○山本
参考人 本日は、
意見を述べる機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。弁護士の山本晋平でございます。
私は、これまで、
日本弁護士連合会依頼者と弁護士の通信秘密保護
制度の確立に関するワーキンググループ事務局長として、
独禁法における
手続保障、特に、依頼者と弁護士の通信秘密保護
制度の問題を中心に研究、調査を行ってまいりました。本日申し述べる
意見は私個人の
意見でございますが、これまでの知見を生かし、今般の
改正案に至る議論にかかわった部分がございますので、私が知る限りで、これまでの御議論を踏まえつつ、
意見を申し述べたく存じます。
公正取引委員会におかれましては、本年三月十二日、
独禁法改正案の閣議決定に伴い、別紙二、「
事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の取扱いについて」と題する文書を公表されております。お手元の、私の方で配付をお願いした
資料の
資料二でありますし、衆議院の経済産業調査室がまとめられた今般の
法律案の要点及び問題点、青い色の冊子の七十六から七十八ページにおいても同じものが掲載されてございます。以下では
公取委
制度案という呼び方をさせていただきますが、本日は、主にこの
内容に関し
意見を申し述べます。
なお、
公正取引委員会は、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権という
用語を使われておりますが、私は、依頼者と弁護士の通信秘密保護
制度、あるいは、単に通信秘密保護
制度という言葉を使わせていただきますので、御了承いただければと存じます。
公取委
制度案において、最後の部分で、「本
制度の
対象範囲の拡大について、早急に
検討する。」と記載されたところがございまして、本日は、これに関連して、今後の
制度の見直し、拡充に関しても
意見を申し述べるところがございますので、よろしくお願いいたします。
それでは、お手元の
資料一に沿って
内容に入らせていただきます。
まず、大前提として、言うまでもないことでございますけれども、
独禁法は、公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を
確保し、国民経済の健全な発展を促進することを目的とするもので、重要な
法律であり、
独禁法違反に関する実態解明は重要であります。違反に対する処分の
内容、程度も、法の適正な執行という
観点から十分効果的なものとなるべきであります。今般の
独禁法改正案もこの
観点から提案されていると承知しておりまして、法
改正の趣旨について、私も異論がございません。
他方、執行力強化のみならず、
適正手続の
確保も必要不可欠であります。真実は
適正手続の中でこそ明らかにされるものであり、そのような
手続を経た結果として違反の有無が明らかになるものであります。違反の有無や
内容が、
適正手続にのっとって確定されることが必要と考えます。処分を受ける可能性のある者が、事実認定及び法の解釈、
適用の両面から、十分な
検討と必要な防御の機会を与えられることは必須の要請であると考えます。このため、弁護士に相談し、助言を受けることが保障されるべきであります。この認識は、国際的な共通理解になっていると承知しております。
通信秘密保護
制度の趣旨は、端的に言えば、第一に、依頼者の正当な権利、防御権の
確保、第二に、法令遵守、すなわち、有利なことも不利なことも包み隠さず打ち明けて法的相談ができることが、社会における法令遵守につながる点にあるとされております。少なくとも、
独禁法、
競争法の実務において、国際的に広く認められた
制度であると認識しております。
念のため申し上げますと、弁護士との相談というのは、
事業者の事業活動に関連する
一定の事実を前提に、そうしたもとの事実関係から派生して生じる事象でありまして、違反被疑事実との関係ではいわば間接的な位置づけにありますので、その意味で、弁護士との相談の過程や相談
内容は、そもそも直接証拠としての資格が欠けております。弁護士との通信に当局がアクセスしないということは、証拠構造の面からいえば、弁護士の代理を受けていない者に対する調査と同列に考えられるかと存じます。
この通信秘密保護の
考え方が
我が国に何ら存在しないのかというと、そうではございません。
資料に、民事訴訟法、刑事訴訟法などの規定を記載いたしましたが、一つの例として、裁判所、大阪高等裁判所が
平成十七年一月二十五日の
判決の中で述べていることを
考え方として御紹介させていただきます。
これは、刑事訴訟法三十九条一項に関するものですが、接見交通権の実質的根拠として、裁判所は次のように述べております。
その実質的根拠は、かかる接見等の交通権が直接的に被告人等の人身の自由等の保障に資する点のみならず、被告人等が弁護人と相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会が
確保されることにより、国家の権能である刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使の適正化が図られ、もって、実体的真実の発見に資する点にも求められるのである。
