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参考人(野口俊邦君) 野口でございます。
私も、十年前まで一時間半の講義は立ってしていましたので、どうも座っては何となく気分が乗らないものですから、ちょっと立ったままでしゃべらせていただきます。僅か十五分でもありますから。
一応科学者の端くれとして、一番大事なことは、データを正しく読むということ、そして現状を正しく分析するということ、これがなければ科学たり得ません。政策も
一つの科学だと思います。そういう点からすると、今お二人が賛同の意見を述べられましたけれども、私の場合には、このデータに基づいたこのような
考え方には
賛成しかねると、もう一度しっかりと検討をし直してほしいというのが結論であります。
自己紹介のところの中に、私、
林業経済学会というその分野におりまして、もろにこの分野は専門の領域でもあります。特に、中小林家論ですとか、実はこれは私の学位論文の内容であります、それから
林業労働者論、それから
森林組合論、そして近年では、近年といいましてももう定年前の話でありますけれども、国有林野論というようなことをやってきておりますので、その立場からしてもいろいろと問題があることを
指摘させていただきたいというふうに思います。
なお、社会活動の中にちょっと紹介しておりますのは、田中知事という、ちょっと、小説家でもありますけれども、何となくクリスタルな人でありますけれども、この方の知事時代に私は公共事業評価監視
委員会の
委員長を命ぜられまして、そしてできるだけ公共事業の無駄な部分を排除していこうということで脱ダムということを行いまして、八つの建設予定だったダムを全部ストップさせました。後でまた次の知事の人が
一つ復活させましたけれども、そんなこともやったりしまして、そして木の文化をできるだけ浸透したいということで、木による治山工事の土止め工ですね、それから沈床木工といって、川の中まで全部三点張りにするんじゃなくて、下の方は魚がすみやすいように木で造ったものを下に敷こうとか、いろんな工夫をしたりして木の利用を促進すると、そういうこともやってまいりましたので、これも後の話にちょっと関わってくるかと思います。
さて、今回の
森林経営管理法であります。
これは、先ほど現場の中からこれに対する非常に期待も強いというお話がありました。もちろんそういう声がないわけではないと思います。なぜならば、今、
森林・
林業が極めて危機的な
状況にあって、何とかしてくれないかという切なる思いからだと思います。だけど、それに応えるのに、果たして
市町村が主体になり、そこに素材業者をあっせんしてという形でなり得るのかと。
これは、
林業経済をやってきた立場からしますと、
日本の林政の、特に戦後の場合には、御承知のように基本法林政というのが一九六四年、旧基本法です、
林業基本法、そこで
林業総生産の増大ですとか生産性の向上という、言わば産業政策的な方向を追求しました。その後に出てきたのは何かといいますと、
森林所有者の中小林家的なものではなかなか担えないと、そこで、その所有者の協同組織である
森林組合、ここに資本装備を集中させて、機械も集め、そして作業班なる労働組織もつくってもらって、そこでやっていこうという、言わば所有者サイドに立った担い手論、これが基本法林政でありました。
そして、この基本法林政は、その後、
林業がなかなか成り立たないという外材体制の中で非常に難しい、そして他方では
森林に対する多面的機能というものに対する国民の期待も強まりました。そこで、二〇〇一年に
森林・
林業基本法と、ここには
森林の多面的機能を重視すると。その多面的機能の中には、どちらかというと
木材生産よりは水源涵養ですとか、あるいは災害防止ですとか、あるいは動植物の野生の宝庫であるとか、あるいは人間の保健休養の場であるとかといったようなものを含め、そしてそれに
木材生産も含めた多面的機能という言い方でありました。そういう形で来たときに、そこには産業政策といいましょうか、
木材生産を中心とするという
考え方は大きく後退したわけであります。
つまり、国民の世論
調査をやっていけば、一番から十番までにずっと三つほど
選択肢を与えて、何に期待しますかというふうに並べると、もう二十年以上も前のデータでは、最初の方は
木材生産が上位の方にありました。それが年々年々下の方に来て、そして、いや、最近またちょっと上がってきましたけれども、それでもまだ四位ぐらいのところであります。やはり一番大きいのは災害防止とか、こういったいわゆる
森林の多面的機能と言われるところが圧倒的に多い。これ、国民の要請だろうというふうに思います。
そこで、この現場の声とはちょっと違う形でのこの
法案がなぜ出てきたんだろうかというときに、この中にも書いておりますように、規制改革推進会議ですとか、あるいは未来投資会議だとかいう、こういった成長戦略として
林業を位置付け直そうという、こういう
考え方、どちらかというと官邸主導といいましょうか、というような
考え方が現場の声をうまく利用しながら出てきたような側面は、私、拭えないと思います。現場の声が全くないわけではないけれども、しかしちょっと違った形に、つまり従来の担い手であった
森林所有者やあるいは
森林組合という、こういうものがいつの間にか後ろに下がってしまって、素材業者という、これはもちろん
木材生産の主たる担い手ですから大事なものであります、しかし、そこにいきなり主役の座を持ってきても、その体制はでき上がっていないというのが現実だと思います。
ですから、そのために、じゃ、
市町村を介在させるとか、あるいは都道府県を介在させるといっても、これはまた無理であります。なぜなら、もうここの
委員会、ここと言いましても、衆議院の場合の速記録等を見ましてもありますように、今、
日本全体で
市町村数は確か千七百ぐらいあろうかと思うんです。そのうち、
