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小林参考人 おはようございます。
私は
奨学金の
研究をずっとしておりまして、
二つの新しい
制度の
設計にかかわってまいりまして、三年ほど前にもこの場で
奨学金の
制度改革について
意見を述べさせてもらいました。今回は
給付型の大幅な
拡大ということでございまして、こういう
機会を与えていただいたことについて、まず感謝申し上げたいと思います。
以下、
資料に基づいて
意見を述べたいと思いますが、私が知り得た限りの
資料というのは公表されたものだけであります。新しい
経済政策パッケージ、あるいは
三島先生がやられた
専門家会議、それから骨太の
方針、
関係閣僚会議の
了承事項ということ、それからもちろんこの
法律案ということになります。その後に
変更とか、あるいは私の誤解があればお許し願いたいと思います。
今申し上げた
二つの
制度と申しますのは、
一つは
給付型奨学金でありまして、これは、
目的は、非常に厳しい状態にある
所得の低い層の
進学を促進することが大きな
目的であります。これは、
日本では初めての公的な
制度です。それに対しまして、もう
一つの
制度は新
所得連動型返還制度でありまして、これは
目的は、中低
所得層の
教育費負担の軽減あるいは
ローン回避と言われる現象を防止するものでありまして、
目的も
対象も異なる、ただ、
二つで大きく
日本の
奨学制度をカバーするというふうに考えることができると思います。
今般の新
制度ですけれども、これは
給付型の
拡大ということになりますけれども、その特徴といたしましては、まず第一に、何といっても、非常に規模が大きいということであります。
二〇一七年に創設されました
給付型奨学金は年額で二十四から四十八万円でしたけれども、今回は、初年度の最高で、
授業料と
入学金を合わせると約九十六万円、それから
給付型奨学金は九十一万円というふうにされておりますので、百八十七万円と極めて大きなものになります。それから、
対象者も、
現行では
住民税非課税世帯なんですけれども、これを年収約三百八十万
未満の
世帯まで
拡大するということでありまして、非常に大きな
制度になっております。
それから、
授業料減免に関して申し上げますと、現在は
制度が、
国立大学、
公立大学、
私立大学、全て異なっております。それから
専門学校については、
公的支援に関しては、北海道と高知県しかありません。こういう中で、非常に
制度を
拡大するということは望ましいことであることは言うまでもありません。
それから、これまで
公的支援に乏しかった
入学金の問題、それから
家計急変、これは例えば
保護者がリストラされたとか、あるいは
離死別で急に
家計が苦しくなったような場合ですけれども、こういったものにも対応するということになっておりまして、そういう
意味で、
進学の促進あるいは
中退の防止に役立つというふうに考えられます。
こういう形で
給付額及び
対象を
拡大したという点では、非常にこの新
制度は
評価できるというふうに考えております。
ただ、
幾つか
懸念がないわけではございません。
一つは、
崖効果と言われる問題でありまして、これは、
授業料減免、
給付型奨学金とも、
制度的に三
段階というふうになっております。こういう場合には、
崖効果と言われる問題が生じます。これは、
受給者と非
受給者、あるいは
受給者間で
格差が大きくなるという問題で、その結果として、
モラルハザードが起きるおそれがあります。
高校の
就学支援金についても三
段階で行われておりますけれども、今度の
給付型奨学金あるいは
授業料減免は格段に
給付額が大きいわけですから、こういったことで、
受給者と非
受給者、あるいは
受給者間でも
不公平感、
不満感が残るのではないかという
懸念があります。
資料を見ていただきたいんですが、
資料の二ページ目に各国の
制度を示しました。これは
文部科学省がつくった
制度でありますけれども、フランスでは八
段階、
アメリカとかドイツでは直線になっておりまして、こういった問題をできるだけ起こさないような
制度設計になっております。この辺について、三
段階ということは若干
懸念があります。
それから、
確認要件の
問題点です。
これは、
高等教育機関、
学生は、
公的補助、すなわち税金を使うことに対する
責任があると考えますが、このため、
一定の
資格要件や
機関の
説明責任を果たすということが非常に重要です。
例えば、
アメリカでは、アクレディテーションを受けた
団体、
高等教育機関のみが
連邦奨学金の
受給資格を持っています。
確認要件のうち、
大学の
情報公開と厳格な
成績評価というのは、現在の
大学改革でも非常に重要な
施策になっております。
ただ、
外部理事については、複数任命するということになっております。それから、
実務経験のある
教員について
標準単位数の一割以上配置されているということになっておりまして、これについては、この
理由として、
大学等の勉学が職業に結びつくことにより
格差の
固定化を防ぎ、
支援を受けた
学生が
大学等でしっかり学んだ上で、
社会で自立し活躍できるようになるように、
対象学問追求と
実践的教育のバランスがとれている
大学等とするため、
大学等に
一定の
要件を求める、こういうような
説明がなされているわけです。
国民の税を投入する以上、
一定の水準の
教育機関でなければならないというのは理解できます。しかし、果たしてこれらの
要件が本当に適切かどうか、また、設定されたこれらの
数値目標がどのような
基準と根拠を持っているのか、十分な
説明がなされていないというふうに考えています。
さらに、重要な問題といたしまして、こうした
教育機関の選別というのは、
生徒の
教育機関の
選択を制約することになるおそれがあります。
奨学金は
個人への
補助でありますから、
個人の
選択を基本的には尊重すべきです。
現行の
給付型奨学金にはこういった
確認要件はございません。
奨学生を獲得するために、
