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参考人(
岩重佳治君)
岩重と申します。今日は、お時間いただきましてありがとうございます。
私は、六年前に
奨学金問題対策全国会議というのを立ち上げまして、実際に
返還に困っている人の
相談を受けてそれを救済するという活動にずっと携わってまいりました。この間、本当に超党派でこの問題に取り組んでいただいて、社会問題としてこの
案件が注目され、少しずつですけれども前進してきたということについては、
大変感謝をしております。今回の
法案を第一歩として、本当の
無償化と
返還困難者の救済が実現されるように心から願っております。
今回、
現場から
法案について
一言意見を述べさせていただきます。
まず、気になっている点、
幾つかあります。
一つは、
大内先生がおっしゃっていましたけど、
対象が限られているということですよね。この問題が社会問題化したのは
中間層が苦しんでいるからで、私のところに日々たくさんの
相談が来たというのもそれが
背景にあって、
現場の実感です。そうしますと、
支援の
対象というのは
中間層まで広げていくという確実な道筋というのを明らかにしていただきたいというのがまず一点目です。
二点目ですけれども、
財源の問題です。
消費税の
増税分が
財源になっていることが気になります。経済的な理由で学びを諦めないための
制度ということであれば、
所得の再分配ということによって実現すべきであろうと思います。そういう
意味では、
逆進性のある
消費税で賄うというのは矛盾だというふうに考えております。何よりも、こういうふうに
財源を指定してしまいますと、今後、
支援の
対象が拡大されないのではないかという
懸念を持っています。そういう
意味では、この
財源の指定に対する
規定を外していただきたいというふうに考えています。
それから、先ほどから
お話がありました
機関要件の問題ですけれども、
大学の
経済事情ですとか学ぶ
内容で
学生が差別されるというのはおかしいのではないかと思いますので、この
規定は外していただきたいと思います。
そもそもの問題が
学費の
高騰にあるということがこの問題の一番大きな問題だと思います。私
たちの
時代、国公立の
初年度納入金は大体一万六千円だったんですが、今八十万円を超えて、もう九十万円を超えようとしていますよね。この間、物価の
上昇率は三倍であるのに、約五十倍以上の
高騰ということが
背景にあるということを考えれば、
是非、
無償化というのであれば、
学費の引下げに踏み切っていただきたいと思います。
それから、これ予定になかったんですけど、先ほど
成績要件の問題が出ました。実は、これ重要な問題だと思っています。
今
学生さんの
生活というのは大変苦しい
状況にあるんですよね。九割ぐらいの
学生さんが
アルバイトをしています。しかも、長時間の
アルバイトです。なぜかといえば、
学費が高いから、それから
生活が苦しいから、それを稼ぐために
アルバイトをしています。それと、なるべく
奨学金を借りたくないということで
アルバイトをしています。それなので、勉強をできる環境にはないのです。その中で
成績要件を課すということは、
本人の責任ではない問題を
本人に押し付けるということになりかねないので、この
成績要件は外していただきたいというふうに考えております。
その上で、私が今日一番
お話ししたいということについてお伝えしたいと思います。
先ほど
中間層の問題というのが出てきましたけど、私の立場からいうと、この
中間層の問題が取り残されていると思うのは、肝腎の
返還制度というものに手が着けられていないということにあります。
実は、今日
皆さんたくさんお集まりいただいていると思うんですが、
皆さん自身が
奨学金を借りていらっしゃるまだ方もいらっしゃると思いますし、それから御子息が
奨学金を借りていらっしゃる方もいると思いますし、あ
るいは
奨学金を借りている方の
保証人になっている方もたくさんいらっしゃると思うんですね。あ
るいは、息子さん、お嬢さんが
奨学金借りていなくても、その
結婚相手が
奨学金を借りているという方はたくさんいると思うんですね。
ここで申し上げたいことは、そういう方があるのであれば、
皆さんが
返還困難の苦しみの中に巻き込まれる危険があるということをお伝えしたいと思うんですね。これはよく借りるときに気を付けなさいというふうに言われますが、断言をしますが、
本人がどんなに努力をしても絶対に防ぐことはできません。それがこの
返還制度の不備ということになります。
