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阿部参考人 おはようございます。中央大学で労働市場に関する諸問題を研究しております
阿部と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
意見を述べるに当たりまして、まず初めに、議員の皆様にはお願いしたいことがございます。
御承知のとおり、新型コロナウイルス感染症問題は、日本だけではなく、世界各国に拡大をしております。経済社会にも甚大な影響を与えています。政府は
雇用調整助成金の拡充など対策を進めておりますが、休業を余儀なくされている
労働者もいらっしゃいますし、また、この三月に卒業予定の学生の中には、四月からの入社内定を取り消される、そういった方もいらっしゃるという報道がございました。
感染症問題がいつまで続くのか先が見えない中、場合によっては労働市場政策を更に拡充していくということが必要になるかもしれません。四月以降の労働市場政策を円滑に進めていくためにも、今回の
雇用保険法の改正につきましては、慎重、丁寧な議論はもちろんではございますが、早急に御審議をいただきまして、一つの結論をいただきたいと
希望している次第でございます。
それでは、今国会に提出されております
雇用保険法等の一部を改正する
法律案につきまして、私の意見を述べさせていただきます。
先ほど述べました感染症問題は、労働市場に一過性の影響を与える問題であり、いわば短期的な課題であると考えられますが、これとは別に、日本の労働市場には長期的、構造的な課題もございます。
議員の皆様も御承知のとおり、少子高齢化の影響がそれでございます。少子高齢化の進展によって
労働力の減少を余儀なくされておりますし、それが日本経済の成長力の足かせになりかねないと考えられています。
国立社会
保障・人口問題の将来推計人口によりますと、十五歳から六十四歳までの生産
年齢人口は現在おおよそ七千五百万人でございますが、二〇五〇年には五千三百万人
程度と大きく減少していきます。今後三十年間で現在の約三割ほど生産
年齢人口が減少すると考えられているところです。
労働力人口の減少は、経済成長ばかりではなく、今後の社会
保障の維持にも大きな影響を与えます。早急の対策が必要であることは言をまちません。
昨年四月からは
働き方改革が本格的に始まり、
労働者がそれぞれの事情に応じた多様な
働き方が選択できるような社会の実現に一歩踏み出しております。今回の
法案も、
働き方改革が実現しようとしている多様な
働き方が、選択の実現だけではなく、より安心、安定した
働き方になることを後押しする政策だと
個人的には評価しております。
労働市場の現状を見ますと、多様な
働き方を必要とする
労働者の多くが女性及び
高齢者だと考えられています。二〇一九年の総務省統計局
労働力調査によりますと、六十五歳以上の男女の
労働力率は二五・三%、約四人に一人が、働いている、あるいは
仕事を探している状態にございます。ちなみに、十五歳から六十四歳までの生産
年齢人口の男女の
労働力率は七九・六%となっております。また、今のところは
仕事についていないけれども
仕事をしたいと考えている六十五歳以上の方は、現在五十一万人ほどいると推定されております。
こうした
方々の労働参加の機会を整備するということは、働きたいと考える
個人にとっても、また社会全体にとっても望ましいことであろうと考えております。今後は六十歳以上
雇用継続
義務化後の
方々がふえてまいりますので、更に
就業希望の方がこれまで以上にふえていくと考えられます。これらの
方々の労働参加がかなうことは望ましいと思います。
ただし、その際、注意しなければならない点もあると思っております。
御承知のとおり、
高齢者の
方々の体力や健康の状態は
個人差が大きく、個別の
労務管理を行う必要性が高まります。実際のところ、六十歳以上の
高齢者の労働時間や
就業日数は、ほかの
年齢階級と比べまして相対的に短いだけではなくて、
個人的に大きなばらつきがあるということが観察されます。労働時間や
就業日数を柔軟に決められる、そうした
働き方を積極的に選択されている
高齢者の
方々も多いと考えられます。
