○
参考人(
礒崎初
仁君)
皆様、こんにちは。中央大学の
礒崎初仁と申します。本日は、このような貴重な
機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
私は以前から、日本では
自治体の事務に関する法令の数が多過ぎる、それからその内容も大変細か過ぎるというふうに思ってまいりました。
全国の
自治体が細かい法令に拘束されまして、日本はいつまでたっても分権型社会になることができない、これは問題だというふうに考えてまいりました。
そこで、これを改革するために、
自治体の立法権、
制度をつくる権限を拡充させる立法分権がこれからは必要なのではないかというふうに考えております。
本日の
委員会のテーマは、国と
地方の
行政の
役割分担というテーマですけれ
ども、私は、
制度をつくる権限、すなわち立法権も国と
地方で分担すべきではないだろうかということで、「「立法分権」のすすめ」と題しまして問題提起をさせていただきたいというふうに
思います。
一枚目のスライドの二でございます、下の方ですが、本日の問題提起の要点を四つにまとめてまいりました。
一つは、日本の分権改革は、両議院における
地方分権
推進決議に始まります。そういたしますと、二十五年以上前に分権改革が行われてきたということであります。
ところが、
地方自治法の原則は変わったのに、肝腎要の個別法が変わっていない。コンピューターでいいますと、OSが変わったんですが、アプリは、アプリケーションは変わっていない、相変わらず集権バージョンのまま使われていると、こういう
状況ではないかと
思います。それでは国民がゆとりと豊かさを実感できる分権型社会ということは実現できないのではないかということでございます。
二点目は、
自治体の事務を定める法令が縦割りの省庁体制の下で次々と制定され、しかもその規定が非常に細かくなっているということが問題だと
思います。
今後、
人口減少
時代を迎えて
自治体職員は少なくなると
思います。それなのに、執行すべき法令は減らず、むしろ過剰過密になっている、これでは
地域の
課題の解決に取り組む余裕がなくなってしまうと、これでいいんでしょうかという問題でございます。
三つ目は、これまでの
地方分権ですが、基本的には法令の執行権を移譲する
行政分権だったように
思います。これからは法令をスリム化し、
自治体に
制度をつくる権限を移譲する立法分権、これが求められているのではないかということでございます。
ただ、国が立法をやめてしまえと言っているわけではもちろんありません。そうではなくて、国の法令では基本的事項や方針を定めるにとどめて、詳細な規定は
地域の
実情に合わせて条例で決める、こういう法令と条例のベストミックス、これが求められているのではないかということでございます。
四点目です。この立法分権を進めるためには、法令の統合と簡素化、それから条例の上書き権、それから立法過程への
自治体参画のルール化、こうしたものを進める必要があるのではないかというふうに思っております。こうした改革には法律の制定や改正が不可欠ですので、立法機関としての国会に期待したいということで今日は問題提起をしたいということでございます。
以下、具体的に御
説明申し上げます。
次のページをお開きください。
一つ目のテーマは、
地方分権改革の二十五年、これをどう
評価するかということでございます。
先ほ
ども指摘いたしましたが、日本の分権改革は、一九九三年の両議院における
地方分権
推進決議、これが出発点でございます。それまでも
地方分権が必要だということはいろいろなところで指摘されておりましたけれ
ども、各省庁の分厚い壁に阻まれて大きな進展はなかったところでございます。ところが、両議院のこの決議、全会派の一致した決議と聞いておりますが、ここから
地方分権の風が吹き始め、日本は分権型社会に向けた歩みを始めたと、こう言っていいのではないかと
思います。
その決議の中身ですけれ
ども、本院におきましては、そこに記載をいたしましたが、国と
地方の
役割を
見直し、国から
地方への権限移譲などによって、
地方公共団体の自主性、自律性の強化を図り、二十一世紀にふさわしい
地方自治を確立する、これ二十一世紀を目前にしておりましたのでこのような記載になっております。すばらしい認識だと
思いますね。しかし、この決議から四半世紀が経過し、この理想が実現されているのかどうか、ここがポイントでございます。
