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参考人(
柳原三佳君)
柳原三佳と申します。
私は、今回、このような
法案の会議に参加させていただいて本当に有り難いと思っているんですけれども、私自身は
法律の専門家ではありません。ただ、約三十年間にわたって
交通事故被害の取材を続けてきまして、過酷な被害の現実を目の当たりにしてきました。そして、多くの
被害者や御遺族が本当に苦しみの中から声を上げて、そして数々の
法律を変え、また
被害者の支援体制を構築する、そういう場面に臨場してきました。
取材を始めた当時というのは、全てのもうどんな悪質な
事故でも過失で処理をされて、当時のことから考えますと、もう本当にこの三十年間で、まあもちろんその
交通事故の件数、
死亡事故死者数も含めてですけれども、本当に隔世の感があります。しかしながら、現在でも、もう残念なんですけれども、信じられないような悪質な
運転者がいまして、そして重大
事故を起こし、かけがえのない命が奪われ続けています。
例えば、今回コロナの問題でたくさんの小中学生が自宅待機ということになりましたけれども、私は本当にこれ危険だなというふうに思いまして、何度も記事をこの三月、四月書いてきました。けれども、記事を書くたびに、毎週のように新たな犠牲者が生まれている。本当に恐ろしいことだと思っています。
実は、私自身は、長年バイクや車を非常に愛好してきました。特にバイクに関しては、趣味として十代の頃から、原付のスクーターから始まって、中型免許そして大型免許も取り、ナナハンにも乗って、もう全国各地をツーリングするという、そういうふうなことをしてきました。
実は、私がその
交通事故の記事を書くようになったきっかけというのは、まず原点はここにありまして、友人が、やはりバイクに乗っている人たちが結構相次いで亡くなったという経験をしています。そこで、やはりほとんどの方が単独
事故で亡くなっているんですけれども、なぜこんな場所でこんな亡くなり方をしたのかというのが分からない、そういうケースが非常に多いんですね。ひょっとしたら
直前にあおられたんじゃないか、
幅寄せされたんじゃないか、何か危険な物を投げられたり、いろんなことがあったんじゃないか、そんなことを想像するんですが、結局そういうことはもう闇に葬られたまま、分からないまま終わっています。
先ほど
今井先生が二ページ目で追突
事故のケースを言ってくださいましたけれども、例えば最初にその原因をつくった
A車というのが
高速道路で逃げてしまったらどうなるでしょう。多分、昔だったら、もうドライブレコーダーもありませんし、ほとんどのケースが、そのあおりなり
妨害運転をした人たちは、そのまま後ろで
事故を誘発したまま逃げる、こういうことをしてきたんじゃないでしょうかと、そういうふうに思います。
こういうこともあって、私はその第三の他者、単独
事故における第三の他者の存在というものをすごく今まで気にして取材活動を続けてきました。ですから、そういう意味においても、今回の
法律改正案というのは、もう悪質で危険な
運転行為を行う
運転者を厳正に裁くためにはもう絶対に必要だと思いますので、長年
運転を続けてきたドライバー、ライダーの一人として賛成したいと思います。
ただし、その上で、こういう
あおり運転を始めとする
危険運転、その後の裁判の現実、こういうことを知っていただいて、そして、法
改正の後、犯人の逃げ得ですとか、それから逆に冤罪ですね、結局その後ろで
事故を起こした人というのは、もう何というのか、不可抗力、避けることのできない
事故を起こしてしまっていると思うんですが、そういうことも決して許してはならないということですね。そういう
事件を一件でも減らすために、実際にその
交通事故問題にこれまでたくさん
被害者や御遺族の方々が取り組んでこられましたが、そういう方々の御提言も共に今回紹介したいと思います。
このレジュメに基づいて、もうざっと流していきたいと思うんですけれども、まずちょっと、
交通事故の死者というのがどれぐらい生まれているかということなんですけれども、ちなみに、この今新型コロナウイルスで全世界の死者数というのが五月三十日現在で三十六万四千四百五十九人ということになっていますけれども、これ、二年前にWHOのテドロス
事務局長が言っているんですけれども、