高等機関の間の切磋琢磨が生じるということはあるかもしれませんけれども、最初から
高等教育機関を選別するということは疑問です。
高校生の
進路希望に影響する
可能性は非常に強いと思いますし、
確認大学等でないことを知らないで
進学した場合に、受給することができない、結果として低
所得層を排除するということにもなりかねないということがあります。こうした
可能性について特に
説明がないので、どこまで
検討したのかよくわかりません。
さらに、
専門家会議では
定員充足率などについて新たな条件が定められておりまして、三年連続して八割
未満の場合には
要件を満たさないということになっております。しかし、現在、
介護福祉士の
専攻というのはおおむね
定員充足率が八割
未満という
状況になっておりまして、非常に厳しい
状況にあります。こういう形で、地域とか、あるいは
専攻について考慮せずに
一定の
基準を課すということは疑問が残ります。
それから、
奨学生になった場合には、
現行の
給付型の場合には、
学業成績の著しい
不振等が明らかになった場合だけです。これは、卒業してもらうことが大前提ですから、それに対して、
成績等が不振の場合には廃止あるいは
支給した額について
返還を求めるということになっているわけですが、今回は、
成績が下位四分の一に属する場合というふうにされておりまして、これは
数値による非常に相対的な
評価ですから、本人の
成績のいかんにかかわらずこういう問題が起こります。こういった
奨学生というのは、経済的に非常に困難な
学生でありますから、
支給打切りになりますと、そのまま休学とか
中退につながるおそれがあります。そういう
意味で、こういった形式的な
要件を定めることがいいのかどうかということも
検討する余地があるかと思います。
それから、なぜこういったことになったかということなんですけれども、これは
政策決定過程の問題であるというふうに考えています。
パッケージで、まず、二〇一七年の十二月ですけれども、極めて詳細な
確認要件が
閣議決定されております。これに対して、さまざまな
団体が
反対論とか批判をしております。これに対して、
閣議決定であるために
変更ができないということで、その後の
制度設計に大きな制約を課したというふうに考えております。
それから、時間的な
検討の
期間というのもあります。
今までやってきたものについては、一年以上、あるいは、少なくとも十カ月、八カ月の
検討を経ているわけですけれども、今回の
パッケージについては、四カ月
程度しか
検討の
期間がありません。
スピード感を持ってが拙速にならないかどうか。
閣議決定は大枠のみで、詳細な
検討というのはやはり専門的に行うべきだというふうに考えております。
それから、最後に、もう
一つ大きな問題として申し上げたいのは、
情報ギャップの
拡大ということです。
これは、
情報を持っている者と持っていない者の
格差が生じるという問題でありまして、例えば、
高校の
奨学給付金については、
受給資格がありながら申請しない
保護者が約二万人
程度、もう少し少ないという推計もありますが、いずれにいたしましても、
かなりの数の人が申請しないでいるという問題があります。
それから、
日本学生支援機構の
奨学金についても、
返還することを、しなければいけないということをそもそも知らなかったという者が、
延滞者の場合には半数を超えているという問題があります。これは図の二のところに示したとおりです。
それから、私
たちの行った
全国調査というのがございますけれども、これによりますと、
高校の
奨学金の
担当者、あるいはそれに最も詳しい方ということで回答していただいたんですけれども、
奨学金についての
保護者の理解が得にくい、あるいは、
家庭の
経済的状況を把握するのが難しいという
意見が非常に多く出ております。
私が申し上げたいのは、
状況が非常に変わってきているということです。
日本では、
奨学金の
事務というのは、
教育機関が
厚生補導の一環として行うということが当然視されてきたわけであります。教職員が親身になって、その
生徒の
家庭の
状況に応じて、経済的な
支援の
情報を提供したり、あるいは
奨学金を勧めたりというようなことが行われてきたわけです。しかし、今日では
状況は全く異なります。プライバシーの尊重ということから、
生徒の
家庭の
状況を把握するというのは非常に難しくなっております。むしろ、そういうことは避けたいというのが
高校の多くの
教員の見方です。それなのに、
事務的な
負担は非常に重たい。そういうことで、詳しくは時間の
関係で申し上げませんが、図の四にあるような大きな問題が次々に連鎖しているというふうに考えております。
今後の
課題ですけれども、
幾つか挙げておりますが、時間の
関係で、とにかく強調したいことは、今非常に
関係者が努力しているわけでありますけれども、まだ
情報が十分に周知されておりません。ですから、このままでいきますと、非常に、少なくても初年度に関しては大きな混乱が起こることが考えられますので、この点に対して予算
措置を含む十分な対応をとっていただきたいということであります。
高校の場合には、例えば、
高校の職員に対する
事務の加配というようなことで対応が出されておりますけれども、そういった対応もとらないと、
高等教育機関あるいは
高校は、非常に
事務負担だけ重くなって大変なことになるということになります。
それから、
日本学生支援機構に関しましても、独立行政法人でありまして、毎年、運営費交付金が減らされているという
状況ですので、これに対しても十分な予算
措置が必要だというふうに考えております。
最後に、最初からこの
制度というのは完璧なものを求めるというのは非常に難しいと思います。初めての
制度でありますので、むしろ
制度の見直しということを最初から盛り込んで、絶えず小規模の手直しをするということです。そのためには、
奨学金がどのような効果を持っているか、ポジティブ、ネガティブを含めて検証していくということも求められるというふうに思います。
私の
意見陳述は以上です。どうもありがとうございました。(拍手)