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参考人(
斉藤善久君) 神戸大学の
斉藤です。
私は、
外国人技能実習生の
支援に携わりながら、
関係する法
制度を研究し、また、彼らの母国であるアジアを中心とする発展途上諸国から
日本に学びに来ている公務員、役人などに、法治国家
日本、民主国家
日本の法
制度を教えている、そういう立場からこの
法案に対する
意見を述べさせていただきます。
法務大臣は、この
法案に言う
特定技能と既存の
外国人技能実習制度は無
関係な別個の
制度である旨を述べておられたと思いますが、すかすかと
批判されている
法案を読んでみても、また、この
法案に関する
政府の説明を聞いてみても、
特定技能は
技能実習制度の存在を前提として、その屋上に屋を重ねる、全体として連続した
制度であると言うほかありません。
例えば、
技能実習二号ないし三号を修了した者については
日本語や
技能の試験を免除するといった
制度の立て付けについてもそうですし、初年度のこの
在留資格取得者の大半が
技能実習からの
移行組になると見込まれているなどの
実態面についてもそうです。
家族の
帯同とか
永住権とかももちろん大切なんですが、それ以前に、この
制度案の基本構造は、国際貢献という誰ももうもはや信じていない
技能実習制度の建前をようやく取り外した、この点を除くほかは問題の多い
技能実習制度の言わば劣化コピーで、
技能実習三号ダッシュとか四号とか呼んでも過言ではないものとなっています。したがって、このような
制度案を出してくるのであれば、まずは現在の
外国人技能実習制度に関するファクトに基づいた
問題点の検証と改善が行われるべきです。
ところが、安倍首相は、
技能実習制度について、九割の
実習生は
制度趣旨どおりにやっていると思いますよと、つまり、九割の人がつつがなく
日本で
技能を修得し、その
技能を母国で活用し、母国の発展に寄与しているんだと思いますよという
趣旨の
答弁をなさっている。
無
責任にも程があります。この
制度に少しでも関わっている人、少しでも関心を持って勉強している方、ここにいらっしゃる方は皆さんすごく勉強していると思いますが、誰でも
御存じだと思いますが、
技能実習生のほとんどは母国で活用できる
技能など学べていないし、当然、
帰国後にそのような
技能を生かした仕事などしていません。妄想というか幻想というか分かりませんが、九割なんという荒唐無稽な思い込みを前提に新しい
制度を設計されては困ります。
もっとも、
外国人技能実習生の中には、
技能は身に付かないにしても、せめて
日本語を上達させて、将来より良い仕事、楽に稼げる仕事に就こうとする人もいます。送り出し
機関や
監理団体で、今度はスタッフなどに立場を変えて働くなどがその典型です。中には、送り出し
機関を自ら設立して非常に成功して、
意見参考人になるような人もいます。
しかし、他方で、非常に多くの
実習生が、
技能はもちろん、
日本語すら身に付かないまま
帰国を余儀なくされています。例えば、私が
支援に関わった中でも、言葉を覚えようにも職場には牛しかいなくて母国語も忘れそうだとか、週に一回しか工場から出られず、
日本人と挨拶することも禁じられている。
日本人にこんにちはと言われたら走って逃げろ、話しているところを見付けたら国に帰すぞと、そういった事例が枚挙にいとまがありません。こうして、
技能もなく、
日本語はむしろ下手になって
帰国の日を迎える
実習生が少なくないのです。
しかし、
特定技能については、
技能実習二号ないし三号の修了者は無試験でこれに
移行できることとされています。これは何を
意味するのか。二つの見方ができると思います。
一つはスクリーニング。つまり、
技能や
日本語はどうでもいいから、とにかくつらいこと、理不尽なことも多い
技能実習の三年間ないし五年間を辞めもせず失踪もせずに働き抜いて、更になお
日本で働こうというおとなしくて我慢強くて多分親日な人は無試験で受け入れましょうということ。もう