刑訴法三十九条一項が被告人等は弁護人と立会人なくして接見することができる旨規定しているのは、被告人等とその弁護人との間において、相互に十分な意思の疎通と情報提供や法的助言の伝達等が、第三者、とりわけ捜査機関、訴追機関及び収容施設等に知られることなく行われることが、弁護人から有効かつ適切な援助を受ける上で必要不可欠なものであるとの考えに立脚するものであるが、これは、接見の機会が保障されても、その
内容が上記各機関等に知られるようなことがあれば、両者のコミュニケーションが覚知されることによってもたらされる影響をおもんぱかってそれを差し控えるという、いわゆる萎縮的効果を生ずることにより、被告人等が実質的かつ効果的な弁護人の援助を受けることができないことも十分に予想されるからであると解される。
とすれば、刑訴法三十九条一項の「立会人なくして」とは、接見に際してその
内容を上記各機関等が知ることができない状態とすること、すなわち、接見
内容についての秘密を保障するものであり、具体的には、接見に第三者を立ち会わせることのみならず、接見
内容等を録音等したり、接見
内容等を事前に告知ないし検査等したり、接見
内容等を事後に
報告させることなどを許さないものである。
以上、御紹介しましたのは、刑事
事件の裁判例ではございますが、その
考え方、依頼者と弁護士とのコミュニケーションが萎縮なく行われることの重要性を述べている点で、普遍的なものであると考えます。
以上を踏まえまして、
公取委
制度案の、まず、「一、趣旨」について
意見を申し述べます。
趣旨の記載のうち、弁護士との相談に係る法的
意見等についての秘密を実質的に保護し、
適正手続を
確保するというふうに記載されている部分につきましては、極めて適切なものであると考えます。この
観点からの
制度とすることは、諸
外国で認められている通信秘密保護
制度本来の趣旨にも近づくと評価できると考えます。
他方で、新たな
課徴金減免制度をより機能させるという
観点も記載されてございますが、通信秘密保護
制度の趣旨としては本来記載する必要がなく、今回示されている
制度を限定的なものにする根拠になっていると理解されますので、問題が残っていると考えております。
この点に関連しますが、
公取委
制度案の「三、
制度 (二)
制度の
対象となる
手続」について、いわゆる
カルテル事案の行政調査
手続に限定していることの問題点を三点述べさせていただきます。
まず第一に、通信秘密保護
制度の目的のためには、弁護士への相談の前から、その相談
内容が将来秘密取扱いを受けることが
制度的に
確保される必要がございます。国際的にもそのように理解されておると承知しております。依頼者が行動を決定するに当たって、弁護士に相談し、弁護士による
検討結果を踏まえ、それによって法的
状況を理解、評価した上で意思決定すること、インフォームド・デシジョンを
確保するためには、法的相談の前に相談
内容のスクリーニングを迫ったり、そのようなちゅうちょを与える
制度設計は適切ではありません。
カルテル事件の行政調査という場面を前提としても、
独禁法三条前段の
私的独占や、十九条の取引妨害等に該当する可能性もあわせて
検討する必要があるような
事案もございますので、そうした場面も
対象になる
制度としなければ、
事業者が気兼ねなく相談するための
制度としては十分でないと考えます。
第二に、今般の
独禁法改正は、
カルテル以外の
行為類型についての
課徴金の強化も含んでおります。これらとの関係でも、
適正手続の
確保は必要でございます。
第三に、
独禁法固有の事情による
制度導入という前提に立って考えてみても、
課徴金減免制度とは別に、
事業者の自主的な計画案に基づいて
事案の解決を図る
制度として確約
制度がございます。これは、TPP関連法に基づいて導入されたものであり、昨年末に既に発効しております。
資料の中には、この点に関する日弁連の関連
意見書を二点入れてございます。
この確約
制度も、
独禁法固有の
制度であり、
独禁法固有の事情に基づいた
制度の導入が可能と考えます。つまり、確約
制度の
対象たる、
カルテル以外の
行為類型に関しても、通信秘密保護
制度の
対象としていただくのが適切であると考えます。
以上三点、
制度の
対象を
カルテルに限定せず、
独禁法全般とする理由があることを申し述べました。今後の
制度拡充の
検討に当たっては、以上の点を踏まえた御
検討をしていただきたいと考えます。
なお、行政調査における
手続保障は各行政分野でそれぞれ定められておりますので、その他の分野の行政調査とは区別して、
独禁法行政調査に関する
制度を導入しても、
法制上特段の支障はないと考えております。伊藤真東京大学名誉教授も、判例時報二千三百六十七号においてこの点を
検討されて、その点を述べられております。
以下、ほかの点につきまして、時間が限られておりますので、要点のみ申し述べます。
まず、
公取委
制度案のもとで
制度の
対象となる通信の
範囲については、物件単位で、その物件の属性等に即して判断するものとなっておりますところ、この
制度設計に賛同いたします。
例えば、法的
意見が記載された
報告書が本
制度の
対象物件とされておりますところ、
法律相談や法的
意見の前提として事実関係の記載がある場合でも、当該文書一体として
