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前川参考人 株主の
権利弁護団の事務局長をしております
弁護士の
前川と申します。
我々の弁護団は、
弁護士や会計士等の専門家三十名弱から成る団体で、これまで
株主側の立場で活動してまいりました。
本日、議員の皆様に
意見を申し述べる
機会を頂戴し、大変光栄に存じます。
では、私から申し上げるのは、
株主提案権の
制限についてと
会社補償の点の二点でございます。
第一に、
株主提案権の
制限について
意見を申し述べます。
この点については、結論から申し上げますと、少なくとも現段階において、これを支える
立法事実が不存在であるか極めて脆弱であると考えており、反対いたします。
第二百回国会法務
参考資料五十五ページの中ほどに、
株主提案権が
濫用的に
行使される
事例が見られるとの記載があります。これが
立法事実であろうと推測されます。そして、その脚注二十三には、少し長くなりますけれども、その中で、一人の
株主が不当と認められるような
目的で膨大な数の
議案を
提案する等の
株主提案権の
濫用的な
行使事例、といって括弧書きで
二つの
事例が挙がっています、が見受けられるようになる一方で、
会社と
株主との間のコミュニケーションを図るという
株主提案制度の導入当初の
目的については大方達成されたという指摘がなされるようになりというような指摘があって、このあたりが
立法事実なのかなというふうに思いますが、そこで、現在の
株主提案の状況について御説明いたします。
株主提案を受けた
会社の数から申し上げますと、
平成二十九年六月総会までの一年間で五十二社、
平成三十年六月総会までは五十八社、
令和元年六月総会までは六十五社です。漸増の傾向にあるとは言えます。他方で、
上場企業は全部で三千五百社あります。最も多い直近、
令和元年六月総会までの一年間でも二%未満、わずか二%弱の
会社しか
株主提案というのは受けておりません。
このようなわずかに二%弱の割合で、
会社と
株主との間のコミュニケーションを図るという
目的が大方達成されたというようなことになるのでしょうか。普通に考えれば、道半ばとすら言えないのではないかというふうに考えております。
次に、
濫用的な
行使事例というのがふえているという事実が現実に存在しているのかという点です。
先ほど記載のありましたあの二社の件については私も承知しております。ただ、これ以外にどのようなものがあるのか、もしこれ以外にはないというのであれば、この
二つだけで
株主提案権を
制限する
立法事実として十分なのか、この点について御
議論いただきたいと思っています。
この点について、法制審の
議論を拝見しましたけれども、
立法事実については全くと言ってよいほど
議論がなされていません。当然ですが、
株主提案権というのは
株主の重要な
権利です。
株主提案権を
制限するに当たっては、
立法事実の存在が不可欠です。
濫用的に
行使される
事例が見受けられるなどというだけでは
立法事実とは言えません。
お
手元に、
商事法務がまとめた
株主提案権の
事例分析、三年分をお配りしております。
資料版
商事法務の方です。
資料版
商事法務というのがあって、そこで毎年九月に
株主提案権の
事例分析というのを網羅的に行っています。ちょっとごらんいただけませんかね、この
資料版
商事法務、横長のものでございます。
ここで網羅的に実は
株主提案の
事例というのは分析されているんですけれども、この中で
議論されるべきは、どれが
濫用に当たって、
株主提案権の
制限を正当化するのかという具体的な
議論なんだというふうに思っています。
最後に、仮に
濫用的事案が増加しているとしても、これまでなされてきたような一般条項、
権利濫用を用いることではなぜだめなのか。
昨日の
法務省民事局長のお話ですと、どのような
提案が
権利濫用に該当するかが明確ではない、
実務上、
権利濫用に該当するか否かを的確に判断することが難しく、該当すると考えた場合でも、これを
制限することにちゅうちょする場合があるとのことですが、どのような
提案についてこのようなちゅうちょがなされたのかということについて、昨日のお話では全く明らかになっていません。ここについてきちんと話をするべきだというふうに思っています。
次に、具体的な
改正法案、条項についても申し上げます。
我々が最も問題だと考えているのは、
改正法案三百四条ただし書き三号、三百五条第六項三号です。
「
株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、」という部分なんですけれども、
規制のあり方というのは
内容規制と
内容中立
規制というものがございます。
内容に着目して
規制するものが
内容規制、
内容以外に着目した
規制を
内容中立
規制といいます。
内容規制は、
評価者によって判断が異なり得るものであり、かつ萎縮的な効果を生むので、慎重であるべきだというふうに一般に考えられています。三百四条ただし書き三号、三百五条六項三号というのは、
株主提案により
株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、
株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合に、
株主提案を拒絶できることになっています。この条項というのは
内容規制に属するものです。