六十代後半あるいは七十代の
方々がその
希望に応じて活躍することは望ましいことではありますが、それには個々人の体力や健康に応じた多様な
働き方を整備していく必要性があると考えられます。
こうしたことから、今回の高
年齢者雇用安定法及び
雇用保険法では、
高齢者の
就業機会の
確保及び
就業の促進を一層展開していくため、従来からの
雇用の継続以外にも、
雇用以外の
就業形態を継続
就業の選択肢として示しております。
労働者個人にとって働きやすい
就業形態を選択できるよう、より幅のある多様なメニューを
企業が提示することを可能にしています。
従来から、自営業者は
年齢にかかわらず
就業できると注目されており、六十五歳以上の自営業者割合は他の
年齢層に比べて高いことは事実です。ただし、自営業者が働きやすい形態とはいいましても、経営を軌道に乗せるためには、
仕事を遂行するための知識や技能だけではなく、資金調達や顧客開拓などの経営基盤が必要となります。
労使がその支援
内容を十分議論した上で
就労形態の一つとして
雇用以外の
働き方を選択することは、
企業からの支援
措置などもその
条件に入っている点からもあり得ると、私
個人としては認識しています。ただ、その際、
雇用以外の
働き方を選択するかどうかだけでなく、資金調達や顧客開拓といった
企業からの支援
内容についても、その
企業の
特性に合わせて、
労使で十分議論していただきたいと考えているところでございます。
女性の
働き方についても、これまで以上に労働市場の整備を図る必要があると考えます。とりわけ、結婚や子育てと
就業が両立するよう、社会全体で取り組む必要があります。
従来から育児休業
制度が整備されてきましたが、育児休業給付については
雇用保険の失業給付等と同一会計から支給されることとなっておりました。失業給付は景気循環と連動して支出額が変動するのに対して、育児休業給付は景気循環とは
関係なく一貫して支出額が伸びる傾向にある、また、育児休業給付が失業給付額と並ぶ水準に達している、こういうことから、今回の
雇用保険法の改正では育児休業給付の区分経理を導入するということになりましたが、これもリーズナブルであると考えます。
少子化対策のためには、
労使だけでなく、社会全体で育児・介護休業
制度、あるいはその周辺の
制度を充実させていくことが望ましいと考えていますことを付言させていただきます。
なお、今回、国庫負担の引下げを暫定的に二年間継続することになっておりますが、これは公
労使ともに
雇用保険の財政
状況を鑑みた苦渋の選択であり、二〇一七年の
雇用保険法改正時における附帯決議の
内容に沿ったものではないということについては非常に残念に考えているところでございます。
今後の労働市場を考えると、もう一つ解決すべき課題があると考えます。
技術革新やグローバル化の進展に伴い、
働き方そのものが大きく変化しており、いわゆるギグワークを行う
雇用類似の
働き方、あるいは副業などで複数の
企業に
雇用されるといった
働き方が今後も増加していくと予想されます。今回の
雇用保険法並びに労災保険法におきましてマルチジョブホルダーに対する給付が整備されるということは、いまだ不十分ではないかという御意見もお聞きするところではございますが、新しい
働き方への対応への第一歩を踏み出したという点で評価できると思っております。
もちろん、こうした新しい
働き方が労働市場で増加していけば、それに合わせて
制度を拡充することはもちろんのことであります。
厚生労働省は、こうした新しい
働き方の動向を十分に踏まえ、政策の検証と検討を継続して行い、適切な
制度を整備していく必要があると思います。
最後に、今回の法改正に当たりまして、労働政策審議会におきましては、公
労使三者が十分に議論し、意見を集約してまいりました。労働現場の
実態をよく知る
労使の御意見を踏まえ、今回提出されている改正案となったことを御理解いただきまして、先ほども述べました新型コロナウイルス感染症に対する労働市場政策を円滑に進めるためにも、速やかな御審議を、労働政策審議会の
委員の一人として
希望したいところであります。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)