対象物件になると理解をしております。
なお、ここで保護の
対象となる通信は、電子データ等、電子メール等の電磁的記録も含まれるよう、規則、指針等において確認していただきたく存じます。
次に、保護が認められるための秘密性の維持の要件については、国際的な実務との平仄という
観点を十分に意識した
制度の具体化をしていただきたいと考えます。
我が国の
企業も、海外当局による調査を受けたり、海外での訴訟、国際仲裁などをも意識した文書管理をしている例がございます。今後策定される規則や指針において、そうした
企業の文書管理の実務と整合的な
内容にしていただきたいと考えます。
次に、
公取委
制度案において、違法な
行為を目的としたものでないことが要件とされている点、この点も賛成でございます。
違法な
行為を目的とした通信は、それ自体が違法
行為の直接証拠という性格を帯びますので、保護が認められないというのは適切であると考えます。
なお、この点に関しては、判別
手続における適切な
運用が極めて重要だと考えます。
次に、依頼者の
範囲でございますが、
会社の役員や
従業員がみずから弁護士を依頼した場合、その個人と弁護士との間の通信も保護
対象にされるべきであると考えます。
それは、
課徴金減免制度を機能させるという
観点からも、
適正手続の
観点からも必要であります。
独禁法審査プロセスに関与する個人も、弁護士の法的助言を受ける資格が保障される必要がございます。
依頼者の
範囲に関してもう一点、弁護士と依頼
事業者のグループ
会社との間の通信も、
一定の場合には保護の
対象になるものとしていただきたいと考えます。これは、今般の
改正に伴う規則、指針において対応していただきたいと考えます。
次に、弁護士の
範囲に関して、今後の
制度拡充の
検討に当たっては、組織内弁護士も
対象とするよう御
検討いただきたいと考えます。
我が国の
法制上、弁護士の秘密保持、秘密交通等に関して、社内弁護士と社外弁護士を区別するような取扱いは見当たりませんので、この点、
EUなどと事情が違っておりますので、そのことを踏まえた
検討がなされるべきと考えます。
次に、ほかの行政調査との関係ですが、本
制度を導入する以上は、ほかの行政調査等からの影響を遮断する
観点が必要であると考えます。
公取委以外の行政当局から
公取委審査部門への迂回的な入手ルートが生じないよう
確保していただきたく、また、そのような取扱いをすることは、ほかの行政調査との関係でも影響を生じないと考えます。
手続保障に関する最後の点としまして、
供述聴取における
適正手続に関し申し述べます。
この点に関し、最も適切なのは、弁護士の立会いを認めることでございます。
各国において既に認められている実務であり、
供述聴取過程を円滑にする効果があること、実態解明機能の阻害という
懸念への対処も可能であることは、海外での経験上わかっていることでございますので、弊害防止のためにどのようなルールを設けつつ導入するかという議論に移っていただきたいと存じます。今後の
課題として御
検討をお願いいたします。
事情聴取の際のメモ取りは、弁護士の立会いが認められれば基本的には必要がなくなると考えますが、現状、弁護士立会いが認められない
状況下では、メモの作成を認めることが必要となります。この点、
公取委
制度案には限定的なことが書いてございますが、メモの作成は
供述終了後に限るべきではなく、また、
課徴金減免申請者の
従業員等に限るべきではないと考えます。
以上申し述べましたが、
公取委
制度案の最後の箇所、「その他」という記載の中で、「本
制度の
対象範囲の拡大について、早急に
検討する。」という記載がございますので、一言申し述べます。このような記載がなされたこと自体は評価すべきと考えております。
ただし、拡大の
検討に当たって、違反被疑案件が他国における案件と関連するか否かによって
適正手続のための
制度内容に区別を設けることには合理性がないものと考えます。
独禁法固有の事情に着目しつつ、
カルテル以外の
違反行為類型をも
制度の
対象となし得ることは、これまで述べたとおりでございます。したがいまして、他法令への影響という要素も、
独禁法のもとでの
対象範囲拡大の妨げとなるべきではないと考えます。
また、本
制度の導入により、
カルテル被害者が何か不当な不利益をこうむると想定されているわけではないと認識しております。通信秘密保護
制度は、中小
企業を含む全ての
事業者による
独禁法コンプライアンスの促進に資するものであり、それは消費者利益にもかなうものであります。中小
企業の利益、不利益といった
観点は、
対象範囲拡大の妨げとなるべきではないと考えます。
以上、私からの
意見を最後にまとめますと、通信秘密保護
制度を含む
手続保障に関し、今回の
公取委
制度案は、申し述べましたように、評価できる点もございます。他方、なお不十分な点もございます。今後の規則、指針の
内容次第というところもございますが、今示されている
内容を前提として見た場合、
制度として一つの前進と言えるものと考えております。
残された
課題につきましては今後御
検討いただきたいと考えますが、今般の
独禁法改正案については、成立に向けた御
審議をいただければというふうに考えております。
御清聴ありがとうございました。(拍手)