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参考人(内山宙君) 静岡県
弁護士会、それから
法科大学院を
中核とする
法曹養成制度の発展を目指す
研究者・
弁護士の
会発起人の内山と申します。発起人といいましても、何人かいるうちの一人にすぎません。
プロフィール的なことを申し上げます。
中央
大学法学部で旧
司法試験の勉強をしておりましたが、
在学中では
合格せず、裁判所事
務官となりました。その後、書記官を五年、事務局の係長を三年やりまして、その事務局係長のときに仕事と並行して夜間で成蹊
大学の
法科大学院に通い、三年で
修了いたしました。そのことは職場には言っておりませんでした。
修了の年、最高裁民事局民事訴訟係長をしていたときに新
司法試験を
受験して
合格し、退職いたしました。ですので、旧
試験と新
試験の両方を
経験しているということになります。
日弁連では、最初、給費制維持活動を何年かやりまして、その後、
法科大学院センターにここ何年か関わっていて、
法曹の魅力を発信したり、今回の
制度変更の
議論もしてまいりました。そのほか、海外で開催される様々な国際的な
法曹団体の総会に参加して、海外の最先端の
議論に触れつつ、海外の
法曹の様子を目の当たりにしてまいりました。
そこで感じたことは、
日本法や
日本の
法曹の存在感のなさです。
日本は法的に鎖国しているような
状況でして、海外の
法曹は
日本をスルーしているという感じがしています。他方、お隣の韓国は、人口も少なく国内のリーガルマーケットも小さいので、積極的に海外に出ることを意識して、
法曹になる過程で語学が必須になっていたりします。
日本が予備
試験を導入して
法科大学院が低迷した失敗に学んで予備
試験を導入しなかったということもありまして、ひとまず
法科大学院制度が順調に運営されているというところからも学ぶところは多いかと思います。
それでは、
日本はどうすべきなのかということでございます。
私が申し上げたいことは、
研究者・
弁護士の会の意見書、それから静岡県
弁護士会の会長声明、私の実施したネットアンケートの取りまとめの七ページから八ページにかけてのまとめ担当者の評価などに書いてありますので、この場では重要なことに絞ってお話をしたいと考えております。
まず、身も蓋もないことを申し上げますけれども、自分にとっては、もう
法曹になってしまっておりますので、実はある意味、
法曹養成関係ない話になります。しかし、自分が
法科大学院で多くの多様な仲間と一緒に勉強をして刺激を受け、そのおかげで
法曹になれたことに恩義を感じておりまして、後輩の役に立てればというふうに思い、恩返しのつもりで関わっております。
同じように、議員の皆さんにとっては、
法科大学院関係者や
法曹志望者の数はとても少ないので、別に票につながるわけでもありませんし、ある意味、私よりももっと
関係ない話ということにもなります。
しかし、良い
法曹が育っていることは、
日本や
日本国民のためになります。優秀な
学生に
法曹を目指してもらいたい、良い
教育にしたい、
日本を支える
人材になってほしいと皆さん真剣に考えていただいていることと思います。ですから、ここにいる全員が同じ思いで、ある種、純粋な気持ちで関わっているのだろうと思っております。
ですから、
法科大学院が危機的な
状況なので何とかしたい、そのために、今回の3
プラス2であるとか、
在学中
受験という、ちょっと邪道かもしれない手法も進めたいという気持ちも理解できるところです。
ただ、問題は、方法、手続としてどうかというところでございまして、私は相当に問題があるのではないかというふうに思っております。そう思いましたので、日弁連の
法科大学院センターの中でいろいろ意見を言ってまいりました。しかし、何を言っても日弁連執行部はぬかにくぎという感じでして、対外的に立場を明確にせず、反対意見を出すこともありませんでした。法案通過後にできるといううわさの
会議体に期待するばかりでして、交渉しようという気概も感じませんでした。
そんな
状況では、どうせこの法案は通ってしまうのだろうというふうに思いまして、もう
法科大学院教育からは手を引こうというふうに思っていたところに今回の
参考人のお話がございまして、正直、出てくるべきかどうか迷いました。どうせ何を言ってもネットでたたかれます。しかし、次の世代のことを考えますと、あるいは、ひいては
日本の将来のことを考えるということになりますと、まあ最後の
機会だろうというふうに思いまして、来ることにいたしました。
先ほど土井先生も言及がありました次の世代ということなんですが、私にとっては、私の高校の同級生のお嬢さんです。ドラマの「HERO」というのがありましたけれども、それを見て検察官を目指すことになったと。その子は興味を持ってから日弁連のジュニア
ロースクールに何回か参加して、裁判を傍聴したり、
弁護士の話を聞きに行ったり、
法律に関する本を読んだりしていると。中
学生です。
その子のお母さんから
法曹になるにはどうしたらいいかということを聞かれたわけですけれども、この子の場合は予備
試験ではなく
法科大学院で幅広くきちんと勉強した方が大きく伸びるのではないかというふうに思いまして、その
