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参考人(
渡邊啓貴君)
東京外国語大学の
渡邊でございます。
本日は、お招きにあずかりまして、大変光栄に思っております。
今日は、私の方から、お二方の
意見を、お話を踏まえながら、私の考える、あえて申し上げますけど、
文化外交についてお話しさせていただきたいと
思います。
レジュメを少し、幾つかの点についてレジュメを作っておきました。それを御覧になっていただきながら説明させていただきたいと
思いますが、今日の私のお話のポイントは、実は私、今から十年ほど前、在外公館で
文化交流担当をしたことがあります。日仏百五十周年記念、
外交百五十周年記念の時期でございまして、今年は百六十周年ということです。あの百五十周年で、二〇〇八年から九年にかけて七百五十六の
大使館の登録の
文化行事がございました。平均一日二回何かやっていたわけですけれども、その頃ちょうど、お隣にいらっしゃる
近藤、当時は
大使でございましたけれども、ユネスコ
大使でございまして、よくオフィスに行っていろいろお知恵を拝借したり、長いときには二時間ぐらい昼間から話し込んでいたりということがございました。そういうことでございますので、今日も
近藤大使の後にお話しさせていただいて、大変うれしく思っております。
それで、そういう
意味では、お二方お話しされたことと私もほとんどいろいろな点で共通の認識を持っておりまして、反対することは何もございませんし、サポートする立場でありますけれども、ちょっと私は、今日、あえて申し上げれば、
文化外交戦略と申しますか、そういう観点からちょっとお話しさせていただきたいと
思います。
すなわち、国際
交流あるいは
文化交流が進んでいけば、いずれ
日本のことは理解できるし、それから
相手のことも分かるし、親しくなっていくだろうと。そのとおりではございますけれども、現場におりましていろんな
日本のイベントをやっておりまして、あるいはお付き合いさせていただいておりまして、それこそ
着物の行事にも私も幾つか出させていただいたんですけれども、さて、大変ここの場所では盛り上がっているけれども、これは一体今後どうなるんだろうと。十年ぐらいそういう行事が行われなかったら、さっぱり
日本のことは忘れられてしまう。あるいは、
着物の話にしても何の話にしても、数年たってまた来ましたら、久しぶりに来ましたよというところから始まっちゃいます。
じゃ、
日本の
イメージはといいますと、そのときに参加した人は何となく
日本のことが分かったような気になる、
イメージを持つ。ああ、あるいは、
日本には歴史があったんだ、漫画、アニメで忍者の話しか知らなかったけど、実はすごい武士の歴史、社会の歴史がある、
日本語ちょっと勉強してみようか、ここまで行けば御の字でございまして、そこまでなかなか行かない。
さて、
外交の立場から見ると、ちょっとせっかちであります。
文化交流というのは、十年や二十年、三十年、五十年ぐらいのタイムスパンで考えるべきことではないのかもしれません。百年単位で考えて、
交流していくうちにだんだん理解できるような話なのかもしれませんが、いや、さはさりながら、やっぱりそこの場所に集まって、
日本のことをいいねと思って来た
人たちにもう少し継続して
日本のことを知ってほしいじゃないか。できるならば、ジャパン・エキスポというものがありますけれども、アニメやDVDというポップカルチャーの祭典で、三日ぐらいで二十数万人のにぎわいがあります。よく外務省が主催していると思われておりますけど、実は現地のフランス人、オタッキーのフランス人がやっております。彼は最近
日本人と結婚しましたんで、
文化交流の成果であるかと
思いますけれども、日仏
交流のとてもいい形だと
思いますが、そういうケースはなかなか珍しいわけでございます。
そういう
意味では、やはり、
文化外交戦略とあえて今日申し上げますけれども、そういったものを考えた方がいいのではないかと
思いまして、今日お話しさせていただこうと
思います。
パブリックディプロマシーという言葉がよくあります。レジュメから申し上げますと、飛ばし飛ばしお話ししますので、それは、今日お二方のお話に出ましたように、市民社会に訴える、あるいは
相手国のことを知り
相手の国民に訴えかけるというふうな、ちょっと図を描いておきましたけれども、そんなところでございます。
ただし、これはプロパガンダ、歴史的にはプロパガンダでございます。
文化外交というのは、実は、ずっと先になります、この
皆さんのレジュメの三ページ目の下にちょっと御紹介しておきました。右下の方ですけれども、五ポツというところで、
日本も
文化外交がないわけではありませんで、歴史的にアジアの大国として、戦前、
文化外交を展開して、
皆さん御案内かと
