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参考人(
磯田宏君)
皆様の机の上に配っていただいたもう
一つのホチキスで留めたものでございますけれども、これを全部紹介させていただくととても時間が足りませんので、ここの要点を少しはしょって
意見の陳述にさせていただきます。
私は、
農林水産業等への深刻な影響が予測され、
発効後の
リスクあるいは不透明な
部分が著しく大きい、そのような性格を依然として持っているいわゆる
TPP11、CP
TPPの
発効に向かうべきではないという観点から、その私としての
根拠を五点ほどにわたってかいつまんで説明させていただきます。
一点目に、
農産物等の
市場開放に関する
条文や
譲許表は
TPP12から
変更がなされておらず、したがって、
発効後に更に
市場開放を迫られる
メカニズムも組み込まれたままであるということであります。そういう
意味で、
変更がなされていない
TPPには、現在、我々の目に触れている
協定の
条文や
譲許表以上の
市場開放を
協議する
メカニズムが幾重にも組み込まれております。
具体的には、そこに四つ挙げておりますけれども、そういったような、とりわけ三番目の、
発効後七年たちますと、
アメリカは当面おりませんけれども、その他の四
輸出大国の要請で
市場アクセス増大目的の
協議が義務付けられるといったようなことを
中心に、これらを通じて、現在の約束による
農産物市場開放では済まされない危険が極めて大きい、そういう
メカニズムを内包しているということでございます。
二番目に、この
TPP11が
発効され、それに伴って
市場開放するということになると、少なくとも、
トランプ政権における
アメリカとの
関係では、それにプラスして
日米二国間の
市場開放という二重の
市場開放になる危険が大いにはらまれているということであります。
TPP11の
国内承認手続を
早期完了、
発効させることがむしろ
米国の対日二
国間交渉圧力を抑止するのに有効だという言説が出されておりますけれども、私の考えでは、むしろ逆に作用する危険が高いというふうに見ております。
TPP11は、御案内のように
米国が
離脱したにもかかわらず、そこに書きましたような
大麦輸入の
TPP枠であるとか、脱脂粉乳、バターの
TPP枠、
牛肉及び豚肉の
セーフガードの
発動基準数量、こういうものについて
日本政府は
削減の
要求すらしておりません。
したがって、豪州、
カナダ、
ニュージーランドといった
輸出大国でもってそれらの
TPP枠や
セーフガード発動基準数量に近づいてしまう
可能性が高く、そのことがかえって
米国との二
国間協議において、本来の
米国分け前というふうに
米国が考えるところのもの、あるいはそれ以上のものの
要求を誘発することになるだろうと。この
TPP11の
協定では確かに、
米国復帰の
見込みがない場合に
市場開放の
下方修正をすべく
見直し条項を挿入されておりますけれども、今挙げたような
輸出大国がそれに応じるということはおよそ想定し難いのであります。
逆に、仮に
米国復帰があるとすれば、
ダボス会議等の際にもトランプ大統領明言されておりましたように、
TPPが
米国にとってはるかに良い
協定になればという話でございますので、逆に今の
条項でもって
現行以上の
市場開放への
見直しを迫られるのが必至なのではないかというふうに考えてきますと、
米国復帰の
見込みがあるなしのいずれの場合でも、結局は
TPP11
プラス日米二国間の
市場開放に帰結する
可能性が高いと。
トランプ政権は、十一月に迫ってまいりました
中間選挙向けの短期のタームでは手っ取り早い二
国間市場開放の
取引の成果を求め、それを乗り切って、中期的には
日米自由貿易協定をという戦術というふうに考えられます。
三点目の
根拠でございますけれども、
農産物・
食品の
安全性確保等についても、現にある
協定以外にも、将来にわたって
追加的協議メカニズムによって
発効後の
規制措置等の
確保は非常に不透明化すると、そういう
リスクを内包しているということでございます。
一番目の
TPPの
衛生植物検疫措置、
SPS条文については、非常に
科学的証拠主義が、
WTOの
SPS協定よりも更に強められているということがありますけれども、加えて、その
TPPの中に置かれる
SPS小
委員会の
目的が非常に抽象的に規定されているため、広範囲な
輸出国側の
関心事項等が
協議されるのではないかというふうな
危惧を非常に持っておる次第であります。
また、
貿易の
技術的障害、TBTに関しても、それ自体としても幾つかの問題をはらんでおって、例えば、
包装食品、
食品添加物について
企業が占有する
製法情報に対する
政府の
提出要求を制限したりとか、FAO、
WHO等の下に置かれている
食品規格委員会の
基準ですら効果的でない、適当でないというふうに判断された場合は
食品への
ラベル記載を
要求できないなど、
現行でも
問題ばらみなんですが。加えて、ここでも小
委員会の検討、
活動等が著しく広範囲に規定されているため、
日本の
規制、
基準緩和や他国のものの
承認や
調和、それへの
調和などが一層進められる
危惧を抱かざるを得ないと。
また、
米国に関してですけれども、ここでも、
TPPから
離脱した
米国ではありますけれども、今後の
日米二
国間協議でこれらの
TPP現行条文以上を求めるだろうことは、
通商代表部の本年の
外国貿易障壁報告書が、昨年施行された
改正原料原産地表示制度に対する懸念を表明したり、
米国産
輸入牛肉の
月齢制限の廃止を
要求したりとか、
食品添加物禁止の