一つはインセンティブですね。つまり、更に五年間働かせてやるから
技能実習生になれ、そして辞めるな、逃げるなということですね。
いずれにせよ、
特定技能をインセンティブとし、あ
るいは
特定技能のためのスクリーニング装置として、
外国人技能実習制度がその根本的な
問題点を改善されないまま維持されようとしているところに問題があります。
根本的な
問題点とは、すなわち民間
人材ビジネスの介在が
一つ、それから転居の自由がないこと及び
転職やアルバイトの自由がないこと、この三点です。
このために、
技能実習生の皆さんは、高額な経費を支払わされ、何重にもピンはねされ、最低賃金又はそれ以下の給料から高額な家賃、水光熱費を回収されても文句が言えず、暴力やセクハラにさいなまれても職場から距離を置くことができず、
監理団体や機構の同意と
支援がなければ次の職場を探せず、緊急避難的に職場を離れると失踪と言われ、そのままビザが切れたら不法滞在と言われ、
生活のためにアルバイトをしたら
不法就労と呼ばれて、犯罪者扱いされてテレビに追い回されるわけです。
このような
状況を改善するために、
技能実習法の下で
技能実習機構は、
転職が必要な場合にこれを
支援し、また必要に応じてシェルターを提供することとされました。もしこの二つが十全に
機能していたら、失踪の多くはその
必要性を失っていた
可能性もあります。しかし、
実態はどうでしょうか。
機構は、会社が倒産した場合などにほかの
実習実施
機関に関するデータベースの閲覧を
許可するだけでマッチングは行いませんし、シェルターにしても、必要が生じた段階で初めて、協定を結んでいる、提携しているホテルに電話をしてくれて、おたく空いていますかと空室
状況を問い合わせてくれます。で、旅行客なんかでそのホテルが満室だったらアウト。そんなものがシェルターと呼べるでしょうか。
こうして民間
人材ビジネスが介在し、転居の自由も
転職の自由もない中で、入管行政当局の煩雑なばかりで
実態を見ない
審査を経て、職務経験の有無も怪しいような多くのアジアの若者たちが、運悪くブラックな
監理団体や会社に当たってしまっても声を上げることもできず、じっと三年間を耐え忍ぶか、あ
るいは耐え切れずに逃げ出して犯罪者扱いを受けるかの二択を迫られているわけです。年間のいわゆる失踪者が七千人とか八千人とかいう数字が取り沙汰されていて、実際それは物すごい数字ではありますが、しかしその背後には、逃げることもできずにひどい環境の中でじっと耐えている人たちがもっともっと存在しています。
そもそも、入管行政や
労働行政がちゃんと本人と受入先を
審査せず、
入国後もちゃんと職場の監督や
生活のサポートを行わないからこんな問題が発生するとも言えます。そんな
審査やサポートのためのマンパワーがないというのであれば、つまりこの国には彼らを受け入れる
資格がないということですから、ほかの道を探すしかありません。例えば、ただでさえ災害復興で建設を始めとする
人材が足りないときに、オリンピックとか万博とかやっている場合じゃないということになるんだろうと思います。
さて、ここで改めてこれまでに示された
特定技能の
制度案を見ますと、さきにも述べましたとおり、
技能実習制度の劣化コピーです。つまり、
技能実習制度の根本的な三つの
問題点が更に危ない形で引き継がれています。
まず、民間
人材ビジネスの介在については、
技能実習制度の下では、
監理団体は、
実態はともかく
制度上は非営利とされていますが、
特定技能における
登録支援機関については特にそういった縛りがありません。また、
監理団体がさきの
技能実習法で
許可制とされたのに対し、
登録支援機関は
届出制になっています。自分は暴力団じゃありませんと言えばいいみたいな、簡単な手続ですよね。大手の
人材派遣会社がすぐに乗り出してきそうな感じがしますね。もう目に浮かぶようですね。また、資料として北海道新聞の記事をお配りいただいていると思いますが、暴力団などによるピンはねビジネスとしてすぐに悪用されてしまいそうだと思います。
