは、このグラフからは読み取れないと思います、
説明としてなっていないと言わざるを得ないと思います。
そして、今回の
法案の
説明で更におかしいのは、
農家にどのような影響を与えるかということなんです。
農水省によりますと、
種苗法の
対象となります
登録品種というものは一割程度だ、それ以外が九割だ、自由に
自家増殖できるものが九割あるんだ、こんなことを
説明されているんですけれども、本当にそうなのか、調べてみました。
しかし、調べてみますと、五、六になりますが、各
都道府県が設定している産地
品種銘柄に
指定される銘柄を調べてみますと、半分以上が
登録品種なんですね。実際に
生産は、コシヒカリとかスーパースターがいますので、コシヒカリなんかは
一般品種ですから、
一般品種の方が
生産は多くなるんですけれども、それでもやはり
登録品種は三三%ある、一割というようなものではないと言わざるを得ません。
そして、実際に、県で力を入れている例えば沖縄のサトウキビ、このような
品種でも、やはり
登録品種の
割合というのは非常に高いと考えられるわけですね。
こうして見ますと、
登録品種は、宣伝されているように一割しかないという
説明と、現実はかなり違いがあると言わざるを得ないと思います。
そして、
登録品種に関して、
自家増殖は
規制するのがグローバルスタンダードであるかのような
説明がされておりますけれども、実際には、世界で全ての
登録品種の
自家増殖を
規制している国は存在しないと思います。
EUでも、主食に関するものは基本的には例外に設定されております。
自家増殖は認められております。
許諾料は払わなきゃいけないよというのはあるんですけれども、実際に、穀類ですと九十二トン、芋ですと百八十五トン未満の
農家は
許諾料の支払いが免除されています。これはどれぐらいの大きさの
農家かといいますと、大体十五ヘクタールとか十八ヘクタールになると思うんですね。
この規模の
農家だったら、
日本の
農家はみんな
許諾免除ですよね。そのような例外がこの
種苗法には存在しておりません。やはりこれもおかしいのではないかと思います。
そして、アメリカの場合は、
自家増殖が
禁止とされるのは特許が取られた作物のみであって、それ以外のものは基本的に
自家増殖ができる。栄養繁殖のものはちょっと除きますけれども、基本的に
自家増殖はできるという法制度になっています。
こうなりますと、このような法制というのは世界で類がないわけですね、そういったものをつくってしまうというのはいかがなものかなというふうに思います。
そして、
農水省は、
許諾料はとっても安いから
農家には影響を与えないと
説明しているんですけれども、しかし、
許諾料に関する
規定は現在の
種苗法改正案には書かれていません。ですから、どうなるかというのは任せている、性善説によっているということになります。独占が進んだら、安いままであるとは限らないわけですね。これが今後高くなっていくことを考えますと、そもそも
生産資材の低廉化を
目的とした
農業競争力強化
支援法にも反する立法となってしまうのではないかと言わざるを得ないと思います。
そして、これもちょっと強調したいんですけれども、
農水省の
説明では
日本の優秀な
品種が
海外に流出するという
懸念ばかりが強調されるんですけれども、今の世界
状況はかなり変わってきています。
十三ページに掲げているグラフを見ていただきたいんですけれども、ここのデータというものはUPOV同盟のデータなんですが、
日本は二十年前までは世界第二位の新
品種をつくれる国でした。しかし、今は、世界のほかの国がどんどん伸びてしまって、
日本だけが純粋に減少を続けています。中国には二〇〇九年に抜かれてしまっている。韓国にも二〇一五年に抜かれてしまっている。二〇〇一年から二〇一八年で、三六%、
日本は減少しています。これに対して、韓国は二・八倍、中国は二十二・八倍にふえているんですね。
日本だけが何でこんなに減ってしまうんでしょう。その原因は何なのか。
その原因は、今の
日本の
国内市場は、スーパーに行けばわかると思います、安い
海外の
農産物であふれ返っているんですね。これは、