このページの下の方、図表一には、この間の分権改革の経過を要約しておきました。二〇〇〇年前後に行われました第一期分権改革、これは成果上げたんですね。機関委任事務
制度の廃止とか、今
沖縄と国で問題になっておりますが、係争処理
制度とか、こうしたものがつくられ、大きな改革が成し遂げられたところでございます。
しかしながら、二〇〇七年以降の、私は第二期分権改革と呼んでおきたいと
思いますけれ
ども、
義務付け・
枠付けの
見直しなど、これは先ほど
伊集院参考人も言及されましたけれ
ども、重要なテーマが掲げられました。ただ、議論がどうも法律の細かい規定について条例に委任するの委任しないのといったような視野の狭い議論に陥っているのではないか、したがってメディアや国民もほとんど関心を持たなくなった、分権に関心を持たなくなったというのが
現状ではないでしょうか。
内閣府を始めとする
関係者の努力には頭が下がりますけれ
ども、これでは役所間の事務改善のような話になって、本院が掲げた二十一世紀にふさわしい
地方自治を確立するという理想からは遠ざかっているのではないかというのが私の見方でございます。
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二つ目のテーマは、法令の過剰過密というものはどういうものなのかということでございます。私が指摘しております過剰過密というのは、社会の
課題に対して余りに多くの法令、特に
行政法令のことでありますけれ
ども、
行政法令が制定され、しかも細部まで規定している、そういう状態のことを過剰過密というふうに呼んでおきたいというふうに
思います。
この法令の過剰過密によってどういう問題が生じているかということですけれ
ども、第一に、総合的な
地域づくりの発想が失われてしまいます。法令というのは縦割りに基本的にできておりますので、総合的に
地域をつくるには様々な壁があるということ。それから第二に、
地域の
実情に即した解釈、運用が難しくなるということ。そして、執行する
自治体職員が法令に習熟できず、
現場の混乱とか執行コストの増大を招くということでございます。先ほど来の
伊集院参考人も六十九人で頑張っておられるということでございましたが、こうした
職員の苦労というのにつながるわけでございます。それから最後は、
自治体職員がどうも受け身になって、自ら
制度や政策をつくるという発想を失っているのではないだろうかということでございます。
実は、本日の関連
資料の二十五ページに私の略歴を記載していただいておりますけれ
ども、私は一九八〇年代に神奈川県庁に入りまして、十七年にわたり、土地利用とか介護保険とか、こうした
業務に携わりました。当時は、分権改革の前でしたけれ
ども、これからは
地方の
時代だと言われて、私も含め一部の
職員は自主研究など、五時以降の勉強会などを開いて、これからは
地方から日本を変えていくんだ、こんな機運もあったことを
思い出すところでございます。
ところが、いざ分権改革が行われますと、
地域づくりの先頭に立つべき
職員が法令の執行に追われて余裕をなくし、どうも受け身の仕事に逃げ込んでいるのではないかと、私にはそう見えるところでございます。
さて、関連する法令の
データを幾つか
紹介したいと
思います。まず、法令がいかにたくさん作られているかということを確認するために図表二を御用意いたしました。
行政分野別六法の
状況ということでございますが、
皆様も御承知のとおり、実務では分野
ごとに大変分厚い実務用六法が作られ、
職員はこれに基づいて法令事務を進めているわけでございます。
本日は、
参考までに、そのうちの一つ、上から四つ目のところ、介護保険六法というのを実はお持ちしたのですけれ
ども、こんなに分厚いものでございます。合計四百二十四本の法令や通知が収められておりまして、三千五百五十八ページになるものでございます。実は、国会が制定した法律は十九本ということでそれほど多くないのですけれ
ども、告示が百二十本、それから通知が二百四十八本というふうに多くなっておりまして、かつて言われた通達
行政、今でも続いているじゃないかということでございます。
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図表三では、主な法律の条数と字数をちょっとカウントしてみました。法令がいかに細かいことまで規定しているかということを示すために何か方法ないだろうかと思って、大変素朴な方法ですけれ
