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古賀参考人 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
時間もないので、ポイントだけ
お話しさせていただきたいと思います。
まず、私は、経産省の
官僚時代に、
中小企業庁の
経営支援部長、それから
中小企業基盤整備機構の
理事、そういうことで
中小企業支援政策全般にかかわりました。それから、
産業再生機構の
執行役員として
企業再生も担当したことがあります。あるいは、
経済産業政策局の
経済産業政策課長として
産業政策の
取りまとめもやりましたし、
産業組織課長として
競争政策の
取りまとめもやっておりました。それから、
大臣官房会計課の
法令審査として省の
予算の
取りまとめも行い、あるいは
内閣審議官として
公務員制度改革もやりました。
実は、これらの
仕事は全て
中小企業政策と密接にかかわっております。そうした
経験も踏まえた上で、
自己反省も含めて、きょうは本質的な
議論をしていただく
材料提供という
意味も込めまして
お話しさせていただきたいと思います。
まず、この
法案をぱっと見たときの所感ですけれ
ども、以前私が
中小企業の
経営者の方に、
中小企業庁の
政策で何か
経営の
方針が変わったことがありますかと聞いたことがあります。そのとき、こんな答えでした。いや、そんなことは全くないですね、むしろ中企庁は、我々に話を聞いて、ああ、それはおもしろい、それを
政策にすればこういう形になるのかなということで
法案をつくるんですよねと。ところが、
法律にするものですから、はっきり言って、一律にいろいろなことを書くから、使い勝手が悪過ぎる、だけれ
ども、それをうまく調整して
支援策をもらえるようにしてくれるのが
中小機構で、非常に助かっております、感謝しておりますと。これが
実態だと思います。
この
法案でもまた同じようなことをやっているなというふうに私は思います。もう余りこういう細かいことを決めて政府が認定するというのはやめた方がいいな、これはもう私、
経営支援部長をやっているときにずっとそういうふうに思っておりましたが、
自分ではできなかったということでございます。
この
複雑化の象徴とも思えることなんですけれ
ども、
中小企業等の
経営強化に関する
基本方針、読まれた方いらっしゃいますか。これは非常に重要なことが書いてあるはずのものですね、
基本方針ということです。でも、一見しただけで、まず読む気になりません。普通の人が読んでもわかりません。
内容もかなり、ピント外れ、
時代おくれのものもあるなというふうに思います。
今重要な課題として、もちろん
災害とかありますけれ
ども、やはり
人手不足の問題、一番重要ですよね。この点について余り書かれていないですね。
来年からは、働き方
改革で、
労働基準法、
中小企業には適用が猶予されていたものがかかり始めます。これは、はっきり言って
中小企業にとっては地獄になります。三十年前からやらなくちゃいけなかったのを突然やれと言われるわけですから。
この
対応策というのはどうなっているんでしょうか。
例えば、
賃金もどんどん引き上げざるを得ないですね。それをどういうふうにやっていくのかな。例えば、
最低賃金、五年で千五百円を目指しましょうとか、あるいは
平均給与でも三年間で、あるいは五年間でこれだけ上げましょうというような目標を掲げた方がいいんじゃないかと思いますが、そういうこともありません。
それから、
時代おくれなこともあります。
例えば、海外展開するときに本社は
日本に残しましょうとか、雇用は減らしちゃいけませんとか、そんなことが書いてあるんですね。これはもう、ほとんどナンセンスです。今、そんなことを言っている
時代じゃないと思うんですね。
ですから、こういうことを見ていると、国が
ビジネスの細かい点について指針を示して認定していく、この
仕組み自体がもう無理があるというふうに思います。
次に、ではどうしてそういう
法律になっちゃうのかなということで、
日本の
中小企業政策の根本的な問題を幾つか指摘したいんです。
一つは、経産省の職員の
能力の問題があります。
これは、一人一人が、頭が悪いとかいう
意味じゃなくて、
ビジネスの
経験がないんですね、
基本的に。毎年何十人も採りますけれ
ども、
新卒で採るんじゃなくて、もう
新卒採用を本当一割ぐらいにして、あとは
ビジネス経験のある人を採っていくというようなことをしないと、とてもこういう
ビジネスを扱う
仕事はできないんじゃないかなというふうに思います。
それから、
支援組織の問題があります。