制度の
説明をし、今、
制度変更が
議論されていること、
法曹コースの導入を見越して、
合格率の高い
法科大学院のある
大学がいいのではないかという話をしてきました。
日本の将来というような大それた話ではなく、この子に対する責任として、高い志を持った
若者がきちんと勉強してきちんと
法曹になれる
仕組みにしていく責任があるだろうと思ったので、今日ここに立っているということです。
さて、現状ですけれども、
法科大学院が危機的
状況にあることは事実ですし、何か対策をしなければならないことも事実でございます。では、その危機的
状況になった原因は何だったのかということですが、私の資料の静岡県
弁護士会の会長声明、二ページの四番にございますけれども、
法科大学院の乱立、
定員過剰、需要や
合格者数の過剰、
弁護士の急増と就職難、待遇悪化、収入減などから将来の不安を招いたこと、その一方で、
合格率低迷、
受験回数制限でのハイリスク、一年の修習が必要なのに給費制が廃止されたことなどが挙げられます。そのほかに、未修者の
合格率が低いことも他
学部出身者をちゅうちょさせていると考えられます。
一方、参議院のこの法案の資料で、一ページ目、提出の経緯というポンチ絵がございます。その一番で、
法曹養成制度の
理念と現状というところには、
法曹志望者の激減という項目がございまして、一番下のところですけれども、
経済的負担約二八%、
合格率が低いこと約二六%、時間的
負担二二%などと挙げられています。
しかし、元の資料、参議院の先ほどの資料集の八十七ページ、現在志望・選択肢の
一つとして考えている
学生の不安や迷いというところの、元の資料を見ますと、一番多いのが、自分の
能力に自信がないが六四%、適性への不安が四三%、ほかの進路に魅力を感じるが三七%となっていて、そして先ほどの数字が続くということになっています。本来、こちらをポンチ絵に書くべきだったのではないかと思います。
さて、これらの問題に対する対策としての与党案について意見を申し上げます。
まず、
一つ目の3
プラス2についてですが、これ自体は分からないではないと思っております。既修に関しては相当
充実するという面があるのかなというふうにも思っています。ただ、未修一年分の
教育を
法学部の
法曹コースでという分担だと考えますと、未修者はまず
法曹コースに行けというメッセージと受け取られかねないというところがあります。
法曹コースでは二、三年
法律を学んでいるのに対し、
法科大学院の未修では一年ということになりますので、不十分と見られかねないということになります。そうすると、未修では
法曹を目指せないと思われて、そもそも目指さなくなるおそれもあります。
この点について、私がネットで実施したアンケートの結果を御覧いただきたいのですけれども、このグラフなどのあるところ、九ページの
質問四の二に対するもので、
在学中
受験の影響の有無に関する理由で、悪影響があるとする理由として、他
学部出身で未修だったが一年ではおよそ既修に追い付けなかった、
在学中
受験は未修にとって
司法試験を絶望的なものにし、
実務科目も履修できなくなり、
ロースクール制度の意味がなくなるというものがありますけれども、これに象徴的に表れていると思います。
これは、ひいては、
日本はいかなる
法曹を
養成したいのかという問題につながります。多様性のある
法曹を
養成することが社会の多様な
ニーズに応えていくことにつながるとして
司法制度改革をやったはずでございます。実際、私と同じ
法科大学院一期生では、医者であるとか元外交官、社長、商社マン、銀行員、新聞記者、公認会計士、弁理士、司法書士、検察事
務官、裁判所書記官とか、そういった多様な
人材がおりまして、とても刺激的でした。
多様な
法曹を
養成するには、このような多様な
人材に
法曹になってもらうか、普通の
人材であっても多様な
教育をするということのどちらかが必要ですが、3
プラス2で
法律しか勉強していない
受験エリートの
人材だけがある意味優先的に
法曹になれるという
仕組みをつくりますと、それ以外の多様な
人材は来なくなるおそれがあります。多様な
教育を用意しても、
在学中
受験の準備でそんな勉強をする暇がないということになりますと、多様な
法曹を
養成できません。社会の
ニーズを酌み取れる
法曹が
養成できないということになりますと、議員の皆さんの地元の有権者が困るということになります。
そして、3
プラス2というのは多様性をある意味捨てるわけですけれども、
法曹養成制度は
司法制度改革から方向性を変えるということなのでしょうか。旗振り役だった京大の佐藤幸治先生はどのようにお考えを変えられたのかというところがちょっと興味がございます。
そして、変えるのであれば、
司法制度改革の当時と同じように様々な意見を聞き、時間を掛けて
議論して結論を出すべきと考えています。今、あの
司法制度改革のときのような熱気は
法科大学院周辺にはありません。
制度を動かすのは人です。しかし、この
状況では厳しいと言わざるを得ません。
要するに、今回の
制度変更にはどのような
法曹を
養成したいのかというビジョンがないのです。ですから、本来の
制度趣旨とそごを来すような
制度変更をしようとしてしまうのではないかと思います。