また、住居については、会社ではなく
登録支援機関が用意する場合も出てくるでしょう。これは、
労働基準法上の規制対象である寄宿舎ではなくなるという
意味でもあると思います。
また、
転職は認められやすくなるようなことが言われていますが、このことも併せて、結局、民間
人材ビジネスが手元で
管理している
外国人労働者をあちこちの会社や現場に送り込んで、そして経費とか家賃の形でピンはねするという、ある
意味古典的な搾取構造のお膳立てをわざわざしてあげているような気がしてなりません。
他方で、例えば社長のセクハラに耐えかねた
労働者がほかの会社に移ろうとしても、行政も
登録支援機関も誰も助けてはくれないという、そういう
制度になっています。
政府は、
外国人技能実習制度の
問題点、その功罪をちゃんと検証し、その反省に立った抜本的な
外国人労働者政策を練り直すべきです。そして、その中で、
技能実習制度については廃止する方向で進めるのがベストだと思います。この間の
政府当局者の
答弁などからも、
政府自身、
外国人技能実習制度の
制度目的なんかもうどうでもいいんだと
考えていることが明らかです。
例えば、
特定技能の対象となる宿泊業について、
技能実習二号にはないから、
移行してくれる
人材確保のために
技能実習二号の対象として入れ込んでほしいとか入れ込もうとか、あ
るいは、法務大臣がこの
法律の施行を急ぐ理由としておっしゃった、半年遅れたら数万人の
実習生が帰ってしまうじゃないかという御
発言。つまり、
技能移転の建前のために
技能実習生を一旦母国に戻すことすらせず、そのまま
特定技能に
移行させようということですよね。
このように、
政府は、
外国人技能実習制度の
制度目的、国際貢献、
技能移転、これらを自ら葬り去っている、捨て去っている。要するに、もう国際貢献はどうでもいいんだと、語るに落ちた状態です。だったら、こんな
技能実習制度はやめた方がいいです。
外国人技能実習制度にしてもこの度の
特定技能のアイデアにしても、要は若い
労働者の使い捨てです。
日本人労働者に対しても、非正規、低賃金
労働の拡大や
社会保障の切下げなどが進められてきましたが、
外国人なら使い終わったら母国に送り返してしまえばいいから楽だとでも
考えているんでしょうか。
例えば、養子が欲しい、かわいくておとなしくて反抗しない養子が欲しい、病気にならない子がいい、御飯食べなかったらもっといい、そして大きくならなかったらもっといい、大きくなったら取り替えたいとか、そんなような話ですよね。
しかし、これは、持続的発展が望めない斜陽
産業とか不人気
産業の延命措置にすぎません。このままでは、後継者が育成されないまま、早晩そういった
産業自体がこの国から消えてしまいます。高齢の経営者の引退が先か、あ
るいは
外国人労働者から
日本が見放されるのが先か、そういった違いでしかないと思います。
保護すべき
産業は国がしっかり保護し、大企業による下請工賃の切下げとか無理な納期の押し付けといったことを規制して、
日本人自体に対する適正な
労働条件を
確保していかない限り、
外国人労働者もいつまでもは来てくれません。
最後に、冒頭にも述べましたように、私は、所属する
神戸大学大学院国際協力研究科において発展途上国の役人に
日本の法
制度を教える機会をたくさんいただいておりますが、特にこの数年、
日本の行政とか立法過程における文書やデータの改ざん、
国会における不誠実な
答弁や強行採決が目に余るために大変恥ずかしい思いをしています。なかなか、これが
日本だ、これが民主国家だ、法治国家だというふうに自信を持って教えることができないというジレンマを抱えています。そして、そういった学生たちからも、先生、これは十年前、二十年前の自分たちの国と同じですね、独裁政権だったあの頃と同じですねというふうに言われる始末です。
どうか、まあここにいらっしゃる先生方に申し上げてもしようがないですけど、どうかちゃんとやってくださいと言いたい。よろしくお願い申し上げます。
以上です。ありがとうございました。