時間が限られていますので、私が実際に扱った事件を
参考に
お話ししたいと思います。レジュメの一ページの四角の中を御覧になってください。Aさんという方の例を引かせていただきます。
Aさんが私のところに
相談に来たのは、かなり冬だったんですけど、
北東北の方でした。彼、四十代の男性で
年収が三十万なんですね。というのは、月三万収入がないんです。どうやって暮らしているんですかというふうに
お話をしましたところが、御
親族がたまに食料を持ってきてくださる。それから、御
親族が
生活保護を受けているんですけど、その
生活保護でぎりぎりの
生活をなさっている
親族の方のおうちに行って、御飯を食べ、お風呂に入り、やっと
生活しているんですね。暖房はというと電気毛布一枚です。なぜかといえば、それが一番電気代が安いからですね。
この方は、精神的な病気で入退院を繰り返している方です。その人に対して、
日本学生支援機構から二〇一一年に三百万ぐらいの請求が来たんですけど、彼は法律の知識があったんですね。
奨学金というのは
返還するときから十年たつと時効に掛かるんですけど、半分ぐらいは時効に掛かっているということで、時効ではないかと言っていたら、裁判を起こされたというのが彼のケースです。生きていくのが本当に精いっぱいだなというふうに思うので、実は、
奨学金の
相談に来られる方は、こういう方がとても多いんですね。
皆さんは、このAさんが救済されるべきだと思われますか、それとも救済されなくていいというふうにお考えですか、いかがでしょうか。多くの方は救済されるべきだというふうにお考えだというふうに信じておりますが、実際には救済されません。なぜならば、救済
制度が不備だからです。
年収が三百万以下の人に対しては
返還を猶予する
制度があります。
返還猶予といいます。しかし、彼は使えませんでした。なぜならば、延滞があるからです。延滞があるとこの
制度は使えないのです。規則には書いておりません。運用でそういうふうになされていると聞きました。おかしいですね。
返還が困難だから延滞が生ずるのに、延滞があると使えないという運用がなされているのはどういうことでしょうか。
ところが、
制度が変わりました。
皆さんのお力で二〇一四年の四月から、本当に収入が少ない方、
年収二百万円以下の場合は延滞があっても猶予ができるという
制度ができました。延滞据置猶予できます。二〇一四年四月にできて、彼は二〇一四年の十一月にこの
制度を知って、裁判を起こされている最中にこの
制度を申請したいということで機構に申入れをしました。私、お手伝いをしていたんですが、これでもう終わったと思っていました。違うんです。
彼が申請した一か月後に
日本学生支援機構は、この新たな
制度に利用制限を掛けました。どういう利用制限か。例えば、裁判を起こしたケース、あ
るいは時効を主張したような人に対しては新しい
制度を使えなくするようにするというんです。よく分かりません。
返還制度と
関係ないですね。しかし、
皆さん、疑問に思いませんか。この制限をなされたのは彼が申請した後、一か月後なのです。したがって、大丈夫だと思っていました。違うのです。遡って適用するというのです。そして、
制度が使えないというのです。これが実態なのです。
私は、なぜそんなおかしいことができるのかということで裁判で争ったらば、機構の代理人の準備書面の書面はこういうことです。規則には猶予できる、免除できる、できると書いてある、したがって、猶予するかしないかは機構の裁量なんだ、これが正式な答弁です。
今日はお時間がないので申し上げませんが、こういう
返還制度の
問題点というのは、
返還困難に陥った人を救わない
制度になっています。ということは、先ほど申し上げた、誰でもこの問題が起こり得る
可能性があるということ、それが
中間層の問題だというふうに申し上げた一番大きな理由なのです。
レジュメの二ページにもお書きしましたけれども、最近、
保証人への請求が問題になっていますね。
日本学生支援機構は、
保証人、個人の場合は二人取ります。連帯
保証人といって、全額支払義務のある
保証人と、それから単純
保証人といいますが、半額しか支払義務のない
保証人、
二つ取るんですね。ところが、本来半額しか支払義務のない
保証人に対して全額の請求を
日本学生支援機構が組織的に続けていたということが明らかになりました。
私の
相談者も、実際、四百五十万の支払義務しかないのに九百万を払わないと裁判にするというふうに強硬に迫られて、九百万を払って非常に怒っております。これについては、これから裁判を起こして、機構に対して過払い金の
