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参考人(
阿部彩君) 首都大学
東京子ども・若者
貧困研究センターのセンター長を務めております
阿部彩と申します。今日は、お時間ありがとうございます。
お
手元に
資料を配付してございますので、それに基づき御報告させてい
ただきたいというふうに思います。(
資料映写)
まず、一ページ目ですけれども、これは皆さんも御承知のとおり、厚生労働省が発表しております相対的
貧困率、ブルーの方が国民全体、オレンジの方が十七歳以下のお子さんの
貧困率となります。最新値が二〇一五年のものなんですけれども、それはその二、三年前の二〇一二年に比べて大きく
子供の
貧困率については下がりました。これ自体は、私自身は非常に喜ばしいことというふうに思っております。
ですけれども、長期的に見てい
ただきますと、オレンジの方のラインというのはかなりジグザグがあります。これは景気の変動を表しています。ブルーの方のラインは高齢者の
方々も含まれますので、高齢者の
方々は年金
所得が主な源泉となりますのでそれほど景気に左右されないんですけれども、オレンジの方は
子供の親御さんの
所得を一番反映しておりますので、そうしますと景気の変動というのがございます。
そうしますと、八五年、これが
国民生活基礎調査での一番古いデータなんですけれども、から見ますと、やはり
貧困率が下がった時期というのはございます。これはやはり景気の動向であるかなというふうには思いますが、そういった
意味で見ますと、景気の良いときと悪いときを比べるだけではなくて、景気がいいとき、いいとき、いいときと、ですので、山、山、山、谷、谷、谷同士を比べるという視点も必要で、それを見てい
ただきますと、前回の谷が一三・七%、その前の谷が一二・二%、その前の谷が一〇・九%といったことで、三十年というスパンで見れば、必ずしも今、三年前からか、改善したことはすばらしいんですけれども、安心できる
状況ではないなというふうに思えるのではないかなというふうに思います。
厚生労働省はこのような数値しか発表していないんですけれども、
国民生活基礎調査を二次利用申請いたしまして、私の方で性別また年齢層別に計算したものがその次のページになります。
赤く囲んであるところが若者層と言われる十五歳から二十四歳の値になります。見てい
ただければ分かりますように、日本の
人々のライフスパンを見ますと、今
貧困率が高いのは、高齢期とこの二十—二十四歳をピークとする若者期と
子供期という二つの山がございます。特に高齢期については女性の
貧困率がまだまだ高いんですけれども、一生を通じて見ても、男性の
貧困率で見ると、今、若いときの
貧困の
リスクと高齢期の
貧困の
リスクというのはほぼ同じ
状況になっています。
これをちょっと三十年のスパンで見てい
ただきたいなと思って持ってきたものが次になります。このグリーンのラインは、一九八五年のときの男性の年齢別の
貧困率です。二〇一二年、このときが一番高かったわけなんですけれども、二〇一二年のときが青いもので、赤が二〇一五年の一番最新の、最新といってももう今から比べると四年前になるんですけれども、の数値になります。
そうしますと、見てい
ただければ分かりますように、三十年間の間において高齢期の
貧困率は大きく下がりました、男性に関して言えば。これは公的年金が成熟してきたことによる、やはり
社会保障の成功例というふうに見てい
ただいてよろしいかなというふうに思います。
ですけれども、一方で、若年層を山とする
貧困率の上昇というのが、やはり三十年というスパンで見ますとまだまだ高い
状況にあるといったことで、やはりこの
貧困の構造というのがかなり変わってきている。三十年間というと一九八五年で私なんかはそれほど昔という感じはしないんですけれども、かなり大きく日本の
社会が変容しているといったことが言えるのではないかなというふうに思います。
次のグラフは女性の
貧困率に限ったものですけれども、女性で見ますと、高齢期の
貧困率がまだまだ下がっていないというのが
現状になります。ですので、昨今、高齢者における
所得保障が拡充されてきておりますけれども、それはその
一つの根拠になるんではないかなというふうに思っております。
子供という観点からは、二十歳未満の
子供の
世帯タイプ別で見ますと、御承知のとおり、やはり一人親と未婚子のみという
世帯タイプが一番高くなっております。ですけれども、夫婦と未婚子のみという
世帯においても
貧困率は徐々に上昇しているといったことは、御覧い
ただければ分かるかなというふうに思います。
また、三
世代世帯といった
世帯で見ても、徐々に高くなってきております。実は、三
世代世帯というのは推奨されるべき
世帯というふうに思われていることがすごく多いんですね。