思います、満鉄の映画がどのくらい見られたかというのは、最近の
調査では余り見られていなかったということも統計で出ておりますけれども、そういう映画を作ったわけですね。
ちょっとちなみに一言申し上げますと、
文化外交という言葉って
日本人で初めて誰が使い出したんだろうということでございます。物の本でございまして、私の調べたものではありませんけど、言われているのは、吉田茂総理がイタリア
大使をやっていたときに使ったのが初めじゃないかと言われております。
それから、来年は東京
オリンピックですけれども、実は、
皆さん御案内のように、一九四〇年に東京
オリンピックが開かれる予定になっておりました。実はローマがなるだろうというのが有力であったんですけれども、それを差しおいて東京に決まったわけですけど、幻の
オリンピックですけれども、このとき大活躍というかサポートした
外交官に杉村陽太郎という人がいらっしゃいます。フランス
大使をやりまして、それから国際連盟の事務次長、新渡戸稲造の後を継いだ方でございます。彼がムッソリーニに引き合わせた当時イタリア
大使でした。彼はスポーツ選手だったので、
文化外交、スポーツ
外交ということを既にもう言っておりました。
ただし、問題は、
文化外交の場合、目的は何かということでございます。
文化外交、どういうふうなスタンスを取っていくって、分かりやすいのは目的がはっきりしている場合です。イギリス、フランスに倣って植民地をイギリス、フランス化していく、同化政策化していく、同化政策を導入していく、こういうときには
文化政策って非常に目的がはっきりしてございます。今日の
文化外交、そういう観点ではございません。民主的に、いわゆるパブリックディプロマシーと言われるような言葉で表されるような、民主的に双方向的に市民
交流を通じてやっていくんだということでございます。
その上で、私がよく考えているちょっと
ソフトパワーについて、三ページ目の上にあります四ポツのところでございますけれども、
近藤大使が、長官がさっきおっしゃられていたことでございますけど、私なりの言葉で、さっきマグレイの話をされておりました。ジョゼフ・ナイという人が、一九九〇年代、
ソフトパワーという言葉を使って有名になりましたけれども、自国の望むことを強制的ではなくて自発的に
相手にサポートしてもらうこと、支持してもらったり
協力してもらうこと、だからソフトなんだということであります。私なりの言い方をすれば、そこはちょっと太文字で囲っております、書きましたけれども、
日本の良い
イメージをメッセージとして
相手に伝えて、そして
日本の味方になってもらうようにすること、味方と言うと変ですけれども、
親近感を持ってもらうということ。先ほどから出ている言葉で言えば、私、ナショナルブランディングという言葉を使っておりまして、良い
イメージの
日本のブランド化すると、ナショナルなブランド化するということであるかと
思います。これが今日のお話のポイントでございます。
それで、行ったり来たりで大変恐縮でございますけれども、レジュメの二ページ目の右上の二ポツ、それからその下のところをちょっとざっと御覧になっていただきながらお聞きいただければと
思います。少し狭く
文化外交というふうに定義しました。
と申しますのは、
文化国際
交流っていろんな形でございまして、
文化的な行事を何でもかんでも外国でやったり外国人を連れてくれば、これは
交流であることは確かですけれども、
外交という立場からいうと、どういう目的があり、どういう成果が上がったのかということが大変分かりにくい。実は、国際的な、アメリカでこういう研究は比較的よく進んでいるんですが、それでも、エバリュエーションですね、
文化外交というのは評価をどうするのかと。人が集まったからそれで評価、長い目で見ればもちろんいいことですけれども、何をもって成功とみなすのか、とっても難しいことだということで、いろんな実験が行われております。
そこで、ここではちょっと狭く
文化外交を定義しまして、というよりも、これ
日本外交の現場の形ですけれども、政策広報、これはもちろん重要ですね。最近でいえば、TICADで幾ら
日本が
お金を出してアフリカ、
世界に貢献しているんだ、もちろん
外交の一義的な目的です。
ただ、
日本って何なの、どういう国なの。これは私、よく
自分自身も感激して使う例ですけれども、中東の紛争の現場は水がないと、給水車を持っていった。その給水車の塗装の、外の部分に「キャプテン翼」の漫画が描いてある。少年
たちが水を取りに来る。
日本の命の水で救われた、「キャプテン翼」が救いに来たと、一生忘れないんじゃないかなと
思いますけれども。これ、
イメージ戦略である、ブランド戦略であるかもしれませんけど、こういうところにいかに
外交レベルでタッチできていくかということであろうかと