ども、条文の数と文字数をカウントしてみました。
これを見ますと、公有水面埋立法のような古い法律は条文数も文字数も少ないのですけれ
ども、介護保険法、今ちょっと
紹介しました、これでは、法律は三百六十三条、二十一万字ございます。省令でも四百七十五条、二十万字近くございまして、新しい
制度ですけれ
ども、大変細かい法
制度になっているということでございます。
恐らく、
全国の
市町村の介護保険課ではこの六法が大体備えられていると
思いますけれ
ども、担当者は、法令を理解するだけで大変でございますから、これを要約した国のマニュアルなどを読んで法令事務を辛うじてこなしている、要介護認定等々を辛うじてこなしているという
状況ではないかと
思います。そんな
状況の
職員に私
たちの町にふさわしい介護サービスの在り方を主体的に考えて仕事をしてほしいと求めても、そんな余裕はありませんという答えが返ってくるんではないかというふうに
思います。
その下のスライド三を御覧ください。
三つ目のテーマは、なぜ今、立法分権かということでございます。
繰り返しになりますけれ
ども、これまでの分権改革は、法令の執行権を拡充する
行政分権だったというふうに基本的には
思います。これからは、
自治体が自ら
制度をつくる立法権、これを拡充する立法分権を進めるべきではないかというふうに
思います。
その理由ですけれ
ども、国の法
制度が過剰過密だと条例制定権の可能性が限定されます。それから、国の法
制度が画一的だと多様な
地域課題への対応が困難になります。そんな幾つかの
問題点がございますが、本日強調したいのは③、これからの
人口減少を迎えて大丈夫でしょうかという問題です。国のフルセットの法
制度、こんな重たいシステムを運用するにはコストが掛かりますし、
職員が余裕をなくして
地域の
課題に向き合う時間がなくなってしまうのではないかという点でございます。
地方分権というふうに言いますと、何となく理想論、きれい事を語っているように思われがちですけれ
ども、私は、こういう法令の過剰過密を放置していると
地域がもちませんよということを、そういう切実な問題だということを指摘したいということでございます。
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第四のテーマは、そこで、じゃ、こういう立法分権をどのようにして進めるのかということでございます。私は五つの戦略というものを考えて提案しておりますけれ
ども、本日は、このうち、下線を施した三つの戦略について絞ってお話をしたいというふうに
思います。
次のスライドを御覧いただきたいと
思いますけれ
ども、第一の戦略は法令の統合とスリム化でございます。
まず、法令が多過ぎるという過剰の問題、これに対しましては、法令を
行政分野
ごとに廃止したり統合したりするということでございます。もちろん法令は社会的な
必要性があって作られていると
思いますけれ
ども、法令の執行には人や財源などのコストが掛かりますので本来は法令のスクラップ・アンド・ビルドが必要だと
思いますが、そうなっておりませんので分権改革の中でこれを整理しようということでございます。
次に、作られる法令が細か過ぎる過密の問題でございますけれ
ども、これは、
木村参考人も御指摘されています、
行政の標準を示すにとどめるべきではないかと、これとつながる発想でございますが、各規定の
必要性を確認して、国の法令で定めなくてもいいもの、
自治体の条例に委ねればいいもの、これについては大胆に簡素化することが必要ではないかというふうに
思います。
〔
委員長退席、
理事吉川沙織君着席〕
その下の図表五を御覧ください。
ここでは、各規定の
必要性を確認して、国の法令で定めなくてよいもの、条例に委ねればよいものについて簡素化するということでございまして、AからCまでは確かに国が果たすべき
役割だと言えると
思いますけれ
ども、Dの広域的統一性、あるいはEの政策的統一性、こうしたものは国が余り細かく規定する
必要性はないのではないか、枠組みをつくる必要はありますが、細かい事項は
自治体に任せてよいのではないかと、その方が
地域の
実情に合った
制度になるのではないかというふうに
思います。
次のページをお開きください。
余り抽象的なことを言っても説得力がありませんので、私は、具体的に四十一本の法律の主要な条文を検証いたしまして、この条文は細か過ぎるから