農業を犠牲にして進められた自由貿易協定の結果だと言わざるを得ないのではないかと思います。そして、離農者はどんどんふえるばかりです。そうなりますと、農村の衰退に伴って、新
品種をつくる必要な人材、能力ある人たち、こういった人も得がたくなってきてしまっている。
そして、一九九八年までは、地方自治体には補助金という形で
種苗事業に安定財源が確保されていました。しかし、それは九八年に地方交付税となってしまって、
種苗事業に安定的な投資が行われていないというのが現状ではないでしょうか。ですから、非常に減ってしまっている。
外国産品と競合を迫られる
農家にとっては、その
負担をふやす
種苗法改正は、さらなる離農者をふやすと思うんですね。そうすると、種、苗を買う人が減ってしまうんです。こうなると、今度は種をつくる側の人たちにとっても、
市場が小さくなってしまいますから、逆
効果になってしまいますね。こうなってしまいますと、今後の
日本の
種苗事業にとって大きな問題を逆につくり出すんじゃないかと思うわけです。
そして、特に強調したいのが、稲の問題、お米の問題です。といいますのは、今、
日本が唯一種を自給できるというのは稲しかないんですね。お米は、
日本の
食料保障の最後のとりでなんです。そのとりでを守ってきた外堀は、
種子法廃止で埋まってしまいました。そして今、内堀が埋められつつあるのかなと危惧せざるを得ません。
アメリカは、
大豆やトウモロコシは
民間企業任せにしているんですけれども、主食である小麦は
農家が自家採種しています。そして、公共機関がちゃんとつくって、安いものを提供しているんですね。この制度はいまだに続いています。
日本もそうでした。でも、
日本はその制度を今やめようとしています。こんなことで、この最後のとりでがなくなってしまう。
公的
種苗事業が衰退していって
民間企業に委ねられた場合、これまで
地域を支えていた多様な
品種というものはなくなってしまう
可能性があるのではないか。種をとるか、とらないかじゃないんですね、買うか、買わないかの問題じゃないんですね、種そのものがなくなってしまう、そういう危険が今あるんじゃないかと思います。といいますのも、稲の多
品種を
供給する
民間企業は存在しておりません。
食は社会の基盤でもありますし、それを失うことは、独立国としての体裁すら奪ってしまうことにつながりかねません。現在でも、
日本に
登録される
外国品種の法人の
割合は激増しています。
十七ページにグラフがあります。
外国企業の
割合、
日本に
登録されている
品種で
外国法人のもの、これがこのような形で急増しているんですね。この
状況は、今はお花の
品種だけだから大丈夫だというんですけれども、これも、
種苗法で公的
種苗事業が衰退していったら、ほかの、お米とか、そういったものにも入っていく
可能性は僕は十分にあると思います。
農水省は、二〇一五年に知財戦略二〇二〇を策定しました。その中で、
種苗の
知的財産権が大きな柱に
位置づけられました。
知的財産権では
種苗法の
育成者権と特許法の特許権の二つの形態があるんですけれども、この二つとも
農水省は強化していく姿勢を示しています。ちょっとこれは
種苗法から枠を超えてしまう話なんですけれども、
知的財産権を強化するということが何をもたらすか、十分注意が必要だと思います。
といいますのは、十八ページの小さなグラフを見てください。三つの小さなグラフがあると思います。この中で、アメリカでも、一番左のグラフですけれども、順調に
登録品種がふえているのは特許じゃない方なんですね。特許の方は、この二十年間ほとんどふえていないんです。しかも、真ん中のグラフに注目していただきたいんですけれども、アメリカですら、特許をとられた種を握っているのはアメリカ企業じゃないんです、
外国企業が六割とっているんです。アメリカですら六割ですよ。これを
日本でやったらどうなるでしょう。ほとんど
外国企業にとられてしまう。つまり、
知的財産権を強化していくことによって、逆に
外国企業に
日本の
種苗市場を握られる結果になりかねません。
そして、看過できないのが
種苗表示の問題です。今回の
種苗法改正で