市町村が
林業の専門職員数として持っているのは約三千名と言われています。つまり、一か所当たり
平均でいえば二人にならない。ゼロのところから一人ぐらいのところが圧倒的に多いと、こういうデータであります。私、長野県におりますけれども、長野県でもそういうことであります。
つまり、
市町村にいろんな担い手の中心になる、あるいはあっせん業務をしてもらうといったって、これ、恐らく今度は地域林政のそういう相談役が出てくるからという言い方をしても、そんなに簡単に切り替わるものではありません。
林業というのは、皆さんも御承知のように、ぱっと変わるものではありません。百年の大計を立てて、それに立って担い手をどう措定していくか、それに対する支援策をどうするかということによって初めて成り立つものであって、今度は杉駄目だからヒノキにしようとか、それも駄目だから広葉樹にしようとか、今まで皆伐していたのを天然林
施業にしようとか、こういう猫の目林政的なことが少し多過ぎました。猫の目農政と言われますけど、猫の目林政は、これは間違いです。百年を論じなくてはいけません。
そういう
意味でいえば、五十年ぐらいで切ってもう回していくような短伐期的な
施業ではなくて、もう少し長い目で見た
施業、それも公有林あるいは
市町村有林、それから国有林、そういうもの全部合わせて全体としてトータルに長い
期間を掛けてやるようなやり方をしなければ、これは恐らく無理であろうというふうに思います。
もうデータのことは申しません、ここに書いておりますのでね。これは一旦引き下げられたようですから。これはちょっと、幾ら誰が見たってそんな読み方はできないですよ。もし私が学生にこのデータを与えてここから読み取れるものは何かといって、もし今回のことを国会議員の先生たる者が出したら、これはもう国会にも失格であります、はっきり申しまして。つまり、いや、国会は今審議していただいてますから、そこでまたもう一回失敗するようじゃ失格だという
意味であります。そういうことで、データは正しく読んでいただかなくちゃいけないということであります。
特に申し上げたいのは、
森林所有者、彼らはこのデータを私が、私がというよりも、国民、
平成二十七年度のこのデータ、つぶさに見させていただきましたけれども、これが基なんですよね。ここにあるのは、よく頑張っていると、非常に厳しい中でよくここまで耐えているなというのが印象であります。
意欲がないなんていうのはこれ失礼ですよ。現場の方とよく話し合っていただきたいというふうに思います。
こういうことで、まずこれは撤回すべきであるというのが一点と、それから、この
管理法の一番大きい問題は、個人の山を自分たちの長いスパンの中で見ていく、今はちょっと切る必要がないとか、あるいは手入れるにしても大体済んだから今必要ないとか、これ
一つの
経営判断ですよ。それを、今、まあ間違ったデータに基づいて
経営意欲がないなんというような形を言われれば、これは所有者は恐らく怒られると思いますよ。そういうことで、それは困るし、
市町村にもそれは担えないということ。それからもう
一つ言えば、県もこれ担えません、はっきり言って。
実は私、もう
一つ関わっているのは長野県の大北
森林組合の補助金不正受給問題、これの民間における
調査団の団長を仰せ付かってやっておりますけれども、地裁判決がもう出ましたけれども、何と言われているかというと、結局、補助金をもらった、そして道ができているはずだと。跡地検査が冬場の雪の中でできないと。それで闇繰越しという形で、現場検証をしないでそのまま見逃したために、数年にわたって十何億という不正受給問題が起こったんですよ。これ、なぜできなかったかといえば、県庁の人たちが今は現場に張り付いて指導するという体制がないんです。各地方事務所に集中
管理方式であります。こういうことをやっているのが今の県で、長野県だけが特別だとは思いません。割と山に関しては熱心な県でもあるんですけれども、そういう問題が起きました。
ということですので、是非これは県も
市町村ももしそこにあるいは素材業者も担い手たる資格を有する者だということであれば、それに対するまず底上げをしようではありませんか。それからでなければ急には無理だということです。
森林環境税のことも一言だけ申し上げておきます。
長野県でも数年前に、もう今度、三回目繰り越しましたから九年目ですかね、にこれをつくりました、県版を。そのときにも十分な
議論がなされませんでした。山関係者は、待っていましたと、好意的に補助金いただけるんだというのでもろ手を挙げて
賛成しました。山の専門家である私は、これはおかしい、待てと。なぜならば、目的税として出されてくるべきものだったのが、実は上乗せ、超過課税方式ではあるんですけれども、それによってお金を皆さんからいただきました。その後、何年かたって、皆さんに私は、
森林環境税を納めているということを知っていますかと。知っている人、ほとんどいないんですよ。
税の一番いいところは、痛みを感じないままにすっと取るというのが、これが税の極意だそうです。今回のものも十分
議論されて、一人千円ですか、もうこれは決まってはまだいないのかもしれませんけど、そういうことのようですね。そういうふうな形は、よっぽど皆さんと合意が形成されなければ駄目だと思います。
日本の
森林を都会の人も含めてみんなで守ろうよという合意があって初めて皆さんが支える気持ちになると、五百円でも千円でもそれは出しましょうという形になるんだろうと思うんです。
そういう
一定の、何といいますか、合意事項、前提条件というのをクリアしながらやらないと、
政府の目的によってそのとき何とか乗り切ればということでは、山の政策は間違いなく失敗します。そして、山の政策を失敗したら、これは数十年、負の遺産です。
農業と違います。そういうことも含めて、是非慎重なる御検討をいただければというふうに思います。
御清聴ありがとうございました。