子供のケアをする人が増えるですとか、
所得の源泉、
所得を稼いでいる人が二人以上いる可能性があるですとかそういったことですけれども、実は、
貧困率で見ますと、三
世代世帯の方が二
世代世帯よりも高いです。
これは、サザエさんちのような、おじいちゃんとお父さんが二人とも現役
世代といったような三
世代世帯がだんだん少なくなってきているからですね。高齢化によって、それが二
世代目になってきますと、例えば三十歳で
子供を産んでいるというのはもう全く当たり前ですけれども、三十歳、三十歳で二
世代続きますと、初孫が生まれるのがもう六十歳ですのでおじいちゃんは現役
世代じゃなくなってくるわけです。ですので、このような
世帯がどんどん増えていきますので、三
世代世帯というのは、今後、私は、非常に大きなダブルケアの問題を抱える
世帯になってきて非常にリスキーな
世帯タイプだというふうに思っております。
それをおきまして、もう
一つやはり忘れてはいけないのが、夫婦と未婚子のみという核家族
世帯、圧倒的に数が多いということです。数が多いので、
貧困率が少なくても、じゃ、
貧困の
子供の
世帯タイプ、先ほどの一三・九%の
子供たちの
世帯タイプはどうかというのを見てみますと、半数以上は夫婦と未婚子のみの御夫婦そろった
世帯の核家族
世帯です。
この
世帯に対しては、今、
現状では、
子供の
貧困対策としての
所得保障ですとか様々なサービス、保障といったものがほとんど行っていない
状況になります。もちろん、生活困窮者自立支援法ですとか生活保護ですとかいった一般的なものはございますけれども、母子
世帯や父子
世帯に対する様々なサービスですとか様々な給付といったようなものはこちらの
世帯については手が届かないサービスになっています。
この上で、幾つか私からの私案ですけれども、政策提言と
現状というのを申し上げたいと思います。
まず
一つ、近年の
子供の
貧困率の上昇は、特に中高生以上の年齢層が高いということがあります。下がってはきてはいますけれども、二〇一五年ですけれども、それでもやはり二十—二十四歳、十五歳—十九歳といった年齢層の
子供たちを持った
世帯の
貧困率が、三十年間で見るとやはりすごく上がってきていると。この
世代に対するやはり支援というのが必要になってくるのかなというふうに思います。
また、今、先ほど二つの自治体さんからすばらしい
取組の御紹介がありましたけれども、基礎自治体で取り組んでいる場合が多いんですけれども、基礎自治体はどうしても中学生までが
対象となります。というのは、それ以上となると
子供たちがその自治体外の
学校に行ってしまったりですので
現状が分からないという
状況になってしまいます。ですので、国がやる対策としては、この年齢層に対しては非常に力を入れてい
ただきたいと思います。
もう
一つが、家計というものをもう少し見てい
ただきたいということなんですね。
これ、次のグラフをお見せしますけれども、これは、私どもが、
東京都の四つの自治体です。
東京都ですので、決して日本の中で一番
経済的な
状況が悪い
地域ではございません。でも、そこでの
子供たち、小学五年生、中二と、それと
高校二年生の年齢の悉皆
調査、四つの自治体で行ったんですけれども、の中で、過去一年間に金銭的な理由で、金銭的な理由ですよ、で、例えば電気料金が払えない、それからガス料金が払えない、それから水道料金が払えない、家賃が払えないといった
子供たちが約二%から三%ございます。二%から三%って大した
数字じゃないと思われるかもしれませんけれども、この年齢層の生活保護率は二%よりはるかに低いです。
そういったことを考えますと、こういった基礎的な支払さえできないような
家庭というのがもうかなり存在する。五十人に一人ですので、一学年でいえば一人二人いても、
一つの
学校にですね、いてもおかしくない
状況です。
これ、
東京だけではありません。実は、先ほどの御紹介にもありましたように、今様々な自治体さんで
子供の生活の
実態調査を行っておりますけれども、これは私がほんの抜粋して全く同じ質問で行ったものを持ってきたんですが、愛知県はもう四%、五%、沖縄県になりますとこれもう一割を超えます。北海道でも約一割といったような
状況になりますので、日本
全国的に見れば、かなりの多くの
子供たちの
家庭においてこのような支払が滞っている
状況があります。
大阪府さんと沖縄県さんの
調査においては、実際にこれらのライフラインが止められたことがあるかということを聞いております。過去半年の間で、大阪府の三十
市町村では、一・〇%の
子供たちがライフラインを止められたことがあると言っている
状況です。
学力格差がどうのこうのとか言いますけれども、電気が止められている家で勉強しろと言うんですかということなんですね。このような