中間試案においては、この条項の表題が
内容による
議案の
制限となっていましたけれども、
要綱案以降は、
目的等による
議案の
提案の
制限というふうに表題が変わっています。ただし、名前を変えたからといって、
内容規制の実質というのが変わるものではありません。
法制審でも
議論がなされていますが、この条項が想定している具体例というのは第二百回国会法務
参考資料六十二ページにあります。これを読むと、
株主総会やその準備に時間的制約があることが、この条項を正当化する抽象的な根拠として挙げられていることがわかります。
しかしながら、このような
内容規制を行うだけの
立法事実があるのか、より具体的に言えば、
株主提案によって
株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、
株主の共同の利益が害されたという事実があったのかどうか、なかったのか、あったとしたらその程度、数についてきちんと
議論がなされるべきです。これらは全く、現時点においては明らかになっていないというふうに考えております。
本日、また
商事法務ですけれども、
商事法務がまとめた過去三年分の
株主総会の時間についての表をお配りしています。今度はこんな表の話です。三時間を超えている
株主総会などほとんどありません。
また、本当に
株主総会の時間が限られていることが問題なのであれば、一
議案にかける時間を
制限すれば足りる話です。一
議案にかける時間を
制限する方法ではなぜだめなのかについても全く明らかになっていません。
繰り返しになりますけれども、
株主権に限りませんけれども、
権利を
制限する
立法を行う場合、そのような
制限を行う
立法事実が現に存在しているのかどうかを具体的に検証することが必要です。これまでいろいろ出てきているように、
株主提案権が
濫用的に
行使される
事例が見受けられるというだけでは、
立法事実とは言えません。
濫用的な
行使の時期、具体的
内容、数を具体的に検証していただきたいというふうに思っています。それは、実はこういうふうにまとまっているものがあるので可能です。やっていただきたいなというふうに考えております。
本日お配りした
資料以外にも、
株主提案についての機関
投資家の賛成率は実は上昇しているというレポートもございます。
株主提案の果たす積極的意義や
株主提案の賛成率、どれくらいの賛成率、
株主提案についてどれくらい他の
株主が賛成しているのかということについても、きちんと
議論をしていただきたいというふうに考えています。
次、第二に、
補償契約に関する
意見を申し上げます。
補償契約、
法案では、いわゆる防御
費用、
弁護士費用なんかが想定されていると思いますが、については、
役員に悪意又はこれと同視すべき重過失がある場合でも
補償が認められることになっています。重過失というのは普通、悪意と同視するような過失のことをいいますから、これから先は悪意と言うだけでまとめていきます。
そもそも、
会社補償制度というのは、
役員としての優秀な人材の確保や、
役員が損害賠償責任を負うことを過度に恐れることにより
職務執行が萎縮することがないようにするためのものです。
しかし、そもそも、悪意の
役員というのは
会社が確保すべき優秀な人材と言えるのでしょうか。悪意が認められるような行為を行ってはならないのは当然であって、損害賠償責任を恐れての萎縮も問題になりません。むしろ、悪意がある場合にまで
補償が認められれば、違法行為に手を染めてでも目先の利益を上げようとする誘惑を引き起こし、
職務の適正性が損なわれます。
この点、
法案では、
役員に図利加害の
目的があった場合には
補償した金額の返還請求ができるというふうにしており、一定の配慮はされたようですが、不十分であると考えております。
まず、図利加害
目的という要件では、
会社に対する特別背任が
成立するような極めて限定的な場面でしか適用ができません。
これまで我々の弁護団で取り組んできた例えば
株主代表訴訟なんかというのは、談合やカルテル、違法な政治献金、製品の性能偽装、本当に生命身体に危険が及ぶような性能偽装なんかを問題にしてきました。これらの行為に知って
関与した
取締役というのは、実はみずからの私的な利益を図るという
目的ではありません。むしろ、目先の
会社の利益を図るために長期にわたる
会社の利益を犠牲にし、法令違反を行ってきた人たちです。これまで我々が提起した
株主代表訴訟は、法に反してでも
会社の利益を守ろうとし、短期的な利益なんですけれども、その結果、
会社や
社会に大きな損害を及ぼした
事例です。
改正案では、故意の法令違反行為という悪質な行為の存在が認められたとしても、図利加害
目的を欠くという
理由によって、
補償した金額の返還を求めることができないことになります。故意に法令違反に
関与した場合ですら防御
費用の
補償が認められることになり、モラルハザードの問題が生じます。
また、
改正法案では、図利加害
目的があった場合には
会社が
役員に対して
補償した金額の返還請求ができるとされているだけで、返還請求を義務づけてはいません。
会社に委ねようというようなことなんですけれども、図利加害
目的が認められる場合にまで、もはや
会社が防御
費用を負担すべき合理性があるとは言えないので、返還請求を行うことを義務づける
規定とすべきだというふうに考えております。
以上が私の
意見でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)