今後、
日本がどのような
法曹を
養成すべきかについてもネットアンケートでは聞いておりまして、二十ページの下から二行目から二十二ページまでにまとめておりますので、参考にしていただきたいと思います。
ここでアンケートの
説明を簡単にさせていただきますと、アンケートは二月十七日の深夜から始めまして、十日で八十六通の回答がありました。三月三日の段階で八十九通となりまして、そこで締め切りました。アンケートは、グーグルフォームというものを利用して作成いたしております。抜粋いたしますと、自分を振り返って
在学中
受験に何らかの悪影響があるという回答は六一・四%、何らかの良い影響があるという回答は一四・八%にとどまりました。
在学中
受験への賛否は、賛成、反対、それからどちらとも言えないというものが拮抗しておりますけれども、どちらとも言えないという回答が非常に多いのは、情報がないからではないかなというふうに思いますし、
議論が熟していないということではないかというふうにも思います。
次に、
在学中
受験について申し上げます。
3
プラス2は時間的
負担についての対策であるわけですけれども、
在学中
受験もそれを更に進めるということにはなります。しかし、ここを解消しても、先ほど述べた上位三位までの事情、つまり、
能力不足、適性の不安、魅力のなさというこの三つを解消しなければ
法曹志望者が増えることにはならないので、対策としては的外れであり、立法事実がないと考えております。
また、予備
試験との競争という極めて小さなパイの取り合いだけになっていると考えられまして、これは、明らかに
受験生のためではなく、
法科大学院の都合のための
制度変更と考えられます。パイを大きくするという対策こそ取るべきだというふうに考えます。
在学中
受験の時期がいつになるかにもよりますけれども、通常、
試験前数か月は
受験勉強に
集中し、
法科大学院の勉強をする余裕はありません。講義に出ても内職するのが目に見えています。なぜなら、文科省の指導で、
法科大学院では
受験指導をしてはならないということになっているからです。単位が取れる程度の勉強をするということが、
在学中
受験をする
学生としての合理的な選択です。
実施時期が例えば現行と同じ五月ということになりますと、最終年度の四月、五月は授業をまともに受けず、崩壊することになると思います。夏実施ということになると、前期の授業が全部崩壊するということになります。せめて、
法科大学院の
試験が全て終わった二月や三月に実施すべきではないでしょうか。例えば、択一だけでも三月中に
合格発表をし、身の振り方を考える時間を与えつつ、論文の採点者を大幅に増やして論文の
合格発表を五月にする。ギャップタームを現状より短くするということは可能だと思います。
また、私は、ギャップタームの解消がそこまで重要だとは思っておりません。例えば、
受験が終わった後の
期間を利用して
法律事務所のインターンに行くようにしてもいいし、そこに日弁連が協力してインターン先をあっせんするようにしてもいいというふうに思うわけです。インターン先を履歴書に書いて、ここでどんな
経験をしたのかということを就活で生かせばよいのではないかと思います。なぜ
在学中
受験を導入する前にできることをやろうとしないのかというふうに思うわけです。
ところが、今回のギャップターム解消が
関係する人というのは、一部の優秀層ということになります。
在学中でも
合格するような人だけになります。恐らく多くの方は
在学中
受験では不
合格になったり
修了後に
受験するということになると考えられますが、そうすると、そういった多くの方にとってはギャップタームはかえって長くなるということになります。
さらに、ごく一部の優秀層に引っ張られまして普通の層も
在学中
受験のための勉強をするようになりますけれども、その結果、受かりもせず、授業も中途半端に受けるということで力も付かないという結果になりかねません。しかも、未修者からしますと、既修者との差が絶望的に開くということにもなりかねません。
在学中の
合格が優秀層ということになって任官や就職で有利ということになったら、未修者は
法曹を目指すということ自体を敬遠することになりかねません。ですから、中教審でメリット、デメリットをきちんと
議論すべきだったのではないかというふうに思っております。
最後にですけれども、今回の
議論の進め方について問題があったのではないかと考えております。
在学中
受験は、昨年秋頃に急に浮上いたしました。うわさしか聞こえてこず、箝口令がしかれているような
状況で、中教審でも実質的な
議論はされていませんでした。自民党の部会が言い出したということを
法務省の官僚が
説明しておりましたが、いかなる
ニーズやエビデンスを基に提案されたのか分かりませんでした。
これに対して、私の実施したネットアンケートでは賛否両論、様々な意見が出ておりまして、メリット、デメリットがいろいろあるようです。
この私の実施したネットアンケートの程度では不十分だとか、偏っているというふうに言われるかもしれません。それはそう思います。ですから、そういうことであれば、日弁連に協力してもらって意見を聞いてはどうでしょうか。あるいは、
法科大学院協会を通じて現役の
法科大学院生に聞いてもいいと思います。