状況というのは、沖縄県は、過去十年間でちょっと長めになるんですけれども、それでも約一割、
状況になります。
ですので、戻りますが、私としては、やはりもう支援案として、家計の支援をする。例えば、光熱水道費と家賃に対する扶助というのは先進諸国の多くにはもう既に制度化されてあります。ですけれども、日本にはこれらの制度ありません。ですので全くの民間で定められた費用を払っているわけですけれども、こういったものについての何か制度というのを考える時期に来ていると思います。それから、
子供がある
世帯では
光熱費を、止めないですとか法律で作ってい
ただくことができないのかと是非思います。
もう
一つが再分配の強化です。
先ほど、
貧困率が全体的に下がったというふうに申し上げましたけれども、この下がったというのは、市場
所得、つまりお給料の方が上がったということで、
経済状況が良くなったことの反映です。ですので、再分配がされたかとか強化されたことによって下がったわけではないんですね。
それを見てい
ただくために、次のグラフは、再分配前と再分配後の
貧困率の差、男性で見たものです。皆様も、二〇〇〇年代の中旬まで、
子供の
貧困率で見ると再分配前の
子供の
貧困率の方が再分配後よりも低かったというのを御承知かというふうに思いますけれども、その後、児童手当等が拡充されて大分その
状況が良くなったんですけれども、今でも、ゼロ歳から四歳、それから五歳から九歳に関しては再分配前の
貧困率の方が再分配後より高いといった
状況があります。そのほかの年齢層でも
貧困率の差分がそれほど多いとは決して言えない
状況です。その次が女性になりますけれども、女性でも全く同じような
状況というのがございます。
その次のグラフは母子
世帯だけに限ったものなんですけれども、母子
世帯も二〇一二年から二〇一五年にかけては非常に
貧困率下がりました。ですけれども、それは、見てい
ただければ分かりますように、再分配前の
貧困率が下がったからであって、再分配の機能が高まったからではございません。
もちろん、再分配前の
貧困率を下げるというのも政府の機能としては重要なものです。これは市場
所得ですので、景気対策といったことで
貧困率に一番効いてくる政策だと思います。ですけれども、景気というのは必ず循環しますので、今度悪いときが来るわけなんですね。そのときまでに再分配機能をきちんと高めておかないと、せめてほかの先進諸国並みぐらいにしておかないとこれらの層はまたぐんと下がってきてしまうというのがもう目に見えているかなというふうに思います。
その次が、今様々なところで言われている
学校のプラットフォームとする
子供の
貧困対策ということなんですけれども、この次のグラフは、
東京都の四自治体の
調査での、ここでは私どもも、生活困難層というのを困窮層、周辺層、一般層の
三つに分けております。これは後ほど御紹介しますけれども、
世帯の中にどういったものがあるかですとか、どういった
経験することができているのか、例えば、海水浴に行けるか、お小遣いがもらえているかとかそういったことと
所得等をクロスしてつくった層なんですけれども、約五%の、五、六%の
子供が該当します、
東京都では。
そうしますと、やはり
学力差がすごく大きい、
学校の授業が分からないと答えている
子供がすごく多いということが分かるかなと思います。その次のグラフは中
学校二年生ですけれども、中
学校二年生だとその差が更に大きくなってきております。
ですので、これから言えるということは、まず、
学力というのが
家庭の
状況にすごく左右されているということ。でも、実際問題として、これは
東京に特に顕著にある問題かというふうに思いますけれども、
全国的にもあるかなというふうに思います。
先ほどの困窮層といった層は、ガス料金を払えなかったりですとか、そういったことが三割以上あるような
世帯なんですね。そのような
世帯においても、四割は私立の
学校にお子さんを行かせているということですね、
高校二年生になりますと。ですので、現実問題として、裕福な
子供たちだけが私立の
高校に行っているわけではないということです。
さらには、今、奨学金を借りている率がすごく多くなりますけれども、かなりの家計の厳しい御
家庭でもお子さんを高学歴を付けさせようとしていると。それを家計に無理をしてでもやっている。
その背景というのが、これはこの
東京都の
調査でですけれども、その
学校を選んだ理由というのを聞いております。下の丸を付けたところを御覧ください。これを見ますと、私立に通っている
高校二年生のお子さんで困窮層のお子さんの五割は、もう圧倒的な多数なんですけれども、公立
高校に受からなかったから私立に行かざるを得なかったという選択をしているんですね。つまり、公立
高校に受からなかったときに就労をするというオプションが残されていないわけです、今の