いろいろなものがありますけれ
ども、特に海外の
状況について
ノウハウを持っているところが非常に少ない。
地域の経産局でもやはりそういうところが非常に弱いんですね。
僕は、いろいろやっていまして、どうかすると県に行った方が結構プロを雇っていて、そういう
人たちの知見の方が優位にあるという
経験もしました。むしろ、
現場に近い県の方に人員とか
予算を移して、
中小企業政策は
現場の方に近いところでやるというふうにした方がいいんじゃないかなというふうに思います。
これまでの
中小企業政策の
基本というのは、私から見ると、
中小企業を永遠に
中小企業として生き長らえさせるというのが
中小企業政策の
目的なのかなと思います。その結果、
日本は成長できなくなった。これは農業と全く同じ形ですね。
ある
中小企業の方に、非常に厳しく私は怒られたことがあります。それは、
補助金がなければやっていけないようなことは
ビジネスじゃないでしょう、ゾンビみたいに生き残っている弱いところに
補助金を出して延命させると、ダンピングで
優良企業の足を引っ張るんですよね、そういうことはもうやめてくださいというようなことを言われました。やはり、
中小企業の方でさえそういう認識を持っているんだなというふうに思います。
弱者保護の
対策というのは、必要な場合もあります。例えばリーマン・ショックとかあるいは今
議論している
災害とか、そういう、
自分の責任じゃないというようなことについてはやはり国が手を出さなきゃいけない
部分もあると思いますけれ
ども、それ以外について細かいことをいろいろ言うというのはもうやめた方がいいんじゃないかなというふうに思います。
平時は、
企業の人材とか
設備、それをなるべく
生産性の高い優秀なところに移していく。もちろん、倒産とか淘汰ということはいろいろな
混乱がありますから、その
混乱をいかに小さくするかというところに焦点を当てていくべきなんじゃないかなというふうに思います。
そういうふうに考えていくと、でも、やる気と
能力のある
経営者を
支援しまし
ょうといったってなかなかわからないですよねという話になると思いますけれ
ども、そういうことは、まず、
政策を、細かいのを全部一回やめて、
出資、
融資、税制あるいは
知財関連の
支援というようなことに、それも細かい
要件を定めるんじゃなくて一般的な
要件だけにして、
支援策数本にまとめるというようなことをやる。
それから、
公正取引委員会の
機能強化というのは非常に大事だと思います。やはり、大
企業と
中小企業、
格差があって、私もいろいろ
実態を見ましたけれ
ども、相当大
企業にやられちゃっているという
部分が多いんですが、ここをやはり
公正取引委員会はもっと頑張ってもらわなくちゃいけない。そのためには人も
お金も足りません。それを抜本的に強化してもらいたいなというふうに思います。
そういうことをしていくときに、では、誰も
中小企業を助けないのかということになり、もちろんある程度はやるとして、そのときの
目ききとかそういうもの、あるいはその指導を誰がするのかということになりますけれ
ども、やはり、リスクをとっている人にやってもらうのが一番だと思うんですね。
それは誰かというと、
金融機関とかあるいは
ファンドとかそういうところの
人たちが、この
企業はよくなる、あるいは頑張っている、だから
融資する、
出資する、そういう対象に対しては、だったら国がその分を助成しますよという形にしたらいいんじゃないかなというふうに思います。
規制緩和も必要ですけれ
ども、地銀がどんどん
中小企業に
出資をするというような形も必要だと思います。事実上、根雪のような
融資というのがありますよね、長期間にわたって。これは
実態は
出資なんですけれ
ども、
融資だと金利が何もしなくても入ってくるのである程度利益が確保できるんですけれ
ども、
出資だったらその
企業がもうけないと配当は出てきませんから、やはり
出資に切りかえていくというようなこと、デット・エクイティー・スワップとかそういうことも使って切りかえていくということを考えていただいたらいいんじゃないかなと思います。
それから、やはり
中小企業は弱い、弱い、こういう感じで何か
議論されることが多いんですが、やはりもっともっと元気な新しい
企業が出てくるということが必要だと思うんですけれ
ども、そういう
意味で、
ベンチャー政策について、これがやはり
日本は非常に問題だと思います。
官民ファンドはもう全部やめた方がいいと思います、はっきり言って。余りにも
レベルが低過ぎるんですね。
私は、アメリカで起業している
日本人の若者とこの間も話をしましたけれ
ども、