撤廃であるとか、
ポストハーベスト防カビ剤の取扱いの
撤廃であるとか等々を改めて
要求していることからしても、今後、これらのことが
日米二
国間協議で強い
要求となって現れてくるであろうことはほぼ明らかであろうかというふうに思っております。
それから四点目に、
政府調達に関する問題でございまして、ここでは
地域の
農林産物に一応引き付けて申し上げますけれども、国産や
地域産の
農林水産物を
政府調達に利用することが妨げられる、そういった危険も高まるということでありまして、
TPPはそもそも、十五章の
政府調達において、
市場開放対象の
政府調達については、国産、
地域産
農林水産物等の利用を課することを禁じているわけです。
さらに、
現行の
条文等に書かれている、あるいは附属書に書かれている
市場開放対象政府調達の機関、範囲、
基準額についても、その小
委員会というものがここでも登場しまして、追加的な
交渉によって範囲の拡大や
基準額の引下げのための
交渉をするということが定められております。
このことが現実化していきますと、
政府調達の対象機関、現在では指定都市以外の一般市町村は対象外ですけれども、そういうものが対象に含まれてくる。あるいは、
政府調達の種類の範囲としても、例えば、現在、地方自治体の学校給食サービスは
政府調達の対象から外されておりますけれども、
市場開放の対象から外されておりますけれども、こういうものが除外されるという今の取扱いが解消されるとか、そういったようなことを含めた追加的
交渉が義務付けられていることになるということになりますと、国産材、
地域産材を利用した公共建築や地産地消型学校給食の促進などは、その存立基盤を縮小、喪失する危険にさらされるという懸念を強く持つものであります。
五番目に、ISDS、
投資家国家間紛争解決システムでございます。
一部には、今回の
TPP11では凍結されているのではないかという理解もあるやに聞きますけれども、実は御案内のように、実際に凍結されるのは、
投資に関する合意及び
投資の許可、この二項目だけでございまして、及び、それから十一章、金融サービスのうちの、金融サービスに関わる
市場開放等に関する待遇に関する最低
基準という、そういう義務だけがISDSの対象外に今回凍結されたのであります。したがいまして、むしろ、
投資の本体である
投資財産のあらゆる権益保護及び、先ほどの金融サービスに関するその他の
市場開放や待遇保証義務への違反は、全て引き続きISDSの対象になっているままでございます。
このISDSについての問題点というのはもうるる指摘されているところでありますので、時間の都合もありますので省略させていただきますけれども、一番私が特に今日強調したいのは、仲裁廷における裁定
基準が、
条文、附属書等における概念規定が不明確なものですから、結局は仲裁廷の裁量に丸投げにされてしまう、実際にそういう判例が数多く見られてきているというところでございます。
最後、以上のまとめ的な
意味も込めて六点目でございますけれども、先ほど
参考人の
渡邊先生は
メガFTA、
EPAこそ進むべき道というふうにおっしゃられましたが、私は、むしろここで一旦冷静に立ち止まって、慎重に、それが本当に国民、
地域住民、あるいは私の
専門に引き付けて言えば農業分野等にとって本当のメリットになる道なのかどうかを再検討する、そういう時期に来ているんではないかということを結論的には申し上げたいということであります。
まず、
政府による
TPP11等の生産額への影響が過小
評価になっているのではないかという問題意識は幅広く共有されているところであります。例えば、
輸出国側政府の試算と
日本政府の生産減少額との差が大き過ぎるというような問題があり、その若干の例を今日机にお配りした方では
カナダ政府、それから
ニュージーランド政府の特定の産品についての試算との余りに大きなギャップについて紹介しておりますが、ここではその具体的な内容については省かせていただきますけれども。
日本政府試算のもう
一つの非常に非現実的なロジックとして指摘できることは、そこでは輸出の増加が考慮されていないという前提になっております。その前提の上で、国内対策、今日のこの法案もそうですけれども、国内対策の結果、国内生産量も自給率も不変だ、変わらない、落ちないと、こういう結論でございます。ということは、これは簡単な算数でございまして、輸入量が全く増えないということを
意味するわけであります。逆に、
日本の人口減少とそれに伴う消費の減少がこのまま歯止めが掛からないとすれば、むしろ輸入が減りさえすることを
意味するという、こういう結論に論理的になるわけでありまして、余りに非現実的であると言わざるを得ません。
日本政府は、メガ自由
貿易協定、
経済連携協定が切り開く大きなボーダーレス市場へ向けて輸出で
成長産業化する農業を目指すとしておりますが、確かに、
世界最高水準の品質や和食の健康的、文化的価値において競争力を有する、グローバルな富裕層向けの輸出農業分野に一定の
成長の余地があることは私も否定いたしませんが、そのような分野は好むと好まざるとにかかわらず限られております。したがって、そうでない多くの農業分野はそのようなメガ路線の
市場開放で大きく縮小せざるを得ず、例えば食料・農業・農村基本法がうたう国民への食料安定供給
確保や多面的機能の発揮は失われていくし、国内農業と国民あるいは国内消費者も切り離されてしまうであろうことが深く懸念されているわけです。
そのような観点からも、
メガFTA、
EPA路線からの再検討、そこからの転換ということの検討が必要とされているというふうに考える次第でございます。
御清聴ありがとうございました。