思います。
そういう
意味では、そういった政策広報を支える部分、教育
文化・一般教育広報、これが、私、現場におり、僅かな間ですけれども、
近藤大使を前に、四十年のベテランの
外交官の前に言うのは恐縮なんですけれども、日々
仕事をしていたときに考えたことです。とってもいいことなんだけど、さて、次にどういうことになるんだろうということがなかなか見えない、そんなことをつらつらずっと考えてまいりました。そういう
意味では、狭義の
文化外交というふうに、その下の、二ページ目の下の左の図に今申し上げたようなことが、ちょっと言葉でカバーしておきましたので、お時間のあるときにお読みいただければと
思います。
もちろん双方向なものですけれども、結局、
文化交流、
外交というのは、ちょっと抽象的な言葉遣いになりますけれども、
文化の
交流というのは
価値の
交流だと
思います。違った人間が
交流するということは、それ自体が
価値の交換だと
思います。そういう
意味では、
外交の出発点というのは対話であり、そして
価値観の違いをいかに克服していくかということであるんではないかと
思います。そういう
意味では、後で申し上げますけど、結論になりますけど、
人的交流ということに行き着く先はなっていくというふうに考えております。
さて、そうしたところで、ちょっと進んでいただきまして、四ページ目の三角形を御覧いただければと
思います。日頃私が考えていることでございますし、別に三角形見なくても
皆さんお考えのことだと
思います。
外交の分野、政治の分野と、あるいは政策目的と、それからビジネスと、それから、純粋な
文化活動というものが本当にあるのかどうかあれですけれども、
文化活動というふうに、三点でこう考えています。三つ三角形を考えた、こう書いてあるのは、どこから議論をしていくかという
意味であります。政治・
外交から議論をしていくのか、経済・ビジネスを目的とした議論をしていくのか、
文化の議論を中心にほかのことを考えていくのか。
四ページ目の下の図に移りますと、
文化外交というのは、今日私のお話ししているスタンスというのは、政治・
外交でいかに
日本を
世界にプレゼンスを示していくのか、そういうこと、立場から考えると、政治・
外交を中心とした経済・ビジネス、
文化活動というつながりになるのではないかと
思います。三つの領域で考えているだけでございますけれども。
次のページ、ちょっと行ったり来たりして申し訳ありませんけど、五ページ目の左上の図でございます。パソコンの使い方がうまくないので、もう少しいい三角形が描ければよかったんですけれども、経済・ビジネスのところをもう少し内側に引っ込んだ図に本当はしたかったんですけれども、何が言いたいかというと、政治・
外交とビジネスのつながりに比べて、
外交と
文化のつながりは非常に遠いと
思います、今の段階では。それから、経済・ビジネスと
文化のつながり、もう少し近づけたかったんですけど、三角形がうまく描けませんで、これはもう少し近いとは
思いますけれども、
外交、
文化のつながりに比べればビジネスの方が、ここで指しているのはコンテンツビジネスの話ですけれども、こういった分野の方が近いと
思います。正三角形になる必要はありませんけれども、今の
日本の
外交の
現状はこういうことではないかと
思います。
だとすれば、この
外交や
文化のところにもっと力を入れよう、
お金を掛けてくれということが結論になります。それから、ここの
外交、
文化の、
外交と
文化活動の三角形のこの辺を強くする、近くするということは、これは
お金の問題と知的
交流をいかに盛んにしていくかということにつながっていくんだと
思います。
こんなことを私は日頃からちょっと考えてございまして、
一つ、五ページ目の下の左の図を御覧になってください。
日本の国家ブランド戦略ということでございます。御案内の方もいらっしゃると
思いますけれども、アンフォルトという、今はイギリス政府に、あっ、今はブリュッセル、EUの方に行っていますかね、EUの方に行っていると
思いますけれども、ブランド指数というのを考えた方がいます、大分前の話なんですけれども。そこに書いてございます輸出とかガバナンスとか
文化とか人とか観光とか、こういったものを数字化しまして、指標化しまして、そしてそれを合わせたポイントでいかに
日本が
世界の国々でブランド力が高いのかどうかというふうなことを議論しております。言うまでもなく、経済力があって工業力があるところはやっぱり高くなるんですね、どうしても。
ただ、
日本は、このブランド指数でいけば決して悪くないというか、大変いいところでございます。ちょっと二〇一一年以降、五位以下に下がってしまいましたけれども、二〇一七年からはちょっと挽回してございまして、ベストフォー、ベストファイブに入っております。