クールジャパン機構の人と会ったら、話にならない、もうやめてくれというようなことを言っていました。それでも何か
お客さんが来るのはどういうことかというと、今は
ベンチャーバブルですから、まともなところには
お金は
幾らでも来るんですよ。どう
しようもないところが
官民ファンドに寄ってきます。だから、絶対失敗するんですよ。ですから、これは早くやめた方がいいなというふうに思います。
それから、きょうは
中小企業団体の方もお見えになっています、余り悪口みたいなことは言いたくないんですけれ
ども、皆さん頑張っておられるのはよくわかるんですけれ
ども、
商工会とか
商工会議所も、やはり
組織によって非常に
レベル、
格差があります。
地域によって違うんですけれ
ども、さっき、
県境を越えて協力しましたという
中央会の話がありましたけれ
ども、そういう、やはり
県境で区切っているというのはやめた方がいいと思うんですよ。とにかく競争する、
組織同士が。それで、
お客さんがたくさん集まるところに
支援を集中していくというようなことにした方がいいんじゃないかなというふうに思います。
それから、より一般的な話として、資料をお配りしたんですけれ
ども、
日本の
ビジネス環境が非常に、
ランキングが低い、世銀の
ランキングですね。これは実は、
ビジネス環境ランキングというと大
企業のためかと思うかもしれないんですけれ
ども、
実態は、新しい
企業を起こす、あるいは
中小企業がどれぐらい
ビジネスをやりやすいか、そこにかなり焦点を当てられているので、
中小企業政策の通信簿みたいなものだと考えていただければと思います。
安倍総理は成長戦略で、先進国三位という目標を立てました、最初に。この目標の立て方がまず非常に不真面目だと思うんですね。何でかというと、何で先進国に限るのか。考えたらおかしいでしょう。
企業の皆さんがどこに工場をつくるかというときに、
日本とアメリカとイギリスとフランスしか考えないということはないですね。
日本なのか、韓国なのか、シンガポールなのか、中国なのか、ベトナムなのか。先進国、途上国、
関係ないんですよ。
ですから、
ビジネス環境は、選ばれるという立場から見れば途上国にも勝たなきゃいけないんですけれ
ども、なぜか先進国三位という目標を立てた。なぜかというと、途上国を入れると三位は絶対無理だからですよ。つまり、見かけをよくすればいいという、そういう形で目標を立てるということ自体非常に不真面目だなと、僕はこれを見たときに本当に驚いたし、憤りを感じるぐらいでした。
この順位がどうなっているかというと、安倍政権発足直前の
ランキングでは世界で二十四位だったんですけれ
ども、これが今や三十九位まで下がりました。順調に下がっていきます。
日本が何もやっていないわけじゃないんですよ。
日本もやっているんです。だから点数は上がるんですけれ
ども、ほかの国はもっと頑張っているので、どんどん追い越されていく。もう冗談みたいな
状況になっていまして、私は最初これを見たときに、いや、何か
日本はロシアに抜かれちゃったりしてねという冗談を講演で言っていたんです。そうしたら、本当に抜かれちゃうんです。もう中国が迫ってくるぐらいになってきますから。
ですから、これを、例えば、本当に本気を出して、もう細かい
政策なんかいいと、十位以内に本気で上げるというぐらいのことをやったらどうかなというふうに思います。
だけれ
ども、実際にはなかなかそういうこの細かい
政策というのはやめられないんですよ。僕は中にいたからよくわかるんですけれ
ども、余りその内情をばらすというのもよくないかもしれないですけれ
ども、やはり、毎年何かやっているというのを出さないといけないんですね、経産省は、特に
中小企業庁は。だから、僕は、
中小企業庁長官とか
経営支援部長とか来られていますけれ
ども、かわいそうだと思いますよ。もうやらないといけないんです。
ことしもやりました、ことしも新しいことをやるから新しい
予算をください、これをやらなくちゃいけなくて、これは何でかというと、
自分たちのやはり天下り先は確保しないといけない。
団体が困らないようにしなくちゃいけないんですよ。そうしないと天下りポストというのは維持できないということですから、まあ天下りもやめた方がいいと思いますけれ
ども、そういうところを根本から直していかなきゃいけないなというふうに思います。
全体として危機感がちょっと足りないなというふうに思うんですけれ
ども、
中小企業政策の
議論をしていますけれ
ども、実は、やはり大
企業を含めた
産業政策全体の問題でもあるんですね、これは。
経産省は非常にいろいろな間違いを犯してきました。私も相当反対した
政策が多くあったんですが、例えば、すり合わせなんていうのを礼賛していましたよね。これは汗水垂らすのが美徳。だけれ
