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中西祐介君
ODA調査派遣第四班より御報告をいたします。
当班は、昨年九月二十一日から十月一日までの十一日間、ヨルダン・
ハシェミット王国、パレスチナ自治区及びエジプト・
アラブ共和国に、
元榮太一郎議員と
団長を務めました私、
中西祐介で参りました。
本日は、
調査を通じて得られた
所見とともに提言を申し上げます。
冒頭、各訪問地域の
所見概要でございます。
まず、ヨルダンですが、中東の中でも石油等の天然資源に乏しく国家財政は厳しい一方で、隣国シリアから多くの難民を受け入れているなど、周辺諸国との緩衝的
役割を果たしています。有効な
支援継続と良好な関係維持は、中東全体に対する平和と繁栄の構築にとって、また
我が国の外交において極めて重要でございます。
今回、国内
最大のシリア難民キャンプを訪問しました。
各国際機関の
支援により診療
施設や水道衛生、生活
支援活動など社会基盤が
整備され、さらには虹彩認証やブロックチェーンを用いた最新
支援システムが導入され、食料配分や健康
管理、学習の進捗
管理など、次世代社会のグローバルスタンダードが生まれる可能性すらあり、今後これら
技術の導入展開も考えられます。
浄水場
視察や水・かんがい
大臣との
意見交換を通じて、水資源の確保が国家的課題であることも痛感をいたしました。
我が国が得意とする上下水道等の生活基礎
インフラ技術支援などは、
現地ニーズに合わせて継続すべきであります。現在、パイプラインでつないで海水淡水化を行う紅海・死海プロジェクトが進められておりますが、引き続き積極的に
協力していくべきと考えます。
次に、パレスチナですが、中東和平交渉が停滞し、米国が相次いで強硬政策を展開する中、極めて厳しい
立場にあります。ヨルダン川西岸及びガザ地区への抑圧事案もやみません。こうした
事態が早期に鎮静化し、地域が
経済的に自立することは、中東全体の安定に向けて欠かせないと考えます。
我が国は、イスラエル及び将来の独立を目指すパレスチナが平和裏に共存する二国家
解決を支持し、積極的に人道
支援を努めています。また、本
視察期間に開催された国連総会で、安倍総理
大臣より、ガザ地区の教員を毎年
日本に招くことが表明をされました。地区外との人や物の往来が厳格に制限をされる中で、将来の人材育成のための人道
支援は、極めて大きな歓迎をもって捉えられました。
対パレスチナ
ODA実施に当たり、人間の安全保障に基づく民生の安定と
向上、財政基盤の強化と
行政の質の
向上、
経済的自立
支援の三点を重視していることは、十分にPLO幹部とも共有をされていることを確認いたしました。
我が国の自由、基本的人権、法の支配、多様性、平和等を重視する外交姿勢こそ、中東及びパレスチナにおける
日本外交に寄せる高い期待の源泉であると痛感をいたしました。
経済面では、
我が国が主導する平和と繁栄の回廊構想の旗艦
事業であるジェリコ農産加工団地に
発展的に
協力し、平和による
利益を域内外と共有することが必要です。平穏な日常や
経済活動が一帯の今の現状でありますが、治安の悪さを強調する報道が先行しています。
我が国を始めとする
各国企業の懸念を払拭し、
投資の可能性を広く周知して民需を
拡大させ、緊張関係のある地域同士を
経済交流でつなぐことが極めて重要だと考えます。
最後に、エジプトです。
二〇一一年、アラブの春を契機に混乱し停滞感がありましたが、地域大国としての
存在感を取り戻しています。政府は積極的に特活など
日本式
教育を導入し、人口
増加率が高く若年世代が多い現状に対し、
日本の良き側面を多分に取り入れ、社会に規律や協調性を涵養することを目指しています。
日本人研究者や研究
機材、
教育方式を活用して、エジプト・
日本学校やエジプト
日本科学
技術大学が軌道に乗っており、
関係者の熱意と努力が実を結んでいます。今後も同大学が中東アフリカにおいて先端的な地位を占めるためには、最新鋭の研究
機材導入やノーベル賞受賞者を招いて特別講義を行うなど、研究資金や人材を今後も集め、あわせて広く民間
企業にも募集して官民共同研究や研究
開発投資の促進、起業スタートアップ
事業の展開を図ることなどが大切です。
また、同国が数多くの歴史的
文化財を有していることは周知のとおりですが、ギザのピラミッド近くに二〇二〇年の開館を目指して工事が進められている大エジプト博物館は、十万点に及ぶ史料や発掘、
修復中の太陽の船の実物など、壮大なものであります。
我が国が得意とする繊細な
技術指導、和紙等を活用した保存
技術、移送
技術等を活用し、大いに貢献しています。完成後は当然、世界から観光客の来客が見込め、併設する国際会議場にも多くの来場を呼び込むことができます。長年の粘り強い
活動と強いきずなを核にして
事業が順調に進み、両国の強固なきずなの象徴として、またエジプトの更なる
発展につながることを期待する次第であります。
続きまして、本
調査を通じて得られた
知見を基に、以下提言を申し上げます。
第一に、