交通事故による全世界の一年間の死者数というのは、一年間にですよ、百三十五万人、地球上で。二十四秒に一人のペースで
交通事故で亡くなっています。テドロスさんはこのときに、
交通の代価として容認できない犠牲だと、これは解決策が既に分かっている問題だというふうに二年前におっしゃっています。
解決策が既に分かっている、これはすごく大きな言葉だと思うんですけれども、私はどちらかというとこの部分に焦点を合わせて、今からその五つの点について述べたいと思います。
まずは一番目。この
あおり運転というのは、もうとにかく今始まったことではなくて、過去にたくさん起こってきたと思うんですけれども、結局、客観的な事実
関係が非常につかみづらいということで極めて困難です、これを立件するのは困難なのが現実だと思います。
それで、先ほど冒頭にも申し上げたように、不可解な単独
事故、この
直前に第三の他者が絡んでいないかどうかという問題、それから、今回の
法律の
改正の中で、非常に、後ろの車を急に
停止させるような感じで割り込んで
低速で車を止めるとか、そういう悪質な
運転というのがあるんですけれども、これが
妨害という
目的だけではなくて、私は結構保険金詐欺にも今まで使われてきたんじゃないかと思っています。
つまり、自分の車を急に止めて後ろの車に自分がぶつけてもらえれば、形的には追突
事故になるわけなんですけれども、追突
事故というのは基本的に追突した方が悪いというふうに取られますから、
事故をつくった悪い本人たちが結局保険金を得られる。実際、こういう
事故を取材したことも私はあります。結局、こういうふうなことも問題にしていかなければならないんじゃないかなというふうに思います。
結局、最近のその
あおり運転がここまでクローズアップされたのは、あそこまでクリアな、もう本当に鮮明な映像が残っていたからですよね。もしあれが、ドライブレコーダーの映像がなければこういうふうに立件できたんでしょうか。恐らく、あれがなければそのまま逃げられていたと思います。
ですから、こういう
法律とともに、やはりドライブレコーダーの装着の義務化、最近はオートバイ用のドライブレコーダーもちゃんとありますので、こういうものを是非装着するようにする。そしてまた、そのドライブレコーダーのデータを、じゃ誰のものとするのか、
加害者が自分の不利なデータを消さないように、その辺りまでしっかりとチェックして、何かこうルールをつくっていただきたいなというふうに思います。
それから二番目ですけれども、この悪質
事故というのはもう本当に遵法精神のない悪質なドライバーによって繰り返し起こっています。これはちょっと一般のドライバーの感覚では考えられないようなことが行われているんですね。
私、今日はこの資料の中に過去の記事を添付させていただきました。二〇〇二年とそれから二〇一四、五年に書いた記事だと思うんですけれども、ここに本当に信じられないような悪質な
事故の被害に遭われた御遺族の話をたくさん載せています。こういうものを見ていただいて、そして、とにかくこんな悪質な人たちにどう対処していけばいいかというところを念頭に置いていただきたい。
特に私が深刻だなと思っているのは、週刊朝日の二〇〇二年の記事の中の三十九ページにその記事を書いているんですけれども、当時は飲酒
運転の
厳罰化という議論が行われていた時期でした。ところが、これが
法律を
改正される前にその議論がメディアで取り上げられたことによって、当時八千七百八十一件だったひき逃げ件数が何と僅か二年で一万六千五百三件、二倍に増えているんですね。つまり、罰則が厳しくなるというのは、じゃ逃げればいいやと、逃げなければならないと、そういうふうにひき逃げや当て逃げ、逃げるというような
行為を誘発することもありますので、ここで是非お願いしたいのが三番なんですけれども、悪質ドライバーの逃げ得は絶対許さないために徹底的な捜査を行ってほしいということなんです。
例えば、
高速道路だとか道路にはNシステムといってナンバーの自動読み取り装置みたいなのが付いていると思うんですけれども、こういうものを徹底的に捜査に活用する。東名
高速の
あおり運転事故ではこれが活用されたというふうに伺っていますけれども、普通のひき逃げ
事件のレベルではなかなかNシステムまでは使ってもらえないというのも聞いているんですけれども、この辺りを是非、何というんですかね、アピールしていただいて、その悪質な人たち、君たち逃げても駄目だよ、それから、そういう