それから、BBCの方でよくやるもの、それからワールドサービスのものをちょっと紹介しました。
また、外務省でも数年に一回やっておりまして、ただし、このどういう
イメージかということをするときに、
高倉参考人が最初におっしゃったように、国によって受け止め方が違うというふうなことをおっしゃっています。だから、アジアでこういう
イメージの受け止め方と、ヨーロッパ、アメリカでの受け止め方が違うということで、そういう
意味からも、漠然とした
交流だけではなくて、
文化交流戦略といいますか
文化戦略というのはやっぱり考えていった方がいいかと常に
思います。
例えば、御案内と
思いますけど、「ドラえもん」はアジア、
中国にとても受けますけれども、ヨーロッパに行きますとまるで知らないですね。共通なのは「NARUTO」とか「ワンピース」とか、これは万国共通でございますけれども、そこにどういう
作品に込められた普遍性があるのかどうかという、そういうこともちゃんと考えていく必要があろうかと
思います。
時間がないので
最後の方に行きますけれども、六ページを御覧になっていただきたいと
思います。六ページの九、それからその横の辺りをお話しして終えたいと
思います。
そういう
意味では、ブランド、いろいろあります。それこそ東京
オリンピックで出てきたおもてなしとか、いろんなやさしいコンセプトがあって、経産省なんかも、商品を持っていって実際に見せて、展示をして、そしてそれに
コメントを付けて、実はこの商品はこういう文脈、
意味があるんだよということを伝えながら展覧会をやると大変受けます、たくさん人が入ってきますけれども。そういった
日本的な伝統の
文化と同時に、
文化外交が成立するには、やっぱり信頼感とそれから敬意、
相手の
文化に対する敬意ですね。面白くて慣れ親しんでいるけれども、やっぱり尊敬できないというものが
文化であれば余り長続きしないと
思いますけど、こういう点では
日本は、皇室
外交ではないですけれども、これほど長い歴史を持った国はないわけですから、とってもそういう点では有利な立場にあると
思います。
そして、一般的な普遍性を伴いながら個性を出す。普遍性というのは、民主主義であるとか平和な国であるとか、安定した、今の内閣でいえば民主、デモクラシーと市場経済ということになりますけど、その上に
日本という国の個性をどう伝えていくかということになろうかと
思います。
価値外交はその先にもう
一つあるんではないかと私は日頃から思っています。
そういう
意味では、その右の
最後のところでございますけれども、やっぱり
文化外交を考える上で、何をどう伝えたい、どういう
意味を持たせるかという概念化、コンセプチュアライゼーションというのはとても重要だと
思います。
次は、これも私
たち余り得意じゃないんですけれども、来てもらったら
日本の良さが分かるよというだけではなくて、来て、何を見て、何を感じてほしい、強制的ではありませんけれども、ある程度そういうことを伝える必要があろうかと
思います。
それから、物事には流れがあって、ストーリーがないと
意味付けができません。これは
日本人は余りうまくありません。コンテクストをつくるコンテクスチュアライゼーション。私、フランスを専門にしておりますけど、フランス人は得意ですね。何にもないところからいろんな話が出てきて、気が付いたらとても感動しているということがよくあります。
そして、
ネットワークです。
ネットワークは、ただつくってしまえばいいというものではなくて、組織と
活動の継続性がとても重要だと
思います。この継続性について強調しておきたいと
思います。
以上のようなところから、ナショナルブランディングをどう考えていくのか、
日本の
イメージとしては安定した平和国家の
イメージ、これをどうコンテクストをつくって広めていくかということに
文化外交の戦略の基本のところがあろうかと
思います。
そういう
意味では、
自分もやっておりますけれども、知的
交流の重要性。ちょっとお手元に、数が十分ではないのであれですけれども、(
資料提示)ちょうどこういう、日仏の知的
交流って、私この十年ぐらいやってございまして、去年はジャポニズム二〇一八ということで、随分国際
交流基金から
お金をいただいて、例の
黄色ベストの騒動の真っ最中、私はパリにおりまして、一体開けるのかどうなのかと言いながらカルチエ・ラタンの学生街のカフェでシンポジウムをやりました。そして、ちょっとおととしやったものについては、こちらの方ですけど、ここには実は
近藤大使も
一緒に出ていただいてやってございます。御興味のある方、御覧いただいて、こういったことで、こういったところにも力を入れられる、そういうことがよかろうかと
思います。
ポイントについて幾つかお話ししました。
どうも御清聴ありがとうございます。