ども、これで長時間労働と
生産性を本当に低くするということに非常に大きく貢献しているんですね。
ほかの国は何をやっていたかというと、そんなことはやめて、3Dプリンターに
しようというので、二十年前からずっとやっていました。
日本はここで完全におくれました。GEは、今、航空機部品を3Dプリンターでつくっています。そうすると、部品は数が一気に減るんですね。しかも、切削とか、溶接とか、組立てとか、研磨とか要らなくなっちゃうんですから、
日本のすり合わせというのが陳腐化するということになります。GEは、ついに
日本にこの
ビジネスで上陸してきました。
資料にも書きましたけれ
ども、
日本の主な製造業というのはほとんどだめになりました。本当に悲しい感じで、全てが過去の栄光で、しかも新しいものもなかなか育っていない。有機ELなんかもまだ
日本はつくれない
状況ですよ。韓国や中国が折り畳み式のスマホを出しましたというと、指をくわえて見ている。あっ、シャープが出したと思ったら、台湾の
企業になっていたという
状況ですし。
ジャパンディスプレイも、経産省が何かこの間まで日の丸といってやっていましたけれ
ども、これも、中国、台湾
企業の傘下になりますと発表された途端に株が上がりました。どういうことかというと、経産省の日の丸でやっていたらだめだとマーケットは思っていたけれ
ども、中国、台湾の傘下だったらよくなるんじゃないかと。つまり、経産省の日の丸主義というのはマーケットから完全に見切られているということだと思います。
エネルギーでも、原発にこだわって、太陽光パネルはもうベストテンに一社もないですよ。もうこれは惨たんたるものですね。昔はシャープがずっと常に一位で、ベストテンに三社か四社は入っていました。風力も、日立はこの間撤退とか出ていましたけれ
ども、もう壊滅です。
新しいものがないでしょう。自動車でも、電気自動車はもう全然置いていかれましたし。これは経産省が間違ったんですね、完全に。水素にかけるといって水素ばかりやっていた。水素の
政策はたくさん並んでいますよ、見ると。電気自動車をやらなかったので置いていかれちゃった。自動運転もしかりですよ。もうグーグルに完全に水をあけられて、トヨタでも全くおくれていますよね。
ですから、そういういろいろなことがありますけれ
ども、もう
一つすごく心配なのはAIですね。AIで、
日本はアメリカと中国に完全に水をあけられています。これは日経新聞なんかでもいろいろ特集とか出ていますけれ
ども、もう競争できないというふうに言われています。
ですから、生きる道としては、下請ですね。下請大国になる。あるいは、中国やアメリカがつくったものを利用して、それをも
うちょっと改善するみたいな、
日本的な生き方かもしれませんけれ
ども、もうそういう
レベルに落ちてきているということです。
全体として感じるのは、やはり政権としての危機感のなさですね。ですから、今回の
法案を見ていても、全体としては、もう津波が目前に迫っているのに、それに背中を向けて家の雨漏りの修理をしているという
状況だなというふうに思うんですね。
この危機感を非常に端的にあらわす言葉として、お配りしましたけれ
ども、ジム・ロジャーズさん、世界三大
投資家の一人ですけれ
ども、言葉が、これは非常によく引用されています、今。私がもし十歳の
日本人なら、直ちに
日本を去るだろう、これはそのとおりだなと思います。私はもう六十歳を過ぎましたけれ
ども、私でさえ、どうやって
日本を出ようかなと考えるぐらいの
状況になっていますから。
そして、こういう
投資家というのは、余り人の悪口は言わないんですよ。特に、特定の政権を批判するなんということはないんですね。だって、
投資してもうけなくちゃいけないから、仲よくしたいので。ところが、この人は、安倍が
日本をだめにしたと振り返る日が来るだろう、ここまではっきり言われているんですね。
ですから、そういう危機感というものを持って、僕は、この間、安倍さんたちのブレーンをやっている人とも話をしましたけれ
ども、さすがに六年やってだめじゃないか、本当に安倍さんは
改革なんかできるのって聞いたら、できない、はっきり言っていました。
だから、そういう、周りにいる人でも、これは本当に危ないな、二周、三周おくれているな、ようやくそういう危機感が出てきたという感じですね。いや、五年遅いだろうという感じがしますけれ
ども、でも、危機感が出てきたというのは非常にいいことなので、そういう危機感を持ってもう一回、
中小企業の
政策を一から見直して、いいものをつくっていただけたらというふうに思います。
以上です。ありがとうございました。(拍手)