見直しが必要だ、この条文は合理的なので
現状維持でよいといった
評価をしてみました。これが図表六でございます。この表の右側でございますが、マルは維持してよい、バツは抜本的な
見直しが必要、三角は一部を見直すべき、こんなふうに、私のこれ私見でございますけれ
ども、入れたところでございます。
これを集計いたしましたのが次のページ、図表七でございます。その結果として、基本的に維持してよいと私が思うものが二六%、部分的
見直しが必要だと思われるものが三三%、抜本的
見直しが必要四〇%と、こんなふうに全体の約七〇%の法令について廃止又は簡素化が必要ではないかというのが私の検証結果でございます。
次に、その下、第二の戦略は条例の上書き権でございます。
上書き権とはちょっと聞き慣れない言葉かもしれませんけれ
ども、法律に基づきまして条例に法令の規定の一部を変更していいよと、そういう効力を保障する、付与するというものでございます。例えば、児童福祉法では保育所の認可基準として一人当たり三・三平米以上の床面積、これを
義務付けておりますが、これを条例で三・五に引き上げて基準をアップする、あるいは三・〇に引き下げてより多くの児童を受け入れる、こんなふうな裁量権を
自治体に与えていただけないだろうか、実は
義務付け・
枠付けの際にそんな議論が起こりましたので、こうしたことを個別法ではなくて
地方自治法などの通則法で認めてはどうだろうかというのが提案でございます。
〔
理事吉川沙織君退席、
委員長着席〕
条例の上書き権につきましては、法律の範囲内という条例制定権の法的限界に抵触するのではないかと、こんな議論もございますけれ
ども、私自身は、
地方自治法などの法律で一定の条件の下で上書きを許容するということであれば、十分法律には抵触しない、憲法にも抵触しないというふうに解釈できるのではないかというふうに思っております。
もっとも、上書きできるといっても無制限ではございません。次のページをお開きください。私自身は、上書きできる
対象は法定受託事務は除外し自治事務に限定するということ、それから、規定の内容は執行基準と、それから規定、規制の
対象、この二つに限定する、その上で、条例で一般的に上書きができるという規定を
地方自治法などに入れてはどうだろうか、画期的な意味があるのではないかということで、具体的な規定例も入れてみましたので御参照いただければというふうに
思います。
その下の第三の戦略ですが、これは立法過程への
自治体参画のルール化でございます。
立法分権を進めるためには、
自治体現場の
意見や提案が不可欠でございます。そこで、私は三つほど考えてみましたが、第一に、立法分権に際して各
自治体や
地方六団体の提案や
意見を求める。第二に、重要な法令の制定、改正のときは国と
地方の協議の場で協議をする。第三に、両議院又は
参議院だけでもいいと
思いますが、
地方関係立法審査会等を
設置して、
地方自治の観点から法令を監視し、また改正を求める。こうしたことを是非取り組んでいただけないだろうかということでございます。
最後のページをお開きください。
最後に補足ということで、実は、
伊集院参考人からも何度か言及がされましたが、最近、法律で
自治体に対して
行政計画の
策定を求めるという規定が増えております。これが
自治体の負担になっているんじゃないか、私もそのとおりだと
思いますので、最後に強調したいと
思います。
これらの規定見てみますと、必ずしも
義務付けじゃないんですね、作れという
義務付けじゃない。そうじゃなくて、○○
計画を作るよう努めなければならない、
努力義務ですね。それから、○○
計画を定めることができる、できる規定ですね。こんなことで柔らかい手法が取られているんですが、実際には、この
計画を作らないと補助金が出ないよとか、規制緩和の
対象になりませんよとか、そんなふうな付随的な
制度と組み合わされて、
自治体はもう事実上作らざるを得ないというのが
現状であろうかと
思います。
一旦作ると五年後、十年後また見直すということになってまいりまして、そうした意味で、柔らかな統制が大変大きな効果を、効果を生んでいるって、逆に言うと弊害が大きいのではないかということでございます。
こうした問題も視野に入れながら、分権型社会を実現するために是非国会の
皆様の検討と決断が期待されているということを申し上げまして、私の
意見の表明に代えたいと
思います。
御清聴ありがとうございました。