犯罪犯したらいけないよという抑止力に是非使っていただきたい。
そしてまた、このひき逃げとか当て逃げという
行為が、今時効が七年なんですね。犯人が七年逃げ続ければ、もう時効になってしまう。だから、こういうことも併せて、
法律的にはなかなか
改正は難しいというふうには伺っていますけれども、この辺りも是非検討していただきたいなというふうに思います。
それから四番目。
危険運転致死傷罪というのが、すばらしい、何というんでしょう、悪質な
運転を排除するためにはいい
法律なんですけれども、現実には適用率が非常に低い。もう相当悪質な
事件でも大体は過失ということで処理されている。こういう現状も先ほど添付した記事の中に実例を入れているので、是非御覧いただきたいと思います。
そして最後にですけれども、五番目。車を
凶器にしないための取組ということ、ここは一番強調したいところですけれども、本日、この
委員会にもクルマ社会を問い直す会の方が傍聴に来てくださっています。お一人は、十七年前に青信号を横断中の六歳のお嬢さんが左折巻き込みのダンプにひかれて亡くなっています。そういう大変な思いをされた御遺族が一生懸命今まで活動して、そして彼らの思いというのは、とにかく再発防止、同じような思いをする遺族を出したくないということで闘ってくださっています。
また、創立二十年になりますが、北海道
交通事故被害者の会の代表の前田敏章さんと二日前にいろいろ電話でお話をしました。前田さんはこうおっしゃいました。刑罰とは
被害者遺族の報復ではない、これは社会が科すものだ、私たちの願いは、こんな苦しみ、悲しみは私たちで終わりにしてくださいというそれが心からの叫びです、
厳罰化は間違いなく抑止力となります、しかし、もちろんそれだけで
事故はゼロにはなりません、車を絶対に
凶器にしない、そのための根底の施策を総合的に全て行うことが肝要と、冷静に考えています。
この北海道
交通事故の
被害者の会では、本当に毎年大変具体的で中身の濃い要望書を国の方に提出しておられます。是非この会の要望内容を御覧いただいて、具体的に、この
厳罰化ももちろん大切だけれども、その裏側で
事故をなくす施策というものを真剣に考えていただきたいなというふうに思います。
最後に、この解決策としてその提言の一例なんですけれども、まずはこういう悪質ドライバーをどのように排除するか。例えば、免許の資格の厳格化、ドライバーの適性検査ですね、認知機能、健康状態の適正な判断と、そういうものも、
交通教育とかも幼いときからやっていく。それから、歩行者が青信号で横断中に絶対に犠牲者を出さないために、この歩車分離信号というものがあるんですけれども、要するに、歩行者が青のときに全ての車を赤で止めましょうという、スクランブル交差点みたいな、ああいうふうなものをどんどん導入すれば、本当に弱者の、ルールを守っている子供たちの命が守られるんじゃないかというふうに思います。
それからまた、
速度ですね、車の
速度が、スピードが出ると重大
事故が起こります。今回、コロナの影響で
交通量は激減して
交通事故件数自体は減ったというふうに言われているんですが、残念ながら都市部ではそのスピードが上がってしまって、そして
死亡事故が増えているという現実があります。この辺りから見ても、やはり
速度をいかに落とすかというところ、要するにセーフティーゾーンでは
速度をきっちり落としましょうということを徹底していくべきだと思います。
それから、最近よく問題になっているアクセルとブレーキの踏み違い
事故、これも、すごい、物すごい件数起こっているんですね。でも、これも、車の方にアクセルとブレーキの踏み違いを防止する装置、例えば、私、パニックレスアクセルペダルというものをこの間付けた
自動車に試乗してみましたけれども、これはもうアクセルを思い切り踏み込んだときに自動的にペダルがぱんと外れるような仕組みになっていまして、絶対にこの機械を付けていればあんな悲惨な
事故は起こらないのに、というのをもう痛感したんですね。
こういうことで、今私たちがやるべきこと、やるべき対策、たくさんあると思います。これを一つ一つ検討して、そしてこの
法律とともに悪質
運転を排除していくと、そういうことを是非御検討いただきたいと思います。
ありがとうございました。