種苗への表示が強化されるということなんですけれども、これは深刻な話だと思うんですね。というのは、普通の
大豆の種だと思って買った、ところがそれはゲノム編集されていた、つまり遺伝子操作されたものを自分は知らないうちにまいていた、こんなことが起きかねないんです。
しかも、EUやニュージーランドはゲノム編集は遺伝子組み換えとして
規制すると言っているんです。韓国や台湾もそれに追従するかもしれません。そうなると、
日本の食は
輸出できない、こんなことになりかねません。そういった意味で、これをしっかりと表示することは不可欠だと思います。
これまでの
種苗法は、新
品種を育成した育成者と、それを使う
農家の
権利をバランスさせることに大きなエネルギーを注いでつくられたと伺っております。
現行種苗法をつくられた方々の御努力に強い敬意を表せざるを得ません。
しかし、二十ページにありますように、今回の
種苗法はそのバランスを壊してしまうものです。このようにバランスを壊してしまうことによって、
日本の
農業にとっては大きな問題を引き起こすのではないか。
自家増殖というのは
農業の基幹技術であり、それを失うということは
日本の
農業にとって大きな制約になってしまう、そういう
懸念を持ちます。
この停滞している
種苗育成をどうしていくべきか。その鍵は、二十ページのように、育種家の方、育種家
農家、使う側、買う側も含めて両方を底上げする、そういう政策が必要なのではないでしょうか。これがなければ、バランスを失わせることによって、
日本はアジアの諸国にも追いつけない、そんな
状況が生まれてしまうんじゃないかと思います。
今、
種苗の多様性が危うくなっています。多様性を失うことで、私たちのこの地球の生態系はかつてない危機に瀕していると言われています。これに対して、国連FAOはローカルで多様な食を守ることが今後の人類の生存に欠かせないとしています。そのためには、地方自治体で三百
品種近くを今つくっています、在来種を持っている
農家の方は、千ぐらいを持っておると言われています、まずはこの多様な種を守ることの方がむしろ大事なんじゃないでしょうか。
このような、多様性を失っていくことは、私は、
民間企業の独占になっていきますと本当に劇的に多様性は失われてしまいます。これは
日本の未来が失われるに等しいと思います。
今必要なのは、このような在来種を守る、そういう方向ではないかと思います。現に、ブラジル、韓国でもそういった方向に進んでいまして、イタリアは、生物多様性を守るために中央
政府が地方自治体に権限を移譲して、地方自治体で在来種を守る、そういう政策が今進んでいると聞きます。こういった政策から学ぶ必要があるのではないかと思います。
最後に、
食料・
農業遺伝資源条約におきましても、小農及び農村で働く人々の
権利宣言におきましても、
農家は種を守ってきた貢献者と言われています。つまり、
登録品種であったとしても、
農家は本の共著者であるわけですね。そういった共著者の
権利を一方的に、世界に類例のない形で奪うような
法改正はあり得ないと思います。
残念ながら、今、賛成も反対もほとんど
農家の人たちに浸透していません。知らない人がほとんどです。そのような状態で、この
審議が進んでしまうということはやはりまずいと思います。地方公聴会も含めて、しっかり、慎重な論議が必要だと思います。
この十年、世界は大きく変わりました。今の政策は大きく変わりつつあります。これを考えますと、やはり
日本も大きく変わらなきゃいけない、今そういう時代に来ていると思います。そのためには、古い考えでもってつくられている
種苗法改正案ではなくて、もう一回、今世界で動いている、多様性を守る、
地域の
種苗をどうやって守るか、そういったことをもう一回考える必要があると思います。
この
改正案は、二十二年ぶりの歴史的な
改正になりますので、このようなおかしな
説明で拙速な
審議をしないようにお願いいたしたいと思います。
賢明な議論が行われることを心から祈念して、こちらの報告を終えたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)