返還請求訴訟を起こそうと思っています。過払い金というと消費者金融の問題だと思っている
皆さんがいらっしゃると思いますけど、私は今回、
日本学生支援機構に対して過払い金の
返還請求訴訟を起こしたいと思っています。
問題は、そもそもなぜこういうむちゃなことをするかなんですね。今日、資料にもお書きしましたけど、
日本学生支援機構に、
返還をする
保証人に請求を求めるときに、半額しか支払義務がないんだということを伝えたらどうかということを
皆さんがおっしゃいました。しかし、
日本学生支援機構の
理事長さんの遠藤さんは伝えないと言っています。それはなぜかというと、伝えると事実上半額しか回収ができなくなって、税金での
負担が多くなるからだというふうに
お話をなさっています。これは、言ってみれば、借り手が法律知識がないのに付け込んで回収をしているということと同じではないでしょうか。
こういう問題がなぜ起こるかということです。それは、借主さん御
本人が返したくても返せないのに、無理な取立てをしている。
本人から無理な回収をする。つまり、十分な救済
制度ができていない、ここに諸悪の根源があるのです。そういう
意味では、
保証人の問題も借り手の
返済能力の問題とつながっているというふうに考えていただければというふうに思います。
最近では、個人の保証を取らずに、保証料を払ってもらって
機関保証に変えるべきだというような考え方が出ています。
一つでは歓迎する面もあります。というのは、この
返済に困っている方は、最終的には救済
制度は自己破産という方法しかありません。それなので、自己破産をすべき
案件がほとんどなのですが、
皆さん、破産をしないで無理をして返しています。なぜならば、半分ぐらいの方は個人の
保証人を取られている。お父さん、年取ったお父さんとか、中にはおじいさん、おばあさん、それから
奨学金を借りている御兄弟が
保証人に取られているケースもあります。したがって、自己破産に踏み切れないわけですね。という
意味では、
機関保証をするということは、ある
意味で自己破産による救済を実現するという
意味で前進なのですが、ここにも大きな問題があります。
日本学生支援機構が回収に邁進する理由は、回収率を維持しろということを要求されているからです。したがって、今高い回収率が実現されていますが、もしこの
機関保証になれば、保証会社が全部返してしまえば一〇〇%回収になるのです。しかも、その
財源は利用している方の
負担で、保証料という形で実現しますよね。
利用者に
負担をさせて
自分たちが簡単に一〇〇%回収できるということになれば、どういうことが起こるかお分かりだと思います。つまり、柔軟な対応はしないで厳しい回収をして、そして回収が滞れば、保証会社に返してもらえば一〇〇%が達成できるのです。そういう
意味では、
機関保証化ということは
一つではいい面もあるんですが、
問題点もあるということを御理解ください。
実は、レジュメの二ページの真ん中ぐらいにお書きしていますこの繰上げ一括請求というのも問題なのです。
奨学金というのは月々あ
るいは毎年払うわけですけど、
返済が滞ると将来分も一括して請求される、これが繰上げ一括請求といいます。
しかし、規則を見てみると、こう書いています。繰上げ一括請求できるのが、学資金の
貸与を受けた者が、支払能力あるにもかかわらず割賦金の
返還を著しく怠ったと認められるときというふうに限定をされています。つまり、ごく例外的な場合に一括請求が許されるのです。
しかし、実際には、借り手の
返済能力を
調査もせずに、連絡をしない人は
返済能力あるんだという理由で繰上げ一括請求が濫用されています。
機関保証ということになって、保証会社から回収してもらえば一〇〇%回収率が達成できるということになれば、この繰上げ一括請求による貸し剥がしというのはますます強まっていく危険もあります。
私が申し上げたいことはそういうことなのです。真の
無償化とか
負担の軽減ということであれば、多くの人が利用しているこの
返還制度の改善ということに
是非取り組んでいただきたいというふうに考えております。
この問題はたくさんの人に
影響しますので、私
たちにとっても大事な
制度だということになれば、恐らく国民の
皆さんも市民の
皆さんも、それならば税金を
負担しようという、税の
負担に対する抵抗感がなくなるのではないかというふうに考えております。
ということで、
現場からいうとこの
返還制度ということがとても重要ですので、
是非皆さんにもこの問題にこれから集中的に取り組んでいただきたいと、そういうふうに願っております。
私の
発言は以上です。