ODA支援の重要性を積極的に広報すべきということであります。
今回訪問した中東いずれの国・地域では、
我が国に大きな信頼と尊敬の念を寄せています。さきの大戦の惨禍から見事復活して世界有数の
経済大国となったこと、さらには、阪神・淡路大
震災、東
日本大
震災など、絶えず自然災害に見舞われてもたくましく立ち上がっている歴史的事実は、当地における内戦やテロで不安定感の拭えない現状に対して、やればできる、いずれ
日本のようにと大きな希望を与えています。社会的地位の
改善が望まれる
女性の
方々、とりわけ難民地区の女学生からそうした言葉を伺い、改めて自覚した次第であります。
支援額や規模では測れない
日本の価値こそ外交
方針の根底に据えるべきであるし、多くの
国民の皆様にも共有されるべき事項です。
常日頃から
現場に足しげく通い、良好かつ深い人間関係を構築するよう努めておられる
在外公館や
JICA職員、また国際機関の
方々は、地域に温かく迎え入れられ、親密に交流されています。こうした信頼に基づく人間交流の姿を広く広報すべきです。現在、政府で取り組まれている国際機関や外交舞台で活躍する人材育成強化にも直結することであります。積極的な広報展開を期待いたします。
第二に、青年海外
協力隊経験者の人材活用についてです。
世界で活躍するJOCV
隊員の
方々が、草の根外交の象徴であり、言葉やコミュニティーの枠を努力で乗り越え、プロジェクトを推進される経験そのものが、
我が国の大きな財産であると考えます。
こうした皆様を正当に
評価し、社会に再還元されることは、
我が国の
発展にも重要です。退路を断って
現地に
派遣されますが、出発と同時に少なからず帰国後の再就職や生活不安を抱えていることも事実であります。社会としてその経験と能力、言わばベンチャースピリットにも通じる意欲を
評価し、例えばCSR
活動の一環として民間
企業が積極的に中途採用することなども、政府の努力により推進すべきと考えます。
第三に、
支援及び
事業の積極的な周知、民需
拡大についてであります。
エジプト
日本科学
技術大学やパレスチナの農産加工団地など、民需の呼び込みが豊かさをもたらし、貧困や紛争に貢献する取組があります。しかし、
現地の正しい安全
情報の不足や、
案件が共有されていない結果、海外進出に意欲を持っていてもチャンスをつかめないと、帰国後の民間
企業に向けた私の報告会でも
意見が上がったところであります。それには各省庁間のますますの
連携が必須であり、官民巻き込んだプロジェクトの推進を積極的に図るべきと考えます。
第四に、予算措置の在り方についてです。
各
視察先にて、補正予算で充当されている
事業の多さを感じました。言い換えれば、それ頼みの
状況であるとも言えます。一定の期間が必要な
事業についても、先行き不透明な場当たり的
支援になりかねません。実際、次年度の予算が見込めず、国際機関で働く職員が一時帰国をして予算要望する姿にも接しました。必要な
事業については当初予算によって積極的に措置し、
事業を計画的に推進できるようにすべきと政府に強く要請をいたします。
第五に、今後の
ODA視察の在り方であります。
参議院独自の機関である本
委員会を
中心とした海外
視察は、二〇〇四年に開始をして十五年が経過します。五十七班、延べ二百三十三議員、百四十五か国・地域という膨大な
知見の蓄積がなされてきました。
現地関係者や住民からの実態
調査や課題の抽出がされた一方で、この間、既に
中国など新興国の台頭があり、また
我が国の
ODA方針も
援助から
協力へと大きく転換をしました。
途上国におけるニーズの変化もあり、予算総額も必要な傍ら、人道
支援や
企業誘致、
環境技術支援など、
日本独自の強みに特化した要望をいただくことも多くなりました。
現場視察の重要性は言わずもがなでありますが、より意義深い
視察や官民の力を結集した展開の在り方、あるいは各省の海外
事業をより統括的に展開するやり方など、更なる充実を追求すべき時期であることも指摘申し上げたいと思います。今後の本
視察派遣の在り方に対する検討の場を持っていただくよう、
委員長、
理事、また各会派各位にお願いを申し上げたいと存じます。
最後に、
参議院の呼称についてです。
現在の慣例訳であるハウス・オブ・カウンセラーズが理解されず、セネットやアッパーハウスなどと言い換えて理解されることが多くあり、
現地駐在の大使等も同様の感想を持たれています。実際、二院制を採用する七十九か国のうち、G7の一部を含む五十二か国が上院についてセネットを使用し、ほかがカウンセル等を含む名称を使用しています。
参議院が
相手国に正しく認識されず、その重みについて理解されないことは、我々が外交
活動を行う上で損失を被ることにもつながりかねません。現在の訳語は慣例により用いられているのにすぎないのであって、国際的に正しく認知される訳語に見直す必要があるということを提起いたします。
以上が第四班の
所見及び提言です。
終わりになりますが、
調査に御
協力をいただきました訪問先及び内外の
関係機関の
方々、全ての皆様に心から
感謝を申し上げ、報告を終わります。
以上です。