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参考人(
二宮周平君)
相続法改正に関しまして
見解を述べる
機会をいただき、ありがとうございます。
私は、二〇一三年の十二月三日、
民法の
婚外子相続分差別規定の廃止、それから
出生届の
嫡出子、
嫡出でない子の
区別記載の
根拠規定となっている
戸籍法四十九条二項の
改正がこの
法務委員会で可決されました、そのときに
参考人として招致されておりまして、言わばそのときの婚外子
相続分差別平等が今回の
相続法改正の契機となった、
大村参考人が述べられたとおりの
経過がありますので、非常に感慨を覚えておる次第です。
今次
法改正の
経過につきましては
大村参考人が述べられたところでもありますし、私も実は短い文章を書いておりまして、こちらの
調査室の人に作っていただいた
関連論文、
新聞記事集があります。この中に、「時の法令」、持ってまいりましたが、これの二千四十四号で、「
相続法改正要綱案と
法律婚の
保護」ということで書いているところですので、それを御参照いただければと思います。
今回の
相続法改正について
大村参考人が述べられました二番目の要点、
遺産分割、
遺言に関わることについては私も賛同するものです。しかし、
大村参考人が述べられました
生存配偶者の
居住権の
新設、持ち戻し
免除の
推定、そして
特別寄与の三点につきましては、私は反対の
立場です。
実は、二〇一三年の十二月三日のときに、
法律婚配偶者の
居住保護がそのときも
議論になりました。当時、
佐々木さやか委員は、そういった場合には
個別事情を考慮して、その
ケースで妥当かどうかということが判断されるべきであり、何らかの
居住の
権利ということで
生存配偶者に法定の
権利のようなものが認められることになった場合、個別の
事情が考慮できなくなるおそれがあり、かえって、
配偶者の地位の確保、
配偶者の
居住権の
保護という
議論を通じて、せっかく平等が実現される婚外子の
相続分についてまた新たな、新しい
差別のようなことが生まれはしないかと心配していると述べられました。
今次提案は直接的に婚外子の
差別をもたらすものではありません。しかし、
法律婚の
生存配偶者保護に特化していますから、
法律婚以外の家庭
生活を排除するおそれがあります。この点で、佐々木
委員の懸念は実は正鵠を得ているように思うわけです。
どこがその排除になっているかということを申し上げます。
まず、
配偶者居住権の
新設ですけれども、
高齢社会における
居住形態は所有家屋だけではありません。賃貸
住宅や施設で暮らしている場合もあります。
高齢者の再婚に先妻の
子供たちらが反対したことから事実婚で暮らしている場合もあります。
長期間、
同性カップルで
共同生活をしている場合もあります。複数の
高齢者ないし親密な者同士で
居住している場合など、
居住形態は多様です。しかし、今回は
相続法という枠組みの中での
居住保障ですから、当然、
法律婚配偶者に限定された
居住保障です。それ以外の家庭
生活、
所有権以外の
居住形態を取っている人は
対象外になっています。包括的な
高齢者のための
居住保護という視点で捉え直すときに、今次
法改正は排除の論理が含まれているように思うのです。
二番目は、生前
贈与の持ち戻し
免除に関わることですが、これは元々、
相続法制検討ワーキングチーム、二〇一四年につくられておりますけれども、このときには、
遺産を実質的
夫婦共有
財産と固有
財産に分けて、実質的共有
財産については
配偶者に二分の一の法定
相続も認める、残余の固有
財産について
相続を開始するという、こういう組立てでした。しかし、二つの
財産に分けられるのかということについて疑問が提起され、今次の
民法(
相続関係)部会の
中間試案では三つの案が提起されました。被
相続人の
財産が
婚姻後に
一定の割合以上に
増加した場合、その割合に応じて
配偶者の
相続分を増やす案、
婚姻成立後
一定期間が
経過した場合、その
夫婦の
合意により
配偶者の法定
相続分を引き上げるという案、第三に、
婚姻成立後
一定期間の
経過により当然に
配偶者の
相続分を引き上げるという案、これらがまとめられました。
しかし、パブリックコメントを取りますと、なぜ
配偶者の
相続分だけ引き上げるのか、その
理由が分からない、被
相続人の
財産形成に
貢献し得るのは
配偶者だけではない、それ以外の
相続人や、さらには内縁
関係にある者にも
貢献が認められることがあるなどの批判があり、結局、部会ではこうした反対の
意見を考慮をされまして修正されました。それが今次の生前
贈与の持ち戻し
免除という提案になっています。
しかしながら、この提案についても、パブリックコメントを取りますと反対
意見がありました。