子供には。ですので、ここが無理をしてでも私立
高校に行くというようなことになり、借金漬けになってしまうといった
状況になります。
ですので、
学校全体として何をしていくのか。もう
一つは、小中
学校の間から
学力格差を付けさせない何かの方法というのが必要ではないかなというふうに思います。
戻りますが、支援案としては、特に
課題の多い
学校への資源の投入というのをしてい
ただきたい。これは小中
学校の公立の
部分です。
高校以上になりますと、やはり一番厳しい層というのは定時制に行っています。ですので、定時制の
子供たちの生活を支えながら学習を、学べるような制度をつくってきちんとサポートしてい
ただきたい。
例えば、今、定時制の
高校においては、給食というのが廃止の方向で各自治体では動いています。ですけれども、定時制のお子さんたちは、食事とか一回ぐらいしか食べられていない
子供が非常に多いんですね。これは私どもの
調査でも出てきています。一日に一回しか食べていない。そんな
状況で、しかも定時制で学べといっても、非常に難しいものがあります。特に、ですので、定時制ですとか底辺校と言われるような、
高校以上ですね、基礎自治体が小中
学校をやってくださるということであるのであれば、
高校以上のところにそこに資源が投入できるように国として働きかけてい
ただきたいなというふうに思います。
最後に、一点だけ、指標について
お話をさせてい
ただければというふうに思います。
先ほどの
お話にもありましたように、今、各自治体さんで
子供の生活の
実態調査というのを非常にやってくださっています。これは内閣府からの補助金が付くといったこともありまして、私どものところでも非常にたくさんの自治体さんから様々なアドバイスをい
ただきたいといったような御依頼があります。ですけれども、そうといっても、日本の中の自治体数というのは莫大な数がありますので、多くの自治体においては、何ら専門家が入らずに
実態調査をやるといったようなことがございます。
先ほど、一番私が懸念しているのが、
貧困率の計算なんですね。
貧困率というのは、厚生労働省がやっている
国民生活基礎調査の
所得票というのを、二十ページもあるようなのを
家庭の中の全ての人に書いてもらって、おじいちゃんの年金額から、
児童扶養手当の額から、養育費から、それから
社会保険料も一人一人全部把握をして算出されるものであって、決して、自治体が、おたくの
世帯の
所得は幾らですか、どれか
一つにチェックを付けてください、百万円から二百万円、二百万円から三百万円といったもので比較できる数値ではないんですね。
データについての問題点というのは、この頃、昨今も非常に話題となっておりますけれども、このように比較のできない数値を作り出して一三・九%と比べてどうのこうのというのは、これは非常に危険なんです。なので、私としては、やはりこれはきちんとしたデータを国の方で作っていくべきだと考えますし、又は、自治体さんでも計算できる方法というのをきちんと確立していく方法があるかなと思います。
その
一つが、その裏のページで、これは
東京都の方で使わせてい
ただいたものなんですけれども、
子供の所有物とか
体験といったものを聞いていく方法。これはマル・バツ式ですので間違えることがほぼなく、欠損率もほぼないので、かなり正確な数値が出ます。こういったような物質的な剥奪、これはEUでもう既に公的な
貧困指標として取り入れられておりますけれども、といったものを使うですとか、又は、自治体さんが持っていらっしゃる税務データがございます。これを使うことによって一三・九%と比較可能な数値をはじき出すことができます。そういったものの使用を認めてい
ただく、そしてそれを推奨してい
ただく、やり方を公開してい
ただくということをしてい
ただければ、各自治体さんでも
自分の自治体のところで
貧困率というのが計算できるようになるのではないかなというふうに思います。
これは、地方自治体においては非常に重要な
課題なんです。というのは、地方の議員さんは、皆さん、それぞれの議会で、うちのところの
貧困ってどうなのよと、
貧困率、一体幾らなんですかというような質問をなさっているんですね。それで、自治体の
方々が困って、いや、議員さんにそう言われるんですけど、うちではどうやって計算したらいいか分からないんですというのが一番私のところに来るので多い質問になります。
そこで全く
経験のないようなコンサルさんですとかそういったところに依頼をしてしまうわけなんですけれども、でも、そうではなくて、きちんとしたやり方で、これが正しいやり方で、少なくとも比較可能なやり方というのを
全国的に広げる必要もあると、これは私の日々の非常に思っていることですので、この場で申させてい
ただきました。
御清聴どうもありがとうございました。