婚姻期間の長短、つまり二十年で切っていますから、
婚姻期間の長短は
生存配偶者の
生活保障の観点とは直接
関係がない、
不動産を持たない
高齢者についても
生存配偶者の
生活保障ができる
制度にすべきだ、他の
相続人や内縁
夫婦についても
財産形成への
貢献や
生活保障の
必要性が同じである、
居住用不動産以外の
相続財産が少額であった場合、他の
相続人、
子供たちとの間に著しい格差が生じてしまうといった反対
意見でした。
現在の判例によりますと、個別
対応しています。例えば、自立できない
子供がいる場合に、精神的に、身体的にきつい状態にある
子供さんのために土地や
住宅を生前
贈与する、あるいは株式を
生活のためにといって生前
贈与をする、そういう場合に裁判所は、
必要性を認めた場合に持ち戻し
免除という黙示の
意思表示があったとして具体的に解決をしています。あえてこのように画一的に二十年、
居住用不動産の生前
贈与のみと限定する必要は何もありません。
相続人以外の者の
貢献、
特別寄与に関しては、
横山参考人からるる御説明がありましたので私の方から追加することはありませんが、私も
横山参考人と同じく、
同性カップルを始め、事実婚を取っている人たちなどで被
相続人の
療養看護に尽くす
ケースはあるわけですから、そういう人たちが今次提案の
対象外となるということにも、ここにも
法律婚以外の家庭
生活を排除するという、そういう
考え方を読み取ることができるように思います。多様な
生活への配慮が必要ではないかと思います。
事前にお送りいただいた参議院の
法務委員会の議事録未定稿版を参照させていただきました。そこで上川法務大臣は、事実婚、
同性婚など多様な生き方を排除するものではないとおっしゃっています。また、特に多様な
家族の在り方に関する
状況に十分熟慮し、今後も必要な検討を行うと発言されています。今次
改正に反映させなくて、排除するものではない、十分留意しと言えるのでしょうか。
法律婚では、
居住保障、それから
特別寄与の保障がありますが、事実婚では、上川法務大臣によれば、
遺言とか事前の契約を結べば
対応できるとおっしゃるのですが、
法律婚カップルの場合には求められない自助努力を、なぜこうした事実婚の人たちに求めるのでしょうか。同じ家庭、
共同生活であるのにそこに区別があるということは、やはり排除の論理があるように思われてなりません。
民法は基本法ですから、象徴的な
意味を持ちます。最高裁大法廷、
平成二十五年九月四日、婚外子の
相続分差別を違憲とした決定要旨の中に次のようなフレーズがあります。「本件
規定の存在自体がその出生時から
嫡出でない子に対する
差別意識を生じさせかねない」、
民法の持つ
規定の重さです。
二十一世紀、
日本社会の在り方は、もう議員の皆様がお考えと思いますけれども、キーワードは多様性と包摂です。ダイバーシティー・アンド・インクルージョンです。
法律婚以外の家庭
生活への法的保障を排除することは、このダイバーシティー・アンド・インクルージョンに反しているように思います。だからこそ、
法律婚以外の多様な家庭
生活への配慮、これを
民法の
規定に盛り込むべきだと思うのです。
事実婚の選択は多様です。選択的
夫婦別氏
制度が実現しないために事実婚を取られる方、
同性カップルの方は、
同性婚は
制度化されておりませんから、当然事実婚になりましょう。
高齢者同士の再婚に
子供たちが反対するために、やむを得ず事実婚を選ばれる方もあります。こうした
法律婚以外の事実婚、家庭
生活を営む人たちで
療養看護に尽くした場合、せめてその場合だけでも
特別寄与者として含むと、つまり
親族に限定しないということは、ダイバーシティー・アンド・インクルージョンのそういう思想の
一つの反映として多くの人に受け入れられるのではないかと思います。パブリックコメントにおいてもこの方向が支持されていたと聞きます。
さらに、私見を付け加えさせていただきますと、
相続の代替
措置として、
民法七百六十八条、これは離婚の際の
財産分与
規定ですが、これを事実婚
カップルの人たちに適用するということが考えられます。最高裁はこれを認めなかったものですから、あえてこれを
法律の条文にする
意味があると考えているのです。
七百六十八条の四項に、第一項から前項までの
規定は、
婚姻の届出がない二人の
共同生活関係が当事者の一方の死亡により解消した場合に準用する、こういう
規定を
新設すれば、
財産分与、非常に柔軟な
規定ですので、
生存当事者の
居住や
生活保障や
療養看護への保障なども可能になります。極めて限られた
部分での法的保障でありますが、こうしたことによってダイバーシティー・アンド・インクルージョンを明示的に示す象徴的な役割があると考えますので、こうした
考え方の採用を御提案する次第です。
御
清聴どうもありがとうございました。